給料もらうと障害年金は減らされるの?【年金の常識13】

2020.03.09

障害年金と所得制限について社会保険労務士が解説

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士である筆者が受けた相談や質問から、「いまさら聞けない 年金の常識」として、意外と間違えやすい年金の仕組みを回答していきます。

第13回目の質問は、障害年金の受給者が給与所得などの所得がある場合に障害年金の受給額が減額されるのかという問題です。

障害年金に所得制限はあるのでしょうか。

これは何度か聞かれた質問なのですが、いくつかの似たような制度と混同してしまうところですので、一度まとめたおいた方がよいと思って、今回のテーマに選びました。

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質問「障害厚生年金と障害基礎年金の2級の受給者です。就職が決まったのですが、給料をもらい始めると、障害年金の受給額は減らされるのですか?」

回答:障害厚生年金(+障害基礎年金)の受給者の場合、給料などの収入や所得があっても、そのことだけで受給額が減らされることはありません。ただし、障害の原因になった傷病の種類によっては、就労していることで、等級が下がったり支給停止になる可能性はあります。

なお、国民年金の「20歳前傷病による障害基礎年金」の場合には、受給者に一定の所得があると、一部または全部が支給停止となります。

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【解説】

「仕事をしてると年金が減らされる」という話を聞いたことはないでしょうか?

この内容自体も不正確なのですが、この言葉が独り歩きをして、障害年金の場合にも、仕事をして一定の収入や所得があれば、障害年金の受給額が減額されると誤解されている人が意外といらっしゃいます。

結論からいえば、障害厚生年金(+障害基礎年金)の場合にはそのような制度はありません。

では、なぜこのような誤解が生じるのか。

筆者は何人かの人から同じような質問を受けたことがあるのですが、誤解が生じた理由をよくよく聞くと、次の3つの理由があるように思います。

それは、

  • 老齢厚生年金の「在職老齢年金」制度と混同している
  • 国民年金の「20歳前傷病による障害基礎年金」の所得制限と混同している
  • 生活保護の収入認定と混同している

の3つです。

 

まず、老齢厚生年金の「在職老齢年金」の制度ですが、受給している老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額が一定の金額を超えた場合に、その金額に応じて年金額が支給停止となる制度です。

在職老齢年金は、60歳台前半と65歳以後で計算方法が異なりますが、ここでは詳しくはふれないでおきます。

この在職老齢年金の制度こそが、「仕事をしてると年金が減らされる」という話の元ネタだと思われます。

いずれにしてもこれは、「老齢」厚生年金の制度であって、「障害」厚生年金の制度ではありません。

なお、国民年金の「老齢」基礎年金にも在職老齢年金の制度はありません。

 

次に、国民年金の「20歳前傷病による障害基礎年金」の所得制限ですが、これは、20歳前に初診日のある傷病が原因で障害を負って、障害基礎年金を受給している人に対するものです。

「20歳前傷病による障害基礎年金」の所得制限は、扶養親族の数にもよりますが、たとえば1人世帯(扶養親族なし)の場合、所得額が360万4000円を超えると年金額の2分の1が支給停止となり、462万1000円を超えると全額支給停止となります。

20歳前に初診日のある傷病では国民年金保険料を支払っていないので、このような所得制限が設けられているのです。

これに対して、20歳以後に初診日がある傷病の場合には、保険料を支払っていますので、所得制限はありません。

また、20歳前に初診日のある傷病であっても、保険料を支払っているのであれば、この所得制限は受けません。

20歳前に保険料を支払う場合というのは、20歳前に厚生年金の被保険者である場合です。

高校卒業後すぐに就職した場合のように、20歳前に厚生年金の被保険者になっていれば、20歳前の厚生年金の被保険者期間に初診日があっても、所得制限は受けません(=給料をもらっても障害年金は減らされません)。

 

最後は、生活保護の場合です。

生活保護の場合、給料のような収入は申告する必要があって、収入認定に応じて生活保護費が減額されることがあります。

生活保護は、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することが前提となっていますので、給料が収入として認定されて、その分が減額されるのも納得できるところです。

しかし、障害年金は社会「保険」の給付です(保険料を払っていない「20歳前傷病の障害基礎年金」を除きます)。

障害年金はあくまでもご自身が納めた保険料が前提ですので(そのために「保険料納付要件」というものがあり、保険料を納めていない人は障害年金をもらえない場合があります)、その点において生活保護の制度とは異なっています。

なお、障害年金がもらえることで、生活保護費が減らされることはありますので、その点も混同しないようにしてください。
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筆者の経験上、これら3つの制度と混同して、「仕事をしてると障害年金が減らされる」と誤解している人がいらっしゃいました。

20歳前傷病による障害基礎年金の場合を除いて、障害厚生年金にも障害基礎年金にも所得制限はありませんので、誤解のないようにしたいところです。

 

なお、障害の種類によっては、給料の所得や収入額というよりも、「就労をしている」という事実が原因で、障害年金の受給額が減らされる(またはもらえなくなる)場合もありえます。

「就労をしている=障害の程度が軽くなった」と認定されてしまい、等級が下がったり、支給停止になる可能性があるのです。

この話題は所得制限の話から逸れますので、ここでは深くはふれませんが、精神障害などの更新の際には気をつけたいところではあります。

 

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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