振替加算の誤解を考えてみる
2017.09.17
オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。
今週は、振替加算約600億円の未支給が判明したという年金関連の大きなニュースがありました。
支払われるべき年金がちゃんと支払われていなかったという事実は大変深刻な事態ですので、速やかな回復と再発防止を徹底的に行っていただき、年金制度に対する信頼回復に努めていただきたいと思っています。
筆者の周囲でもこのニュースは話題になったのですが、そもそも振替加算という制度そのものに馴染が薄いせいか、批判をする人の中にいくつかの誤解があるように思われます。
そこで、筆者が聞いた批判のうち、それはちょっと違うんじゃないのかなと思う点について、少し考えてみたいと思います。
振替加算は公務員の特権ではありません
今回の未支給のほとんどが、公務員の配偶者に対するものだったこともあって、振替加算が公務員の共済年金の制度だと思っている人がいるようです。
しかし、これは明らかな誤解です。
振替加算の支給要件は、日本年金機構のホームページの「加給年金と振替加算」に詳細が載っているので、そちらをご確認いただきたいのですが、振替加算は国民年金の老齢基礎年金に関する制度ですし、公務員の配偶者に限定するといった要件はありません。
簡単に言えば、①65歳になった人、②生年月日が1926年(大正15年)4月2日から1966年(昭和41年)4月1日までの人、③配偶者に加給年金額が加算されていた人、④20年以上厚生年金に加入していない人といった条件をなどをすべて満たせば、公務員の配偶者でなくても、振替加算はもらえます。
今回、公務員の配偶者に未支給が多かったのは、共済年金とのシステム上の問題もあったように報道されています。
そのため、「公務員(の配偶者)への年金が未支給だった」という点だけが注目されて、このような誤解が生じたのでしょう。
なお、2015年(平成27年)10月1日に「被用者年金一元化法」が施行され、厚生年金と共済年金に分かれていた被用者の年金制度が厚生年金に統一されましたが、今回の未支給はそれ以前から生じていたようなので、被用者年金一元化の問題ではないように思われます(むしろ被用者年金が一元化したからこそ発覚したという一面もあるようです)。
現役世代の40代以下の人は、そもそも振替加算はもらえません
今回の件で、自分が振替加算をもらうときに、同じようなことが起こったら困るとおっしゃる人がいました。
その人は、筆者と同じ世代なので、40代半ばの人でした。
ご安心ください。
今の40代には振替加算はありません。
先ほどの要件②にあるように、振替加算をもらえるのは、生年月日が1926年(大正15年)4月2日から1966年(昭和41年)4月1日までの人に限定されています。
1966年(昭和41年)4月2日以降に生まれた人には、この制度の適用はないのです。
つまり、40代より若い人には、そもそも関係のない制度ということです。
もちろん、システム上のミスで支給漏れが生じる可能性は、振替加算に限りませんので、その点はしっかりやってほしいものですが、少なくとも振替加算に関しては、制度上もらえませんので、その心配もないというわけです。
振替加算に関しては保険料の問題はあまり関係ないです
「こっちは保険料を払っているのだから、年金はしっかり払ってもらわないと!」
まったくそのとおりだと思います。
2007年(平成19年)に発覚した、消えた年金記録問題は衝撃的でした。
払っていた保険料が払っていないことになるなど、冗談では済まされない話です。
ただ、今回、振替加算に関しては、保険料の問題を出すのはどうなのかなと思っています。
なぜなら、この振替加算という制度ができたのは、保険料を払っていなかった人を救済するという背景があるからです。
話は1986年(昭和61年)4月1日にさかのぼります。
このときから、サラリーマンや公務員の配偶者(主に専業主婦の皆さん)に国民年金の保険料を払う義務が生じました(強制加入になったということです)。
言い換えると、1986年(昭和61年)3月31日までは、払っても払わなくてもいい任意加入だったというわけです。
任意加入から強制加入になったのはいいのですが、それまでの任意加入の期間に加入していなかった人が無視できないほどに多いという問題が生じました。
加入していなかった人は、保険料を払っていないので、当然その期間の年金はもらえません。
将来、年金が少額になる人が大量発生する可能性があったのです。
そこで、そういう人たちを救済するために、この振替加算の制度ができたのです。
つまり、振替加算自体は、保険料をしっかり納めた人のための制度というわけではないのです。
ちなみに、どうして、振替加算をもらえるのが、1966年(昭和41年)4月1日以前生まれの人に限られるのかという理由もここにあります。
強制加入になった1986年(昭和61年)4月1日に既に20歳以上になっていた人を対象にしているということなのです。
現代風にいえば、「(年金もらえないのは)自己責任でしょ」ってことになるのかもしれませんが、当時はまだ年金制度にも、人々の心にも余裕があった時代だったのかもしれません。
以上、振替加算に関する誤解について考えてみました。
繰り返しますが、背景がどうであれ、払うと約束していたものを払っていなかった点について、今回の未支給の件は許されることではありません。
その点について、政府や日本年金機構を擁護することはできません。
ただ、振替加算という少し馴染の薄い制度ゆえの誤解もあるようなので、どのような制度なのかを考えてみたというわけです。
最後までお読みいただきありがとうございました。