傷病手当金【健康保険】 意外とよくある勘違い5選
2020.03.23
健康保険の傷病手当金で勘違いしやすいポイントを社会保険労務士が解説
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今回は、傷病手当金のお話です。
ここでの傷病手当金は、全国健康保険協会(協会けんぽ)の健康保険のものを取り上げています(健康保険組合(組合健保)などの被保険者の場合にはご加入の保険者のホームページなどをご参照ください)。
傷病手当金とは、健康保険の被保険者が、①業務外の病気やケガの療養のために、②労務に服することができない場合、③その労務に服することができなくなった日から継続した3日が経過した日(4日目)から、④給与の支払いがない(傷病手当金より少ない場合も含む)ときに、支給されるものです。
傷病手当金の支給額は、1日につき、支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額÷30×2/3 に相当する額です。
給与の全額というわけにはいきませんが、傷病手当金は非課税所得ですし、傷病手当金をもらったからといって翌年の健康保険料が上がるわけでもありませんので、病気やケガで仕事ができないときにはありがたい制度です。
ただ、こういうありがたい制度なのですが、そうそう頻繁に支給を受けるものでもないので、社会人歴が長い人でも意外と勘違いしているところもあるように思います。
そこで今回は、社会保険労務士である筆者が、健康保険の傷病手当金について、意外とよくある勘違いを5つピックアップして、ポイントを解説してみようと思います。
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仕事に関係のない病気やケガの場合に傷病手当金はもらえます
労災保険との混同だと思われるのですが、傷病手当金は仕事に関係する病気やケガでなければもらえないと勘違いしている人がいます。
前述のように、傷病手当金は、「①業務外の病気やケガの療養のために」仕事を休んだときにもらえるものですので、むしろ業務上の病気やケガ(労災保険の業務災害や通勤災害)の場合には、傷病手当金はもらえません。
これを私傷病といったりもしますが、レジャーで出かけた旅先で事故にあってケガをしたとか、最近では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にかかって仕事に出られないような場合(業務外の感染の場合)などがこれに該当します。
労災でなければ、傷病手当金の対象になるとお考えください。
持病でも傷病手当金はもらえます
傷病手当金は、会社に入って健康保険に加入した後に発生した病気やケガでなければもらえないと勘違いしている人がいます。
公的な医療保険である健康保険には加入時の告知義務もありませんし、加入前からの病気やケガであっても療養の給付(病院で3割負担で治療を受けられること)の対象になることは、比較的知られていると思います。
これと同様に、健康保険に加入前の病気やケガであっても、傷病手当金の対象になりえます。
つまり、持病があっても健康保険に加入はできますし、その持病の療養のために休んだ場合には傷病手当金の対象になるということです。
入院していなくても傷病手当金はもらえます
民間の医療保険(入院保険)との混同だと思われるのですが、傷病手当金は入院していないともらえないと勘違いしている人がいます。
たしかに、傷病手当金は、「②労務に服することができない場合」にもらえるものですので、入院の場合にはこの要件を充たすのが原則です。
しかし、通院しながらの自宅療養の場合であっても、労務に服することができないと認められれば、傷病手当金の対象になります。
なお、その判断のために、「傷病手当金支給申請書」には「療養担当者の意見書」とよばれる欄があって、担当医師等がその欄を作成することになっています。
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継続3日間の待期中に有給休暇を取得しても、待期期間は成立します
傷病手当金をもらうためには、「④給与の支払いがない」ことが必要ですが、「③継続した3日が経過した日」(待期3日間)の成立を判断するときには、給与の有無は関係ありません。
ここを混同して、待期3日間にも「給与の支払いがない」ことが必要だと勘違いしている人がいます。
療養のために労務に服することができずに休んでいるのであれば、給与をもらっていたとしても、待期3日間は成立します。
休んでいても給与がもらえる場合というのは、たとえば年次有給休暇を取得したような場合が該当します。
つまり、待期3日間に年次有給休暇を取得したとしても、待期期間は成立するということです。
なお、待期3日間の後の4日目以降に年次有給休暇を取得した場合、その日は「④給与の支払いがない」とはいえないため、傷病手当金はもらえないのが原則です(ただし、ごくまれに年次有給休暇の1日分の賃金が、傷病手当金よりも少ないことがあります。その場合には差額が傷病手当金として支給されます)。
休日であっても傷病手当金はもらえます
傷病手当金は、所定労働日に休んだ場合でなければもらえないと勘違いしている人がいます。
たしかに、傷病手当金では「④給与の支払いがない」ことが必要なので、所定労働日に休んだ場合が前提になっているように思ってしまうのもわからなくはありません。
しかし、実は①~③を充たせば、傷病手当金は発生しうるのあって(健康保険法99条1項)、④の給与との調整は別の規定(健康保険法108条1項)で定められています。
つまり、会社の公休日や日曜、祭日などの休日であっても、療養のために労務不能であれば、傷病手当金は発生するということです。
なお、「傷病手当金支給申請書」には「事業主証明」とよばれる欄があって、そこには勤務状況を記入する欄もあります。
その欄には出勤日、欠勤日、有給取得日、公休日を記載することになっています。
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さいごに
今回は、健康保険の傷病手当金について、意外とよくある勘違いを5つピックアップして、ポイントを解説してみました。
病気やケガで仕事を休んで収入が減ってしまうのは、社員にとっては経済的に大きな負担となります。
年次有給休暇もいつまでもつかえるわけではありません。
もちろん、万が一のときに備えて、しっかりと貯蓄をしたり、民間の医療保険を利用するなどのリスクマネジメントをしておく必要はあるでしょう。
しかし、そのような準備が万全でなかったとしても、傷病手当金が支給されればある程度の減収の補填を行うことができます。
また、傷病手当金は、同一の病気やケガに関して、支給を始めた日から1年6ヶ月間支給されますし、退職して健康保険の被保険者でなくなっても一定の条件を充たせば退職後も継続して支給されます。
このように、傷病手当金はいざというときに頼りになる制度ですので、正しい知識を身につけて、適正に利用していただければと思います。
この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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