法律事務職向 覚えておきたい社会保険の基礎知識 ~成年後見事務編 その1~

2019.05.07

成年後見事務で覚えておきたい社会保険の基礎知識 その1

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本です。

筆者が法律事務職として働いているときにはよく知らなかった社会保険の基礎知識について、法律事務職の皆さま向けにまとめてみたいと思います。

今回は、成年後見事務編その1です。
ここでは、社会保険の送付先変更手続きを中心に、筆者が実務上経験したこと交えてをお話ししたいと思います。
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送付先変更手続きを忘れずに

成年後見人の就任が確定したら、年金や医療保険(国民健康保険や後期高齢者医療保険)、介護保険の保険者などに郵便物などを本人ではなく成年後見人宛てに送ってもらえるように送付先変更の手続きをするようにしましょう。

年金額の把握や保険料の管理、各種給付金の申請など、保険者などから送付される文書は大切な情報です。

本人に直接送付されると紛失などのおそれもあり、必要な手続きの機会を喪失してしまう可能性もありますし、それによりもらえるはずの給付金が消滅時効にかかってしまってもらえなくなったとすれば、成年後見人の責任を問われる可能性もあります。

本人や同居の家族がどうしても自分たちで管理したいという意向をもっておられるなら話は別ですが、成年後見人が事情を把握し迅速に対応するためにも送付先変更はしておいた方がよいと思います(まず成年後見人が受け取って、必要な手続きが終わったら本人や家族に渡すということでもよいのではないかと思います)。

筆者が経験した事案では、給付金の書類を受け取った家族が自分の口座に入金しようとしていたようなケース(委任状を本人に作らせたようです)や、必要な書類の提出が遅延したため年金支給が一時的に差し止めになったようなケース(ある月に障害年金が入金されていなかったので年金事務所に確認したところ、書類の未提出が判明しました)もありました。

 

医療保険や介護保険の送付先変更手続き

国民健康保険や後期高齢医療保険といった医療保険や介護保険の場合には市区役所など行政機関の窓口で送付先変更の手続きが行えます。

手続きの書式や方法は市区役所ごとに異なっていて、これらの送付先変更の手続きを1枚の書式で一括して行えるところもあれば、各窓口に別々に行わないといけないところもあります(送付が必要な書類毎にチェックをする場合もありますが、特段の事情がなければ全部の欄にチェックをしておいて差し支えはないと思います)。

送付先変更を行うことで、被保険者証(いわゆる保険証)そのものや、保険料の額の確認や支払の管理、給付請求などに必要な書類が成年後見人宛てに送られるようになります(介護保険の場合には更新手続の書類も重要です)。

なお、この手続きの際に、住民税や固定資産税などの送付先変更の手続きもやっておくとよいでしょう。

これに対して、本人さんが就労をしていて会社員などが入る医療保険(健康保険)の被保険者である場合(まれに成年後見の場合でも就労している人はいらっしゃいます)や家族の健康保険の被扶養者になっているような場合などには、送付先変更の手続きは特に必要ありません(必要な手続きは事業主を通じて行うのが原則です)。

ですので、本人が家族の健康保険の被扶養者になっているのかどうかは、かならず確認するようにしておきましょう。

 

国民健康保険や後期高齢者医療保険には扶養制度はありません

「扶養」という言葉が出てきましたので、これに関連して覚えておいてほしい社会保険の基礎知識があります。

それは、国民健康保険や後期高齢者医療保険には「扶養」という制度はないということです(介護保険にも扶養という制度はありません)。

たまに、国民健康保険や後期高齢者医療保険の場合でも、「世帯主の扶養に入っている」と誤解している人がいますので、注意しておきたいところです。

扶養に入る場合とそうでない場合との大きな違いは保険料です。

会社員などが入っている健康保険であれば、「家族を扶養に入れる」という手続きをとれば、扶養に入った家族(被扶養者)に保険料は発生しません(しかも、ほとんどのサービスが受けられます)。

このように扶養制度はかなりお得なものなのですが、そのために扶養に入るには、被保険者との関係性だけでなく、同居の有無や収入の額などにより、その要件は厳格に決められています。

これに対して、国民健康保険や後期高齢者医療保険では、被扶養者になる(=保険料が発生しない)という制度はないので、被保険者それぞれに保険料が算定されることになります(なお誰がその保険料を支払わなければならないかについては、別の機会にお話しできればと思っています)。

たとえば、障害のあるAさんが会社員である親Bさんの健康保険の扶養に入っている場合には、Aさんの保険料は発生しませんが(そのためにBさんの保険料が上がることもありません)、Bさんが会社員をやめてAさんもBさんも国民健康保険に入った場合には、AさんBさんそれぞれに保険料が計算されるということです。

 

有期認定の障害年金の送付先変更手続きはお早めに

次に、年金の場合ですが、公的年金の場合の送付先変更の手続きの書式は全国統一です。

しかし、受給している年金の種類で窓口が若干異なります。

基礎年金(国民年金)や厚生年金を受給している場合(併給の場合も)には年金事務所で手続きを行うことができますし、基礎年金(国民年金)だけを受給している場合であれば、市区役所でも手続きを行うことができます。

送付先変更を行うことで、年金振込通知書や源泉徴収票(老齢年金の場合)などの書類が成年後見人宛てに送られるようになります。

これらの書類は本人の収入を確認するうえで重要な役割を果たします(裁判所への報告の際にこれらの書類の写しを添付することもあります)。

また、障害年金(障害基礎年金や障害厚生年金)の場合には、一定期間毎に「障害状態確認届」(診断書)などの書類を出す必要があるケースもあります(こういうケースを有期認定といいます)。

有期認定の場合に必要な書式は年金機構から郵送されてきますので、成年後見人としてはしっかりとした管理が必要になってきます(そのためにも送付先変更手続きは早めに行っておいた方がよいでしょう)。

書類の提出が遅れると年金の支給が一時的に差し止めになる場合もありますので、注意が必要です(差し止め後であっても、ちゃんと書類を提出して支給停止にならなければ、差し止められた部分もまとめて支給されますが、5年の消滅時効の問題もあるので、できるだけ速やかに書類を提出してください)。

また、企業年金(いわゆる3階部分)を受給している場合には、それぞれの機関で手続きを行ってください(郵送で対応してくれる場合が多いですので、それぞれの機関にご確認ください)。

企業年金の場合にも「現況届」が必要になるケースもありますので、送付先変更手続きにより書類の管理が求められます。

 

さいごに

正直なところ、成年後見業務の開始時には色々とやることが多いので、社会保険の送付先変更手続きは、金融機関への届出などと比べると、つい後回しにしてしまいがちな手続きだと思います。

その気持ちはよくわかるのですが、必要な書類を受け取れなかったために、保険料の支払が遅れれば督促料などが発生することもありますし、年金が一時差し止めになれば収入がストップするといった不利益も発生します。

損害額としては大きくないかもしれませんが、本人や関係者との信頼関係に与える悪影響もあります。

こういった細かい事務手続きこそ、法律事務職としては、迅速かつ正確にこなして、弁護士の先生をアシストできるようにしたいものです。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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