サービス残業代が経営リスクになる日

2017.07.16

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今回は、給料の時効について、動きがあったので、そのことを少し取り上げてみます。

 

以前、「給料が飲み屋のツケより軽くあつかわれるかもしれない・・・」(2017年4月16日投稿)と題して、民法改正により一般債権の消滅時効が5年になった場合に、給料の消滅時効が2年のままなのは不都合だという趣旨のことを書きました。

その後、2017年6月2日に「民法の一部を改正する法律」が公布されました。

いわゆる平成の民法大改正です。

それによれば、民法の短期消滅時効規定が廃止され、一般債権の消滅時効は原則、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間とされました

ただし、施行日は、公布の日から起算して3年を超えない範囲内で政令で定める日とされ、具体的な施行日は未定のようです。

そして、この改正をうけて、7月12日、厚生労働省の「第137回労働政策審議会 (労働条件分科会)」において、「民法の消滅時効の規定が整理されることに伴い、当該規定の特例である労働基準法115条の賃金債権等に係る消滅時効についても、その在り方の検討を行う必要がある。」として、給料の消滅時効の延長の議論が始まったとのことです。

 

仮に、今後、労基法115条が改正され、給料の消滅時効が、現在の2年から5年に延長された場合、「サービス残業(サビ残)」と言われる未払い残業代も5年分請求が可能になります。

単純計算で2.5倍になるのです。

さらに、現行法では、裁判上での請求の場合、最大で請求額と同額の「付加金」が加算される制度もあります。

つまり、たとえば、改正後、1年に75万円の未払い残業代が5年間生じた場合、これまでは2年分の150万円で済んでいたものが、消滅時効が5年になれば375万円になり、これに付加金が加われば、最大750万円になる可能性があるのです。

そう考えると、これまでは、「どうせ、サビ残請求されても、たった2年分だ」と高を括っていた経営者や、「2年分では請求額が少なくて、弁護士も雇えない」と裁判を諦めていた労働者にとっては、否が応にも注目せざるを得ない労基法改正となることでしょう

もしかしたら、新たな司法ビジネスのターゲットになる可能性もあります(たとえば、いわゆるグレーゾーン金利の問題で、過払金訴訟が多く起こされ、貸金業者の経営を圧迫したことは周知の事実です)。

いままでは金銭的にペイしないからと労働者側の労働問題を扱っていなかった弁護士が、新たに参入してくる可能性さえあります。

その場合、経営者がこれまでのようにサビ残等の未払い賃金問題を軽視していれば、予想外の訴訟リスクにさらされる事態もあるかもしれません。

もちろん、未払い賃金の請求が、過払金訴訟のようになるとは限りませんが、いずれにせよ、未払い賃金の問題が経営に与えるリスクは、これまで以上に深刻になっていくでしょう。

まあ、ちょっと考えれば、サビ残とは、労働者の役務や時間を盗んでいるようなものですので、そもそもそのような事態が常態化していることが異常なのです。

個人的には、「働き方改革」の第一歩は、サビ残の撲滅にあると思っています。

労基法115条の改正による給料の消滅時効の延長は、サビ残の抑止力になる大切な改正だと思います。

是非とも、速やかな改正をしていただきたいと願っています。