社会保険労務士補佐人制度を知っていますか?

2018.07.28

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本博方です。

昨日、山口県社会保険労務士会の「平成30年補佐人研修会」を受講してきました。

今回は、少し聞き慣れないかもしれませんが、社会保険労務士補佐人制度についてご紹介したいと思います。

なお、成年後見制度の「保佐人」や「補助人」とはまったく異なる制度ですので、お間違えのないようにお願いいたします。

 

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社会保険労務士補佐人制度は、社会保険労務士法2条の2に規定された制度で、平成26年11月の法改正で新設され、平成27年4月1日に施行されています。

制度の概要は、労働や社会保険が対象になっている裁判所の手続き(訴訟など)において、社会保険労務士が訴訟代理人である弁護士とともに出頭し、陳述することができるというものです。

すごくざっくり言えば、労働や社会保険の事件で社会保険労務士が弁護士と一緒に裁判所で戦えるということです。

なお、補佐人になれる社会保険労務士は、特定社会保険労務士である必要はありません

 

ところで、「補佐人」という制度は、民事訴訟法にも規定があります。

民事訴訟法60条によれば、当事者や訴訟代理人が裁判所の許可を得れば、補佐人とともに出頭し、補佐人が陳述をすることができるとされています。

そしてこの民事訴訟法の補佐人には、資格の制限がありません(裁判所の許可があれば、誰でもなれるということです)。

実際に筆者も、当事者のご家族が補佐人になっている事件をみたことがあります。

このような民事訴訟法上の補佐人と、社会保険労務士補佐人の違いは何かというと、

①社会保険労務士補佐人の場合には裁判所の許可が不要である

②社会保険労務士補佐人は、必ず訴訟代理人である弁護士と出頭しなければ陳述ができない

という点です。

つまり、社会保険労務士は、①当事者から委任を受ければ、裁判所の許可がなくても補佐人になれるが、②実際に陳述するためには、訴訟代理人である弁護士と一緒に出頭しなければならない(社会保険労務士が単独で出頭したり、当事者のみと一緒に出頭しただけでは陳述ができない)ということです。

 

では、どのような事件が社会保険労務士補佐人の対象になるのでしょうか。

法律には「事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項」となっています。

具体的には、賃金支払請求事件(サビ残などを請求する場合)や解雇無効確認訴訟(不当解雇を争って、まだその会社の社員であることを認めてもらう場合。解雇中の給料も併せて請求することもあります)といった民事事件訴訟や、労災不支給取消訴訟や障害年金処分取消訴訟といった行政事件訴訟が考えられます。

もっとも、職場で行われたパワハラやセクハラ、いじめなどに対する慰謝料請求事件(不法行為責任や安全配慮義務違反に基づく損害賠償事件)については、個人的には対象になるのかどうかよくわからないところではあります。

個人的に思うのは、安全配慮義務違反については認められやすそうですが、不法行為責任はどうなのかと思いますし、その一方で、事実関係が同じなのに法律構成が異なるからといって区別する必要があるのかという問題意識もあります。

この点については、研修講師の弁護士の先生は、両方とも対象事件に該当するのではないかというご意見でした。

 

次に、社会保険労務士が裁判所で何ができるのかを見てみると、「陳述」ができるとされています。

陳述というのは、「事実や法律に関する主張」のことで、主張とは「自己の申立を根拠づけ、あるいは相手方の申立を排斥するために、事実及び法律上の認識を裁判所に申し述べること」をいいます。

具体的には、サビ残が行われた具体的な事実や、懲戒解雇の原因となった事実が本当はなかったということなどを裁判所に述べる行為です。

ただ、実際の裁判においては、(口頭弁論)期日に法廷で口頭ですべての主張を述べるのではなく、事前に主張を書面(準備書面など)で提出して、その旨を陳述することで替えているのが実情のようです(筆者もパラリーガルとして裁判の期日を傍聴していますが、実際の期日では、提出した準備書面の内容の確認と陳述、次回期日の調整、次回までの宿題を話し合って終わりという場面に何度も立ち会っています)。

ここで注意をしなくてはならないのが、社会保険労務士補佐人の場合、陳述(事実や法律に関する主張)はできても、本人や証人に対する「尋問」はできないという点です。

この点、弁理士(特許など知的財産の専門家)は、特許関係訴訟などにおいて、補佐人として、弁護士である訴訟代理人とともに出頭して「陳述又は尋問」ができる(弁理士法5条)とされていますが、それと比較して、社会保険労務士法の補佐人規定には「尋問」の記載がないことから、社会保険労務士補佐人には尋問はできないとされています。

なので、社会保険労務士が尋問期日に法廷で当事者や証人に対して直接尋問を行うことはできません。

実際には社会保険労務士は、尋問の準備のお手伝いや期日において弁護士の先生のフォローをする(気づきを伝えるなど)ことになるのだろうと思います。

もっとも、これは陳述の場面でも同じことなのではないかと思います。

法律上、社会保険労務士が陳述できるからと言って、同席している弁護士の先生をさしおいて、社会保険労務士が法廷で陳述することはあまり想像ができません(弁護士の先生から意見を求められてフォローするって場合の方が多いのではないかと思っています)。

実際のところ、補佐人たる社会保険労務士の役割としては、弁護士が陳述するために、その準備段階において、事実の確認(書証のつきあわせや当事者などからの事実の聴取など)をしたり、最新の法令や通達などの情報を提供したり、弁護士の先生の作成した書面の内容に意見を述べたり(場合によっては書面を起案したり)することが主な仕事になるのだろうと思います。

そうだとすれば、社会保険労務士補佐人が尋問できないとしても、尋問の準備をお手伝いできて、現場でフォローができるのであれば、実際にはそこまで不都合はないのではないかと思っています。

 

以上、簡単に社会保険労務士補佐人制度についてご紹介しました。

筆者自身、15年以上パラリーガルとして、書面の作成準備や証拠収集の補助など弁護士の先生と仕事をしてきてました。

しかし、あくまでもパラリーガルは弁護士の補助なので、法廷に立つことはありませんでした。

今後、もしも社会保険労務士補佐人として活動する機会があるなら、これまでのパラリーガルとしての経験と社会保険労務士としての専門性を活かして、弁護士の先生や依頼者のために全力を尽くそうと思っています。

弁護士の先生に使いやすい社会保険労務士を目指して日々精進していこうと思っていますので、弁護士の先生方も是非、社会保険労務士補佐人制度に目を向けていただければと願っております。

以上、最後までお読みいただきありがとうございました。