健康保険の境界層該当者って何?【社労士試験受験生】

2018.08.03

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社会保険労務士の徳本博方です。

本年度(平成30年度)の社会保険労務士試験を受ける皆さまは、追い込みの暑い夏を闘っておられることと思います。

最近の社会保険労務士試験の傾向として、いわゆる過去問からの再出題確率が低下し、法改正の出題確率が上がっていると言われています。

今年は比較的大きな法改正が多くないと言われていますが、そうであっても、法改正の対策はしっかりやらないといけないことに変わりはありません。

今日は、本年度の試験の出題対象である法改正について、健康保険法で気になったところを述べたいと思います。

出題予想ではありませんが、ご参考になれば幸いです。
 

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筆者が健康保険法の改正で気になったのは、入院時生活療養費に係る生活療養標準負担額の改正において、その減額対象者の区分に「境界層該当者」が加わったことです。

境界層該当者とは、健康保険法規則62条の3(生活療養標準負担額の減額の対象者)6号に「被保険者又はその被扶養者が療養のあった月において要保護者(生活保護法(昭和二十五年法律第百四十四号)第六条第二項に規定する要保護者をいう。)である者であって、第三号及び前号の規定の適用を受ける者として生活療養標準負担額について減額があれば生活保護法の規定による保護を要しなくなるもの」と規定されています。

少しわかりにくいので、要約すれば、境界層該当者とは「(生活療養標準負担額の)食費が1食100円、居住費が1日0円に減額されたとすれば、生活保護法の規定による保護を必要としない状態となる者」のことです(具体的な金額については、あとで述べます)。

健康保険法でありながら、生活保護法との関係で境界層該当者になるかならないかが決まるということです。

ちなみに、保険者がどうやって境界層該当者であるかを判断するかというと、福祉事務所長の「限度額適用・標準負担額減額認定該当(境)」と記載された保護申請却下通知書もしくは保護廃止決定通知書などによって行うこととされています。

 

また、今回の改正では、生活療養標準負担額に係る食費及び居住費の引き上げが行われています(平成29年6月30日厚生労働省告示239号)。

具体的には、居住費(1日)に関しては、

  • 「入院医療の必要性の高い患者、指定難病の患者」以外の者:320円から370円に引き上げ(境界層該当者区分(0円)以外の区分では、すべて370円)
  • 「入院医療の必要性の高い患者」:0円から370円に引き上げ(境界層該当者区分(0円)以外の区分では、すべて370円)
  • 「指定難病の患者」:0円に据え置き
  • 「境界層該当者」(入院医療の必要性の高低、指定難病の有無にかかわらず):0円

となりました(居住費に関しては、指定難病の患者及び境界層該当者が0円で、それ以外は370円ということです)。

また、食費(1食)に関しては、「入院医療の必要性の高い患者」の一般所得者区分において改正があり、「入院医療の必要性の高い患者、指定難病の患者」以外の者の一般所得者区分と同じになりました。

すなわち、

  • 「入院医療の必要性の高い患者」の一般所得者で「生活療養Ⅰ」(食事の提供が管理栄養士または栄養士による適切な栄養量及び適時・適温の食事提供が行われている等の基準を満たす場合):360円から460円に引き上げ
  • 「入院医療の必要性の高い患者」の一般所得者で「生活療養Ⅱ」:360円から420円に引き上げ

となりました(指定難病患者以外の一般所得者は、入院医療の必要性の高低にかかわらず、「生活療養Ⅰ」が460円、「生活療養Ⅱ」が420円ということです。ちなみに指定難病患者の一般所得者は260円です)。

なお、70歳未満の「低所得者」及び70歳以上の「低所得者Ⅱ」の食費(1食)は、指定難病患者も含めて210円です(長期入院該当の場合は160円)。

また、70歳以上の「低所得者Ⅰ」の食費(1食)は、「入院医療の必要性の高い患者」及び「指定難病の患者」が100円、それ以外の者が130円です。

そして、繰り返しになりますが、入院医療の必要性の高低や指定難病の有無にかかわらず、境界層該当者の食費(1食)は100円です。

 

ところで、金額だけみると、たとえば、入院医療の必要性の高い患者(一般所得者も低所得者も)の居住費は改正前は0円(正確にはH29.10から200円)だったものが、H30.4からは370円になったのですが、一見すると370円程度ならそれほど負担にはならないのではないかと思う人もいるかもしれません。

しかし、これは1日の金額です。

入院時生活療養費の対象者は長期入院されている人も多いので、この引き上げは、

1ヶ月(30日)なら、370円×30日=1万1100円

1年(365日)なら、370円×365日=13万5050円

となり、特に低所得者には無視できない金額であることがおわかりになると思います。

場合によっては、この負担が増えることで、生活保護が必要になる人も出るかもしれません。

そこで、境界層該当者という区分を設けて、その防止を図ってるということでしょう。

 

また、これに関連して、もう一つ、健康保険法の改正を紹介すると、入院時食事療養費に係る食事療養標準負担額が、一般所得者区分で、1食360円から460円に引き上げられました(社労士試験の受験生の皆さまであれば、入院時食事療養費と入院時生活療養費の違いの説明は不要と思いますので、ここでは触れません)。

こちらも、一見するとたった100円の引き上げと考えがちですが、食事は原則1日3食あります。

つまり、仮に30日入院したとすれば、

1食100円×3食×30日=9000円

の引き上げということです。

長期に入院する場合には、この負担はじわじわ効いてきます。

筆者の担当する成年被後見人さんの中には、この負担増加により家計収支が赤字になった人もいらっしゃいます。

家計収支が赤字になるということは、赤字分は預貯金を切り崩して対応せざるを得ないということです。

負担の公平な分担が必要だということは理解できるのですが、実際問題となるとなかなか割り切れないところでもあります・・・

 

今回は、健康保険法の改正のうち、入院時生活療養費に係る生活療養標準負担額の引き上げとそれに伴う境界層該当者についてまとめてみました(最後は食事療養標準負担額の引き上げをからめて、愚痴のようになりましたが)。

もちろん、この他にも法改正はありますので、受験生の皆さまにはしっかり準備をして本試験に挑んでいただきたいと思います。

皆さまの合格を心よりお祈り申し上げます。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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