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おひとり様の入院保証人・死後の手続きが心配? シングルライフステージの「まもり」の準備は50代から

「ゆとり・つながり・まもり」の3つの「り」メイクでシングルライフステージを支援する「ボードゲーム系社労士&ファイナンシャルプランナー」の徳本です。

今回は「まもり」のお話をします。

「おひとり様」の将来について考えたとき、ちょっと気がかりなことってありませんか?

たとえば、こんな気がかり。

入院するとき、保証人ってどうしたらいいの?

自分が亡くなった後、手続きって誰がやってくれるのだろう?

50代にもなると、元気ではいても、「いざというとき」のことが気になり始めるものです。

かくいう筆者(50代)も「5080」問題の当事者であり「おひとり様」予備軍です。

14年以上成年後見業務の事務局長を務めている経験をふまえて、当事者目線で「おひとり様」のための「入院」と「死後」の備え方について、わかりやすくお話しします。

テーマは「気がかり」を「まもり」に変える——あなた自身を守る、ちょっとした準備です。


◆ 入院時の「保証人がいない」問題

病院に入院するとき、保証人を求められることが多いのをご存じですか?

保証人とは、入院費が支払えなくなったときや、医師との連絡が必要なときに代わりに対応してくれる人のこと。

でも、おひとり様にとってこれは、意外と大きなハードルです。

最近では「本当に入院時に保証人が必要なのか」、「(どうしても保証人が見つからない場合に)保証人がいないことを理由に入院を断れるのか」という問題意識が広がっています(これは超重要なことです!)。

しかし現実的には保証人問題は根強く残っていて、未だに解決したとはいいがたいところです。

とりあえずは「決まりなので」ということで保証人を求められる可能性は高いです。

「そもそも家族がいない」「親族はいるけど遠方に住んでいる」「疎遠になっていて頼みにくい」——そんな方は、どうすればいいのでしょう?

▼ 対応策①:事前に病院とよく相談しておく

病院には患者さんの困りごとに対応してくれる相談員と呼ばれる医療・福祉の専門のスタッフが配置されていることがあります。

入院の話がでたら、相談員にあらかじめ事情をよく伝えておいて、入院時の対応策を相談しておくことが必要です。

行政など病院外の機関や組織と連携をとってくれることもありますので、入院までに時間の余裕があるなら、しっかりと相談しておきましょう。

筆者の経験上、最近は、入院保証人の問題意識が共有されており、柔軟に対応してくれる病院も増えている印象です。

きっと親身になってあなたの相談にのってくれるはずです。

なお、身寄りのない人の入院時の問題などは、厚生労働省の「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン及び事例集」も参考になります。

▼ 対応策②:信頼できる人に、あらかじめ相談しておく

親しい友人や元同僚、近所の人、遠い親戚の人などに、「万が一のときに、連絡先として名前を出していい?」と前もって話しておくと安心です。

保証人までは頼めなくても、緊急連絡先としてお願いできるだけでも十分です。

入院となると、いろいろな手続きや日常の雑務を自分だけではなかなかできなくなります。

代理人のような正式な権限はなくとも、信頼できるサポート役がいてくれるだけで安心感が違います。

▼ 対応策③:民間の「身元保証サービス」を使う

NPO法人や民間業者などが「身元保証」を請け負ってくれるサービスもあります。

これは、入院や施設入所の際に必要な保証人・連絡先を専門家が代行してくれる仕組み

中には、死後の手続きまでトータルで任せられるプランもあります。

ただし、費用は数十万円(委託内容によってはそれ以上)かかるケースもあるので、サービスの中身や料金、運営元の信頼性など、あなた自身が納得いくまでしっかりと確認して選びましょう。

正直言って、信頼性に乏しい民間業者がいないわけではありません

最新の流れとしては、そういった問題意識を受けて、地域の社会福祉協議会や行政から委託をうけた民間業者などがこのようなサービスを行っているケースもあるようです。

今はやっていなくても、社会福祉協議会の新規の事業として始まることもあります。

いずれにしても、現時点でできることは、事前に地域の情報収集を行っておくことです。

社会福祉協議会や民間業者の最新情報を定期的に確認しておきましょう。

その際には、政府の作成した「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」も参考になります(たとえば、消費者庁の「高齢者等終身サポート事業に関する事業者ガイドラインについて」というホームページをご参照ください)。

なお、将来的には信頼できる民間業者を登録する仕組みもできてくると思います。


◆ 「亡くなったあとのこと」、準備してますか?

入院の次に気がかりなのが「死後」のこと。

お葬式、住まいの片付け、役所の届け出、銀行口座の解約……

これらの手続きは、家族がいれば誰かがやってくれますが、おひとり様の場合はそうもいきません

「誰がやってくれるのか分からない」ままでは、周囲に迷惑がかかったり、望まない形で物事が進んでしまう可能性も。

だからこそ、あなたが生きているうちにきちんと準備しておくことが大切です。

▼ 対応策①:死後事務委任契約を結んでおく

「死後事務委任契約」とは、あなたが亡くなったあとに必要な手続きを信頼できる人(または法人)にお願いするための契約です。

葬儀、納骨、役所の手続き、住まいの片付けまで——

お願いできる内容は幅広く、公正証書にしておけば法的に契約内容を明確にしておくこともできます。

最近は、弁護士や司法書士、行政書士、NPO法人などがこのサービスを提供していることも多くなっています。

事前に死後事務に必要なお金を預けておくことになるので、「手数料と預け金の別」、「何をいくらでやってくれるのか」など契約内容をはっきり確認して、自分に合ったサービスを探しておきましょう。

なお、場合によっては、あなたの死後に法定相続人との間で問題になることもあります。

そういったトラブルを防ぐためにも、遺言作成とセットで死後事務委任契約を行うこともあります。

▼ 対応策②:遺言をつくっておく

遺言によって、あなたの財産を誰に残すかなど法律で定められた事項を生前に文書として残しておくことができます。

法的に有効な遺言書の作り方については、ここでは詳しくふれませんが、遺言の種類に自筆証書遺言というものがありますので、これは自分だけで比較的気軽に簡単に作成することができます。

もちろん、専門家に相談して公正証書遺言を作るのもいいでしょう。

ただ、遺言で一番気を付けたいのは「作ったはいいけど、どこにあるのかわからない」問題です。

特に自分だけで作った自筆証書遺言ではこういうことが起こりがちです。

遺言執行者を指定しておくといったこともできますが、そこまでいかなくても、信頼のできる人に遺言書のありかだけは伝えておくのもいいでしょう。

また、公的制度として「自筆証書遺言書保管制度」を利用することも検討してください(手続きなど詳しいことは法務局にお問合せください)。

▼ 対応策③:エンディングノートで想いを伝える

遺言に比べて、もう少し気軽に始められるのが、「エンディングノート」。

これは法的な書類ではありません。

なので、法的な効力としては遺言に劣ります。

しかし、その分自由度が高く、あなたの想いをしっかりと残すことができます。

「どんな葬儀にしたいか」「財産はどうしてほしいか」「大切な人へのメッセージ」などをあなたの言葉で残しておくノートです。

あとを託された人にとっても、とても助かる手がかりになります。


◆ あわせて考えたい「任意後見契約」

もうひとつ、老後に備えて知っておきたいのが「任意後見契約」です。

これは、あなたの判断力が低下したときに備えて、「この人に財産管理などを任せたい」と元気なうちに決めておく契約

認知症などで判断が難しくなったときにも、信頼できる人があなたをサポートしてくれます。

死後のことだけでなく、“その前の人生”も守るための備えができる制度です。

ただし、筆者の経験からいって、任意後見制度は必ずしも広く利用されているわけではありません。

公正証書で作らなければならないこと、実際に効力を発動するには家庭裁判所に任意後見監督人を選任してもらわないといけないこと、任意後見人だけでなく任意後見監督人への報酬が発生してしまうことなど、使い勝手がいいかと言われれば、疑問が残る制度です。

知識として、こういった制度があるということを押さえておきましょう。

なお、任意後見と似たものに「法定後見」制度があります。

これは、ある人の判断能力が低下したと認められた際に、申立によって家庭裁判所が成年後見人等を選任する制度です。

任意後見と違って、誰を選んでほしいかをあらかじめ指定しておくことはできません

なので、法定後見のための事前準備というのはなかなか難しいところがありますが、判断能力がしっかりしているうちに作成した遺言やエンディングノートが役に立つことがあります。

遺言やエンディングノートは、あなたが亡くなった後だけでなく、あなたの判断能力が低下した場合の準備にもなるといえるでしょう。


◆ まとめ:おひとり様でも“ちゃんと守られる時代”です

「おひとり様だからこれからが気がかり」——それは、あなただけではありません。

でも、必要な準備をしておけば、おひとり様でも安心して暮らしていける制度はあるんです。

保証人がいないときの対策、死後の手続きの準備、そして判断力が落ちたときの備え。

どれも今から始められることばかりです。

焦らなくていい。

少しずつで大丈夫。

50代の今だからこそ、あなたの人生を最後までしっかり歩み続けられるように、「まもり」の準備を始めてみませんか?

最後までお読みいただきありがとうございました。

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ボードゲーム系社労士&ファイナンシャルプランナー

徳 本 博 方
(とくもと ひろみち)

自己紹介

ボードゲーム系社労士&ファイナンシャルプランナー

「ゆとり・つながり・まもり」の3つの「り」メイクでシングルライフステージをサポート

ボードゲームで楽しく「つながり」をつくり、キャリア・資産形成と年金サポートで「ゆとり」を、成年後見で最終的な「まもり」をお届けします

「ぎりぎり・ひとり・気がかり」を、「ゆとり・つながり・まもり」に変えていきましょう!

プロフィール
  • 資格
    • 社会保険労務士
    • ファイナンシャルプランナー
    • 宅建士
  • 経歴
    • 一般社団法人萩長門成年後見センター事務局長(現)
    • 弁護士事務所パラリーガル(勤務17年以上)
    • 山口県萩市出身
    • 萩高校、慶応義塾大学文学部

知っているひとだけ得してる! 親の介護費用を抑えるための非課税世帯の制度活用術【50代必見】

「そろそろ親の介護が始まるかも……どうしたらいいのだろう」


50代になると、そろそろ親の介護のことが気になってきます。

そう思っても、具体的な対策がわからず、不安を抱えたままの方は多いのではないでしょうか。

かくいう筆者自身も「5080」問題の当事者です。

今回は、社労士&ファイナンシャルプランナーとして、14年以上成年後見制度の社会保険最適化業務に取り組んでいる筆者が、成年後見業務を通じて学んだ介護費用を抑制する方法をお届けします。

結論から言います。

それはずばり「住民税非課税世帯」になることです。

「住民税非課税世帯」であれば、介護サービスの自己負担を軽くできる制度があるのです。

この制度を知っているか知らないかだけで年間で数十万円以上の差が出ることもあります。

今回は、そんな「介護×住民税非課税世帯」のメリットをわかりやすく解説します。

なお、こちらの情報は投稿日現在のものですのでご注意ください。

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「住民税非課税世帯」とは?

住民税には「所得割」と「均等割」の2種類があり、世帯全員がそのどちらも課税されない場合にその世帯は「住民税非課税世帯」となります。

たとえばこんなケースが該当します(東京都23区内の場合)

  • 〈東京23区内の場合〉
    • 同一生計配偶者又は扶養親族がいる場合
      35万円 × (本人・同一生計配偶者・扶養親族の合計人数) + 31万円 以下
    • 同一生計配偶者又は扶養親族がいない場合
      45万円 以下

※東京都主税局ホームページから引用

東京都23区の例でいうと、たとえば65歳以上の単身世帯で収入が公的年金だけの場合には、年金収入が年間155万円以下の場合に住民税非課税世帯になります。(公的年金収入155万円から公的年金等控除額110万円を引いたら45万円になりますね。これを「155万円の壁」というひともいます)。

ただし、住民税が非課税になる基準は住所地(その年の1月1日のもの)によって変わることがあります。

これを級地区分といいます(ちなみに、筆者の住んでいる山口県萩市の単身世帯の住民税非課税の基準は38万円以下ですので、先ほどの「155万円の壁」は「148万円の壁」と読み替えることになります)。

住民税非課税の基準については、お住まいの自治体でご確認することが必要です。

今回の記事では、各制度自体をしっかり知っていただくために、「誰の扶養にもなっていない単身世帯の親(65歳以上)」という設定で考えていきます。

実際には、同一世帯に課税対象者がいたり、誰かの扶養になっていたりということもあるでしょう。

そういった場合には世帯分離をした方がいいのか扶養から外れた方がいいのかなど、状況に応じてどちらがより大きなメリットがあるかを検討する必要がでてきます。

住民税非課税世帯が介護で得られる3つのメリット

住民税非課税世帯の方が介護の現場で使うことができる3つの制度をご紹介します。

ここでは、

  • 高額介護(介護予防)サービス費
  • 特定入所者介護サービス費(補足給付)
  • 社会福祉法人の「利用者負担軽減制度」

の3つを紹介します。

高額介護(介護予防)サービス費の自己負担上限が下がる!

在宅介護や通所介護などで発生する介護保険サービス費用(利用料)には、要介護度等による利用限度額が定められており、さらに所得区分によって月ごとの自己負担額に上限が設けられています。

そして、支払った自己負担額がその上限を超えている場合には、差額に相当する金額が申請によって支給されることになります。

これを「高額介護(介護予防)サービス費」といいます。

対象者にはお住まいの自治体から申請書などが送られてくると思いますので、申請手続きを必ず行いましょう(申請主義なので、放っておくと時効で消滅する可能性がありますので要注意です)。

投稿日現在の住民税非課税世帯の高額介護(介護予防)サービス費利用者負担上限額は月額2万4600円(年間収入が80万円以下であれば1万5000円)です。

たとえば、要介護度3のひとの1ヶ月の居宅サービス費が27万円(利用限度額は27万0480円)だった場合、自己負担額(1割負担)は2万7000円となり、限度額2万4600円を超えた2400円が支給されます。

仮にこの支給が同じ条件で5年間続いた場合には、2400円×12ヶ月×5年=14万4000円となります。

介護は長期間に及ぶケースも多いので、毎月の支給額はそれほど多くはなくても、それが積もり積もれば無視できない金額になるということです。

入所施設の食費・居住費が軽減される特定入所者介護サービス費(「負担限度額認定」)

特養などの入所施設では、介護費用のほかに「食費・居住費」が発生しますが、住民税非課税世帯で預貯金額の資産要件など諸条件を満たせば、「特定入所者介護サービス費(補足給付)」により費用が軽減されることがあります。

具体的には、自治体から「負担限度額認定」を受けることで、毎月の施設での食費・居住費が軽減された額で請求されます(先ほど紹介した高額介護(介護予防)サービス費はいったん払った後での差額分支給でしたが、こちらはそもそもの請求金額が安くなるので、より経済的負担が減ります)。

こちらも申請が必要ですので、対象者は自治体にご相談のうえ、負担限度額認定の申請を行ってください。

たとえば、筆者の住んでいる山口県萩市では、住民税非課税世帯のひとの年収(非課税年金も含む)が80万円超120万円以下のひとは「第三段階①」に該当するとされ、特養等の住居費は多床室で日額430円、食費は日額650円とされています(投稿日現在)。

つまり住居費と食費の合計は日額1080円となります。

30日の月であれば、1080円×30日=月額3万2400円という計算です。

もしこれが住民税非課税世帯「第三段階①」ではなく標準費用額(めやす)であれば、特養住居費(多床室)日額915円、食費日額1445円で、合計日額は2360円となり、30日なら2360円×30日=7万0800円となります。

その差額は、7万0800円-3万2400円=3万8400円です。

これが1年間なら46万0800円、5年間なら……

これほどの差がつくのは驚きです。

住民税非課税世帯の方が特養などに入所される場合には、預貯金額などの条件はありますが、介護保険の限度額適用認定は必ず検討しましょう。

社会福祉法人の「利用者負担軽減制度」が使えることも

次にご紹介するのは、社会福祉法人の「利用者負担軽減制度」です。

収入や預貯金額が基準以下などの要件を満たせば、社会福祉法人が提供する介護サービスの利用者負担が軽減される制度です。

正直言って、筆者は今の仕事をするまでこの制度を知りませんでした。

なぜならば、この制度は社会保険の制度ではないからです。

筆者は社会保険労務士で、公的年金や公的医療保険の専門家です。

また、ケアマネさんほどではありませんが、広義の社会保険として介護保険の知識もある程度は持っています。

しかし、この制度は福祉の制度ですので、社会保険労務士の専門範囲外なのです。

福祉の専門家以外でこの制度知ってる人はどの程度いるのでしょうね……

この制度は、介護保険の制度と併せて使うことができます

もし該当するのであれば躊躇なく使っていきましょう(預貯金額などの条件はシビアですが)。

利用には申請が必要なので、まずは事業所や自治体に相談しましょう。

「障害者控除対象認定」制度を知っていますか?

さきほど、65歳以上の単身世帯で公的年金収入のみの場合、住民税非課税世帯になるためには「155万円の壁」が存在するというお話をしました(なお、公的年金が障害年金や遺族年金などの非課税年金の場合には、そもそも非課税なので155万円の壁はありません)。

では、老齢年金などの年収が155万円の壁を超えてしまう場合には、住民税非課税世帯にはなれないのでしょうか。

ここで検討したいのが「障害者控除対象認定」です。

住民税非課税世帯の要件を思い出してください。

「障害者・未成年者・寡婦又はひとり親で、前年中の合計所得金額が135万円以下」というのがありましたよね。

税法上の「障害者」であれば、所得が135万円以下であれば住民税非課税世帯となるという規定です。

つまり、障害者等であれば、公的年金等控除額(110万円 ※65歳以上で年金年収330万円未満の場合)を加算すれば、「155万円の壁」は「245万円の壁」まで上がるということです(壁が上がった方が住民税非課税世帯になりやすいです)。

このような税法上の障害者と認められるには、いわゆる「障害者手帳」を有しているケースが考えられます。

しかし、「障害者手帳」を持っていない場合であっても、要介護認定を受けた高齢者は、自治体の判断により「障害者控除」の対象になることがあります。

これを「障害者控除対象認定」といいます。

自治体から「障害者控除対象認定」を受ければ、住民税非課税世帯になる可能性がでてくるのです。

たとえば、公的老齢年金のみで年収180万円(月15万円)の場合、このままだと住民税非課税世帯にはなれませんが、障害者控除対象認定を受けて手続きを行った場合には住民税非課税世帯になることが可能となります。

障害者控除対象認定の基準や方法はお住まいの自治体に相談してください。

なお、障害者控除対象認定を受けたあとは、自治体の税務課に障害者であることを伝える必要がありますので、確定申告や住民税申告などの手続きもお忘れなく。

おわりに

介護費用は、ただでさえ精神的・身体的な負担が重なる中での出費になります。

しかし、制度を知り、上手に活用することで、負担を軽くすることは十分に可能です。

ただし、こういった制度のほとんどは「申請主義」を採用しています。

平たく言えば「言ってくれればやるけど、そっちが言うまでは知りませんからね」ということです。

まさに「知ってるひとだけが得する」制度と言っても過言ではありません。

なかには自治体から「あなたは対象者ですので申請ができます」といった趣旨の文書が送られてくることがあります。

また、一度申請しておけば、その後はいちいち申請しなくても自動的に対応してくれる場合もあります(これはありがたい!)

しかし、高齢者の場合、そういった文書はよく読まずに、そのまましまい込んでいるケースが散見されます。

実際に、筆者が成年後見業務でかかわったひとの中には自治体からのお知らせ文書を放置していたケースが複数ありました。

成年後見人が就任後ただちに手続きを行ったものの、一部は時効で消滅してしまっていたケースもあります。

これが申請主義というものかと実感しました。

いずれにしても、これらの制度を知っているだけで、介護に向き合う“心の余裕”と“家計の安心”が多少なりとも生まれると思います。

親の介護が心配になった今こそ、一度ご家庭の収入状況や制度適用の可能性をチェックしてみてください。

この記事が何かのお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ボードゲーム系社労士&ファイナンシャルプランナー

徳 本 博 方
(とくもと ひろみち)

自己紹介

ボードゲーム系社労士&ファイナンシャルプランナー

「ゆとり・つながり・まもり」の3つの「り」メイクでシングルライフステージをサポート

ボードゲームで楽しく「つながり」をつくり、キャリア・資産形成と年金サポートで「ゆとり」を、成年後見で最終的な「まもり」をお届けします

「ぎりぎり・ひとり・気がかり」を、「ゆとり・つながり・まもり」に変えていきましょう!

プロフィール
  • 資格
    • 社会保険労務士
    • ファイナンシャルプランナー
    • 宅建士
  • 経歴
    • 一般社団法人萩長門成年後見センター事務局長(現)
    • 弁護士事務所パラリーガル(勤務17年以上)
    • 山口県萩市出身
    • 萩高校、慶応義塾大学文学部

新型コロナで国民年金保険料が払えない! 保険料未納で困ったことにならないように免除の臨時特例を申請しよう

新型コロナウイルス感染症の影響で収入が減って国民年金保険料を支払えない人のために免除の臨時特例を社会保険労務士が解説

社会保険労務士・オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回は、公的年金の国家資格である社会保険労務士が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で収入が減少した場合の国民年金保険料免除の臨時特例についてお話します。

新型コロナウイルス感染症の影響で

  • 失職して厚生年金の被保険者から国民年金の第1号被保険者になった人
  • アルバイト先が休業して収入が少なくなった人
  • 取引先からの受注が減少したフリーランスの人

こういった人たちにはぜひお読みいただきたい記事です。

2020年4月~2021年3月分の国民年金保険料は月額1万6540円です。

収入が減った人にとってはつらい支出だと思います。

どうにかならないものでしょうか。

 

この点について、この記事でお伝えしたいことは、

  • 臨時特例を申請して当面の国民年金保険料の支払を回避しよう
  • 未納は絶対に避けよう
  • 将来の国民年金(老齢基礎年金)を満額もらうための方法も知っておこう

の3点です。

順を追ってお話ししていきます。

なお、この記事は投稿日(2020年5月6日)現在の情報を元に執筆されています。

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臨時特例を申請して当面の国民年金保険料の支払を回避しよう

2020年5月1日から国民年金保険料免除の「臨時特例」の申請手続が可能になりました。

この臨時特例によって、対象者は2020年2月~6月分の国民年金保険料(全額または一部)が免除されます。

仮に2~6月までの5ヶ月間の国民年金保険料が全額免除された場合には、8万2700円の支払を免れることができます。

当面の家計に与えるインパクトは大きいと思います。

経済的に困っている人は積極的に申請したいところです。

 

どんな人が対象?

臨時特例の対象者は、

  • 2020年2月以降に、新型コロナウイルスの感染症の影響により収入が減少したこと
  • 2020年2月以降の所得等の状況から見て、当年中の所得の見込みが、現行の国民年金保険料の免除等に該当する水準になることが見込まれること

2点をいずれもみたした人です。

学生の場合には、別に「学生納付特例の臨時特例」の対象になります。

具体的にはいくら減ったら対象になる?

臨時特例の対象となるには

  • 当年中の所得の見込みが
  • 現行の国民年金保険料の免除等に該当する水準になる

と見込まれることが必要です。

この2点について具体的に説明します。

 

まず、「当年中の所得の見込み」の計算方法です。

  • ステップ①:2020年2月以降で収入が減少した月を任意で選ぶ(一番減った月を選べばよいでしょう

たとえば、アルバイトのAさん(未婚の一人暮らし)が去年の3月は15万円の収入があったのに、今年の3月は7万円になったような場合を想定してみましょう。

  • ステップ②:①で出した金額を12倍して1年分の「収入見込額」をだす

Aさんの場合には、7万円×12=84万円が1年分の「収入見込額」です。

  • ステップ③:控除相当額をだす

Aさんのような給与所得者の場合には、給与所得控除をだします。

給与所得控除は、②の1年分の「収入見込額」×40%で計算しますが、この額が65万円未満の場合には一律65万円です。

Aさんの場合、84万円×40%=33万6000円ですので、65万円が給与所得控除になります。

  • ステップ④:②の1年分の「収入見込額」から③の控除相当額を引いて「所得の見込額」をだす

Aさんの場合、84万円-65万円=19万円が「所得の見込額」です。

 

次に、「現行の国民年金保険料の免除等に該当する水準」を確認しておきます。

それぞれの免除区分については、

  • 全額免除:(扶養親族等の数+1)×35万円+22万円 以下
  • 4分の3免除:78万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 以下
  • 半額免除:118万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 以下
  • 4分の1免除:158万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 以下

とされています。

つまり、先ほど計算した「所得の見込額」がこの区分のどこに該当するかで、いくら免除されるのかが決まるということです。

Aさんの場合には、「所得の見込額」19万円が、全額免除の基準(57万円)以下ですので、全額免除の基準を満たしています。

 

ここで注意が必要なのですが、「所得の見込額」は本人だけではなく、配偶者(夫や妻のこと。内縁関係も含みます)及び世帯主の「所得の見込額」もチェックされるという点です。

Aさんの場合には、未婚で独り暮らし(配偶者や他に世帯主がいない)だったので、Aさんだけを計算すればよかったのですが、本人のほかに配偶者や世帯主がいる場合にはそれだけでは足りません。

配偶者や世帯主の全員について「所得の見込額」を計算して、全員が免除区分に該当する必要があるのです。

ただし、配偶者や世帯主の「所得の見込額」の計算は必ずしも本人と同じ月を用いて計算する必要はありません(一番収入が減った月を選んでいいということです)。

 

いつからいつまでいくら免除される?

現在のところ、臨時特例は2020年2~6月までの5ヶ月分の国民年金保険料が免除の対象です。

どの月の収入を元にしても、2月まで遡って適用可能です。

ただし、先に納付された保険料は還付されません。

なお、前納制度(半年分、1年分、2年分等のまとめ払いのこと)を利用している人の場合には免除申請を行った月以降の保険料相当額は還付可能です。

 

免除後に支払わなければならない具体的な1ヶ月分の保険料は、

2020年2~3月分

  • 全額免除:0円
  • 4分の3免除:4100円
  • 半額免除:8210円
  • 4分の1免除:1万2310円

2020年4~6月分

  • 全額免除:0円
  • 4分の3免除:4140円
  • 半額免除:8270円
  • 4分の1免除:1万2410円

です。

全額免除以外の免除の場合、この金額を納付しなければ、その月は「未納」扱いとなるので注意が必要です。

 

将来の年金はどうなる?

臨時特例が将来もらえる老齢基礎年金(原則65歳になったときからもらえる国民年金)の額に与える影響について確認しておきましょう。

老齢基礎年金の額は、年額で78万0900円に改定率をかけた額とされています。

改定額は毎年変わります。

ちなみに、2020年度の老齢基礎年金の額は、年額で78万1700円(満額)です。

これは40年間(480ヶ月)全額を納めた場合の額です。

臨時特例での免除のように、保険料を全部または一部しか納めていない人の場合には、その期間減額されることになります。

具体的な減額率は、

  • 全額免除:2分の1
  • 4分の3免除:8分の3
  • 半額免除:4分の1
  • 4分の1免除:8分の1

です。

ここはなかなかピンとこないところですが、ざっくりとイメージしてもらうために、臨時特例で5ヶ月間免除を受けて、そのほかの期間は満額納付したとして、改定率をかける前の額(78万0900円)で比べてみましょう。

  • 全額免除:(78万0900円×475/480)+(78万0900円×5/480×1/2)=77万6833円(4067円減額)
  • 4分の3免除:(78万0900円×475/480)+(78万0900円×5/480×5/8)=77万7850円(3050円減額)
  • 半額免除:(78万0900円×475/480)+(78万0900円×5/480×3/4)=77万8866円(2034円減額)
  • 4分の1免除:(78万0900円×475/480)+(78万0900円×5/480×7/8)=77万9883円(1017円減額)

ぱっとみるとそこまで減っていないような感じもしますが、老齢基礎年金は終身年金(死ぬまでもらえる年金)ですので、これが10年、20年と積み重なると差額は大きくなっていきます。

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未納は絶対に避けよう

臨時特例の申請もせずに、国民年金保険料を払わずにいるとどうなるのでしょうか。

これを国民年金保険料の未納といいます。

国民年金保険料の未納を避けるべき理由を簡単にあげておきます。

 

将来の年金が減額されるだけでなく、まったくもらえなくなる可能性があります

未納期間の将来の年金額は0円です。

これに対して、先ほど計算したように、臨時特例の全額免除の場合には1/2が減額されるだけですみます。

同じ保険料をまったく払わない状態なのに、大きく変わってきます。

しかし、ペナルティーはこれだけではありません。

保険料の未納を続けていくと、年金がまったくもらえなくなる可能性があるのです。

具体的には、保険料納付済期間(国民年金の保険料納付済期間や厚生年金保険、共済組合等の加入期間を含む)と国民年金の保険料免除期間などを合算した資格期間が原則として10年以上必要です。

もしも資格期間が10年未満であった場合には、将来の年金は0円(無年金)になってしまいます。

 

障害年金がもらえなくなる可能性があります

障害年金をもらうためには「保険料納付要件」をみたす必要があります。

具体的には、初診日の前日において、

  • 初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の2/3以上の期間について、保険料が納付または免除されていること(「2/3要件」)
  • 初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと(「1年要件」)

のどちらかをみたす必要があります。

「2/3要件」であっても「1年要件」であっても、未納期間は不利に扱われます。

もしもこれらの保険料納付要件がみたせなければ、その時点で障害年金はもらえません。

 

延滞金が発生したり、強制徴収による差押えの可能性があります

国民年金保険料の未納に対しては、延滞金が発生することがあります。

具体的な延滞金割合(2020年1月1日から12月31日)は、

  • 納付期限の翌日から3ヶ月を経過する日まで:2.6%
  • 納付期限の翌日から3ヶ月を経過する日の翌日以降:8.9%

です。

また、一定の所得が認められるようなケースなどでは、強制徴収(差押え)の可能性もあります。

つまり、未納が続くと銀行口座や不動産などを差押えられる可能性があるということです。

なお、あまり知られてはいませんが、国民年金保険料は本人に納付義務があるだけでなく、配偶者や世帯主にも連帯納付義務があります。

そういった連帯納付義務者に迷惑をかけてしまうこともありえるのです。

 

このような理由から、国民年金保険料の未納はできるだけ回避したいところです。

今回の臨時特例を積極的に利用して、未納のまま放置することは避けましょう。

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将来の国民年金(老齢基礎年金)を満額もらうための方法も知っておこう

臨時特例で国民年金保険料が免除された場合には、「未納」による不利益は受けませんが、将来の年金が減らされてしまうことは避けられません。

そこで、臨時特例で免除された人が将来の年金を満額もらうためにできることをお伝えしておこうと思います。

 

追納制度

臨時特例で免除された国民年金保険料は、「追納」することができます。

追納ができるのは追納が承認された月の前10年以内の免除等期間についてです。

ただし、免除を受けた期間の翌年度から起算して、3年度目以降に保険料を追納する場合には、承認を受けた当時の保険料額に経過期間に応じた加算額が上乗せされます。

2年度以内であれば加算されませんので、早めの追納がお得です。

追納後は、保険料が全額納付されたものとして将来の年金額が計算されます。

 

任意加入制度

追納期間を経過して追納ができなくなった場合には、60歳になったあとに国民年金の任意加入制度を検討してみましょう。

任意加入制度は、40年の納付済期間がないため老齢基礎年金を満額受給できない人などのために、60歳以降でも国民年金に加入できる制度です。

任意加入をするためには、

  • 日本国内に住所を有する60歳以上65歳未満の人
  • 老齢基礎年金の繰上げ支給を受けていないこと
  • 20歳以上60歳未満までの保険料の納付月数が480月(40年)未満であること
  • 厚生年金保険、共済組合等に加入していないこと

こういった要件をすべてみたす必要があります。

追納できなかったときの手段として覚えておいてください。

 

厚生年金の経過的加算

国民年金ではないのですが、厚生年金にも老齢基礎年金に相当する給付があります。

それを「経過的加算」といいます。

たとえば、60歳以降に厚生年金の被保険者であった場合(原則70歳に達するまで)、その厚生年金の被保険者期間に応じて、老齢基礎年金に相当する給付が経過的加算として上乗せされます。

上限や計算方法などの詳細は省略しますが、経過的加算は実質的には満額にみたない老齢基礎年金を補充してくれる役割を果たしています。

60歳を超えて厚生年金の被保険者として働くというのも、一つの方法として覚えておいて損はないでしょう。

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さいごに

今回は、新型コロナウイルス感染症の影響で収入が減少した場合の国民年金保険料免除の臨時特例についてお話ししてきました。

具体的な手続などは日本年金機構のホームページをご参照ください。

とにかく使える制度はすべて使って、どうにかこの困難な状況を乗り越えていきたいところです。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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後の記事:障害年金はいくらもらえる? 障害年金の金額をざっくり紹介

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これでわかる! 休業手当が月給の6割にならない謎を解く

休業手当が思っていたより少なくなる仕組みを社会保険労務士が解説

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のための休業によって、会社から休業手当をもらうことになる人もいらっしゃることと思います。

昨今の報道のおかげで、労働基準法26条によって、「使用者の責めに帰すべき事由」で休業した場合には、労働者に休業手当として「平均賃金の6割以上」を支払わなければならないということが、今までになく周知されてきているように感じています。

しかし、実際に休業手当を受け取ってみると、思っていた金額よりもずいぶん少なくておどろいたというケースを聞くことがあります。

どうしてそのようなことが起こるのか、社会保険労務士である筆者が具体例をあげて解説していこうと思います。
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法定の休業手当は「月給の6割以上」にはならない

今回は月給制の場合の休業手当の計算をしていきます。

仮にAさんが2020年4月全日を休業したとします。

Aさんの給与などの設定としては、

  • 月給:20万円(毎月末日〆)
  • 休日:土日祝祭日
  • 3ヶ月間(1~3月)の賃金総額:60万円
  • 3ヶ月間の歴日数(1~3月):91日
  • 休業手当の率:60%

ということにしましょう。

Aさんの給料は月給20万円なのですから、休業手当はその6割の12万円になるのかなって思ってる人はいませんか?

むしろふつうはそう思いますよね。

新聞やニュースなんかでは「6割以上」って言っているのですから。

でも、必ずしもそうはならないのです。

これからその仕組みを説明していきます。

 

1ヶ月分の休業手当の計算

Aさんの4月分の休業手当を計算してみましょう。

労働基準法26条によれば、休業手当は「平均賃金の6割以上」とされています。

法律上は「月給の6割以上」とか「給料の6割以上」などと定められているわけではありませんので、ここは要注意です。

そして、休業手当の計算の基礎となる「平均賃金」とは、事由の発生した日以前の3ヶ月間の賃金の総額をその期間の総日数(=暦日数)で割った金額をいいます。

 

とすると、Aさんの平均賃金は、

60万円÷91日=6593円40銭(端数処理済)

となります。

Aさんの休業手当は、この平均賃金に60%をかけて計算していくことになります。

 

そうすると、Aさんの4月分の休業手当は、平均賃金の30日分の60%ということで、

6593円40銭×30日×60%=11万8681円(端数処理済)

になるのでしょうか。

まあこれなら、月給20万円の6割である12万円には少し足りないけど、誤差の範囲内かなって思えます。

しかし、違います。

まだまだ安くなっていきます。

 

実際には、Aさんの4月分の休業手当は、

6593円40銭×21日×60%=8万3077円(端数処理済)

となります。

 

「え、こんなに少ないの!?」とおどろく人もいるかもしれません。

月給の20万円からしたら実に41%程度の金額にしかならないのですから。

しかも、ここから各種社会保険料などが控除されるのです。

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どうしてそのようなことになるのでしょうか。

その理由は、休業手当は休日には支払う必要がないからです。

2020年4月は、日曜日4日、土曜日4日、祝日1日ですので、Aさんの休日は9日あります。

ですので、休日9日分を暦日30日から引いた21日(所定労働日数)がAさんの4月の休業手当を支払うべき日数となります。

その結果、月給からしたら6割どころか4割程度にしかならないということになるのです。

このように、休業手当を「月給の6割」とイメージしていたら、休業手当が思いのほか少なくなるという結果が生じうるので、注意が必要です。

 

さいごに

休業手当をもらうことは社会人経験の中でもそう頻繁にあることではありません。

今回の新型コロナウイルス感染症の件で初めて経験するという人もいることでしょう。

漠然と「休業手当は月給の6割」というように考えていると、実際の金額におどろいてしまうこともありえます。

法律上の休業手当は休日にはもらえないという点を知識としてしっかり理解していただければと思います。

もちろん、労働者に有利になるように、就業規則などでこれを上回る休業手当を支払うことを定めても問題はありません(むしろ経営者さんにはそのように対応していただいきたいところです)。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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いまだから知りたい休業手当と傷病手当金 誰がどんなときにいくらもらえるの?

休業手当と傷病手当金の違いを社会保険労務士がわかりやすく解説

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回は会社員が会社を休んだときの所得補償のお話です。

最近は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響もあって、にわかに注目が集まっている話題だと思います。

投稿日現在、厚生労働省のホームページにも「新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)令和2年3月11日時点版」が設けられ、「2 労働基準法における休業手当、年次有給休暇」において休業手当や傷病手当金のことにふれられています(くわしくはこちら)。

とくに、問1では新型コロナウィルスに感染して休む場合の質問が設定されていて、そこでは「都道府県知事が行う就業制限により労働者が休業する場合には、一般的には休業手当は支払われないが、要件を充たせば被用者健康保険(健康保険など)の傷病手当金が給付される」との趣旨の回答があります。

そこで今回は、休業時の所得補償について「誰が、どんなときに、いくらもらえるのか」を休業手当と傷病手当金を例に比べてみようと思います。

なお、ここでの傷病手当金は、全国健康保険協会(協会けんぽ)の健康保険のものを取り上げていますので、健康保険組合(組合健保)などの被保険者の場合にはご加入の保険者のホームページなどをご参照ください。
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そもそも休業手当と傷病手当金ってなに?

休業手当と傷病手当金の制度の概要をご紹介しましょう。

  • 休業手当:会社の都合(使用者の責に帰すべき事由)で休業した場合に、会社(使用者)が社員(労働者)に支払う手当(労働基準法26条)
  • 傷病手当金:社員(被保険者)が病気やケガの治療(療養)のために、仕事ができなくなった場合に、保険者から支給される保険給付(健康保険法99条)

ここで注意したいのは、休業手当は会社が社員に直接支払うものですが、傷病手当金は保険者(協会けんぽなど)が被保険者に給付するものですので、お金を払う主体が異なっています。

つまり、休業手当は会社の負担ですが、傷病手当金は健康保険の保険給付として行われる(会社の直接の負担なし)ということです。

 

誰がもらえるの?

どのような人が休業手当や傷病手当金をもらえるのかをみてきましょう。

  • 休業手当:労働者(職業の種類を問わず、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者。労働基準法9条)
  • 傷病手当金:被保険者(健康保険に加入している本人)

休業手当がもらえる労働者は、正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトなども含みます。

これに対して、傷病手当金は健康保険に加入している本人にしか支給されません(パートタイマーやアルバイトは健康保険に加入できないケースが多いので、その場合には対象から外れてしまいます)

 

どんなときにもらえるの?

どのようなときに休業手当や傷病手当金はもらえるのかをみていきましょう。

  • 休業手当:使用者の責に帰すべき事由による休業があったとき(企業の経営者として不可抗力と主張できない一切の場合)
  • 傷病手当金:①業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること、②仕事に就くことができないこと、③連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと、④休業した期間について給与の支払いがないこと、の①~④をすべてみたしたとき

休業手当が発生する「使用者の責に帰すべき事由」は不可抗力でない場合を広く含んでいるので、業績不振による休業の場合だけでなく、親工場の経営難から下請工場が資材や資金を調達できなくなって休業した場合なども広く該当します。

そうだとすると、新型コロナウイルスの感染防止のために、会社が自主的に休業するような場合には、「使用者の責に帰すべき事由」に該当するといって差し支えないでしょう。

しかし、社員が新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由」には該当しないとされています(新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)令和2年3月11日時点版 2問1参照)。

ましてや、微熱などの症状がある社員が、万が一の感染拡大を防止するために自主的に休業するような場合は「使用者の責に帰すべき事由」には該当しません(新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)令和2年3月11日時点版 2問2参照)。

 

これに対して、傷病手当金は、①業務外の事由による病気やケガの療養のための休業の場合に支給されますので、社員が新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により休業する場合も該当すると考えられます(上記①~④の要件をすべて充たす必要があります)。

また、微熱などの症状がある社員が、万が一の感染拡大を防止するために自主的に休業するような場合(かつ結果として感染していなかった場合)については、②仕事に就くことができないことという要件が問題になります。

傷病手当金は自宅療養の場合でももらえますが、これは症状次第というほかありません。

とくに、軽微な症状にすぎない場合(かつ感染していない場合)に、②仕事に就くことができないといえるのかという点は、難しいところもでてくるでしょう(このあたりは保険者に柔軟に対応してほしいところですが)。

 

なお、新型コロナウイルスへの感染が業務災害や通勤災害と認定された場合には、労災保険の休業(補償)給付が支給されるので、健康保険の傷病手当金は支給されません。

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いくらもらえるの?

休業手当や傷病手当金はいくらもらえるのかをみてきましょう。

  • 休業手当:平均賃金の6割以上
  • 傷病手当金(1日):支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額÷30×2/3

休業手当の計算の基礎となる「平均賃金」とは、事由の発生した日以前の3ヶ月間の賃金の総額をその期間の総日数(=暦日数)で割った金額をいいます。

賃金の総額には、時間外・深夜や休日の割増賃金や通勤手当などの各種手当も含まれますが、3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)は含まれません。

 

これに対して、傷病手当金の計算の基礎には「標準報酬月額」を用います。

標準報酬月額とは、被保険者が事業主から受ける毎月の給料などの報酬月額に基づいて、区切りのよい幅で区分したものです(健康保険は第1級の5万8000円から第50級の139万円までの全50等級に区分されています)。

標準報酬月額には、賞与の額は反映されていませんし、いったん決まれば原則1年間は変わらないので、直近の割増賃金なども必ずしも反映されていません。

 

具体的な金額をみてみましょう。

たとえば、継続する12ヶ月間の標準報酬月額の平均が20万円の人が、3ヶ月間(暦日数91日)の賃金の総額が66万円だった場合、

  • 休業手当(1日):66万円÷91日×60%=4352円(端数処理済み)以上
  • 傷病手当金(1日):20万円÷30×2/3=4447円(端数処理済み)

となります。

 

なお、休業手当は、休日(労働契約上の労働義務のない日)には支払われません(休日に休むのは、使用者の責に帰すべき事由ではないからです)が、傷病手当金はいわゆる公休日にも支給されます。

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さいごに

この記事は、2020年3月15日時点の情報に基づいて書かれています。

政府は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために小学校等が臨時休業した場合等に、その小学校等に通う子の保護者である労働者に有給休暇(法定の年次有給休暇を除く)を取得させた企業に対する助成金を新設する旨を公表しています。

また、新型コロナウイルスの影響などで休業して休業手当を払う企業に対して、雇用調整助成金を拡充する政策も打ち出しています。

これらの政策は一定の評価ができるものだと思います。

しかし、今回みてきたように、微熱などの症状がある会社員が、万が一の感染拡大を防止するために自主的に休業するような場合には、休業手当も傷病手当金(症状にもよりますが)も難しいのが現状です。

このような場合には、会社に有給の病気休暇制度があればそれを使い、なければ社員の年次有給休暇を使うかしかありません。

このような場合の所得補償については、今後の政府の新たな対策が待たれるところですので、注視していきたいと思っています。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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会社都合の自宅待機で給料6割? なんでそうなるの??

労働契約の債権者主義と休業手当の関係を社会保険労務士が解説

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

経営不振のための休業といった、会社側の都合で自宅待機命令が出た場合、休業手当(労働基準法26条)が出ることは比較的知られています。

なお、新しく採用された人をある期間就労させないことを「自宅待機」、既に雇用されている人を一時的に休業させる場合を「一時帰休」と使い分けたりしますが、ここでは広い意味で「自宅待機」としておきます。

最近では、新型コロナウィルス(COVID-19)による感染症の予防的な休業なども話題になっています(社員本人が感染したわけではなく、会社が自主的に休業するような場合です)。

しかし、休業手当は平均賃金の6割以上と決められていますが、これを逆にいえば、4割までカットされるということです。

働いている社員側からしたら、いくら自宅待機で家にいるとはいえ、賃金の4割カットは経済的に正直しんどいところです(実は4割カットではすまないかもしれないという記事も書いています。興味のある人は「これでわかる! 休業手当が月給の6割にならない謎を解く」をお読みください)。

そこで、会社都合の休業で自宅待機を命じられた場合に、休業手当さえ払えば本当にそれでいいのかについて、社会保険労務士である筆者が解説していきたいと思います。

どうしてこんなことになっているのか、その仕組みをみてきましょう。

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ノーワークノーペイと債権者主義

社員に働く意思も能力もあるのに、会社の一方的な都合で休業となり、自宅待機を命じられた場合、賃金はどうなるのでしょうか。

この点、欠勤の場合にも全額賃金を払う完全月給制のような場合であれば問題は少ないのですが、通常は「欠勤控除」という制度があって、働いていない期間はその分の賃金は払いませんというルールを定めている会社が多いのが現状です。

これを、ノーワークノーペイの原則と言ったりします。

働いていないのだから、賃金がもらえないのは当然のような気がします。

とくに、天災などのどうしようもない事情がある場合や、まして社員側の都合で休んだような場合ならノーワークノーペイも納得ができるでしょう。

 

しかし、社員は働きたいのに会社の一方的な都合で休まされた場合にはどうでしょうか。

そのような場合にまでノーワークノーペイなのでしょうか。

このようなケースを、労働契約における「危険負担」の問題といいます。

会社の都合で社員が働くことを会社が拒絶した場合に、賃金の支払も同時に拒絶できるのかという問題のことです

このような危険負担について、民法は536条で定めています。

民法536条の危険負担の規定は少し表現がわかりにくいので、かなりざっくりいうと、休業が会社と社員のどちらの都合でもない場合には賃金は払わなくてもいいけれど(同条1項)、会社の都合で休業した場合には賃金の支払いは拒絶できない=全額払いなさい、と定めています(同条2項)。

この民法536条2項のことを、危険負担の債権者主義といいます。

つまり、民法では休業の理由によって、

  • 社員の都合や、会社と社員のどちらの都合でもない場合:ノーワークノーペイ(賃金なし)
  • 会社の都合の場合:賃金全額支払い

と定めているということです。

 

民法の債権者主義は就業規則に負ける?

このように、会社都合の休業でも賃金が全額支払われるのだとしたら、どうして休業手当で4割カットの話がでてくるのでしょうか。

それは、民法の債権者主義を定める規定が、「任意規定」とされているからです。

任意規定とは、契約当事者が民法とは別の定めをした場合には、その当事者間の定めの方が優先される規定のことです。

つまり、労働契約や就業規則(賃金規定)などにおいて、民法の債権者主義を排除する特約がある場合には、会社都合の休業の場合でも、賃金の全額払いをしなくてもよいということなのです。

就業規則をよく読んでみてください。

会社都合の休業の場合の規定があって、そこには休業手当として平均賃金の6割(以上)を支払い、民法536条2項の規定は適用しないというような内容が書いてないでしょうか。

その規定が特約となります。

民法の債権者主義の規定は、就業規則に負けてしまうのが原則なのです(なお、どのような場合でも休業手当さえ払えば、いつまでも一方的に社員を休業させられるわけではありません。この点は裁判例もありますが、この記事では本旨から逸れますので、詳しくは触れないでおきます)。

ただ、ここで注意が必要なのは、

  • 労働契約や就業規則などに規定(特約)がない場合には、民法の債権者主義が適用される(=賃金は全額払いとなる)

ということです。

ですので、有効な就業規則がないような会社であれば、会社の都合の休業の場合には民法の債権者主義によって、賃金が全額もらえる可能性が高くなります(民法の債権者主義が適用される場合かどうかは最終的には裁判所の判断になりますが)。

そのような会社で、「休業手当を6割払えばいいって、法律(労働基準法)で決まってるんだよ」なんていう使用者がいたとすれば、「ちょっと待った」をかけた方がいいでしょう。

ちゃんと根拠を確認したうえで、よく話し合ってください。

 

労働基準法の休業手当の規定はなんであるの?

ここまでの話をまとめると、「会社都合の休業は、民法では債権者主義で賃金全額払いになる可能性が高いけど、就業規則などの特約でこれを排除することができる」ということでした。

では、特約で債権者主義の規定が排除された場合には、ノーワークノーペイの原則によって、賃金は0円になるのでしょうか。

賃金というのは社員の生活を経済的に支えるとても重要なものです。

会社の一方的な都合で賃金を0円にされては、社員の生活はとたんに困窮してしまいます。

そこで登場するのが、労働基準法26条の休業手当です。

労働基準法26条は、会社都合の休業の場合には平均賃金の6割以上を休業手当として払うように定めています。

そして、この労働基準法26条の規定は、民法の債権者主義の規定と異なり、「強行規定」といわれています(労働基準法26条は、違反すると罰則もあります)。

強行規定は、当事者間の定めよりも優先されます(労働基準法の場合には、それを下回る規定は無効となり、労働基準法の規定が適用されます)。

なので、仮に労働契約や就業規則で「会社都合の休業の場合には休業手当を払わない」とか「休業手当は平均賃金の3割にする」というような定めをしたとしても、それらは無効となって、会社は社員に労働基準法にしたがって休業手当を支払わないといけないのです。

つまり、当事者間の特約で民法の債権者主義を排除するとしても、労働基準法26条が最低限度の基準を定めて、労働者を守ってくれているということです(そのおかげで、ノーワークノーペイにはできません)。

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会社の都合=使用者(債権者)の責に帰すべき事由とは?

ところで、今まで「会社の都合」という日常的な言葉を使って説明してきましたが、これを正確にいうと、「使用者(債権者)の責に帰すべき事由」といいます。

民法536条2項では「債権者」、労働基準法26条では「使用者」という表現の違いはありますが、いずれも「責に帰すべき事由」という表現を使っています。

先ほどみてきたように、労働基準法26条は、強行規定として最低限度の基準を定めて労働者を守ってくれているのですが、もう一つ、民法536条2項にくらべて、労働者を守ってくれている点があります。

それは、どのような事由が「使用者の責に帰すべき事由」にあたるのか(どのような場合に休業手当が必要なのか)という問題です。

この点については、判例(最判S62.7.17)によって、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」は、民法536条2項の「債権者の責に帰すべき事由」よりも広い範囲をカバーしているとされています。

一般的に民法536条2項の「債権者の責に帰すべき事由」は、故意・過失または信義則上これと同視しうべき事由と限定的に解されていますが、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」は使用者側に起因する経営、管理上の障害までも含むとされているのです。

つまり、民法ではカバーしきれない部分(民法では賃金0円になってしまう部分)まで、労働基準法でカバーしてくれているということです。

たとえば、親会社の経営難によって下請け工場が資材や資金難になって休業したような場合には、会社(下請け工場)に故意や過失があるとまではいえない場合が多いでしょうから、民法536条2項の「債権者の責に帰すべき事由」とまではいえない場合が多くなります。

しかし、使用者側に起因する経営、管理上の障害とはいえるので、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」には該当するといわれています。

このように、労働基準法26条の休業手当は、民法536条2項の「債権者の責に帰すべき事由」よりも広い範囲をカバーすることで、労働者を守ってくれているのです。

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さいごに

これまでみてきたことをまとめると、次の図のようになります。

会社の都合による休業で賃金が4割カットになるというのは、経済的に大変なことだと思います。

しかし、労働基準法が、平均賃金の6割以上の休業手当を最低限度の保障として規定してくれているおかげで、0円にまで減らされることはないと考えることもできるのです。

それに、繰り返しになりますが、会社の一方的な都合での休業の場合、そもそも就業規則等に特約がないのであれば休業手当だけを払えばよいというわけではありませんし、就業規則等に定めていたとしても休業手当さえ払えばいつまでも休業できるというわけでもありません。

そういう意味では、本当に休業手当だけでいいのかを疑うことも大切だと思っています。

少なくとも、労働基準法で定められているから休業手当を6割払えば自由に休業してよいという考え方は、労働基準法の趣旨に反しています。

本来は、会社と社員とでしっかりと話し合いを行って、双方に納得のできる解決を探るべきところですが、どうしても納得ができない場合には弁護士などの専門家にご相談されることをお勧めします。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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毎月の給料が変わっても厚生年金保険料や健康保険料が変わらない理由

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社会保険労務士の徳本博方です。

平成30年2月25日(日)、大阪市の本町で定例勉強会を開催しました。

テーマは「20代・30代シングルのための社会保険基礎知識」でした。

 

筆者はこういう社会保険の基礎知識をご説明する機会には、給料明細や源泉徴収票を正しく読めるようになることを目標にするのですが、その際に皆さまが厚生年金保険料や健康保険料がいつどうやって決まるのかを意外とご存じないことに気づきます。

そこで、今回は厚生年金保険料と健康保険料がいつどうやって決まるのかを簡単にご紹介したいと思います。
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現役社会人の皆さまの中にも「給料の額に比例して決まるんだろうな」と漠然と思っておられる人は少なくないのではないでしょうか(筆者も人のことは言えず、この仕事をする以前は詳しい知識はありませんでした)。

そう思っていらっしゃる人は、もしお手元に給料明細がある場合には、直近の何ヶ月分か(たとえば、12月、1月、2月支給分)を見比べてみてください。

時間外手当などで給料の額が毎月変わっていても、控除欄の厚生年金保険料と健康保険料の金額は変わっていないのではないでしょうか(それに対して、同じ控除欄でも雇用保険料や所得税の金額は増減があると思います)。

どうしてそのようになるかというと、厚生年金保険料と健康保険料の金額は、(毎月変動する可能性のある)給料の額そのものに保険料率をかけて計算するのではなく、「標準報酬月額」に保険料率をかけて計算しているからです(標準報酬月額×保険料率=保険料の金額ということです)。

そして、標準報酬月額は、いったん決まれば、毎月の給料が増減しても原則1年間(その年の9月から翌年8月まで)は変わらないというシステムになっています(保険料の計算を簡単にするためと言われています)。

では、標準報酬月額はいつ決まるのでしょうか。

まず、新入社員の場合は入社時に「資格取得時決定」を行い標準報酬月額が決まります。

そして、入社時以降の標準報酬月額は、1年に1度の「定時決定」(毎年7月1日時点で同日前3ヶ月間(4~6月)の給料の額の平均で9月以降の標準報酬月額を決めること)により決まるのが原則です(なお、定時決定の他にも、連続3ヶ月間の給料に著しい高低が生じた際や育児休業や産前産後休業が終わった際などにも標準報酬月額は改定されます)。

これは、①標準報酬月額が変わるときには、厚生年金保険料や健康保険料が変わるということを意味しています。

また、もう一つ、厚生年金保険料や健康保険料が変わる場合があります。

それは②保険料率が変わるときです。

標準報酬月額が同じでも、保険料率が変われば、保険料の金額が変わるのは当然なことです。

もっとも、一般の会社員の厚生年金に関しては、現在(労使合わせて)18.3%で保険料率が固定されていますので、②保険料率が変わるときというのは、健康保険の保険料率が変わるときということになります。

そして、協会けんぽの場合、原則毎年3月に健康保険料率の変更があります(この他にも40歳になって介護保険の被保険者になったときにも変更があります。65歳未満の人の場合、介護保険料に相当する額は健康保険料に含めて支払いますので、健康保険料が増えることになります)。

まとめると、厚生年金や健康保険は、①標準報酬月額の定時決定が反映される9月分の保険料(保険料は翌月払いなので、10月支給分の給料から控除)と、②健康保険料率が変わる3月分の保険料(4月支給分の給料から控除)1年に2回のタイミングで変わる(それ以外では原則固定されている)ということになります(なお、ちょっとした豆知識ですが、毎年4月に子ども子育て拠出金の保険料率も変わるのですが、これは事業主さんのみが負担するものなので、会社員の皆さまの給料から控除されるものではありません)。

このように原則として固定された保険料は、毎月いくら払うかの見込みが立てやすいという利点がありますが、仮に一時的に給料が減っても、決められた保険料を支払わなくてはいけないという欠点もあります。

極端な例でいえば、保険料が免除されない個人の都合で休業した場合、仮にその月の給料が0円であっても、標準報酬月額が変わらないなら、決められた保険料は支払わなければならないということなのです(その場合は保険料分は持ち出しになることもあるでしょう)。

いわゆる日給月給制や時給制等で基本給が固定されていない給与形態の場合には、特に気を付けたいところです。

 

以上、厚生年金保険料と健康保険料がいつどうやって決まるのかを簡単にご紹介しつつ、給料の増減にかかわらず保険料が変化しない理由をご説明いたしました。

社会保険の正確な知識は、税金の正確な知識と同じくらい大切なことだと思います(独立起業を考えている人には特に大切なことだと思います)。

「税金も社会保険料も給料から天引きだから、あまり関心がない」という人も、少し意識して給料明細を見てみることから始めてみてはいかがでしょうか。

少し宣伝になりますが、筆者は、ときどき社会保険の無料勉強会をやっています。

今回の勉強会では、起業を目指す人の参加があったので、起業者のための社会保険の知識(個人事業の場合と会社を立ち上げた場合の違い)や、人を雇った場合の社会保険の知識(強制適用の要件や事業主負担)についても概要をご説明いたしました。

興味のある人はお気軽にお問合せいただければと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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「第6回民事系勉強会」開催のお知らせ

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今回は、勉強会のお知らせです。

筆者は、オフィス北浦代表者として、偶数月に民事系勉強会を開催しています。

その勉強会ですが、今回は、

日時:2017年12月1日(金) 18時00分~19時30分

場所:サンライフ萩(山口県萩市)※お部屋等の詳細はご参加者に追ってご連絡いたします

参加料:無料

のとおり行います。

「奨学金を考える」をテーマにして、平成30年度から本格実施される給付型奨学金の概要、貸与型奨学金の延滞問題や保証人問題、企業型奨学金のいわゆる「お礼奉公」問題を検討したいと思います。

最近は、一部マスコミなどを通じて「ブラック奨学金」などとセンセーショナルな報道などが見受けられます。

たしかに、奨学金はまったく問題のない制度ではありません。

しかし、ことさらに悪い面ばかりを強調して批判するだけでは、本当に必要としている人が委縮したり躊躇したりといった悪影響もあるのではないかと危惧しています。

そこで、制度の概要や法律的な問題点も含めて、奨学金の正しい知識を学び、奨学金との適切な付き合い方を考えてみたいと思います。

 

この勉強会は、元々は他の法律事務所の事務職員さんとの情報交換や交流を目的に開催しているものなのですが、特に参加者の資格に制限は設けておりません(ただ、会場が狭いので、収容人数は最大で10名様までなのですけど)。

ご参加希望の方は、

info@officekitaura.jp

まで、メールでお問い合わせくださいませ。

よろしくお願いいたします。

振替加算の誤解を考えてみる

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今週は、振替加算約600億円の未支給が判明したという年金関連の大きなニュースがありました。

支払われるべき年金がちゃんと支払われていなかったという事実は大変深刻な事態ですので、速やかな回復と再発防止を徹底的に行っていただき、年金制度に対する信頼回復に努めていただきたいと思っています。

筆者の周囲でもこのニュースは話題になったのですが、そもそも振替加算という制度そのものに馴染が薄いせいか、批判をする人の中にいくつかの誤解があるように思われます。

そこで、筆者が聞いた批判のうち、それはちょっと違うんじゃないのかなと思う点について、少し考えてみたいと思います。

 

振替加算は公務員の特権ではありません

今回の未支給のほとんどが、公務員の配偶者に対するものだったこともあって、振替加算が公務員の共済年金の制度だと思っている人がいるようです。

しかし、これは明らかな誤解です。

振替加算の支給要件は、日本年金機構のホームページの「加給年金と振替加算」に詳細が載っているので、そちらをご確認いただきたいのですが、振替加算は国民年金の老齢基礎年金に関する制度ですし、公務員の配偶者に限定するといった要件はありません。

簡単に言えば、①65歳になった人、②生年月日が1926年(大正15年)4月2日から1966年(昭和41年)4月1日までの人、③配偶者に加給年金額が加算されていた人、④20年以上厚生年金に加入していない人といった条件をなどをすべて満たせば、公務員の配偶者でなくても、振替加算はもらえます

今回、公務員の配偶者に未支給が多かったのは、共済年金とのシステム上の問題もあったように報道されています。

そのため、「公務員(の配偶者)への年金が未支給だった」という点だけが注目されて、このような誤解が生じたのでしょう。

なお、2015年(平成27年)10月1日に「被用者年金一元化法」が施行され、厚生年金と共済年金に分かれていた被用者の年金制度が厚生年金に統一されましたが、今回の未支給はそれ以前から生じていたようなので、被用者年金一元化の問題ではないように思われます(むしろ被用者年金が一元化したからこそ発覚したという一面もあるようです)。

 

現役世代の40代以下の人は、そもそも振替加算はもらえません

今回の件で、自分が振替加算をもらうときに、同じようなことが起こったら困るとおっしゃる人がいました。

その人は、筆者と同じ世代なので、40代半ばの人でした。

ご安心ください。

今の40代には振替加算はありません。

先ほどの要件②にあるように、振替加算をもらえるのは、生年月日が1926年(大正15年)4月2日から1966年(昭和41年)4月1日までの人に限定されています。

1966年(昭和41年)4月2日以降に生まれた人には、この制度の適用はないのです。

つまり、40代より若い人には、そもそも関係のない制度ということです。

もちろん、システム上のミスで支給漏れが生じる可能性は、振替加算に限りませんので、その点はしっかりやってほしいものですが、少なくとも振替加算に関しては、制度上もらえませんので、その心配もないというわけです。

 

振替加算に関しては保険料の問題はあまり関係ないです

「こっちは保険料を払っているのだから、年金はしっかり払ってもらわないと!」

まったくそのとおりだと思います。

2007年(平成19年)に発覚した、消えた年金記録問題は衝撃的でした。

払っていた保険料が払っていないことになるなど、冗談では済まされない話です。

ただ、今回、振替加算に関しては、保険料の問題を出すのはどうなのかなと思っています。

なぜなら、この振替加算という制度ができたのは、保険料を払っていなかった人を救済するという背景があるからです。

話は1986年(昭和61年)4月1日にさかのぼります。

このときから、サラリーマンや公務員の配偶者(主に専業主婦の皆さん)に国民年金の保険料を払う義務が生じました(強制加入になったということです)。

言い換えると、1986年(昭和61年)3月31日までは、払っても払わなくてもいい任意加入だったというわけです。

任意加入から強制加入になったのはいいのですが、それまでの任意加入の期間に加入していなかった人が無視できないほどに多いという問題が生じました。

加入していなかった人は、保険料を払っていないので、当然その期間の年金はもらえません。

将来、年金が少額になる人が大量発生する可能性があったのです。

そこで、そういう人たちを救済するために、この振替加算の制度ができたのです。

つまり、振替加算自体は、保険料をしっかり納めた人のための制度というわけではないのです。

ちなみに、どうして、振替加算をもらえるのが、1966年(昭和41年)4月1日以前生まれの人に限られるのかという理由もここにあります。

強制加入になった1986年(昭和61年)4月1日に既に20歳以上になっていた人を対象にしているということなのです。

現代風にいえば、「(年金もらえないのは)自己責任でしょ」ってことになるのかもしれませんが、当時はまだ年金制度にも、人々の心にも余裕があった時代だったのかもしれません。

 

以上、振替加算に関する誤解について考えてみました。

繰り返しますが、背景がどうであれ、払うと約束していたものを払っていなかった点について、今回の未支給の件は許されることではありません。

その点について、政府や日本年金機構を擁護することはできません。

ただ、振替加算という少し馴染の薄い制度ゆえの誤解もあるようなので、どのような制度なのかを考えてみたというわけです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

消えていく未支給年金

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今回は、年金受給者が亡くなった場合の未支給年金について考えてみたいと思います。

 

成年後見業務をやっていると、残念ながら、被後見人さんがお亡くなりになることもあります。

被後見人さんの中には、国民年金や厚生年金などの老齢や障害の年金を受給されている人も多いので、そのような年金受給者がお亡くなりになった場合には、それらの年金の未支給部分(「未支給年金」といいます)が発生します。

そして、相続人がいるにもかかわらず、制度上、それらが支払われることなく消滅していく場面を多くみてきました。

どうしてこのような「消えていく未支給年金」が生じるのか、その点についてご説明したいと思います。

未支給年金が生じる理由

まず、未支給年金が生じる理由について、考えてみましょう。

確認ですが、公的年金は、月を単位に発生します。

仮に、月の途中でお亡くなりになった場合でも、その月の年金は1ヶ月分全部が発生します(日割り計算はしません)。

そう考えると、少し得した気分になりますが、実は、年金の支給の開始が、年金をもらえる事由が発生した月の翌月からなので、その分が後ろに下がってきたと考えれば、それほど得しているわけではないでしょう。

たとえば、1月10日に年金をもらえる事由が発生した人が、実際に年金をもらえるのは2月分からになります(1月分は発生しないということです)。

また、同じ人が10月10日に亡くなったとした場合、10月分の年金は全額もらえるというわけです。

そして、年金の支払いは、原則として偶数月(2月、4月、6月、8月、10月、12月)の15日に、その月前2ヶ月分を支払うという、後払い制なのです。

この2ヶ月分後払い制こそが、未支給年金が発生する大きな原因です。

なぜなら、偶数月の15日以後に亡くなった場合でも、必ず1ヶ月分が未支給年金になるからです。

たとえば、Aさんが、8月16日に亡くなったとします。

Aさんは、8月15日に支払われた年金によって、6、7月分の年金を受け取っているはずですが、そこには8月分は含まれてはいません。

つまり、少なくとも亡くなった月分は必ず未支給年金となり、年金が後払い制であるというシステム上、未支給年金は避けられないということになります。

そして、特に偶数月の15日前に亡くなった場合には、未支給年金が3ヶ月分にもなります。

たとえば、Bさんが8月14日に亡くなったとします。

Bさんは、8月分の年金までもらえるはずでしたが、その分はまだもらっていません(この点はAさんと同様です)。

また、Bさんは、8月15日に支払われるべき6月、7月分の年金もまだもらっていないうちに亡くなっています。

つまり、Bさんの未支給年金は6月~8月分の3ヶ月分ということになります。

なお、奇数月に亡くなった方の場合、その月分も含めて2ヶ月分の未支給年金が発生することになります。

このように未支給年金は、普通に年金を受給している人なら誰にでも起こりうることなのです。

未支給年金という言葉のイメージから、たとえば、生前に年金を請求する手続きを失念していて、時効にかかっていない年金をまとめて死亡後に請求するというようなケースを想定してしまいがちですが、そういう特別なケースだけではないということです。

未支給年金は誰がもらえるのか

では、未支給年金は、そのまま消滅してしまうのでしょうか。

さすがに、国もそこまで厳しいことはしていません。

ちゃんと、未支給年金を支払うシステムを用意しています。

ただし、そのシステムは、民法の相続とは異なります

日本年金機構のホームページの「年金を受けている方が亡くなったとき」に詳しく書かれていますので、詳細はそちらをご参照いただきたいのですが、「年金を受けていた方が亡くなった当時、その方と生計を同じくしていた、(1)配偶者 (2)子 (3)父母 (4)孫 (5)祖父母 (6)兄弟姉妹 (7)その他(1)~(6)以外の3親等内の親族」が、この順番で未支給年金を請求することができます(国民年金法19条、厚生年金保険法37条)。

民法の相続では、法定相続人は、配偶者は常に相続人とされ、子、直近の直系尊属(父母など)、兄弟姉妹の順で相続人とされていることから、順位もずいぶん違うことがわかるでしょう。

そして、民法の相続と決定的に異なるのは「生計を同じくしていた」という要件があることです(生計同一要件といいます)。

お気づきになった方も多いと思いますが、この生計同一要件こそ、「消えていく未支給年金」の原因なのです。

もっとも、たとえば、住民票上、同一世帯として暮らしていた方が、未支給年金を請求するのは、それほど難しいことではありません。

住民票の写しなどを提出すれば、原則として生計同一要件を確認することができます。

しかし、そうでない場合、生計同一要件を説明することに、手間をかけなければなりません。

たしかに、この生計同一要件は、生計の一部でも同一であれば足りるとされていますが、それを第三者(施設の関係者や民生委員、町内会長など)に証明してもらう必要があるのです。

これはなかなか、ハードルが高いのではないでしょうか。

今後、独居の高齢者が増加するにしたがって、住民票の写しを提出するだけで生計同一要件を確認できる人も減少していくと予想されます。

ましてや、法定相続人ではあるけれど、ほとんど付き合いのなかったような人の場合、生計同一要件を満たすことはできないでしょう。

このように、生計同一要件というのが、未支給年金の請求のハードルになっているのです。

未支給年金は相続の対象ではありません

では、生計同一要件を充たす未支給年金の請求者がいない場合、民法の相続の原則にしたがって、未支給年金は法定相続ができるのでしょうか。

結論から言えば、国民年金や厚生年金の場合には、法定相続はできません

国民年金法や厚生年金保険法が民法の相続とは別に未支給年金の規定を置いていることは、民法の相続とは別の立場から未支給年金の支給を認めたもので、相続とは別のものだという理由だと言われています(最判H7.11.7参照)。

たしかに、年金は一身専属(その人固有の)権利であると言われているので、相続にはなじまないと言われれば、そんなものかなとも思うのですが、それでも、システム上必ず未支給年金が発生する仕組みをつくっておいて、民法の相続より厳しい要件を課すというのは、なんとも腑に落ちないところではあります(民法の相続には生計同一要件はありません)。

この点については、争いのあるところですので、今後、裁判上何らかの変更があるかもしれませんが、今のところ、そのようなニュースは聞こえてきません。

なお、制度は異なりますが、労災保険においては、未支給の保険給付がある場合、死亡した受給権者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹(請求権者の順位はこの順)であって、受給権者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたもののうちの最先順位者が請求者となるのですが、そのような者が不在の場合、通達によって、民法上の相続人が未支給の保険給付を請求することができるとされているのは、興味深いところです。

このように、生計同一要件を充たす遺族がいない未支給年金は、相続の対象にもならないまま、消えていくことになります。

このような「消えていく未支給年金」の問題は、これから増加していくのではないかと思っています。

過って振り込まれた未支給年金は返金を求められることもある

たとえば、筆者が関わっているような法人後見の場合、第三者の成年後見人が選任される人の中には、ご親族と疎遠になっていらっしゃる人も少なくありません。

そのような人の場合、生計同一要件を満たす親族はほとんどいらっしゃいません。

つまり、未支給年金を請求できる人がそもそもいらっしゃらないのです。

そのような人の場合、未支給年金はそのまま消えていきます。

そのようなケースを何件もみていると、「消えていく未支給年金」が本当にフェアな制度なのか、考えてしまうことがあります。

もちろん、いわゆる「笑う相続人」の問題があることは知っていますが、そのことと、年金が保険システムを採用しているにもかかわらず未支給年金が消えていくという問題は別問題なのではないかと思うのです。

ましてや、たとえば、先の例の8月14日に亡くなったBさんのケースで、仮に8月15日に6、7月分の年金が振り込まれてしまった場合で、未支給年金の請求者がいない場合、原則として、Bさんの相続人はいったん支払われた年金を返金する作業まで必要になります

死亡日が偶数月の15日に近い場合には、死亡後に年金がそのまま振り込まれてしまうケースは珍しいことではありません。

相続人がちゃんと死亡届も出しており、別にだまして年金を受給しようという意図などなかったとしても、返金が必要になってくるのです。

そこまでいくと、相続人としては、押し貸しの被害にあったようなものです。

成年後見人としては、未支給年金の過誤払が生じないためにも、死亡後すぐに年金口座を凍結するなど対応が必要なのですが、一般の人の場合、そこまですぐに対応できる人はなかなかいないと思います。

未支給年金が、2ヶ月分の後払いであるというシステム上の問題であるなら、たとえば1ヶ月分の当月払に変更するなど、できるだけ未支給年金が発生しないシステム作りをしてほしいものだと思っています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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サービス残業代が経営リスクになる日

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今回は、給料の時効について、動きがあったので、そのことを少し取り上げてみます。

 

以前、「給料が飲み屋のツケより軽くあつかわれるかもしれない・・・」(2017年4月16日投稿)と題して、民法改正により一般債権の消滅時効が5年になった場合に、給料の消滅時効が2年のままなのは不都合だという趣旨のことを書きました。

その後、2017年6月2日に「民法の一部を改正する法律」が公布されました。

いわゆる平成の民法大改正です。

それによれば、民法の短期消滅時効規定が廃止され、一般債権の消滅時効は原則、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間とされました

ただし、施行日は、公布の日から起算して3年を超えない範囲内で政令で定める日とされ、具体的な施行日は未定のようです。

そして、この改正をうけて、7月12日、厚生労働省の「第137回労働政策審議会 (労働条件分科会)」において、「民法の消滅時効の規定が整理されることに伴い、当該規定の特例である労働基準法115条の賃金債権等に係る消滅時効についても、その在り方の検討を行う必要がある。」として、給料の消滅時効の延長の議論が始まったとのことです。

 

仮に、今後、労基法115条が改正され、給料の消滅時効が、現在の2年から5年に延長された場合、「サービス残業(サビ残)」と言われる未払い残業代も5年分請求が可能になります。

単純計算で2.5倍になるのです。

さらに、現行法では、裁判上での請求の場合、最大で請求額と同額の「付加金」が加算される制度もあります。

つまり、たとえば、改正後、1年に75万円の未払い残業代が5年間生じた場合、これまでは2年分の150万円で済んでいたものが、消滅時効が5年になれば375万円になり、これに付加金が加われば、最大750万円になる可能性があるのです。

そう考えると、これまでは、「どうせ、サビ残請求されても、たった2年分だ」と高を括っていた経営者や、「2年分では請求額が少なくて、弁護士も雇えない」と裁判を諦めていた労働者にとっては、否が応にも注目せざるを得ない労基法改正となることでしょう

もしかしたら、新たな司法ビジネスのターゲットになる可能性もあります(たとえば、いわゆるグレーゾーン金利の問題で、過払金訴訟が多く起こされ、貸金業者の経営を圧迫したことは周知の事実です)。

いままでは金銭的にペイしないからと労働者側の労働問題を扱っていなかった弁護士が、新たに参入してくる可能性さえあります。

その場合、経営者がこれまでのようにサビ残等の未払い賃金問題を軽視していれば、予想外の訴訟リスクにさらされる事態もあるかもしれません。

もちろん、未払い賃金の請求が、過払金訴訟のようになるとは限りませんが、いずれにせよ、未払い賃金の問題が経営に与えるリスクは、これまで以上に深刻になっていくでしょう。

まあ、ちょっと考えれば、サビ残とは、労働者の役務や時間を盗んでいるようなものですので、そもそもそのような事態が常態化していることが異常なのです。

個人的には、「働き方改革」の第一歩は、サビ残の撲滅にあると思っています。

労基法115条の改正による給料の消滅時効の延長は、サビ残の抑止力になる大切な改正だと思います。

是非とも、速やかな改正をしていただきたいと願っています。

スキルアップのための給付金を利用するには【新社会人】

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今回は、雇用保険の「一般教育訓練給付金」について考えてみたいと思います。

 

雇用保険というのは社会保険(労働保険)の一つで、新社会人の皆さんも、給料明細の控除欄に「雇用保険料」として毎月保険料が引かれていると思います(厚生年金保険料や健康保険料に比べると少額だと思いますが、それでも毎月雇用保険料を負担しているはずです)。

雇用保険と聞いて、一番最初に思いつくのは、仕事を辞めて、次の就職先を探している間(求職中)に、ハローワークに行けばもらえる給付金(求職者給付)だと思います。

これは、仕事を辞めて給料が入ってこなくなった場合でも、雇用保険から給付金をもらいつつ、次の就職先を探せる制度です。

ある程度の収入を確保しつつ次の就職先を探せるという点で、とても頼りになる保険だと思います。

ただ、雇用保険の給付は、この求職者給付だけではありません。

求職者給付の他に、「就職促進給付」、「雇用継続給付」という制度もあります。

新社会人の皆さんも、就職促進給付の中では「再就職手当」(ハローワークからもらえる再就職の祝い金のようなもの)、雇用継続給付の中では「育児休業給付」や「介護休業給付」などは聞いたことがあるかもしれません。

これらの制度は、求職中や休業中の収入の確保や、再就職の際の支度金のようなものであり、困ったときに収入が大幅に減らないように填補するものだと言っていいでしょう。

それに対して、雇用保険には、もうひとつ、収入を上げるための制度が用意されています。

それが、「教育訓練給付」です。

教育訓練給付とは、働く人の主体的な能力開発の取組み又は中長期的なキャリア形成を支援するためのものであり、雇用の安定と再就職の促進を図ることを目的とする雇用保険の給付制度です。

制度の趣旨としては、雇用の安定と再就職の促進を図るものですが、要は、スキルアップのために経済的なバックアップをしてくれる制度であり、実質的にはスキルアップによって収入を上げるための制度と言っていいでしょう。

教育訓練給付の中には「教育訓練給付金」という制度があり、その中でも「一般教育訓練給付金」と「専門実践教育訓練給付金」という制度があります(専門実践教育訓練給付金は、まさに専門的な学校で資格をとるような場合であり、要件も厳しく、なかなかハードルの高いところもありますので、今回は一般教育訓練給付金について紹介していきます)。

 

一般教育訓練給付金の支給対象者は、

①受講開始日現在で雇用保険の被保険者等であった期間が3年以上(初めて支給を受けようとする人については、当分の間、1年以上)あること

②受講開始日時点で被保険者でない人は、被保険者資格を喪失した日(離職日の翌日)以降、受講開始日までが1年以内(育児や疾病などの理由で適用対象期間の延長が行われた場合は最大20年以内)であること

③前回の教育訓練給付金受給から今回受講開始日前までに3年以上経過していること

厚生労働大臣の指定する教育訓練を受講し修了すること

などの要件を満たした人です。

新社会人の皆さんが仕事を続けつつ、この一般教育訓練給付金を初めて受給する場合、②と③の要件はあまり関係がないと思いますので、①1年以上雇用保険の被保険者であった段階で対象の教育訓練講座の受講を開始し、④それを修了することが必要になるということです。

こう聞くと、意外と使いやすそうな制度だと思いませんか。

そして、支給額ですが、教育訓練施設に支払った教育訓練経費(入学金や受講料)の20%に相当する額となります。

ただし、その額が10万円を超える場合は10万円とし、4000円を超えない場合は支給されません

たとえば、20万円の経費がかかった場合には支給額は4万円(=20万円×20%)ですが、60万円の経費がかかった場合には支給額は10万円ということです(60万円×20%=12万円ですが、10万円を超えているので、この場合10万円が限度になるということです)。

また、経費が1万円しかかからなかった場合には、支給はされません(1万円×20%=2000円ですが、4000円を超えていないので、支給されないということです)。

支給申請手続は、教育訓練を受講した本人が、受講修了後、原則として本人の住所を管轄するハローワークに対して、必要書類を提出することによって行います(支給申請の時期については、原則として、教育訓練の受講修了日の翌日から起算して1か月以内に手続を行う必要があります)。

詳細については、ハローワークインターネットサービスをご参照のうえ、最寄りのハローワークで確認してください。

 

以上のように、一般教育訓練給付金は、10万円という限度はありますが、スキルアップできたうえに、払ったお金の20%が支給されるという、かなり嬉しい制度だと思います。

それに、一般教育訓練給付金の対象となる教育訓練講座は、資格の予備校等にも用意されていますし、通学だけでなく通信でも対象となっている講座もあります。

一般教育訓練給付金は、新社会人の皆さんにとって、入社してすぐに使える制度ではありませんが、1年後を見据えて、対象講座を探すなど、今からスキルアップのための準備をしてみてもいいかもしれません。

雇用保険は、仕事を辞めたり、休業したりしたときに使うものという思い込みを捨てて、在職中でも、せっかくもらえる給付金をしっかり活かしていきましょう。

スキルアップをして、収入アップを図ってください。

最後まで、お読みいただき、ありがとうございました。

健康保険「被扶養者」について考えてみた【新社会人】

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今回は、健康保険の「被扶養者」について考えてみたいと思います。

新社会人さんは、入社と当時に、会社の健康保険に加入したと思います。

病院にかかったときの医療費が3割の自己負担ですんだり、病気やケガで仕事ができずに給料がもらえない場合に傷病手当金がもらえたりするという制度です。

この健康保険では、本人(加入してる本人のことを「被保険者」といいます)の保険事故のほか、一定範囲の家族の保険事故についても保険給付が行われます。

この家族のことを「被扶養者」といいます。

主な被扶養者の範囲としては、配偶者(事実婚を含む)、両親や祖父母、子、孫、兄弟姉妹などで、本人によって生計維持をされている人です。

とてもざっくり言ってしまえば、「本人が生活費の大半を出している家族」というイメージです。

ここでは、詳しい被扶養者の範囲や認定基準については触れませんが、詳細は全国健康保険協会のホームページをご参照ください(健康保険組合の場合にはそちらで確認してください)。

本人との同居が必要かどうかや、年間収入がいくらかなど細かく設定がされています。

余談ですが、2016年9月までは、本人の兄弟姉妹のうち、兄姉は同居が必要で、弟妹は同居が不要という、なんとも不思議な要件があったのですが、10月からは、兄弟姉妹はすべて同居は不要となりましたのでご注意ください(もし、別居の兄姉に生活費を援助しているようなケースがあれば、被扶養者になるかどうか検討してもいいかもしれません)。

さて、この「被扶養者」になった場合、どういうメリットがあるのでしょう。

それは、保険料です。

最初に確認しておきたいのですが、原則として、被扶養者が増えたとしても、本人の保険料が上がることはありません(この点は、意外と誤解が多いところです)。

たとえば、妻と子、両親の4人を被扶養者にしたとしても、誰も被扶養者にしなかった場合の保険料と変わりはないのです。

この場合、もしも、本人の妻が被扶養者にならないのであれば、妻は自分で会社に勤務してその会社の健康保険に入るか、国民健康保険に入るかしないといけません(それは両親も子も同じです)。

自分で会社の健康保険に入る場合でも、国民健康保険に入る場合でも、それぞれ保険料がかかります。

その保険料を払わなくてよくなるのです。

国民健康保険料は住んでいる市区町村によって計算方法が違いますので、一概にいえないのですが、仮に1ヶ月5000円だったとすれば、1年で6万円の保険料を払わなくてよくなります(これはかなり少なく見積もったものです)。

しかも、医療費の自己負担などでは、国民健康保険と同じサービスを受けることができるのです。

また、被扶養者が配偶者の場合、国民年金の第3号被保険者(厚生年金に加入している人の配偶者で扶養されている人)となれば、国民年金保険料も払わなくてよくなります(保険料は払わなくても、将来の国民年金は全額ちゃんともらえます)。

国民年金保険料は現在1ヶ月約1万6500円ですので、1年で約19万8000円の保険料を払わなくてよくなるのです。

仮に30歳~60歳まで30年間、妻を被扶養者として、1年で25万円程度の保険料を支払わなくてよくなった場合、その総額は750万円となります。

被扶養者の経済的メリットはかなりのものです。

繰り返しますが、本人の保険料は健康保険も厚生年金もどちらも上がりません。

では、誰がその分を負担してるのだろうと素朴な疑問が出てきます。

それは、他の被保険者です。

この点については、独身者や、共働きの夫婦(夫婦とも被保険者になっている人)などの立場からは、不公平ではないのかという議論があります。

ですので、この制度がいつまで続くのかは不確実なところもあるのですが、少なくとも現状ではすぐに変更される予定はないようです。

筆者も被扶養者制度の恩恵を受けていない人の一人なのですが、個人的には「お互いさま」の精神は大切なものだと思っていますので、殊更反対するつもりはありません(ただ、利用する際は、善意の支え合いの制度であることを考えて、正しく使ってほしいとは思っています)。

このように被扶養者制度は、労働者にとってとても有難い制度ですので、使える人は有効に使っていただきたいと思っています。

 

昼休みの電話番ってありなのか考えてみた【新社会人】

オフィス北浦のブログサイトへようこそおいでくださいました。

今回は、会社の休憩時間について考えてみたいと思います。

午前中の仕事が終わって、お昼休みに入ると、本当にひと安心するものです。

ランチを食べてパワーをチャージする人、一服して気分をリフレッシュする人、午後に備えて仮眠する人などなど。

お昼休みの使い方は人それぞれでよいのですが、休憩時間にもちゃんと法律上のルールがありますので、今回はそれを確認していきましょう。

 

休憩時間については、労働基準法34条で定められています。

それによると、休憩時間は、労働時間が6時間以内の場合には付与義務はなく、6時間を超え8時間以内の場合には45分以上、8時間を超える場合には1時間以上を付与しなければならないとあります。

ここで注意が必要なのですが、たいていの所定労働時間は8時間以内です。

とすると、法律で定められた休憩時間は45分でよいということになります。

この点、「うちは所定労働時間が7時間だけど、休憩時間は1時間あるよ」という人もいるかもしれません。

それは、労働基準法で定められた基準は最低限のものなので、就業規則などで労働者に有利な条件を定めている場合には、そちらが優先するからなのです。

逆に言えば、この場合、休憩時間が45分を下回るような定めは、労働契約や就業規則、労使協定によってもできないということでもあります。

 

また、原則として、休憩時間は、①労働時間の途中に②一斉に与えて③労働者の自由に利用させなければならないというルールがあります。

これらには例外があるのですが、特に③労働者の自由に利用させるという原則については、問題になることが多いように思います。

たとえば、「お昼休みの電話番」問題です。

これは、職場によっては、暗黙ないし公然のルールとして、お昼休みは食事などをしながら、電話や来客の対応のために、待機しておかなければならないというものです。

はたしてこのようなお昼休みは、休憩時間を自由に利用させているといえるのでしょうか。

そもそも、労働基準法上の休憩時間とは、労働者が権利として労働から離れることを保障された時間をいい、単に作業に従事しない手待時間は休憩時間には含まれません。

たまたまその日のお昼休み中に、電話も来客もなく、結果として対応することがなかったとしても、それは手待時間であって、労働から離れているとはいえないでしょう(いつ電話がかかってくるか待機していたら、まったく落ち着かないですよね)。

つまり、この場合には休憩時間をとっているのではなく、労働時間であると認定される可能性があります。

仮に労働時間であると認定された場合には、それは立派な時間外労働であり、その分の給料(時間外手当など)が支払われてしかるべきということです。

もっとも、職場のルールとして確立されていると、なかなか言い出せないのもしかたのないことかもしれません。

その場合でも、まずはしっかりと記録をとって、どの程度「お昼休みの電話番」をさせられているか客観的事実を確認してみてください。

そのうえで、信頼のできる仲間や専門家に相談するなど対応を検討されることをお勧めします。

 

せっかくのお昼休みです。

午後からの生産性を上げるためにも、有効に使っていきたいものです。

ついやってしまう「お金」の悪いクセ3選【行動ファイナンス】

人は生きていくうえで、たくさんの意思決定をしています。

そして、これらの意思決定は、ほとんどの場合「お金」に関する意思決定でもあります。

大学へ進学した場合と高校を出てすぐに働いた場合のコスト(学費など)と生涯賃金を比べてみたり、家を買った場合と賃貸のままであった場合との損益計算をしたり、お金が意思決定に与える影響は大きいものです。

もちろん、お金だけが意思決定の基準ではありませんが、お金のことをまったく無視して意思決定ができないことも事実です。

なぜなら、お金は計算ができるので、とても合理的な基準になるからです。

ところが、本来、合理的であるはずのお金のことに関して、人は必ずしも合理的な意思決定ができるとは限りません。

現実には、認知上の誤りや、感情や心理が影響して、非合理的な意思決定をしてしまうことがあるのです(それが人なのだからしかたないことですが)。

このような非合理的な意思決定のバイアスのパターンを分析する「行動ファイナンス」という考え方があります。

人には「お金」に関してついやってしまう悪いクセのようなものがあるということです。

今日は、行動ファイナンスの指摘するお金に関する悪いクセを三つほど紹介してみましょう。

自分に当てはまるかどうか考えてみてください。

得するよりも、損する方がずっとイヤ

「損失回避性」というものがあります。

これは、得するよるも、損する方がずっと嫌な感じがするというものです。

たとえば、10万円の株式投資をしたとしましょう。

このとき、1万円の利益が出た場合と、5000円の損失が出た場合とを想像してみてください。

1万円の利益が出た場合の喜びの程度と、5000円の損失が出た場合の悔しさの程度は、どちらが大きいでしょうか。

5000円の損失の方がインパクトが強い気がしませんか。

客観的には10%の利益と5%の損失であれば、前者の方に強い気持ちが働いてもよさそうですが、多くの人の場合はそのようにはならないのです。

このように、利益に比べて損失を過度に嫌う心理的・感情的傾向を「損失回避性」といいます。

損失を回避するクセが強すぎるというのは、臆病になりすぎるということでもあります。

投資など「お金」の判断は慎重に行うべきですが、必要以上の臆病さが出てくるのは、人の悪いクセによるものなのかもしれません。

「朝四暮二」の落とし穴

「朝三暮四」という故事をご存じでしょうか。

昔の中国の偉い人が、飼っている猿にトチの実を与えるのに、朝に三つ、暮れに四つやると言うと猿が少ないと怒ったため、朝に四つ、暮れに三つやると言うと、たいそう喜んだという故事から、目先の違いに気をとられて、実際は同じであるのに気がつかないことを意味します。

朝三暮四も朝四暮三も結局は合計で七なのだから、言いくるめられた猿は、愚かかもしれませんが、実際には損はしていません(むしろ早めに多くの利益を確保した分、時間的な利益を得ているかもしれません)。

しかし、人には、目先の小さな利益に目を奪われ、将来の長期的な利益を逃してしまう、あるいは目先の低いコストに目を奪われ、将来の高いコストを見逃してしまうという、悪いクセがあります。

これを「現在志向バイアス」といいます。

たとえば、毎月分配型と累積投資型の投資信託があった場合、複利効果で中長期的には収益が増える可能性のある累積投資型よりも、そういった効果はないけど、毎月目に見えた形で収益がある毎月分配型の方が魅力的に感じられるってことはないでしょうか(もちろん、他の要素もあるので、毎月分配型が絶対に損をするというわけではありませんが)。

また、当面の金利は低く設定されているが、一定期間経過後に高い金利が適用されるローンの方が、長期固定型金利のローンよりも、心理的に借りやすく感じてしまうって場合もあるでしょう。

実際に合理的に計算したうえの判断なら問題はないのですが、現在志向バイアスに影響された判断になっていないか検証は必要です。

気がつけば「朝四暮二」となっていて、猿より愚かで損をする判断になっていないか、十分に気をつけたいものです。

ニセモノの「真ん中」に誘導される危険

人には、与えられた選択肢の中で中間的なものを選ぶクセがあると言われています。

「極端性の回避」と呼ばれるものです。

ハイリスク、ミドルリスク、ローリスクの三種類の金融商品を並べられると、ミドルリスクの商品を選びやすいといったことです。

不動産の物件選びでも、いい部屋だけど家賃の高い部屋、家賃も出せる範囲で部屋のグレードもまあまあの部屋、家賃は安いけどちょっと住みたくない部屋の順番で紹介された場合、たいていは2番目の部屋を選ぶのではないでしょうか。

極端なものを回避するというのは、ある意味当然なことです。

しかし、極端なものを回避した結果が、必ずしも真ん中のものになるとは限らないということには、十分な注意が必要です。

なぜなら、これらは、あくまで「与えられた選択肢」の中での相対的な評価に過ぎないからです。

悪意のある業者が、一番売りたい商品が「真ん中」にみえるように、意識的にその他の「両極端」を選んで、提示してくるということもありえるのです。

まずは、与えらえた選択肢が適正なものかを、ひとつ上のレベルで見極める注意深さが必要になってきます。

そのためには、事前の情報収集をしっかり行って、ある程度の相場勘を養っておきたいものです。

 

今回は、ついやってしまう「お金」の悪いクセを三つご紹介しました。

当てはまるものはあったでしょうか。

「無くて七癖」という言葉のとおり、行動ファイナンスでは他にもたくさんのクセが指摘されています。

まずは、クセを意識するところから始めて、少しでも合理的な意思決定ができるようにしたいものです。

 

ボーナスについてちょっと考えてみた【新社会人】

今回は、「ボーナス」のお話です。

夏と冬にボーナスがある場合、4月に採用された新社会人さんが本格的にボーナスをもらえるのは、今年の冬からになると思いますが、今から楽しみにしている人もいるのではないでしょうか(ちょっと気が早いですが)。

ただ、「月給の何か月分がもらえる」とか話はきいているけど、ボーナスについてちゃんと説明できる人はどれだけいらっしゃるのでしょうか。

パートさんやアルバイトさんはもらえない人が多いのに、正社員だけがもらえたり、その一方で、大企業でも業績悪化でボーナスがでないってニュースがあったり・・・ボーナスってわかっているようでよくわからないところがあります。

そこで、ボーナスとは何で、誰がいつもらえるものなのかについて、少し考えてみましょう。

ボーナスを支払うことは、会社の法律上の義務ではない

ボーナスは、「一時金」と言ったり、「賞与」と言ったりもします(ここでは「ボーナス」といいます)。

労働基準法では、ボーナスも賃金のひとつで、労働者が働いたことによる対価です。

ただ、普通の賃金(月給など)は毎月1回以上払わないといけないのですが、ボーナスはその例外であり(労働基準法24条)、「半年に1回」だとか「臨時に」だとかで払うことができます。

そして、ボーナスは法律上必ず払わないといけないわけではなく、払うと決めた場合にのみ、それが労働条件になるという特徴があります(これは、ボーナスを払う決まりを作ったら、会社にはボーナスを払う義務が生じるということです)。

なので、「うちの会社はそもそもボーナスない」ってとこもありますし、「正社員はボーナスあるけど、パートさんやアルバイトさんにはない」というところもあります(むしろパートさんやアルバイトさんにはボーナスがないとか、あっても少ないという決まりのところが多いのが現状です)。

ボーナスを払う決まりがあっても、必ず毎回もらえるとは限らない

ボーナスを払う決まりは、普通は就業規則に定められます。

就業規則には会社と労働者の基本的な約束事が記載されており、会社も労働者もこれに従う義務があります。

では、就業規則にボーナスの定めがあれば、ボーナスは保障されたものになるのでしょうか。

就業規則は会社毎に内容が違うので、一概には言えないのですが、ここでは、次のような就業規則があるとして考えてみましょう。

 

「(賞与)第××条 会社は、会社の業績、従業員各人の査定結果、会社への貢献度等を考慮して、賞与を支給するものとする。ただし、会社の業績状況等により支給しないことができる。

2 賞与の支給時期は、原則として、毎年6月及び12月の会社が定める日とする。

3 賞与支給額の算定対象期間は、次の各号のとおりとする。

(1)6月支給分:下期決算期(前年10月1日から当年3月31日まで)

(2)12月支給分:上期決算期(当年4月1日から当年9月30日まで)

4 賞与の支給対象者は、賞与支給日において在籍する者とする。」

 

第1項のただし書をみてください。

「ただし、会社の業績状況等により支給しないことができる。」とあります。

これは、平たく言えば、「普通ならボーナスは支払うけど、会社が大変なときには払わないこともある」って書いてあるのです。

つまり、100%ボーナスがもらえると保障されているわけではないってことです。

ただ、逆に言うと、ボーナスが出ないのは、客観的に会社の業績が深刻に悪化している場合など例外的な場合に限られ、社長の気分次第でボーナスを出したり出さなかったりできるというわけではないということです。

対象期間に働いていても、ボーナスがもらえない人がいる

次に、ボーナスの支払い条件を確認してみましょう。

この就業規則の例では、2項で、ボーナス支払い月が6月と12月と定められています。

また、3項で、6月支払い分は前年10月~当年3月までの期間の従業員の働きぶりなどをみて決める(12月支払い分は当年4~9月までの期間が対象)と定められています。

たとえば、4月に入社した新社会人さんは、6月支払い分のボーナスはなく(対象期間に働いていないため)、入社後、4月から9月にしっかり働いた分が12月のボーナスに反映されるということです。

ただ、色々な事情があって、それまでにどうしても会社を辞めなければならないという人もいるかもしれません。

たとえば、9月末日付で退職した人がいるとします。

この人は12月分のボーナスはもらえるのでしょうか。

結論から言えば、就業規則上はもらえません。

理由は4項で「賞与の支給対象者は、賞与支給日において在籍する者とする。」と定めてあるからです。

これは、「3項の対象期間に働いていた人でも、実際の支給日に社員でない人にはボーナスは払いません」という意味です。

つまり、9月末日付で退職した人は、4月から9月の6か月間しっかり働いていても、12月のボーナス支払い日に社員ではないので、ボーナスはもらえないということになるのです。

毎月の給料であれば、給料の締日までに辞めた人でも、働いた分の給料は法律上必ず払わないといけない(日割りで計算したりします)のですが、このような就業規則がある場合、ボーナスはそういうわけにはいかないのです。

「辞めるならボーナスもらってからにすれば?」なんてことを先輩から言われることがあるかもしれませんが、これはそういう理由からのアドバイスだと思います。

就業規則などでボーナスの条件を確認しておこう

今回は、架空の就業規則をもとに、ボーナスがもらえる条件を考えてみました。

しかし、この就業規則は会社によって異なります。

そもそも就業規則は周知されてこそ、その効力が生じるのですが、実際問題として、就業規則を知らない人が多いのも事実です。

会社が意図的に社員に知られないようにしている悪質なケースもありますが、社員の側も、こまかいことにはあまり興味がないって事情があるのかもしれません。

ただ、賃金(ボーナスを含む)や福利厚生などの「お金」に関わる部分は、しっかり就業規則や各種規定で確認しておいて損はないと思います。

これを機会に、会社の就業規則をそれとなく確認されてみてはいかがでしょうか。

 

 

給料が飲み屋のツケより軽くあつかわれるかもしれない・・・

※7/16追記:本記事には、追加記事があります(「サービス残業代が経営リスクになる日」(2017年7月16日))

 

給料にも「時効」があることをご存知でしょうか。

2017年4月現在、給料の時効は2年とされています(ちなみに退職金は5年です)。

これは、労働基準法115条に定められています。

実際には、倒産などの場合を除いて、基本給自体をもらいそこなうってことはほとんどないと思いますので、普通に働いている限りでは、給料の時効について意識することはあまりないでしょう。

では、どんなときに給料の時効の問題がでてくるのでしょう。

それは、サービス残業の未払い残業代を請求するようなケースです。

しかも、実際に働いている間は、会社の暗黙の圧力や同僚との同調圧力がかかって、サービス残業代を請求することは心理的に難しいので、これが問題になるのは退職(とくに円満でない退職)の場合が多いのです。

ここで時効の壁につきあたります。

たった2年しかもらえないのですから(しかも、放っておくと時効はどんどん進んでいきます)。

仮に退職時すぐにサービス残業代を2年分請求したとしましょう。

1日平均2時間のサービス残業があったとします(ブラック企業ならこんなもんではすまないでしょうが)。

月給20万円、1ヶ月の所定労働時間が160時間(1日8時間 1ヶ月20日勤務)だった場合、1ヶ月のサービス残業代は、

20万円÷160時間×1.25(割増率)×2時間×20日=6万2500円

となり、この2年分では、

6万2500円×12ヶ月×2年=150万円

となります。

たとえ、実際には入社以来10年間サービス残業が続いていたとしても、2年分が限界なのです。

しかも、会社がこれをすんなり払ってくれるとは限りません。

場合によっては、弁護士を依頼して裁判をしなければならないこともあるでしょう(なお、裁判になれば、金額が倍増する付加金制度というものがあるのですが、ここでは話がややこしくなるので触れません)。

なんともやりきれない話です。

 

ただ、時効に関しては、とても気になるニュースがあります。

それは、120年ぶりの大改正といわれている民法債権法の改正が現実的になってきたことです(追記:その後、民法大改正は成立し、2017年6月2日に公布されました)。

大改正というだけあって、改正のポイントはいくつもありますが、時効の問題もそのひとつです。

かなりざっくりいえば、債権の時効が原則(権利が行使できることを知ったときから)5年(知らなくても10年)に統一されるらしいということです。

現行の民法では、原則(個人間のお金の貸し借りなど)は10年、飲み屋のツケは1年などとこまかく決められているのですが、それが統一されて原則5年になるのですから、かなり影響の大きな改正だと思います。

とすれば、サービス残業代も5年分請求できるようになるのかなと期待できそうなのですが、それがどうもはっきりしていません。

そのような話があまり聞こえてこないのです(追記:2017年7月12日、厚労省の労働政策審議会において労基法115条改正の検討が始まりました)。

もしも、給料の時効が5年になったら、先ほどの例であれば、請求できるサービス残業代は、

6万2500円×12ヶ月×5年=375万円

となります。

金額が増えた分、やりきれない思いも少しは報われるような気がします。

ぜひ、給料の時効も5年にしてほしいところです。

 

しかし、民法だけが改正されて、労働基準法が改正されないという場合もありえます。

その場合、民法の一般債権の時効は5年、労働基準法の給料の時効は2年という、なんとも変な話になってしまいます。

そもそも、現行の民法では「給料は1年」となっているところ、これを労働者保護のために、わざわざ労働基準法で2年に延長しているのですから、それが逆転するとなると、まさに本末転倒な現象が生じます。

飲み屋のツケより守られない給料っていったい・・・というトホホな感じです。

 

個人的には、民法改正に併せて労働基準法も改正されるのだろうなという期待をもっていますが、なかなか確定情報がでないので、少し心配しています。

今回の民法大改正は、「お金」のことを考えるうえで、影響の大きいものですので、今後も注意深くみていきたいと思っています。

 

※追加記事:「サービス残業代が経営リスクになる日」

自分で厚生年金保険料を計算してみよう【新社会人】

新社会人の皆さま、給料から天引きされる厚生年金保険料が、どのように計算されるのかご存じでしょうか。

筆者が学生さんや若手社会人さんと行っている無料勉強会では、早い段階で、架空の給料計算をしてもらいます。

そうすると、社会人経験のある人でも、その仕組みをまったく知らないという人がとても多いことに気付きます。

考えてみれば、当たり前のことかもしれません。

普通に考えて興味があるのは「手取り金額」であって、「引かれもの」に関しては「こんなに引かれてる・・・高いな~」と見るのも嫌になるという人がほとんどだと思います(ましてや、どうやって計算するのかなんて興味がなくて当然です)。

実は、筆者も以前はその一人でした。

ただ、今はその仕組みを知ることは、「お金」と上手くつきあうために必要なことだと思っています。

「引かれもの」は、勝手に給料から引かれていくのですから、自分の努力ではどうにもならないように思えます。

いわば「最強の敵」なのです。

しかし、そのような最強の敵に対して、何ができるのかを考えることは、「お金」と上手くつきあううえで大切なことなのです。

そのためには、まず敵の正体を知らなければなりません。

そういうわけで、筆者がお金の勉強会をする際には、参加者に自分で給料計算をしてもらって、敵の正体を知ってもらっているわけです。

前置きが長くなりましたが、今回は、厚生年金保険料の計算方法を紹介したいと思います(なお、健康保険料の計算方法もほとんど同じようなものですが、都道府県や会社ごとに保険料率が異なるため、今回は全国一律の厚生年金保険料をとりあげます)。

1  まずは報酬月額を確認しましょう

最初にやる作業は「報酬月額」を計算することです。

「報酬」とは、賃金、給料、俸給、手当など、被保険者(=会社員)が労務の対価として受けるものすべてが対象で、金銭で支払われるもののほか、現物で支給されるものも含まれます。

基本給だけではなく、たとえば、残業代や通勤手当や住宅手当といった各種手当、通勤定期券なども含まれます。

ただ、新入社員さんの場合には、厚生年金の資格取得時(入社時)に報酬の支払い実績がないので、これから受けるであろう報酬の額を算定します。

ここでは、「報酬月額」を21万円だと仮定しておきましょう。

ところで、この「報酬月額」は原則として年に1回、4~6月の平均給与額をもとに計算し直されます(例外として、昇給・降給などで給与額が大幅に変わった場合などには、その都度計算し直されます)。

月々の給与額は残業代の増減などで毎月異なり、それをもとに一人ひとりの保険料を計算していては、事務処理がたいへんになるため、固定させるわけです。

2  次に標準報酬月額を確認しましょう

「報酬月額」が決まったら、それを基に「標準報酬月額」を確認します。

厚生年金保険の場合、「標準報酬月額」は第1~31等級に区分されていて、報酬月額に応じて、「標準報酬月額」が決まります。

たとえば、報酬月額が9万3000円未満の人の標準報酬月額(第1級)は8万8000円ですし、報酬月額が9万3000円以上10万1000円未満の人の標準報酬月額(第2級)は9万8000円です。

このように、標準報酬月額を決める報酬月額の金額には一定の幅があります(たとえば、報酬月額が9万3000円の人も、10万円の人も、標準報酬月額は同じ9万8000円になるということです)。

報酬月額21万円の人の場合、標準報酬月額(第15級)は22万円となります(第15級の報酬月額の幅は21万円以上23万円未満です)。

3  厚生年金保険料率をかけましょう

「標準報酬月額」が確認できたら、それに厚生年金保険料率をかけます。

2017年4月現在の一般の厚生年金保険料は18.182%です。

「保険料率が約2割・・・高すぎる」と心配になった人もいるかもしれません。

たしかに、この全額を社員が負担するとなったら大変です(標準報酬月額22万円の場合厚生年金保険料は4万円になります)。

そこで、厚生年金保険料の半分は会社が負担してくれることになっています(これは法律で決まっていることです)。

そのため、ここは半分の9.091%をかけることになります。

すると、22万円×9.091%=2万円(1円未満は原則四捨五入)となります。

2万円でも十分高いとは思いますが、半分会社が出してくれていると思えば、少しは気分も収まるかもしれません。

なお、正確な厚生年金保険料については、日本年金機構のホームページでご確認ください。

 

このように、実際に自分で計算してみると、その仕組みが理解できるのではないでしょうか。

「自分はサラリーマンだから、税金も社会保険料も勝手に引かれるもの。これはどうしようもない」と思い込んではいけません。

最強の敵の正体を知ることで、その対応ができるかもしれないのです。

それは、また別に機会にご紹介できればと思っています。

若い人ほど障害厚生年金がお得な理由【新社会人】

新社会人の皆さん、厚生年金についてどんなイメージを持っていますか。

正直なところ、「給料から天引きされる保険料が高すぎる」という以外に、具体的なイメージはないかもしれません。

特に「どんなメリットがあるのか」と聞かれれば、即答は難しいのではないでしょうか。

健康保険は、病院に行ったときに3割負担ですむとか、医療費が高額になれば差額が戻ってくるとか、病気で仕事ができず給料がなかったときに傷病手当金がもらえるとか、いろいろとメリットがイメージしやすいのですが、厚生年金保険となると具体的なメリットがイメージしにくいものです。

「老後に年金をもらうために保険料をはらっているんでしょう」という人、たしかにそれは正解です。

でも、それだけではありません。

厚生年金保険は、若い人ほど恩恵を受けられる点があるので、今回はそれをご紹介しておきます。

それは「障害厚生年金」です。

ちなみに、老後にもらえる厚生年金は「老齢厚生年金」といいます(この他にも「遺族厚生年金」などがあります)。

障害厚生年金について、かなりざっくりと説明すると、①初めて病院に行った日に厚生年金に加入していた人が、②一定程度以上の障害が残った場合にもらえる年金です(他にも保険料を一定期間ちゃんと納めていることなどの要件がありますので、詳しいことは、日本年金機構のホームページでご確認ください)。

この障害の原因となった病気やケガは、仕事上のものに限りません(休日にレジャーで交通事故に遭ったような場合も含まれます。なお、仕事上の原因の場合には労災保険からもお金がもらえる場合があります)。

そして、この障害厚生年金の計算方法なのですが、こちらもかなりざっくり説明すると

(賞与を含めた平均月収)×約0.55%×(厚生年金に加入していた月数)+配偶者がいる場合加給年金(約22万円)

というものです(障害等級2級の場合)。

たとえば、平均月収20万円の人(正確には標準報酬月額や標準賞与額という数字を用いるのですが、ここではイメージしやすいように単純化して計算します)が、入社1年後(配偶者なし)に障害が残った場合、

その障害厚生年金の年額は

20万円×約0.55%×12ヶ月=約1万3200円

となりそうです・・・

「え、年額でたったのこれだけ? どこかお得なの??」と思われたかもしれませんが、この話には続きがあります。

実は、厚生年金に加入していた月数が300ヶ月(25年)未満の人は、一律300ヶ月として計算するというお得な制度があるのです。

すると

20万円×約0.55%×300ヶ月=約33万円

となり、元の計算の25倍の障害厚生年金がもらえることになります。

1年間しか厚生年金保険料を払っていないのに、25年間分払ったこととして年金がもらえるというのは、かなりお得な制度ではないでしょうか。

ちなみに、遺族厚生年金にも同じような制度がありますが、こちらは配偶者や子、親などが本人の給料によって生活している場合にしかもらえないので、新社会人さんに当てはまるケースは少ないかもしれません(それに、遺族厚生年金は自分が死んでしまった場合に、遺族がもらえる年金ですので、自分で使えるわけではありません)。

さらに、障害等級が2級以上の場合には、障害厚生年金に併せて、障害基礎年金(2級の場合は年額約78万円)がもらえます(なお、2級以上の障害基礎年金がもらえない場合=主に障害厚生年金3級の場合には、障害厚生年金の額は障害基礎年金2級の場合の4分の3が最低保障額としてもらえます。平成29年度の場合、最低保証額は584,500円です)。

すると、この例の場合(2級の場合)には、年額にして、障害厚生年金(約33万円)+障害基礎年金(約78万円)=約111万円がもらえることになります(この計算はかなりおおざっぱなものですので、実際にどれくらい障害年金がもらえそうかは、社労士さんやFPなどにご相談ください)。

このように、障害厚生年金が若い人ほどお得になるというのは、25年間働いたことにして計算してくれるという点です(ちなみに障害基礎年金に関しても、40年間満額保険料を支払ったことと同じ額がもらえるので、こちらもかなりお得な制度です)。

「年金なんて自分には関係のない話」なんて思っていた人も、年金もいざというときには意外と頼りになってくれると思えば、高い保険料にも少しは納得できるのではないでしょうか。

最後までお読みいただきありがとうございました。

500円玉貯金の落とし穴

皆さん、お金を貯めていますか?

毎月決まった額を積み立てている人、生活費で余った分だけはなんとか貯めている人、やる気はあるけどなかなかできていないって人、色々なスタイルがあると思います。

なかなか貯金ができないって人でも、気軽に始められることから「500円玉貯金」をしている人はいるのではないでしょうか。

実は、筆者も500円玉貯金をやっているのですが、ときどき貯金箱を開けてみると、予想以上のお金が貯まっていて、かなり得した気分になります。

こんなちょっと嬉しい500円玉貯金ですが、いくつか落とし穴があることにお気付きでしょうか。

今日は、500円玉貯金で気をつけたいことについてお話しします。

気付かぬうちに目減りしている可能性

500円玉貯金を何年かしていると、10万円以上貯まっていたなんてこともあります。

これを励みにして、このまま続けていこうと思った人は、少し待ってください。

お金は放っておくと減っていくかもしれないって知っていましたか。

たしかに、10万円は使わなければ、いつまでたっても10万円のままです。

しかし、その10万円のお金の価値が気付かぬうちに減っていることがあります。

それは、物価が上昇することで、お金の価値が減っていくからです。

少し極端な例ですが、日本銀行のホームページによれば、昭和40年の1万円は平成27年の4.1万円の価値に相当する(消費者物価で比較した場合)とあります。

これは、約50年間10万円を貯金箱の中に入れておいたら、その価値が4分の1になってしまったということです(当時約41万円の価値だったものが今は10万円の価値しかないってことなので)。

このように、500円玉貯金を貯めっぱなしにしていると、損をすることがあるのです。

お金は流通させてこそ

また、少し大げさですが、500円玉貯金を貯めっぱなしにすることは、経済や社会にとっても、よくないことです。

お金は世の中に流通することで、経済や社会が発展していきます。

そういう意味でお金は「血液」にたとえられます。

貯金箱の中でお金を貯めたままにしているということは、血液の流れを止めているようなものです。

お金は流通させてこそ、その力を発揮してくれます。

まずは500円玉貯金を成功させて、まとまったお金を貯めることが先決ですが、貯まったあとにそのままにしておいていいのかどうかは、よく考えた方がいいでしょう。

「自分へのご褒美」という最大の落とし穴

それでも、500円玉貯金を貯まったまま持っておかれる人は、まだいい方かもしれません。

500円玉貯金の魅力は「いつのまにか貯まっていた」ということだと思うのですが、これが最大の落とし穴になる可能性があります。

当り前の話ですが、500円玉貯金は、誰かからもらったものでもなければ、臨時収入でもありません。

自分が貯めたお金です。

しかし、予期せずに、まとまったお金が手に入ったような気になって、つい財布のひもが緩んでしまうってことはないでしょうか。

「自分へのご褒美に・・・」なんて考え始めたら、かなり危険信号だと思ってください。

せっかく貯めたお金を無駄遣いしたのでは、元も子もなくなってしまいます。

500円玉貯金に成功した人は、この誘惑を乗り越えなければいけません。

定期預金にしてしまおう

では、どうするか。

ここはシンプルに定期預金にしてみましょう。

なーんだと思われるかもしれませんが、定期預金は侮れません。

お金を銀行に預ければ、僅かですが利息もついて、物価上昇による価値の目減りをいくらか補うことができます。

また、銀行に預けたお金は、銀行が流通させてくれるので、経済や社会のためにもなります。

そして、何より「自分へのご褒美」を買わずにすみます。

シンプルですが、落とし穴を回避する確実な方法だと思います。

1年ごとに500円玉貯金箱を確認して、少しずつ定期預金を増やしていく。

すると、いつのまにか思わぬ貯金ができていた、なんてサプライズは嬉しいですよね。

魅力満載の500円玉貯金、無理せずに、損せずに、挑戦したいものです。

 

長財布がどうとか言う前に財布の中身を整理しましょうって話

「お金」の話をしていると、よく財布の話題になります。

「長財布を使えばお金持ちになれるらしい」とか「風水では~色が金運を上げる」とか、色々なうわさが飛び交っています。

お金に対して意識を向けることは悪いことではないので、よほど胡散臭い話でない限り、「なるほどな」って感じで聞いています。

ちなみに、個人的には、ビジネスシーンでは長財布(+小銭入れ)、プライベートでは二つ折りを使っていますが、分相応な価格帯のもので使いやすいものであれば、特に気にはしていません。

ただ、どうしても「これはちょっとダメでしょう」と思う財布があります。

それは、「ブタ財布」です。

一万円札でぱんぱんになっているのならうらやましいのですが、レシートやポイントカードにクーポン券、使わないキャッシュカードやクレジットカードなどが乱雑に入っていて、今にもはち切れそうな財布。

さすがにお金がかわいそうになってきます。

よく「お金はさみしがり屋で、お金のあるところに集まっていく」と言いますが、それと同じくらい「お金はきれい好き」であることを忘れてはいけません。

きたない「ブタ財布」からは、お金は逃げていきたくてしかたないことでしょう。

これは精神論ではありません。

本当にお金は逃げていきます。

なぜなら、「ブタ財布」というのは、持ち主のお金に対する管理能力のなさをストレートに表してるからです。

「ブタ財布」の人は、お金がいくら入っているのかすら把握していないので、出ていくときも無頓着。

いつの間にかお金が逃げて行って、気がつけば「あれ、お金が足りない」なんてことになります。

自分からお金に嫌われるようなことをしているのだから、それもしかたのないことですけど。

財布については、どんなものを使おうと自由ですが、どんなふうに使うのかはちゃんと意識した方がいいでしょう。

まずは、財布の中身を整理して、お金に気持ちよくいてもらえるように、できれば更にお金を呼んできてもらえるようにしたいものです。

 

 

給料から国民年金の保険料が引かれていないと心配になった人へ【新社会人】

社会保険労務士・オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

前回は、新社会人さんの5月の給料から引かれていく社会保険料について、書きました(詳しくはこちらに)。

簡単に言えば、給料からは、厚生年金保険料や健康保険料が引かれ、手取り額が思った以上に低くなるので、それをふまえて家計管理をしましょうというお話でした。

このお話をすると、ときどきこんな質問を受けます。

「給料から国民年金の保険料が引かれていないけど、まさか別に払うのですか?」

この方は、学生時代からちゃんと国民年保険料を納めてこられた方なのでしょう。

そういう方だからこそ、気になるところだと思います。

というのも、令和7年度の国民年金保険料は1ヶ月あたり1万7510円です。

もしも、結構な厚生年金保険料が給料から引かれたうえに、さらに国民年金保険料を負担するとなれば、本当に気が滅入ってくることでしょう。

でも、ご安心ください。

結論からいえば、厚生年金保険料を払っている方は、更に国民年金保険料を払う必要はありません。

もう少し詳しく言うと、厚生年金に加入している方は、同時に国民年金にも加入しているのですが、第2号被保険者という立場になり、国民年金保険料を支払わなくてよいのです(将来の国民年金はちゃんともらえます)。

まれに、新社会人さんの元に国民年金保険料の納付書が届くことがありますが、これは事務手続上のタイムラグから生じるものですので、厚生年金に加入した後には国民年金の保険料は払う必要はありません(日本年金機構のHPをご参照ください)。

ざっくり言えば、厚生年金保険料の中に国民年金保険料に相当するものが含まれていると考えてもらえればいいでしょう。

そうすると、たとえば、20万円の給料から引かれる厚生年金保険料は1万8300円ですので、この中に国民年金保険料相当(約1万7500円)が含まれていると考えると、逆に厚生年金保険料は安いのではなんて感じもしてきます。

ただ、これには理由がありまして、それは、給料から引かれている厚生年金保険料とほぼ同じ額を、会社が負担してるのです。

つまり、給料から約1万8300円引かれている場合には、会社と合計で約3万6600円の厚生年金保険料を支払っているということになります。

「社会保険料は労使折半」なんてことを聞いたことがあるかもしれませんね。

そういう意味では、厚生年金は意外とお得な感じがしてくるかもしれません(保険料が安いかどうかは別問題ですが)。

今回の話をまとめると、

  • 厚生年金に入っている人は、国民年金の保険料は払わなくていい
  • 給料から引かれている厚生年金保険料と同じ分だけ会社も支払っている

ということです。

是非、この2点は覚えておいていただければと思います。
さいごまでお読みいただきありがとうございました。

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あわせて読んでいただきたい関連記事

給料から天引きされる社会保険料と天引きされない社会保険料についてまとめた記事があります。

そちらもあわせて読んでいただければ幸いです。

5月の給料「手取り額」をみて驚かないための心構え【新社会人】

4月に新社会人となった皆さま、毎日充実した日々を過ごされていると思います。

まだ慣れないこともあって、正直たいへんなことも多いことでしょう。

もしかしたら、「こんなことやりたくないなー」と折れそうになりながらも、「給料もらえるんだから、がんばろう!」と自分を奮起させている人もいるかもしれません。

たしかに、自分が社会人になったと実感できるのは、給料をもらったときだと思います。

「仕事をして、給料をもらって、そのお金で生活する」=「自立した社会人」って感じですよね。

給料の使い方も、稼いだ本人の自由です。

しかし、給料を無計画に使っていれば、生活費が足らなくなったり、貯金ができなかったりするので、計画的に家計管理を行うのも「自立した社会人」には必要なことです。

家計管理の方法については、ここでは詳しく触れませんが、家計管理の第一歩は収入と支出を把握することです。

つまり、毎月、いくら入って、いくら出ていくのかを(無理のない範囲で)予算化しておくことが必要です。

そして、ほとんどの方の場合、「収入=給料」でしょうから、まずは給料がいくら入ってくるのか把握しなければなりません。

「そんなのは、基本給が決まっているから、計算は簡単です」という方は、少し待ってください。

聞いたことはあると思いますが、給料からは色んなものが引かれていきます。

その代表的なものが、「社会保険料(厚生年金保険料、健康保険料)」です(その他にも「雇用保険料」や「所得税」などがあります)。

イメージがわかないなと思っている方のために、架空の計算をしてみましょう。

仮に、給料(社会保険では「標準報酬月額」といいます)が20万円の人の場合、厚生年金保険料は1万8300円、健康保険料(40歳未満)は1万0360円で、合計2万8660円の社会保険料が引かれます(この保険料率は令和7年3月分の山口県の協会けんぽ適用のものです)。

さらに、ここから雇用保険料や所得税等が引かれれば、控除額は3万円を超え、手取り額は、16万円代になることでしょう。

つまり、20万円入ってくる見込みで予算を組んでいたら、3万円以上足りなくなってしまうということです。

余裕をみて、手取り収入16万円で予算を組むべきです(ちなみに、社会人2年目からは、さらに住民税が引かれます)。

「20万円もらえると思ってたのに、手取り16万いくらって・・・どうやって生活するんだよ」

こんな悲痛な声が聞こえてきそうです。

この現実に、かなりの衝撃を受けるかもしれません(社会人経験者ならだれもが通る道なのです)。

そして、これらの控除額が反映された給料が支払われ、この衝撃が日本列島を駆け巡るのが5月になってからなのです。

税金や社会保険料は払わなければならないものであり、これらを払ってこその「自立した社会人」なのだと思って、現実を受け止めて、しっかり手取り額の範囲で家計の予算をたてていただければと思います。

 

ところで、4月に初めて給料をもらう方もいると思いますが、どうして5月からなのでしょうか(ここから先は家計管理の話からずれますが、ついでなので説明しておきます)。

それは、給料の計算方法が会社ごとに違うことと、社会保険料の控除は1ヶ月遅れで行われることが理由です。

まず、新入社員が4月に1ヶ月分の給料がまるまるもらえるケースは、月末締めの当月25日払など月末まで給与計算に含める場合です。

仮に、20日締め25日払いの会社の場合、4月にもらう給料は20日相当分になります(会社の規定で欠勤などがないなら全額もらえることもあります)。

ただ、社会保険料は原則翌月払いなので、4月に発生した社会保険料は5月に払うことになります(つまり、新社会人は入社前の3月には社会保険料は発生していないので、4月の給料からは引かれないということです)。

4月に給料をもらった方たちは、給料明細書には社会保険料が引かれていないので、「意外と引かれものは少ないな」なんて勘違いをしてしまう可能性もあります。

油断しないようにご注意ください。

また、会社によっては、月末締め翌月10日払なんてとこもあるので、5月にならないと給料をもらえないなんてとこもあります。

この場合、初任給である5月支払い分の給料から、がっつり社会保険料が控除されていきます。

いずれの場合でも、5月に支払われる給料というのが、社会保険料控除の洗礼を受ける初めての給料ということになるのです。

これは、社会人として避けて通れない道なのですが、知らずに給料明細書をみると、衝撃を受けることでしょう。

あらかじめ、衝撃に備える心構えをしておいてください。

 

 

自分より年金を多くもらっている人が臨時福祉給付金をもらえる理由

平成29年4月、各自治体では、「臨時福祉給付金(経済対策分)」の申請受付が始まっています。

期限のあることですので、詳細は各自治体に確認のうえ、申請忘れのないようにしてほしいところですが、最近、ある年金受給者の方から、臨時福祉給付金について次のようなことを聞かれました。

「私は臨時福祉給付金をもらえません。でも、近所の人は私より年金をもらっているのに、臨時福祉給付金がもらえるそうです。なんででしょうか?」というものです(以下、質問された方をAさん、「近所の人」をBさんとします)。

そんなことがあるのかなと思って、少し詳しく事情を聞くと、段々と理由が浮かんできました。

多分、理由として考えられるのは、もらっている年金の種類です。

Aさんは老齢(厚生)年金、Bさんは遺族(厚生)年金のようなのです。

臨時福祉給付金をもらうには、色々な要件がありますが、今回の場合、原則として「平成28年度分の住民税が課税されていない方」が対象です。

そして、意外と知られていないのですが、「遺族年金は非課税」だということです。

つまり、Bさんは、年金はもらっているが、それが遺族年金で非課税なので、臨時福祉給付金の対象になっているのではないかと思われるのです。

これに対してAさんの老齢年金は、課税されます。

ただ、老齢年金でも住民税が非課税となる場合があります。

たとえば、私の住む地域(萩市)の場合、控除対象配偶者などがいない方なら、合計所得金額が28万円以下の方が非課税となります(均等割)。

65歳以上のAさんの場合、年金収入から公的年金等控除120万円を引いた所得金額が28万円以下になれば非課税になるというわけです(逆にいえば老齢年金が148万円を超えると課税対象)。

ちなみに、これを非課税限度額といいますが、この非課税限度額は自治体により異なるので、注意が必要です。

話を聞くと、Aさんの年金の所得金額は、非課税限度額を若干超えているようでした。

Aさんには、「Bさんから話を聞くわけにもいかないので、あくまで推論ですが」と前置きをしたうえで、一般論として、遺族年金の非課税性と住民税の非課税限度額の説明をしました。

Aさんは「比べるものではないとはわかっていますが、私より年金額が多いと言っていたBさんが、さらに臨時福祉給付金までもらえるというのは、やっぱりどこかひっかかりますね」と複雑な表情をしておられました。

遺族年金が非課税であるのはそれなりの理由があることなので、ここでそれを批判するつもりはありません(課題のひとつだとは思っていますが)。

また、臨時福祉給付金は、収入の低い方にとって、本当にありがたい制度だと思っています。

ただ、臨時福祉給付金をもらえない人(とくに収入がギリギリ超えてしまってもらえない人)からすれば、「はいそうですか」と簡単に納得のできる話でもないんだろうなとも思っています。