未納保険料を後から払えば障害年金はもらえるの?【年金の常識14】

2020.04.02

国民年金未納保険料と障害年金保険料納付要件の関係を社会保険労務士が解説

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士である筆者が受けた相談や質問から、「いまさら聞けない 年金の常識」として、意外と間違えやすい年金の仕組みを回答していきます。

第14回目の質問は、障害年金を受給するためには、いつまでにどのくらいの保険料を納めていないといけないのかという問題です。

国民年金の第1号被保険者(自営業者やフリーランスなどの人)が国民年金保険料を納めるのは法律上の義務ですが、免除や猶予の手続きをとらずに、保険料を納めないままになっている人がいるのも現実です。

そういった保険料が(一部)未納になっている人が、病気やケガが原因で何らかの障害が残ったときに、障害年金を請求する段階になって、あわてて保険料を納めようとするケースがあります。

未納保険料を納めること自体は義務の履行として当然のことではありますが、はたして、未納保険料を納めれば障害年金はもらえるようになるのでしょうか。

今回は、そのようなお話です。

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質問「今は元気なので、国民年金(1号被保険者)の保険料を納めていません。病気がみつかった後に未納保険料を納めれば、障害基礎年金をもらうのに問題はないですか?」

回答:初診日以後に納められた未納保険料は、障害(基礎)年金がもらえるかどうか(保険料納付要件)の判定にあたっては、「未納」扱いになります

したがって、この場合には、未納期間があることを前提にして、障害(基礎)年金がもらえるかどうかを判定することになります。
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【解説】

障害年金をもらうためには、本日(2020年4月2日)現在、次の2つの「保険料納付要件」のうち、どちらか1つをクリアしなければなりません(1991年5月1日以後に初診日がある場合)。

  • 初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の2/3以上の期間について、保険料が納付または免除されていること(これを「2/3要件」といいます)
  • 初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと(これを「直近1年要件」といいます)

この2つの保険料納付要件は、「2/3要件」が原則で、「直近1年要件」が特例という関係なのですが、実務上は、まず「直近1年要件」を検討して、それがダメな場合に「2/3要件」を検討するという順番で行っています。

そこで問題となるのは、いつの時点で「2/3要件」や「直近1年要件」をクリアしていないといけないのかという点です。

それは、

初診日の前日

です。

 

たとえば、2017年1月に20歳となり国民年金の被保険者(1号)になった人の初診日が2020年2月10日だったとしましょう。

その場合、初診日の前日である2020年2月9日の時点で、「2/3要件」や「直近1年要件」をクリアしているかどうかを判定することになります。

(図1)をご覧ください。

一度も保険料を払ったことがないケースです。

この場合、初診日の前日(2020年2月9日)において、その前々月2019年12月以前1年間(2019年1月~12月)の期間に未納があり(全部未納ですね)、「直近1年要件」(青の矢印部分)をクリアできません。

また、20歳になった月(2017年1月)以降2019年12月までの期間に2/3以上の納付済や免除の期間がないことも明白ですので、「2/3要件」(オレンジの矢印の部分)もクリアできません。

したがって、2020年2月10日を初診日とする障害年金の請求はできないことになります(保険料を納めていないので、当然といえば当然ですが)。

そしてこの結論は、あわてて2月10日以後に2019年12月以前1年間(2019年1月~12月)の保険料を納めた場合でも、変わりません(図2)。

一見すると、「直近1年要件」(青の矢印部分)をクリアできているようにみえますが、これはあくまでも、2020年2月10日以後の納付状況であり、納付要件の判定基準日である2月9日現在の納付状況(図1)を変えることはできないのです。

これは、2020年2月10日以後に申請免除や猶予の制度を使っても同じことです(法定免除の場合には初診日以後の手続きでも認められます)。

「後出しジャンケン」は認められないのです。

なお、後で納めた2019年12月以前1年間(2019年1月~12月)の保険料は、将来の老齢基礎年金の受給額には反映されますので、その意味では無駄にはなりません。
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ところで、もしも保険料の納付状況を確認したところ、2020年2月9日現在で(図3)のような状況だった場合はどうでしょうか。

たとえば、自分の知らないところで、親が払ってくれていたようなケースです。

この場合であれば、2017年1月から2019年12月の36月のうち、24月が納付済となっていますので、ちょうど全体の2/3の期間の保険料を納めていることになります。

そうすると、「直近1年要件」(青の矢印部分)はクリアできませんが、「2/3要件」(オレンジの矢印の部分)はクリアできているので、「保険料納付要件」を充たすことができます。

 

なお、今回問題とした「保険料納付要件」は、初診日が20歳前(厚生年金の被保険者ではない期間)にある傷病については、問題とされません(=保険料を納めていなくても、障害基礎年金がもらえます)。

 

以上のように、保険料を「後で納めればいいや」といった気持ちで後回しにしていると、もらえるはずの障害年金がもらえなくなるといった、とてももったいないことになりかねません。

保険料が払えないときには、免除や猶予の制度をうまく利用して、もしものときに損をしないようにリスクマネジメントを行っていただきたいと思います。

障害年金の場合には、「保険料納付要件」の期間に免除などの期間があっても、障害年金の受給額が減額されることもありません(=満額もらえます)。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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