セクハラ指針とSOGIについて考えてみる
2017.07.28
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今回は、性的少数者に対するセクハラ指針を紹介しつつ、少し聞き慣れない「SOGI」という言葉を考えてみたいと思います。
少し前の話ですが、2017年1月1日から、男女雇用機会均等法に基づく事業者向けの「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき処置についての指針」(いわゆる「セクハラ指針」)において、セクハラの対象に「LGBT」をはじめとした性的少数者が含まれ、それを防止することが事業主の義務として明記されたというニュースをお聞きになったことがあるかもしれません。
セクハラの対象が、平成9年の改正当初は女性労働者だけだったものが、平成18年の改正で男性労働者も含まれるようになり、今回ようやく性的少数者の労働者も対象であることが明記されたというニュースです。
ところで、性的少数者を表す言葉として、少し前からLGBTという言葉が使われ始め、今では、ずいぶん定着してきたように感じます。
念のため、確認しておきますが、LGBTとは、レズビアン(Lesbian 女性同性愛者)、ゲイ(Gay 男性同性愛者)、バイセクシャル(Bisexual 両性愛者)、トランスジェンダー(Transgender 生物学的性と性自認に不一致があるなど、出生時に割り当てられた性別に対して違和感があり、出生時に割り当てられた性別とは異なる性を生きる人、生きることを望む人)の頭文字をとったもので、性的少数者一般を指す言葉として使われています。
もちろん、性的少数者はこの4つに限定されるものではなく、もっと個別的で多様な概念だと思いますが、便宜上、このLGBTが性的少数者を指す言葉として、定着しつつあるようです。
ところが、「セクハラ指針」の中には、LGBTや性的少数者という言葉は直接的には使われていません。
どのように書いてあるかというと、その2条1項において、
「2 職場におけるセクシュアルハラスメントの内容
⑴ 職場におけるセクシュアルハラスメントには、職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けるもの(以下「対価型セクシュアルハラスメント」という。)と、当該性的な言動により労働者の就業環境が害されるもの(以下「環境型セクシュアルハラスメント」という。)がある。
なお、職場におけるセクシュアルハラスメントには、同性に対するものも含まれるものである。また、被害を受けた者( 以下「被害者」という。) の性的指向又は性自認にかかわらず、当該者に対する職場におけるセクシュアルハラスメントも、本指針の対象となるものである。」
と書かれているのです。
ここでは、LGBTや性的少数者という表現ではなく、「性的指向又は性自認にかかわらず」という表現が使われています。
一見すると、LGBTや性的少数者が明記されたというには、一般の人には、少しわかりにくいかもしれません。
それを理解するには、言葉の意味を確認する必要があります。
ここでいう「性的指向」とは「人の恋愛・性愛がいずれの性別を対象とするかを表すもの」とされ、「性自認」とは「性別に関する自己認識」をいうとされています(解釈通達より)。
つまり、「性的指向又は性自認にかかわらず」とは、「どんな性を好きになるか」ということや「自分の性をどのように認識しているか」ということにかかわらず、という意味なのです。
そういう風に読めば、たしかにLGBTがここに含まれることが理解できるでしょう。
もっとも、実は、今回のセクハラ指針の改正の前から、同性間のセクハラも指針の対象になることは明記されていましたし、そこにはLGBTなど性的少数者へのセクハラも対象に含まれると言われていました。
なので、この改正は性的少数者に対する新しい義務を設けたわけではなく、形式的には、それが明記されたという意味での改正なのです
もちろん、明記されること自体、誤解や都合の良い解釈ができなくなるので、とても大切なことです。
しかし、明記のしかたとして、「性的少数者」ではなく「性的指向又は性自認」という表現が使われたということにも重要な意味があると思っています。
「性的指向と性自認」のことを、「性的指向」=「Sexual Orientation」と「性自認」=「Gender Identity」の頭文字をとって、「SOGI」と言います。
今回、「性的少数者」ではなく「性的指向又は性自認」という表現が使われたということは、LGBTではなく「SOGI」が採用されたといってもいいかもしれません。
本来「SOGI」は、LGBTに限定されず、もっと言えば、無性愛者や異性愛者までも含んだとても大きな概念であるはずです。
なので、あえて「SOGI」に当たる表現が使われたというのは、単に性的少数者を表わすというだけにとどまらず、もっと広い意味が含まれているのだと思うのです。
どんな人でも、ふつうに気持ちよく働いていける。
そんなシンプルなことが明記されただけなのかもしれません。
しかし、このシンプルな原則が明記されたことはとても重要なことだと思います。
今は、SOGIに関するセクハラについての問題ですが、今後、SOGIに関する差別が一般的に禁止される法整備もありうると思えるからです。
なお、現在でもSOGIに関する不当な差別は、民事上の不法行為となるなど、法律上も禁止されていると言われています。
しかし、SOGIに関する差別禁止を包括的に謳っている法律は、今のところないのです。
SOGIがセクハラ指針に明記されたことによって、今後、この問題が、職場だけでなく生活一般に関する法整備につながっていくのではないでしょうか。
どんな人でも、ふつうに気持ちよく暮らしていける。
SOGIという聞き慣れない言葉から見えてくるのは、そんな社会なのかもしれません。
LGBTを特別扱いするのではなく、誰もがふつうに暮らしていける当たりまえの社会。
そうであるなら、そんな社会を目指すことは、誰にとっても悪い話じゃないように思えます。
この件に関しては、今後の法整備を見守っていきたいと思っています。
以上、セクハラ指針の改正を紹介しつつ、SOGIについて考えてみました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。