障害年金は自分で申請できる【そのシンプルな理由】
2020.08.23
社会保険労務士・オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。
筆者は、障害年金の専門家(報酬をもらって障害年金申請を代理することのできる国家資格)である社会保険労務士として、
- できるだけお金をかけたくないから自分で障害年金を申請したいけど、大丈夫だろうか
- 自分で障害年金を申請したいけど、どんな準備をしたらいいのか知りたい
- 外出するのもしんどいので、障害年金の申請について、できるだけネットや書籍で調べておきたい
このようなお悩みやご要望をお聞きすることがあります。
そこで、今回は、障害年金の申請(請求)について解説していこうと思います。
最初に簡単な自己紹介をします。
筆者は、17年以上法律事務所職員(パラリーガル=弁護士の補助業務)として働いていて、2011年から現在までの9年間は高齢者や障害のあるひとのサポート(成年後見業務を行う法人の事務局長)を行っています。
また、権利擁護型の社会保険労務士として、弁護士の先生と協働して、障害のあるひとやそのご家族の困りごとについて、相談会を行ったりもしています(年金相談と家計相談を主に担当しています)。
もちろん、そういったひとたちからご依頼をいただき、障害年金申請(請求)や更新手続き、額改定請求などの代理申請を行うこともあります。
直近でお受けした事例をあげると、本当は障害年金申請をできたのにそれに気づいていなかったひとの代理申請を行って、過去3年超分の障害基礎年金300万円以上の受給決定をえることができました。
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そういった障害年金の申請に携わるものの一人としていわせていただきます。
結論からいいますね。
障害年金は自分で申請できます。
ただし、いくつか準備しておかなければいけないポイントもあります。
そこで、本記事では、
- 障害年金は自分で申請できる【そのシンプルな理由】
- 障害年金を申請する前に準備しておくべき3つのポイント
- 障害年金を申請する前に参考にしていただきたい書籍【5選】
といった項目をお伝えしていこうと思います。
なお、障害年金については「請求」と表記する方が正確です。
しかし、「申請」という表記が一般的に使われていることもありますので、本記事ではわかりやすさを優先して、「申請」と表記することにします。
本記事の情報は投稿日(2020.8.23)現在のものです。
障害年金は自分で申請できる【そのシンプルな理由】
結論を繰り返しますが、障害年金は自分で申請ができます。
委任状があれば、ご家族でも申請ができます(ただし、報酬をもらって代理できるのは、社会保険労務士や弁護士などに限定されています)。
理由はシンプルです。
障害年金の等級認定審査は、国(ないし日本年金機構)の定める法律や基準に従って、医師が作成した診断書等に基づいて客観的に行われるからです。
社会保険労務士や弁護士であっても、最終的な医師の診断結果には干渉できません。
黒を白にするような裏技や抜け道はないと思ってください(ただし、社会保険労務士などの専門家がお手伝することで、白を黒にしないようにすることはできると思っています)。
また、制度や手続き面での相談は、年金事務所や行政機関等の窓口で受け付けています。
公的機関での支援体制もちゃんと準備されているのです。
実際のところ、筆者がこの9年間にかかわった成年後見業務のうち9割ちかくのひとが、自分やご家族で申請して障害年金を受給しておられました(残りの1割程度のひとが、実際には障害年金がもらえるのに気づいていなかったり、障害の程度が悪化して等級が上がっているのに気づいていなかったケースでした)。
このように障害年金は自分で申請ができるのです。
ただ、少し気を付けないといけないこともあります。
実際に自分やご家族で申請して障害年金を受給できたひとに話を聞くと
- 「年金事務所や行政機関の年金相談窓口に何度も足を運んでたいへんだった」
- 「年金事務所や行政機関の年金相談窓口でいろいろ聞かれたけど、記憶があいまいでうまく答えられなかった」
- 「お医者さんに診断書を書いてもらうのに、どうしていいのかわからなくて戸惑った」
というような経験をされたひとが少なからずいらっしゃいます。
障害年金の申請は、人生でそう何度も経験することではありません。
スムーズに手続きを行うには、それなりの情報収集と準備が必要です。
多分、この記事をご覧の皆さまもそういった情報収集をされているところなのではないでしょうか。
そこで、次は、障害年金を申請する前に準備しておくべポイントを3つにしぼってお伝えします。
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障害年金を申請する前に準備しておくべき3つのポイント
基本的な情報を知る
障害年金の制度や申請手続といった基本的な情報を知らないひとは、まずここから準備しましょう。
障害年金を受給しているひとは日本の人口約1億2000万人のうちの220万人未満です(平成30年度 厚生年金保険・国民年金事業年報 参照)。
割合にすれば2%未満のレアケースということです。
なので、障害年金の制度や申請手続といった基本的な情報は、知らなくて当たり前なのです。
しかし、何も知らないまま動き始めるとどうなるでしょうか。
基本的な情報を得るために、何度も年金相談窓口を往復することになります。
ただでさえ、体調不良や精神的につらいひとが多いはず。
何度も年金相談窓口を往復して、時間をかけて基本的な情報を教えてもらうことは避けたいところです。
たとえば「障害基礎年金と障害厚生年金の違い」「初診日と障害認定日の違い」「認定日請求と事後重症請求の違い」「診断書の作成日と現症日の違い」といった事項をちゃんと答えられるでしょうか。
こういった基本的な情報はネットや書籍で調べられます。
もちろん年金相談窓口で1から教えてもらうこともできますが、年金相談窓口でスムーズに会話ができるくらいには事前に情報収集をしておいた方がいいと思います。
自分の情報をまとめる
自分の病歴や職歴などの情報を事前にできるだけまとめておくことも大切です。
とくに、現在の障害に関して、初めて病院に行った日(これを初診日といいます)の情報はとても重要です。
病院や薬局の領収証やお薬手帳などの医療記録を確認しておきましょう。
その他にも、任意の医療保険の入通院給付金を請求したときの書類や、場合によっては、会社の健康診断の結果、当時の日記や手帳といったものも参考になります。
初診日がかなり以前にあるようなケースでは、現時点で初診日を医療機関が証明できないこと(医療機関の記録の保存期間が過ぎていたり、その医療機関が既に廃業していたりする場合など)もあります。
そういうときのためにも、初診日の情報を集めておいて損はありません。
また、初診日が20歳より前にあるような場合には、通知表などの学校での記録が役に立つこともあります。
使えそうな記録が用意できたら、それらを元に自分の記憶もたよりにしながら、自分の情報を時系列にそってまとめてみてください。
初診日はもちろん、症状があらわれたころの時期や状況、治療の経緯などの情報を、通院していた病院ごとに区切ったり、職歴に沿って区切ったりしてまとめておくといいと思います。
こういった情報が準備してあれば、年金相談窓口でのうけこたえもスムーズになるでしょう。
また、障害年金を申請する際には「病歴・就労状況等申立書」という書類を作成することになります。
その際の参考資料にもなります。
ただし、注意点もあります。
記録や記憶の中には必ずしも正確ではないものもあります。
たとえば、医療機関の領収証があったとしても、それが本当に現在の障害の原因になった病気やケガのものかはわからないこともありえます(単なる風邪などの他の病気で通院した際のものかもしれませんし)。
ですので、よほど確定したものでない限り、この段階では確定情報として扱うのはやめたほうがいいでしょう。
まずは参考資料のひとつとして準備してください。
医師に伝えるべき情報を知る
適切な診断書を作ってもらうために、どのような情報を医師に伝えるべきかを知っておきましょう。
障害年金の等級は、医師の作成する診断書をもとにして認定されます。
つまり、適切な診断書の作成こそが、障害等級認定の最重要事項です。
ここでの準備で8割方が決まるといっても過言ではないと思います。
では、どのような情報を医師に伝えればいいのでしょうか。
それは、認定基準に沿った診断書を書いてもらうのに必要十分な情報です。
なぜならば「障害年金をもらう」=「認定基準に該当する」ことだからです。
ここで「認定基準ってなに?」と思ったひとはいませんか。
正式には『国民年金・厚生年金保険 障害認定基準』といいます。
診断書などで確認できる障害の程度が、認定基準に該当するかどうかで、障害年金がもらえるかどうか、もらえるとして何級になるかが決まります。
つまり、認定基準は、障害年金の「キモ」といってもいい、超重要情報なのです。
しかしながら、筆者の印象としては、これを知らずに障害年金の申請をするひとが多すぎます。
障害の認定基準は障害の種類や部位などによって細かく決められています。
もちろん、これらの全部を知る必要はありません。
しかし、自分の障害に関する認定基準だけは必ず確認しておきましょう。
また、自分の障害に関する診断書の書式にも目を通しておいた方がいいと思います。
さらに、うつ病などの精神障害で障害年金を申請しようとしているひとは、認定基準とあわせて『国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン』、『診断書(精神の障害用)の記載要領』、『日常生活及び就労に関する状況について(照会)』も必読です。
とくに『国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン』の[表1 障害等級の目安]はしっかり理解してください。
この目安はとても重要です。
この目安で「1級または2級」や「2級または3級」の部分に該当するひとは、上位等級に該当できなるようにしっかりした準備が必要になります。
これらの認定基準等は、すべて日本年金機構のホームページで公開されています。
ネットで簡単に調べられます。
本記事の最後にリンクを貼っておきます。
これらをちゃんと読みましょう。
これらの認定基準等をしっかり理解できていれば、どのような情報を医師に伝えるべきかもわかってくるはずです。
認定基準等を読みながら、どのような情報が必要なのかを書き出してみてください。
そのつぎに、それらを通常の診察や検査で医師に伝わる情報と、通常の診察や検査だけでは医師には伝わりにくい情報にわけてみてください。
たとえば、日常の正確な自覚症状、生活や就労での具体的な困難さやそれを克服するための努力、家族や職場のサポート体制といった情報は、通常の診察や検査だけでは医師には伝わりにくい情報です。
こういった情報は、意識して医師にしっかり伝えていきましょう。
自分の言葉で書面にまとめて、医師に伝えるのもいいと思います。
ただし、ここで注意事項があります。
嘘はダメです。
詐病や仮病がダメなのは言うまでもありません。
でも、ここでお伝えしたいのは、その逆もダメだということです。
医師の前になると、頑張りすぎるひとがいます。
できないことをできると言ったり、本当はつらいのに大丈夫ですと言ったり。
これらも嘘になります。
正確な情報を医師に伝えてくださいね。
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障害年金を申請する前に参考にしていただきたい書籍【5選】
さいごになりますが、障害年金を申請する前に参考にしていただきたい書籍をご紹介しておきます。
もちろんこれら以外にも良書はたくさんありますが、Amazonなどで比較的入手しやすいものを選んでみました。
書籍の画像はAmazonのサイトにリンクしています。
書籍の内容等詳細はそちらをご参照ください。
『国民年金・厚生年金保険 障害認定基準』は、いろいろと継ぎはぎがあって前後がまとまっておらず、少し読みにくい部分があるのはたしかです。
参考書籍では、そのあたりもしっかりまとめてあります。
基本的な情報を確認したり、認定基準を理解する手助けになるはずです。
図書館で借りるのもいいと思います(お値段が結構高いものもありますし)。
ただし、認定基準や書式は随時新しいものに変わっています。
最新の情報が反映されているものを選びましょう。
この記事を読んでくださったひとが、適切な障害年金をスムーズに受給できますようお祈りいたします。
最後までお読みいただきありがとうございました。
【参考書籍】
①『知りたいことが全部わかる! 障害年金の教科書』(ソーテック社)
最近刊行されたもので、価格もリーズナブルで内容もわかりやすいです。
②『障害年金相談対応マニュアル 』(新日本法規出版)
専門家向けの相談マニュアルです。
専門家の段取りもわかりますし、書式も豊富でシンプルな内容です。
③『障害年金と診断書 2019年7月版』 (年友企画)
医師を対象としたのものですが、診断書を知りたいひとにはありがたい一冊です。
④『新訂版 詳解障害年金相談ハンドブック』(日本法令)
ページ数が多く専門家向けですが、内容は多岐にわたってかなり充実しています。
⑤『法律家のための障害年金実務ハンドブック』(民事法研究会)
弁護士や司法書士向けの書籍ですが、困難事例の裁判例などを知りたい人には参考になります。
【リンク集】
※日本年金機構のホームページにいきます
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