成年後見業務でいつも困ってしまうこと

2019.06.10

どうにか改善してほしい成年後見業務で困ること三選

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社会保険労務士の徳本です。

筆者は法定後見業務を専門に受任する一般社団法人の事務局長をやっているのですが、現場でいつも困ってしまうことというものがあります。

今回は、そういった「成年後見業務でいつも困ってしまうこと」について3つほどあげてみたいと思います。

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年金事務所で送付先変更をしようと思ったら、やたらと金融機関や口座名義の変更欄を書くように「協力」を求められる

成年後見人就任後に年金関係の書類を成年後見人宛てに発送してもらうために、日本年金機構(年金事務所)に送付先変更の手続きをすることがあります。

その際には「年金受給者 通知書等送付先・受取機関・口座名義変更申出書」(この書式は「住民基本台帳による住所の更新 停止・解除 申出書」も兼ねています)を提出します。

この送付先変更の手続き自体はそれほど複雑なものではないのですが、送付先変更の申出をする際に、なぜかいつも面倒なことに巻き込まれます。

それは送付先の変更欄だけでなく、年金の受取口座の変更欄や口座名義の変更欄の記載まであわせて求められるのです。

理由は簡単で、この申出書では、送付先だけでなく年金の受取機関や口座名義の変更も同じ書式で行うようになっているからです。

成年後見人が就任した際に、金融機関の口座名義に本人の名前だけでなく成年後見人が肩書付きで記載されることがあるので、同じ書面で手続きが行われるようにできているのでしょう。

たとえば、本人Aさん、成年後見人Bさんだった場合、それまでの口座名義は「A」のみだったものが、その金融機関に成年後見の届出をした後は口座名義が「A 成年後見人 B」とされることがあります。

ただ、この場合であっても金融機関も口座番号も変わりませんし、当該口座そのものがAさんのものであることには変わりはありません(成年後見人Bさんの口座に変更されたわけではないのです)。

また、ゆうちょ銀行では成年後見の届け出後も口座名義は「A」のままですし、他の金融機関でも、成年後見の届け出後の口座名義を「A」のままにしておくか「A 成年後見人 B」とするかを選べるところも出てきました(もちろん「A 成年後見 B」に必ず変えるところもありますが)。

つまり、成年後見人がついたからと言って、必ずしも口座名義が変わるというわけではないのです。

そういうわけで、筆者の場合には送付先変更に必要な部分だけを記入し、変更のない場合には金融機関や口座名義の欄は空白にして書類を提出するようにしています。

その部分に変更はないのですから、その欄を書く必要はないはずなのです。

ところが、必ずと言っていいほど、年金事務所の窓口で金融機関や口座名義の欄を書くように求められます

それも、書く必要はないけれど確認のため「協力してほしい」というのです。

筆者は内心「またか」と思いながらも、金融機関も口座番号も口座名義も一切変わっていないことを説明し、場合によっては通帳を提示したりもします(通帳のコピーを取られることもあります)。

そこまですると、たいていの場合には、窓口の人が上司に相談し(そこから電話で照会し)、ようやく「それではこのままで受け付けます」と言われます(ときにはどうしても「協力してほしい」と言い続けられ、こっちが折れて「協力する」こともありますが)。

対応を待つ時間がもったいないので、いっそのこと変更のない場合でも書いておいた方がいいのかなとも思うのですが、お互いに業務の負担を増やすようなことは避けるべきだと思っているので、いつかこの取り扱いが改善されることを信じて、必要のないものはあえて書かないようにしています。

この話を他の成年後見の事務に従事している人に聞くと、意外と皆さん同じような経験をしておられるようで、「あれって時間と労力の無駄だよね」と苦笑いされます。

この点は内部マニュアルの改訂で対応できるところだと思いますので、業務の効率化のためにぜひとも改定を検討していただきたいところです(少なくとも申出人が変更不要だと言っている確認がとれた場合には、協力するまで受け付けないといった執拗な協力要請だけは控えていただきところです)。

 

介護施設の契約時にとにかく本人の印鑑を押してほしいと言われる

成年後見人は本人の法定代理人ですので、本人に代わって契約をすることができます。

ですので、介護施設の入所の際などには、成年後見人が本人に代わって契約を行います(そのために成年後見人を付けることも少なくありません)。

最近では、成年後見制度もそれなりに普及してきたようで、契約書の当事者欄に、「本人」欄と「代理人(成年後見人等)欄」が設けてある書式も多くなってきました(ひと昔前は、その欄がなかったので困ることもあったのですが、その点はずいぶん改善されてきたと思います)。

ただ、まだ困ったことがあるとすれば、「本人の印鑑を押してほしい」と言われることが少なくないという点です。

たしかに、書式の「本人欄」のところに「押印」欄があるので、どうしても「ここに印鑑をお願いします」と言ってしまうのはしかたのないことかもしれません。

しかし、成年後見人に本人に代わって記名押印する権限があるのかどうかという法的な問題は別にして、法定代理人である成年後見人がその旨を示して契約をしようとしているのですから(登記事項証明書などを提示すれば、成年後見人であることはわかります)、そこに本人の印鑑を押す必要はないはずです。

実際のところ、成年後見制度の概要を説明したうえで、「本人さんが印鑑を押せない状態なので、成年後見人がついているんですよ」と説明すれば、ほとんどの場合には、本人の記名(押印不要)と成年後見人の記名押印のみで対応してくれます。

それでも施設の担当者さんが成年後見制度に慣れていない人の場合には、説明や確認に時間を要することもあります。

「本人の印鑑」問題は、ここ数年でずいぶん改善されてきたように感じますが、まだまだ十分に理解されているとは言えないのが現状だと感じます。

 

本人さんの入院時にはいろいろと「できないこと」を要求される

成年後見人は本人の法定代理人だからと言って、すべてのことを本人に代わってできるわけではありません。

成年後見人には「できないこと」も意外と多いのです。

たとえば婚姻や養子縁組などといった身分行為もそうですし、遺言を代わりに作成することもできません。

成年後見人が本人に代わって、誰と結婚するかを決めることができないのは当然といえば当然ですので、このあたりは、成年後見人の「できないこと」として比較的理解しやすいところではないでしょうか。

ただ、成年後見人の「できないこと」は、こういった身分行為には限られません。

他にも様々な理由で「できないこと」はあります。

そして、その「できないこと」が顕著になるのが、本人が医療機関に入院するときです。

その最たるものが「医療同意」です。

医療目的とはいえ、自分の体を傷つける医療行為(手術など)については、その違法性を阻却するために、医療機関から事前に本人の同意(ないし家族の同意)が求められることがあります。

場合によっては、本人の同意+家族の同意の二つを求めてくることもあります。

医療機関のリスクマネジメントのために医療同意の求め方が過剰になっているのではないかという問題はあるにしても、現実問題として求められるのだからしかたありません。

そして、本人に意思能力がなく、近しい家族もいないとなると、医療機関は成年後見人に「医療同意」を求めてきます。

成年「後見人」という日本語の響きに、どこか「親代わり的」なイメージがあるのも確かです。

そういった「親代わり的」なイメージが、成年後見人なら本人の代わりに「医療同意」ができるのではないかという期待に繋がりやすいのかもしれません。

しかし、成年後見人は「医療同意」はできないのが原則です(自分の体を傷つけることに対する同意は、他人が代理することではないからです)。

成年後見人に医療同意権がないという問題については、成年後見制度の利用促進法制定の議論時に結構話題になったのでそれなりに知られてきたように思いますが、それでもまだまだ現場では周知されているとはいえないのが現状です。

この「医療同意」問題以外にも、入院時の身元保証人、身元引受人、入院保証人等も「できないこと」の一つです(利益相反があるという理由です)。

さらにいえば、入院時の付き添いや送迎といった「事実行為」も成年後見人の本来業務ではありませんし、直接的に入院中の本人のお世話をすることも「できないこと」です(事実行為については、できる範囲で成年後見人が個人的に対応することはありますが)。

このように、本人の入院時は成年後見人の「できないこと」だらけなのです(入院契約や入院費の支払はできますが)。

これから独居の高齢者が今以上に増えてくることが予想されているのですから、そういった人が入院する機会も当然増加するでしょう。

現場のニーズからここまで乖離した現状を、本当にこのままにしておいていいのかと不安になってきます。

この点については、成年後見人のできることを増やしていくという方向性だけでなく、医療同意や身元保証等がそもそも必要なのかという問題を法的に解決しないといけないと思いますし、必要な事実行為をお願いできるシステムを社会的に整備していってほしいと思っています。

 

さいごに

このように成年後見人が現場で困っていることというのは、あげればきりがありません。

その中でも、ちょっとしたマニュアルの改善や書式の改定などをすれば直ぐにでも効率的な取り扱いが可能になるものから、法的な明示や社会的な整備などがなければ抜本的な解決ができないものまで、問題の本質も一律ではありません。

ただ、現場で生じる色々な困りごとは、放置しておけば何も変わりませんが、それを集めて、声を出していけば、改善に繋がることもあります。

実際に、数年前にくらべると、金融機関も行政機関も医療機関も介護施設も、格段に成年後見制度への理解が進み、使いやすいように仕組みが整えられてきました。

現場の声が届いて、使い勝手の良いように工夫されてきた証拠だと思います。

これからも、少しでも不便な点が改善されていくように、成年後見業務に取り組んでいいきたいと思っています。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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