法律事務職向 覚えておきたい社会保険の基礎知識 ~成年後見事務編 その2~
2019.05.18
成年後見事務で覚えておきたい社会保険の基礎知識 その2
オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。
社会保険労務士の徳本です。
筆者が法律事務職として働いているときにはよく知らなかった社会保険の基礎知識について、法律事務職の皆さま向けにまとめてみたいと思います。
今回は、成年後見事務編その2です。
ここでは、社会保険料の支払管理業務を中心に、筆者が実務上経験したこと交えてをお話ししたいと思います。
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医療保険や介護保険の普通徴収の場合は支払管理をしっかりと
本人に代わって医療保険料や介護保険料の支払いを行うのも成年後見人の業務です。
保険料の支払管理が必要なのは、医療保険では国民健康保険や後期高齢者医療保険(原則75歳以上)、介護保険では本人が第1号被保険者(65歳以上)である場合です。
同じ医療保険の場合でも、本人が会社などの健康保険の被保険者であれば保険料は給料から控除されますし、家族の被扶養者となっているのであれば保険料を支払う必要はありません。
また、介護保険の場合、第2号被保険者(40歳以上65歳未満)であれば、その保険料は医療保険料と併せて支払うことになっているので(平たくいえば医療保険料の中に介護保険料も含まれているということです)、介護保険料を単独で支払うことはありません。
筆者の経験では、介護保険を利用していた人(要介護度5)の介護保険料の支払い実績が確認できなかったので、滞納しているのかと思ってあわてて市役所に問い合わせたところ、その人が第2号被保険者(65歳未満)だったので介護保険料の支払いは必要ないと回答されたことがありました(医療保険料はちゃんと払っていました)。
筆者はその人が第1号被保険者で介護保険料の支払が必要だと勘違いしたわけですが、どうしてそのような勘違いがおきたかというと、「要介護度5で介護保険を利用している=65歳以上である(第1号被保険者である)」と思い込んだのです。
40歳以上65歳未満の第2号被保険者であっても、特定疾病に該当する場合には介護保険が使えますが、当時はその辺りの知識が足りなかったのだと思います。
話が逸れましたが、保険料の支払管理の話に戻しますと、これらの保険料の支払方法は、特別徴収(年金天引き)と普通徴収に分かれます。
「普通」と「特別」とありますが、特段の手続きを行わなければ、原則として特別徴収となります。
支払管理という点では、支払い忘れがないので、成年後見人としては特別徴収の方法で問題はないと思います。
ただ、何らかの理由で普通徴収になった場合(たとえば、そもそも年金が少なくて特別徴収の対象にならないような場合や、引越しをしたような場合に一時的に普通徴収になるようなこともあります)、納付書払い(現金払い)だけでなく口座振替の方法もありますので、できるだけ支払い忘れのないように口座振替の方法をとった方がよいでしょう。
普通徴収の場合には、保険料の支払い忘れがあれば、督促料や延滞金が課せられることがあります。
このように本人の経済的損失が生じることもありますので、成年後見人として保険料の支払管理をしっかりと行ってください(口座振替の場合でも残高確認を忘れずに)。
保険料の値上がりに目を光らせましょう
支払管理においては、期限管理だけでなく、保険料の金額が適正なものかどうかもチェックが必要です。
毎年保険者から保険料の決定通知が来ますので、前年と比較するなどして内容をしっかり確認してください。
前年と比べて保険料が上がっている場合には、必ずその原因を解明する必要があります。
全体として保険料率や保険料の額が上がっているような場合はしかたないですが、たとえば所得の申告を忘れていて、本来受けられるべき減免措置が受けられていないようなこともありえますので、しっかりとした確認が必要です(わからなければ、市役所など保険者に問い合わせた方がよいでしょう)。
保険料の値上がりですが、こういう時は普通徴収の納付書払いの方が気づきやすいかもしれません。
納付書払い(現金払い)の場合は数百円上がっても、「あれ?」と違和感を覚えます。
ただ、特別徴収や口座振替の場合であっても、成年後見人としてはそれを見落とすわけにはいきません。
こういう細かいところで、どれだけ注意深さを発揮できるのかは、法律事務職としての腕の見せ所だと思っています。
家族の国民健康保険料を本人が支払っている場合は要注意
成年後見業務で社会保険料支払管理をしていると、家族の国民健康保険料を本人(成年被後見人)が支払っているというケースが見受けられます。
筆者の経験したところでは、本人Aさん(75歳以上で後期高齢者医療保険)が、その子Bさん(国民健康保険)と同居していたところ、Aさんの後期高齢者医療保険の保険料だけでなく、Bさんの国民健康保険料の支払いを市役所から求められたケースがありました(同様のケースは数件ありました)。
筆者としては、AさんがどうしてBさんの国民健康保険料まで支払わなければいけないのか、当初はよく仕組みがわかりませんでした。
それは、Aさんが住民票上の世帯主になっていたからです。
国民健康保険料の支払義務は世帯主に生じます。
つまり、世帯主本人が国民健康保険加入者でない場合でも、家族に国民健康保険加入者がいれば、世帯主が国民健康保険料の納付義務者になるということです(これを擬制世帯主といいます)。
このケースでは、後期高齢者医療保険に入っているAさんが世帯主であるので、Bさんの国民健康保険料まで支払わなければならないというわけです。
法律上の義務ですので、成年後見人がこれを支払ったからといって、本人に違法な経済的損害を生じさせたということにはならないとは思いますが、本人の家計が収支均衡で少しでも支出を抑えたいというような場合には、家族の国民健康保険料まで負担しきれないということもあります。
本人に家族の保険料を負担させない方法としては、当該家族から国民健康保険料相当額を支払ってもらうとか、住民票上の世帯主そのものを変更したり、その家族を国民健康保険上の世帯主として世帯主変更をするとか(要件がありますが)、実態に応じて世帯分離をするなどが考えられますが、この辺りは法律事務職としては方法を知っておくだけでいいと思います。
ただ、法律事務職が本人が家族の保険料を負担しているという事実に気づいた場合には、成年後見人である弁護士の先生にすぐに報告するようにしてください(あとは、先生が判断されますのでその指示に従いましょう)。
国民年金保険料の支払管理が必要な場合もあります
これまで医療保険(国民健康保険や後期高齢者医療保険)や介護保険の保険料をみてきましたが、社会保険料にはもうひとつ年金保険料があります。
ただ、本人が高齢である場合にはそもそも国民年金保険料の支払義務はありませんし(国民年金保険料を支払うのは原則60歳までです)、60歳未満の障害者のケースでも、就労して厚生年金の被保険者である場合(この場合には給料から年金保険料は天引きされます)や、国民年金保険料の法定免除(障害や生活保護などが理由)に該当しているような場合には、国民年金保険料を払う必要はありません。
成年後見制度を利用しているのは、高齢者や障害者がほとんどで、上記のどれかに該当するので、国民年金保険料を払う必要はほとんどないのが実際だと思います。
筆者の経験上でも、成年被後見人で国民年金保険料を支払っているケースは数件あるかどうかです。
筆者の経験は少ないですが、国民年金保険料を支払っているケースとしては、60歳未満の障害者が、将来の老齢基礎年金の額を増やしたいために国民年金保険料を全額支払っているというケースがありました(障害や生活保護を理由にしたような国民年金保険料の全額の法定免除の場合、ざっくりいえば、その期間は将来の老齢基礎年金は半額になります)。
たしかに、精神障害などで有期認定の障害年金の場合(将来障害年金の支給停止の可能性がある場合)や、特別障害給付金(国民年金に任意加入していなかったことにより、障害基礎年金等を受給していない障害者への福祉的措置として、障害基礎年金よりも少ない額が支給される制度。申請により国民年金保険料が全額免除となる)を受給している場合には、将来の老齢基礎年金を増やすために、国民年金保険料を満額納めるという選択肢もありだと思います。
ちょっと難しい話になりましたが、本人の生活設計を考えるのも成年後見人の役割だと思いますので、特に本人が若い障害者の場合、いつからどういう年金をいくらもらうのかという生活設計は大切なことだと思っています。
さいごに
社会保険料の支払管理といった必要な支出の支払は、成年後見人の業務の中でも、法律事務職の皆さんが現場で担当することが多い業務のひとつだと思います。
決まった額を支払うだけですので、単純作業の雑務のように感じるかもしれませんが、現場で動いている法律事務職の皆さまだからこそ気づくことも多いはずです。
「保険料を支払っていないようだけど大丈夫だろうか」、「いつもより保険料が多いのではないだろうか」、「家族の保険料をどうして本人が払っているのだろうか」などなど現場で疑問に思ったことがあれば、遠慮せずに成年後見人である弁護士の先生に報告してください。
ほとんどのケースでは先生から「それは~という理由だよ」と教えてもらえるでしょうが、ときには「気づいてくれてありがとう。すぐに確認して対策をとろう」というようなこともあります。
筆者の経験から言っても、現場感覚はとても大切だと思っています。
この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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