はじめての障害年金の前にあるふたつの65歳の壁

2020.02.12

障害年金の新規請求の前にある65歳の壁の正体を社会保険労務士が解説

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社会保険手続を中心に弁護士業務や成年後見業務をサポートしている社会保険労務士の徳本博方です。

今回は「はじめての障害年金の前にあるふたつの65歳の壁」をテーマにして、障害年金の65歳の壁の正体をご説明できればと思います。

「障害年金は65歳を過ぎると請求できなくなる」といった話を聞かれたことはないでしょうか?

筆者も年金相談の際に65歳以上の高齢の人やそのご家族から「老齢年金が少ないので、今からでも障害年金をもらいたいが、65歳を過ぎてるので無理なんでしょうね・・・」という趣旨の相談を受けることがあります。

結論からいえば、障害年金は65歳を過ぎると請求できなくなるケースが多いのはたしかです(これをここでは「65歳の壁」ということにしましょう)。

しかし、実は「65歳の壁」は2つあるのです。

そして、そのうちの1つの壁は鉄壁なのですが、もう1つの壁は65歳を過ぎても請求ができる場合がある壁なのです(これを勘違いするともったいないことになります)。

それでは、順を追って説明していきましょう。
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2つの「65歳の壁」とは?

単独の障害について、新規に障害年金を請求する際には、大きく2つの方法があります。

それは、

  • 認定日請求
  • 事後重症請求

です(なお、「はじめて2級」といわれる基準障害による請求もありますが、これは既存の(軽い)障害がある場合の請求方法なので、ここでは省略し、あとで少し触れます)。

そして、これらの2つの請求方法にそれぞれ「65歳の壁」が存在しています。

いうなれば、

  • 認定日請求の「65歳の壁」
  • 事後重症請求の「65歳の壁」

といったところでしょうか。

今回は、この2つの「65歳の壁」の正体を探っていきたいのですが、その前に、まずは認定日請求と事後重症請求の違いについて確認しておきましょう。

 

障害年金の2つの請求方法の違いは?

認定日請求と事後重症請求は、いつの時点で法令の定める障害の程度に達した状態にある(ことを証明できる)のかの違いです。

すなわち、障害年金をもらうには、その障害の状態が障害等級に該当する「障害の程度」に達していることが必要です(それに応じて等級が決まります。ですので、そもそも「障害の程度」に達していない状態の障害は障害年金の対象にはなりません)。

次の時系列をみてください。

これらの時系列上の点を説明すると、

  • 発症:障害の原因となった傷病の症状があらわれたとき
  • 初診日:障害の原因となった傷病について、初めて医師等の診断を受けた日
  • 障害認定日:初診日から起算して1年6ケ月経過した日、又はその日までにその傷病が治癒した場合においては、その治った日(症状が固定し、治療の効果が期待できない状態に至った日を含む)
  • 請求日:障害年金を請求する日

です(場合によっては、発症と初診日は同日のこともあるでしょうし、障害によっては初診日と障害認定日が同日になることもありますが、ここでは流れをイメージしやすいように、それぞれを時系列上に並べてあります)。

 

この時系列をもとに認定日請求のイメージを表すと、

のようになります(障害の程度に達した状態であることを、障害認定日において証明しなければなりません)。

 

これに対して事後重症請求のイメージを時系列で表すと

このようになります(障害の程度に達した状態であることを、請求日において証明すれば足ります)。

 

なお、それぞれの図で、青の矢印で示されているのは、障害年金の支給(開始)期間です。

認定日請求では、障害認定日(の翌月)にさかのぼって支給が始まっている(実際には時効によって5年間という制限がありますが)のに対して、事後重症請求では請求日(の翌月)からしか支給されません。

 

もっとも、認定日請求と事後重症請求は、一方ができるなら他方ができないというような二律背反の関係ではありません。

たとえば、障害認定日時点で障害の程度に達した状態であることを証明できない場合(障害認定日時点での診断書を準備できないような場合)には、認定日請求をあきらめて、最初から事後重症請求だけを行うこともできます(このように選択的に請求することもありますが、実務上は予備的に事後重症請求をすることが多いように思います)。

実務上、事後重症請求は認定日請求を補完する役割もあるのです。

いずれにしても、障害年金には、認定日請求と事後重症請求の2つの請求方法があるということはおわかりいただけたと思います。

そして、認定日請求と事後重症請求には、それぞれに別の「65歳の壁」があるのです。

それでは、それらの2つの「65歳の壁」の正体について、みていきましょう。

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認定日請求の「65歳の壁」の正体

認定日請求の「65歳の壁」の正体は、初診日についての65歳の壁です。

「初診日要件」ともいいます。

障害基礎年金にも障害厚生年金にも「初診日要件」があります。

障害基礎年金(国民年金)は初診日が次のいずれかの期間にないともらえません。

  • 国民年金の被保険者期間
  • 20歳前または、60歳以上65歳未満(年金制度に加入していない期間)で、日本国内に住んでいる間

国民年金の被保険者期間は1号~3号でルールが異なりますが、いずれにしても、この初診日要件から「65歳の壁」が導かれます。

これに対して、障害厚生年金は、厚生年金の被保険者期間に初診日がなければもらえません。

厚生年金は原則70歳まで加入できますので、その意味で「65歳の壁」はないのですが、障害基礎年金も併せてもらおうとすれば「65歳の壁」がでてきます。

 

この「65歳の壁」を先ほどの時系列にたててみると、次の図のようになります。

この図は、初診日が65歳の壁(65歳到達日)以後にあれば、初診日要件を充たさないのですが、初診日が65歳の壁前であれば、初診日要件を充たすということを表しています。

そして、この図でわかるように、認定日請求の場合には、初診日が65歳の壁前にありさえすれば、その後の障害認定日や請求日が65歳の壁の後にあったとしても、認定日請求には支障はないということなのです。

これは、請求日時点で65歳以上であっても、初診日要件を充たしていれば、認定日請求は可能性があるということです。

ここを「65歳以上だと障害者年金は請求できない」と誤解して、障害年金を諦めるととてももったいないことになります。

 

ところで、今までざっくりと「65歳の壁」と言ってきましたが、ここで正確な意味を確認しておきましょう。

上記のとおり、初診日が65歳未満の期間にないといけないわけですが、これを正確にいえば、「65歳になる誕生日の2日前」までに初診日がないといけないということです。

これは、誕生日の前日に65歳に達するとされているからです。

たとえば、2月10日が誕生日だった場合、2月9日が65歳に達する日(65歳の壁)となります。

そうすると、2月9日以降は65歳の壁にはばまれるため、初診日は2月8日以前である必要があるのです。

なお、老齢年金の繰り上げ受給をしている場合には、「65歳の壁」は変更を受けますのでご注意ください(ここでは詳しく触れませんが、初診日が60歳以降の場合認定日請求は障害認定日が繰り上げ請求日前になければいけませんし、事後重症請求もできなくなります)。

 

事後重症請求の「65歳の壁」の正体

これに対して、事後重症請求の「65歳の壁」の正体は、請求日についての65歳の壁です。

事後重症請求は、上記の初診日要件を充たしたうえで、65歳到達日の前日までに、障害の程度に達する障害の状態にあり、かつ請求しなくてはいけません。

請求日についての65歳の壁は、

この図のようなイメージです。

請求日までのすべてが、65歳の壁の前になければいけません。

請求日が65歳の壁以後にあれば、事後重症請求は封じられるということになります。

この事後重症請求の65歳の壁は鉄壁といってよいでしょう(なお、65歳を1日たりとも過ぎれば100%事後重症請求ができないのかといわれれば、そこは多少の例外もあるようですが、それを保証することはできません。いずれにしてもできるだけ早急に請求しなければなりません)。

 

認定日請求の「65歳の壁」のすきま

事後重症請求の「65歳の壁」が鉄壁であるのに比べて、認定日請求の「65歳の壁」にはつぎのようなすきまがあります。

  • 障害厚生年金の場合70歳まで加入が可能ですので、65歳を過ぎても、厚生年金加入期間中に初診日があれば、障害厚生年金の認定日請求は可能です(ただし、障害の程度が1級や2級になっても、障害基礎年金はもらえません)
  • 国民年金の特例による任意加入で65歳以上の被保険者期間に初診日があれば、障害基礎年金の認定日請求は可能です(ただし、現実問題として納付要件を充たすことができるのかどうかは難しいところがあると思います)

なお、認定日請求の「65歳の壁」とは少し異なりますが、旧国民年金法による障害年金(1986年3月までに初診日があり、かつ1986年3月までに旧法基準で障害の程度2級以上であると認定された場合)では、65歳以上であっても障害年金の受給権が発生します。

 

「はじめて2級」という請求方法

ここで、「はじめて2級」といわれる基準障害による請求について、65歳の壁との関係を少し補足しておきます。

「はじめて2級」の場合には、基準障害の障害認定日に関して65歳の壁があります。

すなわち、「はじめて2級」の場合には、65歳に達する日の前日までに基準障害が、他の障害(既存の軽い障害)と併合して1級または2級の障害の状態にある必要があるのです。

なお、障害認定日に関する65歳の壁をクリアできれば、請求は65歳以上であっても構いません。

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さいごに

今回は「はじめての障害年金の前にあるふたつの65歳の壁」として、「認定日請求の(初診日の)65歳の壁」と「事後重症請求の(請求日の)65歳の壁」の2つの「65歳の壁」があることをみてきました。

実際問題として、高齢の人の場合には、

  • (慢性の)持病が徐々に悪化して、障害認定日を過ぎて(65歳以上になって)障害の程度に達する状態になるといったケース(本来的な事後重症請求)や
  • 障害認定日から時間が経過しすぎて、その時点で障害の程度に達する状態であったことの証明ができない(診断書がない)ケース(認定日請求ができないのでその代わりにする事後重症請求)があり、

これらのケースでは65歳の壁にはばまれて事後重症請求をあきらめざるをえません(ただし、後者の場合にはどうにかして証明する努力をしてみる価値はあります)。

そういう意味で、「障害年金は65歳を過ぎると請求できなくなる」という見解は正しいのかもしれません。

事後重症請求を封じられると、かなり厳しい状況になるのはたしかです。

しかし、これまでみてきたように、認定日請求の「65歳の壁」は初診日の65歳の壁であり、またその壁自体にも多少のすきまがあるのも事実です。

単なる思い込みで「障害年金は65歳を過ぎると請求できなくなる」とあきらめるのではなく、認定日請求がどうにかできないか、専門家に相談するなどされることをお勧めいたします(過度な期待は禁物ですが、もしかしたらの可能性がないわけではありません)。

もしも、認定日請求に成功すれば、最大で5年さかのぼって障害年金がもらえる可能性があるのですから。

なお、障害年金が認められるには、今回の「65歳の壁」の問題だけではなく、納付要件や障害の程度要件といった、他にもクリアすべき要件がありますので、念のため申し添えておきます。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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