障害年金申請に必要な書類を集める前に知っておくべき3つの壁

2020.08.30

社会保険労務士・オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

筆者は、障害年金の専門家(報酬をもらって障害年金申請を代理することのできる国家資格)である社会保険労務士として、

  • 障害年金申請に必要な書類って集めるのがたいへんそう。注意しておく点はある?
  • 障害年金申請に必要な書類が集められないときはどうなるの?
  • 障害年金申請に必要な書類を集める前に準備することはある?

このようなお悩みやご質問をお聞きすることがあります。

そこで、今回は障害年金の申請の際の書類について解説していこうと思います。

 

最初に簡単な自己紹介をします。

筆者は、17年以上弁護士事務所の職員として働いた経験から、現在は「権利擁護型の社会保険労務士」として、成年後見を専門とした法人の事務局長を務めつつ、弁護士の先生と協働して、障害のあるひとやそのご家族の困りごとについて相談会を行ったりしています(年金相談と家計相談を主に担当しています)。

もちろん、そういったひとたちからご依頼をいただき、障害年金申請(請求)や更新手続き、額改定請求などの代理申請を行うこともあります。

直近でお受けした事例をあげると、本当は障害年金申請をできたのにそれに気づいていなかったひとの代理申請を行って、過去3年超分の障害基礎年金300万円以上の受給決定をえることができました。

 

この記事では、

  • 障害年金申請に必要な書類を集める前に知っておくべき3つの壁
  • 障害年金申請に必要な書類が集められない場合にやるべきこと
  • 障害年金申請に必要な書類を集める前にやっておきたい事前準備

といった項目をお伝えしていこうと思います。

なお、障害年金については「請求」と表記する方が正確です。

しかし、「申請」という表記が一般的に使われていることもありますので、本記事ではわかりやすさを優先して「申請」と表記することにします。

この記事の情報は投稿日(2020.8.30)現在のものです。

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障害年金申請に必要な書類を集める前に知っておくべき3つの壁

障害年金申請に必要な書類は、大きく分けて①自分で作成する書類(「年金請求書」や「病歴・就労状況等申立書」など)、②手持ちの書類(銀行の通帳や各種障害者手帳など)、③役所などで発行してもらう書類(「住民票」や「所得証明書」など)、④医療機関で作成してもらう書類(「診断書」や「受診状況等証明書」など)の4種類があります(年金や障害の種類、家族構成などによって必要な書類は異なります。詳しくは、この記事の最後に日本年金機構のサイトをリンクしておきますので、そちらをご参照ください)。

この中で、①自分で作成する書類、②手持ちの書類、③役所などで発行してもらう書類については集めるのにそれほど苦労することはないでしょう。

しかし、障害年金申請に必要な書類のなかでも④医療機関で作成してもらう書類については、いろいろと困ったことが起きることがあります。

そこで、この記事では④医療機関で作成してもらう書類について、よくある困りごとを「障害年金申請に必要な書類を集める前に知っておくべき3つの壁」としてご紹介したいと思います。

その「壁」とは、①主治医が診断書を書いてくれない、②障害認定日の診断書が取れない、③受診状況等証明書(初診日の証明)が取れないの3つです。

 

主治医が診断書を書いてくれない

「お医者さん(現在の主治医)が診断書を書いてくれない」という話は意外とよく聞く困りごとの一つです。

「え、そんなことあるの?」と思われる人もいるかもしれませんが、現実問題としてあります。

ただ、その理由はさまざまです。

たとえば、主治医が交代して日が浅いので書けないとか、必要な検査をしていないので書けないといった情報不足を理由とするものから、障害年金受給のために期待される内容のものが書けないといった内容に関する理由、なかには(以前障害年金の診断書でトラブルになったので)障害年金の診断書はもう書きたくないといった感情的な理由まであるようです。

いずれにしても、主治医が診断書を書いてくれないというのは、患者さんからすればかなり戸惑うはず。

診断書がなければ障害年金申請の手続きが進みません。

まずは主治医としっかり意思疎通を行って理由をよく確認してから、必要な診察や検査があるならそれを受け、誤解があるならそれを解消して依頼をすることになります。

基本的に現在の主治医であれば現在の診断書を書いてくれるので、簡単にあきらめないことが必要です(法律上も「正当事由」がなければ医師は診断書作成を拒むことはできないとされています)。

 

障害認定日の診断書が取れない

原則として障害認定日から1年以上を経過してから障害年金申請を行う場合には現在の診断書(請求日前3ヶ月以内のもの)のほかに、障害認定日の診断書(障害認定日から3ヶ月以内のもの)が必要になります。

この障害認定日の診断書が取れないというのは障害年金申請の大きな壁の一つです。

障害認定日というのは、原則として初診日から1年6月を経過した日か症状固定日のどちらか早い方(障害の種類によっては特例あり)のことで、障害認定日の翌月までさかのぼって障害年金がもらえます(最大5年間さかのぼれます。これを「認定日請求(遡及請求)」といいます)。

こうした認定日請求をするには、障害認定日に障害等級に該当していることを認定してもらわないといけません。

そこで、認定日請求をするには、障害認定日の診断書が原則必要になるわけです。

しかし、障害の種類によっては、初診日が何十年も前にあるケースもあって、その場合には障害認定日も何十年も前になります。

当時の医療機関が廃業していたり、医療記録が既に廃棄されていたりして、障害認定日の診断書が取れないというケースが起こりうるのです。

場合によっては、障害認定日当時に必要とされる診察や検査が行われていないので、障害認定日の診断書が取れないというケースもあります。

 

受診状況等証明書(初診日の証明)が取れない

現在の診断書や障害認定日の診断書がとれたとしても、受診状況等証明書(初診日の証明)が必要になる場合があります。

それは、初診日の医療機関が診断書作成の医療機関と異なる場合(転院している場合など)です。

この受診状況等証明書(初診日の証明)が取れないというものよくある壁の一つです。

初診日とは、障害の原因となった病気やケガについて初めて医療機関で診療を受けた日のことです。

この初診日は、そもそも障害年金がもらえるのか(保険料の納付要件を満たすのか)、どんな障害年金がもらえるのか(障害厚生年金がもらえるのか)、いつから障害年金がもらえるのか(障害認定日はいつになるのか)といったさまざまな基準日になります。

このように初診日の特定はとても重要で、そのための書類が受診状況等証明書です。

ところが、初診日は障害認定日より前にあるのが原則です(まれに同時の場合もありますが)。

なので、障害認定日の診断書が取れないのと同様に、受診状況等証明書が取れないといったケースが起こりうるのです。

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障害年金申請に必要な書類が集められない場合にやるべきこと

このような「壁」がでてきた場合にはあきらめるしかないのでしょうか。

ここでは障害年金申請に必要な書類が集められない場合にやるべきこととして、①代替措置や救済措置の検討、②請求方法の切り替えの検討、③専門家への依頼の検討の3つを紹介していきます。

 

代替措置や救済措置の検討

こういった障害年金申請に必要な書類が集められないような場合のために、代替措置や救済措置が用意されている場合があります。

たとえば、受診状況等証明書が取れない場合には「受診状況等証明書が添付できない申立書」を受診状況等証明書に代えて提出することができます。

もっとも、それだけで初診日を認定してくれることはまずないので、裏付けとなる添付資料が必要となります(身体障害者手帳や医療機関の領収証など)。

初診日が一定の期間内にあると確認することができれば、一定の条件下で初診日が認められることもあります。

また、診断書が取れない場合にも、原因を分析して代替措置が取れないか検討することも大切です(たとえば、カルテはあるのに主治医がいないので診断書が書けないというような場合には、当時の主治医を探して診断書作成を依頼したり、現在の主治医に当時のカルテを元に診断書を書いてもらったりといったこともあります)。

ここでは、これらの詳細は割愛しますが、このように代替措置や救済措置がとれる場合もあるので、簡単にあきらめないようにしてください。

 

請求方法の切り替えの検討

どうやっても障害認定日の診断書が取れないという場合には、請求方法の切り替えを検討するのもひとつの方法です。

障害認定日の診断書が必要なのは認定日請求(遡及請求)をするためでした。

いったんそれを保留して(場合によってはあきらめて)、事後重症請求に切り替えるという方法です。

事後重症請求は、障害年金の申請日(請求日)の翌月から障害年金がもらえるという申請(請求)方法です。

なので、事後重症請求の場合、障害認定日までさかのぼって障害年金を受給することはできません。

その代わり、診断書については、障害認定日の診断書は不要で、現在の診断書があれば障害年金の申請ができます。

 

本来の事後重症請求は、障害認定日時点では障害年金がもらえるほどの障害の程度にない場合で、その後に障害年金がもらえる程度に障害が悪化したようなケースが想定されています(そもそも認定日請求ができないケース)。

しかしながら、障害認定日の診断書が取れず、障害認定日の障害の程度を証明できないようなケースでも事後重症請求ができます。

事後重症請求は、障害年金の申請日(請求日)の翌月から障害年金がもらえるので、申請日(請求日)が遅くなれば遅くなるほど、障害年金がもらえる月も遅くなる(=トータルでもらえる障害年金の額が少なくなる)といった特徴があります。。

事後重症請求は時間勝負の請求方法といえます(そのため、月末ギリギリに申請することもあります)。

なお、事後重症請求が認められた後に、認定日請求をすることも可能です(この場合には障害認定日の診断書が必要です)。

 

専門家への依頼の検討

「障害年金申請は自分でできる」というのが筆者の基本的スタンスです(「障害年金は自分で申請できる【そのシンプルな理由】」をご参照ください)。

しかし、障害年金申請に必要な書類が集められない場合に代替措置や救済措置を検討する場合や、認定日請求をやめて事後重症請求に切り替えるといった場合には、正直申し上げて自分だけで判断するのはかなり困難なのではないかと思います。

このような場合には、社会保険労務士などの専門家に相談した方がいいケースもあります。

自分だけで行き詰まるくらいなら、専門家への依頼を検討してもいいのではないでしょうか。

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障害年金申請に必要な書類を集める前にやっておきたい事前準備

こういったケースをふまえて、障害年金申請に必要な書類を集める前にやっておきたい事前準備についてもお伝えしておこうと思います。

それは、①記録と記憶の整理、②医療機関の現状や主治医在籍の確認、③主治医との信頼関係の構築の3つです。

 

記録と記憶の整理

事前準備としては、まず記録と記憶の整理をしておきましょう。

これまでみてきたとおり、障害年金申請に必要な書類でたいへんなのは、医療機関に関するものです。

そこで、現在保管している医療機関の領収証や診療報酬明細書、お薬手帳、医療保険の請求につかった請求書や診断書の写しや保険金給付時の資料など、使えそうなものをできるだけ整理してみてください。

あわせて、日記や手帳などを参考に自分の記憶を整理することも大切です。

当時の主治医の名前や、場合によっては看護師の名前を覚えていたことが後々役に立ったということもあります。

時系列にそって整理しておきましょう。

早いうちにこれをやっておくと、医療機関対応だけでなく、年金事務所での相談がスムーズにできたり、「病歴・就労状況等申立書」を作成する際の参考資料になったりもします。

 

医療機関の現状や主治医在籍の確認

診断書作成のために、障害認定日当時の医療機関が現在もあるのか、当時の主治医が今もそこにいるのかといった情報をできる範囲で確認しておきましょう。

医療機関のホームページなどで確認できることもありますし、主治医の名前を検索することでみつかることもあります。

また知り合いに聞くと、意外なつてで情報がもらえることもあります。

できるかぎり情報を収集しておきましょう。

 

主治医との信頼関係の構築

これは事前準備というのとは少し違うかもしれませんが、現在の主治医との信頼関係の構築も大切なことです。

現在の診断書をスムーズに書いてもらうにも主治医との信頼関係は必要ですし、何より効果的な治療の継続のためにも主治医との信頼関係は不可欠です。

日頃の診察時から積極的な情報提供や意思疎通をしっかり行って、診断書作成に協力してもらえる関係性を築いておきたいところです。

しかしながら、どうしても相性が合わないというケースもあるでしょう。

どうしてもという場合にはセカンドオピニオンや転院を検討してもいいかもしれません。

いずれにしても、主治医との信頼関係を構築しておくことは、障害年金申請のためだけではなく、治療のためにも必要なことです。

 

さいごに

今回は障害年金の申請の際の書類について解説してきました。

さきほども少しのべましたが、筆者の基本的スタンスは「障害年金は自分で申請できる」というものです(社会保険労務士がそんなことをいうのも少しへんかもしれませんが)。

そのようなひとに向けた記事も書いていますので、こちらにご紹介しておきます。

あわせて読んでいただければと思います。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

障害年金は自分で申請できる【そのシンプルな理由】

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