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障害年金を受給したら、健康保険はどうなるのか?

障害年金の受給が公的医療保険(健康保険等)に与える影響を社会保険労務士が解説

社会保険労務士・オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回は、社会保険の国家資格である社会保険労務士が、障害年金を受給した場合に公的医療保険(健康保険等)にどのような影響があるのかを解説していきます。

話を整理するために、

  • 会社の健康保険に加入している人
  • 家族の会社の健康保険の扶養に入っている人
  • 国民健康保険に加入している人

この3つのケースについて考えます。

なお、この記事は投稿日(2020.5.18)現在の情報に基づいて執筆されています。

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結論から先にいいますと、

  • 健康保険の被保険者本人が障害年金を受給しても特に影響はありません
  • 健康保険の被扶養者が障害年金を受給した場合には扶養から外れてしまう可能性があります
  • 国民健康保険の被保険者が障害年金を受給した場合には保険料が安くなる可能性があります

というお話です。

それでは順にみていきましょう。

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健康保険の被保険者本人が障害年金を受給しても特に影響はありません

障害年金の受給者が、会社の健康保険に加入している(健康保険の被保険者本人である)場合には、健康保険に与える影響は特にありません。

保険料も変化しませんし、受けられるサービスが変わるわけでもありません。

そのまま健康保険に加入しつづけることができます。

 

なお、健康状態の問題で会社を辞めるのであれば、一般の退職の場合と同じく被保険者の資格は喪失します。

退職して資格喪失したあとは、①現在の健康保険の任意継続被保険者となる、②家族の健康保険の扶養に入る、③新しく国民健康保険に加入するといったパターンが考えられます。

 

健康保険の被扶養者が障害年金を受給した場合には扶養から外れてしまう可能性があります

障害年金の受給者が、家族が勤める会社の健康保険の扶養に入ってる(健康保険の被扶養者である)場合には、収入要件に影響があります。

健康保険の被扶養者になるためには、

被扶養者の年間収入が、

  • 130万円未満(60歳以上又は障害者の場合は年間収入180万円未満

であり、かつ

  • 被扶養者の収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満であること(同居の場合)
  • 被扶養者の収入が扶養者(被保険者)からの仕送り額未満(別居の場合)

のどちらかであることが原則として必要です。

そして、この「被扶養者の年間収入」には非課税所得である障害年金も含まれます。

 

つまり、被扶養者の障害年金を含めた年間収入が、

  • 180万円以上になった場合
  • 180万円未満でも、被保険者の収入の半分以上となった場合(同居の場合)か仕送り額以上になった場合(別居の場合)

には、原則として被扶養者になれない(=扶養から外れる)ということです。

例外として、同居の場合には扶養者(被保険者)がその世帯の生計維持の中心的役割を果たしていると認められるときには、被扶養者の収入が被保険者の収入の半分以上となった場合でも扶養が認められることもあります。

 

障害年金の受給者が扶養から外れた場合には、新たな公的医療保険(ほとんどが国民健康保険になるでしょう)に加入する必要があります。

 

国民健康保険の被保険者が障害年金を受給した場合には保険料が安くなる可能性があります

障害年金の受給者が、自ら国民健康保険に加入している場合には、国民健康保険を継続できるのはもちろんですが、翌年度からの国民健康保険料が安くなることもあります。

障害年金は非課税所得ですので、障害年金しか収入がない場合にはその人の国民健康保険料の所得割は0になります。

また、国民健康保険料の均等割も低所得であれば一定の減額を受けることができます(この減額を受けるためには、所得がないことを申告する必要があります。詳しくは、「障害年金をもらいはじめたら確定申告をしなければならないの?【年金の常識15】」をお読みください)。

 

なお、国民健康保険料は世帯主に納付義務が生じます。

なので、たとえば、世帯主である夫は会社の健康保険に加入しているような場合でも、妻が障害年金を受給し始めて扶養から外れて国民健康保険に加入したような場合には、妻の国民健康保険料を世帯主である夫が納付する義務が生じます。

 

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まとめ

今回は、障害年金を受給した場合に公的医療保険(健康保険等)にどのような影響があるのかという問題について、

  • 健康保険の被保険者本人が障害年金を受給しても特に影響はありません
  • 健康保険の被扶養者が障害年金を受給した場合には扶養から外れてしまう可能性があります
  • 国民健康保険の被保険者が障害年金を受給した場合には保険料が安くなる可能性があります

というお話をしてきました。

日本では国民皆保険制度が整っていますので、何らかの公的医療保険に加入するのが原則です。

公的医療保険にも複数の種類がありますのでややこしいところではありますが、いろいろと情報を集めて対応してもらえればと思います。

なお、公的医療保険には原則75歳以上の人が加入する後期高齢者医療保険制度というものもありますが、国民健康保険の場合とほとんど同じだと思ってください(納付義務者は被保険者本人ですが、世帯主や被保険者本人の配偶者が連帯納付義務者となるといった違いはあります)。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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前後の記事

前の記事:障害年金をもらいはじめたら確定申告をしなければならないの?【年金の常識15】

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傷病手当金【健康保険】 意外とよくある勘違い5選

健康保険の傷病手当金で勘違いしやすいポイントを社会保険労務士が解説

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回は、傷病手当金のお話です。

ここでの傷病手当金は、全国健康保険協会(協会けんぽ)の健康保険のものを取り上げています(健康保険組合(組合健保)などの被保険者の場合にはご加入の保険者のホームページなどをご参照ください)。

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傷病手当金とは、健康保険の被保険者が、①業務外の病気やケガの療養のために、②労務に服することができない場合、③その労務に服することができなくなった日から継続した3日が経過した日(4日目)から、④給与の支払いがない(傷病手当金より少ない場合も含む)ときに、支給されるものです。

傷病手当金の支給額は、1日につき、支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額÷30×2/3 に相当する額です。

給与の全額というわけにはいきませんが、傷病手当金は非課税所得ですし、傷病手当金をもらったからといって翌年の健康保険料が上がるわけでもありませんので、病気やケガで仕事ができないときにはありがたい制度です。

ただ、こういうありがたい制度なのですが、そうそう頻繁に支給を受けるものでもないので、社会人歴が長い人でも意外と勘違いしているところもあるように思います。

仕事に関係のない病気やケガの場合に傷病手当金はもらえます

労災保険との混同だと思われるのですが、傷病手当金は仕事に関係する病気やケガでなければもらえないと勘違いしている人がいます。

前述のように、傷病手当金は、「①業務外の病気やケガの療養のために」仕事を休んだときにもらえるものですので、むしろ業務上の病気やケガ(労災保険の業務災害や通勤災害)の場合には、傷病手当金はもらえません。

これを私傷病といったりもしますが、レジャーで出かけた旅先で事故にあってケガをしたとか、最近では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にかかって仕事に出られないような場合(業務外の感染の場合)などがこれに該当します。

労災でなければ、傷病手当金の対象になるとお考えください。

 

持病でも傷病手当金はもらえます

傷病手当金は、会社に入って健康保険に加入した後に発生した病気やケガでなければもらえないと勘違いしている人がいます。

公的な医療保険である健康保険には加入時の告知義務もありませんし、加入前からの病気やケガであっても療養の給付(病院で3割負担で治療を受けられること)の対象になることは、比較的知られていると思います。

これと同様に、健康保険に加入前の病気やケガであっても、傷病手当金の対象になりえます。

つまり、持病があっても健康保険に加入はできますし、その持病の療養のために休んだ場合には傷病手当金の対象になるということです。

 

入院していなくても傷病手当金はもらえます

民間の医療保険(入院保険)との混同だと思われるのですが、傷病手当金は入院していないともらえないと勘違いしている人がいます。

たしかに、傷病手当金は、「②労務に服することができない場合」にもらえるものですので、入院の場合にはこの要件を充たすのが原則です。

しかし、通院しながらの自宅療養の場合であっても、労務に服することができないと認められれば、傷病手当金の対象になります。

なお、その判断のために、「傷病手当金支給申請書」には「療養担当者記入用」ページの「療養担当者の意見書」とよばれる欄があって、担当医師等がその欄を作成することになっています。

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継続3日間の待期中に有給休暇を取得しても、待期期間は成立します

傷病手当金をもらうためには、「④給与の支払いがない」ことが必要ですが、「③継続した3日が経過した日」(待期3日間)の成立を判断するときには、給与の有無は関係ありません。

ここを混同して、待期3日間にも「給与の支払いがない」ことが必要だと勘違いしている人がいます。

療養のために労務に服することができずに休んでいるのであれば、給与をもらっていたとしても、待期3日間は成立します。

休んでいても給与がもらえる場合というのは、たとえば年次有給休暇を取得したような場合が該当します。

つまり、待期3日間に年次有給休暇を取得したとしても、待期期間は成立するということです。

なお、待期3日間の後の4日目以降に年次有給休暇を取得した場合、その日は「④給与の支払いがない」とはいえないため、傷病手当金はもらえないのが原則です(ただし、ごくまれに年次有給休暇の1日分の賃金が、傷病手当金よりも少ないことがあります。その場合には差額が傷病手当金として支給されます)。

 

休日であっても傷病手当金はもらえます

傷病手当金は、所定労働日に休んだ場合でなければもらえないと勘違いしている人がいます。

たしかに、傷病手当金では「④給与の支払いがない」ことが必要なので、所定労働日に休んだ場合が前提になっているように思ってしまうのもわからなくはありません。

しかし、実は①~③を充たせば、傷病手当金は発生しうるのあって(健康保険法99条1項)、④の給与との調整は別の規定(健康保険法108条1項)で定められています。

つまり、会社の公休日や日曜、祭日などの休日であっても、療養のために労務不能であれば、傷病手当金は発生するということです。

なお、「傷病手当金支給申請書」には「事業主記入用」ページの「事業主証明」とよばれる欄があって、そこには勤務状況や賃金支払い状況等を記入する欄があります。

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さいごに

今回は、健康保険の傷病手当金について、意外とよくある勘違いを5つピックアップして、ポイントを解説してみました。

病気やケガで仕事を休んで収入が減ってしまうのは、社員にとっては経済的に大きな負担となります。

年次有給休暇もいつまでもつかえるわけではありません。

もちろん、万が一のときに備えて、しっかりと貯蓄をしたり、民間の医療保険を利用するなどのリスクマネジメントをしておく必要はあるでしょう。

しかし、そのような準備が万全でなかったとしても、傷病手当金が支給されればある程度の減収の補填を行うことができます。

また、傷病手当金は、同一の病気やケガに関して、支給を始めた日から「通算して」1年6ヶ月間支給されますし、退職して健康保険の被保険者でなくなっても一定の条件を充たせば退職後も継続して支給されます(2022年1月から支給期間が支給開始日から「通算して」1年6ヶ月間と改正されましたので、その点加筆しました)

このように、傷病手当金はいざというときに頼りになる制度ですので、正しい知識を身につけて、適正に利用していただければと思います。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

前後の記事

前の記事:いまだから知りたい休業手当と傷病手当金 誰がどんなときにいくらもらえるの?

後の記事:未納保険料を後から払えば障害年金はもらえるの?【年金の常識14】

 

いまだから知りたい休業手当と傷病手当金 誰がどんなときにいくらもらえるの?

休業手当と傷病手当金の違いを社会保険労務士がわかりやすく解説

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回は会社員が会社を休んだときの所得補償のお話です。

最近は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響もあって、にわかに注目が集まっている話題だと思います。

投稿日現在、厚生労働省のホームページにも「新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)令和2年3月11日時点版」が設けられ、「2 労働基準法における休業手当、年次有給休暇」において休業手当や傷病手当金のことにふれられています(くわしくはこちら)。

とくに、問1では新型コロナウィルスに感染して休む場合の質問が設定されていて、そこでは「都道府県知事が行う就業制限により労働者が休業する場合には、一般的には休業手当は支払われないが、要件を充たせば被用者健康保険(健康保険など)の傷病手当金が給付される」との趣旨の回答があります。

そこで今回は、休業時の所得補償について「誰が、どんなときに、いくらもらえるのか」を休業手当と傷病手当金を例に比べてみようと思います。

なお、ここでの傷病手当金は、全国健康保険協会(協会けんぽ)の健康保険のものを取り上げていますので、健康保険組合(組合健保)などの被保険者の場合にはご加入の保険者のホームページなどをご参照ください。
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そもそも休業手当と傷病手当金ってなに?

休業手当と傷病手当金の制度の概要をご紹介しましょう。

  • 休業手当:会社の都合(使用者の責に帰すべき事由)で休業した場合に、会社(使用者)が社員(労働者)に支払う手当(労働基準法26条)
  • 傷病手当金:社員(被保険者)が病気やケガの治療(療養)のために、仕事ができなくなった場合に、保険者から支給される保険給付(健康保険法99条)

ここで注意したいのは、休業手当は会社が社員に直接支払うものですが、傷病手当金は保険者(協会けんぽなど)が被保険者に給付するものですので、お金を払う主体が異なっています。

つまり、休業手当は会社の負担ですが、傷病手当金は健康保険の保険給付として行われる(会社の直接の負担なし)ということです。

 

誰がもらえるの?

どのような人が休業手当や傷病手当金をもらえるのかをみてきましょう。

  • 休業手当:労働者(職業の種類を問わず、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者。労働基準法9条)
  • 傷病手当金:被保険者(健康保険に加入している本人)

休業手当がもらえる労働者は、正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトなども含みます。

これに対して、傷病手当金は健康保険に加入している本人にしか支給されません(パートタイマーやアルバイトは健康保険に加入できないケースが多いので、その場合には対象から外れてしまいます)

 

どんなときにもらえるの?

どのようなときに休業手当や傷病手当金はもらえるのかをみていきましょう。

  • 休業手当:使用者の責に帰すべき事由による休業があったとき(企業の経営者として不可抗力と主張できない一切の場合)
  • 傷病手当金:①業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること、②仕事に就くことができないこと、③連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと、④休業した期間について給与の支払いがないこと、の①~④をすべてみたしたとき

休業手当が発生する「使用者の責に帰すべき事由」は不可抗力でない場合を広く含んでいるので、業績不振による休業の場合だけでなく、親工場の経営難から下請工場が資材や資金を調達できなくなって休業した場合なども広く該当します。

そうだとすると、新型コロナウイルスの感染防止のために、会社が自主的に休業するような場合には、「使用者の責に帰すべき事由」に該当するといって差し支えないでしょう。

しかし、社員が新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由」には該当しないとされています(新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)令和2年3月11日時点版 2問1参照)。

ましてや、微熱などの症状がある社員が、万が一の感染拡大を防止するために自主的に休業するような場合は「使用者の責に帰すべき事由」には該当しません(新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)令和2年3月11日時点版 2問2参照)。

 

これに対して、傷病手当金は、①業務外の事由による病気やケガの療養のための休業の場合に支給されますので、社員が新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により休業する場合も該当すると考えられます(上記①~④の要件をすべて充たす必要があります)。

また、微熱などの症状がある社員が、万が一の感染拡大を防止するために自主的に休業するような場合(かつ結果として感染していなかった場合)については、②仕事に就くことができないことという要件が問題になります。

傷病手当金は自宅療養の場合でももらえますが、これは症状次第というほかありません。

とくに、軽微な症状にすぎない場合(かつ感染していない場合)に、②仕事に就くことができないといえるのかという点は、難しいところもでてくるでしょう(このあたりは保険者に柔軟に対応してほしいところですが)。

 

なお、新型コロナウイルスへの感染が業務災害や通勤災害と認定された場合には、労災保険の休業(補償)給付が支給されるので、健康保険の傷病手当金は支給されません。

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いくらもらえるの?

休業手当や傷病手当金はいくらもらえるのかをみてきましょう。

  • 休業手当:平均賃金の6割以上
  • 傷病手当金(1日):支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額÷30×2/3

休業手当の計算の基礎となる「平均賃金」とは、事由の発生した日以前の3ヶ月間の賃金の総額をその期間の総日数(=暦日数)で割った金額をいいます。

賃金の総額には、時間外・深夜や休日の割増賃金や通勤手当などの各種手当も含まれますが、3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)は含まれません。

 

これに対して、傷病手当金の計算の基礎には「標準報酬月額」を用います。

標準報酬月額とは、被保険者が事業主から受ける毎月の給料などの報酬月額に基づいて、区切りのよい幅で区分したものです(健康保険は第1級の5万8000円から第50級の139万円までの全50等級に区分されています)。

標準報酬月額には、賞与の額は反映されていませんし、いったん決まれば原則1年間は変わらないので、直近の割増賃金なども必ずしも反映されていません。

 

具体的な金額をみてみましょう。

たとえば、継続する12ヶ月間の標準報酬月額の平均が20万円の人が、3ヶ月間(暦日数91日)の賃金の総額が66万円だった場合、

  • 休業手当(1日):66万円÷91日×60%=4352円(端数処理済み)以上
  • 傷病手当金(1日):20万円÷30×2/3=4447円(端数処理済み)

となります。

 

なお、休業手当は、休日(労働契約上の労働義務のない日)には支払われません(休日に休むのは、使用者の責に帰すべき事由ではないからです)が、傷病手当金はいわゆる公休日にも支給されます。

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さいごに

この記事は、2020年3月15日時点の情報に基づいて書かれています。

政府は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために小学校等が臨時休業した場合等に、その小学校等に通う子の保護者である労働者に有給休暇(法定の年次有給休暇を除く)を取得させた企業に対する助成金を新設する旨を公表しています。

また、新型コロナウイルスの影響などで休業して休業手当を払う企業に対して、雇用調整助成金を拡充する政策も打ち出しています。

これらの政策は一定の評価ができるものだと思います。

しかし、今回みてきたように、微熱などの症状がある会社員が、万が一の感染拡大を防止するために自主的に休業するような場合には、休業手当も傷病手当金(症状にもよりますが)も難しいのが現状です。

このような場合には、会社に有給の病気休暇制度があればそれを使い、なければ社員の年次有給休暇を使うかしかありません。

このような場合の所得補償については、今後の政府の新たな対策が待たれるところですので、注視していきたいと思っています。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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要注意!こんなケースでは長期入院該当の申請を忘れずに!!【成年後見実務の社会保険手続1】

忘れてはいけない 成年後見実務の社会保険手続(1) ~長期入院該当申請

 

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回から「忘れてはいけない 成年後見実務の社会保険手続」シリーズをスタートします。

成年後見特化法人の事務局社会保険労務士である筆者が、成年後見実務で行う社会保険手続のうち、つい忘れてしまいがちなものについて解説をしていきます。

第1回目は国民健康保険等の「長期入院該当」の申請手続です。

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長期入院該当とは

  • 長期入院該当とは、住民税非課税世帯等の低所得者の所得区分に該当する限度額適用・標準負担額減額認定証の交付を受けていた期間の入院日数が、過去12ヶ月で90日を超える場合、申請により入院中の食事代(食事療養標準負担額)が減額される制度
  • 対象となる所得区分は各保険によって異なるが、たとえば後期高齢者医療の場合には区分Ⅱ、70歳未満の国民健康保険の場合には住民税非課税世帯の区分がそれに該当する
  • 長期入院該当日以降、入院時の食事代が、1食当たり210円が160円に減額される
  • 長期入院該当日は申請日の翌月1日(長期入院該当の記載のある限度額適用・標準負担額減額認定証を病院に提示すれば、申請日の翌月分から食事代を1食160円として計算してくれる)
  • 申請日からその月の月末までは差額支給の対象(別途手続が必要)

 

特に手続を忘れやすいケース

  • 世帯分離や同世帯の誰かが亡くなるなどして、本人の所得区分が低所得者に変わった場合:新たに限度額適用・標準負担額減額認定証の交付を受けた後に、入院日数が90日を超過したのに気づかない
  • 本人が後期高齢医療制度の低所得者の場合:所得区分を区分Ⅰ(食事代1食100円)と勘違いして、実際には区分Ⅱ(長期入院該当の制度の対象)であることに気づかない ※国民健康保険等(70歳以上)の場合にも起こりえる
  • 本人がすでに入院を開始している状態で成年後見人に新規に就任したり、前任者から引き継いで就任した場合:成年後見申立や前任者の辞任申立の時点では入院日数90日以下だったものが、その後90日を超えたにもかかわらず、成年後見人がそれに気づかない
  • 入院中に本人が75歳になった場合:75歳以降後期高齢者医療に変わった場合でも、75歳前の国民健康保険の期間の入院日数を通算できる(所得区分が同等な場合)にもかかわらず、成年後見人がそれに気づかない

 

手続を忘れるとどうなるか?

  • 食事代が減額されない(1食210円のまま)
  • 1食50円の差額が生じる(それだけ多く支払うことになる)ので、仮にこの状態が6ヶ月(180日)継続した場合、1食50円×3食×180日=2万7000円を多く払うことになる
  • すぐに申請しても90日超過日に遡って適用されるわけではない

 

忘れないようにここをチェック

  • 本人が入院中の場合には、前任者(いる場合)や親族、病院の相談員などの関係者との引継の際に、入院日数を必ず確認する
  • 限度額適用・標準負担額減額認定証の有無を確認し、ある場合には所得区分を必ず確認する
  • 親族が保管している等の理由で認定証が手元にない場合は、市役所等で区分を照会する
  • 新たに限度額適用・標準負担額減額認定証を申請する場合には所得区分を確認して、長期入院該当制度が使える区分の場合には、その時点で90日超過の日を計算し、申請スケジュール管理を徹底する
  • 本人が入院中に75歳になって後期高齢医療制度に変わる場合には、75歳前の入院期間も通算して計算する
  • 入院日数をしっかり管理する(2月が入院期間に入っている場合、3ヶ月経過でも90日を超過していない場合もあるので要注意。たとえば、閏年でなければ1/1~3/31の入院日数は合計90日となり、90日を超過していない)
  • 入院費の領収証の保管を忘れない(申請の際の添付資料になる)

 

さいごに

長期入院該当は、低所得者の入院が長期になった場合に行う手続ですので、それほど頻繁に扱う手続ではありません(それゆえに、専門職後見人であっても制度自体をあまりご存じない方もいらっしゃいます)。

また、特に後期高齢者医療の場合には、低所得者の区分がさらに区分Ⅰと区分Ⅱにわかれていますので、区分をつい勘違いをしてしまうことも考えられます。

1食50円の差額とはいえ、食事は原則1日3食あるので、手続の懈怠が長期になればなるほど本人さんの経済的不利益は増えていきます。

本人さんの利益を守るために、長期入院該当の申請手続を忘れないようにご注意いただければと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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健康保険の境界層該当者って何?【社労士試験受験生】

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本博方です。

本年度(平成30年度)の社会保険労務士試験を受ける皆さまは、追い込みの暑い夏を闘っておられることと思います。

最近の社会保険労務士試験の傾向として、いわゆる過去問からの再出題確率が低下し、法改正の出題確率が上がっていると言われています。

今年は比較的大きな法改正が多くないと言われていますが、そうであっても、法改正の対策はしっかりやらないといけないことに変わりはありません。

今日は、本年度の試験の出題対象である法改正について、健康保険法で気になったところを述べたいと思います。

出題予想ではありませんが、ご参考になれば幸いです。
 

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筆者が健康保険法の改正で気になったのは、入院時生活療養費に係る生活療養標準負担額の改正において、その減額対象者の区分に「境界層該当者」が加わったことです。

境界層該当者とは、健康保険法規則62条の3(生活療養標準負担額の減額の対象者)6号に「被保険者又はその被扶養者が療養のあった月において要保護者(生活保護法(昭和二十五年法律第百四十四号)第六条第二項に規定する要保護者をいう。)である者であって、第三号及び前号の規定の適用を受ける者として生活療養標準負担額について減額があれば生活保護法の規定による保護を要しなくなるもの」と規定されています。

少しわかりにくいので、要約すれば、境界層該当者とは「(生活療養標準負担額の)食費が1食100円、居住費が1日0円に減額されたとすれば、生活保護法の規定による保護を必要としない状態となる者」のことです(具体的な金額については、あとで述べます)。

健康保険法でありながら、生活保護法との関係で境界層該当者になるかならないかが決まるということです。

ちなみに、保険者がどうやって境界層該当者であるかを判断するかというと、福祉事務所長の「限度額適用・標準負担額減額認定該当(境)」と記載された保護申請却下通知書もしくは保護廃止決定通知書などによって行うこととされています。

 

また、今回の改正では、生活療養標準負担額に係る食費及び居住費の引き上げが行われています(平成29年6月30日厚生労働省告示239号)。

具体的には、居住費(1日)に関しては、

  • 「入院医療の必要性の高い患者、指定難病の患者」以外の者:320円から370円に引き上げ(境界層該当者区分(0円)以外の区分では、すべて370円)
  • 「入院医療の必要性の高い患者」:0円から370円に引き上げ(境界層該当者区分(0円)以外の区分では、すべて370円)
  • 「指定難病の患者」:0円に据え置き
  • 「境界層該当者」(入院医療の必要性の高低、指定難病の有無にかかわらず):0円

となりました(居住費に関しては、指定難病の患者及び境界層該当者が0円で、それ以外は370円ということです)。

また、食費(1食)に関しては、「入院医療の必要性の高い患者」の一般所得者区分において改正があり、「入院医療の必要性の高い患者、指定難病の患者」以外の者の一般所得者区分と同じになりました。

すなわち、

  • 「入院医療の必要性の高い患者」の一般所得者で「生活療養Ⅰ」(食事の提供が管理栄養士または栄養士による適切な栄養量及び適時・適温の食事提供が行われている等の基準を満たす場合):360円から460円に引き上げ
  • 「入院医療の必要性の高い患者」の一般所得者で「生活療養Ⅱ」:360円から420円に引き上げ

となりました(指定難病患者以外の一般所得者は、入院医療の必要性の高低にかかわらず、「生活療養Ⅰ」が460円、「生活療養Ⅱ」が420円ということです。ちなみに指定難病患者の一般所得者は260円です)。

なお、70歳未満の「低所得者」及び70歳以上の「低所得者Ⅱ」の食費(1食)は、指定難病患者も含めて210円です(長期入院該当の場合は160円)。

また、70歳以上の「低所得者Ⅰ」の食費(1食)は、「入院医療の必要性の高い患者」及び「指定難病の患者」が100円、それ以外の者が130円です。

そして、繰り返しになりますが、入院医療の必要性の高低や指定難病の有無にかかわらず、境界層該当者の食費(1食)は100円です。

 

ところで、金額だけみると、たとえば、入院医療の必要性の高い患者(一般所得者も低所得者も)の居住費は改正前は0円(正確にはH29.10から200円)だったものが、H30.4からは370円になったのですが、一見すると370円程度ならそれほど負担にはならないのではないかと思う人もいるかもしれません。

しかし、これは1日の金額です。

入院時生活療養費の対象者は長期入院されている人も多いので、この引き上げは、

1ヶ月(30日)なら、370円×30日=1万1100円

1年(365日)なら、370円×365日=13万5050円

となり、特に低所得者には無視できない金額であることがおわかりになると思います。

場合によっては、この負担が増えることで、生活保護が必要になる人も出るかもしれません。

そこで、境界層該当者という区分を設けて、その防止を図ってるということでしょう。

 

また、これに関連して、もう一つ、健康保険法の改正を紹介すると、入院時食事療養費に係る食事療養標準負担額が、一般所得者区分で、1食360円から460円に引き上げられました(社労士試験の受験生の皆さまであれば、入院時食事療養費と入院時生活療養費の違いの説明は不要と思いますので、ここでは触れません)。

こちらも、一見するとたった100円の引き上げと考えがちですが、食事は原則1日3食あります。

つまり、仮に30日入院したとすれば、

1食100円×3食×30日=9000円

の引き上げということです。

長期に入院する場合には、この負担はじわじわ効いてきます。

筆者の担当する成年被後見人さんの中には、この負担増加により家計収支が赤字になった人もいらっしゃいます。

家計収支が赤字になるということは、赤字分は預貯金を切り崩して対応せざるを得ないということです。

負担の公平な分担が必要だということは理解できるのですが、実際問題となるとなかなか割り切れないところでもあります・・・

 

今回は、健康保険法の改正のうち、入院時生活療養費に係る生活療養標準負担額の引き上げとそれに伴う境界層該当者についてまとめてみました(最後は食事療養標準負担額の引き上げをからめて、愚痴のようになりましたが)。

もちろん、この他にも法改正はありますので、受験生の皆さまにはしっかり準備をして本試験に挑んでいただきたいと思います。

皆さまの合格を心よりお祈り申し上げます。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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