法律事務職向 覚えておきたい社会保険の基礎知識 ~成年後見事務編 その3~

2019.05.26

成年後見事務で覚えておきたい社会保険の基礎知識 その3

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本です。

筆者が法律事務職として働いているときにはよく知らなかった社会保険の基礎知識について、法律事務職の皆さま向けにまとめてみたいと思います。

今回は、成年後見事務編その3です。
ここでは、社会保険の限度額適用認定申請手続きなどを中心に、筆者が実務上経験したこと交えてをお話ししたいと思います。
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本人入院時には医療保険の「限度額適用・標準負担額減額認定」をすぐに申請しましょう

本人(成年被後見人)が医療機関に入院された場合、入院費用の支払いも成年後見人の業務となります。

医療機関に入院の場合には、公的医療保険を使えば、医療費は1~3割の自己負担ですむことはご存じの方も多いと思います(負担割合は、国民健康保険か後期高齢者医療保険か、生年月日や所得区分などの条件によって変わってきます)。

このように医療費の自己負担が抑えられているとは言っても、入院が長期にわたったり、様々な医療行為を受けたりすることで、自己負担が高額になって経済的負担に耐えられないということも考えられます。

そこで、公的医療保険には高額療養費等の制度があります。

制度の詳しい内容は省略しますが、この制度が適用されることで、医療費の自己負担がさらに抑えられることになります。

高額療養費については、いったん窓口で自己負担額を全額支払った後に高額医療費を請求する方法もありますが、それだと一時的にとはいえ経済的負担が増えますし、なによりいちいち請求をしなければならないので手続きが面倒になります。

そこで、医療費を支払う際に、医療機関の窓口であらかじめ高額医療費を計算してもらい、それを控除した金額を支払うようにすることもできます。

そうすることによって、窓口で支払う金額が抑えられ、事後の請求手続きもしなくてよくなります。

ただ、そのためには、「限度額適用・標準負担額減額認定証」を医療機関の窓口に提示する必要があります。

この「限度額適用・標準負担額減額認定証」は、国民健康保険や後期高齢者医療保険の場合には市区役所で交付してもらえますので、本人が入院した際には早めに交付を受けて、医療機関に提示しましょう(会社の健康保険などを使っている場合には各保険者に確認してください)。

「限度額適用・標準負担額減額認定証」の交付を受けられるかどうかは、所得区分などによって変わることもあります。

詳しくは、市区役所に問い合わせれば教えてくれると思いますので、法律事務職であれば、成年後見人(の使者)であることを示して申請に先立って確認した方がよいでしょう。

仮に申請を忘れてしまった場合にも、事後に高額療養費の支給を請求すれば本人に損害は生じませんが、領収証を提示するなど後見事務手続が煩雑になりますので、やはり事前に「限度額適用・標準負担額減額認定証」の交付を受けることをおすすめします。

 

指定難病医療費助成制度などを利用する場合でも「限度額適用・標準負担額減額認定証」が必要な理由

医療費の自己負担額をさらに助成してもらえる制度として、指定難病医療費助成制度や各自治体の行っている福祉的な助成制度(山口県の場合であれば、福祉医療費助成制度(「かくふく」と言ったりします)など)があります。

これらの制度を使えば、医療費の自己負担が高額療養費を利用した場合よりもさらに安くなったり、場合によっては自己負担が0円になったりします(詳しくは各機関に問い合わせてください)。

筆者の経験した中では、パーキンソン病が原因で成年後見制度を利用されている人の場合に指定難病医療費助成制度を利用したこともありましたし、山口県内であれば「かくふく」の利用者も複数人いらっしゃいました。

ある「かくふく」を利用している人の成年後見人に就任した直後のことですが、医療費等の請求書を見た際にあることに気づきました。

医療費の自己負担額は0円だったのですが、何かおかしい・・・それは食事の負担額が思いのほか高いように感じたのです。

計算してみると1食260円(当時)でした。

その人の所得区分では減額対象者だと思っていたのに、減額されていないのです。

そこで、医療機関に確認したところ、「限度額適用・標準負担額減額認定証」が出ていないので、食費を減額していないとのことでした。

つまり、医療費は減額されているけれど、食事の費用はその対象になっていないということなのです。

すぐに市役所に確認して手続をとり、「限度額適用・標準負担額減額認定証」の交付をうけました。

成年後見人がついたことで、必要な申請ができたよい例だと思います。

当時でこそ1食260円でしたが、現在は1食460円(指定難病でなければ)です。

「限度額適用・標準負担額減額認定証」を提示することで、その人の場合には最終的に1食160円となりました。

1食の差額は460円-160円=300円。

これだけみるとそんなに変わらないように思えるかもしれません。

でも、食事は原則1日3回、毎日あります。

たとえ1食の差額が300円であっても、これが30日ならば、300円×3回×30日=2万7000円、1年365日なら、300円×3回×365日=32万8500円になります。

これを失念してたら、本人への経済的負担は無視できないものになっていたはずです。

このように、医療費だけでなく、食事の費用も減額されますので、「限度額適用・標準負担額減額認定証」は忘れずに交付をうけてください。

ところで、「限度額適用・標準負担額減額認定証」という名称の中に、この仕組みが表されていることにお気づきでしょうか。

それは、「限度額適用」というのは医療費のことで、「標準負担額減額」というのが食事の費用のことなのです。

 

意外と忘れがちな「長期入院該当」に要注意

入院時の食事の費用の話題になったので、この点でもう一つ注意を要する制度をあげておきましょう。

それは「長期入院該当」と呼ばれる制度です。

たとえば、後期高齢者医療保険の場合には、過去12か月で区分Ⅱに該当する限度額適用・標準負担額減額認定証(以下、減額認定証)の交付を受けていた期間(他の健康保険加入期間も区分Ⅱ相当の減額認定証が交付されていれば通算できます。)の入院日数が90日を超える場合、申請により入院中の食費がさらに減額されます。

同様の制度は国民健康保険にもあります。

長期入院該当の申請を行えば、「限度額適用・標準負担額減額認定証」にその旨の記載がされますが、その適用日は申請日の翌月1日となります(申請日から月末までは差額支給の対象となります)。

この制度の注意するポイントは3つあります。

1つ目は、減額される対象が特定の所得区分に該当する人だけで、対象者なのかどうかがわかりにくいという点です。

2つ目は、入院日数90日超が必要なので、最初の入院時には申請ができないことです(あとの申請手続を忘れがちになるということです)。

3つ目は、申請日よりも前に遡って適用されないという点です。

成年後見人がこの手続きを失念して、減額を受けるタイミングが遅くなったというケースもあるようで、それが本人や家族とのトラブルに発展したということも聞いたことがあります。

そのようなトラブルを避けるために、法律事務職としては、入院時に「限度額適用・標準負担額減額認定証」を申請した際に、ついでに長期入院該当の可能性についても市区役所の窓口に確認しておいた方がよいと思います(筆者はそのようにしています)。

そして、該当可能性がある場合には、成年後見人である弁護士の先生に報告するとともに、入院日数管理を自主的に行っておくとよいでしょう。

その時がきても先生から指示がないような場合には、「長期入院該当の手続きをしなくても大丈夫ですか?」と積極的に確認作業を行うように心がけたいものです。

 

介護保険にも「介護保険負担限度額認定申請」手続きがあります

さて、これまでは公的医療保険についてみてきましたが、本人が利用することの多いもう一つの社会保険に介護保険があります。

そして、介護保険にも「介護保険負担限度額認定」という制度があります。

低所得者が、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)/介護老人保健施設/介護療養型医療施設/短期入所生活介護/短期入所療養介護(ショートステイ)といった対象施設を利用する場合に、申請により、食費と居住費等の負担軽減を受けることができる制度です。

ポイントは2つあります。

1つ目は、対象施設が限定されており、いわゆる有料老人ホームなどの場合には原則として対象とされないということです。

2つ目は、所得要件だけでなく、一定以上の預貯金などの資産がある場合は、負担軽減の対象外となるという資産要件が設定されているということです。

施設入所の際には、相談員などの職員から説明を受けることも多いと思いますので、手続きを忘れることは実務上あまりないように思います。

ただ、この手続きには、資産要件を確認するために、市区役所に通帳の写しなどを提出して預貯金額などを申告する必要があり、個人情報の保護の観点から施設職員に手続き代行を行わせることが適切とはいえない場合も考えられます。

その場合には、成年後見人が手続きを行うことになり、その際には使者として法律事務職が現場で手続きを行うことも少なくないでしょう。

毎年の更新もありますので、法律事務職が率先して期限管理などを行うとよいと思います。

また、施設入所当初は要件を満たさず手続きを取らなかった人が、のちに事情が変わって(預貯金を切り崩しているうちに資産要件を満たすようになるなど)要件を満たすようになることもあります。

そのような場合には直ちに「介護保険負担限度額認定」申請を行ってください。

「介護保険負担限度額認定」は申請日の属する月の1日から適用されるので、多少時間に余裕はありますが、社会保険手続きは該当したら直ちに行うのが鉄則です。

資産要件を微妙に超過しているような人の場合には特に注意しておきたいところです。

 

さいごに

医療保険や介護保険の限度額認定などの手続きは、それぞれにこまかいルールがあって、しかも改正が頻繁に行われるところでもあります。

法律事務職としては、あらかじめネットで信頼できる情報を集めたり、市区役所に問い合わせたりして、最新の正確な情報を持つことが必要になってきます。

医療機関への入院や、介護施設への入所は、成年後見業務には必ず起こるイベントといってよいものですので、必要な手続きを漏れなく迅速適正に行えるように、日々の情報に敏感になりたいものです。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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