社会保険労務士」カテゴリーアーカイブ

法律事務所元職員の社会保険労務士からみた弁護士の労務管理スタイル

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回は、法律事務所元職員の社会保険労務士からみた弁護士の労務管理スタイルのお話です。

筆者は法律事務所職員として15年以上勤務してきました。

その間(現在も)公私にわたって、様々なタイプの弁護士の先生方と交流させていただいています。

そんな筆者が社会保険労務士となった今だからこそ言える、弁護士の労務管理スタイルについて述べたいと思います。

現在筆者は、小さな法律事務所のための労務管理システムをつくろうと企画しているのですが、それを考えている際に、ふと弁護士の先生方の労務管理スタイルは類型化できるのではないかと思いました。

事務職員という一方当事者的立場からみたものであり、偏った面や生意気に聞こえるところもあるかもしれませんが、法律事務所元職員である社会保険労務士の率直な印象としてご容赦いただけますようお願いいたします。

<スポンサーリンク>



 

4つの労務管理スタイルの類型

筆者は、弁護士の労務管理スタイルを、「コンプライアンスの徹底」(コンプライアンス意識)と「働きやすい職場環境」(職場環境の快適さ)の2つを軸にして、①朕は国家なりの絶対君主型、②上からの恩恵の啓蒙君主型、③革命をおそれる囚われの君主型、④さらなる発展を目指す立憲君主型の4つに類型化しています。

マトリックスに表せば、次の図のようになります。

 

簡単に各類型を紹介していくと、①コンプライアンス意識が低く職場環境も悪い絶対君主型(いわゆるワンマン経営でブラック化しやすいタイプ)、②コンプライアンス意識は高くないが職場環境も悪くはない啓蒙君主型(事務職員への福利厚生等を恩恵的に与えて満足しているタイプ)、③コンプライアンス徹底に汲々となって職場環境が良くならない囚われの君主型(コンプライアンスという手段が目的化して、かえって職場環境が窮屈になっているタイプ)、④コンプライアンスが徹底され職場環境も快適な立憲君主型(システムとしては理想的なタイプ)といった感じです

これらは歴史的な用語としては不正確なものですが、かつて西洋史をかじっていた筆者がイメージしやくするために、こういうネーミングにしています。

以下、その特徴をみていきましょう。

内憂外患「朕は国家なりの絶対君主型」

「コンプライアンス意識:低い / 職場環境:悪い」のカテゴリーが「朕は国家なりの絶対君主型」です。

このタイプの特徴は次のとおりです。

  • ボス弁護士が強力なリーダーシップの下に剛腕を振るっている
  • コンプライアンスは二の次で、独善に陥りやすい(いわゆるブラック化しやすい)
  • 契約自由の原則や憲法の営業の自由などを拠り所にして、労働法規規制を独自解釈している
  • 企業体としては、短期的に急成長する場合もある
  • 下で働く勤務弁護士や事務職員は社会正義・社会貢献に対する意識が高いので、それがかえって、「やりがい搾取」を許容する温床になっている
  • 「クライアントのサービス残業代を、サービス残業しながら計算している」といったブラックジョークが生まれる
  • 結果として内部からの反乱や離反も生じやすい。また、外部からは労働基準監督署の行政指導、弁護士会の懲戒処分、裁判所への訴訟リスク、そしてマスコミ世論からのブラック批判など、いつ何が起きるかわからない高リスクな状態が続く

このタイプはさすがに極端少数派です。

ブラック法律事務所とはシャレにもなりません。

しかし、まったくいないとは言い切れないのが残念なところです(悪魔の証明といいたいところですが、悪魔がひょっこり現れないとも限りません)。

限界が見える「上からの恩恵の啓蒙君主型」

「コンプライアンス意識:高くない / 職場環境:悪くない」のカテゴリーが「上からの恩恵の啓蒙君主型」です。

このタイプの特徴は次のとおりです。

  • 事務職員の福利厚生もそれなりに考えており、ときに法定以上のものを与えることもある
  • ただ労働条件通知書や就業規則などに、それらを制度化して明記することには消極的
  • 最低限の(どこかからコピペしてきた)就業規則などを備えることもあるが、形骸化したそれは実際には機能していない(いざ問題が起こったときには使い物にならない)
  • 36協定の締結・届出や法定帳簿の調整など、単純な手続面でさえも怠っている場合がある
  • 事務職員への福利厚生はどこか恩恵的なものと考えている傾向がある
  • ときに気分屋な面が出て、公平さに欠ける面もある
  • 旧司法試験で両訴必須だったり、法律選択科目でも労働法を選択していないなど、労働法規への馴染が薄く、場合によっては苦手意識を持っていることもある
  • ときに絶対君主型を批判して「名君」を自称している場合もあるが、傍から見れば「どっちもどっち」的な状態になっている
  • 自称「名君」ゆえに(事務職員からの信頼に根拠のない自信をもっており)、事務職員が本心では嫌がっていることに気づかない無自覚ハラスメントに陥る危険もある
  • 事務職員との関係が悪化した場合、コンプライアンス違反を攻められて守勢に回らざるを得ない

このタイプは意外と少なくない印象があります。

実際の中小・零細企業でも同様のタイプは見受けられますが、ことこれが法律事務所に至ってはいかがなものかと思わざるをえません。

啓蒙君主型のやっかいなところは、それなりに上手くいってる間は、問題が表面化してこないということです。

弁護士も事務職員もこの状態が悪くはないので、どこか「なあなあ」のまま現状が放置されていきます。

ただ、ひとたび問題が生じれば、コンプライアンス違反という点では絶対君主型と大きな違いはありません。

実際に啓蒙君主型の弁護士の先生とお話しをすると、このような問題意識を自覚してるケースも少なくありません。

啓蒙君主型は制度面が整備されれば、スムーズに立憲君主型に移行可能なのですが、多忙(優先順位)や心理的抵抗感を理由にして、なかなかに及び腰なのが現状のようです。

意識改革が望まれます。

そこまでしなくてもいい「革命をおそれる囚われの君主型」

「コンプライアンス意識:極めて高い / 職場環境:良くはない」のカテゴリーが「革命をおそれる囚われの君主型」です。

このタイプの特徴は次のとおりです。

  • 弁護士ゆえの慎重さから、コンプライアンス偏重主義に陥った状態
  • かつて事務職員が労働基準監督署に駆け込んだり、未払い賃金訴訟を起こしてきたりといった経験が契機となって、絶対君主型や啓蒙君主型から囚われの君主型に移行するケースもある
  • コンプライアンスの徹底には過剰なまでに余念がないが、規則や先例に拘束されすぎて柔軟性に欠ける
  • コンプライアンスそのものが目的化、硬直化してしまい、かえって働きやすい環境ややりがいのある職場をつくる妨げになっている
  • 「事務職員からいつ裏切られるかもしれない」という疑心暗鬼の心理状態から、事務所全体がギスギスした雰囲気になってしまうこともある
  • 規則さえ守ればよい(それ以上はやらなくてもよい)という風潮が生まれ、長期的には、事務職員の当事者意識やモチベーションが下がるおそれがある

コンプライアンスの徹底に汲々となって、かえって職場環境が窮屈になってしまうのが「囚われの君主型」です。

事務職員の自主性も損なわれ、結果として生産性が下がっていくといった弊害もあります。

息の詰まる職場は精神衛生上もよくないので、何事も極端にならないように気をつけたいものです。

事務職員の立場からすれば、啓蒙君主型の方がまだ働きやすい職場だといえます。

次はどこへ進む「さらなる発展を目指す立憲君主型」

「コンプライアンス意識:高い / 職場環境:良い」のカテゴリーが「さらなる発展を目指す立憲君主型」です。

このタイプの特徴は次のとおりです。

  • コンプライアンスを徹底し、働きやすい職場環境にも柔軟に対応できている理想的な状態
  • ボス弁護士は権限委譲を効率的に実践していて(「君臨すれども統治せず」?)、勤務弁護士と事務職員の協働も軌道に乗っている
  • ときにシステム構築に満足してしまい、現場感覚が疎かになるおそれもある
  • 「君臨すれども統治せず」はほどほどにして、次のステージ(「やりがいのある職場作り」)を実現するためのリーダーシップが求められる

本来、法律の専門家である法律事務所はすべてこの「立憲君主型」になっていることが望まれるところですが、実際のところはどうなのでしょう。

多数派であることは間違いないと思いますが、100%かと言われればそこまでは言い切れないところではないでしょうか。

いずれにせよ、コンプライアンスの徹底と働きやすい職場環境の構築ができている状態は素晴らしいことです。

もっともこれが最終形態ではありません。

「コンプライアンス徹底」「働きやすい職場環境」と実現できれば、次は「やりがいのある職場づくり」が待っています。

歴史上、立憲君主制が次の体制に移行していったように、現状に満足せず次のステージに進んでほしいと思います。

立憲君主型の目指すべき「やりがいのある職場づくり」とは

では、立憲君主型が次に目指すべき「やりがいのある職場づくり」とは何なのでしょうか。

実は、これこそが筆者の考えている小さな法律事務所のための労務管理システムのメインテーマです。

「やりがい」を実感するために必要な要素

「やりがい」そのものを明確に定義付けするのは困難なのですが、筆者は「やりがい」を実感するために必要な要素は、①「仕事への誇り」、②「報われる評価」、③「納得の待遇」、④「将来のイメージ」だと思っています。

法律事務所は、まさに社会正義の実現の場ですので、そこで働く事務職員が①「仕事への誇り」を感じていることはたしかだと思います(筆者の実感もそうでした)。

ただ、その他の②「報われる評価」、③「納得の待遇」、④「将来のイメージ」の3要素については更に検討していく必要があると思っています。

小さな法律事務所では、弁護士が事務職員に求めるレベルは事務所ごとに異なっています。

そのため、評価基準を一般化することは困難であり、オリジナルの評価基準が必要になってくるはずです。

しかし現実問題として、②「報われる評価」を実現する基準は用意されているのでしょうか。

そういった評価基準が整備されているところは多くはなく、評価の客観性や公平性に疑問が残るところです。

また、賃金体系にしても「いわゆる事務員さん」の賃金水準しか想定されていない場合もあります。

弁護士の補助として働く事務職員(パラリーガル)の賃金体系には、その事務所オリジナルの整備が必要になってきます。

③「納得の待遇」を実現する賃金体系の整備が不可避的な問題としてそこにあるのです。

そして一番深刻なのは、事務職員として働く10年先、20年先のイメージが描けないということです。

ロールモデルとなる人もいなければ、キャリアパスも明確になっていないからです。

筆者が事務職員として壁にぶつかったのもこの点でした。

「このまま働き続けられるのだろうか」という不安がいつも付きまとっていました。

個人的には、十分に評価していただき、身に余る待遇をいただいていたにもかかわらず、この不安は拭いきれませんでした。

キャリアパスを明確に提示されて、④「将来のイメージ」がちゃんと描けていれば、こういう不安も解消されたのではないかと、今になって思うところです。

求められるのは「やりがい」を実感できるオリジナルのシステム

これらの問題は相互に関連していて、どれか一つを解決すればよいというものではありません。

キャリアパスが明確になれば、それに応じた賃金体系もみえてくるでしょうし、そのための評価基準も決めやすくなるでしょう。

問題は、これらの解決には一般論は通用しないということです。

小さな法律事務所ゆえに、「やりがい」を実感するための、模範的な解答や一般的なモデルがないのです。

言い換えれば、「その事務所オリジナルのシステム」が必要であるということです。

弁護士が事務職員に求めるレベルが事務所ごとに異なっている小さな法律事務所では、当然の帰結といえるでしょう。

実のところ、これらの点については、筆者の中でもまだまだ練りきれていない部分が少なくありません。

ただ、これは法律事務所元職員の社会保険労務士だからこそできる仕事だと思って取り組んでいます。

これが完成すれば、立憲君主型の次に目指すステージとして相応しいものになるでしょう。

法律事務所の事務職員にとっての「やりがいのある職場」とは何なのか。

法律事務所ごとに求められるオリジナルの「やりがいのある職場」を追求していきたいと思っています。

各タイプ毎に取り組むべき労務管理の3つの土台

筆者は、「コンプライアンス徹底」「働きやすい環境整備」「やりがいのある職場づくり」という3つの労務管理の土台に支えられてこそ、法律事務所が企業体として継続的、安定的に成長していくものと考えています。

小さな法律事務所をそのまま維持する場合であっても、さらなる事業展開を模索する場合であっても、成長戦略を支えるオリジナルの労務管理は欠かせないものなのです。

そのためには、まず現在どのような労務管理のスタイルをとっているのかを認識し、絶対君主型や啓蒙君主型は「コンプライアンス徹底」から始め、囚われの君主型は「働きやすい環境整備」に力を入れて、立憲君主型は「やりがいのある職場づくり」に進んでいくというように、各タイプごとに順を追ってオリジナルの労務管理の土台を作っていく必要があると考えています。

法律事務所元職員の社会保険労務士としては、小さな法律事務所のために、このような土台作りのお手伝いをさせていただけないかと思って、その仕組みづくりの準備をしています。

そして、結果として、その法律事務所の発展に寄与できれば、これほど光栄なことはありません。

こういった取り組みが、これまでお世話になった先生方へのご恩返しになると信じて、これからも精進してまいります。

最後までお読みいただきありがとうございました。
<スポンサーリンク>



社会保険労務士補佐人制度を知っていますか?

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本博方です。

昨日、山口県社会保険労務士会の「平成30年補佐人研修会」を受講してきました。

今回は、少し聞き慣れないかもしれませんが、社会保険労務士補佐人制度についてご紹介したいと思います。

なお、成年後見制度の「保佐人」や「補助人」とはまったく異なる制度ですので、お間違えのないようにお願いいたします。

 

<スポンサーリンク>



 

社会保険労務士補佐人制度は、社会保険労務士法2条の2に規定された制度で、平成26年11月の法改正で新設され、平成27年4月1日に施行されています。

制度の概要は、労働や社会保険が対象になっている裁判所の手続き(訴訟など)において、社会保険労務士が訴訟代理人である弁護士とともに出頭し、陳述することができるというものです。

すごくざっくり言えば、労働や社会保険の事件で社会保険労務士が弁護士と一緒に裁判所で戦えるということです。

なお、補佐人になれる社会保険労務士は、特定社会保険労務士である必要はありません

 

ところで、「補佐人」という制度は、民事訴訟法にも規定があります。

民事訴訟法60条によれば、当事者や訴訟代理人が裁判所の許可を得れば、補佐人とともに出頭し、補佐人が陳述をすることができるとされています。

そしてこの民事訴訟法の補佐人には、資格の制限がありません(裁判所の許可があれば、誰でもなれるということです)。

実際に筆者も、当事者のご家族が補佐人になっている事件をみたことがあります。

このような民事訴訟法上の補佐人と、社会保険労務士補佐人の違いは何かというと、

①社会保険労務士補佐人の場合には裁判所の許可が不要である

②社会保険労務士補佐人は、必ず訴訟代理人である弁護士と出頭しなければ陳述ができない

という点です。

つまり、社会保険労務士は、①当事者から委任を受ければ、裁判所の許可がなくても補佐人になれるが、②実際に陳述するためには、訴訟代理人である弁護士と一緒に出頭しなければならない(社会保険労務士が単独で出頭したり、当事者のみと一緒に出頭しただけでは陳述ができない)ということです。

 

では、どのような事件が社会保険労務士補佐人の対象になるのでしょうか。

法律には「事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項」となっています。

具体的には、賃金支払請求事件(サビ残などを請求する場合)や解雇無効確認訴訟(不当解雇を争って、まだその会社の社員であることを認めてもらう場合。解雇中の給料も併せて請求することもあります)といった民事事件訴訟や、労災不支給取消訴訟や障害年金処分取消訴訟といった行政事件訴訟が考えられます。

もっとも、職場で行われたパワハラやセクハラ、いじめなどに対する慰謝料請求事件(不法行為責任や安全配慮義務違反に基づく損害賠償事件)については、個人的には対象になるのかどうかよくわからないところではあります。

個人的に思うのは、安全配慮義務違反については認められやすそうですが、不法行為責任はどうなのかと思いますし、その一方で、事実関係が同じなのに法律構成が異なるからといって区別する必要があるのかという問題意識もあります。

この点については、研修講師の弁護士の先生は、両方とも対象事件に該当するのではないかというご意見でした。

 

次に、社会保険労務士が裁判所で何ができるのかを見てみると、「陳述」ができるとされています。

陳述というのは、「事実や法律に関する主張」のことで、主張とは「自己の申立を根拠づけ、あるいは相手方の申立を排斥するために、事実及び法律上の認識を裁判所に申し述べること」をいいます。

具体的には、サビ残が行われた具体的な事実や、懲戒解雇の原因となった事実が本当はなかったということなどを裁判所に述べる行為です。

ただ、実際の裁判においては、(口頭弁論)期日に法廷で口頭ですべての主張を述べるのではなく、事前に主張を書面(準備書面など)で提出して、その旨を陳述することで替えているのが実情のようです(筆者もパラリーガルとして裁判の期日を傍聴していますが、実際の期日では、提出した準備書面の内容の確認と陳述、次回期日の調整、次回までの宿題を話し合って終わりという場面に何度も立ち会っています)。

ここで注意をしなくてはならないのが、社会保険労務士補佐人の場合、陳述(事実や法律に関する主張)はできても、本人や証人に対する「尋問」はできないという点です。

この点、弁理士(特許など知的財産の専門家)は、特許関係訴訟などにおいて、補佐人として、弁護士である訴訟代理人とともに出頭して「陳述又は尋問」ができる(弁理士法5条)とされていますが、それと比較して、社会保険労務士法の補佐人規定には「尋問」の記載がないことから、社会保険労務士補佐人には尋問はできないとされています。

なので、社会保険労務士が尋問期日に法廷で当事者や証人に対して直接尋問を行うことはできません。

実際には社会保険労務士は、尋問の準備のお手伝いや期日において弁護士の先生のフォローをする(気づきを伝えるなど)ことになるのだろうと思います。

もっとも、これは陳述の場面でも同じことなのではないかと思います。

法律上、社会保険労務士が陳述できるからと言って、同席している弁護士の先生をさしおいて、社会保険労務士が法廷で陳述することはあまり想像ができません(弁護士の先生から意見を求められてフォローするって場合の方が多いのではないかと思っています)。

実際のところ、補佐人たる社会保険労務士の役割としては、弁護士が陳述するために、その準備段階において、事実の確認(書証のつきあわせや当事者などからの事実の聴取など)をしたり、最新の法令や通達などの情報を提供したり、弁護士の先生の作成した書面の内容に意見を述べたり(場合によっては書面を起案したり)することが主な仕事になるのだろうと思います。

そうだとすれば、社会保険労務士補佐人が尋問できないとしても、尋問の準備をお手伝いできて、現場でフォローができるのであれば、実際にはそこまで不都合はないのではないかと思っています。

 

以上、簡単に社会保険労務士補佐人制度についてご紹介しました。

筆者自身、15年以上パラリーガルとして、書面の作成準備や証拠収集の補助など弁護士の先生と仕事をしてきてました。

しかし、あくまでもパラリーガルは弁護士の補助なので、法廷に立つことはありませんでした。

今後、もしも社会保険労務士補佐人として活動する機会があるなら、これまでのパラリーガルとしての経験と社会保険労務士としての専門性を活かして、弁護士の先生や依頼者のために全力を尽くそうと思っています。

弁護士の先生に使いやすい社会保険労務士を目指して日々精進していこうと思っていますので、弁護士の先生方も是非、社会保険労務士補佐人制度に目を向けていただければと願っております。

以上、最後までお読みいただきありがとうございました。

成年後見人が遺族年金請求を行う際の請求者の氏名の書き方

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本博方です。

今回は、成年後見人が遺族年金(遺族基礎年金や遺族厚生年金など)を本人さんに代わって請求する場合に、年金請求書の請求者欄の氏名をどのように書けばよいかを述べたいと思います。

具体的には、①請求者氏名は誰の名前を書くか、②押印は誰のものが必要かの2点について、本人(成年被後見人)さんを甲山A子さん、成年後見人さんを乙川B男さんとして考えていきます。
<スポンサーリンク>



 

まず、年金請求をする権利があるのは、当然A子さんです。

ただ、A子さんには判断能力がほとんどないので、その法定代理人として、成年後見人であるB男さんが手続きを行います。

なお、B男さんが成年後見人であることの証明は、法務局が発行する成年後見の登記事項証明書によって行います(この場合、A子さんからの委任状は不要です。A子さんはそもそも委任ができる状態ではないからこそ、成年後見人が選任されているのです)。

とすれば、A子さんに代わって成年後見人のB男さんが、①請求者氏名を「甲山A子」と記名し、②「甲山印」を押捺すれば足りるのではないかとも考えられます。

たしかに、社会保険労務士が一般の人(成年被後見人でない人)から依頼を受けて年金請求を行う際には、請求者欄には、本人の名前を記名押印したうえで、社会保険労務士欄に提出代行者(ないし事務代理者)として記名押印します。

それとパラレルに考えるなら、ここでも「甲山A子 + 甲山印」でいいようにも思えます。

しかし、社会保険労務士の行う提出代行や事務代理は、民法上の代理制度とは厳密には異なる制度ですので、これを法定代理の場合にそのまま当てはめるのは適切ではないでしょう。

そもそも、成年後見人が本人を代理して契約等を行う際には「甲山A子 成年後見人 乙川B男」と書き、「乙川印」を押捺するのが一般的です。

民法の代理の規定からすれば、代理人であることを示すことが原則だからです(これを顕名といいます)。

そうであれば、登記事項証明書で成年後見人であることを示したにもかかわらず、顕名をせずに本人「甲山A子」名義の文書を作成するというのは不自然なので(その効力は別として)、年金請求の場合にも①「甲山A子 成年後見人 乙川B男」と書き、②「乙川印」を押捺するのが正しいようにも思えます。

「甲山A子 + 甲山印」か、「甲山A子 成年後見人 乙川B男 + 乙川印」か悩むところです。

では、実務ではどうしているのでしょうか。

この場合には、①請求者欄の氏名欄には本人の氏名を「甲山A子」と書くが、②本人の押印は不要、さらに③欄外に「甲山A子 成年後見人 乙川B男」と書き「乙川印」を押すという扱いになっています。

実際には請求書の「性別」欄の横の欄外に多少余白があるので、そこに③の成年後見人の署名押印をすることになるでしょう。

この書き方は、請求書3ページの履歴欄に「職歴について、被保険者記録照会回答票の内容どおり相違ありません。」と添える場合の氏名や、7ページの生計維持証明の氏名欄を書く際にも同じように行います。

ちなみに、未支給年金の請求書でも同じなのですが、この書式には欄外の余白がほとんどないので、ちょっと困ります(しかたないので筆者は氏名欄に詰めて記載するようにしています)。

 

以上、成年後見人が遺族年金請求を行う際の、請求者の氏名の書き方について考えてみました。

成年後見人は、色々な場面で、本人に代わって手続きを行います。

しかし、氏名欄ひとつとっても、行政機関、金融機関、病院や介護施設など、それぞれで求められる書き方が異なります。

正直に言って、とても混乱しているのが現状のように思います(場合によっては、本人の印鑑を執拗に求められることもあります)。

本人欄に加えて、代理人欄が設けられている書式(本人押印不要)が理想的ですが、そうでないなら、せめて本人氏名欄の記載は「甲山A子 成年後見人 乙川B男 + 乙川印」として手続きが行えるように統一してもらえないものかと思うところです。

最後までお読みいただきありがとうございました。
<スポンサーリンク>



 

あわせて読んでいただきたい関連記事

成年後見業務でいつも困ってしまうこと

意外と困る保佐人の権限外行為

社会保険労務士の戸籍等の職務上請求をやってみた

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本博方です。

先日、遺族年金の請求のためにクライアントの戸籍謄本等を取得する必要があったので、社会保険労務士として戸籍謄本等の職務上請求を行いました。
今回は、社会保険労務士の戸籍謄本等の職務上請求についてご紹介します。
<スポンサーリンク>



 

筆者は、法律事務所の職員(いわゆるパラリーガル)としての勤務経験が長いので、職務上請求については日常的なものだったのですが(法律事務所の職員は弁護士の使者として市役所等に行って職務上請求書を提出することがあります)、社会保険労務士としての職務上請求は初めての経験でした。

弁護士の場合、相続や離婚の調停の添付資料として戸籍謄本等を取得したり、民事事件での相手方の住所を確定するために住民票の写しを取得したりと、職務上請求を行う機会が頻繁にあるのですが、社会保険労務士の場合には、業務に関してそれほど戸籍謄本等が必要になるケースは多くなく、さらに職務上請求まで行う機会はあまりないような気がします(クライアント自身に取得してもらえばすみますので)。

実際に、話をきいた社会保険労務士の先輩の中には、職務上請求を行ったことがないという先生もいらっしゃいました。

そういう違いがあるからなのか分かりませんが、弁護士用の職務上請求書の書式は4種類あるのに対して、社会保険労務士用の職務上請求書の書式は1種類です(戸籍謄本も住民票の写しも同じ書式を使います)。

他にも書式上の違いでいえば、社会保険労務士用の職務上請求書は複写式です(弁護士用は複写式ではありません)。

複写式は、控えが残る点は良いのですが、プリンターで印字できないのが少し不便な気がします。

あと、窓口での本人確認のための身分証明書の提示では、「社会保険労務士証票」には住所の記載がないため、併せて運転免許証等を提示しなくてはならないのも少し二度手間な気がしました(これは職務上請求に限ったことではありませんが)。

このように弁護士用の職務上請求と比べると異なる点もあるのですが、職務上請求は個別に委任状作成を必要としない等クライアントの負担が少ないですし、特に、高齢や入院等の理由で直接市役所に行けない人にとって、クライアント本人に代わって社会保険労務士が戸籍謄本等を取得できるという、とても便利な制度です(もちろん戸籍謄本等はプライバシーに関わる重要な個人情報ですので、細心の注意をもって慎重に取り扱わなければならないことは言うまでもありません)。

筆者としては、配偶者亡きあとの老後のシングルライフを支えるために、遺族年金や未支給年金の請求サポートにも力を入れていこうと思っていますので、今後も必要に応じて職務上請求を適切に行い、スムーズに業務を進めていこうと思っています。

最後までお読みいただきありがとうございました。
<スポンサーリンク>



あわせて読んでいただきたい関連記事

社会保険労務士補佐人制度を知っていますか?

任意特定適用事業所の申出

社会保険労務士の徽章

社会保険労務士が成年後見に関わる理由

任意特定適用事業所の申出

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本博方です。

先日、ある事業所の健康保険・厚生年金(以下「社会保険」といいます)の任意特定適用事業所申出書の提出を行ったのですが、その際に気になったことがあったので、注意点などを書いておきたいと思います。
 

<スポンサーリンク>



 

まず始めに「任意特定適用事業所」の意味について確認しておきましょう。

平成28年9月までは、社会保険の被保険者になれたのは、原則としてフルタイムの正社員やパート・アルバイトでも1日または1週間の労働時間及び1ヶ月の所定労働日数が通常の労働者の概ね4分の3以上である人に限られていました。

これが、平成28年10月から、501人以上の被保険者のいる事業所(これを「特定適用事業所」といいます)では、所定労働時間および所定労働日数が通常の労働者の4分の3未満であっても、

下記の4つの要件を全て充たす人

1. 週の所定労働時間が20時間以上あること

2. 雇用期間が1年以上見込まれること

3. 賃金の月額が8.8万円以上であること

4. 学生でないこと

については、「短時間労働者」として社会保険の被保険者になることとなりました。

さらに、平成29年4月からは、被保険者数が500人以下の事業所であっても、労使が合意のうえで申出をすれば、「任意特定適用事業所」となり、短時間労働者が社会保険の被保険者になることができるようになりました(もう少し正確にいえば、いったん任意特定適用事業所となった場合には、前記の4つの要件を充たした人は原則として被保険者にならなければなりません。各人の希望で被保険者になる人とならない人を決められるわけではないのでこの点は要注意です)。

 

余談ですが、似たような言葉で「任意適用事業所」(「特定」という文言が入っていない)というのがあります。

これは社会保険の強制適用でない事業所(たとえば、常時使用する従業員が5人未満の個人事業など)が厚生労働大臣(日本年金機構)の認可を受けて社会保険が適用されることとなった事業所のことで、短時間労働者とは直接関係のない制度です。

 

 

話を戻しますと、今回行った手続きは、それまで役員のみが社会保険の被保険者だった法人で、1週間の所定労働時間が20時間の従業員を新たに雇うこととなったので、任意特定適用事業所の申出をするとともに、その従業員を社会保険の被保険者にするというものでした。

それというのも、その従業員は前職を辞めてその翌日にその法人に就職する予定だったのですが、前職で社会保険の被保険者だったことから、間断なく被保険者になることを要望していたからです。

そこで、本件ではこのような要望を叶えるために、従業員を雇用し、その従業員と労使合意を結び、その同意書等とともに任意特定適用事業所申出書と資格取得届を提出するという手続きを同日に行うこととしました。

なぜならば、短時間労働者が被保険者となる(資格を取得をする)ためには、その前提として、その事業所が任意特定適用事業所に該当していなければなりません。

そして、事業所が任意特定適用事業所に該当するのは、任意特定適用事業所申出書の受理日なのです。

つまり、任意特定適用事業所申出書が受理された日以降(同日でも可)でなければ、資格取得はできないというわけです。

仮に、就職日の翌日に申出書が受理されたとすれば、資格取得もその日(就職日の翌日)からとなります。

たとえば、1月10日に前の会社を退職し、翌11日に次の会社に短時間労働者として就職した場合、その会社の申出が遅れて12日に任意特定適用事業所に該当したのなら、資格取得は12日からということです。

そのようなことのないように、これらの手続きを同日にやったというわけです。

なお、同じ理由から、この手続きを郵送で行う場合にも、注意が必要です。

郵送の場合には、申出書を投函した日から受理されるまでにタイムラグが生じる可能性があるからです(年金事務所できいたところ、このようなケースでは、郵送はおすすめしないという話でした)。

本件では、任意特定適用事業所となるのと同時に短時間労働者の被保険者の資格取得も行うことができました。

 

任意特定適用事業所の申出は、短時間労働者の福利厚生を充実させることが期待される制度です。

この制度を採用する場合には、手続きのタイムスケジュールを確認したうえで適切に対応できるように注意したいものです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

社会保険労務士の徽章

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本博方です。

10月1日に社会保険労務士の開業登録してもう1ヶ月以上が経過しました。

職印や名刺、封筒といった備品がそろってきて、来年からの本格的な社会保険労務士業務開始に向けて準備を進めています。

そんな折、注文していた社会保険労務士の徽章(きしょう=バッジ)が届きました。
 

<スポンサーリンク>



 

正式な名称は、会員徽章というようです。

徽章の中央には「SR」の文字。

これは、ローマ字で社会保険(Syakaihoken)労務士(Roumushi)の頭文字だそうです。

これまでパラリーガルとして弁護士の先生と仕事をしてきたので、弁護士バッジは見慣れているのですが、社会保険労務士バッジは初めてみました。

そういえば、知り合いの社会保険労務士の先生がバッジをつけているところをみたことがないので、つけない人もいらっしゃるのでしょうね(弁護士の先生でもつけない人もいらっしゃいますし)。

バッジの送付書には「都道府県社会保険労務士会会員徽章規定(抜粋)」が記載されており、そこには、第3条として「社会保険労務士会の会員は、社会保険労務士の業務を行うときは会員徽章を着用するよう努めるものとする。」とありました。

なるほど、バッジ着用は努力義務なんですね。

ちなみに、お値段は、山口県会の場合は8,750円でした。

もしかしたらあまり使うことは多くないのかもしれないのですが、プロとしての責任を自覚するために購入しました。

やはり物を手にすると、気が引き締まりますね。

このバッジに恥じないように、これからも日々精進して参ります。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

社会保険労務士が成年後見に関わる理由

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本です。

今回は、社会保険労務士が成年後見制度にどのように関与できるのか、筆者の経験を通じて感じたところを述べたいと思います。
<スポンサーリンク>



 

筆者は、成年後見業務を専門に扱う法人の事務局をしています。

この法人は、法律の専門家である弁護士と福祉の専門家である社会福祉士が協働して成年後見業務を行うことで、財産管理と身上監護にバランスのとれた適正な成年後見サービスを提供することを目的として活動しています。

また、サービスの幅や質をさらに向上させるべく、司法書士や税理士といった専門家も参加しており、多職種による協働を実現しています。

そのような法人で、筆者は、裏方である事務局を担当しているのです。

 

各専門家にはそれぞれ得意分野があります。

本人さんの生活の質を高めるために社会福祉士は司令塔として機能しますし、法律問題や虐待問題には弁護士が毅然と対応します。

また、相続による不動産の取得や不動産の任意売却では司法書士が活躍しますし、税金の問題は税理士が適切に処理をします。

では、社会保険労務士は何ができるのでしょうか。

読んで字のごとく、「社会保険」の専門家として、社会保険に関連する分野を担当できます。

前述の各専門家の扱う分野に比べると、少し地味な感じがします。

しかし、成年後見と社会保険の関連を考えると、これらはすごく深い関係があることがわかります。

まず、成年後見を利用する本人さんは、ほとんどが高齢者や障害者に該当します。

その本人さんの収入の大半は、公的年金制度により支えられています。

また、ほとんどの人は、何らかの医療や介護のサービスを受けています。

その際には、医療サービスを受けるには公的医療保険(後期高齢者医療制度や国民健康保険など)が、介護サービスを受けるには公的介護保険がそれぞれ必要になってきます。

そして、これらの保険料の支払いを適切に管理するのも成年後見人の職務です。

つまり、社会保険制度は、成年後見制度の財産管理と身上監護の両面に深く関係する制度なのです。

さらに社会保険制度は毎年のように改正が行われる複雑な面もあります。

ここに社会保険制度の専門家である社会保険労務士が関与する意義があるのです。

具体的にどのようなことをやるのかというと、たとえば、介護保険の要介護(要支援)認定の申請や更新、医療保険の「限度額適用認定証・標準負担額減額認定証」や介護保険の「負担限度額認定証」の申請や更新といった手続や、年金の裁定請求、障害年金の診断書や現況届の提出といった手続などがあります。

また、医療保険や介護保険の保険料の適正化も検討します。

たとえば、後期高齢者医療制度の被保険者である本人さんが世帯主である場合、その世帯に属する他の人(たとえば子)の国民健康保険の保険料の納付義務が本人さんに生じます(これを「擬制世帯主」といいます)。

このようなケースでは、子らの国民健康保険料を本人さんが負担するのが適切ではない場合、そうならないような方法を講じます。

また、逆に子が世帯主である場合で、その所得が本人さんの保険料の算出に影響する場合には、生活の実態を反映させるような方法を講じることもあります。

一つ一つは地味な作業なのですが、これらをするかしないかでは、本人さんの負担は大きく変わってくることでしょう。

また、社会保険制度手続のほとんどが、いわゆる申請主義をとっていますので、放っておくとサービスを受けられないまま時効にかかっていくということもあります。

社会保険手続の懈怠は、本人さんの不利益に直結するということです。

少し極端な話ですが、報道によると、平成29年1月の松江地裁の判決で、社会保険手続(障害年金の請求)を怠った成年後見人への損害賠償請求が認められたという例もあるようです。

これまで成年後見人に対する損害賠償といえば、横領や使い込みによるものが多かったのですが、社会保険手続の懈怠によるものも損害賠償の対象となるということは、成年後見人として、しっかりと肝に銘じなければならないことです。

このように損害賠償まで認められるケースは稀なのでしょうが、適正な社会保険手続が成年後見人の職務の一つであることは間違いないのですから。

 

このように、社会保険労務士が成年後見制度に関与する意義はあると思っています。

これは、これまで事務局として成年後見制度に関わってきた筆者の実感でもあります。

筆者としては、今後も、一見地味な作業に従事しながら、裏方として法人を支えていこうと思っています。

最後までお読みいただきありがとうごさいました。
<スポンサーリンク>



あわせて読んでいただきたい関連記事

ファイナンシャルプランナーが成年後見に関わる理由