給料が飲み屋のツケより軽くあつかわれるかもしれない・・・

2017.04.16

※7/16追記:本記事には、追加記事があります(「サービス残業代が経営リスクになる日」(2017年7月16日))

 

給料にも「時効」があることをご存知でしょうか。

2017年4月現在、給料の時効は2年とされています(ちなみに退職金は5年です)。

これは、労働基準法115条に定められています。

実際には、倒産などの場合を除いて、基本給自体をもらいそこなうってことはほとんどないと思いますので、普通に働いている限りでは、給料の時効について意識することはあまりないでしょう。

では、どんなときに給料の時効の問題がでてくるのでしょう。

それは、サービス残業の未払い残業代を請求するようなケースです。

しかも、実際に働いている間は、会社の暗黙の圧力や同僚との同調圧力がかかって、サービス残業代を請求することは心理的に難しいので、これが問題になるのは退職(とくに円満でない退職)の場合が多いのです。

ここで時効の壁につきあたります。

たった2年しかもらえないのですから(しかも、放っておくと時効はどんどん進んでいきます)。

仮に退職時すぐにサービス残業代を2年分請求したとしましょう。

1日平均2時間のサービス残業があったとします(ブラック企業ならこんなもんではすまないでしょうが)。

月給20万円、1ヶ月の所定労働時間が160時間(1日8時間 1ヶ月20日勤務)だった場合、1ヶ月のサービス残業代は、

20万円÷160時間×1.25(割増率)×2時間×20日=6万2500円

となり、この2年分では、

6万2500円×12ヶ月×2年=150万円

となります。

たとえ、実際には入社以来10年間サービス残業が続いていたとしても、2年分が限界なのです。

しかも、会社がこれをすんなり払ってくれるとは限りません。

場合によっては、弁護士を依頼して裁判をしなければならないこともあるでしょう(なお、裁判になれば、金額が倍増する付加金制度というものがあるのですが、ここでは話がややこしくなるので触れません)。

なんともやりきれない話です。

 

ただ、時効に関しては、とても気になるニュースがあります。

それは、120年ぶりの大改正といわれている民法債権法の改正が現実的になってきたことです(追記:その後、民法大改正は成立し、2017年6月2日に公布されました)。

大改正というだけあって、改正のポイントはいくつもありますが、時効の問題もそのひとつです。

かなりざっくりいえば、債権の時効が原則(権利が行使できることを知ったときから)5年(知らなくても10年)に統一されるらしいということです。

現行の民法では、原則(個人間のお金の貸し借りなど)は10年、飲み屋のツケは1年などとこまかく決められているのですが、それが統一されて原則5年になるのですから、かなり影響の大きな改正だと思います。

とすれば、サービス残業代も5年分請求できるようになるのかなと期待できそうなのですが、それがどうもはっきりしていません。

そのような話があまり聞こえてこないのです(追記:2017年7月12日、厚労省の労働政策審議会において労基法115条改正の検討が始まりました)。

もしも、給料の時効が5年になったら、先ほどの例であれば、請求できるサービス残業代は、

6万2500円×12ヶ月×5年=375万円

となります。

金額が増えた分、やりきれない思いも少しは報われるような気がします。

ぜひ、給料の時効も5年にしてほしいところです。

 

しかし、民法だけが改正されて、労働基準法が改正されないという場合もありえます。

その場合、民法の一般債権の時効は5年、労働基準法の給料の時効は2年という、なんとも変な話になってしまいます。

そもそも、現行の民法では「給料は1年」となっているところ、これを労働者保護のために、わざわざ労働基準法で2年に延長しているのですから、それが逆転するとなると、まさに本末転倒な現象が生じます。

飲み屋のツケより守られない給料っていったい・・・というトホホな感じです。

 

個人的には、民法改正に併せて労働基準法も改正されるのだろうなという期待をもっていますが、なかなか確定情報がでないので、少し心配しています。

今回の民法大改正は、「お金」のことを考えるうえで、影響の大きいものですので、今後も注意深くみていきたいと思っています。

 

※追加記事:「サービス残業代が経営リスクになる日」