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住民税非課税世帯から課税世帯になる場合の注意点(その3)

住民税非課税世帯になるためにできること

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社会保険手続を中心に弁護士業務や成年後見業務をサポートしている社会保険労務士の徳本博方です。

今回は「住民税非課税世帯から課税世帯になった場合の社会保険の負担の変化」についての第3回目(最終回)です。

これまで、①どのような場合に非課税世帯が課税世帯になるのか、②社会保険の負担がどのように変化するのか、についてまとめてきましたが、今回は③対策はあるのか、についてまとめていこうと思います。

住民税(均等割)非課税となる年金収入金額の目安などについて具体的にお話できればと思います。
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住民税非課税世帯とならないケース

まず、住民税非課税世帯とならないケースとして大きく2つにわけて考えていきたいと思います。

それは、

  • 本人の所得が住民税非課税限度額を超えない場合(同一世帯の誰かが課税されている場合)
  • 本人の所得が住民税非課税限度額を超える場合

の2つです。

この非課税限度額については、住民税非課税世帯から課税世帯になる場合の注意点(その1)でも述べましたが、簡単にまとめておくと、次の表1のようになります。

 

住民税非課税限度額の老齢年金収入金額の目安

つぎに、表1でみた本人の「合計所得」となるための、具体的な「年金収入」金額の目安を確認してみましょう(ここでいう年金収入とは、公的年金等控除や特別徴収(年金天引き)の社会保険料などを引く前の、額面の年金支給額のことです)。

それは、表2のようになります。

表2は、本人が65歳以上公的年金収入のみの場合で、生活保護基準の級地区分3級地に住んでいる場合の年金収入金額の目安です(給与収入の場合や、級地区分が変われば目安の金額も変わります)。

なお、ここでの年金収入は老齢年金のことです(そもそも非課税である遺族年金や障害年金の収入については算入しません)。

 

老齢年金の収入がこれらの目安を超えれば、住民税(均等割)が課税され、それ以下なら課税されないということです。

 

本人の所得が住民税非課税限度額を超えない場合(同一世帯の誰かが課税されている場合)

本人の老齢年金の収入が表2の金額以下の場合には、本人には住民税はかかりませんが、同一世帯の誰かが住民税の課税対象であれば、住民税非課税世帯としてのサービスを受けることができません。

このような場合には、課税対象の家族を非課税にするか、本人を単身世帯にするかの方法が考えられます。

ただし、課税対象の家族(特にフルタイムの給与所得者のような場合)を非課税にするというのはなかなか難しいので、現実的には本人を単身世帯にする方法になるでしょう。

その場合、生活の実態をよく把握したうえで、たとえば介護施設に入所中で当面自宅に戻る可能性がないのであれば、実態にあわせて住民票の住所を施設に移す方法や、医療機関に入院中で家計が完全に分離しているような場合であればいわゆる世帯分離の方法を採ることが考えられます。

本人単身であれば住民税非課税である場合には、単身世帯にする方法によって住民税非課税世帯となるということです。

なお、介護保険の場合などでは、世帯分離などをしたとしても配偶者がいる場合にはその所得も合算して所得区分を決めるといったルールもあり、必ずしも住民税非課税世帯としてのサービスを受けられるわけではありません。

 

本人の所得が住民税非課税限度額を超える場合

本人の老齢年金の収入が表2の金額を超えるような場合には、本人を単身世帯にしたとしても住民税非課税世帯にはなりません。

この場合には、まずは本人が単身で住民税非課税となるような方法を考えないといけません。

もちろん所得の過少申告などは論外なので、この場合には、扶養親族等を申告するか、障害者として認定してもらうことになるでしょう。

本人だけなら老齢年金の収入の目安が148万円ですが、もし扶養親族等が1人いれば192万8000円まで上がります(表2)。

生計を同一にしている人(住民票上の同一世帯であることまでは必要とされていません)で要件を充たす人がいる場合には、扶養親族等の申告を忘れないようにしてください。

もっとも、そもそも扶養親族等がいないということもあるでしょうし、それまで扶養親族等として申告していた人が就職などで合計所得が多くなって扶養親族等から外れてしまうということもあるでしょう。

そのような場合であっても、本人が障害者として認定してもらえれば、住民税非課税となる可能性があります。

なぜなら、障害者として認定されれば、老齢年金の収入の目安が245万円まで上がるからです(表2)。

ここで注意が必要なのは、障害者について、手帳(身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳など)を所持していなくても認定されることがあるということです。

手帳がないからといってすぐにあきらめることはなく、税務署や市役所等にご相談されることをお勧めいたします。

特に成年被後見人として成年後見制度を利用している場合には、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある人」として障害者認定される可能性がありますので、よく確認をしてください。

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さいごに

今回は住民税非課税世帯となる方法について考えてきました。

世帯分離をしたり、扶養親族等の申告や障害者としての認定を受けたりと面倒なこともありますが、住民税非課税世帯としてのサービスを受けるためには必要な手続きです。

こういった手続きには、さかのぼってできるものとそうでないものがあります。

できるなら早めに行うようにしてください。

2019年分の確定申告や市県民税申告の時期となりましたが、正当なサービスをうけられるように、適正な手続きを行っていただければと思います。

以上、3回にわたり「住民税非課税世帯から課税世帯になった場合の社会保険の負担の変化」について考えてきました。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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住民税非課税世帯から課税世帯になる場合の注意点(その2)

社会保険の負担がどのように変化するのか

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今回は「住民税非課税世帯から課税世帯になった場合の社会保険の負担の変化」についての第2回目です。

全3回に分けて、①どのような場合に非課税世帯が課税世帯になるのか、②社会保険の負担がどのように変化するのか、③対策はあるのかをまとめていこうと思います。

今回は②社会保険の負担がどのように変化するのかのお話です。

筆者の経験から、課税世帯になった場合に②社会保険の負担がどのように変化するのか具体的な例をあげていきたいと思います。

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どんな影響があるの?

所得等の変動によって影響を受ける社会保険として、ここでは後期高齢者医療保険と介護保険を例にとって考えていきましょう(筆者の住んでいる山口県萩市を例にします)

主な影響点として「保険料への影響」「限度額等への影響」の2つが考えられます。

 

後期高齢者医療保険の保険料への影響

後期高齢者医療保険の保険料は、所得割額と均等割額に分かれます。

2019年度の山口県の場合(上限62万円)

  • 所得割額:(前年所得 – 基礎控除33万円)×10.28%
  • 均等割額:5万2444円
  • 世帯主及びその世帯の被保険者の総所得額の合計によって、均等割額の軽減措置がある(8割、8.5割、5割、2割)

です。

ここでは保険料が住民税非課税世帯であるかどうかと直接的に連動しているわけではありませんが、総所得額が増えて、軽減措置の割合が変わることで、保険料が値上がりする可能性が生じます。

たとえば、軽減割合が8.5割から5割に変わったとすれば、年間保険料が7866円から2万6222円となり、年間1万8356円の負担増になります(本人の所得額に変化はないものの、世帯の総所得額に変化があったような場合で、均等額割のみが発生し、その軽減割合が変わったような場合が想定されます)。

 

介護保険料への影響

2019年度の山口県萩市の介護保険料(1号被保険者)は基準額を6万2280円として、住民税(市民税)非課税世帯かどうかや本人の合計所得金額によって第1~13段階に分かれています。

そして、各段階の年間保険料は第1段階の基準額×0.375=2万3350円から第13段階の基準額×2.5=15万5700円となっています(10円未満切り捨て)。

住民税との関係でいえば、第1~3段階が住民税非課税世帯、第4~5段階が本人が住民税非課税で世帯の誰かが課税、第6~13段階は本人が課税の場合です。

介護保険料が大きく減額される第1~3段階に該当するためには、少なくとも住民税非課税世帯である必要があるのです。

たとえば、住民税非課税世帯として第3段階(年間保険料4万5150円)だったものが、家族の誰かが課税となったために第5段階(年間保険料6万2280円)となったとすれば、年間1万7130円の負担増になります。

 

医療費や入院時の食事の負担額への影響

ここでは、後期高齢者医療保険をつかった入院時の医療費と食事の負担額を例にして考えてみましょう。

医療保険には、所得区分によって、医療費や食事の負担額に一定の限度額を設ける制度があります。

後期高齢者医療保険の場合には医療費の限度額は6つの所得区分に分かれ、食事の限度額は3つの所得区分にわかれています。

そして、各限度額が低く抑えてある低所得Ⅰや低所得Ⅱの区分になるためには、少なくとも世帯全員が住民税非課税である(住民税非課税世帯)必要があります

たとえば、低所得Ⅱの区分から一般所得の区分に変更になった場合はどうなるでしょうか。

(図1)をご覧ください。

この例では、月額5万5500円の負担増となっています。

なお、一般所得区分の医療費には「多数該当」(その月以前の12ヶ月に3回以上高額療養費が支給されている場合の4回目以降)という制度があり、その場合限度額の5万7600円は4万4400円となりますが、多数該当が適用されたとしても、月額4万2300円の負担増になります。

筆者の経験上も、低所得Ⅱの区分で家計が何とか収支均衡だった人が、一般区分に変更になったとたんに大幅な赤字となって、預貯金を切り崩して対応せざるをえなかったケースが何件かありました。

 

介護施設の居住費や食費の負担額への影響

ここでは、介護保険をつかって、一定の施設(特別養護老人ホームや介護老人保健施設など)に入所をしている場合の住居費と食費の限度額を例にして考えてみましょう。

介護保険には、施設入所の場合の住居費や食費の負担額に一定の限度額を設ける制度があります。

限度額は第1~3段階に分かれており、どの段階であっても少なくとも住民税非課税世帯に該当する必要があります(その他にも資産要件などを満たす必要があります)。

たとえば、第3段階の区分から外れて、限度額認定を受けられなくなった場合はどうなるでしょうか。

(図2)をご覧ください。

この例では月額3万6000円の負担増になっています。

なお、ここでの「基準費用」は目安です。

筆者の経験上も、介護保険の限度額認定から外されて、毎月の支払が4万円弱増加した人がいらっしゃいました。

その時は他の要件が変更になったためで、住民税非課税世帯から課税世帯になったことが理由ではないのですが、限度額認定から外される厳しさを痛感しました。

いずれにしても限度額認定を受けられるかどうかで、少なくとも毎月4万円近くの差が生じうるということです。
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さいごに

成年後見制度を利用している高齢者は、その収入のほとんどを年金にたよっています。

そして年金収入は毎年それほど大きく増えるものではありません。

つまり入ってくる金額はほとんど一定なのです。

そのような状態で、年金から天引き(特別徴収)されている医療保険料や介護保険料が値上がりすれば、手取りの収入が減っていきます(仮に合計で年額3万6000円の負担増になった場合、単純計算で1回の年金支給につき天引き額が6000円増加します)。

さらに医療機関への入院や介護施設への入所が長期化している人の場合には、限度額の変更によって、毎月数万円の支払いが増えることになります。

これは、手取り収入が減って、支出が増えるということです。

これが1年、2年・・・と続いたらどうなってしまうのでしょうか。

仮に毎月4万円強の赤字が続けば、1年間で約50万円の赤字です(その分、預貯金を切り崩すことになるでしょう)。

5年で約250万円、10年で約500万円・・・どんどん預貯金が減っていきます。

そこで、次回は③対策はあるのかという問題を考えていきたいと思います。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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住民税非課税世帯から課税世帯になる場合の注意点(その1)

どのような場合に住民税非課税世帯から課税世帯になるのか

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今回は成年後見業務をやっているとときどき生じる「住民税非課税世帯から課税世帯になった場合の社会保険の負担の変化」について、3回にわけてお話ししていこうと思います。

筆者の経験上、住民税課税世帯への変更に伴う社会保険負担の変化は、家計の収支予定が大幅に変わるので、一気に家計が赤字に転落するという事態も少なくありません。

特に本人さんが医療機関へ入院中や介護施設に入所中の場合には、数万円単位で家計収支が変わってしまいます。

そこで、2020年が始まって、2019年の所得が確定しかつ申告前のこの時期に、①どのような場合に非課税世帯が課税世帯になるのか、②社会保険の負担がどのように変化するのか、③対策はあるのかをまとめていこうと思います。

第1回目の今回は、筆者の経験から①どのような場合に非課税世帯が課税世帯になるのかの具体的な例をあげていきたいたいと思います。

なお、この記事は投稿日(2020年1月4日)現在の情報に基づいて執筆されています(2019年度の情報が入っています)。

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住民税非課税世帯ってなに?

まずは、住民税非課税世帯とは何かについて簡単にご説明しておきます。

一般に、個人の住民税は市民税と県民税を合わせたものをいい、その内容は「均等割」と「所得割」に分かれます。

そして、住民税非課税世帯とは、世帯全員が住民税の均等割も所得割も非課税である状態のことです。

つまり、世帯の中に住民税の均等割や所得割を払っている人が誰もいない世帯のことを住民税非課税世帯といいます。

 

では、どのような人が住民税の均等割と所得割が非課税になるのでしょうか。

筆者の住んでいる萩市(生活保護基準の級地区分3級地)の場合には、具体的にいうと、

  • 均等割も所得割もかからない人
    • 生活保護法の規定による生活扶助を受けている人
    • 障害者、未成年者、寡婦または寡夫で前年中の合計所得金額が125万円以下の人
  • 均等割のかからない人=前年中の合計所得金額が次の算式で求めた額以下の人
    • 控除対象配偶者及び扶養親族がいない人・・・28万円(1級地:35万円、2級地:31万5千円)
    • 控除対象配偶者及び扶養親族がいる人・・・28万円(1級地:35万円、2級地:31万5千円)×(控除対象配偶者+扶養親族+1)+16万8千円(1級地:21万円、2級地:18万9千円)
  • 所得割のかからない人=前年中の総所得金額等の合計額が次の算式で求めた額以下の人
    • 控除対象配偶者及び扶養親族がいない人・・・35万円
    • 控除対象配偶者及び扶養親族がいる人・・・35万円×(控除対象配偶者+扶養親族+1)+32万円

このようになっています(このような基準を「住民税非課税限度額」といいます)。

そして、均等割が非課税であれば所得割も非課税になるといって差し支えないので、住民税非課税世帯となるためには、世帯の全員が「均等割も所得割もかからない人」か「均等割のかからない人」のどれかに当てはまる必要があるということです。

 

なお「合計所得金額」は、基礎控除や医療費控除、社会保険料控除などを控除する前のものですので注意が必要です(給与所得控除や公的年金等控除は控除できます)。

 

まとめると、

ア 生活保護法の規定による生活扶助を受けている人

イ 障害者、未成年者、寡婦または寡夫で前年中の合計所得金額が125万円以下の人

ウ 前年中の合計所得金額が次の算式で求めた額以下の人(3級地の場合)
控除対象配偶者及び扶養親族がいない人・・・28万円(1級地:35万円、2級地:31万5千円)
控除対象配偶者及び扶養親族がいる人・・・28万円(1級地:35万円、2級地:31万5千円)×(控除対象配偶者+扶養親族+1)+16万8千円(1級地:21万円、2級地:18万9千円)

のどれかに世帯全員が該当すれば、住民税非課税世帯になれるというわけです。

 

住民税課税世帯になってしまうのはどんなケース?

筆者の経験上、住民税非課税世帯が課税世帯となってしまうケースは、次の3つのケースが多いように感じています。

それは、ⅰ本人さんの合計所得金額が上がる、ⅱ同一世帯内の誰かの合計所得金額が上がる、ⅲ扶養親族等がいなくなる、の3つです。

 

ⅰ本人さんの合計所得金額が上がるケースとしては、給与収入や年金収入が上がるというケースです。

このような場合には予め課税対象になるかどうかがわかりますので、ある程度の準備や対策もできるかもしれません。

ただ、注意が必要なのは、住民税非課税限度額の計算に用いられる「合計所得金額」には、土地・建物等の譲渡所得の金額(長期譲渡所得の金額(特別控除前)と短期譲渡所得の金額( 特別控除前))が含まれるという点です。

前年に不動産を処分した際には要注意です。

均等割が発生する可能性があります。

なお、2020年から給与所得控除や公的年金等控除の金額が10万円引き下げられますが、それに伴って2021年の住民税非課税限度額に10万円が加算される予定ですので、この点での影響は少ないものと思われます

 

ⅱ同一世帯内の誰かの合計所得金額が上がるケースとしては、病気や引きこもりなど様々な事情で働いていなかった世帯内の家族が仕事を始めたようなケースが考えられます。

この場合、世帯全体としての収入額は上がるので、それほど問題はないようにも思えます。

しかし、働き始めた家族が家計にお金を入れてくれないような場合には、他の家族には各種負担が増えるというマイナスの影響だけが及ぶということもありえます。

家族の協力を得られるかどうかが大きなポイントになるでしょう。

 

ⅲ扶養親族がいなくなるケースとしては、扶養親族だった人が亡くなった場合や世帯を離れるなどして扶養関係になくなったような場合があります。

またⅱとも重なるのですが、それまで扶養に入ってた家族が収入を得るようになって扶養から外れるというケースもあります。

特に、本人さん単独だと課税対象だったのに、扶養親族がいたのでなんとか非課税となっていたというような場合では、いわゆる世帯分離をしたとしても本人さんが非課税世帯になることはできないので、かなり困ったことになります

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さいごに

今回は、①どのような場合に非課税世帯が課税世帯になるのかについて、これまでの経験上問題になったケースをあげてみました。

次回は、住民税非課税世帯から課税世帯になることで、②社会保険の負担がどのように変化するのかについてお話できたらと思っています。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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成年後見人は年金生活者支援給付金請求手続きをお忘れなく!

成年後見人による年金生活者支援給付金請求手続を社会保険労務士が解説

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2019年10月1日からの消費税率引き上げに伴う措置のひとつとして、「年金生活者支援給付金」の請求手続きの受付が始まりました。

年金生活者支援給付金は、消費税率引き上げ分を活用した制度で、公的年金等の収入や所得額が一定水準額以下の年金受給者の生活を支援するために、年金に上乗せして支給されるものです。

今月(2019年9月)に入り、対象者のお手元に年金生活者支援給付金請求書の書式(ハガキ仕様のもの)が日本年金機構から薄い緑色の封書で送られてきています。

今回は、成年後見人がこの年金生活者支援給付金請求手続きを代理する場合についての注意点などをご説明いたします。

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まずは、お手元に年金生活者支援給付金請求書の書式が届いているかをご確認ください。

年金に関して成年後見人に送付先変更をしている場合には、年金生活者支援給付金請求書も成年後見人に届くので見落としはないとは思いますが、送付先変更をしていない場合には本人の住所に届きますのでしっかりと郵便物の確認が必要です。

もしも支給対象者と見込まれる場合にもかかわらず、本人が書式を持っていないような場合には、紛失のおそれもありますので、念のため日本年金機構にお問い合わせした方がよいでしょう。

 

次に、年金生活者支援給付金請求書の内容ですが、とてもシンプルな書式になっています(記入の手間が省けますので、とてもよい書式だと思います)。

記入する箇所は、氏名欄(下記画像ア)、電話番号欄(同ウ)、提出日欄(同イ)の3箇所です。

提出日欄についてはそれほど問題にはなりませんので、残りの氏名欄と電話番号欄について、成年後見人が記入する場合の書き方などをご説明いたします。

筆者が日本年金機構に確認したところ、

  • 氏名欄には本人の氏名だけを記入する(「~成年後見人…」という記入は不要)
  • 代理人(成年後見人)が氏名を記入した場合には、押印が必要
  • 押印に用いる印鑑は本人のものでも、成年後見人のものでも構わない
  • 電話番号は成年後見人のもので構わない
  • 成年後見の登記事項証明書などの書類の添付は不要

とのことでした(念のため、ご自身でも日本年金機構に確認されることをお勧めいたします)。

本人の印鑑がない場合でも、成年後見人の印鑑で構わない(その場合でも氏名の記載は本人のものだけでよい)というのは、とてもシンプルでありがたい対応だと思います。

 

提出期限についてですが、2019年12月の年金支給分から年金生活者支援給付金を上乗せするためには、2019年10月18日までに年金生活者支援給付金請求書が届くように投函するようにと記載されています(「ご案内リーフレット」には請求書受領後なるべく1週間以内に提出してほしいとも記載されています)。

特に注意しなければならないのは、提出が遅れると、年金生活者支援給付金がもらえる時期が遅くなるだけでなく、2019年12月末日を過ぎて手続きをした場合、2020年2月分からの支給になる(2019年10月~2020年1月の4ヶ月分がもらえなくなる。遅れれば遅れるほどもらえない期間が増えていく可能性がある)ので、できるだけ早く提出されることをお勧めします。

せっかくもらえる年金生活者支援給付金ですので、成年後見人としては、本人のために手続き忘れのないようにしっかりと対応していただければと思います。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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法律事務職向 覚えておきたい社会保険の基礎知識 ~成年後見事務編 その4~

成年後見事務で覚えておきたい社会保険の基礎知識 その4

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本です。

筆者が法律事務職として働いているときにはよく知らなかった社会保険の基礎知識について、法律事務職の皆さま向けにまとめてみたいと思います。

今回は、成年後見事務編その4です。
ここでは、社会保険の給付申請手続きなどを中心に、筆者が実務上経験したこと交えてをお話ししたいと思います。
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覚えておきたい主な3つの給付申請手続きの注意点

成年後見業務で対応が必要になる給付には、医療保険の「高額療養費」支給申請、介護保険の「介護保険高額介護(介護予防)サービス費」支給申請、そして医療保険と介護保険に共通の「高額介護合算療養費・高額医療合算介護(予防)サービス費」支給申請の3つの手続きがあります。

それぞれに共通する注意すべきポイントとしては、

1. 支給申請手続をして初めて支給される(初回のみ申請すれば、あとは自動で支給されるものもありますが、少なくとも初回は申請手続が必要です)

2. 支給対象者には保険者から書式などの通知文書が送られてくるので、郵便物チェックがとても大切

3. 消滅時効がある(2年)

4. 本人死亡後でも相続人が申請できる

の4点です。

まず1についてですが、社会保険はいわゆる申請主義なので、申請手続が必要になってきます。

ただ、後期高齢者医療保険や介護保険においては、対象者が高齢であることなどから、毎回の申請手続までは必要とせず、初回のみの手続きでよいという取扱いもあります(ありがたいですね)。

成年後見人としては、申請手続きを失念することなく、速やかに手続きを行わなければいけません。

申請手続きを怠ると、3にあるように消滅時効の問題がありますので、消滅時効にかかってしまえば、本人への損害を与えてしまう恐れもあります。

くれぐれも注意しましょう。

そのためにも、2にあげたように、郵便物のチェックはとても重要です。

筆者の経験では、この郵便物を本人の家族が受領し、給付金を自分の口座に振り込ませようとしたことがありました。

そのようなことのないように、成年後見人への送付先変更の届出を早めに行うことをおすすめします(詳しくは、「法律事務職向 覚えておきたい社会保険の基礎知識 ~成年後見事務編 その1~」をお読みください)。

また、3にあるように消滅時効の問題がありますが、これは逆にいえば、消滅時効にかかるまでは遡って申請できるということでもあります。

特に成年後見就任時には本人が申請忘れをしているようなケースがないか、保険者に問い合わせをして確認することをおすすめします。

申請手続き済みの人は、通帳に入金履歴が確認されるはずです。

筆者の経験上、在宅独居での介護保険利用者の場合には特に申請手続き忘れが見受けられますので、要注意です。

実際に、市に問い合わせたところ2年分遡って給付を受けることができたケースもありました(残念ながら一部時効にかかってしまったのですが、成年後見人就任の前のことはさすがにできることにも限界があります)。

4については、本人が亡くなった場合、一定期間が経過して保険者から成年後見人に2の通知が来ることもありますので、速やかに相続人に引き継ぐ作業が必要になります。

また、親が亡くなった場合など本人が相続人となって手続きをする場合もあります(この場合にも3の消滅時効に気をつけて、成年後見人として直ちに手続きを行いましょう)。

 

「高額療養費」支給申請は「限度額適用・標準負担額減額認定証」を提示していても必要なときがあります

医療費が高額になったときのために、公的医療保険には高額療養費制度があります。

制度の詳細は省略しますが、簡単にいえば、同じ月内に自己負担限度額を超えて自己負担(一部負担)分を支払ったときは、超えた分の払い戻しが受けられる制度です。

ただ、窓口で自己負担分をいったん支払った後に高額療養費の支給を受けるのでは迂遠ですので、窓口負担を軽減するために「限度額適用・標準負担額減額認定証」の交付を受けた方がよいというお話は、前回させていただきました(詳しくは「法律事務職向 覚えておきたい社会保険の基礎知識 ~成年後見事務編 その3~」をお読みください)。

では、「限度額適用・標準負担額減額認定証」を提示していれば、高額療養費の支給申請は一切しなくてもよくなるのでしょうか。

実は、必ずしもそういうわけではありません。

たとえば、複数の医療機関を利用している場合や家族と合算して高額療養費の対象になる場合などがありうるからです。

筆者の経験上では、精神科の病院に入院している人が、歯の治療を受けるために歯科を受診するような場合、「限度額適用・標準負担額減額認定証」を提示していても、高額療養費の申請が可能となるケースがあります(その場合、歯科にかかった自己負担分が全額給付されることもあります)。

なお、高額療養費の申請手続きには領収証を提示することを求められるのですが、本人が手許金で支払っていたような場合領収証を紛失しているようなこともあるので、できるだけ医療費の支払い管理は成年後見人で行うようにして、どうしても本人が行う場合には領収証を紛失しないように注意しておきましょう(どうしても領収証がない場合には保険者に相談すれば対応してくれることもありますが、領収証があればスムーズに手続きが行えるのは確かです)。

 

介護保険高額介護(介護予防)サービス費支給は「介護保険負担限度額認定証」とは別ものと考えておきましょう

介護保険高額介護(介護予防)サービス費支給についても、制度の詳細は省略しますが、簡単にいえば、同じ月に利用したサービスの利用者負担合計額(同じ世帯に複数の利用者がいる場合には世帯合計額)が高額になり、一定の上限額を超えたときは、申請により超えた部分が「高額介護(介護予防)サービス費」として後から支給されるという制度です。

ここで注意が必要なのは、この介護保険高額介護(介護予防)サービス費は、利用者が負担する居住費、食費、日常生活費等は対象外だということです(福祉用具購入費、住宅改修費の利用者負担や支給限度額を超えたサービス費も対象外です)。

前回のお話を思い出していただきたいのですが、介護保険には介護保険負担限度額認定制度があって、特養などの対象施設に入所する際には、要件を充たす人は「介護保険負担限度額認定証」の交付を受けるべきだとお話ししました((詳しくは「法律事務職向 覚えておきたい社会保険の基礎知識 ~成年後見事務編 その3~」をお読みください)。

そして、「介護保険負担限度額認定証」を提示することによって、入所中の食費と居住費等の負担軽減を受けることができるとお話したと思います。

つまり、介護保険高額介護(介護予防)サービス費は利用者負担額が一定の金額を超えた場合に差額が給付されるものなのに対して、介護保険負担限度額認定は対象施設入所中の食費や居住費が減額される制度だということなのです(そもそもの対象が異なるということです)。

筆者が法律事務職だったころには、この二つの制度がどのように違うのかよくわからずに混乱していたのを覚えています。

ここで覚えておいてほしいポイントは、

1. 介護保険負担限度額認定証を提示した場合でも、介護保険高額介護(介護予防)サービス費の支給申請は別途必要になるということ

2. 要件を充たさず(たとえば貯金が1000万円を超えていて資産要件にひっかかる場合など)介護保険負担限度額認定が受けられない人でも、介護保険高額介護(介護予防)サービス費の支給を受けられる場合があるということ

です。

また、2と関連するのですが、有料老人ホームなど介護保険負担限度額認定の対象外の施設入所の場合や、在宅の場合であっても、要件を充たせば、介護保険高額介護(介護予防)サービス費の支給を受けられるので、この点にもご注意ください。

 

「高額介護合算療養費・高額医療合算介護(予防)サービス費」の支給申請は原則1年に1回

高額介護合算療養費・高額医療合算介護(予防)サービス費制度についても、詳細は省略しますが、簡単にいえば、公的医療保険と介護保険の両方のサービスを利用している世帯で、1年間に支払った両方の自己負担額を合算した額が、所得区分に応じた自己負担限度額を超えた場合、申請により、その超えた金額が支給される制度です。

ここでいう自己負担額は高額療養費や高額介護(介護予防)サービス費等を差し引いたあとのものですので、高額療養費や高額介護(介護予防)サービス費の支給を受けていても、さらに高額介護合算療養費・高額医療合算介護(予防)サービス費の支給が受けられる場合があるということです。

また、この高額介護合算療養費・高額医療合算介護(予防)サービス費は、基準日が設定されており、基準日より1年前までのものが対象となります(たとえば、2017年8月1日から2018年7月31日まで)。

つまり1年に1回、申請手続きを行うということです。

1年に1回ですので、つい通知文書を見落としてしまうなどのうっかりミスがおきないとも限りません。

いつもの支給通知だと思っていたら、高額介護合算療養費・高額医療合算介護(予防)サービス費の通知だったなんてこともあります。

成年後見人としては、通知文書管理を徹底して、うっかりミスが起きないように努めたいところです。

 

さいごに

今回は、成年後見業務でよく行う3つの社会保険の給付申請手続きについてまとめてみてきました。

これ以外にも、たとえば、本人の親が亡くなったような場合に葬祭費支給申請を行ったり、まれにですが健康保険の被保険者の障害者さんが療養で働けなくなった場合に傷病手当金の支給申請を行うようなこともなくはないですが、おおむね成年後見業務では、ここでみた3つの申請手続きをおさえておけば、法律事務職員としての社会保険知識としては十分ではないかと思います。

給付申請は本人の「お金」に直接的にかかわることですので、本人に損害を与えないように細心の注意を払って対応していただければと思います。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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成年後見事務で覚えておきたい社会保険の基礎知識 その3

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本です。

筆者が法律事務職として働いているときにはよく知らなかった社会保険の基礎知識について、法律事務職の皆さま向けにまとめてみたいと思います。

今回は、成年後見事務編その3です。
ここでは、社会保険の限度額適用認定申請手続きなどを中心に、筆者が実務上経験したこと交えてをお話ししたいと思います。
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本人入院時には医療保険の「限度額適用・標準負担額減額認定」をすぐに申請しましょう

本人(成年被後見人)が医療機関に入院された場合、入院費用の支払いも成年後見人の業務となります。

医療機関に入院の場合には、公的医療保険を使えば、医療費は1~3割の自己負担ですむことはご存じの方も多いと思います(負担割合は、国民健康保険か後期高齢者医療保険か、生年月日や所得区分などの条件によって変わってきます)。

このように医療費の自己負担が抑えられているとは言っても、入院が長期にわたったり、様々な医療行為を受けたりすることで、自己負担が高額になって経済的負担に耐えられないということも考えられます。

そこで、公的医療保険には高額療養費等の制度があります。

制度の詳しい内容は省略しますが、この制度が適用されることで、医療費の自己負担がさらに抑えられることになります。

高額療養費については、いったん窓口で自己負担額を全額支払った後に高額医療費を請求する方法もありますが、それだと一時的にとはいえ経済的負担が増えますし、なによりいちいち請求をしなければならないので手続きが面倒になります。

そこで、医療費を支払う際に、医療機関の窓口であらかじめ高額医療費を計算してもらい、それを控除した金額を支払うようにすることもできます。

そうすることによって、窓口で支払う金額が抑えられ、事後の請求手続きもしなくてよくなります。

ただ、そのためには、「限度額適用・標準負担額減額認定証」を医療機関の窓口に提示する必要があります。

この「限度額適用・標準負担額減額認定証」は、国民健康保険や後期高齢者医療保険の場合には市区役所で交付してもらえますので、本人が入院した際には早めに交付を受けて、医療機関に提示しましょう(会社の健康保険などを使っている場合には各保険者に確認してください)。

「限度額適用・標準負担額減額認定証」の交付を受けられるかどうかは、所得区分などによって変わることもあります。

詳しくは、市区役所に問い合わせれば教えてくれると思いますので、法律事務職であれば、成年後見人(の使者)であることを示して申請に先立って確認した方がよいでしょう。

仮に申請を忘れてしまった場合にも、事後に高額療養費の支給を請求すれば本人に損害は生じませんが、領収証を提示するなど後見事務手続が煩雑になりますので、やはり事前に「限度額適用・標準負担額減額認定証」の交付を受けることをおすすめします。

 

指定難病医療費助成制度などを利用する場合でも「限度額適用・標準負担額減額認定証」が必要な理由

医療費の自己負担額をさらに助成してもらえる制度として、指定難病医療費助成制度や各自治体の行っている福祉的な助成制度(山口県の場合であれば、福祉医療費助成制度(「かくふく」と言ったりします)など)があります。

これらの制度を使えば、医療費の自己負担が高額療養費を利用した場合よりもさらに安くなったり、場合によっては自己負担が0円になったりします(詳しくは各機関に問い合わせてください)。

筆者の経験した中では、パーキンソン病が原因で成年後見制度を利用されている人の場合に指定難病医療費助成制度を利用したこともありましたし、山口県内であれば「かくふく」の利用者も複数人いらっしゃいました。

ある「かくふく」を利用している人の成年後見人に就任した直後のことですが、医療費等の請求書を見た際にあることに気づきました。

医療費の自己負担額は0円だったのですが、何かおかしい・・・それは食事の負担額が思いのほか高いように感じたのです。

計算してみると1食260円(当時)でした。

その人の所得区分では減額対象者だと思っていたのに、減額されていないのです。

そこで、医療機関に確認したところ、「限度額適用・標準負担額減額認定証」が出ていないので、食費を減額していないとのことでした。

つまり、医療費は減額されているけれど、食事の費用はその対象になっていないということなのです。

すぐに市役所に確認して手続をとり、「限度額適用・標準負担額減額認定証」の交付をうけました。

成年後見人がついたことで、必要な申請ができたよい例だと思います。

当時でこそ1食260円でしたが、現在は1食460円(指定難病でなければ)です。

「限度額適用・標準負担額減額認定証」を提示することで、その人の場合には最終的に1食160円となりました。

1食の差額は460円-160円=300円。

これだけみるとそんなに変わらないように思えるかもしれません。

でも、食事は原則1日3回、毎日あります。

たとえ1食の差額が300円であっても、これが30日ならば、300円×3回×30日=2万7000円、1年365日なら、300円×3回×365日=32万8500円になります。

これを失念してたら、本人への経済的負担は無視できないものになっていたはずです。

このように、医療費だけでなく、食事の費用も減額されますので、「限度額適用・標準負担額減額認定証」は忘れずに交付をうけてください。

ところで、「限度額適用・標準負担額減額認定証」という名称の中に、この仕組みが表されていることにお気づきでしょうか。

それは、「限度額適用」というのは医療費のことで、「標準負担額減額」というのが食事の費用のことなのです。

 

意外と忘れがちな「長期入院該当」に要注意

入院時の食事の費用の話題になったので、この点でもう一つ注意を要する制度をあげておきましょう。

それは「長期入院該当」と呼ばれる制度です。

たとえば、後期高齢者医療保険の場合には、過去12か月で区分Ⅱに該当する限度額適用・標準負担額減額認定証(以下、減額認定証)の交付を受けていた期間(他の健康保険加入期間も区分Ⅱ相当の減額認定証が交付されていれば通算できます。)の入院日数が90日を超える場合、申請により入院中の食費がさらに減額されます。

同様の制度は国民健康保険にもあります。

長期入院該当の申請を行えば、「限度額適用・標準負担額減額認定証」にその旨の記載がされますが、その適用日は申請日の翌月1日となります(申請日から月末までは差額支給の対象となります)。

この制度の注意するポイントは3つあります。

1つ目は、減額される対象が特定の所得区分に該当する人だけで、対象者なのかどうかがわかりにくいという点です。

2つ目は、入院日数90日超が必要なので、最初の入院時には申請ができないことです(あとの申請手続を忘れがちになるということです)。

3つ目は、申請日よりも前に遡って適用されないという点です。

成年後見人がこの手続きを失念して、減額を受けるタイミングが遅くなったというケースもあるようで、それが本人や家族とのトラブルに発展したということも聞いたことがあります。

そのようなトラブルを避けるために、法律事務職としては、入院時に「限度額適用・標準負担額減額認定証」を申請した際に、ついでに長期入院該当の可能性についても市区役所の窓口に確認しておいた方がよいと思います(筆者はそのようにしています)。

そして、該当可能性がある場合には、成年後見人である弁護士の先生に報告するとともに、入院日数管理を自主的に行っておくとよいでしょう。

その時がきても先生から指示がないような場合には、「長期入院該当の手続きをしなくても大丈夫ですか?」と積極的に確認作業を行うように心がけたいものです。

 

介護保険にも「介護保険負担限度額認定申請」手続きがあります

さて、これまでは公的医療保険についてみてきましたが、本人が利用することの多いもう一つの社会保険に介護保険があります。

そして、介護保険にも「介護保険負担限度額認定」という制度があります。

低所得者が、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)/介護老人保健施設/介護療養型医療施設/短期入所生活介護/短期入所療養介護(ショートステイ)といった対象施設を利用する場合に、申請により、食費と居住費等の負担軽減を受けることができる制度です。

ポイントは2つあります。

1つ目は、対象施設が限定されており、いわゆる有料老人ホームなどの場合には原則として対象とされないということです。

2つ目は、所得要件だけでなく、一定以上の預貯金などの資産がある場合は、負担軽減の対象外となるという資産要件が設定されているということです。

施設入所の際には、相談員などの職員から説明を受けることも多いと思いますので、手続きを忘れることは実務上あまりないように思います。

ただ、この手続きには、資産要件を確認するために、市区役所に通帳の写しなどを提出して預貯金額などを申告する必要があり、個人情報の保護の観点から施設職員に手続き代行を行わせることが適切とはいえない場合も考えられます。

その場合には、成年後見人が手続きを行うことになり、その際には使者として法律事務職が現場で手続きを行うことも少なくないでしょう。

毎年の更新もありますので、法律事務職が率先して期限管理などを行うとよいと思います。

また、施設入所当初は要件を満たさず手続きを取らなかった人が、のちに事情が変わって(預貯金を切り崩しているうちに資産要件を満たすようになるなど)要件を満たすようになることもあります。

そのような場合には直ちに「介護保険負担限度額認定」申請を行ってください。

「介護保険負担限度額認定」は申請日の属する月の1日から適用されるので、多少時間に余裕はありますが、社会保険手続きは該当したら直ちに行うのが鉄則です。

資産要件を微妙に超過しているような人の場合には特に注意しておきたいところです。

 

さいごに

医療保険や介護保険の限度額認定などの手続きは、それぞれにこまかいルールがあって、しかも改正が頻繁に行われるところでもあります。

法律事務職としては、あらかじめネットで信頼できる情報を集めたり、市区役所に問い合わせたりして、最新の正確な情報を持つことが必要になってきます。

医療機関への入院や、介護施設への入所は、成年後見業務には必ず起こるイベントといってよいものですので、必要な手続きを漏れなく迅速適正に行えるように、日々の情報に敏感になりたいものです。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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成年後見事務で覚えておきたい社会保険の基礎知識 その2

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本です。

筆者が法律事務職として働いているときにはよく知らなかった社会保険の基礎知識について、法律事務職の皆さま向けにまとめてみたいと思います。

今回は、成年後見事務編その2です。
ここでは、社会保険料の支払管理業務を中心に、筆者が実務上経験したこと交えてをお話ししたいと思います。

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医療保険や介護保険の普通徴収の場合は支払管理をしっかりと

本人に代わって医療保険料や介護保険料の支払いを行うのも成年後見人の業務です。

保険料の支払管理が必要なのは、医療保険では国民健康保険や後期高齢者医療保険(原則75歳以上)、介護保険では本人が第1号被保険者(65歳以上)である場合です。

同じ医療保険の場合でも、本人が会社などの健康保険の被保険者であれば保険料は給料から控除されますし、家族の被扶養者となっているのであれば保険料を支払う必要はありません。

また、介護保険の場合、第2号被保険者(40歳以上65歳未満)であれば、その保険料は医療保険料と併せて支払うことになっているので(平たくいえば医療保険料の中に介護保険料も含まれているということです)、介護保険料を単独で支払うことはありません。

筆者の経験では、介護保険を利用していた人(要介護度5)の介護保険料の支払い実績が確認できなかったので、滞納しているのかと思ってあわてて市役所に問い合わせたところ、その人が第2号被保険者(65歳未満)だったので介護保険料の支払いは必要ないと回答されたことがありました(医療保険料はちゃんと払っていました)。

筆者はその人が第1号被保険者で介護保険料の支払が必要だと勘違いしたわけですが、どうしてそのような勘違いがおきたかというと、「要介護度5で介護保険を利用している=65歳以上である(第1号被保険者である)」と思い込んだのです。

40歳以上65歳未満の第2号被保険者であっても、特定疾病に該当する場合には介護保険が使えますが、当時はその辺りの知識が足りなかったのだと思います。

話が逸れましたが、保険料の支払管理の話に戻しますと、これらの保険料の支払方法は、特別徴収(年金天引き)と普通徴収に分かれます。

「普通」と「特別」とありますが、特段の手続きを行わなければ、原則として特別徴収となります。

支払管理という点では、支払い忘れがないので、成年後見人としては特別徴収の方法で問題はないと思います。

ただ、何らかの理由で普通徴収になった場合(たとえば、そもそも年金が少なくて特別徴収の対象にならないような場合や、引越しをしたような場合に一時的に普通徴収になるようなこともあります)、納付書払い(現金払い)だけでなく口座振替の方法もありますので、できるだけ支払い忘れのないように口座振替の方法をとった方がよいでしょう。

普通徴収の場合には、保険料の支払い忘れがあれば、督促料や延滞金が課せられることがあります。

このように本人の経済的損失が生じることもありますので、成年後見人として保険料の支払管理をしっかりと行ってください(口座振替の場合でも残高確認を忘れずに)。

 

保険料の値上がりに目を光らせましょう

支払管理においては、期限管理だけでなく、保険料の金額が適正なものかどうかもチェックが必要です。

毎年保険者から保険料の決定通知が来ますので、前年と比較するなどして内容をしっかり確認してください。

前年と比べて保険料が上がっている場合には、必ずその原因を解明する必要があります。

全体として保険料率や保険料の額が上がっているような場合はしかたないですが、たとえば所得の申告を忘れていて、本来受けられるべき減免措置が受けられていないようなこともありえますので、しっかりとした確認が必要です(わからなければ、市役所など保険者に問い合わせた方がよいでしょう)。

保険料の値上がりですが、こういう時は普通徴収の納付書払いの方が気づきやすいかもしれません。

納付書払い(現金払い)の場合は数百円上がっても、「あれ?」と違和感を覚えます。

ただ、特別徴収や口座振替の場合であっても、成年後見人としてはそれを見落とすわけにはいきません。

こういう細かいところで、どれだけ注意深さを発揮できるのかは、法律事務職としての腕の見せ所だと思っています。

 

家族の国民健康保険料を本人が支払っている場合は要注意

成年後見業務で社会保険料支払管理をしていると、家族の国民健康保険料を本人(成年被後見人)が支払っているというケースが見受けられます。

筆者の経験したところでは、本人Aさん(75歳以上で後期高齢者医療保険)が、その子Bさん(国民健康保険)と同居していたところ、Aさんの後期高齢者医療保険の保険料だけでなく、Bさんの国民健康保険料の支払いを市役所から求められたケースがありました(同様のケースは数件ありました)。

筆者としては、AさんがどうしてBさんの国民健康保険料まで支払わなければいけないのか、当初はよく仕組みがわかりませんでした。

それは、Aさんが住民票上の世帯主になっていたからです。

国民健康保険料の支払義務は世帯主に生じます。

つまり、世帯主本人が国民健康保険加入者でない場合でも、家族に国民健康保険加入者がいれば、世帯主が国民健康保険料の納付義務者になるということです(これを擬制世帯主といいます)。

このケースでは、後期高齢者医療保険に入っているAさんが世帯主であるので、Bさんの国民健康保険料まで支払わなければならないというわけです。

法律上の義務ですので、成年後見人がこれを支払ったからといって、本人に違法な経済的損害を生じさせたということにはならないとは思いますが、本人の家計が収支均衡で少しでも支出を抑えたいというような場合には、家族の国民健康保険料まで負担しきれないということもあります。

本人に家族の保険料を負担させない方法としては、当該家族から国民健康保険料相当額を支払ってもらうとか、住民票上の世帯主そのものを変更したり、その家族を国民健康保険上の世帯主として世帯主変更をするとか(要件がありますが)、実態に応じて世帯分離をするなどが考えられますが、この辺りは法律事務職としては方法を知っておくだけでいいと思います。

ただ、法律事務職が本人が家族の保険料を負担しているという事実に気づいた場合には、成年後見人である弁護士の先生にすぐに報告するようにしてください(あとは、先生が判断されますのでその指示に従いましょう)。

 

国民年金保険料の支払管理が必要な場合もあります

これまで医療保険(国民健康保険や後期高齢者医療保険)や介護保険の保険料をみてきましたが、社会保険料にはもうひとつ年金保険料があります。

ただ、本人が高齢である場合にはそもそも国民年金保険料の支払義務はありませんし(国民年金保険料を支払うのは原則60歳までです)、60歳未満の障害者のケースでも、就労して厚生年金の被保険者である場合(この場合には給料から年金保険料は天引きされます)や、国民年金保険料の法定免除(障害や生活保護などが理由)に該当しているような場合には、国民年金保険料を払う必要はありません。

成年後見制度を利用しているのは、高齢者や障害者がほとんどで、上記のどれかに該当するので、国民年金保険料を払う必要はほとんどないのが実際だと思います。

筆者の経験上でも、成年被後見人で国民年金保険料を支払っているケースは数件あるかどうかです。

筆者の経験は少ないですが、国民年金保険料を支払っているケースとしては、60歳未満の障害者が、将来の老齢基礎年金の額を増やしたいために国民年金保険料を全額支払っているというケースがありました(障害や生活保護を理由にしたような国民年金保険料の全額の法定免除の場合、ざっくりいえば、その期間は将来の老齢基礎年金は半額になります)。

たしかに、精神障害などで有期認定の障害年金の場合(将来障害年金の支給停止の可能性がある場合)や、特別障害給付金(国民年金に任意加入していなかったことにより、障害基礎年金等を受給していない障害者への福祉的措置として、障害基礎年金よりも少ない額が支給される制度。申請により国民年金保険料が全額免除となる)を受給している場合には、将来の老齢基礎年金を増やすために、国民年金保険料を満額納めるという選択肢もありだと思います。

ちょっと難しい話になりましたが、本人の生活設計を考えるのも成年後見人の役割だと思いますので、特に本人が若い障害者の場合、いつからどういう年金をいくらもらうのかという生活設計は大切なことだと思っています。

 

さいごに

社会保険料の支払管理といった必要な支出の支払は、成年後見人の業務の中でも、法律事務職の皆さんが現場で担当することが多い業務のひとつだと思います。

決まった額を支払うだけですので、単純作業の雑務のように感じるかもしれませんが、現場で動いている法律事務職の皆さまだからこそ気づくことも多いはずです。

「保険料を支払っていないようだけど大丈夫だろうか」、「いつもより保険料が多いのではないだろうか」、「家族の保険料をどうして本人が払っているのだろうか」などなど現場で疑問に思ったことがあれば、遠慮せずに成年後見人である弁護士の先生に報告してください。

ほとんどのケースでは先生から「それは~という理由だよ」と教えてもらえるでしょうが、ときには「気づいてくれてありがとう。すぐに確認して対策をとろう」というようなこともあります。

筆者の経験から言っても、現場感覚はとても大切だと思っています。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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要注意!こんなケースでは介護保険負担限度額認定申請を忘れずに!!【成年後見実務の社会保険手続2】

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「忘れてはいけない 成年後見実務の社会保険手続」シリーズです。

成年後見特化法人の事務局社会保険労務士である筆者が、成年後見実務で行う社会保険手続のうち、つい忘れてしまいがちなものについて解説をしていきます。

第2回目は介護保険の負担限度額認定手続です。

 

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介護保険負担限度額認定制度の概要

  • 介護保険施設に入所等される人で、低所得の人の施設利用時の食費・居住費、ショートステイの食費・滞在費が負担増とならないように、一定額以上を保険給付する(食費や居住費などの自己負担額が減額される)制度
  • 低所得の人は所得に応じた負担限度額までを自己負担すればよい(残りの基準費用額との差額分は介護保険から給付される)
  • 対象となる介護保険施設は、介護老人福祉施設・介護老人保健施設・介護療養型医療施設。いわゆる老健や特養はこれに該当。有料老人ホームやグループホームは原則対象外
  • 対象となるための要件は、①世帯全員が市民税非課税であること(世帯分離をして住民票上、別世帯の配偶者でも市民税が非課税でなくてはならない)、②預貯金、有価証券、投資信託、金・銀及び現金などの資産が単身で1000万円以下、夫婦で2000万円以下であること(②を「資産要件」という)
  • 利用者負担段階は第1段階から第4段階までの4段階に区分されている(第4段階では原則減額は受けられない)
  • 第2段階(市民税非課税世帯で前年の合計所得金額と公的年金等収入額の合計が80万円以下)と第3段階(市民税非課税世帯で前年の合計所得金額と公的年金等収入額の合計が80万円を超える)では、所得金額だけではなく、非課税の障害年金や遺族年金などの収入額も合算されて段階が判定される
  • 虚偽の申告をした場合は、給付額の返還に加え、給付額の2倍の加算金が課される場合がある(いわゆる「3倍返し」のペナルティー)
  • 申請した月の初日から認定が適用される(月末に申請しても、その月の1日から減額される)

特に手続を忘れやすいケース

  • 同一世帯の誰か(住民税を課税されていた者)が亡くなって、その世帯が住民税非課税世帯となった場合:住民税非課税世帯になった(第4段階から第3または第2段階になった)にもかかわらず、成年後見人がそれに気づかない
  • 配偶者が亡くなって、資産要件を充たすようになった場合:配偶者と併せて2000万円を超える資産があったために従来限度額認定に該当していなかった者が、配偶者が亡くなって、資産が単身で1000万円以下になったにもかかわらず、成年後見人がそれに気づかない
  • 介護保険要介護認定の更新を介護施設等に代行してもらっている場合:介護保険負担限度額認定の申請や更新は、通帳等が必要になるため個人情報保護を理由に施設等で代行してもらえない場合がある。そのような場合、介護保険負担限度額認定更新手続は、成年後見人がしなければならないのに、それを失念し、更新期間を徒過してしまう

手続を忘れるとどうなるか?

  • 居住費や食費の自己負担が基準費用額から減額されない
  • 月をさかのぼって認定を受けることはできない(申請した月の初日より前にはさかのぼれない)
  • 仮に有効期限が7月31日で、8月中に更新申請手続をとらなければならないのに、9月になって申請した場合、8月分の居住費や食費は減額されない(9月1日から適用される)
  • たとえば、第2段階の人で特養従来型個室の場合、居住費の差額は730円(基準費用額1150円-第2段階負担限度額420円)、食費の差額は990円(基準費用額1380円-第2段階負担限度額390円)になる(1日当たり)
  • 仮に上記の差額が31日間生じた場合の負担増加額は、(730円+990円)×31日=5万3320円である

忘れないようにここをチェック

  • 介護保険負担限度額認定証の有無を確認し、ある場合には段階を、ない場合にはその理由(どの要件を充たしていないのか)を把握する(この段階で申請の失念に気付いたら直ちに申請する)
  • 本人の収入状況を把握する(非課税である遺族年金や障害年金も忘れずに)
  • 本人と配偶者の預貯金等資産状況を把握する(本人単身で1000万円を超えるのか、夫婦合算で2000万円を超えているのかなど)
  • 第4段階(住民税課税世帯)の場合、世帯の中の誰が住民税課税対象者なのかを把握しておく(本人単身であれば非課税なのかも併せて確認しておく)
  • 施設の担当者と介護保険負担限度額認定の申請・更新について誰が行うのか協議しておく(施設側が代行してくれるのか、成年後見人が行うのか。もっとも、本人や配偶者の預貯金等資産情報を提供する必要があるので、代行の依頼は慎重に対応することが望まれる)
  • 有効期限、申請(更新)期限の管理を徹底する(有効期限が終了する月の翌月末日までに申請できれば、負担増は回避できるが、余裕をもって申請すること。認定証の発行には数日を要する。もっとも、認定証の発行が月を跨いだとしても、申請した月の初日から適用されるので、とにかく有効期限が終了する月の翌月中には必ず申請すること)

さいごに

介護保険負担限度額認定制度は、①収入の判定に非課税の遺族年金や障害年金が合算されること、②資産要件(夫婦の預貯金等の合計額)が設けられていること、③非課税世帯の判断に世帯分離した配偶者も加えられることなど、他の制度ではあまりみられない特徴があります。

そのため本人さんがどの段階に該当するのか(そもそも介護保険負担限度額認定を受けられるのか)がわかりにくいところがあったり、本人さん以外の要因で段階が変更になることも想定されます(たとえば配偶者の死亡など)。

また、資産要件が導入されて以降、個人情報保護の点から、施設側に代行申請をお願いするのが難しくなってきたという経緯もあります。

介護保険負担限度額認定制度は介護保険施設入所には避けてはとおれない手続ですので、成年後見人としては制度をしっかり理解して、本人さんの不利益にならないように十分に気をつけたいところです。

なお、親族等から介護保険負担限度額認定申請にあたって不正(収入や資産の過少申告など)をお願いされることがあるかもしれませんが、絶対にそのようなことはしてはいけません。

3倍返しのペナルティーを受けるばかりか、懲戒や解任、損害賠償の事由にもなりかねません。

必ず正しい申請をしてください。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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要注意!こんなケースでは長期入院該当の申請を忘れずに!!【成年後見実務の社会保険手続1】

忘れてはいけない 成年後見実務の社会保険手続(1) ~長期入院該当申請

 

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成年後見特化法人の事務局社会保険労務士である筆者が、成年後見実務で行う社会保険手続のうち、つい忘れてしまいがちなものについて解説をしていきます。

第1回目は国民健康保険等の「長期入院該当」の申請手続です。

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長期入院該当とは

  • 長期入院該当とは、住民税非課税世帯等の低所得者の所得区分に該当する限度額適用・標準負担額減額認定証の交付を受けていた期間の入院日数が、過去12ヶ月で90日を超える場合、申請により入院中の食事代(食事療養標準負担額)が減額される制度
  • 対象となる所得区分は各保険によって異なるが、たとえば後期高齢者医療の場合には区分Ⅱ、70歳未満の国民健康保険の場合には住民税非課税世帯の区分がそれに該当する
  • 長期入院該当日以降、入院時の食事代が、1食当たり210円が160円に減額される
  • 長期入院該当日は申請日の翌月1日(長期入院該当の記載のある限度額適用・標準負担額減額認定証を病院に提示すれば、申請日の翌月分から食事代を1食160円として計算してくれる)
  • 申請日からその月の月末までは差額支給の対象(別途手続が必要)

 

特に手続を忘れやすいケース

  • 世帯分離や同世帯の誰かが亡くなるなどして、本人の所得区分が低所得者に変わった場合:新たに限度額適用・標準負担額減額認定証の交付を受けた後に、入院日数が90日を超過したのに気づかない
  • 本人が後期高齢医療制度の低所得者の場合:所得区分を区分Ⅰ(食事代1食100円)と勘違いして、実際には区分Ⅱ(長期入院該当の制度の対象)であることに気づかない ※国民健康保険等(70歳以上)の場合にも起こりえる
  • 本人がすでに入院を開始している状態で成年後見人に新規に就任したり、前任者から引き継いで就任した場合:成年後見申立や前任者の辞任申立の時点では入院日数90日以下だったものが、その後90日を超えたにもかかわらず、成年後見人がそれに気づかない
  • 入院中に本人が75歳になった場合:75歳以降後期高齢者医療に変わった場合でも、75歳前の国民健康保険の期間の入院日数を通算できる(所得区分が同等な場合)にもかかわらず、成年後見人がそれに気づかない

 

手続を忘れるとどうなるか?

  • 食事代が減額されない(1食210円のまま)
  • 1食50円の差額が生じる(それだけ多く支払うことになる)ので、仮にこの状態が6ヶ月(180日)継続した場合、1食50円×3食×180日=2万7000円を多く払うことになる
  • すぐに申請しても90日超過日に遡って適用されるわけではない

 

忘れないようにここをチェック

  • 本人が入院中の場合には、前任者(いる場合)や親族、病院の相談員などの関係者との引継の際に、入院日数を必ず確認する
  • 限度額適用・標準負担額減額認定証の有無を確認し、ある場合には所得区分を必ず確認する
  • 親族が保管している等の理由で認定証が手元にない場合は、市役所等で区分を照会する
  • 新たに限度額適用・標準負担額減額認定証を申請する場合には所得区分を確認して、長期入院該当制度が使える区分の場合には、その時点で90日超過の日を計算し、申請スケジュール管理を徹底する
  • 本人が入院中に75歳になって後期高齢医療制度に変わる場合には、75歳前の入院期間も通算して計算する
  • 入院日数をしっかり管理する(2月が入院期間に入っている場合、3ヶ月経過でも90日を超過していない場合もあるので要注意。たとえば、閏年でなければ1/1~3/31の入院日数は合計90日となり、90日を超過していない)
  • 入院費の領収証の保管を忘れない(申請の際の添付資料になる)

 

さいごに

長期入院該当は、低所得者の入院が長期になった場合に行う手続ですので、それほど頻繁に扱う手続ではありません(それゆえに、専門職後見人であっても制度自体をあまりご存じない方もいらっしゃいます)。

また、特に後期高齢者医療の場合には、低所得者の区分がさらに区分Ⅰと区分Ⅱにわかれていますので、区分をつい勘違いをしてしまうことも考えられます。

1食50円の差額とはいえ、食事は原則1日3食あるので、手続の懈怠が長期になればなるほど本人さんの経済的不利益は増えていきます。

本人さんの利益を守るために、長期入院該当の申請手続を忘れないようにご注意いただければと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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