法律事務職向 覚えておきたい社会保険の基礎知識 ~成年後見事務編 その4~

2019.06.02

成年後見事務で覚えておきたい社会保険の基礎知識 その4

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本です。

筆者が法律事務職として働いているときにはよく知らなかった社会保険の基礎知識について、法律事務職の皆さま向けにまとめてみたいと思います。

今回は、成年後見事務編その4です。
ここでは、社会保険の給付申請手続きなどを中心に、筆者が実務上経験したこと交えてをお話ししたいと思います。
<スポンサーリンク>



覚えておきたい主な3つの給付申請手続きの注意点

成年後見業務で対応が必要になる給付には、医療保険の「高額療養費」支給申請、介護保険の「介護保険高額介護(介護予防)サービス費」支給申請、そして医療保険と介護保険に共通の「高額介護合算療養費・高額医療合算介護(予防)サービス費」支給申請の3つの手続きがあります。

それぞれに共通する注意すべきポイントとしては、

1. 支給申請手続をして初めて支給される(初回のみ申請すれば、あとは自動で支給されるものもありますが、少なくとも初回は申請手続が必要です)

2. 支給対象者には保険者から書式などの通知文書が送られてくるので、郵便物チェックがとても大切

3. 消滅時効がある(2年)

4. 本人死亡後でも相続人が申請できる

の4点です。

まず1についてですが、社会保険はいわゆる申請主義なので、申請手続が必要になってきます。

ただ、後期高齢者医療保険や介護保険においては、対象者が高齢であることなどから、毎回の申請手続までは必要とせず、初回のみの手続きでよいという取扱いもあります(ありがたいですね)。

成年後見人としては、申請手続きを失念することなく、速やかに手続きを行わなければいけません。

申請手続きを怠ると、3にあるように消滅時効の問題がありますので、消滅時効にかかってしまえば、本人への損害を与えてしまう恐れもあります。

くれぐれも注意しましょう。

そのためにも、2にあげたように、郵便物のチェックはとても重要です。

筆者の経験では、この郵便物を本人の家族が受領し、給付金を自分の口座に振り込ませようとしたことがありました。

そのようなことのないように、成年後見人への送付先変更の届出を早めに行うことをおすすめします(詳しくは、「法律事務職向 覚えておきたい社会保険の基礎知識 ~成年後見事務編 その1~」をお読みください)。

また、3にあるように消滅時効の問題がありますが、これは逆にいえば、消滅時効にかかるまでは遡って申請できるということでもあります。

特に成年後見就任時には本人が申請忘れをしているようなケースがないか、保険者に問い合わせをして確認することをおすすめします。

申請手続き済みの人は、通帳に入金履歴が確認されるはずです。

筆者の経験上、在宅独居での介護保険利用者の場合には特に申請手続き忘れが見受けられますので、要注意です。

実際に、市に問い合わせたところ2年分遡って給付を受けることができたケースもありました(残念ながら一部時効にかかってしまったのですが、成年後見人就任の前のことはさすがにできることにも限界があります)。

4については、本人が亡くなった場合、一定期間が経過して保険者から成年後見人に2の通知が来ることもありますので、速やかに相続人に引き継ぐ作業が必要になります。

また、親が亡くなった場合など本人が相続人となって手続きをする場合もあります(この場合にも3の消滅時効に気をつけて、成年後見人として直ちに手続きを行いましょう)。

 

「高額療養費」支給申請は「限度額適用・標準負担額減額認定証」を提示していても必要なときがあります

医療費が高額になったときのために、公的医療保険には高額療養費制度があります。

制度の詳細は省略しますが、簡単にいえば、同じ月内に自己負担限度額を超えて自己負担(一部負担)分を支払ったときは、超えた分の払い戻しが受けられる制度です。

ただ、窓口で自己負担分をいったん支払った後に高額療養費の支給を受けるのでは迂遠ですので、窓口負担を軽減するために「限度額適用・標準負担額減額認定証」の交付を受けた方がよいというお話は、前回させていただきました(詳しくは「法律事務職向 覚えておきたい社会保険の基礎知識 ~成年後見事務編 その3~」をお読みください)。

では、「限度額適用・標準負担額減額認定証」を提示していれば、高額療養費の支給申請は一切しなくてもよくなるのでしょうか。

実は、必ずしもそういうわけではありません。

たとえば、複数の医療機関を利用している場合や家族と合算して高額療養費の対象になる場合などがありうるからです。

筆者の経験上では、精神科の病院に入院している人が、歯の治療を受けるために歯科を受診するような場合、「限度額適用・標準負担額減額認定証」を提示していても、高額療養費の申請が可能となるケースがあります(その場合、歯科にかかった自己負担分が全額給付されることもあります)。

なお、高額療養費の申請手続きには領収証を提示することを求められるのですが、本人が手許金で支払っていたような場合領収証を紛失しているようなこともあるので、できるだけ医療費の支払い管理は成年後見人で行うようにして、どうしても本人が行う場合には領収証を紛失しないように注意しておきましょう(どうしても領収証がない場合には保険者に相談すれば対応してくれることもありますが、領収証があればスムーズに手続きが行えるのは確かです)。

 

介護保険高額介護(介護予防)サービス費支給は「介護保険負担限度額認定証」とは別ものと考えておきましょう

介護保険高額介護(介護予防)サービス費支給についても、制度の詳細は省略しますが、簡単にいえば、同じ月に利用したサービスの利用者負担合計額(同じ世帯に複数の利用者がいる場合には世帯合計額)が高額になり、一定の上限額を超えたときは、申請により超えた部分が「高額介護(介護予防)サービス費」として後から支給されるという制度です。

ここで注意が必要なのは、この介護保険高額介護(介護予防)サービス費は、利用者が負担する居住費、食費、日常生活費等は対象外だということです(福祉用具購入費、住宅改修費の利用者負担や支給限度額を超えたサービス費も対象外です)。

前回のお話を思い出していただきたいのですが、介護保険には介護保険負担限度額認定制度があって、特養などの対象施設に入所する際には、要件を充たす人は「介護保険負担限度額認定証」の交付を受けるべきだとお話ししました((詳しくは「法律事務職向 覚えておきたい社会保険の基礎知識 ~成年後見事務編 その3~」をお読みください)。

そして、「介護保険負担限度額認定証」を提示することによって、入所中の食費と居住費等の負担軽減を受けることができるとお話したと思います。

つまり、介護保険高額介護(介護予防)サービス費は利用者負担額が一定の金額を超えた場合に差額が給付されるものなのに対して、介護保険負担限度額認定は対象施設入所中の食費や居住費が減額される制度だということなのです(そもそもの対象が異なるということです)。

筆者が法律事務職だったころには、この二つの制度がどのように違うのかよくわからずに混乱していたのを覚えています。

ここで覚えておいてほしいポイントは、

1. 介護保険負担限度額認定証を提示した場合でも、介護保険高額介護(介護予防)サービス費の支給申請は別途必要になるということ

2. 要件を充たさず(たとえば貯金が1000万円を超えていて資産要件にひっかかる場合など)介護保険負担限度額認定が受けられない人でも、介護保険高額介護(介護予防)サービス費の支給を受けられる場合があるということ

です。

また、2と関連するのですが、有料老人ホームなど介護保険負担限度額認定の対象外の施設入所の場合や、在宅の場合であっても、要件を充たせば、介護保険高額介護(介護予防)サービス費の支給を受けられるので、この点にもご注意ください。

 

「高額介護合算療養費・高額医療合算介護(予防)サービス費」の支給申請は原則1年に1回

高額介護合算療養費・高額医療合算介護(予防)サービス費制度についても、詳細は省略しますが、簡単にいえば、公的医療保険と介護保険の両方のサービスを利用している世帯で、1年間に支払った両方の自己負担額を合算した額が、所得区分に応じた自己負担限度額を超えた場合、申請により、その超えた金額が支給される制度です。

ここでいう自己負担額は高額療養費や高額介護(介護予防)サービス費等を差し引いたあとのものですので、高額療養費や高額介護(介護予防)サービス費の支給を受けていても、さらに高額介護合算療養費・高額医療合算介護(予防)サービス費の支給が受けられる場合があるということです。

また、この高額介護合算療養費・高額医療合算介護(予防)サービス費は、基準日が設定されており、基準日より1年前までのものが対象となります(たとえば、2017年8月1日から2018年7月31日まで)。

つまり1年に1回、申請手続きを行うということです。

1年に1回ですので、つい通知文書を見落としてしまうなどのうっかりミスがおきないとも限りません。

いつもの支給通知だと思っていたら、高額介護合算療養費・高額医療合算介護(予防)サービス費の通知だったなんてこともあります。

成年後見人としては、通知文書管理を徹底して、うっかりミスが起きないように努めたいところです。

 

さいごに

今回は、成年後見業務でよく行う3つの社会保険の給付申請手続きについてまとめてみてきました。

これ以外にも、たとえば、本人の親が亡くなったような場合に葬祭費支給申請を行ったり、まれにですが健康保険の被保険者の障害者さんが療養で働けなくなった場合に傷病手当金の支給申請を行うようなこともなくはないですが、おおむね成年後見業務では、ここでみた3つの申請手続きをおさえておけば、法律事務職員としての社会保険知識としては十分ではないかと思います。

給付申請は本人の「お金」に直接的にかかわることですので、本人に損害を与えないように細心の注意を払って対応していただければと思います。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

<スポンサーリンク>



あわせて読んでいただきたい関連記事

法律事務職向 覚えておきたい社会保険の基礎知識 ~相続事務編~

法律事務職向 覚えておきたい社会保険の基礎知識 ~成年後見事務編 その1~

法律事務職向 覚えておきたい社会保険の基礎知識 ~成年後見事務編 その2~

法律事務職向 覚えておきたい社会保険の基礎知識 ~成年後見事務編 その3~

法律事務職向 覚えておきたい社会保険の基礎知識 ~交通事故編 その1~

前後の記事

前の記事:「第12回 対話型勉強会」のお知らせ

後の記事:成年後見業務でいつも困ってしまうこと