いまだから知りたい休業手当と傷病手当金 誰がどんなときにいくらもらえるの?

2020.03.16

休業手当と傷病手当金の違いを社会保険労務士がわかりやすく解説

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回は会社員が会社を休んだときの所得補償のお話です。

最近は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響もあって、にわかに注目が集まっている話題だと思います。

投稿日現在、厚生労働省のホームページにも「新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)令和2年3月11日時点版」が設けられ、「2 労働基準法における休業手当、年次有給休暇」において休業手当や傷病手当金のことにふれられています(くわしくはこちら)。

とくに、問1では新型コロナウィルスに感染して休む場合の質問が設定されていて、そこでは「都道府県知事が行う就業制限により労働者が休業する場合には、一般的には休業手当は支払われないが、要件を充たせば被用者健康保険(健康保険など)の傷病手当金が給付される」との趣旨の回答があります。

そこで今回は、休業時の所得補償について「誰が、どんなときに、いくらもらえるのか」を休業手当と傷病手当金を例に比べてみようと思います。

なお、ここでの傷病手当金は、全国健康保険協会(協会けんぽ)の健康保険のものを取り上げていますので、健康保険組合(組合健保)などの被保険者の場合にはご加入の保険者のホームページなどをご参照ください。
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そもそも休業手当と傷病手当金ってなに?

休業手当と傷病手当金の制度の概要をご紹介しましょう。

  • 休業手当:会社の都合(使用者の責に帰すべき事由)で休業した場合に、会社(使用者)が社員(労働者)に支払う手当(労働基準法26条)
  • 傷病手当金:社員(被保険者)が病気やケガの治療(療養)のために、仕事ができなくなった場合に、保険者から支給される保険給付(健康保険法99条)

ここで注意したいのは、休業手当は会社が社員に直接支払うものですが、傷病手当金は保険者(協会けんぽなど)が被保険者に給付するものですので、お金を払う主体が異なっています。

つまり、休業手当は会社の負担ですが、傷病手当金は健康保険の保険給付として行われる(会社の直接の負担なし)ということです。

 

誰がもらえるの?

どのような人が休業手当や傷病手当金をもらえるのかをみてきましょう。

  • 休業手当:労働者(職業の種類を問わず、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者。労働基準法9条)
  • 傷病手当金:被保険者(健康保険に加入している本人)

休業手当がもらえる労働者は、正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトなども含みます。

これに対して、傷病手当金は健康保険に加入している本人にしか支給されません(パートタイマーやアルバイトは健康保険に加入できないケースが多いので、その場合には対象から外れてしまいます)

 

どんなときにもらえるの?

どのようなときに休業手当や傷病手当金はもらえるのかをみていきましょう。

  • 休業手当:使用者の責に帰すべき事由による休業があったとき(企業の経営者として不可抗力と主張できない一切の場合)
  • 傷病手当金:①業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること、②仕事に就くことができないこと、③連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと、④休業した期間について給与の支払いがないこと、の①~④をすべてみたしたとき

休業手当が発生する「使用者の責に帰すべき事由」は不可抗力でない場合を広く含んでいるので、業績不振による休業の場合だけでなく、親工場の経営難から下請工場が資材や資金を調達できなくなって休業した場合なども広く該当します。

そうだとすると、新型コロナウイルスの感染防止のために、会社が自主的に休業するような場合には、「使用者の責に帰すべき事由」に該当するといって差し支えないでしょう。

しかし、社員が新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由」には該当しないとされています(新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)令和2年3月11日時点版 2問1参照)。

ましてや、微熱などの症状がある社員が、万が一の感染拡大を防止するために自主的に休業するような場合は「使用者の責に帰すべき事由」には該当しません(新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)令和2年3月11日時点版 2問2参照)。

 

これに対して、傷病手当金は、①業務外の事由による病気やケガの療養のための休業の場合に支給されますので、社員が新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により休業する場合も該当すると考えられます(上記①~④の要件をすべて充たす必要があります)。

また、微熱などの症状がある社員が、万が一の感染拡大を防止するために自主的に休業するような場合(かつ結果として感染していなかった場合)については、②仕事に就くことができないことという要件が問題になります。

傷病手当金は自宅療養の場合でももらえますが、これは症状次第というほかありません。

とくに、軽微な症状にすぎない場合(かつ感染していない場合)に、②仕事に就くことができないといえるのかという点は、難しいところもでてくるでしょう(このあたりは保険者に柔軟に対応してほしいところですが)。

 

なお、新型コロナウイルスへの感染が業務災害や通勤災害と認定された場合には、労災保険の休業(補償)給付が支給されるので、健康保険の傷病手当金は支給されません。

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いくらもらえるの?

休業手当や傷病手当金はいくらもらえるのかをみてきましょう。

  • 休業手当:平均賃金の6割以上
  • 傷病手当金(1日):支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額÷30×2/3

休業手当の計算の基礎となる「平均賃金」とは、事由の発生した日以前の3ヶ月間の賃金の総額をその期間の総日数(=暦日数)で割った金額をいいます。

賃金の総額には、時間外・深夜や休日の割増賃金や通勤手当などの各種手当も含まれますが、3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)は含まれません。

 

これに対して、傷病手当金の計算の基礎には「標準報酬月額」を用います。

標準報酬月額とは、被保険者が事業主から受ける毎月の給料などの報酬月額に基づいて、区切りのよい幅で区分したものです(健康保険は第1級の5万8000円から第50級の139万円までの全50等級に区分されています)。

標準報酬月額には、賞与の額は反映されていませんし、いったん決まれば原則1年間は変わらないので、直近の割増賃金なども必ずしも反映されていません。

 

具体的な金額をみてみましょう。

たとえば、継続する12ヶ月間の標準報酬月額の平均が20万円の人が、3ヶ月間(暦日数91日)の賃金の総額が66万円だった場合、

  • 休業手当(1日):66万円÷91日×60%=4352円(端数処理済み)以上
  • 傷病手当金(1日):20万円÷30×2/3=4447円(端数処理済み)

となります。

 

なお、休業手当は、休日(労働契約上の労働義務のない日)には支払われません(休日に休むのは、使用者の責に帰すべき事由ではないからです)が、傷病手当金はいわゆる公休日にも支給されます。

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さいごに

この記事は、2020年3月15日時点の情報に基づいて書かれています。

政府は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために小学校等が臨時休業した場合等に、その小学校等に通う子の保護者である労働者に有給休暇(法定の年次有給休暇を除く)を取得させた企業に対する助成金を新設する旨を公表しています。

また、新型コロナウイルスの影響などで休業して休業手当を払う企業に対して、雇用調整助成金を拡充する政策も打ち出しています。

これらの政策は一定の評価ができるものだと思います。

しかし、今回みてきたように、微熱などの症状がある会社員が、万が一の感染拡大を防止するために自主的に休業するような場合には、休業手当も傷病手当金(症状にもよりますが)も難しいのが現状です。

このような場合には、会社に有給の病気休暇制度があればそれを使い、なければ社員の年次有給休暇を使うかしかありません。

このような場合の所得補償については、今後の政府の新たな対策が待たれるところですので、注視していきたいと思っています。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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