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要注意!こんなケースでは介護保険負担限度額認定申請を忘れずに!!【成年後見実務の社会保険手続2】

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「忘れてはいけない 成年後見実務の社会保険手続」シリーズです。

成年後見特化法人の事務局社会保険労務士である筆者が、成年後見実務で行う社会保険手続のうち、つい忘れてしまいがちなものについて解説をしていきます。

第2回目は介護保険の負担限度額認定手続です。

 

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介護保険負担限度額認定制度の概要

  • 介護保険施設に入所等される人で、低所得の人の施設利用時の食費・居住費、ショートステイの食費・滞在費が負担増とならないように、一定額以上を保険給付する(食費や居住費などの自己負担額が減額される)制度
  • 低所得の人は所得に応じた負担限度額までを自己負担すればよい(残りの基準費用額との差額分は介護保険から給付される)
  • 対象となる介護保険施設は、介護老人福祉施設・介護老人保健施設・介護療養型医療施設。いわゆる老健や特養はこれに該当。有料老人ホームやグループホームは原則対象外
  • 対象となるための要件は、①世帯全員が市民税非課税であること(世帯分離をして住民票上、別世帯の配偶者でも市民税が非課税でなくてはならない)、②預貯金、有価証券、投資信託、金・銀及び現金などの資産が単身で1000万円以下、夫婦で2000万円以下であること(②を「資産要件」という)
  • 利用者負担段階は第1段階から第4段階までの4段階に区分されている(第4段階では原則減額は受けられない)
  • 第2段階(市民税非課税世帯で前年の合計所得金額と公的年金等収入額の合計が80万円以下)と第3段階(市民税非課税世帯で前年の合計所得金額と公的年金等収入額の合計が80万円を超える)では、所得金額だけではなく、非課税の障害年金や遺族年金などの収入額も合算されて段階が判定される
  • 虚偽の申告をした場合は、給付額の返還に加え、給付額の2倍の加算金が課される場合がある(いわゆる「3倍返し」のペナルティー)
  • 申請した月の初日から認定が適用される(月末に申請しても、その月の1日から減額される)

特に手続を忘れやすいケース

  • 同一世帯の誰か(住民税を課税されていた者)が亡くなって、その世帯が住民税非課税世帯となった場合:住民税非課税世帯になった(第4段階から第3または第2段階になった)にもかかわらず、成年後見人がそれに気づかない
  • 配偶者が亡くなって、資産要件を充たすようになった場合:配偶者と併せて2000万円を超える資産があったために従来限度額認定に該当していなかった者が、配偶者が亡くなって、資産が単身で1000万円以下になったにもかかわらず、成年後見人がそれに気づかない
  • 介護保険要介護認定の更新を介護施設等に代行してもらっている場合:介護保険負担限度額認定の申請や更新は、通帳等が必要になるため個人情報保護を理由に施設等で代行してもらえない場合がある。そのような場合、介護保険負担限度額認定更新手続は、成年後見人がしなければならないのに、それを失念し、更新期間を徒過してしまう

手続を忘れるとどうなるか?

  • 居住費や食費の自己負担が基準費用額から減額されない
  • 月をさかのぼって認定を受けることはできない(申請した月の初日より前にはさかのぼれない)
  • 仮に有効期限が7月31日で、8月中に更新申請手続をとらなければならないのに、9月になって申請した場合、8月分の居住費や食費は減額されない(9月1日から適用される)
  • たとえば、第2段階の人で特養従来型個室の場合、居住費の差額は730円(基準費用額1150円-第2段階負担限度額420円)、食費の差額は990円(基準費用額1380円-第2段階負担限度額390円)になる(1日当たり)
  • 仮に上記の差額が31日間生じた場合の負担増加額は、(730円+990円)×31日=5万3320円である

忘れないようにここをチェック

  • 介護保険負担限度額認定証の有無を確認し、ある場合には段階を、ない場合にはその理由(どの要件を充たしていないのか)を把握する(この段階で申請の失念に気付いたら直ちに申請する)
  • 本人の収入状況を把握する(非課税である遺族年金や障害年金も忘れずに)
  • 本人と配偶者の預貯金等資産状況を把握する(本人単身で1000万円を超えるのか、夫婦合算で2000万円を超えているのかなど)
  • 第4段階(住民税課税世帯)の場合、世帯の中の誰が住民税課税対象者なのかを把握しておく(本人単身であれば非課税なのかも併せて確認しておく)
  • 施設の担当者と介護保険負担限度額認定の申請・更新について誰が行うのか協議しておく(施設側が代行してくれるのか、成年後見人が行うのか。もっとも、本人や配偶者の預貯金等資産情報を提供する必要があるので、代行の依頼は慎重に対応することが望まれる)
  • 有効期限、申請(更新)期限の管理を徹底する(有効期限が終了する月の翌月末日までに申請できれば、負担増は回避できるが、余裕をもって申請すること。認定証の発行には数日を要する。もっとも、認定証の発行が月を跨いだとしても、申請した月の初日から適用されるので、とにかく有効期限が終了する月の翌月中には必ず申請すること)

さいごに

介護保険負担限度額認定制度は、①収入の判定に非課税の遺族年金や障害年金が合算されること、②資産要件(夫婦の預貯金等の合計額)が設けられていること、③非課税世帯の判断に世帯分離した配偶者も加えられることなど、他の制度ではあまりみられない特徴があります。

そのため本人さんがどの段階に該当するのか(そもそも介護保険負担限度額認定を受けられるのか)がわかりにくいところがあったり、本人さん以外の要因で段階が変更になることも想定されます(たとえば配偶者の死亡など)。

また、資産要件が導入されて以降、個人情報保護の点から、施設側に代行申請をお願いするのが難しくなってきたという経緯もあります。

介護保険負担限度額認定制度は介護保険施設入所には避けてはとおれない手続ですので、成年後見人としては制度をしっかり理解して、本人さんの不利益にならないように十分に気をつけたいところです。

なお、親族等から介護保険負担限度額認定申請にあたって不正(収入や資産の過少申告など)をお願いされることがあるかもしれませんが、絶対にそのようなことはしてはいけません。

3倍返しのペナルティーを受けるばかりか、懲戒や解任、損害賠償の事由にもなりかねません。

必ず正しい申請をしてください。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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要注意!こんなケースでは長期入院該当の申請を忘れずに!!【成年後見実務の社会保険手続1】

忘れてはいけない 成年後見実務の社会保険手続(1) ~長期入院該当申請

 

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今回から「忘れてはいけない 成年後見実務の社会保険手続」シリーズをスタートします。

成年後見特化法人の事務局社会保険労務士である筆者が、成年後見実務で行う社会保険手続のうち、つい忘れてしまいがちなものについて解説をしていきます。

第1回目は国民健康保険等の「長期入院該当」の申請手続です。

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長期入院該当とは

  • 長期入院該当とは、住民税非課税世帯等の低所得者の所得区分に該当する限度額適用・標準負担額減額認定証の交付を受けていた期間の入院日数が、過去12ヶ月で90日を超える場合、申請により入院中の食事代(食事療養標準負担額)が減額される制度
  • 対象となる所得区分は各保険によって異なるが、たとえば後期高齢者医療の場合には区分Ⅱ、70歳未満の国民健康保険の場合には住民税非課税世帯の区分がそれに該当する
  • 長期入院該当日以降、入院時の食事代が、1食当たり210円が160円に減額される
  • 長期入院該当日は申請日の翌月1日(長期入院該当の記載のある限度額適用・標準負担額減額認定証を病院に提示すれば、申請日の翌月分から食事代を1食160円として計算してくれる)
  • 申請日からその月の月末までは差額支給の対象(別途手続が必要)

 

特に手続を忘れやすいケース

  • 世帯分離や同世帯の誰かが亡くなるなどして、本人の所得区分が低所得者に変わった場合:新たに限度額適用・標準負担額減額認定証の交付を受けた後に、入院日数が90日を超過したのに気づかない
  • 本人が後期高齢医療制度の低所得者の場合:所得区分を区分Ⅰ(食事代1食100円)と勘違いして、実際には区分Ⅱ(長期入院該当の制度の対象)であることに気づかない ※国民健康保険等(70歳以上)の場合にも起こりえる
  • 本人がすでに入院を開始している状態で成年後見人に新規に就任したり、前任者から引き継いで就任した場合:成年後見申立や前任者の辞任申立の時点では入院日数90日以下だったものが、その後90日を超えたにもかかわらず、成年後見人がそれに気づかない
  • 入院中に本人が75歳になった場合:75歳以降後期高齢者医療に変わった場合でも、75歳前の国民健康保険の期間の入院日数を通算できる(所得区分が同等な場合)にもかかわらず、成年後見人がそれに気づかない

 

手続を忘れるとどうなるか?

  • 食事代が減額されない(1食210円のまま)
  • 1食50円の差額が生じる(それだけ多く支払うことになる)ので、仮にこの状態が6ヶ月(180日)継続した場合、1食50円×3食×180日=2万7000円を多く払うことになる
  • すぐに申請しても90日超過日に遡って適用されるわけではない

 

忘れないようにここをチェック

  • 本人が入院中の場合には、前任者(いる場合)や親族、病院の相談員などの関係者との引継の際に、入院日数を必ず確認する
  • 限度額適用・標準負担額減額認定証の有無を確認し、ある場合には所得区分を必ず確認する
  • 親族が保管している等の理由で認定証が手元にない場合は、市役所等で区分を照会する
  • 新たに限度額適用・標準負担額減額認定証を申請する場合には所得区分を確認して、長期入院該当制度が使える区分の場合には、その時点で90日超過の日を計算し、申請スケジュール管理を徹底する
  • 本人が入院中に75歳になって後期高齢医療制度に変わる場合には、75歳前の入院期間も通算して計算する
  • 入院日数をしっかり管理する(2月が入院期間に入っている場合、3ヶ月経過でも90日を超過していない場合もあるので要注意。たとえば、閏年でなければ1/1~3/31の入院日数は合計90日となり、90日を超過していない)
  • 入院費の領収証の保管を忘れない(申請の際の添付資料になる)

 

さいごに

長期入院該当は、低所得者の入院が長期になった場合に行う手続ですので、それほど頻繁に扱う手続ではありません(それゆえに、専門職後見人であっても制度自体をあまりご存じない方もいらっしゃいます)。

また、特に後期高齢者医療の場合には、低所得者の区分がさらに区分Ⅰと区分Ⅱにわかれていますので、区分をつい勘違いをしてしまうことも考えられます。

1食50円の差額とはいえ、食事は原則1日3食あるので、手続の懈怠が長期になればなるほど本人さんの経済的不利益は増えていきます。

本人さんの利益を守るために、長期入院該当の申請手続を忘れないようにご注意いただければと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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