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意外と困る保佐人の権限外行為

できないことの方が多い保佐人業務

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本です。

筆者は、法定成年後見業務を専門に行う法人の事務局長を務めています。

成年後見業務(保佐業務)をやっていて困ることの一つに、「保佐人の代理権が設定されていないのに、その業務を保佐人が行うことが当然とされている」というケースがあります。

今回は、このような保佐人の権限外の行為について現状とその問題点(できれば解決策まで)を考えてみたいと思います。

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保佐人のできることは限られている

保佐人のできること(権限)は、原則として、民法13条1項各号に定められた事項(たとえば、借入や保証契約(2号)、不動産の取引(3号)など)についての同意権と、それらを本人が保佐人の同意なしに行った場合の取消権(ないし追認権)です。

たとえば、本人が借金をしようとした場合には、保佐人の同意を得て契約しなければならず、仮にその同意なしに契約をした場合には保佐人がその契約を取り消すことができるということです。

また、これらの同意権の範囲は、拡張することもできます(民法13条2項)。

ただし、契約を行うのはあくまでも本人であり、保佐人はそれに同意をすることができるというだけです。

この点、「成年後見人」の場合には、本人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為については本人を代表する(=法定代理人として法律行為ができる)とされていること(民法859条1項)と比べると、大きな違いがあります。

もちろん、保佐人の場合にも、代理権付与の審判(民法876条の4)を得ることで、一定の行為については代理権が行使できますが、成年後見人のように、広範な代理権を一般的に行使することはできないのです。

このように保佐人の権限が限られていることは、本人(成年被後見人と被保佐人)の現有能力の違いに由来するものですし、そもそも広範な代理権行使は本人の人権の制約にもつながるので、理にかなった制度ではあります。

しかし、実際の保佐人の活動の現場では、困ったことも生じるのです。

 

権限外行為を求められる現実

実際に保佐人として活動をしていると、民法13条の同意権(またはその取消権)を行使する場面というのはそれほど多くはありません。

よく考えずに不相当な契約をしてしまったとか、不動産を売却しなければならないとか、日常生活においてはそうそう頻繁にあることではないのです。

むしろ、保佐人が行うことの多くは、医療費等日常の支払いや金融機関の取引(預貯金の管理)といったことであり、これらの行為に関しては予め保佐人に代理権が付与されていることがほとんどです(もしくは、選任後必要に応じて新たに代理権を付与してもらうこともあります)。

このような類型的な行為については、代理権付与で対応できるのですが、イレギュラーなことが生じて、保佐人がその対応に追われることも少なくありません。

たとえば、年金や医療保険といった社会保険の申請や福祉関係の行政手続き、ときには収入がないことの税務上の手続などがあります。

保佐の場合、本人が行為を行うのが原則なので、「本人にやらせればいい」と言われればそのとおりなのですが、本人だけではできないからこそ保佐人に対応が求められるのであり、それこそが、本人や関係者(果ては黙示に裁判所までも)が保佐人に求めているものなのです。

そのため、保佐人への代理権付与の項目が多岐にわたってしまい、何のために保佐人の権限を制限したのかよくわからなくなるといった現象も起きます(それでも、それらの代理権の範囲を超えた問題が生じることも少なくないのですが)。

それならば、「その都度、裁判所に代理権付与を求めればよい」とか「個別に本人と委任契約を結んで代理権を取得すればよい」というご指摘もあるのでしょう。

たしかにお説ごもっともです。

時間も手間も費用も考えずにすむのならそのようにしますが、実際にはそれができない現実もあります。

また、本人から保佐人が個別に代理権を取得する場合、保佐人が本人との委任契約の一方当事者になることの適否の問題もあります。

さらに言えば、そもそも業際問題(法律で許された者以外への代理ができない場合)が絡んでくることもあります。

「それができるのなら、とっくにしてるよ」というのが本音なのではないでしょうか。

結局のところ、このような場合、現場では、保佐人が本人のところに行って事情を確認し、本人が書類を作成できるように援助し、場合によっては提出を代行するといったように、「本人が行為を行った体裁」をつくって、臨機応変に対応せざるをえないのです。

 

保佐人は日常業務の負担が大きい

そもそも、保佐人の日常業務に関しては、成年後見人のそれよりも相対的に手のかかることが多いものです。

たとえば、重度の障害によって入院・入所している成年被後見人と、軽度の障害で自宅で暮らしている被保佐人とでは、後者の方が日常業務の負担が大きいというのは、実際に後見業務に携わった方なら実感できるのではないでしょうか。

前者の場合、前述のように成年後見人には広範な権限があり、成年後見人は代理権を使って様々な手続きを行えますし(その是非はひとまず置いておいて)、そもそも入院や入所中であれば、病院や施設のおかげで、日常の生活トラブルなどは抑えられます。

それに対して、後者の場合には、保佐人の権限が限定的であるにもかかわらず、本人だけでは対応できないことが生じれば、そのフォロー(権限外であっても)は必要ですし、在宅であれば、日常の様々な困りごとが日々生じてきます。

そして、そのような日常の場面でこそ、保佐人の権限外行為が求められるのです。

保佐人が評価されない現実

しかしながら、こうして保佐人が権限外の行為を行ったとしても、保佐人の評価にはつながらないのが原則です。

たとえば、保佐人の同意権(場合によっては代理権)によって不動産を処分して利益を得たとか、保佐人が取消権を行使して財産を取り戻したとかいう場合には、金銭的に効果が見えるのでその評価もある程度客観的に行えるでしょう。

それに対して、たとえば、本人だけではできない社会保険や福祉の手続きを保佐人が手伝ったからといって、これを客観的に評価するのはなかなか難しいのではないでしょうか(身上監護の一環としてどの程度評価されるのかは正直よくわかりません)。

しかも、権限外の行為、すなわち業務外の行為であれば、そもそも評価の対象外とされても文句は言えません。

保佐人業務の評価が必ずしも正当に行われていないのではないかという現実があるのです。

 

それでも保佐人制度はもっと活用されるべき

以上のように、①保佐人の権限が限定されていること、②権限外の行為を(当然のように)期待されていること、③保佐人の権限外行為が求められる場面が少なくないこと、さらに④保佐人の業務の評価が難しいことという理由から、保佐人の業務は負担が大きいといえます。

さらに言えば、(成年被後見人に比べて)被保佐人の現有能力が高いので、方針や意見の違いから、本人と保佐人との間に衝突が起きやすいという傾向もあります。

こういった理由から、専門職の方からも「保佐人はこりごり」とか「保佐人は割に合わない」といった愚痴を聞くこともなくはありません。

しかし、保佐人制度は、成年後見人制度よりも本人の権限の制限が緩やかであり、本人としっかりコミュニケーションをとることで、意思決定支援を行いやすいというメリットもあります。

そういう意味において、保佐人制度はもっと積極的に活用されるべき制度だと考えています。

 

積極的に専門家に依頼できる仕組みづくりを

では、前述の①~④の問題のように、保佐人が「権限なき責任を日常的に無償で負わされている」という現状をどうすればよいのでしょうか。

その対策の一つは「専門家への依頼」だと思っています。

社会保険手続は社労士に、行政手続は行政書士に、税務申告は税理士にといったように、各専門家への依頼がスムーズにできれば、保佐人が権限外の業務を負担することは少なくなるでしょう(専門家に依頼すれば業際問題も生じません)。

ただ、実際のところ、専門家への依頼に、それほどお金がかけられないという問題があります。

また、「わざわざ専門家に依頼するような内容ではないのではないか」ということで、依頼を躊躇することもあるかもしれません(専門家側でも、小さな手続を敬遠するということがないわけではないでしょう)。

そのようなことのないように、ちょっとしたことでも、できるだけ安価で気軽に効率的に、保佐人が各専門家に依頼できるような仕組み作りが必要なのではないかと思っています。

この点、弁護士の法テラスのような制度や公的な援助の制度があればいいのにと思うところですが、現実的にはさすがに難しいでしょう。

個人的には、現在進行中の成年後見の「中核機関」構想の中で何らかの仕組みをつくってもらえないものかと期待をよせているところです。

保佐人制度をもっと活用するためにも、保佐人の業務負担の軽減はとても大切なことなのですから。

現場では、「成年後見相当」とされる人の中でも、その能力には幅があり、限りなく「保佐相当」に近いのではないかと思われる人もいます。

本来、本人の能力が回復しているのであれば、成年後見から保佐に変更する手続きをするべきなのですが、仮に、保佐に変更になることによって生じる業務負担増が原因で、それを躊躇うことがあったとすれば、本人の人権侵害に直結する大きな問題だと思っています。

実際にそのようなことはないことを願いますが、現実問題として、成年後見と保佐との利用率の差をみると、考えてしまうものがあります。

保佐人制度が有効に機能するように、必要な仕組みを真剣に構築すべき時期だと思っています。

せっかくの「中核機関」構想ですので、これを機に是非改善していただきたいものです。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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要注意!こんなケースでは介護保険負担限度額認定申請を忘れずに!!【成年後見実務の社会保険手続2】

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「忘れてはいけない 成年後見実務の社会保険手続」シリーズです。

成年後見特化法人の事務局社会保険労務士である筆者が、成年後見実務で行う社会保険手続のうち、つい忘れてしまいがちなものについて解説をしていきます。

第2回目は介護保険の負担限度額認定手続です。

 

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介護保険負担限度額認定制度の概要

  • 介護保険施設に入所等される人で、低所得の人の施設利用時の食費・居住費、ショートステイの食費・滞在費が負担増とならないように、一定額以上を保険給付する(食費や居住費などの自己負担額が減額される)制度
  • 低所得の人は所得に応じた負担限度額までを自己負担すればよい(残りの基準費用額との差額分は介護保険から給付される)
  • 対象となる介護保険施設は、介護老人福祉施設・介護老人保健施設・介護療養型医療施設。いわゆる老健や特養はこれに該当。有料老人ホームやグループホームは原則対象外
  • 対象となるための要件は、①世帯全員が市民税非課税であること(世帯分離をして住民票上、別世帯の配偶者でも市民税が非課税でなくてはならない)、②預貯金、有価証券、投資信託、金・銀及び現金などの資産が単身で1000万円以下、夫婦で2000万円以下であること(②を「資産要件」という)
  • 利用者負担段階は第1段階から第4段階までの4段階に区分されている(第4段階では原則減額は受けられない)
  • 第2段階(市民税非課税世帯で前年の合計所得金額と公的年金等収入額の合計が80万円以下)と第3段階(市民税非課税世帯で前年の合計所得金額と公的年金等収入額の合計が80万円を超える)では、所得金額だけではなく、非課税の障害年金や遺族年金などの収入額も合算されて段階が判定される
  • 虚偽の申告をした場合は、給付額の返還に加え、給付額の2倍の加算金が課される場合がある(いわゆる「3倍返し」のペナルティー)
  • 申請した月の初日から認定が適用される(月末に申請しても、その月の1日から減額される)

特に手続を忘れやすいケース

  • 同一世帯の誰か(住民税を課税されていた者)が亡くなって、その世帯が住民税非課税世帯となった場合:住民税非課税世帯になった(第4段階から第3または第2段階になった)にもかかわらず、成年後見人がそれに気づかない
  • 配偶者が亡くなって、資産要件を充たすようになった場合:配偶者と併せて2000万円を超える資産があったために従来限度額認定に該当していなかった者が、配偶者が亡くなって、資産が単身で1000万円以下になったにもかかわらず、成年後見人がそれに気づかない
  • 介護保険要介護認定の更新を介護施設等に代行してもらっている場合:介護保険負担限度額認定の申請や更新は、通帳等が必要になるため個人情報保護を理由に施設等で代行してもらえない場合がある。そのような場合、介護保険負担限度額認定更新手続は、成年後見人がしなければならないのに、それを失念し、更新期間を徒過してしまう

手続を忘れるとどうなるか?

  • 居住費や食費の自己負担が基準費用額から減額されない
  • 月をさかのぼって認定を受けることはできない(申請した月の初日より前にはさかのぼれない)
  • 仮に有効期限が7月31日で、8月中に更新申請手続をとらなければならないのに、9月になって申請した場合、8月分の居住費や食費は減額されない(9月1日から適用される)
  • たとえば、第2段階の人で特養従来型個室の場合、居住費の差額は730円(基準費用額1150円-第2段階負担限度額420円)、食費の差額は990円(基準費用額1380円-第2段階負担限度額390円)になる(1日当たり)
  • 仮に上記の差額が31日間生じた場合の負担増加額は、(730円+990円)×31日=5万3320円である

忘れないようにここをチェック

  • 介護保険負担限度額認定証の有無を確認し、ある場合には段階を、ない場合にはその理由(どの要件を充たしていないのか)を把握する(この段階で申請の失念に気付いたら直ちに申請する)
  • 本人の収入状況を把握する(非課税である遺族年金や障害年金も忘れずに)
  • 本人と配偶者の預貯金等資産状況を把握する(本人単身で1000万円を超えるのか、夫婦合算で2000万円を超えているのかなど)
  • 第4段階(住民税課税世帯)の場合、世帯の中の誰が住民税課税対象者なのかを把握しておく(本人単身であれば非課税なのかも併せて確認しておく)
  • 施設の担当者と介護保険負担限度額認定の申請・更新について誰が行うのか協議しておく(施設側が代行してくれるのか、成年後見人が行うのか。もっとも、本人や配偶者の預貯金等資産情報を提供する必要があるので、代行の依頼は慎重に対応することが望まれる)
  • 有効期限、申請(更新)期限の管理を徹底する(有効期限が終了する月の翌月末日までに申請できれば、負担増は回避できるが、余裕をもって申請すること。認定証の発行には数日を要する。もっとも、認定証の発行が月を跨いだとしても、申請した月の初日から適用されるので、とにかく有効期限が終了する月の翌月中には必ず申請すること)

さいごに

介護保険負担限度額認定制度は、①収入の判定に非課税の遺族年金や障害年金が合算されること、②資産要件(夫婦の預貯金等の合計額)が設けられていること、③非課税世帯の判断に世帯分離した配偶者も加えられることなど、他の制度ではあまりみられない特徴があります。

そのため本人さんがどの段階に該当するのか(そもそも介護保険負担限度額認定を受けられるのか)がわかりにくいところがあったり、本人さん以外の要因で段階が変更になることも想定されます(たとえば配偶者の死亡など)。

また、資産要件が導入されて以降、個人情報保護の点から、施設側に代行申請をお願いするのが難しくなってきたという経緯もあります。

介護保険負担限度額認定制度は介護保険施設入所には避けてはとおれない手続ですので、成年後見人としては制度をしっかり理解して、本人さんの不利益にならないように十分に気をつけたいところです。

なお、親族等から介護保険負担限度額認定申請にあたって不正(収入や資産の過少申告など)をお願いされることがあるかもしれませんが、絶対にそのようなことはしてはいけません。

3倍返しのペナルティーを受けるばかりか、懲戒や解任、損害賠償の事由にもなりかねません。

必ず正しい申請をしてください。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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要注意!こんなケースでは長期入院該当の申請を忘れずに!!【成年後見実務の社会保険手続1】

忘れてはいけない 成年後見実務の社会保険手続(1) ~長期入院該当申請

 

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今回から「忘れてはいけない 成年後見実務の社会保険手続」シリーズをスタートします。

成年後見特化法人の事務局社会保険労務士である筆者が、成年後見実務で行う社会保険手続のうち、つい忘れてしまいがちなものについて解説をしていきます。

第1回目は国民健康保険等の「長期入院該当」の申請手続です。

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長期入院該当とは

  • 長期入院該当とは、住民税非課税世帯等の低所得者の所得区分に該当する限度額適用・標準負担額減額認定証の交付を受けていた期間の入院日数が、過去12ヶ月で90日を超える場合、申請により入院中の食事代(食事療養標準負担額)が減額される制度
  • 対象となる所得区分は各保険によって異なるが、たとえば後期高齢者医療の場合には区分Ⅱ、70歳未満の国民健康保険の場合には住民税非課税世帯の区分がそれに該当する
  • 長期入院該当日以降、入院時の食事代が、1食当たり210円が160円に減額される
  • 長期入院該当日は申請日の翌月1日(長期入院該当の記載のある限度額適用・標準負担額減額認定証を病院に提示すれば、申請日の翌月分から食事代を1食160円として計算してくれる)
  • 申請日からその月の月末までは差額支給の対象(別途手続が必要)

 

特に手続を忘れやすいケース

  • 世帯分離や同世帯の誰かが亡くなるなどして、本人の所得区分が低所得者に変わった場合:新たに限度額適用・標準負担額減額認定証の交付を受けた後に、入院日数が90日を超過したのに気づかない
  • 本人が後期高齢医療制度の低所得者の場合:所得区分を区分Ⅰ(食事代1食100円)と勘違いして、実際には区分Ⅱ(長期入院該当の制度の対象)であることに気づかない ※国民健康保険等(70歳以上)の場合にも起こりえる
  • 本人がすでに入院を開始している状態で成年後見人に新規に就任したり、前任者から引き継いで就任した場合:成年後見申立や前任者の辞任申立の時点では入院日数90日以下だったものが、その後90日を超えたにもかかわらず、成年後見人がそれに気づかない
  • 入院中に本人が75歳になった場合:75歳以降後期高齢者医療に変わった場合でも、75歳前の国民健康保険の期間の入院日数を通算できる(所得区分が同等な場合)にもかかわらず、成年後見人がそれに気づかない

 

手続を忘れるとどうなるか?

  • 食事代が減額されない(1食210円のまま)
  • 1食50円の差額が生じる(それだけ多く支払うことになる)ので、仮にこの状態が6ヶ月(180日)継続した場合、1食50円×3食×180日=2万7000円を多く払うことになる
  • すぐに申請しても90日超過日に遡って適用されるわけではない

 

忘れないようにここをチェック

  • 本人が入院中の場合には、前任者(いる場合)や親族、病院の相談員などの関係者との引継の際に、入院日数を必ず確認する
  • 限度額適用・標準負担額減額認定証の有無を確認し、ある場合には所得区分を必ず確認する
  • 親族が保管している等の理由で認定証が手元にない場合は、市役所等で区分を照会する
  • 新たに限度額適用・標準負担額減額認定証を申請する場合には所得区分を確認して、長期入院該当制度が使える区分の場合には、その時点で90日超過の日を計算し、申請スケジュール管理を徹底する
  • 本人が入院中に75歳になって後期高齢医療制度に変わる場合には、75歳前の入院期間も通算して計算する
  • 入院日数をしっかり管理する(2月が入院期間に入っている場合、3ヶ月経過でも90日を超過していない場合もあるので要注意。たとえば、閏年でなければ1/1~3/31の入院日数は合計90日となり、90日を超過していない)
  • 入院費の領収証の保管を忘れない(申請の際の添付資料になる)

 

さいごに

長期入院該当は、低所得者の入院が長期になった場合に行う手続ですので、それほど頻繁に扱う手続ではありません(それゆえに、専門職後見人であっても制度自体をあまりご存じない方もいらっしゃいます)。

また、特に後期高齢者医療の場合には、低所得者の区分がさらに区分Ⅰと区分Ⅱにわかれていますので、区分をつい勘違いをしてしまうことも考えられます。

1食50円の差額とはいえ、食事は原則1日3食あるので、手続の懈怠が長期になればなるほど本人さんの経済的不利益は増えていきます。

本人さんの利益を守るために、長期入院該当の申請手続を忘れないようにご注意いただければと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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「第9回法律職勉強会」開催のお知らせ

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今回は、勉強会のお知らせです。

筆者は、オフィス北浦代表者として、法律職向けの勉強会を開催しています。

その勉強会ですが、「第9回法律職勉強会」として、

日時:2018年9月29日(金) 18時00分~19時30分

場所:サンライフ萩 教養文化室2

講師:弁護士 山口正之 先生

参加料:無料

のとおり行うことになりました。

今回のテーマは、「成年後見と就労 ~成年後見人・保佐人が雇用契約に果たす役割」です。

弁護士山口正之先生を講師にお迎えして、雇用契約の締結、解約、解雇などの場面で、成年後見人や保佐人は何ができるのか、成年後見人と保佐人の場合でどのような違いがあるのかなどを解説していただきます。

また、時間が許せば、被後見人等の就労に関して実務上どのようなトラブルが想定されるかなど、これまでのご経験を交えてお話しいただく予定です。

障害者雇用促進法の改正に伴う障害者の法定雇用率の上昇、対象拡大とともに、今後ますます被後見人等の就労ケースが増えていくと予想されます。

この機会に一度、知識を整理していただき、被後見人等の就労ケース対応の参考にしていただければと思っています。

なお、勉強会の後に講師の山口先生との懇親会を開きますので、こちらにもご参加いただければ幸いです(懇親会は、会費として3000円をいただきます)。

事前予約制ですので、お申込みは9月8日(金)までに、オフィス北浦までいただけますようお願い申し上げます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

【追記】

9月28日(金)に「第9回法律職勉強会」を実施いたしました。

弁護士の山口正之先生による法律的な問題や実務上のお話など大変有意義な時間になったと思います。

「使用者による障害者虐待」の問題にも話題が及んだのですが、個人的には、社会保険労務士として取り組むべき課題が見えたように思います。

今回は、萩市内の3つの法律事務所の職員さんや大阪から学生さんなどの参加もありました。

懇親会も盛り上がりました(その後、学生さんたちとは、深夜まで卓ゲ会としてカタン大会をやりましたが、これはさすがに疲れました)。

被保佐人さんが会社を辞める場合に保佐人の同意は必要か

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本博方です。

今回は、被保佐人さんが会社を辞める場合に、保佐人の同意が必要なのかという点(裏を返せば、保佐人が取消権を行使できるのか)という問題を考えたいと思います。

 

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まずは、保佐人制度の概要を説明します。

保佐人制度は法定後見制度の一類型で、「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」について、当事者等の申立によって、家庭裁判所が保佐開始の審判をすることによりスタートします(民法11条)。

保佐開始の審判を受けた者は「被保佐人」として、これに「保佐人」が付されます(民法12条)。

なお、少し表現がややこしいので、以下被保佐人を「本人さん」と表現します。

そして、保佐人制度の場合、本人さんが民法13条1項各号の行為をする場合には、保佐人の同意が必要で、同意のない行為は保佐人によって取消ができるのが原則です(民法13条4項、120条1項)。

どのような行為が保佐人の同意権の対象になるかというと、たとえば、貸したお金を返してもらうこと(「元本を領収」すること。民法13条1項1号)や他人の借金の保証人になること(「保証をすること」民法13条1項2号)などです。

このような行為をする場合には、本人さんや相手方はあらかじめ保佐人の同意をもらっておかなけばなりません(もし、同意をもらっていない場合には、あとになって保佐人の判断で取消されることがあります)。

逆を言えば、そもそも保佐人の同意権や取消権の対象になっていない事項は、本人さんは単独で有効な法律行為ができるということです。

保佐人制度の本人さんは、成年後見の場合よりも、現有能力が高いので、すべての行為を同意権や取消権の対象にはせずに、原則として民法13条1項各号の事項に限定しているということです(なお、これらの対象の範囲を拡張することもできます)。

 

では、今回の本題なのですが、本人さんが会社を辞めたいと申し出たときに、保佐人の同意権(取消権)の対象になるのかという点について考えてみましょう。

会社を辞める意思表示には、合意解約(労使合意の雇用契約の解約)と辞職(労働者からの一方的な雇用契約の解約)がありますが、いずれも民法の意思表示の規定が適用されます。

つまり、これらが、民法13条1項各号のいずれかに該当するかどうかで、本人さんが単独でできるのか、保佐人の同意が必要なのかが決まるということです(ここでは、特段の同意権の範囲の拡張や代理権の設定はないものとします)。

民法13条1項には1号から9号までがありますが、一見すると、「雇用契約」の解約に該当するものはなさそうです(なお、改正民法では10号が新設されますが、これも「雇用契約」とは直接関係はなさそうです)。

ただ、筆者が気になったのは、家庭裁判所の出している書式やハンドブックなどのなかには、民法13条1項3号(以下「3号」といいます)の解釈に「雇用契約」が含まれるとされているものがあるのです。

そこで、3号をみてみると、「不動産その他の重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること」とあります。

とすれば、「その他の重要な財産に関する権利」に雇用契約が該当し、その「得喪」(締結や解約)には同意が必要ということになり、雇用契約の解約にも、3号が適用されるのではないか?という疑問が出てきます。

結論を先に言えば、3号に会社を辞める意思表示は該当しないものと考えられています。

ここで「雇用契約」と言っているのは、「相当な対価を伴う有償の契約であって、他人の労務の提供を受ける契約」のことで、委任契約や寄託契約等と同列の例示として雇用契約があがっていると考えられるからです。

つまり、相当なお金を払って他人を雇う場合には、保佐人の同意が必要ということなのでしょう(余談ですが、介護契約や施設入所契約等の身上監護を目的として他人の労務の提供を受ける役務提供契約についても、相当の対価が必要であれば、3号の対象になるということです)。

念の為に、家庭裁判所にも確認をしてみましたが、本人さんの会社を辞める意思表示に保佐人の同意は不要という見解でした。

そうすると、本人さんが軽率に(保佐人の同意なしに)行った会社を辞める意思表示も、保佐人は取消ができないということにもなります(意思無能力や意思表示の瑕疵・欠缺の場合は別ですが)。

もしも同意権や取消権を行使したいのであれば、あらかじめ同意権の範囲の拡張や代理権の設定が必要になってくるのでしょう。

 

以上は、本人さんが自主的に会社を辞める場合の話ですが、最後に解雇の場合についても考えてみましょう。

解雇とは、使用者による労働契約(雇用契約)の解約を言いますが、本人さんだけに対して解雇が告げられた場合に、その効力はどうなのか(保佐人にも解雇を伝えないといけないのか)という問題が考えられます。

この点は、保佐人制度の本人さんは意思表示の受領能力がある(単独で有効に意思表示を受けることができる)とされています(民法98条の2において、被保佐人が規定されていない)ので、解雇を保佐人に伝える必要まではないということになるのでしょう。

もっとも、本人さんが解雇の意味を本当に理解しているのかわからない場合もあるでしょうから、できるだけ保佐人の理解や協力を得たうえで解雇手続きを進めた方が、不要なトラブルの防止になることは言うまでもありません。

 

以上、本人さんが会社を辞める場合に、保佐人の同意が必要なのかという点について検討しました。

保佐人制度の本人さんは現有能力がある程度高いので、一般就労をしているケースも少なくありません。

実際に保佐人をしていると、本人さんの就労の問題にかかわることが多いのはそのためです。

退職は本人さんの生活に大きな影響を与えるイベントですので、保佐人としては、しっかり本人さんと話し合い、フォローしていかなければなりません。

その際には、保佐人としての法律上の権限を確認しておくことも重要です。

筆者としては、社会保険労務士の専門性を活かして、就労に関しても、本人さんの希望にそって、その利益を確保していけるように、努力していきたいと思っています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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成年後見人が遺族年金請求を行う際の請求者の氏名の書き方

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本博方です。

今回は、成年後見人が遺族年金(遺族基礎年金や遺族厚生年金など)を本人さんに代わって請求する場合に、年金請求書の請求者欄の氏名をどのように書けばよいかを述べたいと思います。

具体的には、①請求者氏名は誰の名前を書くか、②押印は誰のものが必要かの2点について、本人(成年被後見人)さんを甲山A子さん、成年後見人さんを乙川B男さんとして考えていきます。
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まず、年金請求をする権利があるのは、当然A子さんです。

ただ、A子さんには判断能力がほとんどないので、その法定代理人として、成年後見人であるB男さんが手続きを行います。

なお、B男さんが成年後見人であることの証明は、法務局が発行する成年後見の登記事項証明書によって行います(この場合、A子さんからの委任状は不要です。A子さんはそもそも委任ができる状態ではないからこそ、成年後見人が選任されているのです)。

とすれば、A子さんに代わって成年後見人のB男さんが、①請求者氏名を「甲山A子」と記名し、②「甲山印」を押捺すれば足りるのではないかとも考えられます。

たしかに、社会保険労務士が一般の人(成年被後見人でない人)から依頼を受けて年金請求を行う際には、請求者欄には、本人の名前を記名押印したうえで、社会保険労務士欄に提出代行者(ないし事務代理者)として記名押印します。

それとパラレルに考えるなら、ここでも「甲山A子 + 甲山印」でいいようにも思えます。

しかし、社会保険労務士の行う提出代行や事務代理は、民法上の代理制度とは厳密には異なる制度ですので、これを法定代理の場合にそのまま当てはめるのは適切ではないでしょう。

そもそも、成年後見人が本人を代理して契約等を行う際には「甲山A子 成年後見人 乙川B男」と書き、「乙川印」を押捺するのが一般的です。

民法の代理の規定からすれば、代理人であることを示すことが原則だからです(これを顕名といいます)。

そうであれば、登記事項証明書で成年後見人であることを示したにもかかわらず、顕名をせずに本人「甲山A子」名義の文書を作成するというのは不自然なので(その効力は別として)、年金請求の場合にも①「甲山A子 成年後見人 乙川B男」と書き、②「乙川印」を押捺するのが正しいようにも思えます。

「甲山A子 + 甲山印」か、「甲山A子 成年後見人 乙川B男 + 乙川印」か悩むところです。

では、実務ではどうしているのでしょうか。

この場合には、①請求者欄の氏名欄には本人の氏名を「甲山A子」と書くが、②本人の押印は不要、さらに③欄外に「甲山A子 成年後見人 乙川B男」と書き「乙川印」を押すという扱いになっています。

実際には請求書の「性別」欄の横の欄外に多少余白があるので、そこに③の成年後見人の署名押印をすることになるでしょう。

この書き方は、請求書3ページの履歴欄に「職歴について、被保険者記録照会回答票の内容どおり相違ありません。」と添える場合の氏名や、7ページの生計維持証明の氏名欄を書く際にも同じように行います。

ちなみに、未支給年金の請求書でも同じなのですが、この書式には欄外の余白がほとんどないので、ちょっと困ります(しかたないので筆者は氏名欄に詰めて記載するようにしています)。

 

以上、成年後見人が遺族年金請求を行う際の、請求者の氏名の書き方について考えてみました。

成年後見人は、色々な場面で、本人に代わって手続きを行います。

しかし、氏名欄ひとつとっても、行政機関、金融機関、病院や介護施設など、それぞれで求められる書き方が異なります。

正直に言って、とても混乱しているのが現状のように思います(場合によっては、本人の印鑑を執拗に求められることもあります)。

本人欄に加えて、代理人欄が設けられている書式(本人押印不要)が理想的ですが、そうでないなら、せめて本人氏名欄の記載は「甲山A子 成年後見人 乙川B男 + 乙川印」として手続きが行えるように統一してもらえないものかと思うところです。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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社会保険労務士の徳本です。

今回は、社会保険労務士が成年後見制度にどのように関与できるのか、筆者の経験を通じて感じたところを述べたいと思います。
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筆者は、成年後見業務を専門に扱う法人の事務局をしています。

この法人は、法律の専門家である弁護士と福祉の専門家である社会福祉士が協働して成年後見業務を行うことで、財産管理と身上監護にバランスのとれた適正な成年後見サービスを提供することを目的として活動しています。

また、サービスの幅や質をさらに向上させるべく、司法書士や税理士といった専門家も参加しており、多職種による協働を実現しています。

そのような法人で、筆者は、裏方である事務局を担当しているのです。

 

各専門家にはそれぞれ得意分野があります。

本人さんの生活の質を高めるために社会福祉士は司令塔として機能しますし、法律問題や虐待問題には弁護士が毅然と対応します。

また、相続による不動産の取得や不動産の任意売却では司法書士が活躍しますし、税金の問題は税理士が適切に処理をします。

では、社会保険労務士は何ができるのでしょうか。

読んで字のごとく、「社会保険」の専門家として、社会保険に関連する分野を担当できます。

前述の各専門家の扱う分野に比べると、少し地味な感じがします。

しかし、成年後見と社会保険の関連を考えると、これらはすごく深い関係があることがわかります。

まず、成年後見を利用する本人さんは、ほとんどが高齢者や障害者に該当します。

その本人さんの収入の大半は、公的年金制度により支えられています。

また、ほとんどの人は、何らかの医療や介護のサービスを受けています。

その際には、医療サービスを受けるには公的医療保険(後期高齢者医療制度や国民健康保険など)が、介護サービスを受けるには公的介護保険がそれぞれ必要になってきます。

そして、これらの保険料の支払いを適切に管理するのも成年後見人の職務です。

つまり、社会保険制度は、成年後見制度の財産管理と身上監護の両面に深く関係する制度なのです。

さらに社会保険制度は毎年のように改正が行われる複雑な面もあります。

ここに社会保険制度の専門家である社会保険労務士が関与する意義があるのです。

具体的にどのようなことをやるのかというと、たとえば、介護保険の要介護(要支援)認定の申請や更新、医療保険の「限度額適用認定証・標準負担額減額認定証」や介護保険の「負担限度額認定証」の申請や更新といった手続や、年金の裁定請求、障害年金の診断書や現況届の提出といった手続などがあります。

また、医療保険や介護保険の保険料の適正化も検討します。

たとえば、後期高齢者医療制度の被保険者である本人さんが世帯主である場合、その世帯に属する他の人(たとえば子)の国民健康保険の保険料の納付義務が本人さんに生じます(これを「擬制世帯主」といいます)。

このようなケースでは、子らの国民健康保険料を本人さんが負担するのが適切ではない場合、そうならないような方法を講じます。

また、逆に子が世帯主である場合で、その所得が本人さんの保険料の算出に影響する場合には、生活の実態を反映させるような方法を講じることもあります。

一つ一つは地味な作業なのですが、これらをするかしないかでは、本人さんの負担は大きく変わってくることでしょう。

また、社会保険制度手続のほとんどが、いわゆる申請主義をとっていますので、放っておくとサービスを受けられないまま時効にかかっていくということもあります。

社会保険手続の懈怠は、本人さんの不利益に直結するということです。

少し極端な話ですが、報道によると、平成29年1月の松江地裁の判決で、社会保険手続(障害年金の請求)を怠った成年後見人への損害賠償請求が認められたという例もあるようです。

これまで成年後見人に対する損害賠償といえば、横領や使い込みによるものが多かったのですが、社会保険手続の懈怠によるものも損害賠償の対象となるということは、成年後見人として、しっかりと肝に銘じなければならないことです。

このように損害賠償まで認められるケースは稀なのでしょうが、適正な社会保険手続が成年後見人の職務の一つであることは間違いないのですから。

 

このように、社会保険労務士が成年後見制度に関与する意義はあると思っています。

これは、これまで事務局として成年後見制度に関わってきた筆者の実感でもあります。

筆者としては、今後も、一見地味な作業に従事しながら、裏方として法人を支えていこうと思っています。

最後までお読みいただきありがとうごさいました。
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