法律事務職向 覚えておきたい社会保険の基礎知識 ~相続事務編~

2019.05.02

相続事務で覚えておきたい社会保険の基礎知識

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本です。

筆者が法律事務職として働いているときにはよく知らなかった社会保険の基礎知識について、法律事務職の皆さま向けにまとめてみたいと思います。

今回は、相続事務編です。

厳密には相続事務には含まれていないものもあるのですが、被相続人の死亡の場面で出てくる社会保険の基礎知識について、筆者が実務上経験したこと交えてをお話ししたいと思います。

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 年金は月単位で発生する(=日割りにはならない)

まず押さえておきたいのが、年金受給者が死亡した場合に年金はいつまでもらえるのかということです。

結論から言えば、死亡日の属する月の全額が発生します。

つまり、1日に亡くなっても、末日に亡くなっても、その月の年金は全額が発生するということです。

法律事務職をやっていると、不動産売買での固定資産税負担の計算や家賃(ないし家賃相当額の損害金)計算の場面などで「日割り」のくせがついている人も多いのではないかと思いますが、年金の受給額に関しては日割りではなく月単位で計算するということは覚えておいて損はないと思います。

たとえば、受給者が4月16日に亡くなったとすれば、4月分の年金は1ヶ月分全額もらえるということです。

筆者が法律事務職をやっていた際に、年金事務所(当時の社会保険事務所)に電話で死亡後の年金のことを問い合わせたことがあったのですが、日割りを前提に話をしていたので、なかなか話が噛み合わなかった経験があります(今思えば、少し調べてから電話すればよかったのですが、日割りを当然のことだと思っていたのだと思います)。

 

未支給年金の受給権者は民法の相続のルールとは異なる

ところで、年金は偶数月の15日に前月までの2ヶ月分が支給されるのが原則です。

たとえば、4月15日に支給された年金は、2月、3月分の2ヶ月分ということです。

とすれば、次のような問題が発生します。

それは、1日に亡くなろうが、末日に亡くなろうが、その月の年金はまだ支給されていないという問題です。

たとえば、受給者が4月16日に亡くなった場合、既にみてきたように4月分の年金は1ヶ月分全額が発生することになるのですが、4月15日に支払われた年金は2月分、3月分のものですので、4月分はまだもらっていないということになるのです。

これを「未支給年金」といいます(死亡した月が偶数月か奇数月か、死亡した日が15日より前か後かによって、1~3ヶ月分が未支給年金となります)。

こういう話になると、法律事務職としては、「まだもらっていないお金があるならば、相続手続で帰属を決めるのだろう」と思うのではないでしょうか(一時期、筆者もそのように考えていました)。

しかし、結論から言えば、基礎年金(国民年金)や厚生年金の未支給年金については、民法の相続手続によってではなく、未支給年金独自の規定に従ってもらえる人が決まっているのです。

未支給年金を受け取ることができるのは、年金受給者が亡くなった当時、その人と生計を同じくしていた、(1)配偶者 (2)子 (3)父母 (4)孫 (5)祖父母 (6)兄弟姉妹 (7)その他(1)~(6)以外の3親等内の親族です(未支給年金を受け取れる順位もこのとおりです)。

ポイントは2つあります。

1つ目のポイントは、民法上の法定相続人の規定とは異なること(3親等内の親族にまで拡張されています)です。

2つ目のポイントは、「死亡した受給者の死亡時に生計を同じくしていたこと」という要件が加わっていることです(生計同一要件といいます)。

これは何を意味するかというと、たとえ民法上の法定相続人であっても、生計同一要件を満たさなければ、未支給年金はもらえないということです。

たとえば生前にまったく交流のなかった人が亡くなった場合には、第1順位の法定相続人であったとしても、生計同一要件を満たせないので、未支給年金を受給することはできません(相続人と未支給年金の受給権者が別人になることもありますし、そもそも誰も未支給年金がもらえないということもあります)。

生計同一要件の有無の確認は、相続手続に慣れている法律事務職ほど見落としやすいところですので、注意が必要なところです(つい、普通の相続手続と同じに考えてしまうんですよね)。

 

遺族基礎年金は受給できる人が子育て世帯に限られている

最後は、相続とは直接関係はないのですが、配偶者が亡くなった場合の「遺族年金」について、基礎的な知識を確認してみましょう。

法律事務職が相続事務にあたる際に、被相続人の配偶者とお話する機会は少なくありません。

その際に遺族年金の話題が出てくることもありますので、ある程度の知識は持っておいた方がよいと思います。

まず、一言で「遺族年金」と言っても、遺族基礎年金(国民年金)と遺族厚生年金の2つがあります。

そして、この2つは受給要件が大きく異なる制度です。

まず、遺族基礎年金についてですが、筆者が法律事務職をやっている間に、この遺族基礎年金を受給している人に会ったことはありませんでした。

というのも、遺族基礎年金の対象者は、死亡した者によって生計を維持されていた、(1)子のある配偶者、(2)子に限られているのです。

さらにここで「子」というのは、「18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子」または「20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の子」のことです。

覚えておいてほしいことをざっくり言えば、遺族基礎年金は「高校卒業までの子」か「20歳未満の障害者の子」がいる場合でなければもらえないということです。

つまり、子のいない夫婦や、子が既に大きくなった夫婦の一方が亡くなった場合には、遺族基礎年金は発生しないということです(当初はこれらの要件に該当する子がいたとしても、その子のすべてが子の要件に該当しなくなれば、遺族基礎年金はもらえなくなります)。

そういうわけで、遺族基礎年金を受給できる(している)人というのはそれほど多くはないのです。

これに対して、遺族厚生年金の対象者は、かなり異なります。

それは、死亡した者によって生計を維持されていた、(1)妻、(2)子、孫(18歳到達年度の年度末を経過していない者または20歳未満で障害年金の障害等級1・2級の者)、(3)55歳以上の夫、父母、祖父母(支給開始は60歳から。ただし、夫は遺族基礎年金を受給中の場合に限り、遺族厚生年金も合わせて受給できる。)です。

遺族厚生年金で覚えておいてほしいポイントは2つです。

1つ目は、子の有無にかかわらずに受給できるということ。

2つ目は、妻には年齢制限はないですが、夫には年齢制限があるということ。

ですので、遺族厚生年金を受給している人(特に女性)に会うことは比較的多いです。

65歳以上であれば併給もできますので、老齢基礎年金に加えて遺族厚生年金(+老齢厚生年金)を受給しているという人もいらっしゃいます(前述のとおり遺族基礎年金は受給対象者が限定されているので、いわゆる1階部分は老齢基礎年金をもらいつつ、2階部分は遺族厚生年金を併給するという仕組みです)。

遺族年金については、年金事務所で受給の可能性や見込み額などについて相談することもできますので、忘れずに確認するようにしてください。

 

さいごに

社会保険の手続については細かいことも多く、弁護士の先生であってもすべてを完璧に覚えておられる先生は多くはないと思います。

法律事務職として社会保険の基礎知識を学ぶことは、弁護士の先生のためにも、依頼者のためにも有意義なことだと思っています。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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