会社都合の自宅待機で給料6割? なんでそうなるの??

2020.03.04

労働契約の債権者主義と休業手当の関係を社会保険労務士が解説

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経営不振のための休業といった、会社側の都合で自宅待機命令が出た場合、休業手当(労働基準法26条)が出ることは比較的知られています。

なお、新しく採用された人をある期間就労させないことを「自宅待機」、既に雇用されている人を一時的に休業させる場合を「一時帰休」と使い分けたりしますが、ここでは広い意味で「自宅待機」としておきます。

最近では、新型コロナウィルス(COVID-19)による感染症の予防的な休業なども話題になっています(社員本人が感染したわけではなく、会社が自主的に休業するような場合です)。

しかし、休業手当は平均賃金の6割以上と決められていますが、これを逆にいえば、4割までカットされるということです。

働いている社員側からしたら、いくら自宅待機で家にいるとはいえ、賃金の4割カットは経済的に正直しんどいところです(実は4割カットではすまないかもしれないという記事も書いています。興味のある人は「これでわかる! 休業手当が月給の6割にならない謎を解く」をお読みください)。

そこで、会社都合の休業で自宅待機を命じられた場合に、休業手当さえ払えば本当にそれでいいのかについて、社会保険労務士である筆者が解説していきたいと思います。

どうしてこんなことになっているのか、その仕組みをみてきましょう。

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ノーワークノーペイと債権者主義

社員に働く意思も能力もあるのに、会社の一方的な都合で休業となり、自宅待機を命じられた場合、賃金はどうなるのでしょうか。

この点、欠勤の場合にも全額賃金を払う完全月給制のような場合であれば問題は少ないのですが、通常は「欠勤控除」という制度があって、働いていない期間はその分の賃金は払いませんというルールを定めている会社が多いのが現状です。

これを、ノーワークノーペイの原則と言ったりします。

働いていないのだから、賃金がもらえないのは当然のような気がします。

とくに、天災などのどうしようもない事情がある場合や、まして社員側の都合で休んだような場合ならノーワークノーペイも納得ができるでしょう。

 

しかし、社員は働きたいのに会社の一方的な都合で休まされた場合にはどうでしょうか。

そのような場合にまでノーワークノーペイなのでしょうか。

このようなケースを、労働契約における「危険負担」の問題といいます。

会社の都合で社員が働くことを会社が拒絶した場合に、賃金の支払も同時に拒絶できるのかという問題のことです

このような危険負担について、民法は536条で定めています。

民法536条の危険負担の規定は少し表現がわかりにくいので、かなりざっくりいうと、休業が会社と社員のどちらの都合でもない場合には賃金は払わなくてもいいけれど(同条1項)、会社の都合で休業した場合には賃金の支払いは拒絶できない=全額払いなさい、と定めています(同条2項)。

この民法536条2項のことを、危険負担の債権者主義といいます。

つまり、民法では休業の理由によって、

  • 社員の都合や、会社と社員のどちらの都合でもない場合:ノーワークノーペイ(賃金なし)
  • 会社の都合の場合:賃金全額支払い

と定めているということです。

 

民法の債権者主義は就業規則に負ける?

このように、会社都合の休業でも賃金が全額支払われるのだとしたら、どうして休業手当で4割カットの話がでてくるのでしょうか。

それは、民法の債権者主義を定める規定が、「任意規定」とされているからです。

任意規定とは、契約当事者が民法とは別の定めをした場合には、その当事者間の定めの方が優先される規定のことです。

つまり、労働契約や就業規則(賃金規定)などにおいて、民法の債権者主義を排除する特約がある場合には、会社都合の休業の場合でも、賃金の全額払いをしなくてもよいということなのです。

就業規則をよく読んでみてください。

会社都合の休業の場合の規定があって、そこには休業手当として平均賃金の6割(以上)を支払い、民法536条2項の規定は適用しないというような内容が書いてないでしょうか。

その規定が特約となります。

民法の債権者主義の規定は、就業規則に負けてしまうのが原則なのです(なお、どのような場合でも休業手当さえ払えば、いつまでも一方的に社員を休業させられるわけではありません。この点は裁判例もありますが、この記事では本旨から逸れますので、詳しくは触れないでおきます)。

ただ、ここで注意が必要なのは、

  • 労働契約や就業規則などに規定(特約)がない場合には、民法の債権者主義が適用される(=賃金は全額払いとなる)

ということです。

ですので、有効な就業規則がないような会社であれば、会社の都合の休業の場合には民法の債権者主義によって、賃金が全額もらえる可能性が高くなります(民法の債権者主義が適用される場合かどうかは最終的には裁判所の判断になりますが)。

そのような会社で、「休業手当を6割払えばいいって、法律(労働基準法)で決まってるんだよ」なんていう使用者がいたとすれば、「ちょっと待った」をかけた方がいいでしょう。

ちゃんと根拠を確認したうえで、よく話し合ってください。

 

労働基準法の休業手当の規定はなんであるの?

ここまでの話をまとめると、「会社都合の休業は、民法では債権者主義で賃金全額払いになる可能性が高いけど、就業規則などの特約でこれを排除することができる」ということでした。

では、特約で債権者主義の規定が排除された場合には、ノーワークノーペイの原則によって、賃金は0円になるのでしょうか。

賃金というのは社員の生活を経済的に支えるとても重要なものです。

会社の一方的な都合で賃金を0円にされては、社員の生活はとたんに困窮してしまいます。

そこで登場するのが、労働基準法26条の休業手当です。

労働基準法26条は、会社都合の休業の場合には平均賃金の6割以上を休業手当として払うように定めています。

そして、この労働基準法26条の規定は、民法の債権者主義の規定と異なり、「強行規定」といわれています(労働基準法26条は、違反すると罰則もあります)。

強行規定は、当事者間の定めよりも優先されます(労働基準法の場合には、それを下回る規定は無効となり、労働基準法の規定が適用されます)。

なので、仮に労働契約や就業規則で「会社都合の休業の場合には休業手当を払わない」とか「休業手当は平均賃金の3割にする」というような定めをしたとしても、それらは無効となって、会社は社員に労働基準法にしたがって休業手当を支払わないといけないのです。

つまり、当事者間の特約で民法の債権者主義を排除するとしても、労働基準法26条が最低限度の基準を定めて、労働者を守ってくれているということです(そのおかげで、ノーワークノーペイにはできません)。

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会社の都合=使用者(債権者)の責に帰すべき事由とは?

ところで、今まで「会社の都合」という日常的な言葉を使って説明してきましたが、これを正確にいうと、「使用者(債権者)の責に帰すべき事由」といいます。

民法536条2項では「債権者」、労働基準法26条では「使用者」という表現の違いはありますが、いずれも「責に帰すべき事由」という表現を使っています。

先ほどみてきたように、労働基準法26条は、強行規定として最低限度の基準を定めて労働者を守ってくれているのですが、もう一つ、民法536条2項にくらべて、労働者を守ってくれている点があります。

それは、どのような事由が「使用者の責に帰すべき事由」にあたるのか(どのような場合に休業手当が必要なのか)という問題です。

この点については、判例(最判S62.7.17)によって、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」は、民法536条2項の「債権者の責に帰すべき事由」よりも広い範囲をカバーしているとされています。

一般的に民法536条2項の「債権者の責に帰すべき事由」は、故意・過失または信義則上これと同視しうべき事由と限定的に解されていますが、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」は使用者側に起因する経営、管理上の障害までも含むとされているのです。

つまり、民法ではカバーしきれない部分(民法では賃金0円になってしまう部分)まで、労働基準法でカバーしてくれているということです。

たとえば、親会社の経営難によって下請け工場が資材や資金難になって休業したような場合には、会社(下請け工場)に故意や過失があるとまではいえない場合が多いでしょうから、民法536条2項の「債権者の責に帰すべき事由」とまではいえない場合が多くなります。

しかし、使用者側に起因する経営、管理上の障害とはいえるので、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」には該当するといわれています。

このように、労働基準法26条の休業手当は、民法536条2項の「債権者の責に帰すべき事由」よりも広い範囲をカバーすることで、労働者を守ってくれているのです。

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さいごに

これまでみてきたことをまとめると、次の図のようになります。

会社の都合による休業で賃金が4割カットになるというのは、経済的に大変なことだと思います。

しかし、労働基準法が、平均賃金の6割以上の休業手当を最低限度の保障として規定してくれているおかげで、0円にまで減らされることはないと考えることもできるのです。

それに、繰り返しになりますが、会社の一方的な都合での休業の場合、そもそも就業規則等に特約がないのであれば休業手当だけを払えばよいというわけではありませんし、就業規則等に定めていたとしても休業手当さえ払えばいつまでも休業できるというわけでもありません。

そういう意味では、本当に休業手当だけでいいのかを疑うことも大切だと思っています。

少なくとも、労働基準法で定められているから休業手当を6割払えば自由に休業してよいという考え方は、労働基準法の趣旨に反しています。

本来は、会社と社員とでしっかりと話し合いを行って、双方に納得のできる解決を探るべきところですが、どうしても納得ができない場合には弁護士などの専門家にご相談されることをお勧めします。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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