法律事務職向 覚えておきたい社会保険の基礎知識 ~交通事故編 その4~

2019.09.15

社会保険労務士と学ぶ 交通事故事務で覚えておきたい社会保険の基礎知識 後遺障害①(後遺障害に関係する社会保険の内容)

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社会保険手続を中心に弁護士業務や成年後見業務をサポートしている社会保険労務士の徳本博方です。

筆者が法律事務職として働いているときにはよく知らなかった社会保険の基礎知識について、法律事務職の皆さま向けにまとめてみたいと思います。

今回は、交通事故編その4です。

今回からは、いわゆる後遺障害に関係する社会保険についてお話していきたいと思います。

まずは、後遺障害に関係する社会保険にはどのようなものがあるのかについてご紹介していきます。

後遺障害に関係する社会保険は主に公的年金(国民年金や厚生年金)の障害年金(障害基礎年金、障害厚生年金)と労災保険の障害(補償)給付です。

また、休業損害のところで問題になった健康保険の傷病手当金や労災保険の休業(補償)給付・傷病(補償)年金との関係が問題になることもありますので、これらも併せて考えていきましょう。

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 損害賠償と社会保険給付の関係

後遺障害が生じた交通事故の損害賠償では、「症状固定日」を基準として同日までが治療費や休業損害、入通院慰謝料の問題、同日後が逸失利益、後遺障害慰謝料の問題に分けて計算するのが一般的です(詳しくは弁護士の先生にご確認ください)。

それらのうち、治療費と休業損害に対応する社会保険給付に関連する問題は既にみてきました。

簡単におさらいすれば、

治療費:健康保険や労災保険の療養の給付など

休業損害:健康保険の傷病手当金、労災保険の休業(補償)給付・傷病(補償)年金

が対応しています。

 

これに対して、後遺障害の逸失利益に対応する社会保険給付は、

健康保険:なし(症状固定日の前後関係で傷病手当金が発生する可能性がある)

労災保険:障害(補償)給付

公的年金:障害年金(症状固定日の前後関係で休業損害に対応することもある)

のように対応しています。

また、後遺障害の将来の介護費のような損害に対しては労災保険の介護(補償)給付がありますが、少し細かいので、今回は逸失利益に対応した社会保険給付について考えていきます。

なお、社会保険給付は慰謝料(入通院・後遺障害ともに)に対応するものではないので、その点は損益相殺(充当処理)の際には要注意です。

 

これらの各種社会保険の関係を簡単にまとめると次の図1のようになります。

この図1では初診日の1年6月経過日以降に症状固定日がくる設定にしていますが、症状固定日の前後によって他にもパターンが考えられます(詳しくは次回述べます)。

なお、前回のおさらいですが、労災保険が使えるときには健康保険は使えないのが原則ですので、健康保険の傷病手当金と労災保険の休業(補償)給付が併給されることはありません。

 

どれくらいの給付が、いつからいつまでもらえるのか

上記の各種社会保険給付の支給の内容とそれがいつからいつまでもらえるものなのかをまとめてみましょう。

 

【健康保険の傷病手当金】

支給額:1日につき、傷病手当金の支給を始める日の属する月以前の直近の継続した12月間の各月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額の3分の2に相当する額

支給開始日:療養のため労務に服することができなくなった日から起算して継続した3日を経過した日(=待機期間経過後4日目から支給開始

支給終了日:支給開始日から起算して1年6月を限度(それまでに症状固定すればその後は不支給。ただし「症状固定」かどうかは総合的に判断する)

 

【労災保険の休業(補償)給付】

支給額:1日につき、休業給付基礎日額の60%(+20%の休業特別支給金)

支給開始日:療養のため労働することができず賃金を受けない日の第4日目から支給開始(待機期間の3日は連続している必要はない)

支給終了日:治るまで=症状固定するまで(期限はない) ※ただし療養開始後1年6月経過日(またはそれ以降)に傷病(補償)年金が職権で支給される場合がある

 

【労災保険の障害(補償)給付】

支給額:

 1~7級は障害(補償)年金(給付基礎日額313日分~131日分)

 8~14級は障害(補償)一時金(給付基礎日額503日分~56日分)

この他に障害特別支給金や障害特別年金、障害特別一時金がある

支給期間:

障害(補償)年金(1~7級):支給要件に該当することになった日の翌月から支給開始(障害の程度に変更がなければ期限はない=終身支給される)

障害(補償)一時金(8~14級):一時金として支給される

 

【公的年金の障害年金】

支給額(2019年4月現在)

障害基礎年金:

 1級 975,125円+(子の加算)

 2級 780,100円+(子の加算)

障害厚生年金:

 1級 (報酬比例の年金額) × 1.25 + (配偶者の加給年金額)

 2級 (報酬比例の年金額) + (配偶者の加給年金額)

 3級 (報酬比例の年金額)

 障害手当金 (報酬比例の年金額)×2

支給期間:

 1~3級:障害認定日(初診日から1年6月経過日または症状固定日のどちらか早い方)の翌月から支給開始(障害の程度に変更がなければ期限はない=終身支給される)

障害手当金:一時金として支給される

 

症状固定日の問題

後遺障害の生じた交通事故の損害賠償は「症状固定日」を基準にその前後で損害の種類が異なりますが、社会保険給付は微妙にずれが生じることがあります。

特に公的年金の障害年金については、前述のとおり「障害認定日」という独自の制度を用いていますので、必ずしも「症状固定日」と一致するとは限りません。

また、損害賠償の症状固定日と社会保険給付の症状固定日が必ずしも一致しないという問題もあります(損害賠償と労災保険の症状固定日は比較的類似していますが、健康保険や障害年金の症状固定日とは異なる認定がなされる場合があります)。

交通事故の実務をやっていると、損害賠償上は症状固定をしていても、その後も健康保険を使って療養を行っているようなケースに出くわすことがあります。

弁護士の先生によっては「症状固定後の治療は、ご自分の健康保険を使って自己負担になります」と説明されることもありますが、これはよく考えたら矛盾しているようにも思えます。

なぜならば、健康保険は症状固定後は使えないのが原則だからです。

ただ、これは損害賠償上の症状固定と健康保険上の症状固定は必ずしも一致しないと考えれば矛盾はしません。

たとえば、健康保険の傷病手当金に関しては、症状固定後は「療養のため」といえないので、不支給となるのが原則ですが、医学的にみて症状固定となれば当然に「療養」の必要がなくなるとするのは相当ではなく、社会通念や、制度の趣旨・目的に鑑み、総合的に判断するとした裁決もあります。

また、障害年金の「障害認定日」にしても、初診日から1年6月を経過する前に症状固定となった場合には、症状固定日=障害認定日となるはずですが、たとえば高次脳機能障害のような場合には、損害賠償上の症状固定日が初診日から1年6月経過日より前にあったとしても、1年6月経過日を障害認定日とすることもあります。

法律事務職のみなさんは交通事故の「症状固定日」には慣れていると思いますが、その感覚を当然に社会保険給付に当てはめると、思わぬ勘違いに陥ることもありますので要注意です。

 

さいごに

今回は後遺障害に関係する社会保険給付の概要をご紹介しました。

次回は、これらの社会保険給付が相互にどのような関係になるのか(併給の可否や調整の問題について)みていきたいと思います。

前述の症状固定の問題やそもそもの支給の始期や終期が各社会保険で微妙に違うという制度上の問題もあって、これらの社会保険が併給関係になることも少なくありません。

まずは細かいところは置いておいて、全体像を把握してもらえればと思っています。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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