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おひとり様の入院保証人・死後の手続きが心配? シングルライフステージの「まもり」の準備は50代から

「ゆとり・つながり・まもり」の3つの「り」メイクでシングルライフステージを支援する「ボードゲーム系社労士&ファイナンシャルプランナー」の徳本です。

今回は「まもり」のお話をします。

「おひとり様」の将来について考えたとき、ちょっと気がかりなことってありませんか?

たとえば、こんな気がかり。

入院するとき、保証人ってどうしたらいいの?

自分が亡くなった後、手続きって誰がやってくれるのだろう?

50代にもなると、元気ではいても、「いざというとき」のことが気になり始めるものです。

かくいう筆者(50代)も「5080」問題の当事者であり「おひとり様」予備軍です。

14年以上成年後見業務の事務局長を務めている経験をふまえて、当事者目線で「おひとり様」のための「入院」と「死後」の備え方について、わかりやすくお話しします。

テーマは「気がかり」を「まもり」に変える——あなた自身を守る、ちょっとした準備です。


◆ 入院時の「保証人がいない」問題

病院に入院するとき、保証人を求められることが多いのをご存じですか?

保証人とは、入院費が支払えなくなったときや、医師との連絡が必要なときに代わりに対応してくれる人のこと。

でも、おひとり様にとってこれは、意外と大きなハードルです。

最近では「本当に入院時に保証人が必要なのか」、「(どうしても保証人が見つからない場合に)保証人がいないことを理由に入院を断れるのか」という問題意識が広がっています(これは超重要なことです!)。

しかし現実的には保証人問題は根強く残っていて、未だに解決したとはいいがたいところです。

とりあえずは「決まりなので」ということで保証人を求められる可能性は高いです。

「そもそも家族がいない」「親族はいるけど遠方に住んでいる」「疎遠になっていて頼みにくい」——そんな方は、どうすればいいのでしょう?

▼ 対応策①:事前に病院とよく相談しておく

病院には患者さんの困りごとに対応してくれる相談員と呼ばれる医療・福祉の専門のスタッフが配置されていることがあります。

入院の話がでたら、相談員にあらかじめ事情をよく伝えておいて、入院時の対応策を相談しておくことが必要です。

行政など病院外の機関や組織と連携をとってくれることもありますので、入院までに時間の余裕があるなら、しっかりと相談しておきましょう。

筆者の経験上、最近は、入院保証人の問題意識が共有されており、柔軟に対応してくれる病院も増えている印象です。

きっと親身になってあなたの相談にのってくれるはずです。

なお、身寄りのない人の入院時の問題などは、厚生労働省の「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン及び事例集」も参考になります。

▼ 対応策②:信頼できる人に、あらかじめ相談しておく

親しい友人や元同僚、近所の人、遠い親戚の人などに、「万が一のときに、連絡先として名前を出していい?」と前もって話しておくと安心です。

保証人までは頼めなくても、緊急連絡先としてお願いできるだけでも十分です。

入院となると、いろいろな手続きや日常の雑務を自分だけではなかなかできなくなります。

代理人のような正式な権限はなくとも、信頼できるサポート役がいてくれるだけで安心感が違います。

▼ 対応策③:民間の「身元保証サービス」を使う

NPO法人や民間業者などが「身元保証」を請け負ってくれるサービスもあります。

これは、入院や施設入所の際に必要な保証人・連絡先を専門家が代行してくれる仕組み

中には、死後の手続きまでトータルで任せられるプランもあります。

ただし、費用は数十万円(委託内容によってはそれ以上)かかるケースもあるので、サービスの中身や料金、運営元の信頼性など、あなた自身が納得いくまでしっかりと確認して選びましょう。

正直言って、信頼性に乏しい民間業者がいないわけではありません

最新の流れとしては、そういった問題意識を受けて、地域の社会福祉協議会や行政から委託をうけた民間業者などがこのようなサービスを行っているケースもあるようです。

今はやっていなくても、社会福祉協議会の新規の事業として始まることもあります。

いずれにしても、現時点でできることは、事前に地域の情報収集を行っておくことです。

社会福祉協議会や民間業者の最新情報を定期的に確認しておきましょう。

その際には、政府の作成した「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」も参考になります(たとえば、消費者庁の「高齢者等終身サポート事業に関する事業者ガイドラインについて」というホームページをご参照ください)。

なお、将来的には信頼できる民間業者を登録する仕組みもできてくると思います。


◆ 「亡くなったあとのこと」、準備してますか?

入院の次に気がかりなのが「死後」のこと。

お葬式、住まいの片付け、役所の届け出、銀行口座の解約……

これらの手続きは、家族がいれば誰かがやってくれますが、おひとり様の場合はそうもいきません

「誰がやってくれるのか分からない」ままでは、周囲に迷惑がかかったり、望まない形で物事が進んでしまう可能性も。

だからこそ、あなたが生きているうちにきちんと準備しておくことが大切です。

▼ 対応策①:死後事務委任契約を結んでおく

「死後事務委任契約」とは、あなたが亡くなったあとに必要な手続きを信頼できる人(または法人)にお願いするための契約です。

葬儀、納骨、役所の手続き、住まいの片付けまで——

お願いできる内容は幅広く、公正証書にしておけば法的に契約内容を明確にしておくこともできます。

最近は、弁護士や司法書士、行政書士、NPO法人などがこのサービスを提供していることも多くなっています。

事前に死後事務に必要なお金を預けておくことになるので、「手数料と預け金の別」、「何をいくらでやってくれるのか」など契約内容をはっきり確認して、自分に合ったサービスを探しておきましょう。

なお、場合によっては、あなたの死後に法定相続人との間で問題になることもあります。

そういったトラブルを防ぐためにも、遺言作成とセットで死後事務委任契約を行うこともあります。

▼ 対応策②:遺言をつくっておく

遺言によって、あなたの財産を誰に残すかなど法律で定められた事項を生前に文書として残しておくことができます。

法的に有効な遺言書の作り方については、ここでは詳しくふれませんが、遺言の種類に自筆証書遺言というものがありますので、これは自分だけで比較的気軽に簡単に作成することができます。

もちろん、専門家に相談して公正証書遺言を作るのもいいでしょう。

ただ、遺言で一番気を付けたいのは「作ったはいいけど、どこにあるのかわからない」問題です。

特に自分だけで作った自筆証書遺言ではこういうことが起こりがちです。

遺言執行者を指定しておくといったこともできますが、そこまでいかなくても、信頼のできる人に遺言書のありかだけは伝えておくのもいいでしょう。

また、公的制度として「自筆証書遺言書保管制度」を利用することも検討してください(手続きなど詳しいことは法務局にお問合せください)。

▼ 対応策③:エンディングノートで想いを伝える

遺言に比べて、もう少し気軽に始められるのが、「エンディングノート」。

これは法的な書類ではありません。

なので、法的な効力としては遺言に劣ります。

しかし、その分自由度が高く、あなたの想いをしっかりと残すことができます。

「どんな葬儀にしたいか」「財産はどうしてほしいか」「大切な人へのメッセージ」などをあなたの言葉で残しておくノートです。

あとを託された人にとっても、とても助かる手がかりになります。


◆ あわせて考えたい「任意後見契約」

もうひとつ、老後に備えて知っておきたいのが「任意後見契約」です。

これは、あなたの判断力が低下したときに備えて、「この人に財産管理などを任せたい」と元気なうちに決めておく契約

認知症などで判断が難しくなったときにも、信頼できる人があなたをサポートしてくれます。

死後のことだけでなく、“その前の人生”も守るための備えができる制度です。

ただし、筆者の経験からいって、任意後見制度は必ずしも広く利用されているわけではありません。

公正証書で作らなければならないこと、実際に効力を発動するには家庭裁判所に任意後見監督人を選任してもらわないといけないこと、任意後見人だけでなく任意後見監督人への報酬が発生してしまうことなど、使い勝手がいいかと言われれば、疑問が残る制度です。

知識として、こういった制度があるということを押さえておきましょう。

なお、任意後見と似たものに「法定後見」制度があります。

これは、ある人の判断能力が低下したと認められた際に、申立によって家庭裁判所が成年後見人等を選任する制度です。

任意後見と違って、誰を選んでほしいかをあらかじめ指定しておくことはできません

なので、法定後見のための事前準備というのはなかなか難しいところがありますが、判断能力がしっかりしているうちに作成した遺言やエンディングノートが役に立つことがあります。

遺言やエンディングノートは、あなたが亡くなった後だけでなく、あなたの判断能力が低下した場合の準備にもなるといえるでしょう。


◆ まとめ:おひとり様でも“ちゃんと守られる時代”です

「おひとり様だからこれからが気がかり」——それは、あなただけではありません。

でも、必要な準備をしておけば、おひとり様でも安心して暮らしていける制度はあるんです。

保証人がいないときの対策、死後の手続きの準備、そして判断力が落ちたときの備え。

どれも今から始められることばかりです。

焦らなくていい。

少しずつで大丈夫。

50代の今だからこそ、あなたの人生を最後までしっかり歩み続けられるように、「まもり」の準備を始めてみませんか?

最後までお読みいただきありがとうございました。

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ボードゲーム系社労士&ファイナンシャルプランナー

徳 本 博 方
(とくもと ひろみち)

自己紹介

ボードゲーム系社労士&ファイナンシャルプランナー

「ゆとり・つながり・まもり」の3つの「り」メイクでシングルライフステージをサポート

ボードゲームで楽しく「つながり」をつくり、キャリア・資産形成と年金サポートで「ゆとり」を、成年後見で最終的な「まもり」をお届けします

「ぎりぎり・ひとり・気がかり」を、「ゆとり・つながり・まもり」に変えていきましょう!

プロフィール
  • 資格
    • 社会保険労務士
    • ファイナンシャルプランナー
    • 宅建士
  • 経歴
    • 一般社団法人萩長門成年後見センター事務局長(現)
    • 弁護士事務所パラリーガル(勤務17年以上)
    • 山口県萩市出身
    • 萩高校、慶応義塾大学文学部

知っているひとだけ得してる! 親の介護費用を抑えるための非課税世帯の制度活用術【50代必見】

「そろそろ親の介護が始まるかも……どうしたらいいのだろう」


50代になると、そろそろ親の介護のことが気になってきます。

そう思っても、具体的な対策がわからず、不安を抱えたままの方は多いのではないでしょうか。

かくいう筆者自身も「5080」問題の当事者です。

今回は、社労士&ファイナンシャルプランナーとして、14年以上成年後見制度の社会保険最適化業務に取り組んでいる筆者が、成年後見業務を通じて学んだ介護費用を抑制する方法をお届けします。

結論から言います。

それはずばり「住民税非課税世帯」になることです。

「住民税非課税世帯」であれば、介護サービスの自己負担を軽くできる制度があるのです。

この制度を知っているか知らないかだけで年間で数十万円以上の差が出ることもあります。

今回は、そんな「介護×住民税非課税世帯」のメリットをわかりやすく解説します。

なお、こちらの情報は投稿日現在のものですのでご注意ください。

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「住民税非課税世帯」とは?

住民税には「所得割」と「均等割」の2種類があり、世帯全員がそのどちらも課税されない場合にその世帯は「住民税非課税世帯」となります。

たとえばこんなケースが該当します(東京都23区内の場合)

  • 〈東京23区内の場合〉
    • 同一生計配偶者又は扶養親族がいる場合
      35万円 × (本人・同一生計配偶者・扶養親族の合計人数) + 31万円 以下
    • 同一生計配偶者又は扶養親族がいない場合
      45万円 以下

※東京都主税局ホームページから引用

東京都23区の例でいうと、たとえば65歳以上の単身世帯で収入が公的年金だけの場合には、年金収入が年間155万円以下の場合に住民税非課税世帯になります。(公的年金収入155万円から公的年金等控除額110万円を引いたら45万円になりますね。これを「155万円の壁」というひともいます)。

ただし、住民税が非課税になる基準は住所地(その年の1月1日のもの)によって変わることがあります。

これを級地区分といいます(ちなみに、筆者の住んでいる山口県萩市の単身世帯の住民税非課税の基準は38万円以下ですので、先ほどの「155万円の壁」は「148万円の壁」と読み替えることになります)。

住民税非課税の基準については、お住まいの自治体でご確認することが必要です。

今回の記事では、各制度自体をしっかり知っていただくために、「誰の扶養にもなっていない単身世帯の親(65歳以上)」という設定で考えていきます。

実際には、同一世帯に課税対象者がいたり、誰かの扶養になっていたりということもあるでしょう。

そういった場合には世帯分離をした方がいいのか扶養から外れた方がいいのかなど、状況に応じてどちらがより大きなメリットがあるかを検討する必要がでてきます。

住民税非課税世帯が介護で得られる3つのメリット

住民税非課税世帯の方が介護の現場で使うことができる3つの制度をご紹介します。

ここでは、

  • 高額介護(介護予防)サービス費
  • 特定入所者介護サービス費(補足給付)
  • 社会福祉法人の「利用者負担軽減制度」

の3つを紹介します。

高額介護(介護予防)サービス費の自己負担上限が下がる!

在宅介護や通所介護などで発生する介護保険サービス費用(利用料)には、要介護度等による利用限度額が定められており、さらに所得区分によって月ごとの自己負担額に上限が設けられています。

そして、支払った自己負担額がその上限を超えている場合には、差額に相当する金額が申請によって支給されることになります。

これを「高額介護(介護予防)サービス費」といいます。

対象者にはお住まいの自治体から申請書などが送られてくると思いますので、申請手続きを必ず行いましょう(申請主義なので、放っておくと時効で消滅する可能性がありますので要注意です)。

投稿日現在の住民税非課税世帯の高額介護(介護予防)サービス費利用者負担上限額は月額2万4600円(年間収入が80万円以下であれば1万5000円)です。

たとえば、要介護度3のひとの1ヶ月の居宅サービス費が27万円(利用限度額は27万0480円)だった場合、自己負担額(1割負担)は2万7000円となり、限度額2万4600円を超えた2400円が支給されます。

仮にこの支給が同じ条件で5年間続いた場合には、2400円×12ヶ月×5年=14万4000円となります。

介護は長期間に及ぶケースも多いので、毎月の支給額はそれほど多くはなくても、それが積もり積もれば無視できない金額になるということです。

入所施設の食費・居住費が軽減される特定入所者介護サービス費(「負担限度額認定」)

特養などの入所施設では、介護費用のほかに「食費・居住費」が発生しますが、住民税非課税世帯で預貯金額の資産要件など諸条件を満たせば、「特定入所者介護サービス費(補足給付)」により費用が軽減されることがあります。

具体的には、自治体から「負担限度額認定」を受けることで、毎月の施設での食費・居住費が軽減された額で請求されます(先ほど紹介した高額介護(介護予防)サービス費はいったん払った後での差額分支給でしたが、こちらはそもそもの請求金額が安くなるので、より経済的負担が減ります)。

こちらも申請が必要ですので、対象者は自治体にご相談のうえ、負担限度額認定の申請を行ってください。

たとえば、筆者の住んでいる山口県萩市では、住民税非課税世帯のひとの年収(非課税年金も含む)が80万円超120万円以下のひとは「第三段階①」に該当するとされ、特養等の住居費は多床室で日額430円、食費は日額650円とされています(投稿日現在)。

つまり住居費と食費の合計は日額1080円となります。

30日の月であれば、1080円×30日=月額3万2400円という計算です。

もしこれが住民税非課税世帯「第三段階①」ではなく標準費用額(めやす)であれば、特養住居費(多床室)日額915円、食費日額1445円で、合計日額は2360円となり、30日なら2360円×30日=7万0800円となります。

その差額は、7万0800円-3万2400円=3万8400円です。

これが1年間なら46万0800円、5年間なら……

これほどの差がつくのは驚きです。

住民税非課税世帯の方が特養などに入所される場合には、預貯金額などの条件はありますが、介護保険の限度額適用認定は必ず検討しましょう。

社会福祉法人の「利用者負担軽減制度」が使えることも

次にご紹介するのは、社会福祉法人の「利用者負担軽減制度」です。

収入や預貯金額が基準以下などの要件を満たせば、社会福祉法人が提供する介護サービスの利用者負担が軽減される制度です。

正直言って、筆者は今の仕事をするまでこの制度を知りませんでした。

なぜならば、この制度は社会保険の制度ではないからです。

筆者は社会保険労務士で、公的年金や公的医療保険の専門家です。

また、ケアマネさんほどではありませんが、広義の社会保険として介護保険の知識もある程度は持っています。

しかし、この制度は福祉の制度ですので、社会保険労務士の専門範囲外なのです。

福祉の専門家以外でこの制度知ってる人はどの程度いるのでしょうね……

この制度は、介護保険の制度と併せて使うことができます

もし該当するのであれば躊躇なく使っていきましょう(預貯金額などの条件はシビアですが)。

利用には申請が必要なので、まずは事業所や自治体に相談しましょう。

「障害者控除対象認定」制度を知っていますか?

さきほど、65歳以上の単身世帯で公的年金収入のみの場合、住民税非課税世帯になるためには「155万円の壁」が存在するというお話をしました(なお、公的年金が障害年金や遺族年金などの非課税年金の場合には、そもそも非課税なので155万円の壁はありません)。

では、老齢年金などの年収が155万円の壁を超えてしまう場合には、住民税非課税世帯にはなれないのでしょうか。

ここで検討したいのが「障害者控除対象認定」です。

住民税非課税世帯の要件を思い出してください。

「障害者・未成年者・寡婦又はひとり親で、前年中の合計所得金額が135万円以下」というのがありましたよね。

税法上の「障害者」であれば、所得が135万円以下であれば住民税非課税世帯となるという規定です。

つまり、障害者等であれば、公的年金等控除額(110万円 ※65歳以上で年金年収330万円未満の場合)を加算すれば、「155万円の壁」は「245万円の壁」まで上がるということです(壁が上がった方が住民税非課税世帯になりやすいです)。

このような税法上の障害者と認められるには、いわゆる「障害者手帳」を有しているケースが考えられます。

しかし、「障害者手帳」を持っていない場合であっても、要介護認定を受けた高齢者は、自治体の判断により「障害者控除」の対象になることがあります。

これを「障害者控除対象認定」といいます。

自治体から「障害者控除対象認定」を受ければ、住民税非課税世帯になる可能性がでてくるのです。

たとえば、公的老齢年金のみで年収180万円(月15万円)の場合、このままだと住民税非課税世帯にはなれませんが、障害者控除対象認定を受けて手続きを行った場合には住民税非課税世帯になることが可能となります。

障害者控除対象認定の基準や方法はお住まいの自治体に相談してください。

なお、障害者控除対象認定を受けたあとは、自治体の税務課に障害者であることを伝える必要がありますので、確定申告や住民税申告などの手続きもお忘れなく。

おわりに

介護費用は、ただでさえ精神的・身体的な負担が重なる中での出費になります。

しかし、制度を知り、上手に活用することで、負担を軽くすることは十分に可能です。

ただし、こういった制度のほとんどは「申請主義」を採用しています。

平たく言えば「言ってくれればやるけど、そっちが言うまでは知りませんからね」ということです。

まさに「知ってるひとだけが得する」制度と言っても過言ではありません。

なかには自治体から「あなたは対象者ですので申請ができます」といった趣旨の文書が送られてくることがあります。

また、一度申請しておけば、その後はいちいち申請しなくても自動的に対応してくれる場合もあります(これはありがたい!)

しかし、高齢者の場合、そういった文書はよく読まずに、そのまましまい込んでいるケースが散見されます。

実際に、筆者が成年後見業務でかかわったひとの中には自治体からのお知らせ文書を放置していたケースが複数ありました。

成年後見人が就任後ただちに手続きを行ったものの、一部は時効で消滅してしまっていたケースもあります。

これが申請主義というものかと実感しました。

いずれにしても、これらの制度を知っているだけで、介護に向き合う“心の余裕”と“家計の安心”が多少なりとも生まれると思います。

親の介護が心配になった今こそ、一度ご家庭の収入状況や制度適用の可能性をチェックしてみてください。

この記事が何かのお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ボードゲーム系社労士&ファイナンシャルプランナー

徳 本 博 方
(とくもと ひろみち)

自己紹介

ボードゲーム系社労士&ファイナンシャルプランナー

「ゆとり・つながり・まもり」の3つの「り」メイクでシングルライフステージをサポート

ボードゲームで楽しく「つながり」をつくり、キャリア・資産形成と年金サポートで「ゆとり」を、成年後見で最終的な「まもり」をお届けします

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つなが「り」をつくるボードゲーム会 始動! BOARD GAMES OFFICEKITAURA

こんにちは!

ボードゲーム系社労士&ファイナンシャルプランナーの徳本です。

今日はオフィス北浦の新部門立ち上げの告知をさせてください。

現在、オフィス北浦では、成年後見業務における社会保険最適化をはじめ、障害年金・遺族年金サポートを中心に社労士業務やファイナンシャルプランナー業務に取り組んでいます。

そんなオフィス北浦がお届けする新部門はこちら。

オフィス北浦新部門

BOARD GAMES OFFICEKITAURA

その名の通り、ボードゲームを使って人と人をつなげていくことを目的にしています。

BOARD GAMES OFFICEKITAURAについて、もう少し詳しくご説明していきましょう。

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「ひとり」から「つながり」へ”り”メイク

3つの”り”メイクが新コンセプト

オフィス北浦のミッションは「シングルライフステージ支援」です。

シングルライフステージとは文字通り人生における独身生活期間をさします。

それが一時的なものであれ、継続的なものであれ、誰しもが人生でシングルライフステージを経験することがあります。

  • 未婚のひと
  • 配偶者/パートナーと離別されたひと
  • お子さんのいないひと
  • お子さんと疎遠になったひと

シングルライフステージの理由はひとそれぞれです。

そこに「親なきあと」問題(障がいを持つひと、引きこもりのひと、5080世帯(中高齢の子が老齢の親を支えている世帯)などの生活を精神的・経済的に支えてくれている親がなくなったあとに、残されたひとがどのように暮らしていくかの問題)が絡んでいることもあります。

シングルライフというと、誰にもしばられない気楽な生活をイメージするひともいるかもしれませんが、実際には厄介なことも存在するのです。

オフィス北浦では、そんなシングルライフステージにつきまとう厄介な問題を3つの「り」という視点で整理しています。

シングルライフステージの厄介な3つの「り」
  • ぎりぎ「り」:仕事やお金に追われて余裕のないいっぱいいっぱいの状態
  • ひと「り」:社会的に孤立して、誰にも助けを求められない状態
  • 気がか「り」:将来への漠然とした悩みや困難を抱え込んでいる状態

オフィス北浦では、これらの厄介な3つの「り」に手を入れて、シングルライフステージを余裕をもって楽しく安心にすごせるようにお手伝いしていければと思っています。

題して「3つの”り”メイク」。

厄介な3つの「り」を作りなおしていきます。

3つの”り”メイク
  • ぎりぎ「り」 → ゆと「り」
  • ひと「り」 → つなが「り」
  • 気がか「り」 → まも「り」

ゆと「り」は、現役ステージのときにキャリア形成や資産形成をつうじて、仕事とお金に余裕を持つこと。

つなが「り」は、地域に自分の居場所をつくって、ほどよい距離感で多様なひとたちと交流していくこと。

まも「り」は、利用可能な社会保険(年金・医療保険・介護保険など)を最適化し、最終安全保障としての成年後見制度も視野に入れて備えをすること。

厄介な3つの「り」をこのように”り”メイクすることで、シングルライフステージは余裕をもって楽しく安心できるものになります。

それが、オフィス北浦のミッション「シングルライフステージ支援」を実現するための「3つの”り”メイク」です。

ボードゲームでつなが「り」をつくる業務

そしてこれらの3つの”り”メイクのうちの、つなが「り」をつくる部門が BOARD GAMES OFFICEKITAURA です。

具体的にいうと、BOARD GAMES OFFICEKITAURAでは、ボードゲームを使って次のような業務を行っていきます。

BOARD GAMES OFFICEKITAURAの業務
  • 定期ボードゲーム会の開催
  • 地域の町内会や教育現場での出張ボードゲーム会の開催
  • ボードゲームを使って英語や歴史を学ぶ学習支援
  • 「人狼」や「ディプロマシー」のゲームマスター派遣
  • 企業や教育現場でのチームビルディングやコミュニケーションスキル研修への講師派遣
  • ルール説明、おすすめボードゲームの紹介などの情報をブログで発信
  • ボードゲームのプレイ動画のアップや配信
  • ・・・etc.

特に、「人狼」や「ディプロマシー」のゲームマスターができる社労士は、日本中さがしてもそうそういないと思っています(もしいらっしゃったらご連絡ください。まずは一緒に遊びましょう!)。

ボードゲーム系社労士&ファイナンシャルプランナーの私だからこそできる内容だと思っています。

覚悟きめて取り組んでいきます。

登録メンバー募集予定

BOARD GAMES OFFICEKITAURAでは、人と人とがつながることを目指していくので、できるだけたくさんのメンバーを募っていきたいと思っています。

メンバー登録には費用はかかりません(年会費なども不要です)。

遊びたいときに遊びにきてもらえたらいいので、参加を強制することもありません。

お気軽にメンバー登録していただきたいと思っています。

イベント情報などを送らせていただきます。

ただ当面は、萩市、長門市、阿武町に在住されているか、通勤・通学されているひとに制限させていただく予定です。

また、18歳未満のひとは保護者の承諾が必要です。

準備が整いしだい登録メンバー募集を開始しますので、詳しい募集要項はその際にご確認ください。

おわりに

今回は、オフィス北浦の新部門BOARD GAMES OFFICEKITAURAのコンセプトや事業内容をご案内させていただきました。

ボーゲーム系社労士&ファイナンシャルプランナーとして、私にしかできないことをこれからもぐいぐいやっていく所存です。

このほかにも、ゆと「り」のためのキャリア・資産形成、まも「り」のための社会保険最適化や成年後見制度の準備にも引き続き取り組んでいきます(これらは従来の業務を再編するものです)。

かくいう私も「5080」問題(うちは正確には「5070」ですが)の当事者です。

だからこそ、シングルライフステージの当事者として、このミッションに自分事で取り組むことができると思っています。

BOARD GAMES OFFICEKITAURAをこれからどうぞよろしくお願いいたします。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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ボードゲーム系社労士&ファイナンシャルプランナー

徳 本 博 方
(とくもと ひろみち)

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ボードゲーム系社労士&ファイナンシャルプランナー

「ゆとり・つながり・まもり」の3つの「り」メイクでシングルライフステージをサポート

ボードゲームで楽しく「つながり」をつくり、キャリア・資産形成と年金サポートで「ゆとり」を、成年後見で最終的な「まもり」をお届けします

「ぎりぎり・ひとり・気がかり」を、「ゆとり・つながり・まもり」に変えていきましょう!

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    • 社会保険労務士
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    • 弁護士事務所パラリーガル(勤務17年以上)
    • 山口県萩市出身
    • 萩高校、慶応義塾大学文学部

「初診日問題」ってなに?【障害年金申請に役立つ実践知識】

社会保険労務士・オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

障害年金の専門家(報酬をもらって障害年金申請を代理することのできる国家資格)である社会保険労務士が、「障害年金申請は自分でできる」をテーマに、障害年金申請に役立つ実践知識をお伝えしていくシリーズです。

今回のテーマは「初診日」。

 

初診日に関係して、筆者がよく聞くご質問やご相談としては、

  • 障害年金申請の初診日って簡単にわかるはずだと思うけど、何が問題なのかよくわからない
  • 障害年金申請の初診日で問題になるのはどういうケース?
  • 障害年金申請の初診日の問題に対処法はあるの?

といったものがあります。

 

そこで、この記事では、

  • 障害年金申請の「初診日問題」ってなに?
  • 障害年金申請の初診日問題が起きる具体的ケース
  • 障害年金申請の初診日問題の対処法

といった項目順にお伝えしていきます。

 

なお、障害年金については「請求」と表記する方が正確です。

しかし、「申請」という表記が一般的に使われていることもありますので、この記事ではわかりやすさを優先して、「申請」と表記することにします。

この記事の情報は、特別の記載のないかぎり、投稿日現在のものです。

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障害年金申請の「初診日問題」ってなに?

障害年金申請の情報をネットなどで調べていると、やたらと「初診日」という言葉を聞くと思います。

少し調べれば「初診日とは障害の原因となった傷病につき初めて医師または歯科医師の診療を受けた日」という情報がすぐにでてくるでしょう。

それはそのとおりなのですが、ここでは実践的な知識として、初診日についてもう少し掘り下げてみようと思います。

それを「初診日問題」ということにしましょう。

ここでは、①初診日問題とは何なのか、②そもそも初診日にどうしてそこまでこだわるのか、③どうして初診日問題が起きてしまうのかについてみてきましょう。

 

初診日問題ってなに?

ここでの「初診日問題」とは、初診日が特定できずに障害年金申請に支障をきたす状態のことをいいます。

「初診日なんて初めて病院に行った日でしょ? それがわからないひとなんているの??」って思ったひとはいませんか?

たしかに、ふつうに考えれば、初診日の特定で苦労することはないように思えます。

ひとつの医療機関に通っていて通院期間も短い場合には、初診日問題が生じることはほとんどありません。

しかし、複数の病院に通っていたり、長期間にわたって通院をしているような場合にはどうでしょうか。

初診日問題が発生する可能性が高くなります。

そのため、この初診日問題が壁になって、障害年金申請をあきらめてしまうひとも現実にいるのです。

 

初診日問題の困ったところは、初診日が特定できなければ障害年金はもらえないということです。

これに対して、「もし初診日が特定できなくても、現時点で障害の状態にあることが医学的に証明できるなら、障害年金をもらえるんじゃないの?」と思ったひともいるかもしれません。

しかし残念ながら、現実はそうなっていません。

いくら現時点での障害の状態を医学的に証明しても、それだけでは障害年金はもらえないのです。

それほど障害年金申請において初診日は重要な要素だということです。

ではつぎに、どうして障害年金はそこまで初診日にこだわるのかを考えてみましょう。

 

初診日の特定はなぜ必要か?

障害年金が初診日にこだわる理由は大きく3つあります。

それは、

  • 初診日に加入していた年金を基準にしてどのような障害年金がもらえるかが決まる(加入要件。そもそも障害年金がもらえるのかどうかや障害厚生年金までもらえるのかどうかに影響)
  • 初診日の前日を基準にして保険料をちゃんと納めていたかどうかが決まる(納付要件。そもそも障害年金がもらえるのかどうかに影響)
  • 初診日を基準にして障害認定日が決まることがある(いつから障害年金がもらえるのかや認定日請求か事後重症請求かという申請の方法にも影響)

という理由です。

つまり、初診日が特定できないと、そもそも障害年金がもらえるのか、もらえるとして障害厚生年金までもらえるのか、いつから障害年金がもらえるのかが決まらないということなのです。

しかし、初診日=初めて病院で診療を受けた日の証明がどうしてそんなに難しいのでしょうか。

初診日問題がなぜ起きるのかを考えてみましょう。

 

初診日問題はなぜ起きる?

初診日問題は、初診日当時の医療記録が現時点で確認できないことが原因で起きます。

医療記録の保存期間が経過するなどの理由で、初診日の医療記録が確認できないということです。

そして、それが起きるのはだいたい次のようなケースです。

  • 終診(転医・中止)
  • 別の傷病が原因で現在の疾病が生じている
  • 現在の疾病が別の疾病と同一疾病として扱われてしまう

それぞれの具体的なケースをみていきましょう。

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障害年金申請の初診日問題が起きる具体的ケース

終診(転医・中止)

初診日当時の医療機関での診療が終わって時間が経過しているために、医療記録が破棄されているようなケースです。

別の病院に変わった場合や治療を中止したような場合です。

医療機関そのものが廃院となっているような場合もあります。

物理的に記録がなければ、医療機関も初診日を証明することができないのです。

 

別の傷病が原因で現在の疾病が生じている

現在の疾病で初めて病院で診療を受けた日が初診日だと思っていたら、その疾病の原因となった傷病が確認されて初診日がさかのぼってしまうケースがあります。

これを「相当因果関係」の問題といったりもします。

たとえば、腎不全によって人工透析を受けることになって障害年金を申請しようとしたところ、その原因が糖尿病だと認められたために、糖尿病によって初めて病院で診療を受けた日が初診日となるようなケースがこれにあたります。

糖尿病は治療に長期間を要することもあるため、相当因果関係が認められることによって初診日が10年以上さかのぼってしまうということも起こりえます。

糖尿病の他にも、肝炎と肝硬変、事故や脳血管疾患によって精神障害を発症したような場合などに相当因果関係があるとされています。

もっとも、初診日の長期間のさかのぼりの問題は糖尿病ほどではありませんが。

いずれにしても相当因果関係によって初診日がさかのぼったために、医療記録が確認できない状態が起こりえるのです。

 

現在の疾病が別の疾病と同一疾病として扱われてしまう

精神疾患の場合に起こりやすいのですが、現在の疾病が別の疾病と同一疾病として扱われるケースがあります。

たとえば、過去にA病院で不眠を訴えて治療を受けていた場合で、その後何年か経ってB病院で統合失調症の診断を受けた場合に、A病院での初めての診療日が初診日とされるようなケースです(神経性不眠症と統合失調症が必ず同一疾病になるというわけではありません。具体的な事情のもとで同一疾病として認定される場合があるということです)。

この他にも発達障害とうつ病、知的障害とうつ病なども同一疾病として扱われることがあります。

このような場合も、初診日が先発した別の疾病の診療日までさかのぼることになります。

なお、先発の疾病が知的障害である場合には、知的障害の初診日は出生日とされていますので、初診日の特定の問題は生じません(ただし、障害厚生年金がもらえないという別問題が発生します)。

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障害年金申請の初診日問題の対処法

受診状況等証明書が添付できない申立書

転院などによって現在の医療機関で初診日の証明ができない場合には、初診日に受診した医療機関が作成した「受診状況等証明書」を提出するのが原則です。

しかし、初診日問題が生じる場合には「受診状況等証明書」が提出できないことがほとんどです。

そういった場合には「受診状況等証明書が添付できない申立書」を提出することになります。

そして、いくつかの医療機関の受診歴がある場合には、古い順に「受診状況等証明書」がとれるまで繰り返していきます。

しかし、受診状況等証明書が添付できない申立書それだけで初診日が認められることはまずありません。

それを補うための書類や資料が必要になります。

たとえば、

  • 身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳
  • 上記手帳等申請時の診断書
  • 生命保険、労災保険等の給付申請時の診断書
  • 事業所等の健康診断の記録 ・・・など

の客観的な裏付け資料によって初診日を特定する必要があります。

では、こういった初診日を特定できる客観的な裏付け資料がない場合にはどうしたらいいのでしょうか。

この点については「障害年金の初診日を明らかにすることができる書類を添えることができない場合の取扱いについて」という通知があります。

その概要を確認していきましょう。

 

障害年金の初診日を明らかにすることができる書類を添えることができない場合の取扱い

初診日を明らかにすることができる書類を提出できない場合の取り扱いを簡単にまとめると、以下のようになります。

  • 20歳前に初診日がある場合、2番目以降の医療機関の受診状況等証明書から、障害認定日が20歳前であることが確認できる場合で、かつその受診日前に厚生年金等の加入期間がない場合
  • 2番目以降に受診した医療機関による受診状況等証明書に、医療機関が作成した資料(診療録等)を基にした請求者申立の初診日が記載されている場合
    • 請求の5年以上前に記載された資料を基にしたもの ⇒ 請求者の申立日を初診日とできる
    • 請求の5年以上前に記載された資料を基にしたものではないが、相当程度前であるもの ⇒ 参考資料(領収証など)と合わせて請求者の申立日を初診日とできる
  • 「初診日に関する第三者からの申立書」(第三者証明)を添付する場合
    • 「第三者」とは三親等以内の親族以外の者をいう
    • 初診日が20歳前のとき(厚生年金加入期間を除く) ⇒ 第三者証明(原則複数必要)だけでよい
    • 初診日が20歳以降(20歳前の厚生年金加入期間の場合含む) ⇒ 第三者証明(原則複数必要)+その他の参考資料が必要
    • 第三者が担当医師等医療従事者であればそれのみの証明でよい(その他の参考資料は不要。複数不要)
  • 一定期間(始期と終期を参考資料等で特定する必要がある)内に初診日があって、そのどの時点でも納付要件を満たす場合
    • その期間中同一の公的年金に加入 ⇒ 請求者の申立日を初診日とできる
    • その期間中異なる公的年金に加入(20歳前や60歳以上65歳未満の待期期間の混在を含む) ⇒ 障害基礎年金は認められるが、障害厚生年金は参考資料が必要

ここでは概要を紹介するにとどめますが、初診日問題については国も救済措置を講じていることがよくわかります。

初診日問題の改善に向けて評価できる取扱いだと思っています。

もちろんすべての初診日問題が解決するわけではありません。

また、これまでに初診日問題で障害年金をあきらめてしまったひとたちの中には、こういった取扱いがなされていることを知らないでいるひとがいるもの事実です。

再度の障害年金申請で支給決定が見込まれる場合もありえますので、こういった取扱いの周知徹底が望まれるところです。

 

さいごに

今回は障害年金の申請の初診日問題について解説してきました。

筆者の基本的スタンスは「障害年金は自分で申請できる」というものです(社会保険労務士がそんなことをいうのも少しへんかもしれませんが)。

そのようなひとに向けた記事も書いていますので、こちらにご紹介しておきます。

あわせて読んでいただければと思います。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

障害年金は自分で申請できる【そのシンプルな理由】

前後の記事

前の記事:障害年金申請に必要な書類を集める前に知っておくべき3つの壁

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障害年金申請に必要な書類を集める前に知っておくべき3つの壁

社会保険労務士・オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

筆者は、障害年金の専門家(報酬をもらって障害年金申請を代理することのできる国家資格)である社会保険労務士として、

  • 障害年金申請に必要な書類って集めるのがたいへんそう。注意しておく点はある?
  • 障害年金申請に必要な書類が集められないときはどうなるの?
  • 障害年金申請に必要な書類を集める前に準備することはある?

このようなお悩みやご質問をお聞きすることがあります。

そこで、今回は障害年金の申請の際の書類について解説していこうと思います。

 

最初に簡単な自己紹介をします。

筆者は、17年以上弁護士事務所の職員として働いた経験から、現在は「権利擁護型の社会保険労務士」として、成年後見を専門とした法人の事務局長を務めつつ、弁護士の先生と協働して、障害のあるひとやそのご家族の困りごとについて相談会を行ったりしています(年金相談と家計相談を主に担当しています)。

もちろん、そういったひとたちからご依頼をいただき、障害年金申請(請求)や更新手続き、額改定請求などの代理申請を行うこともあります。

直近でお受けした事例をあげると、本当は障害年金申請をできたのにそれに気づいていなかったひとの代理申請を行って、過去3年超分の障害基礎年金300万円以上の受給決定をえることができました。

 

この記事では、

  • 障害年金申請に必要な書類を集める前に知っておくべき3つの壁
  • 障害年金申請に必要な書類が集められない場合にやるべきこと
  • 障害年金申請に必要な書類を集める前にやっておきたい事前準備

といった項目をお伝えしていこうと思います。

なお、障害年金については「請求」と表記する方が正確です。

しかし、「申請」という表記が一般的に使われていることもありますので、本記事ではわかりやすさを優先して「申請」と表記することにします。

この記事の情報は投稿日(2020.8.30)現在のものです。

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障害年金申請に必要な書類を集める前に知っておくべき3つの壁

障害年金申請に必要な書類は、大きく分けて①自分で作成する書類(「年金請求書」や「病歴・就労状況等申立書」など)、②手持ちの書類(銀行の通帳や各種障害者手帳など)、③役所などで発行してもらう書類(「住民票」や「所得証明書」など)、④医療機関で作成してもらう書類(「診断書」や「受診状況等証明書」など)の4種類があります(年金や障害の種類、家族構成などによって必要な書類は異なります。詳しくは、この記事の最後に日本年金機構のサイトをリンクしておきますので、そちらをご参照ください)。

この中で、①自分で作成する書類、②手持ちの書類、③役所などで発行してもらう書類については集めるのにそれほど苦労することはないでしょう。

しかし、障害年金申請に必要な書類のなかでも④医療機関で作成してもらう書類については、いろいろと困ったことが起きることがあります。

そこで、この記事では④医療機関で作成してもらう書類について、よくある困りごとを「障害年金申請に必要な書類を集める前に知っておくべき3つの壁」としてご紹介したいと思います。

その「壁」とは、①主治医が診断書を書いてくれない、②障害認定日の診断書が取れない、③受診状況等証明書(初診日の証明)が取れないの3つです。

 

主治医が診断書を書いてくれない

「お医者さん(現在の主治医)が診断書を書いてくれない」という話は意外とよく聞く困りごとの一つです。

「え、そんなことあるの?」と思われる人もいるかもしれませんが、現実問題としてあります。

ただ、その理由はさまざまです。

たとえば、主治医が交代して日が浅いので書けないとか、必要な検査をしていないので書けないといった情報不足を理由とするものから、障害年金受給のために期待される内容のものが書けないといった内容に関する理由、なかには(以前障害年金の診断書でトラブルになったので)障害年金の診断書はもう書きたくないといった感情的な理由まであるようです。

いずれにしても、主治医が診断書を書いてくれないというのは、患者さんからすればかなり戸惑うはず。

診断書がなければ障害年金申請の手続きが進みません。

まずは主治医としっかり意思疎通を行って理由をよく確認してから、必要な診察や検査があるならそれを受け、誤解があるならそれを解消して依頼をすることになります。

基本的に現在の主治医であれば現在の診断書を書いてくれるので、簡単にあきらめないことが必要です(法律上も「正当事由」がなければ医師は診断書作成を拒むことはできないとされています)。

 

障害認定日の診断書が取れない

原則として障害認定日から1年以上を経過してから障害年金申請を行う場合には現在の診断書(請求日前3ヶ月以内のもの)のほかに、障害認定日の診断書(障害認定日から3ヶ月以内のもの)が必要になります。

この障害認定日の診断書が取れないというのは障害年金申請の大きな壁の一つです。

障害認定日というのは、原則として初診日から1年6月を経過した日か症状固定日のどちらか早い方(障害の種類によっては特例あり)のことで、障害認定日の翌月までさかのぼって障害年金がもらえます(最大5年間さかのぼれます。これを「認定日請求(遡及請求)」といいます)。

こうした認定日請求をするには、障害認定日に障害等級に該当していることを認定してもらわないといけません。

そこで、認定日請求をするには、障害認定日の診断書が原則必要になるわけです。

しかし、障害の種類によっては、初診日が何十年も前にあるケースもあって、その場合には障害認定日も何十年も前になります。

当時の医療機関が廃業していたり、医療記録が既に廃棄されていたりして、障害認定日の診断書が取れないというケースが起こりうるのです。

場合によっては、障害認定日当時に必要とされる診察や検査が行われていないので、障害認定日の診断書が取れないというケースもあります。

 

受診状況等証明書(初診日の証明)が取れない

現在の診断書や障害認定日の診断書がとれたとしても、受診状況等証明書(初診日の証明)が必要になる場合があります。

それは、初診日の医療機関が診断書作成の医療機関と異なる場合(転院している場合など)です。

この受診状況等証明書(初診日の証明)が取れないというものよくある壁の一つです。

初診日とは、障害の原因となった病気やケガについて初めて医療機関で診療を受けた日のことです。

この初診日は、そもそも障害年金がもらえるのか(保険料の納付要件を満たすのか)、どんな障害年金がもらえるのか(障害厚生年金がもらえるのか)、いつから障害年金がもらえるのか(障害認定日はいつになるのか)といったさまざまな基準日になります。

このように初診日の特定はとても重要で、そのための書類が受診状況等証明書です。

ところが、初診日は障害認定日より前にあるのが原則です(まれに同時の場合もありますが)。

なので、障害認定日の診断書が取れないのと同様に、受診状況等証明書が取れないといったケースが起こりうるのです。

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障害年金申請に必要な書類が集められない場合にやるべきこと

このような「壁」がでてきた場合にはあきらめるしかないのでしょうか。

ここでは障害年金申請に必要な書類が集められない場合にやるべきこととして、①代替措置や救済措置の検討、②請求方法の切り替えの検討、③専門家への依頼の検討の3つを紹介していきます。

 

代替措置や救済措置の検討

こういった障害年金申請に必要な書類が集められないような場合のために、代替措置や救済措置が用意されている場合があります。

たとえば、受診状況等証明書が取れない場合には「受診状況等証明書が添付できない申立書」を受診状況等証明書に代えて提出することができます。

もっとも、それだけで初診日を認定してくれることはまずないので、裏付けとなる添付資料が必要となります(身体障害者手帳や医療機関の領収証など)。

初診日が一定の期間内にあると確認することができれば、一定の条件下で初診日が認められることもあります。

また、診断書が取れない場合にも、原因を分析して代替措置が取れないか検討することも大切です(たとえば、カルテはあるのに主治医がいないので診断書が書けないというような場合には、当時の主治医を探して診断書作成を依頼したり、現在の主治医に当時のカルテを元に診断書を書いてもらったりといったこともあります)。

ここでは、これらの詳細は割愛しますが、このように代替措置や救済措置がとれる場合もあるので、簡単にあきらめないようにしてください。

 

請求方法の切り替えの検討

どうやっても障害認定日の診断書が取れないという場合には、請求方法の切り替えを検討するのもひとつの方法です。

障害認定日の診断書が必要なのは認定日請求(遡及請求)をするためでした。

いったんそれを保留して(場合によってはあきらめて)、事後重症請求に切り替えるという方法です。

事後重症請求は、障害年金の申請日(請求日)の翌月から障害年金がもらえるという申請(請求)方法です。

なので、事後重症請求の場合、障害認定日までさかのぼって障害年金を受給することはできません。

その代わり、診断書については、障害認定日の診断書は不要で、現在の診断書があれば障害年金の申請ができます。

 

本来の事後重症請求は、障害認定日時点では障害年金がもらえるほどの障害の程度にない場合で、その後に障害年金がもらえる程度に障害が悪化したようなケースが想定されています(そもそも認定日請求ができないケース)。

しかしながら、障害認定日の診断書が取れず、障害認定日の障害の程度を証明できないようなケースでも事後重症請求ができます。

事後重症請求は、障害年金の申請日(請求日)の翌月から障害年金がもらえるので、申請日(請求日)が遅くなれば遅くなるほど、障害年金がもらえる月も遅くなる(=トータルでもらえる障害年金の額が少なくなる)といった特徴があります。。

事後重症請求は時間勝負の請求方法といえます(そのため、月末ギリギリに申請することもあります)。

なお、事後重症請求が認められた後に、認定日請求をすることも可能です(この場合には障害認定日の診断書が必要です)。

 

専門家への依頼の検討

「障害年金申請は自分でできる」というのが筆者の基本的スタンスです(「障害年金は自分で申請できる【そのシンプルな理由】」をご参照ください)。

しかし、障害年金申請に必要な書類が集められない場合に代替措置や救済措置を検討する場合や、認定日請求をやめて事後重症請求に切り替えるといった場合には、正直申し上げて自分だけで判断するのはかなり困難なのではないかと思います。

このような場合には、社会保険労務士などの専門家に相談した方がいいケースもあります。

自分だけで行き詰まるくらいなら、専門家への依頼を検討してもいいのではないでしょうか。

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障害年金申請に必要な書類を集める前にやっておきたい事前準備

こういったケースをふまえて、障害年金申請に必要な書類を集める前にやっておきたい事前準備についてもお伝えしておこうと思います。

それは、①記録と記憶の整理、②医療機関の現状や主治医在籍の確認、③主治医との信頼関係の構築の3つです。

 

記録と記憶の整理

事前準備としては、まず記録と記憶の整理をしておきましょう。

これまでみてきたとおり、障害年金申請に必要な書類でたいへんなのは、医療機関に関するものです。

そこで、現在保管している医療機関の領収証や診療報酬明細書、お薬手帳、医療保険の請求につかった請求書や診断書の写しや保険金給付時の資料など、使えそうなものをできるだけ整理してみてください。

あわせて、日記や手帳などを参考に自分の記憶を整理することも大切です。

当時の主治医の名前や、場合によっては看護師の名前を覚えていたことが後々役に立ったということもあります。

時系列にそって整理しておきましょう。

早いうちにこれをやっておくと、医療機関対応だけでなく、年金事務所での相談がスムーズにできたり、「病歴・就労状況等申立書」を作成する際の参考資料になったりもします。

 

医療機関の現状や主治医在籍の確認

診断書作成のために、障害認定日当時の医療機関が現在もあるのか、当時の主治医が今もそこにいるのかといった情報をできる範囲で確認しておきましょう。

医療機関のホームページなどで確認できることもありますし、主治医の名前を検索することでみつかることもあります。

また知り合いに聞くと、意外なつてで情報がもらえることもあります。

できるかぎり情報を収集しておきましょう。

 

主治医との信頼関係の構築

これは事前準備というのとは少し違うかもしれませんが、現在の主治医との信頼関係の構築も大切なことです。

現在の診断書をスムーズに書いてもらうにも主治医との信頼関係は必要ですし、何より効果的な治療の継続のためにも主治医との信頼関係は不可欠です。

日頃の診察時から積極的な情報提供や意思疎通をしっかり行って、診断書作成に協力してもらえる関係性を築いておきたいところです。

しかしながら、どうしても相性が合わないというケースもあるでしょう。

どうしてもという場合にはセカンドオピニオンや転院を検討してもいいかもしれません。

いずれにしても、主治医との信頼関係を構築しておくことは、障害年金申請のためだけではなく、治療のためにも必要なことです。

 

さいごに

今回は障害年金の申請の際の書類について解説してきました。

さきほども少しのべましたが、筆者の基本的スタンスは「障害年金は自分で申請できる」というものです(社会保険労務士がそんなことをいうのも少しへんかもしれませんが)。

そのようなひとに向けた記事も書いていますので、こちらにご紹介しておきます。

あわせて読んでいただければと思います。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

障害年金は自分で申請できる【そのシンプルな理由】

【リンク集】

 

前後の記事

前の記事:障害年金は自分で申請できる【そのシンプルな理由】

後の記事:「初診日問題」ってなに?【障害年金申請に役立つ実践知識】

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障害年金は自分で申請できる【そのシンプルな理由】

社会保険労務士・オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

筆者は、障害年金の専門家(報酬をもらって障害年金申請を代理することのできる国家資格)である社会保険労務士として、

  • できるだけお金をかけたくないから自分で障害年金を申請したいけど、大丈夫だろうか
  • 自分で障害年金を申請したいけど、どんな準備をしたらいいのか知りたい
  • 外出するのもしんどいので、障害年金の申請について、できるだけネットや書籍で調べておきたい

このようなお悩みやご要望をお聞きすることがあります。

そこで、今回は、障害年金の申請(請求)について解説していこうと思います。

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最初に簡単な自己紹介をします。

筆者は、17年以上法律事務所職員(パラリーガル=弁護士の補助業務)として働いていて、2011年から現在までの9年間は高齢者や障害のあるひとのサポート(成年後見業務を行う法人の事務局長)を行っています。

また、権利擁護型の社会保険労務士として、弁護士の先生と協働して、障害のあるひとやそのご家族の困りごとについて、相談会を行ったりもしています(年金相談と家計相談を主に担当しています)。

もちろん、そういったひとたちからご依頼をいただき、障害年金申請(請求)や更新手続き、額改定請求などの代理申請を行うこともあります。

直近でお受けした事例をあげると、本当は障害年金申請をできたのにそれに気づいていなかったひとの代理申請を行って、過去3年超分の障害基礎年金300万円以上の受給決定をえることができました。

そういった障害年金の申請に携わるものの一人としていわせていただきます。

結論からいいますね。

障害年金は自分で申請できます。

 

ただし、いくつか準備しておかなければいけないポイントもあります。

そこで、本記事では、

  • 障害年金は自分で申請できる【そのシンプルな理由】
  • 障害年金を申請する前に準備しておくべき3つのポイント
  • 障害年金を申請する前に参考にしていただきたい書籍【5選】

といった項目をお伝えしていこうと思います。

なお、障害年金については「請求」と表記する方が正確です。

しかし、「申請」という表記が一般的に使われていることもありますので、本記事ではわかりやすさを優先して、「申請」と表記することにします。

本記事の情報は投稿日(2020.8.23)現在のものです。

 

障害年金は自分で申請できる【そのシンプルな理由】

結論を繰り返しますが、障害年金は自分で申請ができます。

委任状があれば、ご家族でも申請ができます(ただし、報酬をもらって代理できるのは、社会保険労務士や弁護士などに限定されています)。

理由はシンプルです。

障害年金の等級認定審査は、国(ないし日本年金機構)の定める法律や基準に従って、医師が作成した診断書等に基づいて客観的に行われるからです。

社会保険労務士や弁護士であっても、最終的な医師の診断結果には干渉できません。

黒を白にするような裏技や抜け道はないと思ってください(ただし、社会保険労務士などの専門家がお手伝することで、白を黒にしないようにすることはできると思っています)。

また、制度や手続き面での相談は、年金事務所や行政機関等の窓口で受け付けています。

公的機関での支援体制もちゃんと準備されているのです。

実際のところ、筆者がこの9年間にかかわった成年後見業務のうち9割ちかくのひとが、自分やご家族で申請して障害年金を受給しておられました(残りの1割程度のひとが、実際には障害年金がもらえるのに気づいていなかったり、障害の程度が悪化して等級が上がっているのに気づいていなかったケースでした)。

このように障害年金は自分で申請ができるのです。

 

ただ、少し気を付けないといけないこともあります。

実際に自分やご家族で申請して障害年金を受給できたひとに話を聞くと

  • 年金事務所や行政機関の年金相談窓口に何度も足を運んでたいへんだった」
  • 「年金事務所や行政機関の年金相談窓口でいろいろ聞かれたけど、記憶があいまいでうまく答えられなかった」
  • 「お医者さんに診断書を書いてもらうのに、どうしていいのかわからなくて戸惑った」

というような経験をされたひとが少なからずいらっしゃいます。

障害年金の申請は、人生でそう何度も経験することではありません。

スムーズに手続きを行うには、それなりの情報収集と準備が必要です。

多分、この記事をご覧の皆さまもそういった情報収集をされているところなのではないでしょうか。

そこで、次は、障害年金を申請する前に準備しておくべポイントを3つにしぼってお伝えします。

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障害年金を申請する前に準備しておくべき3つのポイント

基本的な情報を知る

障害年金の制度や申請手続といった基本的な情報を知らないひとは、まずここから準備しましょう。

障害年金を受給しているひとは日本の人口約1億2000万人のうちの220万人未満です(平成30年度 厚生年金保険・国民年金事業年報 参照)。

割合にすれば2%未満のレアケースということです。

なので、障害年金の制度や申請手続といった基本的な情報は、知らなくて当たり前なのです。

 

しかし、何も知らないまま動き始めるとどうなるでしょうか。

基本的な情報を得るために、何度も年金相談窓口を往復することになります。

ただでさえ、体調不良や精神的につらいひとが多いはず。

何度も年金相談窓口を往復して、時間をかけて基本的な情報を教えてもらうことは避けたいところです。

たとえば「障害基礎年金と障害厚生年金の違い」「初診日と障害認定日の違い」「認定日請求と事後重症請求の違い」「診断書の作成日と現症日の違い」といった事項をちゃんと答えられるでしょうか。

こういった基本的な情報はネットや書籍で調べられます。

もちろん年金相談窓口で1から教えてもらうこともできますが、年金相談窓口でスムーズに会話ができるくらいには事前に情報収集をしておいた方がいいと思います。

 

自分の情報をまとめる

自分の病歴や職歴などの情報を事前にできるだけまとめておくことも大切です。

とくに、現在の障害に関して、初めて病院に行った日(これを初診日といいます)の情報はとても重要です。

病院や薬局の領収証やお薬手帳などの医療記録を確認しておきましょう。

その他にも、任意の医療保険の入通院給付金を請求したときの書類や、場合によっては、会社の健康診断の結果、当時の日記や手帳といったものも参考になります。

初診日がかなり以前にあるようなケースでは、現時点で初診日を医療機関が証明できないこと(医療機関の記録の保存期間が過ぎていたり、その医療機関が既に廃業していたりする場合など)もあります。

そういうときのためにも、初診日の情報を集めておいて損はありません。

また、初診日が20歳より前にあるような場合には、通知表などの学校での記録が役に立つこともあります。

 

使えそうな記録が用意できたら、それらを元に自分の記憶もたよりにしながら、自分の情報を時系列にそってまとめてみてください。

初診日はもちろん、症状があらわれたころの時期や状況、治療の経緯などの情報を、通院していた病院ごとに区切ったり、職歴に沿って区切ったりしてまとめておくといいと思います。

こういった情報が準備してあれば、年金相談窓口でのうけこたえもスムーズになるでしょう。

また、障害年金を申請する際には「病歴・就労状況等申立書」という書類を作成することになります。

その際の参考資料にもなります。

 

ただし、注意点もあります。

記録や記憶の中には必ずしも正確ではないものもあります。

たとえば、医療機関の領収証があったとしても、それが本当に現在の障害の原因になった病気やケガのものかはわからないこともありえます(単なる風邪などの他の病気で通院した際のものかもしれませんし)。

ですので、よほど確定したものでない限り、この段階では確定情報として扱うのはやめたほうがいいでしょう。

まずは参考資料のひとつとして準備してください。

 

医師に伝えるべき情報を知る

適切な診断書を作ってもらうために、どのような情報を医師に伝えるべきかを知っておきましょう。

障害年金の等級は、医師の作成する診断書をもとにして認定されます。

つまり、適切な診断書の作成こそが、障害等級認定の最重要事項です。

ここでの準備で8割方が決まるといっても過言ではないと思います。

 

では、どのような情報を医師に伝えればいいのでしょうか。

それは、認定基準に沿った診断書を書いてもらうのに必要十分な情報です。

なぜならば「障害年金をもらう」=「認定基準に該当する」ことだからです。

 

ここで「認定基準ってなに?」と思ったひとはいませんか。

正式には『国民年金・厚生年金保険 障害認定基準』といいます。

診断書などで確認できる障害の程度が、認定基準に該当するかどうかで、障害年金がもらえるかどうか、もらえるとして何級になるかが決まります。

つまり、認定基準は、障害年金の「キモ」といってもいい、超重要情報なのです。

 

しかしながら、筆者の印象としては、これを知らずに障害年金の申請をするひとが多すぎます。

障害の認定基準は障害の種類や部位などによって細かく決められています。

もちろん、これらの全部を知る必要はありません。

しかし、自分の障害に関する認定基準だけは必ず確認しておきましょう。

また、自分の障害に関する診断書の書式にも目を通しておいた方がいいと思います。

 

さらに、うつ病などの精神障害で障害年金を申請しようとしているひとは、認定基準とあわせて『国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン』、『診断書(精神の障害用)の記載要領』、『日常生活及び就労に関する状況について(照会)』も必読です。

とくに『国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン』の[表1 障害等級の目安]はしっかり理解してください。

この目安はとても重要です。

この目安で「1級または2級」や「2級または3級」の部分に該当するひとは、上位等級に該当できなるようにしっかりした準備が必要になります。

 

これらの認定基準等は、すべて日本年金機構のホームページで公開されています。

ネットで簡単に調べられます。

本記事の最後にリンクを貼っておきます。

これらをちゃんと読みましょう。

 

これらの認定基準等をしっかり理解できていれば、どのような情報を医師に伝えるべきかもわかってくるはずです。

認定基準等を読みながら、どのような情報が必要なのかを書き出してみてください。

そのつぎに、それらを通常の診察や検査で医師に伝わる情報と、通常の診察や検査だけでは医師には伝わりにくい情報にわけてみてください。

たとえば、日常の正確な自覚症状、生活や就労での具体的な困難さやそれを克服するための努力、家族や職場のサポート体制といった情報は、通常の診察や検査だけでは医師には伝わりにくい情報です。

こういった情報は、意識して医師にしっかり伝えていきましょう。

自分の言葉で書面にまとめて、医師に伝えるのもいいと思います。

 

ただし、ここで注意事項があります。

嘘はダメです。

詐病や仮病がダメなのは言うまでもありません。

でも、ここでお伝えしたいのは、その逆もダメだということです。

医師の前になると、頑張りすぎるひとがいます。

できないことをできると言ったり、本当はつらいのに大丈夫ですと言ったり。

これらも嘘になります。

正確な情報を医師に伝えてくださいね。

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障害年金を申請する前に参考にしていただきたい書籍【5選】

さいごになりますが、障害年金を申請する前に参考にしていただきたい書籍をご紹介しておきます。

もちろんこれら以外にも良書はたくさんありますが、Amazonなどで比較的入手しやすいものを選んでみました。

書籍の画像はAmazonのサイトにリンクしています。

書籍の内容等詳細はそちらをご参照ください。

『国民年金・厚生年金保険 障害認定基準』は、いろいろと継ぎはぎがあって前後がまとまっておらず、少し読みにくい部分があるのはたしかです。

参考書籍では、そのあたりもしっかりまとめてあります。

基本的な情報を確認したり、認定基準を理解する手助けになるはずです。

 

図書館で借りるのもいいと思います(お値段が結構高いものもありますし)。

ただし、認定基準や書式は随時新しいものに変わっています。

最新の情報が反映されているものを選びましょう。

 

この記事を読んでくださったひとが、適切な障害年金をスムーズに受給できますようお祈りいたします。

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

【参考書籍】

ご参考として、障害年金関係の書籍の購入をご検討の方向けに、アマゾンのスポンサードリンクを貼ります(こちらはアフェリエイト広告です)。

①『知りたいことが全部わかる! 障害年金の教科書』(ソーテック社)

価格もリーズナブルで内容もわかりやすいです。

著:漆原 香奈恵, 著:山岸 玲子, 著:村山 由希子
¥1,509 (2025/04/23 14:24時点 | Amazon調べ)

②『障害年金相談対応マニュアル 』(新日本法規出版)

専門家向けの相談マニュアルです。

専門家の段取りもわかりますし、書式も豊富でシンプルな内容です。

著:大城章顕, 著:梅川貴弘, 著:椎野太郎, 著:土屋寿美代, 著:藤井しのぶ, 著:横山玲子, 編集:椎野登貴子
¥3,762 (2025/04/23 14:27時点 | Amazon調べ)

③『続 よくわかる 障害認定基準と診断書の見方』 (日本法令

障害認定基準と診断書の見方を知りたいひとにはありがたい一冊です。

著:宇代 謙治
¥5,060 (2025/04/23 14:29時点 | Amazon調べ)

④『新訂版 詳解障害年金相談ハンドブック』(日本法令)

ページ数が多く専門家向けですが、内容は多岐にわたってかなり充実しています。

著:安部 敬太, 著:岡部 健史, 著:川島 奈緒美, 著:吉井 章子, 著:吉野 千賀
¥14,586 (2025/04/23 14:32時点 | Amazon調べ)

⑤『法律家のための障害年金実務ハンドブック』(民事法研究会)

弁護士や司法書士向けの書籍ですが、困難事例の裁判例などを知りたい人には参考になります。

編集:日弁連高齢者 障害者権利支援センター
¥4,180 (2025/04/23 14:34時点 | Amazon調べ)

 

【リンク集】

※日本年金機構のホームページにいきます

 

前後の記事

前の記事:ここまで違う 障害年金2級と3級の受給額

後の記事:障害年金申請に必要な書類を集める前に知っておくべき3つの壁

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国民年金と厚生年金で障害年金2級と3級の受給額がこれほどまでに違う現実とその理由【厚生年金が断然有利】

社会保険労務士・オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回は、年金の国家資格である社会保険労務士が、障害年金の2級と3級の受給額の違いを解説していきます。

「なんでこんなに違うの?」と驚かれるかもしれませんが、しっかり説明していきますので、最後までお付き合いください。

障害年金1級は2級の1.25倍って聞くけど、2級と3級の金額の違いはどうなんだろう?

多分3級は2級よりももらえるお金が少ないんだろうけど、実際はどんなかんじなのか知りたいな


このような疑問をお持ちの人向けの記事です。

たしかに、「障害年金1級は2級の1.25倍」という情報はよく聞きますが、意外と2級と3級の違いは知らない人もいるのではないでしょうか。

今回のポイントは3つです。

それは、

  • 障害基礎年金には3級はない
  • 障害厚生年金3級は2級と計算方法が同じだけど、最低保障額がある
  • 障害厚生年金2級には障害基礎年金2級がセットになってもらえる

の3ポイントです。

順番に説明していきましょう。

なお、この記事は投稿日(2020.5.23)現在の情報を元に執筆しています(その後、2025.4.25に年金額を令和7年度改定分に一部加筆修正しています)。

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障害基礎年金には3級はない

障害基礎年金と障害厚生年金はどう決まるのか

まず、すごく基本的なことの確認からしていきます。

障害年金には、大きく分けて障害基礎年金と障害厚生年金の2つの種類があります。

障害基礎年金というとよくわからないかもしれませんが、これは国民年金の障害年金のことです。

これに対して障害厚生年金は、文字通り厚生年金の障害年金です。

 

では、この障害基礎年金と障害厚生年金がもらえるかどうかは、どのように決まるのでしょうか。

それは、障害の原因になった病気やケガについて初めて医師(または歯科医師)の診療を受けた日で決まります。

これを初診日といいます。

すごく簡単にいえば、

  • 初診日に国民年金に加入していた人:障害基礎年金
  • 初診日に厚生年金に加入していた人:障害厚生年金

ということです。

ただし、年齢によって取扱いが異なる場合があるので、今回は初診日が20歳以上60歳未満の期間にある人の場合を想定しておきましょう。

20歳未満や60歳以上の期間に初診日がある人でも要件をみたせば障害基礎年金や障害厚生年金の対象になることもできるのですが、いろいろと異なる取扱いがあるので今回は省略します。

 

障害厚生年金にあって障害基礎年金にないもの

障害基礎年金と障害厚生年金の違いはたくさんありますが、そのなかでも最も特徴的なものは、

  • 障害基礎年金は、1級と2級しかない
  • 障害厚生年金は、1級、2級、3級、障害手当金の4つの等級区分がある

ということです。

もっとはっきりいいましょう。

障害基礎年金には3級以下はありません。

つまり、3級相当の障害を負ったひとは、障害基礎年金はまったくもらえないのです。

 

障害基礎年金は定額制

障害基礎年金は等級による定額制です(生まれた日が昭和31年4月1日以前か2日以降かで少し金額が異なります)。

どれくらい国民年金に加入していたかといった加入期間には比例しません

その額(2025年度)は、

  • 1級:(昭和31年4月2日以後生まれの方) 1,039,625円(831,700円×1.25)+子の加算
  •   / (昭和31年4月1日以前生まれの方) 1,036,625円(829,300円×1.25) +子の加算
  • 2級:(昭和31年4月2日以後生まれの方)831,700円+子の加算
  •   / (昭和31年4月1日以前生まれの方) 829,300円+子の加算
  • 子の加算:第1子・第2子=各239,300円。第3子以降=各79,800円

とされています。

なお、加算の対象となる子とは、障害基礎年金の受給者によって生計を維持されている、

  • 18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子
  • 20歳未満で障害等級1級または2級の障害者

のどちらかに該当する人です。

つまり、障害(1級か2級相当)のあるお子さんなら20歳未満、そうでないなら高校を卒業する時期までのお子さんということです。

障害厚生年金3級は2級と計算方法が同じだけど、最低保障額がある

障害厚生年金の受給額はどうやって計算するのか

障害厚生年金の受給額は、報酬比例の年金額によって決まります。

簡単にいえば、

  • 1級:報酬比例の年金額 × 1.25 + 配偶者の加給年金額(239,300円)
  • 2級:報酬比例の年金額 + 配偶者の加給年金額(239,300円)
  • 3級:報酬比例の年金額 ※配偶者の加給年金なし

このような関係です。

そして報酬比例の年金額の計算は、ざっくりいえば、その人が障害認定日(原則として初診日から1年6ヶ月経過した日か症状が固定した日のどちらか早い日)の属する月以前にもらった給料やボーナスの額によって決まってきます(正確には「平均標準報酬(月)額」という数字を使います)。

この報酬比例の年金額の計算方法はややこしいので、ここでは省略します。

ここでは、障害厚生年金の報酬比例は

  • これまでもらってきた給料やボーナスによって変わるので人それぞれである

というイメージで知っておいてください。

 

障害厚生年金2級にあって3級にないもの

障害厚生年金2級にあって3級にないもの、それは「配偶者の加給年金額」です。

配偶者の加給年金額は239,300円です(2025年度)。

対象となる配偶者とは、障害厚生年金の受給者に生計を維持されている65歳未満の配偶者のことです。

ただし、配偶者が一定の期間以上の老齢厚生年金や退職共済年金を受けられる場合や障害年金を受けられる場合は、その期間の配偶者加給年金額は支給停止されます(つまり配偶者加給年金額は加算されないということです)。

 

障害厚生年金3級にあって2級にないもの

障害厚生年金3級にあって2級にないもの、それは最低保障額です。

最低保障額とは、報酬比例の年金額が一定の額未満になった場合に、最低保障額まで金額を上げるという制度です。

最低保障額は、昭和31年4月2日以後生まれの方623,800円 / 昭和31年4月1日以前生まれの方622,000円(2025年度)です。

たとえば、ある人(昭和31年4月2日以後生まれの方)の報酬比例の年金額が400,000円だったとしましょう。

その人が障害厚生年金2級であれば報酬比例の年金額は400,000円のままですが、障害厚生年金3級であれば報酬比例の年金額は623,800円に引き上げられるということです。

ここでは等級は低い方が金額が大きくなるという逆転現象が起こっています。

その理由はつぎで述べますが、障害厚生年金3級の人の年金額が少なくなり過ぎないようにするためだとお考えください。

障害厚生年金2級には障害基礎年金2級がセットになってもらえる

障害厚生年金3級の人に最低保障額制度があるのは、障害厚生年金2級の人には障害基礎年金2級がセットになってもらえるからです(=そのため最低保障額制度で救済する必要がない)。

つまり、最低でも障害基礎年金2級の約83万円があるので、障害厚生年金2級の報酬比例の年金額が少なくても、最低保障額以上になるのは確実なのです。

障害厚生年金の最低保障額が、障害基礎年金(2級)の3/4とされているのもそのためです。

 

では、どうして障害厚生年金2級の人には障害基礎年金2級がセットになってもらえるのでしょうか。

それは、厚生年金に加入している人は同時に国民年金にも加入しているからです。

これを「国民年金の第2号被保険者」といいます。

厚生年金に加入している会社員や公務員などの人たちです。

ここで、2号があるなら、1号もあるだろうと思った人は大正解。

1号だけなく、3号もあります。

わかりやすいので、先に3号を説明します。

「国民年金の第3号被保険者」とは2号の被扶養配偶者です。

つまり厚生年金に加入している会社員などに扶養されている配偶者のことです。

そして、「国民年金の第1号被保険者」とは2号でも3号でもない人です。

主に個人事業主、フリーランス、大学生やフリーターといった人たちです。

つまり、同じ障害等級2級でも、

  • 国民年金にしか加入していない人(=1号と3号):障害基礎年金2級のみ
  • 厚生年金と国民年金に加入している人(=2号):障害厚生年金2級と障害基礎年金2級のセット

という関係になります。

ここまでの話をまとめると

ここまでの話をまとめると(表1)のようになります。

国民年金のみの3級の「障害年金なし」のインパクトは大きいですね。

それに対して、厚生年金の方は2級も3級も手厚く保障されているのがわかります。

 

2級と3級の格差をAさんの例でくらべてみよう

具体的な受給額をAさん(昭和31年4月2日以後生まれの方)の例でくらべてみましょう。

Aさんには対象となる配偶者と1人の子がいるとします。

そして、厚生年金に加入している場合には報酬比例の年金額を400,000円とします。

このようなAさんの障害年金の受給額は次のようになります(2025年度の金額)。

初診日の加入状況障害等級2級障害等級3級(相当)
厚生年金
(+国民年金2号被保険者)
障害基礎年金:831,700円
子の加算額:239,300円
障害厚生年金:400,000円
配偶者加給年金:239,300円

合計:1,710,300円
障害厚生年金:623,800円
(※最低保証額)
配偶者加給年金:なし
国民年金のみ
(1号・3号被保険者)
障害基礎年金:831,700円
子の加算額:239,300円

合計:1,071,000円
障害年金0円

厚生年金2級と国民年金のみ3級との格差は天と地のような違いになっています。

特に、同じ3級でも、厚生年金の場合には最低保障額が発動しているのに対して、国民年金のみの場合には0円です。

 制度が違うとはいえ、同じ公的年金です。

同じ障害を負っているのに、こういった格差があると知ったときは正直おどろきました。

さいごに

今回は、障害年金の2級と3級の受給額の違いを解説してきました。

ポイントは、

  • 障害基礎年金には3級はない
  • 障害厚生年金3級は2級と計算方法が同じだけど、最低保障額がある
  • 障害厚生年金2級には障害基礎年金2級がセットになってもらえる

の3つでした。

障害の中には基本的に3級(またはそれ以下の障害手当金)にしか認定されないものがあります。

たとえば、鼻の欠損(著しい機能障害)は障害手当金にしか認定されないのが原則ですし、腕や足への人工関節や人工骨頭の挿入置換もそれだけでは3級と認定されることがほとんどです。

同じ障害を負っても、初診日に加入していた年金の種類によって、大きな格差が生じている現状があります。

働き方が多様化している現在、本当にこのままの制度でいいのかを考える時期にきているように思います。

希望する人ができるだけ厚生年金に加入できるような仕組みづくりが必要なのかもしれません。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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障害年金のことを1ミリも知らないひとのための「障害年金とは?」

障害年金のことをまったく知らないひとに向けて「障害年金とは?」を社会保険労務士が解説

社会保険労務士・オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回は、障害年金のことをまったく知らないひとに対して、社会保険労務士が「障害年金とは?」を解説していこうという試みです。

こんなことを偉そうに言っている筆者も、実は10年くらい前までは本当のところ障害年金って何かよくわかっていませんでした。

過去の自分にむけて、障害年金とはどんなものかをうまく説明できるかやってみようと思います。

 

障害年金ってどんな人がもらえるの?

障害年金っていくらもらえるの?

障害年金はどうやったらもらえるの?

 

こんな疑問にわかりやすくお応えしようと思います。

今回は、わかりやすさを最優先します。

よく知っているひとからすれば、正確性に欠ける表現もあるかもしれません。

ご容赦いただけますようお願いいたします。

なお、この記事は投稿日(2020.5.20)現在の情報を元に執筆されています。

 

「障害年金」をひとことでいえば、病気やケガで一定の障害を負ったときに国からもらえる年金のことです。

「そんなことはわかっているよ」と突っ込まれそうなので、基本中の基本のポイントをあげると、

  • 障害年金は障害者手帳を持っていなくても誰でももらえる可能性がある
  • 障害基礎年金よりも障害厚生年金の方がもらえる金額は多い
  • 障害年金をもらうためには3つの条件をクリアしないといけない

の3つになります。

順番に説明していましょう。

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障害年金は障害者手帳を持っていなくても誰でももらえる可能性がある

障害年金は誰でももらえる可能性があります。

障害年金をもらうためには障害者手帳をもっている必要はありません。

これは誤解している人が結構多いです。

障害者手帳がなくても障害年金はもらえますし、逆に障害者手帳をもっているからといって必ずしも障害年金がもらえるとは限りません。

障害者手帳を持ってる人の特権ではないのです。

 

ただし、年齢による制限があります。

それは20歳です。

「障害年金は20歳になってから」と覚えておいてください。

なお、20歳になる前に障害を負った場合でも、20歳になってから障害年金の支給が始まります(一部例外があります)。

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障害基礎年金よりも障害厚生年金の方がもらえる金額は多い

障害年金でもらえる金額は、障害基礎年金(国民年金に入っているひとがもらえる障害年金)か障害厚生年金(厚生年金に入っているひとがもらえる障害年金)かで違っています。

障害厚生年金をもらえるひとの方が多くなります。

 

障害年金は障害が重い方ほどもらえる金額は多くなります。

  • 障害基礎年金は重い方から1級、2級の2段階にわかれています
  • 障害厚生年金は重い方から1級、2級、3級の3段階にわかれています
  • もらえる金額は1級は2級の1.25倍です

 

でもこれだけでは、障害基礎年金よりも障害厚生年金の方がもらえる金額が多くなる理由はわかりませんね。

その理由を説明しましょう。

それは、障害厚生年金の1級、2級のひとは、同時に障害基礎年金ももらえるからです。

厚生年金に入っているひとは、同時に国民年金にも入っているので、両方もらえるというわけです。

これに対して、国民年金にだけ入ってるひとは、障害厚生年金はもらえずに、障害基礎年金だけをもらうことになります。

そのため、障害基礎年金だけしかもらえないひとは、3級相当の障害の場合には、障害年金はまったくもらえないということになります。

障害基礎年金には3級がないからです。

 

話を整理しましょう。

  • 障害厚生年金がもらえるひと
    • 1級:障害厚生年金(1級)+障害基礎年金(1級)
    • 2級:障害厚生年金(2級)+障害基礎年金(2級)
    • 3級:障害厚生年金(3級)
  • 障害基礎年金だけをもらえるひと
    • 1級:障害基礎年金(1級)
    • 2級:障害基礎年金(2級)
    • 3級:なし

どうやっても障害厚生年金をもらえる人の方がお金が多くなりますね。

具体的な金額についてはここでは省略しますが、もっと詳しく知りたいというひとは、「障害年金はいくらもらえる? 障害年金の金額をざっくり紹介」という記事をごらんください。

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障害年金をもらうためには3つの条件をクリアしないといけない

障害年金をもらうための条件は3つあります。

そのすべてをクリアしなければいけません。

順にみていきましょう。

 

初めて病院で診てもらった日が超重要

障害年金をもらうためには、障害の原因になった病気やケガのために初めて病院で診てもらった日がとても重要になります。

これを「初診日」といいます。

初めて具合が悪くなった日ではありません。

重要なのは初診日です。

初診日は医師によってちゃんと証明してもらえるので、とても明確な基準になるからです。

 

初診日によってどの年金がもらえるか(それとももらえないのか)が決まります。

  • 障害基礎年金をもらうには、65歳になるまでに初診日がある必要があります
  • 障害厚生年金をもらうには、厚生年金に加入している期間に初診日がある必要があります

このように初診日がどこにあるかの条件をクリアする必要があります。

初診日が65歳以降であれば、障害基礎年金はもらえません。

また、初診日に厚生年金の加入者であれば障害厚生年金がもらえ、そうでなければ障害厚生年金はもらえないということです。

 

たとえば、Aさんは会社に勤めているときに体調不良だったのですが、忙しくて病院に行けなかったとしましょう。

Aさんは会社を辞めてようやく病院に行ったとします。

そこで病気がみつかった場合どうなるでしょうか。

Aさんが初めて病院に行ったときには会社を辞めていますので、厚生年金の加入者ではなくなっています。

つまり、この病気でAさんが障害を負った場合には、障害厚生年金はもらえないということです。

Aさんは病院に行く日が遅かったばかりに、障害基礎年金しかもらえません。

そして、もしも、この障害が3級相当だったとしたら・・・

そうです、Aさんは障害年金をまったくもらえなくなってしまうのです(障害厚生年金には3級がありますが、障害基礎年金には3級がないですからね)。

 

このほかにも、いつから障害年金がもらえるのかを決める基準日も初診日によって決まりますし、ちゃんと保険料をはらっていたかどうかをチェックする基準日も初診日によって決まります。

とにかく、障害年金にとって初診日はとても重要な日なのです。

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保険料をちゃんと払っていないと障害年金がもらえなくなる可能性がある

障害年金をもらうためには、一定期間ちゃんと保険料を払っている必要があります。

これを「保険料納付要件」といいます。

保険料納付要件をかなりざっくりいうと、初診日の前日の時点で

  • 前々月からさかのぼって1年以内に保険料の未納がない
  • 前々月までの全期間のうち3分の2以上の期間の保険料を払っている(免除でもよい)

のどちらかである必要があります。

もしこの条件をクリアできなければ、どんなに重い障害を負っても、障害年金はまったくもらえません。

これはかなり厳しいことになります。

あとで気づいて慌てて保険料を払っても許してもらえません(ここらへんを詳しく知りたいひとは「未納保険料を後から払えば障害年金はもらえるの?【年金の常識14】」という記事をお読みください)。

もしも経済的理由で保険料が払えないのであれば、免除や猶予の制度もありますので年金事務所や行政の窓口に相談されることを強くおすすめします。

 

病気やケガの種類によってどの程度の障害なら障害年金がもらえるか決まっている

障害年金をもらうための障害の程度は、病気やケガの種類によって決まっています。

これは「障害認定基準」に定められています。

「眼の障害」「聴覚の障害」といったように18の障害の基準が定められています。

かなりの分量になりますが、日本年金機構のホームページでダウンロードできますので、興味のあるひとは一度みてみてはいかがでしょうか。

 

また、病気やケガの種類に応じて提出する診断書も決まっています。

障害年金の請求には専用の診断書がありますので、病気やケガに応じて必要な診断書を提出します。

診断書は8種類あります。

18の障害の基準が定められているのに診断書は8種類しかないのは、1つの診断書で複数の障害に対応しているものがあるからです。

たとえば「聴覚・鼻腔機能・平衡感覚・そしゃく・嚥下・言語機能の障害用の診断書」といったものがあります。

こちらも、日本年金機構のホームページでダウンロードできますので、興味のあるひとは一度みてみてはいかがでしょうか。

 

提出された診断書などの資料から障害認定基準に基づいて、国(日本年金機構)が障害の程度を決めていくというわけです。

障害認定は診断書で決まるといっても言い過ぎではありません。

なので、正確な情報が反映された診断書をどうやって医師に作ってもらうかがポイントになります。

診断書一発勝負というわけではないですが、そんな感じがしないでもありません。

 

障害の程度に関連して、もうひとつ重要なことがあります。

それは、どの時点での障害の程度を判断するのかという問題です。

この答えは2つあります。

それは、①初診日から1年6ヶ月が経過した日、または治療を続けてもこれ以上良くならないと確定した日のどちらか早い方(これを「障害認定日」といいます)、②障害年金を請求する日、の2つです。

①と②の違いは請求の方法の差です(これを「認定日請求」と「事後重症請求」といいます)。

ただ、これは少し難しい話になるので、請求の方法のお話は別の機会にさせてください。

 

まとめ

今回は、障害年金のことをまったく知らないひとに対して「障害年金とは?」を解説してきました。

ポイントは、

  • 障害年金は障害者手帳を持っていなくても誰でももらえる可能性がある
  • 障害基礎年金よりも障害厚生年金の方がもらえる金額は多い
  • 障害年金をもらうためには3つの条件をクリアしないといけない

この3つでした。

いかがでしょうか。

障害年金のことをざっくりとでもわかっていただけたでしょうか。

障害年金は、病気やケガで仕事ができなくなったようなときにとても頼りになる制度です。

制度をざっくりとでも理解しておけば、いざというときに役に立つかもしれません。

とくに、いざ障害年金を請求しようと思ったら、保険料を払っていなかったのでもらえないなんてことになれば本当に大変なことになります。

この記事を読んでくださったひとがそのようなことにならないよう願っています。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

前後の記事

前の記事:障害年金の更新の提出期限を守るよりも診断書の内容の方が絶対的に重要な理由

後の記事:ここまで違う 障害年金2級と3級の受給額

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障害年金の更新の提出期限を守るよりも診断書の内容の方が絶対的に重要な理由

障害年金の更新の際に障害状態確認届(診断書)の提出期限よりも内容の正確性の方が重要な理由を社会保険労務士が解説

社会保険労務士・オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回は、社会保険の国家資格である社会保険労務士が、障害年金の更新の際に障害状態確認届(診断書)の提出期限よりも内容が重要な理由を解説していきます。

 

「障害年金の更新の提出期限が迫っているな。

障害状態確認届(診断書)を早くださないと。

提出期限に間に合わせるために、スピード重視で医師に作ってもらって出したほうがいいのかな?

 

このように考えている人はいませんか?

でも「急がば回れ」ということわざもあります。

なにごともスピード重視が最善というわけではなさそうです。

 

今回のポイントは、

  • 障害年金(有期認定)の更新には障害状態確認届(診断書)の提出期限がある
  • 障害年金の更新の提出期限よりも障害状態確認届(診断書)の内容の方が重要
  • 障害年金の更新の提出期限を過ぎても、年金は一時差し止めになるだけですむ

の3点です。

順番にみていきましょう。

なお、この記事は投稿日(2020.5.19)現在の情報を元に執筆されています。

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障害年金(有期認定)の更新には障害状態確認届(診断書)の提出期限がある

障害年金が有期認定の場合には、必要な年の誕生月の末日までに、障害状態確認届(診断書)を日本年金機構に提出しなければいけません。

障害状態確認届(診断書)は誕生月の3ヶ月前の月末に日本年金機構から送られてきます。

障害状態確認届(診断書)には、提出期限(誕生月の月末)前3ヶ月以内の障害の状態が記載されている必要があります。

なので、障害状態確認届(診断書)がお手元に届いたら速やかに受診して、診断書の作成を医師に依頼した方がいいでしょう。

障害状態確認届(診断書)の作成にかかる時間は医師の都合次第なところもあります。

3ヶ月あるからと余裕に考えずに、早めに対応してください。

ちなみに以前は障害状態確認届(診断書)の作成期間は提出期限1ヶ月以内でした。

これが2019年8月から3ヶ月以内に変更になりました。

まあ、3ヶ月も意外に早く過ぎてしまうものですけど。

 

では、提出期限さえ守れば、それでいいのでしょうか。

答えはノーです。

提出期限よりももっと重要なことがあります。

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障害年金の更新の提出期限よりも障害状態確認届(診断書)の内容の方が重要

障害状態確認届(診断書)の内容次第で等級が級落ち・支給停止もありうる

障害状態確認届(診断書)の提出期限を守ったとしても、その内容によって障害の程度が軽度になったと判断されれば、等級は級落ちしたり、最悪の場合支給停止になる可能性があります。

  • 級落ちとは、1級から2級になったり、2級から3級になったりすることです
  • 支給停止とは、障害基礎年金の場合には2級に該当しなくなることで、障害厚生年金の場合には3級に該当しなくなることです

受給額でいえば、たとえば1級から2級に級落ちするということは受給額が20%ダウンするということで、支給停止となれば0円になるということです。

これはつらいです。

級落ちや支給停止に不服であれば、審査請求などを行うことになります。

 

更新の制度は障害の程度に変化がないかをチェックするためのもの

そもそも更新の制度は障害の程度に変化がないかをチェックするためのものです。

本当に障害の程度が軽度になっているのであれば、級落ちや支給停止は当然のことなのです。

しかし、とくに障害の程度に変更がないにもかかわらず、障害状態確認届(診断書)の記載が正確でないためにこのような判断になったのであればどうでしょう。

提出前に障害状態確認届(診断書)の内容をチェックしていなかったことを悔やむしかありません。

仮に障害状態確認届(診断書)の提出期限を守ることを優先して、内容の確認を怠っていたのであれば、それは本末転倒です。

 

正確な情報が反映された障害状態確認届(診断書)を医師に作成してもらうことを最優先すべき

提出期限も大切ですが、正確な情報が反映された障害状態確認届(診断書)を医師に作成してもらうことが最優先されるべきです。

そのためには、医師へ正確な情報を伝える努力をおしまないことが大切です。

医師としっかりコミュニケーションをとって、現在の症状を正確に伝えてください(メモを作ってもいいでしょう)。

また、障害状態確認届(診断書)が作成されたあとも、その内容はしっかり確認しましょう。

前回提出した資料の写しを持っているなら、照らし合わせることも大切です。

もしも、正確な情報が反映されていないと感じるのであれば、医師に相談してその旨を伝えてください。

もちろん、障害状態確認届(診断書)は医師が医学的な見地から作成するものですので、不当な要求をしてはいけません。

あくまでも正確な情報を伝える努力にとどめてください。

その結果、多少時間がかかったとしても、それは必要なプロセスです。

正確な情報が反映された障害状態確認届(診断書)を作成してもらったら、速やかに提出しましょう。

なお、次回の更新の際の資料にするために、コピーをとって保管しておくことを忘れないようにしてください。

 

障害年金の更新の提出期限を過ぎても、年金は一時差し止めになるだけですむ

障害状態確認届(診断書)の作成に時間を要してしまって提出期限を過ぎた場合には、年金の支給が「一時差し止め」になることがあります。

「一時差し止め」とは、文字通り年金の支給がいったん保留されることです。

障害状態確認届(診断書)が提出されたあとに、障害の等級が変わっていないことが再認定されれば、保留されていた年金はまとめて支給されます。

これに対して、級落ちや支給停止が確定した場合には、その後に額改定請求や支給停止事由消滅届によって元の等級で年金の支給が再開されてたとしても、級落ちや支給停止をしていた期間の年金は還ってきません。

そういう意味で、「一時差し止め」はペナルティとしては軽い方です。

一時差し止めを覚悟してでも、正確な情報が反映された障害状態確認届(診断書)の作成を優先した方がいいでしょう。

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まとめ

今回は、障害年金の更新の際に障害状態確認届(診断書)の提出期限よりも内容が重要な理由をお話してきました。

ポイントは、

  • 障害年金(有期認定)の更新には障害状態確認届(診断書)の提出期限がある
  • 障害年金の更新の提出期限よりも障害状態確認届(診断書)の内容の方が重要
  • 障害年金の更新の提出期限を過ぎても、年金は一時差し止めになるだけですむ

ということでした。

筆者の経験からしても、障害状態確認届(診断書)の内容を確認もせずに提出して、あとで慌てるというケースが散見されます。

更新の際には、正確な情報が反映された障害状態確認届(診断書)を医師に作成してもらうことを最優先にしていただければと思います。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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障害年金を受給したら、健康保険はどうなるのか?

障害年金の受給が公的医療保険(健康保険等)に与える影響を社会保険労務士が解説

社会保険労務士・オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回は、社会保険の国家資格である社会保険労務士が、障害年金を受給した場合に公的医療保険(健康保険等)にどのような影響があるのかを解説していきます。

話を整理するために、

  • 会社の健康保険に加入している人
  • 家族の会社の健康保険の扶養に入っている人
  • 国民健康保険に加入している人

この3つのケースについて考えます。

なお、この記事は投稿日(2020.5.18)現在の情報に基づいて執筆されています。

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結論から先にいいますと、

  • 健康保険の被保険者本人が障害年金を受給しても特に影響はありません
  • 健康保険の被扶養者が障害年金を受給した場合には扶養から外れてしまう可能性があります
  • 国民健康保険の被保険者が障害年金を受給した場合には保険料が安くなる可能性があります

というお話です。

それでは順にみていきましょう。

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健康保険の被保険者本人が障害年金を受給しても特に影響はありません

障害年金の受給者が、会社の健康保険に加入している(健康保険の被保険者本人である)場合には、健康保険に与える影響は特にありません。

保険料も変化しませんし、受けられるサービスが変わるわけでもありません。

そのまま健康保険に加入しつづけることができます。

 

なお、健康状態の問題で会社を辞めるのであれば、一般の退職の場合と同じく被保険者の資格は喪失します。

退職して資格喪失したあとは、①現在の健康保険の任意継続被保険者となる、②家族の健康保険の扶養に入る、③新しく国民健康保険に加入するといったパターンが考えられます。

 

健康保険の被扶養者が障害年金を受給した場合には扶養から外れてしまう可能性があります

障害年金の受給者が、家族が勤める会社の健康保険の扶養に入ってる(健康保険の被扶養者である)場合には、収入要件に影響があります。

健康保険の被扶養者になるためには、

被扶養者の年間収入が、

  • 130万円未満(60歳以上又は障害者の場合は年間収入180万円未満

であり、かつ

  • 被扶養者の収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満であること(同居の場合)
  • 被扶養者の収入が扶養者(被保険者)からの仕送り額未満(別居の場合)

のどちらかであることが原則として必要です。

そして、この「被扶養者の年間収入」には非課税所得である障害年金も含まれます。

 

つまり、被扶養者の障害年金を含めた年間収入が、

  • 180万円以上になった場合
  • 180万円未満でも、被保険者の収入の半分以上となった場合(同居の場合)か仕送り額以上になった場合(別居の場合)

には、原則として被扶養者になれない(=扶養から外れる)ということです。

例外として、同居の場合には扶養者(被保険者)がその世帯の生計維持の中心的役割を果たしていると認められるときには、被扶養者の収入が被保険者の収入の半分以上となった場合でも扶養が認められることもあります。

 

障害年金の受給者が扶養から外れた場合には、新たな公的医療保険(ほとんどが国民健康保険になるでしょう)に加入する必要があります。

 

国民健康保険の被保険者が障害年金を受給した場合には保険料が安くなる可能性があります

障害年金の受給者が、自ら国民健康保険に加入している場合には、国民健康保険を継続できるのはもちろんですが、翌年度からの国民健康保険料が安くなることもあります。

障害年金は非課税所得ですので、障害年金しか収入がない場合にはその人の国民健康保険料の所得割は0になります。

また、国民健康保険料の均等割も低所得であれば一定の減額を受けることができます(この減額を受けるためには、所得がないことを申告する必要があります。詳しくは、「障害年金をもらいはじめたら確定申告をしなければならないの?【年金の常識15】」をお読みください)。

 

なお、国民健康保険料は世帯主に納付義務が生じます。

なので、たとえば、世帯主である夫は会社の健康保険に加入しているような場合でも、妻が障害年金を受給し始めて扶養から外れて国民健康保険に加入したような場合には、妻の国民健康保険料を世帯主である夫が納付する義務が生じます。

 

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まとめ

今回は、障害年金を受給した場合に公的医療保険(健康保険等)にどのような影響があるのかという問題について、

  • 健康保険の被保険者本人が障害年金を受給しても特に影響はありません
  • 健康保険の被扶養者が障害年金を受給した場合には扶養から外れてしまう可能性があります
  • 国民健康保険の被保険者が障害年金を受給した場合には保険料が安くなる可能性があります

というお話をしてきました。

日本では国民皆保険制度が整っていますので、何らかの公的医療保険に加入するのが原則です。

公的医療保険にも複数の種類がありますのでややこしいところではありますが、いろいろと情報を集めて対応してもらえればと思います。

なお、公的医療保険には原則75歳以上の人が加入する後期高齢者医療保険制度というものもありますが、国民健康保険の場合とほとんど同じだと思ってください(納付義務者は被保険者本人ですが、世帯主や被保険者本人の配偶者が連帯納付義務者となるといった違いはあります)。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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障害年金をもらいはじめたら確定申告をしなければならないの?【年金の常識15】

障害年金に個人所得税の確定申告が必要なのかを社会保険労務士が解説

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士である筆者が受けた相談や質問から、「いまさら聞けない 年金の常識」として、意外と間違えやすい年金の仕組みを回答していきます。

第15回目の質問は、障害年金を受給した場合に個人の所得税の確定申告が必要なのかという問題です。

障害年金の受給を検討している人や、すでに受給をしている人のなかには、

  • 障害年金をもらったら確定申告をしなければいけないのか
  • 確定申告をしなかったら自治体から所得未申告の確認の手紙がきたけど、本当は確定申告をしなければいけなかったのではないか

このような疑問をお持ちの人がいらっしゃいます。

今回はそのような疑問にご回答します。

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質問:障害年金をもらいはじめたら確定申告をしなければならないのですか

回答

障害年金(障害基礎年金、障害厚生年金、障害手当金)は非課税所得です。

障害年金以外に所得がないのであれば、確定申告は必要ありません。

ただし、国民健康保険等の保険料(均等割)の減額が必要な場合には、自治体に対して所得のないことを申告しなければいけません(自治体から確認のための文書が届くこともあります)。

 

解説

押さえておきたいポイントは2つあります。

  • 障害年金は非課税所得なので、確定申告は必要ない
  • 国民健康保険料等の均等割の減額を受けるには、自治体に対して所得がないことの申告が必要

順番にご説明していきます。

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  • 障害年金は非課税所得なので、確定申告は必要ない

障害年金(障害基礎年金、障害厚生年金、障害手当金)は非課税所得です(国民年金法25条。厚生年金保険法41条2項)。

そのため、障害年金以外に所得がないような場合には確定申告は必要ありません。

これは障害年金の受給額の多い少ないには関係ありません。

また、障害年金は非課税所得ですので、所得税だけでなく住民税(所得割)も非課税です。

 

  • 国民健康保険料等の均等割の減額を受けるには、自治体に対して所得がないことの申告が必要

障害年金の確定申告は不要ですが、国民健康保険等の均等割の減額を受けるためには、各自治体に別途所得のないことの申告(住民税の申告)が必要になります。

自治体の把握した世帯の所得の有無や額などの情報を基準にして、一定の要件をみたせば国民健康保険料等の均等割が減額されます。

しかし、障害年金は非課税所得なので、ある人が障害年金を受給しているのかという情報は各自治体では把握できません(これに対して、給与や老齢年金のように所得税を源泉徴収されている人や事業所得などを自ら確定申告をしている人の情報は各自治体が把握しています)。

障害年金だけの所得の人が何もしなければ、所得未申告として扱われるということです。

所得未申告のままでは国民健康保険料等の均等割の減額を受けることができません。

そのため、これらの減額が必要な場合には、住民税に関して所得(所得がないこと)の申告が必要になります(保険料の算定のための申告の場合もあります)。

この申告の期限は確定申告と同じですが、それを提出していない場合には、5月ころに自治体から所得未申告の確認の書面が届くこともあります。

必要に応じて対応してください。

なお、自治体に所得未申告のままでは国民健康保険料等の均等割の減額は受けられませんが、所得のない人が所得の申告をしなかったからといって、それが違法ということではありません。

 

さいごに

今回は、障害年金を受給した場合に個人の所得税の確定申告が必要なのかという問題について、

  • 障害年金は非課税所得なので、確定申告は必要ない
  • 国民健康保険料等の減額を受けるには所得がないことの申告が必要

という2つのポイントを解説してきました。

障害年金は非課税所得ですが、何もしないでいれば思わぬ不利益をうけることもあります。

ここではふれませんでしたが、国民年金の第1号被保険者になっている場合には、保険料の免除の手続きというものもあります。

情報をしっかり収集して、ご自分に必要な手続きを行ってください。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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後の記事:障害年金を受給したら、健康保険はどうなるのか?

障害年金はいくらもらえる? 障害年金の金額をざっくり紹介

障害年金がいくらもらえるのかについて、ざっくりとした金額を社会保険労務士が解説

社会保険労務士・オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回は、公的年金の国家資格である社会保険労務士が、障害年金の受給金額について概要を解説していきます。

  • 病気やケガの後遺症で仕事ができなくなって障害年金の請求を考えているひと
  • 障害年金を受給した場合の収入をざっくりとシミュレーションしてみたいひと
  • 障害年金の受給金額がどうやって決まるのかを理解したいひと

こういった人たちにお読みいただきたい記事です。

 

この記事でお伝えしたいポイントは、

  • 障害基礎年金は定額制
  • 障害厚生年金は給料に比例して増えていく(報酬比例)
  • 請求方法によって、最大5年分さかのぼって一括でもらえる場合とこれからの分しかもらえない場合がある

この3点です。

 

順を追ってお話ししていきます。

なお、この記事は投稿日(2020年5月10日)現在の情報を元に執筆されています。

 

ひとくちに障害年金といっても、初診日(障害の原因になった病気やケガについて初めて医師や歯科医師の診療を受けた日)に加入していた公的年金の種類によって、障害基礎年金と障害厚生年金にわかれています。

障害年金を請求する日ではなく、初診日を基準にしていることは注意が必要です(会社員だから必ず障害厚生年金の対象になるというわけではないのです)。

20歳~60歳までの人を例にとってみると

  • 初診日に国民年金に加入:障害基礎年金(1または2級)
  • 初診日に厚生年金にも加入:障害厚生年金(1~3級、または障害手当金)

となります。

この場合、初診日に厚生年金にも加入していた人が、障害等級1または2級であれば、障害基礎年金と障害厚生年金を同時にもらうことができます。

なぜなら厚生年金に加入している人は同時に国民年金にも加入しているからです(これを「国民年金第2号被保険者」といいます)。

それでは、障害基礎年金と障害厚生年金はいくらもらえるのかみていきましょう。

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障害基礎年金は定額制

障害基礎年金はいくらもらえる?

結論からいえば、障害基礎年金はつぎのような定額制です(2020年度の年額)。

  • 【1級】 97万7125円(年額)+子の加算
  • 【2級】 78万1700円(年額)+子の加算
  • 【子の加算額】第1子・第2子:各22万4900円(年額)、第3子以降:各7万5000円(年額)

たとえば障害等級2級の人に子(基本的には高校を卒業するまでの子とお考えください)が3人いた場合には、

78万1700円+(22万4900円×2人)+7万5000円=130万6500円(年額)

となります。

これらの金額は毎年度改定されます。

なお、障害基礎年金には、子の加算はありますが、配偶者の加算はありません。

これにたいして、障害厚生年金(1級、2級)には配偶者の加給年金がありますが、子の加給年金はありません(詳しくは障害厚生年金のところで説明します)。

 

障害基礎年金の額は、国民年金保険料が一部未納や免除期間などがあっても定額制です(減らされたりはしません)。

ただし、障害年金をもらうためには、保険料納付要件というのがあります。

ですので、一定期間以上の保険料未納期間があって保険料納付要件をみたさない場合には、障害年金はまったくもらえません。

 

障害年金生活者支援給付金

障害基礎年金の受給者には、前年の所得が一定基準(扶養親族がいない場合には462万1000円)以下の場合に障害年金生活者支援給付金が別途給付されます(厳密には障害年金ではありませんが、関連する収入なので併せてご説明します)。

給付額(2020年度)は、

  • 1級:6288円(月額)⇒7万5456円(年額換算)
  • 2級:5030円(月額)⇒6万0360円(年額換算)

です。

現時点では給付の終期はありません(要件をみたせば、障害基礎年金を受給している限りずっともらえます)。

新たに障害年金を請求する際には、障害年金生活者支援給付金もあわせて手続きしましょう。

 

偶数月に2ヶ月分が振り込まれる

障害年金に限らず、一般的に公的年金の支給は、支給すべき事由が生じた日の属する月の翌月から始まります。

そして、支給期月は、偶数月(2、4、6、8、10、12月)にそれぞれの前月分までの分(通常は2ヶ月分)が支払われます。

支給日は15日(金融機関の営業日でない場合には前の営業日)です。

ですので、たとえば2020年4月15日に支給された年金は2020年2、3月分のものということです。

これは、障害年金生活者支援給付金の場合も同様で、年金支給日と同じに日に前2ヶ月分が給付されます。

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障害厚生年金は給料に比例して増えていく(報酬比例)

障害厚生年金はいくらもらえる?

さきほどみたように障害基礎年金は定額制でしたが、障害厚生年金はそうではありません。

基本的には、障害認定日(初診日から1年6ヶ月経過した日か症状固定日のどちらか早い方が原則)の時点でのそれまでの平均した月給(正確には「平均標準報酬(月)額」といいます)に比例するとお考えください(これを報酬比例といいます)。

ちょっと難しいと思いますが、基本的な計算式はつぎのとおりです(2020年度の年額)。

  • 【1級】(報酬比例の年金額) × 1.25 + 〔配偶者の加給年金額(22万4900円)〕
  • 【2級】(報酬比例の年金額) + 〔配偶者の加給年金額(22万4900円)〕
  • 【3級】(報酬比例の年金額) ※最低保障額 58万6300円
  • 【障害手当金】(報酬比例の年金額)×2  ※最低保障額 117万2600円
  • 1級と2級には配偶者の加給年金がありますが、3級と障害手当金には配偶者の加給年金はありません

そして、報酬比例の本来的な計算方法はつぎ①と②を合算したものです(2020年度の年額)

  • ①平均標準報酬月額 × 7.125 / 1000 ×(2003年3月までの被保険者期間の月数)
  • ②平均標準報酬額 × 5.481 / 1000 ×(2003年4月以降の被保険者期間の月数)
  • 被保険者期間が300ヶ月(25年)未満の場合には300ヶ月とみなして計算します
  • 1994年の水準で標準報酬を再評価して年金額を計算する「従前額保障」があります

 

とりあえず最低限のことを書かせていただきましたが、正直言って、障害厚生年金の報酬比例の年金額を正確に計算するのはとても大変な作業です。

ですので、30歳程度のお若い(会社員歴が25年(300ヶ月)未満)の人の場合には、ざっくりと、

これまでの給料の総合計(ボーナス込みの額面額)÷ 入社してからの月数 × 1.5

で計算してみるのもいいでしょう。

1.5をかけているのは、5/1000の300ヶ月分という意味です。

かなりざっくりとした計算方法ですが、大幅に外れることはないと思います。

たとえば、会社員を7年間(84ヶ月)やっている人で、平均年収300万円(7年間の合計2100万円)の場合であれば、

2100万円 ÷ 84ヶ月 × 1.5=37万5000円

といった感じです。

なお、1級の場合には、これを1.25倍します。

 

もうひとつ、ざっくり計算の方法としては、「ねんきん定期便」のハガキを利用してもいいでしょう。

「ねんきん定期便」は老齢年金(老齢基礎年金と老齢厚生年金)の目安が掲載されていますが、障害厚生年金のざっくり計算にも使えます。

障害認定日に近い年の「ねんきん定期便」を確認して、

  • 厚生年金の加入期間が300ヶ月以上であれば、そこの老齢厚生年金の額がその時点での障害厚生年金の報酬比例額に近い金額です(完全には同じではありませんが、あくまでざっくりした目安です)
  • 厚生年金の加入期間が300ヶ月未満の場合には、老齢厚生年金の額を厚生年金の加入月数で割って、300をかけてください

たとえば、老齢厚生年金の額が30万円、厚生年金の加入月数が150の場合

30万円÷150×300=60万円

といったかんじです。

かなりざっくりですが、障害厚生年金(報酬比例額)に近い金額になると思います。

この場合も1級の場合には、1.25倍します。

 

障害厚生年金3級、障害手当金には最低保障額がある

障害厚生年金の特徴として、最低保障額が決められています。

これは障害基礎年金がもらえない人(3級か障害手当金の人がメイン)のために定められています。

  • 障害厚生年金:58万6300円(年額)
  • 障害手当金:117万2600円(一時金=一括で一度だけ支給されるもの)

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障害基礎年金と障害厚生年金の金額のイメージ

ここまでのことをまとめて、障害基礎年金と障害厚生年金の金額をイメージしてみましょう。

(表1)をご覧ください。

これは、2020年度の障害年金の金額(配偶者及び子なし)の場合のイメージです。

障害厚生年金の受給額(グレーの部分)は報酬によって人それぞれなので、ここでは2003年4月以後に厚生年金に加入した人で平均標準報酬額30万円、被保険者期間300ヶ月みなしと設定して、ざっくりと本来水準で計算したものです。

その結果、障害厚生年金3級と障害手当金は最低保障額になっています。

なお、障害基礎年金に上乗せされる障害年金生活者支援給付金はこの(表1)には入っていません。

障害基礎年金1級または2級の人で、障害年金生活者支援給付金がもらえる場合には、1級に7万5456円(年額)=6288円(月額)、2級に6万0360円(年額)=5030円(月額)を加算してください

 

障害の程度が1、2級であっても、障害厚生年金がなければ月額10万円を超えることはむずかしいことがわかります。

仮に障害基礎年金に子の加算がついたとしても、子が高校を卒業してしまえば、加算はなくなります。

障害基礎年金だけだと経済的には少し心配な金額かもしれません。

 

また、障害厚生年金であっても、3級の場合には障害基礎年金を併せてもらえません。

その場合、月額は5万円程度です。

高給の期間が長い人であれば、3級の障害厚生年金の額はもっと増えるでしょうが、若い人の場合にはこのように最低保証額になることも多いです。

ですので、3級の場合には短時間勤務にするなど工夫をして、就労を継続するこも検討すべきでしょう。

 

請求方法によって、最大5年分さかのぼって一括でもらえる場合とこれからの分しかもらえない場合がある

障害年金は請求の方法によって、さかのぼりができるかどうかが分かれます。

さかのぼりができれば、これまでの最大5年分が一括して最初に支給されます。

2級の障害基礎年金だけの場合であっても、約78万円×5年分=約390万円です。

けっこう大きな額になります。

 

どのような場合にさかのぼりができるのでしょうか。

  • 認定日請求(≒遡及請求):できる(障害認定日の翌月までさかのぼって支給。最大5年)
  • 事後重症請求:できない(請求日の翌月から支給)
  • 基準障害による請求(「初めて2級」といったりもします):できない(請求日の翌月から支給)

このようにさかのぼりができるのは、認定日請求(≒遡及請求)だけなのです。

 

これらの請求方法の違いについてざっくりと説明すると次のとおりです。

  • 認定日請求(≒遡及請求):障害認定日に障害等級に該当している場合
  • 事後重症請求:障害認定日には障害等級に該当しておらず、その後に(症状が悪化して)障害等級に該当した場合
  • 基準障害による請求(初めて2級):既に3級以下の「他の障害」のある人が、新たな傷病による障害(基準障害)が発生した場合に、それらを併合して2級以上になった場合

 

とくに障害認定日から1年以上経過して障害年金を請求するような場合には、認定日請求によってさかのぼりができるかどうかがとても重要になります。

最初に一括でまとまった金額がもらえると、かなり経済的にありがたいです。

このような場合には、医師(障害認定日当時の医師が望ましい)と綿密に相談して、不備のない適正な診断書を作成してもらわなければいけません。

自分だけで対応が難しいような場合であれば、障害年金を扱っている社会保険労務士や弁護士にご相談されることをおすすめいたします。

 

まとめ

今回は、障害年金の受給金額について概要を解説してきました。

もういちど、ポイントをまとめると、

  • 障害基礎年金は定額制
  • 障害厚生年金は給料に比例して増えていく(報酬比例)
  • 請求方法によって、最大5年分さかのぼって一括でもらえる場合とこれからの分しかもらえない場合がある

の3点です。

ざっくりとではあっても、障害年金の受給金額のイメージをつかんでもらえればと思っています。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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前後の記事

前の記事:新型コロナで国民年金保険料が払えない! 保険料未納で困ったことにならないように免除の臨時特例を申請しよう

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新型コロナで国民年金保険料が払えない! 保険料未納で困ったことにならないように免除の臨時特例を申請しよう

新型コロナウイルス感染症の影響で収入が減って国民年金保険料を支払えない人のために免除の臨時特例を社会保険労務士が解説

社会保険労務士・オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回は、公的年金の国家資格である社会保険労務士が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で収入が減少した場合の国民年金保険料免除の臨時特例についてお話します。

新型コロナウイルス感染症の影響で

  • 失職して厚生年金の被保険者から国民年金の第1号被保険者になった人
  • アルバイト先が休業して収入が少なくなった人
  • 取引先からの受注が減少したフリーランスの人

こういった人たちにはぜひお読みいただきたい記事です。

2020年4月~2021年3月分の国民年金保険料は月額1万6540円です。

収入が減った人にとってはつらい支出だと思います。

どうにかならないものでしょうか。

 

この点について、この記事でお伝えしたいことは、

  • 臨時特例を申請して当面の国民年金保険料の支払を回避しよう
  • 未納は絶対に避けよう
  • 将来の国民年金(老齢基礎年金)を満額もらうための方法も知っておこう

の3点です。

順を追ってお話ししていきます。

なお、この記事は投稿日(2020年5月6日)現在の情報を元に執筆されています。

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臨時特例を申請して当面の国民年金保険料の支払を回避しよう

2020年5月1日から国民年金保険料免除の「臨時特例」の申請手続が可能になりました。

この臨時特例によって、対象者は2020年2月~6月分の国民年金保険料(全額または一部)が免除されます。

仮に2~6月までの5ヶ月間の国民年金保険料が全額免除された場合には、8万2700円の支払を免れることができます。

当面の家計に与えるインパクトは大きいと思います。

経済的に困っている人は積極的に申請したいところです。

 

どんな人が対象?

臨時特例の対象者は、

  • 2020年2月以降に、新型コロナウイルスの感染症の影響により収入が減少したこと
  • 2020年2月以降の所得等の状況から見て、当年中の所得の見込みが、現行の国民年金保険料の免除等に該当する水準になることが見込まれること

2点をいずれもみたした人です。

学生の場合には、別に「学生納付特例の臨時特例」の対象になります。

具体的にはいくら減ったら対象になる?

臨時特例の対象となるには

  • 当年中の所得の見込みが
  • 現行の国民年金保険料の免除等に該当する水準になる

と見込まれることが必要です。

この2点について具体的に説明します。

 

まず、「当年中の所得の見込み」の計算方法です。

  • ステップ①:2020年2月以降で収入が減少した月を任意で選ぶ(一番減った月を選べばよいでしょう

たとえば、アルバイトのAさん(未婚の一人暮らし)が去年の3月は15万円の収入があったのに、今年の3月は7万円になったような場合を想定してみましょう。

  • ステップ②:①で出した金額を12倍して1年分の「収入見込額」をだす

Aさんの場合には、7万円×12=84万円が1年分の「収入見込額」です。

  • ステップ③:控除相当額をだす

Aさんのような給与所得者の場合には、給与所得控除をだします。

給与所得控除は、②の1年分の「収入見込額」×40%で計算しますが、この額が65万円未満の場合には一律65万円です。

Aさんの場合、84万円×40%=33万6000円ですので、65万円が給与所得控除になります。

  • ステップ④:②の1年分の「収入見込額」から③の控除相当額を引いて「所得の見込額」をだす

Aさんの場合、84万円-65万円=19万円が「所得の見込額」です。

 

次に、「現行の国民年金保険料の免除等に該当する水準」を確認しておきます。

それぞれの免除区分については、

  • 全額免除:(扶養親族等の数+1)×35万円+22万円 以下
  • 4分の3免除:78万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 以下
  • 半額免除:118万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 以下
  • 4分の1免除:158万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 以下

とされています。

つまり、先ほど計算した「所得の見込額」がこの区分のどこに該当するかで、いくら免除されるのかが決まるということです。

Aさんの場合には、「所得の見込額」19万円が、全額免除の基準(57万円)以下ですので、全額免除の基準を満たしています。

 

ここで注意が必要なのですが、「所得の見込額」は本人だけではなく、配偶者(夫や妻のこと。内縁関係も含みます)及び世帯主の「所得の見込額」もチェックされるという点です。

Aさんの場合には、未婚で独り暮らし(配偶者や他に世帯主がいない)だったので、Aさんだけを計算すればよかったのですが、本人のほかに配偶者や世帯主がいる場合にはそれだけでは足りません。

配偶者や世帯主の全員について「所得の見込額」を計算して、全員が免除区分に該当する必要があるのです。

ただし、配偶者や世帯主の「所得の見込額」の計算は必ずしも本人と同じ月を用いて計算する必要はありません(一番収入が減った月を選んでいいということです)。

 

いつからいつまでいくら免除される?

現在のところ、臨時特例は2020年2~6月までの5ヶ月分の国民年金保険料が免除の対象です。

どの月の収入を元にしても、2月まで遡って適用可能です。

ただし、先に納付された保険料は還付されません。

なお、前納制度(半年分、1年分、2年分等のまとめ払いのこと)を利用している人の場合には免除申請を行った月以降の保険料相当額は還付可能です。

 

免除後に支払わなければならない具体的な1ヶ月分の保険料は、

2020年2~3月分

  • 全額免除:0円
  • 4分の3免除:4100円
  • 半額免除:8210円
  • 4分の1免除:1万2310円

2020年4~6月分

  • 全額免除:0円
  • 4分の3免除:4140円
  • 半額免除:8270円
  • 4分の1免除:1万2410円

です。

全額免除以外の免除の場合、この金額を納付しなければ、その月は「未納」扱いとなるので注意が必要です。

 

将来の年金はどうなる?

臨時特例が将来もらえる老齢基礎年金(原則65歳になったときからもらえる国民年金)の額に与える影響について確認しておきましょう。

老齢基礎年金の額は、年額で78万0900円に改定率をかけた額とされています。

改定額は毎年変わります。

ちなみに、2020年度の老齢基礎年金の額は、年額で78万1700円(満額)です。

これは40年間(480ヶ月)全額を納めた場合の額です。

臨時特例での免除のように、保険料を全部または一部しか納めていない人の場合には、その期間減額されることになります。

具体的な減額率は、

  • 全額免除:2分の1
  • 4分の3免除:8分の3
  • 半額免除:4分の1
  • 4分の1免除:8分の1

です。

ここはなかなかピンとこないところですが、ざっくりとイメージしてもらうために、臨時特例で5ヶ月間免除を受けて、そのほかの期間は満額納付したとして、改定率をかける前の額(78万0900円)で比べてみましょう。

  • 全額免除:(78万0900円×475/480)+(78万0900円×5/480×1/2)=77万6833円(4067円減額)
  • 4分の3免除:(78万0900円×475/480)+(78万0900円×5/480×5/8)=77万7850円(3050円減額)
  • 半額免除:(78万0900円×475/480)+(78万0900円×5/480×3/4)=77万8866円(2034円減額)
  • 4分の1免除:(78万0900円×475/480)+(78万0900円×5/480×7/8)=77万9883円(1017円減額)

ぱっとみるとそこまで減っていないような感じもしますが、老齢基礎年金は終身年金(死ぬまでもらえる年金)ですので、これが10年、20年と積み重なると差額は大きくなっていきます。

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未納は絶対に避けよう

臨時特例の申請もせずに、国民年金保険料を払わずにいるとどうなるのでしょうか。

これを国民年金保険料の未納といいます。

国民年金保険料の未納を避けるべき理由を簡単にあげておきます。

 

将来の年金が減額されるだけでなく、まったくもらえなくなる可能性があります

未納期間の将来の年金額は0円です。

これに対して、先ほど計算したように、臨時特例の全額免除の場合には1/2が減額されるだけですみます。

同じ保険料をまったく払わない状態なのに、大きく変わってきます。

しかし、ペナルティーはこれだけではありません。

保険料の未納を続けていくと、年金がまったくもらえなくなる可能性があるのです。

具体的には、保険料納付済期間(国民年金の保険料納付済期間や厚生年金保険、共済組合等の加入期間を含む)と国民年金の保険料免除期間などを合算した資格期間が原則として10年以上必要です。

もしも資格期間が10年未満であった場合には、将来の年金は0円(無年金)になってしまいます。

 

障害年金がもらえなくなる可能性があります

障害年金をもらうためには「保険料納付要件」をみたす必要があります。

具体的には、初診日の前日において、

  • 初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の2/3以上の期間について、保険料が納付または免除されていること(「2/3要件」)
  • 初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと(「1年要件」)

のどちらかをみたす必要があります。

「2/3要件」であっても「1年要件」であっても、未納期間は不利に扱われます。

もしもこれらの保険料納付要件がみたせなければ、その時点で障害年金はもらえません。

 

延滞金が発生したり、強制徴収による差押えの可能性があります

国民年金保険料の未納に対しては、延滞金が発生することがあります。

具体的な延滞金割合(2020年1月1日から12月31日)は、

  • 納付期限の翌日から3ヶ月を経過する日まで:2.6%
  • 納付期限の翌日から3ヶ月を経過する日の翌日以降:8.9%

です。

また、一定の所得が認められるようなケースなどでは、強制徴収(差押え)の可能性もあります。

つまり、未納が続くと銀行口座や不動産などを差押えられる可能性があるということです。

なお、あまり知られてはいませんが、国民年金保険料は本人に納付義務があるだけでなく、配偶者や世帯主にも連帯納付義務があります。

そういった連帯納付義務者に迷惑をかけてしまうこともありえるのです。

 

このような理由から、国民年金保険料の未納はできるだけ回避したいところです。

今回の臨時特例を積極的に利用して、未納のまま放置することは避けましょう。

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将来の国民年金(老齢基礎年金)を満額もらうための方法も知っておこう

臨時特例で国民年金保険料が免除された場合には、「未納」による不利益は受けませんが、将来の年金が減らされてしまうことは避けられません。

そこで、臨時特例で免除された人が将来の年金を満額もらうためにできることをお伝えしておこうと思います。

 

追納制度

臨時特例で免除された国民年金保険料は、「追納」することができます。

追納ができるのは追納が承認された月の前10年以内の免除等期間についてです。

ただし、免除を受けた期間の翌年度から起算して、3年度目以降に保険料を追納する場合には、承認を受けた当時の保険料額に経過期間に応じた加算額が上乗せされます。

2年度以内であれば加算されませんので、早めの追納がお得です。

追納後は、保険料が全額納付されたものとして将来の年金額が計算されます。

 

任意加入制度

追納期間を経過して追納ができなくなった場合には、60歳になったあとに国民年金の任意加入制度を検討してみましょう。

任意加入制度は、40年の納付済期間がないため老齢基礎年金を満額受給できない人などのために、60歳以降でも国民年金に加入できる制度です。

任意加入をするためには、

  • 日本国内に住所を有する60歳以上65歳未満の人
  • 老齢基礎年金の繰上げ支給を受けていないこと
  • 20歳以上60歳未満までの保険料の納付月数が480月(40年)未満であること
  • 厚生年金保険、共済組合等に加入していないこと

こういった要件をすべてみたす必要があります。

追納できなかったときの手段として覚えておいてください。

 

厚生年金の経過的加算

国民年金ではないのですが、厚生年金にも老齢基礎年金に相当する給付があります。

それを「経過的加算」といいます。

たとえば、60歳以降に厚生年金の被保険者であった場合(原則70歳に達するまで)、その厚生年金の被保険者期間に応じて、老齢基礎年金に相当する給付が経過的加算として上乗せされます。

上限や計算方法などの詳細は省略しますが、経過的加算は実質的には満額にみたない老齢基礎年金を補充してくれる役割を果たしています。

60歳を超えて厚生年金の被保険者として働くというのも、一つの方法として覚えておいて損はないでしょう。

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さいごに

今回は、新型コロナウイルス感染症の影響で収入が減少した場合の国民年金保険料免除の臨時特例についてお話ししてきました。

具体的な手続などは日本年金機構のホームページをご参照ください。

とにかく使える制度はすべて使って、どうにかこの困難な状況を乗り越えていきたいところです。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

前後の記事

前の記事:給料から天引きされる社会保険料・天引きされない社会保険料

後の記事:障害年金はいくらもらえる? 障害年金の金額をざっくり紹介

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給料から天引きされる社会保険料・天引きされない社会保険料

給料から天引きされる社会保険料と天引きされない社会保険料の違いを社会保険労務士が解説

社会保険労務士・オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回は、社会保険労務士である筆者が、給料から天引きされる社会保険料と天引きされない社会保険料の違いをご説明します。

「給料から国民年金保険料が引かれていないけど、大丈夫なのでしょうか?」

「労災の保険料って払ったことないけど、うちの会社は労災保険にちゃんと入ってるの?」

「親が介護保険料が高いって文句を言っていたけど、私は介護保険料を払ったことないかも・・・」

こういった疑問をもったことのある人はいらっしゃいませんか?

結論から言えば、これらの社会保険料は(間接的にでも)ちゃんと払われています。

それではご一緒に、どういう仕組みになっているのかみていきましょう。

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給料から天引きされる社会保険料

給料から天引きされない社会保険料が気になるのは、給料から天引きされる社会保険料があるからです。

最初に、給料から天引きされる社会保険料を簡単にまとめておきましょう。

給料明細の社会保険料控除欄をご覧ください。

  • 健康保険料
  • 厚生年金保険料
  • 雇用保険料

の3つの社会保険料が確認できないでしょうか?

それぞれ加入要件が違いますので、契約社員さんやパート・アルバイトさんなどの雇用形態によっては、もしかしたら全部の社会保険料は天引きされていないかもしれません。

しかし、フルタイムの正社員さんであれば、これらの3つの社会保険料が控除欄に記載されていると思います。

具体的な保険料の計算方法は省略しますが(実際には健康保険料や厚生年金保険料は「標準報酬月額」を使って計算します)、それぞれ給料の

  • 健康保険料:約5%
  • 厚生年金保険料:約9%
  • 雇用保険料:0.3%

くらいの金額になっているのではないでしょうか。

合計で15%以上が社会保険料として天引きされているのは、正直なところ「高いな~」と思います(さらに所得税や住民税も天引きされますので、手取りの給料はもっと減りますから、なおさら負担感は強いですよね)。

いずれにしても、これらの社会保険料は給料明細に明確に記載されていますので、実際に払っていることが確認できます。

 

給料から天引きされない社会保険料

それでは、給料から天引きされない社会保険料についてみていきましょう。

ここでは、

  • 国民年金保険料
  • 労災保険料
  • 介護保険料

の3つをみていきます。

 

国民年金保険料

まず、国民年金保険料です。

これは給料から天引きされません。

しかし、厚生年金保険料を払っている期間は、ちゃんと将来の国民年金(老齢基礎年金)をもらえる期間としてカウントされます。

厚生年金に加入している人は同時に国民年金の「第2号被保険者」という地位を有しているのです。

国民年金保険料は厚生年金保険料に含まれいると考えてください。

「基礎年金拠出金」というものを厚生年金の実施者や実施機関が分担して負担しているのです(小難しい話なので省略します)。

いずれにしても、厚生年金保険料を払っている人は国民年金保険料を別に払う必要はないので、給料から天引きされることもないというわけです。

 

労災保険料

次に、労災保険料です。

これも給料から天引きされません。

その理由はシンプルです。

労災保険料は全額が事業主(会社)負担だからです。

ですので、給料から労災保険料が天引きされていなくても、事業主(会社)が労災保険の適用事業所であれば、その従業員の労災事故に対してはちゃんと労災保険が適用されます。

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介護保険料

最後は、介護保険料です。

これは、ちょっと複雑なので、年齢によって場合分けをして考えないといけません。

 

まず、40歳未満の人の場合です。

40歳未満の人は、そもそも介護保険に加入できませんので、介護保険料の支払義務も生じません。

 

次に、40歳以上65歳未満の人の場合です。

40歳以上65歳未満の人(正確には40 歳以上65 歳未満の健保組合、全国健康保険協会、市町村国保などの医療保険加入者)は、介護保険の「第2号被保険者」になります。

この介護保険の「第2号被保険者」の介護保険料の支払方法なのですが、実は給料から天引きされているのです。

「でも、介護保険料は給料明細には書いていないけど」と疑問に思う人がいるかもしれません。

それもそのはず、介護保険の「第2号被保険者」の介護保険料は、健康保険料と一体的に天引きされているので、一見すると天引きされていないようにみえるのです。

次の画像は、全国健康保険協会の「令和2年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」(東京都)を一部抜粋したものです。

「全国健康保険協会管掌健康保険料」の欄が、「介護保険第2号被保険者に該当しない場合」と「介護保険第2号被保険者に該当する場合」の2つに分けられており、それぞれの保険料率が異なっています。

「介護保険第2号被保険者に該当する場合」の方が高いですね。

これは、介護保険料が含まれているからです。

このように、40歳以上65歳未満の「介護保険第2号被保険者」は、健康保険料に介護保険料が含まれて、給料から天引きされているのです。

 

さいごに、65歳以上の人の場合です。

65歳以上の人は介護保険の「第1号被保険者」となります。

そして介護保険の「第1号被保険者」の介護保険料は、給料から天引きされるのではなく、特別徴収といって年金から天引きされるのが原則になります(普通徴収といって、銀行引落や手払いの場合もあります)。

ちなみに、65歳以上の介護保険「第1号被保険者」の会社員の場合、「介護保険第2号被保険者に該当しない場合」の健康保険料率が適用されることになります(介護保険料は別に払うので、健康保険料は少し安くなるというわけです)。

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給与計算の正しい知識を学ぼう

給料から天引きされない社会保険料であっても、決して払っていないわけではなく、実は間接的に払っていたり、事業主が全額払ってくれていたりと、いろいろなケースがあるということがおわかりいただけたと思います。

税金もそうなのですが、社会保険料が給料から天引きされていると、どうしても払っている実感がわかなくなります。

ましてや給料から天引きされていない社会保険料であればなおさらです。

それは、自分の払っている社会保険料を「自分事」としてとらえることができないということです。

社会人の多くがそういった状態であれば、社会保険をはじめとした社会保障制度を守ることができなくなるかもしれません。

本当にそれでいいのでしょうか。

自分の払っている社会保険料を「自分事」としてとらえるためには、正しい知識を学ぶしかありません。

この記事をここまでお読みいただいた人であれば、そういった問題意識を共有できる人だと思います。

行動に移しましょう。

たとえば、参考になるサイトをチェックしたり、書籍で勉強したり、スクールに通ったり、税金や社会保険料が給料から天引きされる仕組みを正しく知ることから始めてみましょう。

自分にあった方法を探してみてください。

この記事のあとに、給与計算に関するおすすめの書籍をあげておきますので、興味ある人はチェックしてみてください。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

給与計算に関するおすすめの書籍

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前後の記事

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事前知識0、実務経験0スタートの人が独学で社労士試験に合格できるのか?

事前知識0、実務経験0から独学で社労士試験に合格した社労士の話

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回は、労働法や社会保険の事前知識0、実務経験0の人が、予備校などの通学や通信の講座を受けずに、独学で社労士試験に合格できるのかというお話です。

現時点では労働法や社会保険の事前知識もないし実務経験もないけど、独学で勉強して社労士試験を受けてみようか迷ってる人や、独学で受験勉強をしても合格できないのではないかと不安に思っている人に読んでいただければ嬉しいです。

2016年の社労士試験合格者の筆者が、そんな人たちを応援したいと思って書いた記事です。

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独学で社労士試験は合格できるの?

結論から言いますが、独学でも社労士試験に合格できます。

しかも、事前知識0、実務経験0スタートの人であってもです。

これは断言できます。

なぜならば、他ならぬ筆者がそうだったからです。

筆者は法律事務所のパラリーガル(弁護士のアシスタント)として働きながら、社労士試験の勉強をしました。

受験勉強を始めたころの筆者は、労働法や社会保険の知識は皆無(お恥ずかしい話ですが、国民年金と厚生年金の違いもよくわかっていませんでした)、もちろん実務経験もありませんでした。

そんな状態でどうして社労士試験を受けようと思ったのかは、長くなるので省略しますが、要は仕事のうえで必要性を感じたのと他のパラリーガルとの差別化を図りたかったからです。

2013年から本格的に受験勉強を始めました。

結果は、2014年、2015年と不合格で、2016年に合格しました。

「なーんだそんなにかかってるのか・・・」と思われた人もいるでしょう。

悔しいですが、2014年も2015年も選択式で基準点に満たない科目があって足切り不合格になってしまったのです。

なので「半年の勉強で一発合格できました!」って華々しい話は期待しないでください。

それが実力だったとは思いますが、今思えば、もう少し効率的な戦い方もあったように思っています。

そういった反省点も含めて、事前知識0、実務経験0スタートの人が独学で社労士試験に合格する方法をお伝えしたいと思います。

 

択一式試験は基本書と過去問で十分戦える

社労士試験は、択一式試験と選択式試験に分かれています(試験の詳細は、社会保険労務士試験オフィシャルサイトをご覧ください)。

そのうち択一式試験に関しては、各予備校が出している受験用の基本書と過去問集を回すことで、十分に合格点に達することが可能です。

実際に筆者も1年目から、基本書と過去問集だけで、択一式試験の合格点に達しています。

1年目は、基本書1周通読後、基本書読み込み2周と過去問集3周だったと思います。

それ以降は、改正ポイントを中心に基本書読み込み+過去問3周を毎年やっていました。

これでも結構時間はかかりますが、やったのはこれだけです。

基本書などは、LEC東京リーガルマインドの「出る順」シリーズを使っていました(そのあたりのことは、「現役社会保険労務士が受験用基本書を買う理由」で詳しく述べているので、興味があればご参考までにお読みください)。

他の予備校のものを使ったことがないので比較はできないのですが、多分、基本書はどこのものを使っても独学での合否に大きな影響はないのではないかと思っています。

相性はあると思いますので、ご自身の選んだものを信じて読み込んでいくことが択一式試験対策になると思っています。

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選択式試験には工夫が必要

これに対して、選択式試験に関しては、正直言って、基本書+過去問だけでは、少し物足りないのではないかと思っています。

ここが筆者の反省点でもあります。

筆者は、2014年、2015年と2年連続で選択式試験の足切りをくらっています。

労一でやられました。

選択式労一は、基準点が2点に落ちることが少ない科目です(相対的に1点以下の人が少なく、基準点が2点に下がらない傾向があります)。

いかにして労一で3点をとるか。

これが筆者の2016年の課題でした(ちなみに2016年には基準点が2点に下がりましたが)。

筆者が実践した選択式対策は次の3つです。

  • 模擬試験を徹底的に復習する
  • 白書・統計対策用の受験雑誌を購入する
  • 厚生労働白書と労働経済白書はお守りとして手元においておく

これらの3点についてご説明していきましょう。

 

模擬試験を徹底的に復習する

模擬試験は、各予備校が総力を挙げて作成している情報の塊です。

徹底的に復習して分析してください。

解説のページ、発展のページ、予想問題のページなど、余すことなく徹底的に読み込むべきです。

不合格の年には、これが足りなかった。

点数など二の次でいいのです。

模擬試験は通信でかまいません(情報を得るのが一番の目的ですから)。

値段も1回数千円程度でそこまで経済的な負担にはならないのもありがたいところです。

模擬試験は必ず活用されることをおすすめします。

 

白書・統計対策用の受験雑誌を購入する

受験雑誌に関しては、筆者は白書・統計対策号だけ購入していました。

基本書での独学では、どうしても白書・統計対策といった最新の情報に後れを取ることは否定できません。

受験雑誌の白書・統計対策号は、情報が要点を絞ってまとまっていて、とても便利です。

模擬試験で出題された白書・統計問題の復習と合わせて活用することで、白書・統計対策は、択一式も選択式も十分合格点をねらえると思います。

こちらはお値段も1000円前後でリーズナブルですので、情報を購入するという意味で、ペイする投資だと思います。

ちなみに、受験勉強のペースとして毎号購入してもいいと思いますが、筆者はそこまではしていませんでした。

 

厚生労働白書と労働経済白書はお守りとして手元においておく

白書・統計対策として、厚生労働白書と労働経済白書の取扱いは正直迷うところです。

これを両方買うと5000円を超えてしまいます。

ただ、手元にないと不安になるのも確かなんですよね。

厚生労働省のホームページでダウンロードしちゃいましょう。

お守りみたいなものです。

使い方としては、これを読み込むのはよほど時間に余裕がないと難しいと思うので、模擬試験の復習の際に、出題された範囲にざっと目を通す感じでいいのではないかと思っています(紙に印刷せずにPDFのままで十分です)。

 

労務管理を具体的にイメージする参考書

社労士試験対策としては、以上お話してきたとおりです。

合格を十分にねらえると思います。

ただ、事前知識0、実務経験0の筆者が、労務管理を具体的にイメージするために参考にした本があるので、さいごにご紹介しておきましょう。

それは、「新しい人事労務管理」(有斐閣アルマ)です。

コンパクトにまとまっているわりには、内容が充実しているので、労務管理を具体的にイメージするにはぴったりの参考書だと思います。

お値段が2000円以上するのでお財布と相談なのですが、筆者はこの本に選択式労一で助けられました。

福利厚生費の実務的な問題が出題された際に、この本のおかげで2点ゲットできました。

実際のところ実務経験がないと、給与計算などの感覚はつかみにくいのは確かです。

そういう意味で、労務管理を具体的にイメージできる本は役に立つと思っています。

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まずは行動に移そう

いろいろ悩んでいても物事はスタートしません。

この記事をここまで読んでいただいたということは、一歩を踏み出そうと気持ちが高まっているはずです。

その勢いで、まず行動に移してみましょう。

  • 2020年度試験の資料を請求してみる(社会保険労務士試験オフィシャルサイトに詳細があります。基本は返信用封筒に切手を貼って送付するだけです)
  • 基本書を手に取ってみる(書店でもネットでも)
  • 各種予備校のサイトをチェックしてみる

なんでもかまいません。

資格試験は、自分から動いた人ほど合格に近づいていくのです。

 

さいごに

今回は「事前知識0、実務経験0スタートの人が独学で社労士試験に合格できるのか?」というテーマでお話してきました。

答えはイエスです。

筆者の失敗体験もふまえて、できるだけ短期間に合格できるようにお話したつもりです。

資格試験に独学で挑戦するというのは、時間とお金をいかに効率的に使って合格に辿り着けるかを競う知的なゲームだと思っています。

時間とお金を有効に使って、独学で合格をつかみとってください!

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

あわせて読んでいただきたい記事

現役社会保険労務士が受験用基本書を買う理由

前後の記事

前の記事:これでわかる! 休業手当が月給の6割にならない謎を解く

後の記事:給料から天引きされる社会保険料・天引きされない社会保険料
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これでわかる! 休業手当が月給の6割にならない謎を解く

休業手当が思っていたより少なくなる仕組みを社会保険労務士が解説

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のための休業によって、会社から休業手当をもらうことになる人もいらっしゃることと思います。

昨今の報道のおかげで、労働基準法26条によって、「使用者の責めに帰すべき事由」で休業した場合には、労働者に休業手当として「平均賃金の6割以上」を支払わなければならないということが、今までになく周知されてきているように感じています。

しかし、実際に休業手当を受け取ってみると、思っていた金額よりもずいぶん少なくておどろいたというケースを聞くことがあります。

どうしてそのようなことが起こるのか、社会保険労務士である筆者が具体例をあげて解説していこうと思います。
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法定の休業手当は「月給の6割以上」にはならない

今回は月給制の場合の休業手当の計算をしていきます。

仮にAさんが2020年4月全日を休業したとします。

Aさんの給与などの設定としては、

  • 月給:20万円(毎月末日〆)
  • 休日:土日祝祭日
  • 3ヶ月間(1~3月)の賃金総額:60万円
  • 3ヶ月間の歴日数(1~3月):91日
  • 休業手当の率:60%

ということにしましょう。

Aさんの給料は月給20万円なのですから、休業手当はその6割の12万円になるのかなって思ってる人はいませんか?

むしろふつうはそう思いますよね。

新聞やニュースなんかでは「6割以上」って言っているのですから。

でも、必ずしもそうはならないのです。

これからその仕組みを説明していきます。

 

1ヶ月分の休業手当の計算

Aさんの4月分の休業手当を計算してみましょう。

労働基準法26条によれば、休業手当は「平均賃金の6割以上」とされています。

法律上は「月給の6割以上」とか「給料の6割以上」などと定められているわけではありませんので、ここは要注意です。

そして、休業手当の計算の基礎となる「平均賃金」とは、事由の発生した日以前の3ヶ月間の賃金の総額をその期間の総日数(=暦日数)で割った金額をいいます。

 

とすると、Aさんの平均賃金は、

60万円÷91日=6593円40銭(端数処理済)

となります。

Aさんの休業手当は、この平均賃金に60%をかけて計算していくことになります。

 

そうすると、Aさんの4月分の休業手当は、平均賃金の30日分の60%ということで、

6593円40銭×30日×60%=11万8681円(端数処理済)

になるのでしょうか。

まあこれなら、月給20万円の6割である12万円には少し足りないけど、誤差の範囲内かなって思えます。

しかし、違います。

まだまだ安くなっていきます。

 

実際には、Aさんの4月分の休業手当は、

6593円40銭×21日×60%=8万3077円(端数処理済)

となります。

 

「え、こんなに少ないの!?」とおどろく人もいるかもしれません。

月給の20万円からしたら実に41%程度の金額にしかならないのですから。

しかも、ここから各種社会保険料などが控除されるのです。

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どうしてそのようなことになるのでしょうか。

その理由は、休業手当は休日には支払う必要がないからです。

2020年4月は、日曜日4日、土曜日4日、祝日1日ですので、Aさんの休日は9日あります。

ですので、休日9日分を暦日30日から引いた21日(所定労働日数)がAさんの4月の休業手当を支払うべき日数となります。

その結果、月給からしたら6割どころか4割程度にしかならないということになるのです。

このように、休業手当を「月給の6割」とイメージしていたら、休業手当が思いのほか少なくなるという結果が生じうるので、注意が必要です。

 

さいごに

休業手当をもらうことは社会人経験の中でもそう頻繁にあることではありません。

今回の新型コロナウイルス感染症の件で初めて経験するという人もいることでしょう。

漠然と「休業手当は月給の6割」というように考えていると、実際の金額におどろいてしまうこともありえます。

法律上の休業手当は休日にはもらえないという点を知識としてしっかり理解していただければと思います。

もちろん、労働者に有利になるように、就業規則などでこれを上回る休業手当を支払うことを定めても問題はありません(むしろ経営者さんにはそのように対応していただいきたいところです)。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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未納保険料を後から払えば障害年金はもらえるの?【年金の常識14】

国民年金未納保険料と障害年金保険料納付要件の関係を社会保険労務士が解説

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士である筆者が受けた相談や質問から、「いまさら聞けない 年金の常識」として、意外と間違えやすい年金の仕組みを回答していきます。

第14回目の質問は、障害年金を受給するためには、いつまでにどのくらいの保険料を納めていないといけないのかという問題です。

国民年金の第1号被保険者(自営業者やフリーランスなどの人)が国民年金保険料を納めるのは法律上の義務ですが、免除や猶予の手続きをとらずに、保険料を納めないままになっている人がいるのも現実です。

そういった保険料が(一部)未納になっている人が、病気やケガが原因で何らかの障害が残ったときに、障害年金を請求する段階になって、あわてて保険料を納めようとするケースがあります。

未納保険料を納めること自体は義務の履行として当然のことではありますが、はたして、未納保険料を納めれば障害年金はもらえるようになるのでしょうか。

今回は、そのようなお話です。

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質問「今は元気なので、国民年金(1号被保険者)の保険料を納めていません。病気がみつかった後に未納保険料を納めれば、障害基礎年金をもらうのに問題はないですか?」

回答:初診日以後に納められた未納保険料は、障害(基礎)年金がもらえるかどうか(保険料納付要件)の判定にあたっては、「未納」扱いになります

したがって、この場合には、未納期間があることを前提にして、障害(基礎)年金がもらえるかどうかを判定することになります。
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【解説】

障害年金をもらうためには、本日(2020年4月2日)現在、次の2つの「保険料納付要件」のうち、どちらか1つをクリアしなければなりません(1991年5月1日以後に初診日がある場合)。

  • 初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の2/3以上の期間について、保険料が納付または免除されていること(これを「2/3要件」といいます)
  • 初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと(これを「直近1年要件」といいます)

この2つの保険料納付要件は、「2/3要件」が原則で、「直近1年要件」が特例という関係なのですが、実務上は、まず「直近1年要件」を検討して、それがダメな場合に「2/3要件」を検討するという順番で行っています。

そこで問題となるのは、いつの時点で「2/3要件」や「直近1年要件」をクリアしていないといけないのかという点です。

それは、

初診日の前日

です。

 

たとえば、2017年1月に20歳となり国民年金の被保険者(1号)になった人の初診日が2020年2月10日だったとしましょう。

その場合、初診日の前日である2020年2月9日の時点で、「2/3要件」や「直近1年要件」をクリアしているかどうかを判定することになります。

(図1)をご覧ください。

一度も保険料を払ったことがないケースです。

この場合、初診日の前日(2020年2月9日)において、その前々月2019年12月以前1年間(2019年1月~12月)の期間に未納があり(全部未納ですね)、「直近1年要件」(青の矢印部分)をクリアできません。

また、20歳になった月(2017年1月)以降2019年12月までの期間に2/3以上の納付済や免除の期間がないことも明白ですので、「2/3要件」(オレンジの矢印の部分)もクリアできません。

したがって、2020年2月10日を初診日とする障害年金の請求はできないことになります(保険料を納めていないので、当然といえば当然ですが)。

そしてこの結論は、あわてて2月10日以後に2019年12月以前1年間(2019年1月~12月)の保険料を納めた場合でも、変わりません(図2)。

一見すると、「直近1年要件」(青の矢印部分)をクリアできているようにみえますが、これはあくまでも、2020年2月10日以後の納付状況であり、納付要件の判定基準日である2月9日現在の納付状況(図1)を変えることはできないのです。

これは、2020年2月10日以後に申請免除や猶予の制度を使っても同じことです(法定免除の場合には初診日以後の手続きでも認められます)。

「後出しジャンケン」は認められないのです。

なお、後で納めた2019年12月以前1年間(2019年1月~12月)の保険料は、将来の老齢基礎年金の受給額には反映されますので、その意味では無駄にはなりません。
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ところで、もしも保険料の納付状況を確認したところ、2020年2月9日現在で(図3)のような状況だった場合はどうでしょうか。

たとえば、自分の知らないところで、親が払ってくれていたようなケースです。

この場合であれば、2017年1月から2019年12月の36月のうち、24月が納付済となっていますので、ちょうど全体の2/3の期間の保険料を納めていることになります。

そうすると、「直近1年要件」(青の矢印部分)はクリアできませんが、「2/3要件」(オレンジの矢印の部分)はクリアできているので、「保険料納付要件」を充たすことができます。

 

なお、今回問題とした「保険料納付要件」は、初診日が20歳前(厚生年金の被保険者ではない期間)にある傷病については、問題とされません(=保険料を納めていなくても、障害基礎年金がもらえます)。

 

以上のように、保険料を「後で納めればいいや」といった気持ちで後回しにしていると、もらえるはずの障害年金がもらえなくなるといった、とてももったいないことになりかねません。

保険料が払えないときには、免除や猶予の制度をうまく利用して、もしものときに損をしないようにリスクマネジメントを行っていただきたいと思います。

障害年金の場合には、「保険料納付要件」の期間に免除などの期間があっても、障害年金の受給額が減額されることもありません(=満額もらえます)。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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前の記事:傷病手当金【健康保険】 意外とよくある勘違い5選

後の記事:これでわかる! 休業手当が月給の6割にならない謎を解く

傷病手当金【健康保険】 意外とよくある勘違い5選

健康保険の傷病手当金で勘違いしやすいポイントを社会保険労務士が解説

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回は、傷病手当金のお話です。

ここでの傷病手当金は、全国健康保険協会(協会けんぽ)の健康保険のものを取り上げています(健康保険組合(組合健保)などの被保険者の場合にはご加入の保険者のホームページなどをご参照ください)。

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傷病手当金とは、健康保険の被保険者が、①業務外の病気やケガの療養のために、②労務に服することができない場合、③その労務に服することができなくなった日から継続した3日が経過した日(4日目)から、④給与の支払いがない(傷病手当金より少ない場合も含む)ときに、支給されるものです。

傷病手当金の支給額は、1日につき、支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額÷30×2/3 に相当する額です。

給与の全額というわけにはいきませんが、傷病手当金は非課税所得ですし、傷病手当金をもらったからといって翌年の健康保険料が上がるわけでもありませんので、病気やケガで仕事ができないときにはありがたい制度です。

ただ、こういうありがたい制度なのですが、そうそう頻繁に支給を受けるものでもないので、社会人歴が長い人でも意外と勘違いしているところもあるように思います。

仕事に関係のない病気やケガの場合に傷病手当金はもらえます

労災保険との混同だと思われるのですが、傷病手当金は仕事に関係する病気やケガでなければもらえないと勘違いしている人がいます。

前述のように、傷病手当金は、「①業務外の病気やケガの療養のために」仕事を休んだときにもらえるものですので、むしろ業務上の病気やケガ(労災保険の業務災害や通勤災害)の場合には、傷病手当金はもらえません。

これを私傷病といったりもしますが、レジャーで出かけた旅先で事故にあってケガをしたとか、最近では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にかかって仕事に出られないような場合(業務外の感染の場合)などがこれに該当します。

労災でなければ、傷病手当金の対象になるとお考えください。

 

持病でも傷病手当金はもらえます

傷病手当金は、会社に入って健康保険に加入した後に発生した病気やケガでなければもらえないと勘違いしている人がいます。

公的な医療保険である健康保険には加入時の告知義務もありませんし、加入前からの病気やケガであっても療養の給付(病院で3割負担で治療を受けられること)の対象になることは、比較的知られていると思います。

これと同様に、健康保険に加入前の病気やケガであっても、傷病手当金の対象になりえます。

つまり、持病があっても健康保険に加入はできますし、その持病の療養のために休んだ場合には傷病手当金の対象になるということです。

 

入院していなくても傷病手当金はもらえます

民間の医療保険(入院保険)との混同だと思われるのですが、傷病手当金は入院していないともらえないと勘違いしている人がいます。

たしかに、傷病手当金は、「②労務に服することができない場合」にもらえるものですので、入院の場合にはこの要件を充たすのが原則です。

しかし、通院しながらの自宅療養の場合であっても、労務に服することができないと認められれば、傷病手当金の対象になります。

なお、その判断のために、「傷病手当金支給申請書」には「療養担当者記入用」ページの「療養担当者の意見書」とよばれる欄があって、担当医師等がその欄を作成することになっています。

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継続3日間の待期中に有給休暇を取得しても、待期期間は成立します

傷病手当金をもらうためには、「④給与の支払いがない」ことが必要ですが、「③継続した3日が経過した日」(待期3日間)の成立を判断するときには、給与の有無は関係ありません。

ここを混同して、待期3日間にも「給与の支払いがない」ことが必要だと勘違いしている人がいます。

療養のために労務に服することができずに休んでいるのであれば、給与をもらっていたとしても、待期3日間は成立します。

休んでいても給与がもらえる場合というのは、たとえば年次有給休暇を取得したような場合が該当します。

つまり、待期3日間に年次有給休暇を取得したとしても、待期期間は成立するということです。

なお、待期3日間の後の4日目以降に年次有給休暇を取得した場合、その日は「④給与の支払いがない」とはいえないため、傷病手当金はもらえないのが原則です(ただし、ごくまれに年次有給休暇の1日分の賃金が、傷病手当金よりも少ないことがあります。その場合には差額が傷病手当金として支給されます)。

 

休日であっても傷病手当金はもらえます

傷病手当金は、所定労働日に休んだ場合でなければもらえないと勘違いしている人がいます。

たしかに、傷病手当金では「④給与の支払いがない」ことが必要なので、所定労働日に休んだ場合が前提になっているように思ってしまうのもわからなくはありません。

しかし、実は①~③を充たせば、傷病手当金は発生しうるのあって(健康保険法99条1項)、④の給与との調整は別の規定(健康保険法108条1項)で定められています。

つまり、会社の公休日や日曜、祭日などの休日であっても、療養のために労務不能であれば、傷病手当金は発生するということです。

なお、「傷病手当金支給申請書」には「事業主記入用」ページの「事業主証明」とよばれる欄があって、そこには勤務状況や賃金支払い状況等を記入する欄があります。

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さいごに

今回は、健康保険の傷病手当金について、意外とよくある勘違いを5つピックアップして、ポイントを解説してみました。

病気やケガで仕事を休んで収入が減ってしまうのは、社員にとっては経済的に大きな負担となります。

年次有給休暇もいつまでもつかえるわけではありません。

もちろん、万が一のときに備えて、しっかりと貯蓄をしたり、民間の医療保険を利用するなどのリスクマネジメントをしておく必要はあるでしょう。

しかし、そのような準備が万全でなかったとしても、傷病手当金が支給されればある程度の減収の補填を行うことができます。

また、傷病手当金は、同一の病気やケガに関して、支給を始めた日から「通算して」1年6ヶ月間支給されますし、退職して健康保険の被保険者でなくなっても一定の条件を充たせば退職後も継続して支給されます(2022年1月から支給期間が支給開始日から「通算して」1年6ヶ月間と改正されましたので、その点加筆しました)

このように、傷病手当金はいざというときに頼りになる制度ですので、正しい知識を身につけて、適正に利用していただければと思います。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

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前の記事:いまだから知りたい休業手当と傷病手当金 誰がどんなときにいくらもらえるの?

後の記事:未納保険料を後から払えば障害年金はもらえるの?【年金の常識14】

 

いまだから知りたい休業手当と傷病手当金 誰がどんなときにいくらもらえるの?

休業手当と傷病手当金の違いを社会保険労務士がわかりやすく解説

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回は会社員が会社を休んだときの所得補償のお話です。

最近は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響もあって、にわかに注目が集まっている話題だと思います。

投稿日現在、厚生労働省のホームページにも「新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)令和2年3月11日時点版」が設けられ、「2 労働基準法における休業手当、年次有給休暇」において休業手当や傷病手当金のことにふれられています(くわしくはこちら)。

とくに、問1では新型コロナウィルスに感染して休む場合の質問が設定されていて、そこでは「都道府県知事が行う就業制限により労働者が休業する場合には、一般的には休業手当は支払われないが、要件を充たせば被用者健康保険(健康保険など)の傷病手当金が給付される」との趣旨の回答があります。

そこで今回は、休業時の所得補償について「誰が、どんなときに、いくらもらえるのか」を休業手当と傷病手当金を例に比べてみようと思います。

なお、ここでの傷病手当金は、全国健康保険協会(協会けんぽ)の健康保険のものを取り上げていますので、健康保険組合(組合健保)などの被保険者の場合にはご加入の保険者のホームページなどをご参照ください。
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そもそも休業手当と傷病手当金ってなに?

休業手当と傷病手当金の制度の概要をご紹介しましょう。

  • 休業手当:会社の都合(使用者の責に帰すべき事由)で休業した場合に、会社(使用者)が社員(労働者)に支払う手当(労働基準法26条)
  • 傷病手当金:社員(被保険者)が病気やケガの治療(療養)のために、仕事ができなくなった場合に、保険者から支給される保険給付(健康保険法99条)

ここで注意したいのは、休業手当は会社が社員に直接支払うものですが、傷病手当金は保険者(協会けんぽなど)が被保険者に給付するものですので、お金を払う主体が異なっています。

つまり、休業手当は会社の負担ですが、傷病手当金は健康保険の保険給付として行われる(会社の直接の負担なし)ということです。

 

誰がもらえるの?

どのような人が休業手当や傷病手当金をもらえるのかをみてきましょう。

  • 休業手当:労働者(職業の種類を問わず、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者。労働基準法9条)
  • 傷病手当金:被保険者(健康保険に加入している本人)

休業手当がもらえる労働者は、正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトなども含みます。

これに対して、傷病手当金は健康保険に加入している本人にしか支給されません(パートタイマーやアルバイトは健康保険に加入できないケースが多いので、その場合には対象から外れてしまいます)

 

どんなときにもらえるの?

どのようなときに休業手当や傷病手当金はもらえるのかをみていきましょう。

  • 休業手当:使用者の責に帰すべき事由による休業があったとき(企業の経営者として不可抗力と主張できない一切の場合)
  • 傷病手当金:①業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること、②仕事に就くことができないこと、③連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと、④休業した期間について給与の支払いがないこと、の①~④をすべてみたしたとき

休業手当が発生する「使用者の責に帰すべき事由」は不可抗力でない場合を広く含んでいるので、業績不振による休業の場合だけでなく、親工場の経営難から下請工場が資材や資金を調達できなくなって休業した場合なども広く該当します。

そうだとすると、新型コロナウイルスの感染防止のために、会社が自主的に休業するような場合には、「使用者の責に帰すべき事由」に該当するといって差し支えないでしょう。

しかし、社員が新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由」には該当しないとされています(新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)令和2年3月11日時点版 2問1参照)。

ましてや、微熱などの症状がある社員が、万が一の感染拡大を防止するために自主的に休業するような場合は「使用者の責に帰すべき事由」には該当しません(新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)令和2年3月11日時点版 2問2参照)。

 

これに対して、傷病手当金は、①業務外の事由による病気やケガの療養のための休業の場合に支給されますので、社員が新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により休業する場合も該当すると考えられます(上記①~④の要件をすべて充たす必要があります)。

また、微熱などの症状がある社員が、万が一の感染拡大を防止するために自主的に休業するような場合(かつ結果として感染していなかった場合)については、②仕事に就くことができないことという要件が問題になります。

傷病手当金は自宅療養の場合でももらえますが、これは症状次第というほかありません。

とくに、軽微な症状にすぎない場合(かつ感染していない場合)に、②仕事に就くことができないといえるのかという点は、難しいところもでてくるでしょう(このあたりは保険者に柔軟に対応してほしいところですが)。

 

なお、新型コロナウイルスへの感染が業務災害や通勤災害と認定された場合には、労災保険の休業(補償)給付が支給されるので、健康保険の傷病手当金は支給されません。

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いくらもらえるの?

休業手当や傷病手当金はいくらもらえるのかをみてきましょう。

  • 休業手当:平均賃金の6割以上
  • 傷病手当金(1日):支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額÷30×2/3

休業手当の計算の基礎となる「平均賃金」とは、事由の発生した日以前の3ヶ月間の賃金の総額をその期間の総日数(=暦日数)で割った金額をいいます。

賃金の総額には、時間外・深夜や休日の割増賃金や通勤手当などの各種手当も含まれますが、3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)は含まれません。

 

これに対して、傷病手当金の計算の基礎には「標準報酬月額」を用います。

標準報酬月額とは、被保険者が事業主から受ける毎月の給料などの報酬月額に基づいて、区切りのよい幅で区分したものです(健康保険は第1級の5万8000円から第50級の139万円までの全50等級に区分されています)。

標準報酬月額には、賞与の額は反映されていませんし、いったん決まれば原則1年間は変わらないので、直近の割増賃金なども必ずしも反映されていません。

 

具体的な金額をみてみましょう。

たとえば、継続する12ヶ月間の標準報酬月額の平均が20万円の人が、3ヶ月間(暦日数91日)の賃金の総額が66万円だった場合、

  • 休業手当(1日):66万円÷91日×60%=4352円(端数処理済み)以上
  • 傷病手当金(1日):20万円÷30×2/3=4447円(端数処理済み)

となります。

 

なお、休業手当は、休日(労働契約上の労働義務のない日)には支払われません(休日に休むのは、使用者の責に帰すべき事由ではないからです)が、傷病手当金はいわゆる公休日にも支給されます。

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さいごに

この記事は、2020年3月15日時点の情報に基づいて書かれています。

政府は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために小学校等が臨時休業した場合等に、その小学校等に通う子の保護者である労働者に有給休暇(法定の年次有給休暇を除く)を取得させた企業に対する助成金を新設する旨を公表しています。

また、新型コロナウイルスの影響などで休業して休業手当を払う企業に対して、雇用調整助成金を拡充する政策も打ち出しています。

これらの政策は一定の評価ができるものだと思います。

しかし、今回みてきたように、微熱などの症状がある会社員が、万が一の感染拡大を防止するために自主的に休業するような場合には、休業手当も傷病手当金(症状にもよりますが)も難しいのが現状です。

このような場合には、会社に有給の病気休暇制度があればそれを使い、なければ社員の年次有給休暇を使うかしかありません。

このような場合の所得補償については、今後の政府の新たな対策が待たれるところですので、注視していきたいと思っています。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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給料もらうと障害年金は減らされるの?【年金の常識13】

障害年金と所得制限について社会保険労務士が解説

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士である筆者が受けた相談や質問から、「いまさら聞けない 年金の常識」として、意外と間違えやすい年金の仕組みを回答していきます。

第13回目の質問は、障害年金の受給者が給与所得などの所得がある場合に障害年金の受給額が減額されるのかという問題です。

障害年金に所得制限はあるのでしょうか。

これは何度か聞かれた質問なのですが、いくつかの似たような制度と混同してしまうところですので、一度まとめたおいた方がよいと思って、今回のテーマに選びました。

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質問「障害厚生年金と障害基礎年金の2級の受給者です。就職が決まったのですが、給料をもらい始めると、障害年金の受給額は減らされるのですか?」

回答:障害厚生年金(+障害基礎年金)の受給者の場合、給料などの収入や所得があっても、そのことだけで受給額が減らされることはありません。ただし、障害の原因になった傷病の種類によっては、就労していることで、等級が下がったり支給停止になる可能性はあります。

なお、国民年金の「20歳前傷病による障害基礎年金」の場合には、受給者に一定の所得があると、一部または全部が支給停止となります。

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【解説】

「仕事をしてると年金が減らされる」という話を聞いたことはないでしょうか?

この内容自体も不正確なのですが、この言葉が独り歩きをして、障害年金の場合にも、仕事をして一定の収入や所得があれば、障害年金の受給額が減額されると誤解されている人が意外といらっしゃいます。

結論からいえば、障害厚生年金(+障害基礎年金)の場合にはそのような制度はありません。

では、なぜこのような誤解が生じるのか。

筆者は何人かの人から同じような質問を受けたことがあるのですが、誤解が生じた理由をよくよく聞くと、次の3つの理由があるように思います。

それは、

  • 老齢厚生年金の「在職老齢年金」制度と混同している
  • 国民年金の「20歳前傷病による障害基礎年金」の所得制限と混同している
  • 生活保護の収入認定と混同している

の3つです。

 

まず、老齢厚生年金の「在職老齢年金」の制度ですが、受給している老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額が一定の金額を超えた場合に、その金額に応じて年金額が支給停止となる制度です。

在職老齢年金は、60歳台前半と65歳以後で計算方法が異なりますが、ここでは詳しくはふれないでおきます。

この在職老齢年金の制度こそが、「仕事をしてると年金が減らされる」という話の元ネタだと思われます。

いずれにしてもこれは、「老齢」厚生年金の制度であって、「障害」厚生年金の制度ではありません。

なお、国民年金の「老齢」基礎年金にも在職老齢年金の制度はありません。

 

次に、国民年金の「20歳前傷病による障害基礎年金」の所得制限ですが、これは、20歳前に初診日のある傷病が原因で障害を負って、障害基礎年金を受給している人に対するものです。

「20歳前傷病による障害基礎年金」の所得制限は、扶養親族の数にもよりますが、たとえば1人世帯(扶養親族なし)の場合、所得額が360万4000円を超えると年金額の2分の1が支給停止となり、462万1000円を超えると全額支給停止となります。

20歳前に初診日のある傷病では国民年金保険料を支払っていないので、このような所得制限が設けられているのです。

これに対して、20歳以後に初診日がある傷病の場合には、保険料を支払っていますので、所得制限はありません。

また、20歳前に初診日のある傷病であっても、保険料を支払っているのであれば、この所得制限は受けません。

20歳前に保険料を支払う場合というのは、20歳前に厚生年金の被保険者である場合です。

高校卒業後すぐに就職した場合のように、20歳前に厚生年金の被保険者になっていれば、20歳前の厚生年金の被保険者期間に初診日があっても、所得制限は受けません(=給料をもらっても障害年金は減らされません)。

 

最後は、生活保護の場合です。

生活保護の場合、給料のような収入は申告する必要があって、収入認定に応じて生活保護費が減額されることがあります。

生活保護は、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することが前提となっていますので、給料が収入として認定されて、その分が減額されるのも納得できるところです。

しかし、障害年金は社会「保険」の給付です(保険料を払っていない「20歳前傷病の障害基礎年金」を除きます)。

障害年金はあくまでもご自身が納めた保険料が前提ですので(そのために「保険料納付要件」というものがあり、保険料を納めていない人は障害年金をもらえない場合があります)、その点において生活保護の制度とは異なっています。

なお、障害年金がもらえることで、生活保護費が減らされることはありますので、その点も混同しないようにしてください。
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筆者の経験上、これら3つの制度と混同して、「仕事をしてると障害年金が減らされる」と誤解している人がいらっしゃいました。

20歳前傷病による障害基礎年金の場合を除いて、障害厚生年金にも障害基礎年金にも所得制限はありませんので、誤解のないようにしたいところです。

 

なお、障害の種類によっては、給料の所得や収入額というよりも、「就労をしている」という事実が原因で、障害年金の受給額が減らされる(またはもらえなくなる)場合もありえます。

「就労をしている=障害の程度が軽くなった」と認定されてしまい、等級が下がったり、支給停止になる可能性があるのです。

この話題は所得制限の話から逸れますので、ここでは深くはふれませんが、精神障害などの更新の際には気をつけたいところではあります。

 

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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会社都合の自宅待機で給料6割? なんでそうなるの??

労働契約の債権者主義と休業手当の関係を社会保険労務士が解説

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経営不振のための休業といった、会社側の都合で自宅待機命令が出た場合、休業手当(労働基準法26条)が出ることは比較的知られています。

なお、新しく採用された人をある期間就労させないことを「自宅待機」、既に雇用されている人を一時的に休業させる場合を「一時帰休」と使い分けたりしますが、ここでは広い意味で「自宅待機」としておきます。

最近では、新型コロナウィルス(COVID-19)による感染症の予防的な休業なども話題になっています(社員本人が感染したわけではなく、会社が自主的に休業するような場合です)。

しかし、休業手当は平均賃金の6割以上と決められていますが、これを逆にいえば、4割までカットされるということです。

働いている社員側からしたら、いくら自宅待機で家にいるとはいえ、賃金の4割カットは経済的に正直しんどいところです(実は4割カットではすまないかもしれないという記事も書いています。興味のある人は「これでわかる! 休業手当が月給の6割にならない謎を解く」をお読みください)。

そこで、会社都合の休業で自宅待機を命じられた場合に、休業手当さえ払えば本当にそれでいいのかについて、社会保険労務士である筆者が解説していきたいと思います。

どうしてこんなことになっているのか、その仕組みをみてきましょう。

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ノーワークノーペイと債権者主義

社員に働く意思も能力もあるのに、会社の一方的な都合で休業となり、自宅待機を命じられた場合、賃金はどうなるのでしょうか。

この点、欠勤の場合にも全額賃金を払う完全月給制のような場合であれば問題は少ないのですが、通常は「欠勤控除」という制度があって、働いていない期間はその分の賃金は払いませんというルールを定めている会社が多いのが現状です。

これを、ノーワークノーペイの原則と言ったりします。

働いていないのだから、賃金がもらえないのは当然のような気がします。

とくに、天災などのどうしようもない事情がある場合や、まして社員側の都合で休んだような場合ならノーワークノーペイも納得ができるでしょう。

 

しかし、社員は働きたいのに会社の一方的な都合で休まされた場合にはどうでしょうか。

そのような場合にまでノーワークノーペイなのでしょうか。

このようなケースを、労働契約における「危険負担」の問題といいます。

会社の都合で社員が働くことを会社が拒絶した場合に、賃金の支払も同時に拒絶できるのかという問題のことです

このような危険負担について、民法は536条で定めています。

民法536条の危険負担の規定は少し表現がわかりにくいので、かなりざっくりいうと、休業が会社と社員のどちらの都合でもない場合には賃金は払わなくてもいいけれど(同条1項)、会社の都合で休業した場合には賃金の支払いは拒絶できない=全額払いなさい、と定めています(同条2項)。

この民法536条2項のことを、危険負担の債権者主義といいます。

つまり、民法では休業の理由によって、

  • 社員の都合や、会社と社員のどちらの都合でもない場合:ノーワークノーペイ(賃金なし)
  • 会社の都合の場合:賃金全額支払い

と定めているということです。

 

民法の債権者主義は就業規則に負ける?

このように、会社都合の休業でも賃金が全額支払われるのだとしたら、どうして休業手当で4割カットの話がでてくるのでしょうか。

それは、民法の債権者主義を定める規定が、「任意規定」とされているからです。

任意規定とは、契約当事者が民法とは別の定めをした場合には、その当事者間の定めの方が優先される規定のことです。

つまり、労働契約や就業規則(賃金規定)などにおいて、民法の債権者主義を排除する特約がある場合には、会社都合の休業の場合でも、賃金の全額払いをしなくてもよいということなのです。

就業規則をよく読んでみてください。

会社都合の休業の場合の規定があって、そこには休業手当として平均賃金の6割(以上)を支払い、民法536条2項の規定は適用しないというような内容が書いてないでしょうか。

その規定が特約となります。

民法の債権者主義の規定は、就業規則に負けてしまうのが原則なのです(なお、どのような場合でも休業手当さえ払えば、いつまでも一方的に社員を休業させられるわけではありません。この点は裁判例もありますが、この記事では本旨から逸れますので、詳しくは触れないでおきます)。

ただ、ここで注意が必要なのは、

  • 労働契約や就業規則などに規定(特約)がない場合には、民法の債権者主義が適用される(=賃金は全額払いとなる)

ということです。

ですので、有効な就業規則がないような会社であれば、会社の都合の休業の場合には民法の債権者主義によって、賃金が全額もらえる可能性が高くなります(民法の債権者主義が適用される場合かどうかは最終的には裁判所の判断になりますが)。

そのような会社で、「休業手当を6割払えばいいって、法律(労働基準法)で決まってるんだよ」なんていう使用者がいたとすれば、「ちょっと待った」をかけた方がいいでしょう。

ちゃんと根拠を確認したうえで、よく話し合ってください。

 

労働基準法の休業手当の規定はなんであるの?

ここまでの話をまとめると、「会社都合の休業は、民法では債権者主義で賃金全額払いになる可能性が高いけど、就業規則などの特約でこれを排除することができる」ということでした。

では、特約で債権者主義の規定が排除された場合には、ノーワークノーペイの原則によって、賃金は0円になるのでしょうか。

賃金というのは社員の生活を経済的に支えるとても重要なものです。

会社の一方的な都合で賃金を0円にされては、社員の生活はとたんに困窮してしまいます。

そこで登場するのが、労働基準法26条の休業手当です。

労働基準法26条は、会社都合の休業の場合には平均賃金の6割以上を休業手当として払うように定めています。

そして、この労働基準法26条の規定は、民法の債権者主義の規定と異なり、「強行規定」といわれています(労働基準法26条は、違反すると罰則もあります)。

強行規定は、当事者間の定めよりも優先されます(労働基準法の場合には、それを下回る規定は無効となり、労働基準法の規定が適用されます)。

なので、仮に労働契約や就業規則で「会社都合の休業の場合には休業手当を払わない」とか「休業手当は平均賃金の3割にする」というような定めをしたとしても、それらは無効となって、会社は社員に労働基準法にしたがって休業手当を支払わないといけないのです。

つまり、当事者間の特約で民法の債権者主義を排除するとしても、労働基準法26条が最低限度の基準を定めて、労働者を守ってくれているということです(そのおかげで、ノーワークノーペイにはできません)。

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会社の都合=使用者(債権者)の責に帰すべき事由とは?

ところで、今まで「会社の都合」という日常的な言葉を使って説明してきましたが、これを正確にいうと、「使用者(債権者)の責に帰すべき事由」といいます。

民法536条2項では「債権者」、労働基準法26条では「使用者」という表現の違いはありますが、いずれも「責に帰すべき事由」という表現を使っています。

先ほどみてきたように、労働基準法26条は、強行規定として最低限度の基準を定めて労働者を守ってくれているのですが、もう一つ、民法536条2項にくらべて、労働者を守ってくれている点があります。

それは、どのような事由が「使用者の責に帰すべき事由」にあたるのか(どのような場合に休業手当が必要なのか)という問題です。

この点については、判例(最判S62.7.17)によって、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」は、民法536条2項の「債権者の責に帰すべき事由」よりも広い範囲をカバーしているとされています。

一般的に民法536条2項の「債権者の責に帰すべき事由」は、故意・過失または信義則上これと同視しうべき事由と限定的に解されていますが、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」は使用者側に起因する経営、管理上の障害までも含むとされているのです。

つまり、民法ではカバーしきれない部分(民法では賃金0円になってしまう部分)まで、労働基準法でカバーしてくれているということです。

たとえば、親会社の経営難によって下請け工場が資材や資金難になって休業したような場合には、会社(下請け工場)に故意や過失があるとまではいえない場合が多いでしょうから、民法536条2項の「債権者の責に帰すべき事由」とまではいえない場合が多くなります。

しかし、使用者側に起因する経営、管理上の障害とはいえるので、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」には該当するといわれています。

このように、労働基準法26条の休業手当は、民法536条2項の「債権者の責に帰すべき事由」よりも広い範囲をカバーすることで、労働者を守ってくれているのです。

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さいごに

これまでみてきたことをまとめると、次の図のようになります。

会社の都合による休業で賃金が4割カットになるというのは、経済的に大変なことだと思います。

しかし、労働基準法が、平均賃金の6割以上の休業手当を最低限度の保障として規定してくれているおかげで、0円にまで減らされることはないと考えることもできるのです。

それに、繰り返しになりますが、会社の一方的な都合での休業の場合、そもそも就業規則等に特約がないのであれば休業手当だけを払えばよいというわけではありませんし、就業規則等に定めていたとしても休業手当さえ払えばいつまでも休業できるというわけでもありません。

そういう意味では、本当に休業手当だけでいいのかを疑うことも大切だと思っています。

少なくとも、労働基準法で定められているから休業手当を6割払えば自由に休業してよいという考え方は、労働基準法の趣旨に反しています。

本来は、会社と社員とでしっかりと話し合いを行って、双方に納得のできる解決を探るべきところですが、どうしても納得ができない場合には弁護士などの専門家にご相談されることをお勧めします。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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厚生年金に入っていれば障害厚生年金はもらえますか?【年金の常識12】

障害厚生年金の受給について社会保険労務士が解説

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社会保険労務士である筆者が受けた相談や質問から、「いまさら聞けない 年金の常識」として、意外と間違えやすい年金の仕組みを回答していきます。

第12回目の質問は、どのような場合に障害厚生年金がもらえるのかについてのものです。

障害厚生年金には障害基礎年金にはない3級があったり、最低保障額制度があったりと働く人たちにとってありがたい制度が満載されています(障害厚生年金の特徴については、こちらの記事をご参照ください)。

どのような場合に、障害厚生年金がもらえるのかは気になるところではないでしょうか?
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質問「会社員として厚生年金に入っています。先日、人工関節置換術を受けたのですが、障害厚生年金(3級)はもらえますか?」

回答:手術日に厚生年金に加入していても、必ずしも障害厚生年金の対象になるとは限りません。初診日が厚生年金の被保険者である期間(加入してる期間)であれば、障害厚生年金の対象になりえます。

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障害厚生年金がもらえるかどうかは初診日次第です。

初診日とは、障害の原因となった病気やケガについて初めて医師または歯科医師の診療を受けた日をいいます。

障害厚生年金をもらうためには、少なくとも、厚生年金に加入している間に初診日がなければならないのです(他にも、障害の程度の要件や保険料納付要件などがあります)。

一般的にいうと、病気やケガは、①発症・受傷→②医師の診療→③治療(手術など)といった流れになると思います。

これらの流れのうち、障害年金で大切なのは、②医師の診療を初めて受けた日である初診日なのです。

この初診日を基準に色々なことが決まっていきます(保険料納付要件や障害認定日などが初診日を基準に決まります)。

次の(図1)をごらんください。

このケースでは、最初は学生で国民年金(第1号)に加入し、その後就職して厚生年金に加入、そして結婚後被扶養配偶者として国民年金(第3号)となり、再就職して厚生年金に加入したという年金の加入歴です(未納期間はありません)。

図1にはありませんが、手術は④から▲請求までの間に行われたとお考えください。

そして、現在は▲請求のところというイメージです。

そうすると、手術も障害年金の裁定請求も厚生年金の加入期間中に行われているので、障害厚生年金がもらえそうに思えます。

しかし、前述のように、障害厚生年金がもらえるかどうかは初診日で判断します。

だとすると、この人の初診日が②や④にあればいいのですが、仮に①や③にあった場合には、厚生年金加入期間に初診日がないため、障害厚生年金の対象外になってしまうのが原則です。

そして、人工関節置換術については、障害の程度は3級とされることが多いので(2級以上もありえなくはないのですが・・・)、初診日が②や④にあれば障害厚生年金3級が望めますが、①や③では無年金になる可能性が高いのです(国民年金の障害基礎年金には1級と2級しかないので、3級では何ももらえないのです)。

もっとも、①や③を初診日とした場合、手術までにかなりの時間を要しているので、その場合には、①や③を初診日として本当にいいのかを争ってもよいかもしれません(個別具体的な事情によりますので、一概にはいえませんが)。

 

この「初診日を基準とする」という考え方は客観的なのですが、ときに一般の人の常識的な感覚とずれてしまうこともありえます。

たとえば、会社勤めの間に心身に不調を感じていたものの、忙しくて病院に行けなかった人が、会社を辞めて初めて病院に行って病気が見つかったようなケースでは、障害厚生年金がもらえない可能性が高いのです。

心身の不調を感じている人が会社をお辞めになろうと考えている場合には、厚生年金に加入している間に病院に行っておかれることをおすすめいたします。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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厚生年金の被扶養配偶者の年金関係について社会保険労務士が解説

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社会保険労務士である筆者が受けた相談や質問から、「いまさら聞けない 年金の常識」として、意外と間違えやすい年金の仕組みを回答していきます。

第11回目の質問は、厚生年金の被扶養配偶者の年金関係についてのものです。

夫の厚生年金の被扶養配偶者となっている妻(その逆に妻の厚生年金の被扶養配偶者となっている夫の場合もあります)のなかには、自分自身の年金関係がよくわからないという人がいらっしゃいます。

基本的なことですが、まさに「いまさら聞けない」質問かもしれません。
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質問「夫の厚生年金の扶養に入っていれば、将来、妻も厚生年金をもらえるようになるのですか?」

回答:厚生年金の被保険者である夫に扶養されている妻は、「国民年金」の第3号被保険者ですが、「厚生年金」の被保険者ではないので、その期間については厚生年金(老齢厚生年金など)はもらえません。

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「厚生年金の被保険者に扶養される配偶者(被扶養配偶者)は、国民年金の第3号被保険者となります。」

このような話を聞かれたことはないでしょうか。

これは、「国民年金の第3号被保険者であれば、国民年金の保険料を払う必要がない」というような話の際に出てくるものです。

ただ、この内容をよく読むと、前半(「厚生年金の被保険者に扶養される配偶者(被扶養配偶者)は、」の部分)は厚生年金の話で、後半(「国民年金の第3号被保険者となります。」の部分)は国民年金の話をしています。

これでは、厚生年金の話なのか国民年金の話なのかよくわからないままになってしまう可能性があります。

そのため、結局どっちの年金がもらえるのかわからなくなる人がいてもおかしくはありません。

結論をいえば、この話は「国民年金」の話をしています。

この話は、「被扶養配偶者(主婦の人など)は、国民年金の保険料を払わなくても、国民年金(老齢基礎年金など)はもらえます」と言っているのであり、「厚生年金(老齢厚生年金など)がもらえます」とは言っていないのです。

もちろん、ご自身で働いて厚生年金の被保険者であった期間がある人は、その期間については厚生年金の対象になりますが、被扶養配偶者である期間については国民年金だけということです。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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はじめての障害年金の前にあるふたつの65歳の壁

障害年金の新規請求の前にある65歳の壁の正体を社会保険労務士が解説

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険手続を中心に弁護士業務や成年後見業務をサポートしている社会保険労務士の徳本博方です。

今回は「はじめての障害年金の前にあるふたつの65歳の壁」をテーマにして、障害年金の65歳の壁の正体をご説明できればと思います。

「障害年金は65歳を過ぎると請求できなくなる」といった話を聞かれたことはないでしょうか?

筆者も年金相談の際に65歳以上の高齢の人やそのご家族から「老齢年金が少ないので、今からでも障害年金をもらいたいが、65歳を過ぎてるので無理なんでしょうね・・・」という趣旨の相談を受けることがあります。

結論からいえば、障害年金は65歳を過ぎると請求できなくなるケースが多いのはたしかです(これをここでは「65歳の壁」ということにしましょう)。

しかし、実は「65歳の壁」は2つあるのです。

そして、そのうちの1つの壁は鉄壁なのですが、もう1つの壁は65歳を過ぎても請求ができる場合がある壁なのです(これを勘違いするともったいないことになります)。

それでは、順を追って説明していきましょう。
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2つの「65歳の壁」とは?

単独の障害について、新規に障害年金を請求する際には、大きく2つの方法があります。

それは、

  • 認定日請求
  • 事後重症請求

です(なお、「はじめて2級」といわれる基準障害による請求もありますが、これは既存の(軽い)障害がある場合の請求方法なので、ここでは省略し、あとで少し触れます)。

そして、これらの2つの請求方法にそれぞれ「65歳の壁」が存在しています。

いうなれば、

  • 認定日請求の「65歳の壁」
  • 事後重症請求の「65歳の壁」

といったところでしょうか。

今回は、この2つの「65歳の壁」の正体を探っていきたいのですが、その前に、まずは認定日請求と事後重症請求の違いについて確認しておきましょう。

 

障害年金の2つの請求方法の違いは?

認定日請求と事後重症請求は、いつの時点で法令の定める障害の程度に達した状態にある(ことを証明できる)のかの違いです。

すなわち、障害年金をもらうには、その障害の状態が障害等級に該当する「障害の程度」に達していることが必要です(それに応じて等級が決まります。ですので、そもそも「障害の程度」に達していない状態の障害は障害年金の対象にはなりません)。

次の時系列をみてください。

これらの時系列上の点を説明すると、

  • 発症:障害の原因となった傷病の症状があらわれたとき
  • 初診日:障害の原因となった傷病について、初めて医師等の診断を受けた日
  • 障害認定日:初診日から起算して1年6ケ月経過した日、又はその日までにその傷病が治癒した場合においては、その治った日(症状が固定し、治療の効果が期待できない状態に至った日を含む)
  • 請求日:障害年金を請求する日

です(場合によっては、発症と初診日は同日のこともあるでしょうし、障害によっては初診日と障害認定日が同日になることもありますが、ここでは流れをイメージしやすいように、それぞれを時系列上に並べてあります)。

 

この時系列をもとに認定日請求のイメージを表すと、

のようになります(障害の程度に達した状態であることを、障害認定日において証明しなければなりません)。

 

これに対して事後重症請求のイメージを時系列で表すと

このようになります(障害の程度に達した状態であることを、請求日において証明すれば足ります)。

 

なお、それぞれの図で、青の矢印で示されているのは、障害年金の支給(開始)期間です。

認定日請求では、障害認定日(の翌月)にさかのぼって支給が始まっている(実際には時効によって5年間という制限がありますが)のに対して、事後重症請求では請求日(の翌月)からしか支給されません。

 

もっとも、認定日請求と事後重症請求は、一方ができるなら他方ができないというような二律背反の関係ではありません。

たとえば、障害認定日時点で障害の程度に達した状態であることを証明できない場合(障害認定日時点での診断書を準備できないような場合)には、認定日請求をあきらめて、最初から事後重症請求だけを行うこともできます(このように選択的に請求することもありますが、実務上は予備的に事後重症請求をすることが多いように思います)。

実務上、事後重症請求は認定日請求を補完する役割もあるのです。

いずれにしても、障害年金には、認定日請求と事後重症請求の2つの請求方法があるということはおわかりいただけたと思います。

そして、認定日請求と事後重症請求には、それぞれに別の「65歳の壁」があるのです。

それでは、それらの2つの「65歳の壁」の正体について、みていきましょう。

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認定日請求の「65歳の壁」の正体

認定日請求の「65歳の壁」の正体は、初診日についての65歳の壁です。

「初診日要件」ともいいます。

障害基礎年金にも障害厚生年金にも「初診日要件」があります。

障害基礎年金(国民年金)は初診日が次のいずれかの期間にないともらえません。

  • 国民年金の被保険者期間
  • 20歳前または、60歳以上65歳未満(年金制度に加入していない期間)で、日本国内に住んでいる間

国民年金の被保険者期間は1号~3号でルールが異なりますが、いずれにしても、この初診日要件から「65歳の壁」が導かれます。

これに対して、障害厚生年金は、厚生年金の被保険者期間に初診日がなければもらえません。

厚生年金は原則70歳まで加入できますので、その意味で「65歳の壁」はないのですが、障害基礎年金も併せてもらおうとすれば「65歳の壁」がでてきます。

 

この「65歳の壁」を先ほどの時系列にたててみると、次の図のようになります。

この図は、初診日が65歳の壁(65歳到達日)以後にあれば、初診日要件を充たさないのですが、初診日が65歳の壁前であれば、初診日要件を充たすということを表しています。

そして、この図でわかるように、認定日請求の場合には、初診日が65歳の壁前にありさえすれば、その後の障害認定日や請求日が65歳の壁の後にあったとしても、認定日請求には支障はないということなのです。

これは、請求日時点で65歳以上であっても、初診日要件を充たしていれば、認定日請求は可能性があるということです。

ここを「65歳以上だと障害者年金は請求できない」と誤解して、障害年金を諦めるととてももったいないことになります。

 

ところで、今までざっくりと「65歳の壁」と言ってきましたが、ここで正確な意味を確認しておきましょう。

上記のとおり、初診日が65歳未満の期間にないといけないわけですが、これを正確にいえば、「65歳になる誕生日の2日前」までに初診日がないといけないということです。

これは、誕生日の前日に65歳に達するとされているからです。

たとえば、2月10日が誕生日だった場合、2月9日が65歳に達する日(65歳の壁)となります。

そうすると、2月9日以降は65歳の壁にはばまれるため、初診日は2月8日以前である必要があるのです。

なお、老齢年金の繰り上げ受給をしている場合には、「65歳の壁」は変更を受けますのでご注意ください(ここでは詳しく触れませんが、初診日が60歳以降の場合認定日請求は障害認定日が繰り上げ請求日前になければいけませんし、事後重症請求もできなくなります)。

 

事後重症請求の「65歳の壁」の正体

これに対して、事後重症請求の「65歳の壁」の正体は、請求日についての65歳の壁です。

事後重症請求は、上記の初診日要件を充たしたうえで、65歳到達日の前日までに、障害の程度に達する障害の状態にあり、かつ請求しなくてはいけません。

請求日についての65歳の壁は、

この図のようなイメージです。

請求日までのすべてが、65歳の壁の前になければいけません。

請求日が65歳の壁以後にあれば、事後重症請求は封じられるということになります。

この事後重症請求の65歳の壁は鉄壁といってよいでしょう(なお、65歳を1日たりとも過ぎれば100%事後重症請求ができないのかといわれれば、そこは多少の例外もあるようですが、それを保証することはできません。いずれにしてもできるだけ早急に請求しなければなりません)。

 

認定日請求の「65歳の壁」のすきま

事後重症請求の「65歳の壁」が鉄壁であるのに比べて、認定日請求の「65歳の壁」にはつぎのようなすきまがあります。

  • 障害厚生年金の場合70歳まで加入が可能ですので、65歳を過ぎても、厚生年金加入期間中に初診日があれば、障害厚生年金の認定日請求は可能です(ただし、障害の程度が1級や2級になっても、障害基礎年金はもらえません)
  • 国民年金の特例による任意加入で65歳以上の被保険者期間に初診日があれば、障害基礎年金の認定日請求は可能です(ただし、現実問題として納付要件を充たすことができるのかどうかは難しいところがあると思います)

なお、認定日請求の「65歳の壁」とは少し異なりますが、旧国民年金法による障害年金(1986年3月までに初診日があり、かつ1986年3月までに旧法基準で障害の程度2級以上であると認定された場合)では、65歳以上であっても障害年金の受給権が発生します。

 

「はじめて2級」という請求方法

ここで、「はじめて2級」といわれる基準障害による請求について、65歳の壁との関係を少し補足しておきます。

「はじめて2級」の場合には、基準障害の障害認定日に関して65歳の壁があります。

すなわち、「はじめて2級」の場合には、65歳に達する日の前日までに基準障害が、他の障害(既存の軽い障害)と併合して1級または2級の障害の状態にある必要があるのです。

なお、障害認定日に関する65歳の壁をクリアできれば、請求は65歳以上であっても構いません。

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さいごに

今回は「はじめての障害年金の前にあるふたつの65歳の壁」として、「認定日請求の(初診日の)65歳の壁」と「事後重症請求の(請求日の)65歳の壁」の2つの「65歳の壁」があることをみてきました。

実際問題として、高齢の人の場合には、

  • (慢性の)持病が徐々に悪化して、障害認定日を過ぎて(65歳以上になって)障害の程度に達する状態になるといったケース(本来的な事後重症請求)や
  • 障害認定日から時間が経過しすぎて、その時点で障害の程度に達する状態であったことの証明ができない(診断書がない)ケース(認定日請求ができないのでその代わりにする事後重症請求)があり、

これらのケースでは65歳の壁にはばまれて事後重症請求をあきらめざるをえません(ただし、後者の場合にはどうにかして証明する努力をしてみる価値はあります)。

そういう意味で、「障害年金は65歳を過ぎると請求できなくなる」という見解は正しいのかもしれません。

事後重症請求を封じられると、かなり厳しい状況になるのはたしかです。

しかし、これまでみてきたように、認定日請求の「65歳の壁」は初診日の65歳の壁であり、またその壁自体にも多少のすきまがあるのも事実です。

単なる思い込みで「障害年金は65歳を過ぎると請求できなくなる」とあきらめるのではなく、認定日請求がどうにかできないか、専門家に相談するなどされることをお勧めいたします(過度な期待は禁物ですが、もしかしたらの可能性がないわけではありません)。

もしも、認定日請求に成功すれば、最大で5年さかのぼって障害年金がもらえる可能性があるのですから。

なお、障害年金が認められるには、今回の「65歳の壁」の問題だけではなく、納付要件や障害の程度要件といった、他にもクリアすべき要件がありますので、念のため申し添えておきます。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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アルバイトさんがよく勘違いしている労災の常識5選

アルバイトさんのための労災保険の常識5選を社会保険労務士が解説

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

労災保険や障害年金といった社会保険手続を中心にお若い方をサポートしている社会保険労務士が、「アルバイトさんがよく勘違いしている労災の常識5選」を解説します。

筆者がお若い方から受ける労災保険のご相談の中から、特にアルバイトをしている人が意外と勘違いしているものを5つピックアップしてみました。
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「アルバイトだから労災保険はつかえない」は間違い

「自分は正社員ではないので、労災保険はつかえないのだと思っていました」と言われるアルバイトの人がいますが、これは間違いです。

労働者を1人でも雇用している事業所は、一部の例外(個人経営の農林水産の一部事業など)を除いてすべて労災保険の強制適用事業となります。

そして、ここでいう「労働者」とは、正社員、契約社員、パート、アルバイトなど雇用形態を問いません。

つまり、正社員でなければ労災保険はつかえないということはなく、アルバイトであっても適用事業で働く労働者であれば労災保険はつかえるということです。

 

「個人事業だから労災保険はつかえない」は間違い

アルバイトさんが店長さんから「うちは個人経営だから労災保険には入っていないんだよ」といわれたという話をきいたことがありますが、これは間違いです。

前述のとおり、労働者を1人でも雇用している事業所は、一部の例外(個人経営の農林水産の一部事業など)を除いてすべて労災保険の強制適用事業となりますので、その事業所が会社(法人)であるか個人経営(個人事業)であるかは関係ありません。

ですので、個人事業であっても適用事業で働く労働者であれば、労災保険はつかえるということです。

もしも店長さんがそのようなことを本気で言っているとしたら、従業員が5人未満の個人事業は「厚生年金・健康保険」には入らなくてよい(任意適用である)という話と混同している可能性があります。

早急に労災保険加入の手続きをとるように勧めた方がよいでしょう(事業主にペナルティーが生じる場合もあります)。

なお、事業所の手違いで労災保険に加入していない場合(正確にいえば、保険関係成立届を提出しない場合)であっても、法律的には原則として労働者を1人でも雇った時点で労災保険関係は成立しますので、仕事上の事故などで労働者がケガをしたような場合には労災保険がつかえることになります(そのような場合には労働基準監督署へご相談されることをお勧めします)。

 

「労災保険料を給料から天引きされていないので労災保険はつかえない」は間違い

「給料明細をみたら、労災保険料が天引きされていないので、労災保険には入っていないのではないでしょうか」という疑問を持つ方がいらっしゃいますが、これは間違いです。

たしかに、毎月の給料からは、厚生年金保険料や健康保険料、雇用保険料といった社会保険料が天引きされます(アルバイトの人はどのような条件で働くかによってどの社会保険に入るかが変わってきますので、全部の社会保険料が天引きされているとは一概にはいえませんが)。

しかし、どのような働き方をしていたとしても、労災保険料が給料から天引きされることはありません。

なぜならば、労災保険料は全額が事業主負担だからです。

ですので、労災保険料が給料から天引きされていないのは当然であって(もしも天引きされているとしたら、その理由を事業主に確認してください)、「労災保険料が給料から天引きされていない=労災保険に入っていない」とはならないのです。

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「自分のミスでケガをしたので労災保険はつかえない」は間違い

「自分のうっかりミスでケガをしました。自業自得だから、労災保険はつかえないんですよね」と聞かれることがありますが、これは間違いです。

労働者に過失があったとしても、労災保険がつかえないわけではありません。

故意や重過失で労災事故を起こしたような場合には給付制限が行われることもありますが、うっかりミスレベルでは給付制限が行われることはないでしょう。

むしろ、労働者が仕事をするうえでうっかりミスはつきものですので、そのリスクに備えて労災保険があるのです。

責任感の強い人ほど「自業自得」という言葉に縛られる傾向があります。

しかし、責任感が強いかどうかの話と労災保険をつかえるかどうかというのは別の話です。

労災保険をつかってケガをしっかり治したうえで、うっかりミスについては反省してもらえればと思います。

 

「店長が許してくれないので労災保険はつかえない」は間違い

「労災保険をつかおうとしたら、店長が許可してくれないので、労災保険をつかわなかった」という話をきいたことがありますが、これは間違いです。

労災保険がつかえるかどうかを判断するのは、店長(事業主)さんではなく、政府(労働基準監督署長)です。

ですので、労災保険をつかう場合に、事業主の許可は必要ありません。

しかし、実際には労災保険をつかおうとすると、いわゆる「事業主証明」が必要になったりして、事業主の協力があった方がスムーズに手続きが行えるのも事実です。

そこで、事業主には労働者の労災保険申請手続に協力したり、必要な証明を行ったりする義務が課せられています。

なお、それでも事業主がその義務を果たさず、事業主証明を書いてくれないこともありますが、そのようなケースでは事業主証明なしでも労災保険申請が認められますので、決して労災保険をあきらめる必要はありません(労働基準監督署へご相談されることをお勧めします)。

 

さいごに

今回は、「アルバイトさんがよく勘違いしている労災の常識5選」として、労災保険について解説してみました。

労災保険は、医療費の負担がなかったり、休業した場合に休業補償として給料(給付基礎日額)の8割(特別支給金含む)が支給されたりと、労働者にとってはかなりありがたい制度です。

特にアルバイトの人の場合には、自分の国民健康保険をつかうことと比べると、そのメリットはとても大きいものです(国民健康保険なら医療費は3割負担ですし、休業した場合の傷病手当金の制度がないのが一般的です)。

そもそも論をいえば、労災保険をつかえる場合には国民健康保険はつかえないのが原則なのですが。

いずれにしても、アルバイトだからといって、適当なことを言い含められ、泣き寝入りするようなことはあってはなりません。

アルバイトであっても(いえ、アルバイトだからこそ)、適正な労災保険給付を受けられるように、正しい知識をみにつけておくべきだと思っています。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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後の記事:はじめての障害年金の前にあるふたつの65歳の壁

住民税非課税世帯から課税世帯になる場合の注意点(その3)

住民税非課税世帯になるためにできること

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社会保険手続を中心に弁護士業務や成年後見業務をサポートしている社会保険労務士の徳本博方です。

今回は「住民税非課税世帯から課税世帯になった場合の社会保険の負担の変化」についての第3回目(最終回)です。

これまで、①どのような場合に非課税世帯が課税世帯になるのか、②社会保険の負担がどのように変化するのか、についてまとめてきましたが、今回は③対策はあるのか、についてまとめていこうと思います。

住民税(均等割)非課税となる年金収入金額の目安などについて具体的にお話できればと思います。
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住民税非課税世帯とならないケース

まず、住民税非課税世帯とならないケースとして大きく2つにわけて考えていきたいと思います。

それは、

  • 本人の所得が住民税非課税限度額を超えない場合(同一世帯の誰かが課税されている場合)
  • 本人の所得が住民税非課税限度額を超える場合

の2つです。

この非課税限度額については、住民税非課税世帯から課税世帯になる場合の注意点(その1)でも述べましたが、簡単にまとめておくと、次の表1のようになります。

 

住民税非課税限度額の老齢年金収入金額の目安

つぎに、表1でみた本人の「合計所得」となるための、具体的な「年金収入」金額の目安を確認してみましょう(ここでいう年金収入とは、公的年金等控除や特別徴収(年金天引き)の社会保険料などを引く前の、額面の年金支給額のことです)。

それは、表2のようになります。

表2は、本人が65歳以上公的年金収入のみの場合で、生活保護基準の級地区分3級地に住んでいる場合の年金収入金額の目安です(給与収入の場合や、級地区分が変われば目安の金額も変わります)。

なお、ここでの年金収入は老齢年金のことです(そもそも非課税である遺族年金や障害年金の収入については算入しません)。

 

老齢年金の収入がこれらの目安を超えれば、住民税(均等割)が課税され、それ以下なら課税されないということです。

 

本人の所得が住民税非課税限度額を超えない場合(同一世帯の誰かが課税されている場合)

本人の老齢年金の収入が表2の金額以下の場合には、本人には住民税はかかりませんが、同一世帯の誰かが住民税の課税対象であれば、住民税非課税世帯としてのサービスを受けることができません。

このような場合には、課税対象の家族を非課税にするか、本人を単身世帯にするかの方法が考えられます。

ただし、課税対象の家族(特にフルタイムの給与所得者のような場合)を非課税にするというのはなかなか難しいので、現実的には本人を単身世帯にする方法になるでしょう。

その場合、生活の実態をよく把握したうえで、たとえば介護施設に入所中で当面自宅に戻る可能性がないのであれば、実態にあわせて住民票の住所を施設に移す方法や、医療機関に入院中で家計が完全に分離しているような場合であればいわゆる世帯分離の方法を採ることが考えられます。

本人単身であれば住民税非課税である場合には、単身世帯にする方法によって住民税非課税世帯となるということです。

なお、介護保険の場合などでは、世帯分離などをしたとしても配偶者がいる場合にはその所得も合算して所得区分を決めるといったルールもあり、必ずしも住民税非課税世帯としてのサービスを受けられるわけではありません。

 

本人の所得が住民税非課税限度額を超える場合

本人の老齢年金の収入が表2の金額を超えるような場合には、本人を単身世帯にしたとしても住民税非課税世帯にはなりません。

この場合には、まずは本人が単身で住民税非課税となるような方法を考えないといけません。

もちろん所得の過少申告などは論外なので、この場合には、扶養親族等を申告するか、障害者として認定してもらうことになるでしょう。

本人だけなら老齢年金の収入の目安が148万円ですが、もし扶養親族等が1人いれば192万8000円まで上がります(表2)。

生計を同一にしている人(住民票上の同一世帯であることまでは必要とされていません)で要件を充たす人がいる場合には、扶養親族等の申告を忘れないようにしてください。

もっとも、そもそも扶養親族等がいないということもあるでしょうし、それまで扶養親族等として申告していた人が就職などで合計所得が多くなって扶養親族等から外れてしまうということもあるでしょう。

そのような場合であっても、本人が障害者として認定してもらえれば、住民税非課税となる可能性があります。

なぜなら、障害者として認定されれば、老齢年金の収入の目安が245万円まで上がるからです(表2)。

ここで注意が必要なのは、障害者について、手帳(身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳など)を所持していなくても認定されることがあるということです。

手帳がないからといってすぐにあきらめることはなく、税務署や市役所等にご相談されることをお勧めいたします。

特に成年被後見人として成年後見制度を利用している場合には、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある人」として障害者認定される可能性がありますので、よく確認をしてください。

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さいごに

今回は住民税非課税世帯となる方法について考えてきました。

世帯分離をしたり、扶養親族等の申告や障害者としての認定を受けたりと面倒なこともありますが、住民税非課税世帯としてのサービスを受けるためには必要な手続きです。

こういった手続きには、さかのぼってできるものとそうでないものがあります。

できるなら早めに行うようにしてください。

2019年分の確定申告や市県民税申告の時期となりましたが、正当なサービスをうけられるように、適正な手続きを行っていただければと思います。

以上、3回にわたり「住民税非課税世帯から課税世帯になった場合の社会保険の負担の変化」について考えてきました。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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後の記事:アルバイトさんがよく勘違いしている労災の常識5選

住民税非課税世帯から課税世帯になる場合の注意点(その2)

社会保険の負担がどのように変化するのか

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険手続を中心に弁護士業務や成年後見業務をサポートしている社会保険労務士の徳本博方です。

今回は「住民税非課税世帯から課税世帯になった場合の社会保険の負担の変化」についての第2回目です。

全3回に分けて、①どのような場合に非課税世帯が課税世帯になるのか、②社会保険の負担がどのように変化するのか、③対策はあるのかをまとめていこうと思います。

今回は②社会保険の負担がどのように変化するのかのお話です。

筆者の経験から、課税世帯になった場合に②社会保険の負担がどのように変化するのか具体的な例をあげていきたいと思います。

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どんな影響があるの?

所得等の変動によって影響を受ける社会保険として、ここでは後期高齢者医療保険と介護保険を例にとって考えていきましょう(筆者の住んでいる山口県萩市を例にします)

主な影響点として「保険料への影響」「限度額等への影響」の2つが考えられます。

 

後期高齢者医療保険の保険料への影響

後期高齢者医療保険の保険料は、所得割額と均等割額に分かれます。

2019年度の山口県の場合(上限62万円)

  • 所得割額:(前年所得 – 基礎控除33万円)×10.28%
  • 均等割額:5万2444円
  • 世帯主及びその世帯の被保険者の総所得額の合計によって、均等割額の軽減措置がある(8割、8.5割、5割、2割)

です。

ここでは保険料が住民税非課税世帯であるかどうかと直接的に連動しているわけではありませんが、総所得額が増えて、軽減措置の割合が変わることで、保険料が値上がりする可能性が生じます。

たとえば、軽減割合が8.5割から5割に変わったとすれば、年間保険料が7866円から2万6222円となり、年間1万8356円の負担増になります(本人の所得額に変化はないものの、世帯の総所得額に変化があったような場合で、均等額割のみが発生し、その軽減割合が変わったような場合が想定されます)。

 

介護保険料への影響

2019年度の山口県萩市の介護保険料(1号被保険者)は基準額を6万2280円として、住民税(市民税)非課税世帯かどうかや本人の合計所得金額によって第1~13段階に分かれています。

そして、各段階の年間保険料は第1段階の基準額×0.375=2万3350円から第13段階の基準額×2.5=15万5700円となっています(10円未満切り捨て)。

住民税との関係でいえば、第1~3段階が住民税非課税世帯、第4~5段階が本人が住民税非課税で世帯の誰かが課税、第6~13段階は本人が課税の場合です。

介護保険料が大きく減額される第1~3段階に該当するためには、少なくとも住民税非課税世帯である必要があるのです。

たとえば、住民税非課税世帯として第3段階(年間保険料4万5150円)だったものが、家族の誰かが課税となったために第5段階(年間保険料6万2280円)となったとすれば、年間1万7130円の負担増になります。

 

医療費や入院時の食事の負担額への影響

ここでは、後期高齢者医療保険をつかった入院時の医療費と食事の負担額を例にして考えてみましょう。

医療保険には、所得区分によって、医療費や食事の負担額に一定の限度額を設ける制度があります。

後期高齢者医療保険の場合には医療費の限度額は6つの所得区分に分かれ、食事の限度額は3つの所得区分にわかれています。

そして、各限度額が低く抑えてある低所得Ⅰや低所得Ⅱの区分になるためには、少なくとも世帯全員が住民税非課税である(住民税非課税世帯)必要があります

たとえば、低所得Ⅱの区分から一般所得の区分に変更になった場合はどうなるでしょうか。

(図1)をご覧ください。

この例では、月額5万5500円の負担増となっています。

なお、一般所得区分の医療費には「多数該当」(その月以前の12ヶ月に3回以上高額療養費が支給されている場合の4回目以降)という制度があり、その場合限度額の5万7600円は4万4400円となりますが、多数該当が適用されたとしても、月額4万2300円の負担増になります。

筆者の経験上も、低所得Ⅱの区分で家計が何とか収支均衡だった人が、一般区分に変更になったとたんに大幅な赤字となって、預貯金を切り崩して対応せざるをえなかったケースが何件かありました。

 

介護施設の居住費や食費の負担額への影響

ここでは、介護保険をつかって、一定の施設(特別養護老人ホームや介護老人保健施設など)に入所をしている場合の住居費と食費の限度額を例にして考えてみましょう。

介護保険には、施設入所の場合の住居費や食費の負担額に一定の限度額を設ける制度があります。

限度額は第1~3段階に分かれており、どの段階であっても少なくとも住民税非課税世帯に該当する必要があります(その他にも資産要件などを満たす必要があります)。

たとえば、第3段階の区分から外れて、限度額認定を受けられなくなった場合はどうなるでしょうか。

(図2)をご覧ください。

この例では月額3万6000円の負担増になっています。

なお、ここでの「基準費用」は目安です。

筆者の経験上も、介護保険の限度額認定から外されて、毎月の支払が4万円弱増加した人がいらっしゃいました。

その時は他の要件が変更になったためで、住民税非課税世帯から課税世帯になったことが理由ではないのですが、限度額認定から外される厳しさを痛感しました。

いずれにしても限度額認定を受けられるかどうかで、少なくとも毎月4万円近くの差が生じうるということです。
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さいごに

成年後見制度を利用している高齢者は、その収入のほとんどを年金にたよっています。

そして年金収入は毎年それほど大きく増えるものではありません。

つまり入ってくる金額はほとんど一定なのです。

そのような状態で、年金から天引き(特別徴収)されている医療保険料や介護保険料が値上がりすれば、手取りの収入が減っていきます(仮に合計で年額3万6000円の負担増になった場合、単純計算で1回の年金支給につき天引き額が6000円増加します)。

さらに医療機関への入院や介護施設への入所が長期化している人の場合には、限度額の変更によって、毎月数万円の支払いが増えることになります。

これは、手取り収入が減って、支出が増えるということです。

これが1年、2年・・・と続いたらどうなってしまうのでしょうか。

仮に毎月4万円強の赤字が続けば、1年間で約50万円の赤字です(その分、預貯金を切り崩すことになるでしょう)。

5年で約250万円、10年で約500万円・・・どんどん預貯金が減っていきます。

そこで、次回は③対策はあるのかという問題を考えていきたいと思います。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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住民税非課税世帯から課税世帯になる場合の注意点(その1)

どのような場合に住民税非課税世帯から課税世帯になるのか

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社会保険手続を中心に弁護士業務や成年後見業務をサポートしている社会保険労務士の徳本博方です。

今回は成年後見業務をやっているとときどき生じる「住民税非課税世帯から課税世帯になった場合の社会保険の負担の変化」について、3回にわけてお話ししていこうと思います。

筆者の経験上、住民税課税世帯への変更に伴う社会保険負担の変化は、家計の収支予定が大幅に変わるので、一気に家計が赤字に転落するという事態も少なくありません。

特に本人さんが医療機関へ入院中や介護施設に入所中の場合には、数万円単位で家計収支が変わってしまいます。

そこで、2020年が始まって、2019年の所得が確定しかつ申告前のこの時期に、①どのような場合に非課税世帯が課税世帯になるのか、②社会保険の負担がどのように変化するのか、③対策はあるのかをまとめていこうと思います。

第1回目の今回は、筆者の経験から①どのような場合に非課税世帯が課税世帯になるのかの具体的な例をあげていきたいたいと思います。

なお、この記事は投稿日(2020年1月4日)現在の情報に基づいて執筆されています(2019年度の情報が入っています)。

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住民税非課税世帯ってなに?

まずは、住民税非課税世帯とは何かについて簡単にご説明しておきます。

一般に、個人の住民税は市民税と県民税を合わせたものをいい、その内容は「均等割」と「所得割」に分かれます。

そして、住民税非課税世帯とは、世帯全員が住民税の均等割も所得割も非課税である状態のことです。

つまり、世帯の中に住民税の均等割や所得割を払っている人が誰もいない世帯のことを住民税非課税世帯といいます。

 

では、どのような人が住民税の均等割と所得割が非課税になるのでしょうか。

筆者の住んでいる萩市(生活保護基準の級地区分3級地)の場合には、具体的にいうと、

  • 均等割も所得割もかからない人
    • 生活保護法の規定による生活扶助を受けている人
    • 障害者、未成年者、寡婦または寡夫で前年中の合計所得金額が125万円以下の人
  • 均等割のかからない人=前年中の合計所得金額が次の算式で求めた額以下の人
    • 控除対象配偶者及び扶養親族がいない人・・・28万円(1級地:35万円、2級地:31万5千円)
    • 控除対象配偶者及び扶養親族がいる人・・・28万円(1級地:35万円、2級地:31万5千円)×(控除対象配偶者+扶養親族+1)+16万8千円(1級地:21万円、2級地:18万9千円)
  • 所得割のかからない人=前年中の総所得金額等の合計額が次の算式で求めた額以下の人
    • 控除対象配偶者及び扶養親族がいない人・・・35万円
    • 控除対象配偶者及び扶養親族がいる人・・・35万円×(控除対象配偶者+扶養親族+1)+32万円

このようになっています(このような基準を「住民税非課税限度額」といいます)。

そして、均等割が非課税であれば所得割も非課税になるといって差し支えないので、住民税非課税世帯となるためには、世帯の全員が「均等割も所得割もかからない人」か「均等割のかからない人」のどれかに当てはまる必要があるということです。

 

なお「合計所得金額」は、基礎控除や医療費控除、社会保険料控除などを控除する前のものですので注意が必要です(給与所得控除や公的年金等控除は控除できます)。

 

まとめると、

ア 生活保護法の規定による生活扶助を受けている人

イ 障害者、未成年者、寡婦または寡夫で前年中の合計所得金額が125万円以下の人

ウ 前年中の合計所得金額が次の算式で求めた額以下の人(3級地の場合)
控除対象配偶者及び扶養親族がいない人・・・28万円(1級地:35万円、2級地:31万5千円)
控除対象配偶者及び扶養親族がいる人・・・28万円(1級地:35万円、2級地:31万5千円)×(控除対象配偶者+扶養親族+1)+16万8千円(1級地:21万円、2級地:18万9千円)

のどれかに世帯全員が該当すれば、住民税非課税世帯になれるというわけです。

 

住民税課税世帯になってしまうのはどんなケース?

筆者の経験上、住民税非課税世帯が課税世帯となってしまうケースは、次の3つのケースが多いように感じています。

それは、ⅰ本人さんの合計所得金額が上がる、ⅱ同一世帯内の誰かの合計所得金額が上がる、ⅲ扶養親族等がいなくなる、の3つです。

 

ⅰ本人さんの合計所得金額が上がるケースとしては、給与収入や年金収入が上がるというケースです。

このような場合には予め課税対象になるかどうかがわかりますので、ある程度の準備や対策もできるかもしれません。

ただ、注意が必要なのは、住民税非課税限度額の計算に用いられる「合計所得金額」には、土地・建物等の譲渡所得の金額(長期譲渡所得の金額(特別控除前)と短期譲渡所得の金額( 特別控除前))が含まれるという点です。

前年に不動産を処分した際には要注意です。

均等割が発生する可能性があります。

なお、2020年から給与所得控除や公的年金等控除の金額が10万円引き下げられますが、それに伴って2021年の住民税非課税限度額に10万円が加算される予定ですので、この点での影響は少ないものと思われます

 

ⅱ同一世帯内の誰かの合計所得金額が上がるケースとしては、病気や引きこもりなど様々な事情で働いていなかった世帯内の家族が仕事を始めたようなケースが考えられます。

この場合、世帯全体としての収入額は上がるので、それほど問題はないようにも思えます。

しかし、働き始めた家族が家計にお金を入れてくれないような場合には、他の家族には各種負担が増えるというマイナスの影響だけが及ぶということもありえます。

家族の協力を得られるかどうかが大きなポイントになるでしょう。

 

ⅲ扶養親族がいなくなるケースとしては、扶養親族だった人が亡くなった場合や世帯を離れるなどして扶養関係になくなったような場合があります。

またⅱとも重なるのですが、それまで扶養に入ってた家族が収入を得るようになって扶養から外れるというケースもあります。

特に、本人さん単独だと課税対象だったのに、扶養親族がいたのでなんとか非課税となっていたというような場合では、いわゆる世帯分離をしたとしても本人さんが非課税世帯になることはできないので、かなり困ったことになります

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さいごに

今回は、①どのような場合に非課税世帯が課税世帯になるのかについて、これまでの経験上問題になったケースをあげてみました。

次回は、住民税非課税世帯から課税世帯になることで、②社会保険の負担がどのように変化するのかについてお話できたらと思っています。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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障害年金と老齢年金は同時にもらえるのですか【年金の常識10】

障害年金と老齢年金の併給の可否を社会保険労務士が解説

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険手続を中心に弁護士業務や成年後見業務をサポートしている社会保険労務士の徳本博方です。

社会保険労務士である筆者が受けた相談や質問から、「いまさら聞けない 年金の常識」として、意外と間違えやすい年金の仕組みを回答していきます。

第10回目の質問は、障害年金と老齢年金の併給(同時にもらえるのか)についてのものです。

この質問は、今までに何回か聞かれたことのある質問です。

たしかに、障害年金をもらっている人にとっては、自分が65歳になったとき、老齢年金が追加でもらえるのかどうかは、とても気になる問題だと思います。

今回は障害年金と老齢年金の併給の可否についてお話しましょう。
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質問「障害年金をもらっている人が65歳になったら、同時に老齢年金ももらえるようになるのですか?」

回答:年金は1人1年金の原則があるので、障害年金か老齢年金かを選択することになります。ただし、障害基礎年金と老齢厚生年金の組合わせは併給(同時にもらうこと)ができます。

 

この話は意外とわかりにくいので、事例を設定してご説明します。

図1をご覧ください。

Aさん、Bさん、Cさんは、図1のように、20歳から国民年金に加入し、その後就職して厚生年金にも加入していた(60歳で退職)とします。

そして、AさんとBさんは、60歳になるまでに2級相当の障害を負ったとしましょう。

ただし、Aさんの初診日は①、Bさんの初診日は②とします。

また、Cさんは②を初診日として3級相当の障害を負ったとします。

 

どのような障害年金をもらえるのかは初診日にどの年金に加入していたかによって変わりますので、Aさんたちの65歳になるまでの間の障害年金は次のようになります。

  • Aさんは①の時点では国民年金にしか加入していないので、障害「基礎」年金だけがもらえます。
  • Bさんは②の時点で国民年金と厚生年金に加入しているので、障害「基礎」年金だけでなく障害「厚生」年金がもらえます。
  • Cさんは②の時点で国民年金と厚生年金に加入しているのですが、障害「基礎」年金には3級がない(=3級では障害基礎年金はもらえない)ので、障害「厚生」年金だけがもらえます。

 

このような状況で障害年金を受給していたAさんたちが、65歳になったとします。

Aさんたちが65歳になったとき、Aさんたちには老齢「基礎」年金と老齢「厚生」年金の受給権が発生します。

では、全員が現在もらっている障害年金に加えて、新たに老齢年金ももらえるのしょうか。

答えはノーです。

年金には1人1年金の原則というのがあって、原則として種類の違う年金を同時にもらうことはできないのです。

つまり、Aさんたちの場合には、現在もらっている障害年金か、新たに発生した老齢年金かを選択することになります。

そうすると、Aさんたちの選択肢は次のようなものになるでしょう。

  • Aさんの場合には、障害基礎年金だけよりも老齢基礎年金+老齢厚生年金の方が受給額が多いと思われます(ただし、後述の例外があるので、後者を選択するとは必ずしもいえません)。
  • Bさんの場合には、障害基礎年金+障害厚生年と、老齢基礎年金+老齢厚生年金の受給額を比べてみることになりますが、障害年金の方が非課税であるというメリットもありますので、そのあたりを総合的に考慮することになるでしょう。
  • Cさんの場合には、障害厚生年金だけよりも老齢基礎年金+老齢厚生年金の方が受給額が多いと思われますので、後者を選択することが多いと思われます。

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ただし、例外もあります。

異なる種類の年金を組合せて併給することが可能になる場合があります。

この場合の組合せは、2パターン考えられます。

まず、Aさんの場合、障害基礎年金をもらいつつ、老齢厚生年金をもらえれば、非課税のメリットを活かすことができます(また、仮にAさんが障害基礎年金が1級だった場合には、障害基礎年金は2級の場合の1.25倍ですので、障害基礎年金+老齢厚生年金の組合わせが受給額が一番多くなるでしょう)。

また、Cさんの場合にも、老齢基礎年金をもらいつつ、障害厚生年金がもらえれば、非課税のメリットを活かすことができます。

つまり、Aさんのように障害基礎年金+老齢厚生年金と、Cさんのように老齢基礎年金+障害厚生年金という2つの組合わせが考えられるということです。

しかし、例外として認められるのは、Aさんのような障害基礎年金+老齢厚生年金の組合わせだけで、Cさんのような老齢基礎年金+障害厚生年金の組合わせは認められません。

つまりAさんは、障害基礎年金+老齢厚生年金か老齢基礎年金+老齢厚生年金かの選択となるので、この場合には前者を選択することが多いのではないかと思われます(また、障害基礎年金だけをもらいつつ、老齢厚生年金を繰り下げするという選択もありえます)。

なお、これはBさんにも当てはまります(2級の場合にはあまり問題にはならないのですが、Bさんが1級の場合、障害基礎年金+老齢厚生年金の組合わせの受給額が一番多くなることも考えられます。Aさんと異なるのは、障害厚生年金をもらえる人は老齢厚生年金の繰り下げはできないという点です)。

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以上をまとめると

  • 1人1年金の原則により、同じ種類の年金をもらうことになるが、例外として障害基礎年金+老齢厚生年金の組合わせは併給ができる(図2)

  • 老齢年金+障害年金を同時に合算してもらえることはないし、老齢基礎年金+障害厚生年金の組合わせも認められない(図3)

ということです。

いずれのケースにおいても、65歳になって老齢年金の受給権が発生した際には、それぞれの組合わせでの受給額を確認のうえ、さらに障害年金の非課税のメリットを活かせる方法を検討されることをお勧めいたします。

 

さいごに

ここまでお読みいただきありがとうございます。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

この記事を読んで、障害年金を申請してみようと思われたひともいるのではないでしょうか。

社会保険労務士の筆者がいうのも少しへんですが、筆者は障害年金は自分で申請できると思っています。

そのようなひとに向けた記事も書いていますので、こちらにご紹介しておきます。

あわせて読んでいただければと思います。

よろしくお願いいたします。

障害年金は自分で申請できる【そのシンプルな理由】

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障害年金は何歳までもらえるのですか【年金の常識9】

障害年金がもらえなくなる場合を社会保険労務士が解説

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社会保険手続を中心に弁護士業務や成年後見業務をサポートしている社会保険労務士の徳本博方です。

社会保険労務士である筆者が受けた相談や質問から、「いまさら聞けない 年金の常識」として、意外と間違えやすい年金の仕組みを回答していきます。

第9回目の質問は、障害年金の終期(いつまでもらえるのか)についてのものです。

この質問は、よく聞かれる質問のひとつです。

たしかに、老齢年金と異なり、障害年金はいつまでもらえるのかイメージがしにくいと思います。

失権事由に該当する場合だけなく、支給停止も含めてお話しようと思います。
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質問「現在、障害年金を受給しているのですが、障害年金は何歳までもらえるのですか?」

回答:障害年金の受給期間に年齢制限はありません。ただし、失権事由に該当するか支給停止になれば、障害年金はもらえなくなります。

 

障害年金には、何歳になるまでもらえるなどの年齢による制限はありません。

障害年金の失権(受給権の消滅)については、法律上、①死亡した場合、②3級に該当しない者が65歳になった場合(該当しなくなってから3年経過が必要)、③3級に該当しなくなって3年が経過した場合(65歳以上である必要)が規定されていますし、それ以外にも④併合認定によって新たな障害年金が受給できる場合には従前の受給権は消滅します。

これらのうち、3級に該当しなくなった場合を定める②と③についてはそれほどケースは多くはないですし(②と③は老齢年金がもらえる可能性が高く、経済的にも問題にはなりにくいのです)、④については併合後の新しい障害年金が受給できるので、実質的には①の死亡の場合以外にはそうそう問題になるケースは少ないと思われます。

その意味では、障害年金は終身年金(死亡するまでもらえる年金)といっていいでしょう。

 

しかし実際には、死亡するまでの期間に障害年金がもらえなくなる場合があります。

それが「支給停止」です。

前述の「失権」は受給権自体が消滅することですが、この「支給停止」は受給権は消滅せず何らかの事情によって支給が止まっている状態です(支給停止事由がなくなれば再開されます)。

このように「失権」と「支給停止」は厳密には内容は違うのですが、障害年金がもらえないという意味では同じことです。

では、どのような場合に支給停止になるのでしょうか。

主な支給停止の事由は、障害の程度が軽減して、障害「基礎」年金(国民年金)の場合には2級に、障害「厚生」年金の場合には3級に該当しなくなったと認定されることです。

つまり、障害の程度が軽くなったと認定されれば、支給停止になるということです。

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この点ついては、一般的に障害の程度が軽くなったことを自ら申告する人は多くありません。

そこで、障害年金には更新の制度が設けてあります。

障害年金の受給者は、一定の時期(障害のケースにより1~5年)に「障害状態確認書(診断書)」を日本年金機構に提出して、再認定を受けることになります。

ただし、症状が固定している場合には更新が不要なこともあり、その場合には「障害状態確認書(診断書)」を提出する必要はありません。

この更新の要否の違いで、更新が必要なケースを「有期認定」、更新が不要なケースを「永久認定」と呼ぶこともあります。

このように有期認定の更新の際に、障害の程度が軽減したと認定されて支給停止となり、障害年金がもらえなくなるケースがあるのです(逆に、障害の程度が悪化したと認定されれば、職権で障害年金の等級が上がり、年金額が増えるケースもあります)。

なお、このような支給停止の場合には、障害年金の受給権が失権したわけではないので、その後障害の程度が悪化すれば、「支給停止事由消滅届」を提出し、支給停止を解除することになります(支給停止が解除されても、それ以降の年金がもらえるだけで、支給停止時に遡って年金がもらえるわけではありません)。

この他、障害年金の支給停止事由には、老齢年金がもらえるようになったので、老齢年金を選択するような場合などもあります。
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以上の要点をまとめると、

  • 障害年金には年齢による受給期間は定められていない
  • 障害年金が「有期認定」の場合、更新の際に障害の程度が軽減したと認定されれば、支給停止になり、障害年金はもらえなくなる可能性がある

ということです。

更新の際に「障害状態確認書(診断書)」を提出する場合には、内容をしっかりチェックして(場合によっては医師に確認するなど)、十分に注意を払うことをお勧めします(個人的な感想ですが、この「障害状態確認書(診断書)」を内容すら確認することなく、安易に提出して後で慌てるというケースも散見されますので)。

さいごに

ここまでお読みいただきありがとうございます。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

この記事を読まれたひとのなかには、まだ障害年金を受給していないひともいると思います。

もしかしたら、これから障害年金を申請してみようと思われたひともいるかもしれません。

社会保険労務士の筆者がいうのも少しへんですが、筆者は障害年金は自分で申請できると思っています。

そのようなひとに向けた記事も書いていますので、こちらにご紹介しておきます。

あわせて読んでいただければと思います。

よろしくお願いいたします。

障害年金は自分で申請できる【そのシンプルな理由】

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遺族年金をもらっているのに年金生活者支援給付金がもらえないのはなぜですか【年金の常識8】

遺族年金をもらっている人でも年金生活者支援給付金がもらえる人ともらえない人がいる理由を社会保険労務士が解説

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社会保険労務士である筆者が受けた相談や質問から、「いまさら聞けない 年金の常識」として、意外と間違えやすい年金の仕組みを回答していきます。

第8回目の質問は、年金生活者支援給付金についてのものです。

年金生活者支援給付金は正確には「年金」ではないのですが、タイムリーな話題なので、ここで取り上げようと思います。
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質問「遺族年金をもらっている人でも年金生活者支援給付金がもらえる人ともらえない人がいるのはどうしてですか?」

回答:遺族年金の種類が遺族基礎年金であれば年金生活者支援給付金の対象となりえますが、遺族厚生年金だけの場合には「遺族」年金生活者支援給付金の対象ではありません。つまり、同じ遺族年金でも遺族基礎年金をもらっている人と遺族厚生年金だけしかもらっていない人では「遺族」年金生活者支援給付金の対象となるかどうかが分かれるということです。

ただし、遺族厚生年金と併せて老齢(基礎)年金や障害基礎年金を受給している場合には、「老齢」や「障害」の給付金がもらえる場合があります。いずれの場合も一定の所得要件を充たす必要があります。

 

この質問は、複数の成年被後見人を担当している成年後見人さんからの質問でした。

質問者さんによれば、遺族年金をもらっているAさんとBさんのうち、年金額がBさんより多いAさんの方には年金生活者支援給付金の対象者として通知がきたけれども、Bさんにはきていないというのです。

AさんもBさんも独居の単一世帯で、年金以外の収入や所得はないとのことでした。

同じ遺族年金をもらっている人でも、年金生活者支援給付金がもらえる人とそうでない人がいるのが不思議だというお話です。

そこで、AさんとBさんの最新の年金額改定通知書をみせていただきました。

すると、AさんもBさんも「遺族基礎年金」は受給しておられず、「遺族厚生年金」を受給しておられました。

前述の回答に記載のとおり、遺族年金生活者支援給付金の対象者は、遺族基礎年金の受給者である必要があります。

ですので、AさんやBさんのように遺族厚生年金だけで遺族基礎年金を受給していない場合には、遺族年金生活者支援給付金の対象ではないのです。

 

そうすると、AさんもBさんも両方とも年金生活者支援給付金の対象ではないのではないか(なぜAさんだけがもらえるのか)との疑問が生じます。

そこで再度年金額改定通知書を確認したところ、Aさんは遺族厚生年金と併せて老齢(基礎)年金を受給されていたのですが、Bさんは(加入期間の問題なのかどうかわかりませんが)何らかの理由で老齢(基礎)年金を受給されていませんでした。

つまり、Aさんは老齢(基礎)年金の受給者でもあるので、「老齢」年金生活者支援給付金の対象になっているということです。

これに対して、Bさんは老齢(基礎)年金の受給者ではないので、「老齢」年金生活者支援給付金の対象にもなっていないということなのです。

たしかに、年金の支給額だけをみれば、Aさんは遺族厚生年金+老齢年金なので、遺族厚生年金だけのBさんよりも多いのですが、老齢(基礎)年金を受けているので老齢年金生活者支援給付金がもらえるというわけです。

ちなみに、老齢年金生活者支援給付金の収入・所得要件には遺族厚生年金の収入額はカウントされません。

Aさんの場合には年金以外の収入・所得はないため、老齢年金の収入額が要件を充たすと判断されたものと思われます。

 

以上をまとめると、

  • 遺族「基礎」年金を受給していない人は、遺族「厚生」年金を受給していたとしても、「遺族」年金生活者支援給付金はもらえない
  • 遺族「厚生」年金を受給している人が、「老齢」基礎年金や「障害」基礎年金を併せて受給していれば、「老齢」または「障害」年金生活者支援給付金をもらえる場合がある

ということです。

 

今回のケースは、一見すると、同じ遺族年金をもらっている人なのに、年金の受給額が多い人が年金生活者支援給付金がもらえて、年金の受給額が少ない人はもらえないという不思議な現象にも思えます。

これは制度上仕方のないこととはいえ、老齢基礎年金の無年金者が今回の給付金の対象にされていないことが、このような違いを生む原因と思われます。

今回の給付金のそもそもの趣旨が消費税率アップに伴う低所得者対策ということであれば、無年金者こそ救済の対象なのではないかとも思われるのですが、あくまで「年金生活者」という線引きで外さざるをえないということなのでしょう。

ただ、これは他の社会保険労務士の先生の受け売りなのですが、「無年金者も消費税を払っていて、税率アップの負担をしているのだから、税金を財源にした救済ならば、対象を年金生活者に限るというのはいかがなものか」という意見もあります。

個人的には、年金生活者支援給付金は年金だけが頼りの低所得者にとってはとても助かる制度として評価できると思っていますが、それよりも困窮している無年金者の救済についても、どうにかしていただけないものかなと思うところではあります。

さいごまでお読みくださりありがとうございました。

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成年後見人は年金生活者支援給付金請求手続きをお忘れなく!

成年後見人による年金生活者支援給付金請求手続を社会保険労務士が解説

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2019年10月1日からの消費税率引き上げに伴う措置のひとつとして、「年金生活者支援給付金」の請求手続きの受付が始まりました。

年金生活者支援給付金は、消費税率引き上げ分を活用した制度で、公的年金等の収入や所得額が一定水準額以下の年金受給者の生活を支援するために、年金に上乗せして支給されるものです。

今月(2019年9月)に入り、対象者のお手元に年金生活者支援給付金請求書の書式(ハガキ仕様のもの)が日本年金機構から薄い緑色の封書で送られてきています。

今回は、成年後見人がこの年金生活者支援給付金請求手続きを代理する場合についての注意点などをご説明いたします。

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まずは、お手元に年金生活者支援給付金請求書の書式が届いているかをご確認ください。

年金に関して成年後見人に送付先変更をしている場合には、年金生活者支援給付金請求書も成年後見人に届くので見落としはないとは思いますが、送付先変更をしていない場合には本人の住所に届きますのでしっかりと郵便物の確認が必要です。

もしも支給対象者と見込まれる場合にもかかわらず、本人が書式を持っていないような場合には、紛失のおそれもありますので、念のため日本年金機構にお問い合わせした方がよいでしょう。

 

次に、年金生活者支援給付金請求書の内容ですが、とてもシンプルな書式になっています(記入の手間が省けますので、とてもよい書式だと思います)。

記入する箇所は、氏名欄(下記画像ア)、電話番号欄(同ウ)、提出日欄(同イ)の3箇所です。

提出日欄についてはそれほど問題にはなりませんので、残りの氏名欄と電話番号欄について、成年後見人が記入する場合の書き方などをご説明いたします。

筆者が日本年金機構に確認したところ、

  • 氏名欄には本人の氏名だけを記入する(「~成年後見人…」という記入は不要)
  • 代理人(成年後見人)が氏名を記入した場合には、押印が必要
  • 押印に用いる印鑑は本人のものでも、成年後見人のものでも構わない
  • 電話番号は成年後見人のもので構わない
  • 成年後見の登記事項証明書などの書類の添付は不要

とのことでした(念のため、ご自身でも日本年金機構に確認されることをお勧めいたします)。

本人の印鑑がない場合でも、成年後見人の印鑑で構わない(その場合でも氏名の記載は本人のものだけでよい)というのは、とてもシンプルでありがたい対応だと思います。

 

提出期限についてですが、2019年12月の年金支給分から年金生活者支援給付金を上乗せするためには、2019年10月18日までに年金生活者支援給付金請求書が届くように投函するようにと記載されています(「ご案内リーフレット」には請求書受領後なるべく1週間以内に提出してほしいとも記載されています)。

特に注意しなければならないのは、提出が遅れると、年金生活者支援給付金がもらえる時期が遅くなるだけでなく、2019年12月末日を過ぎて手続きをした場合、2020年2月分からの支給になる(2019年10月~2020年1月の4ヶ月分がもらえなくなる。遅れれば遅れるほどもらえない期間が増えていく可能性がある)ので、できるだけ早く提出されることをお勧めします。

せっかくもらえる年金生活者支援給付金ですので、成年後見人としては、本人のために手続き忘れのないようにしっかりと対応していただければと思います。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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法律事務職向 覚えておきたい社会保険の基礎知識 ~交通事故編 その6~

社会保険労務士と学ぶ 交通事故事務で覚えておきたい社会保険の基礎知識 後遺障害③(後遺障害に関係する社会保険給付の損益相殺)

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険手続を中心に弁護士業務や成年後見業務をサポートしている社会保険労務士の徳本博方です。

筆者が法律事務職として働いているときにはよく知らなかった社会保険の基礎知識について、法律事務職の皆さま向けにまとめてみたいと思います。

今回は交通事故編その6として、後遺障害に関係する社会保険給付の損益相殺についてお話していきたいと思います。

交通事故で後遺障害が生じて社会保険給付が先行した場合、損害賠償金との関係では、交通事故という同一の原因から生じているので、二重取りを防ぐために、損益相殺としてその調整(損害賠償額からの控除)が必要になる場合があります。

もっとも、損益相殺は法的な問題であり弁護士の先生方の専門分野ですので、ここではどのような種類の社会保険給付が損益相殺の対象になるのかなどの大まかな紹介にとどめ、あまり突っ込んだ議論には入りませんので、ご了承ください。
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後遺障害の損害賠償で問題となる社会保険給付

【健康保険(協会けんぽ)】

  • 傷病手当金(ただし、原則として症状固定後には傷病手当金は支給されないので、後遺障害の損害賠償との関係ではあまり問題にはならない=傷病手当金は休業損害との関係で損益相殺の問題になる)

【労災保険】

  • ①障害(補償)給付
    • 障害(補償)年金
    • 障害(補償)一時金
  • ②特別支給金
    • 障害特別支給金
    • 障害特別年金
    • 障害特別一時金

【公的年金(国民年金・厚生年金)】

  • ③障害基礎年金
  • ④障害厚生年金

 

損益相殺で控除される社会保険給付と控除制限

上記のように、後遺障害の損害賠償で問題となる社会保険給付として、労災保険の①障害(補償)給付・②特別支給金、公的年金の③障害基礎年金、④障害厚生年金の4つがあります(健康保険の傷病手当金はあまり問題にならないので省略します)。

これらの社会保険給付のうち、損益相殺として後遺障害の損害賠償額から控除されるものは、労災保険の①障害(補償)給付、公的年金の③障害基礎年金、④障害厚生年金の3つです。

労災保険の②特別支給金は、損益相殺として後遺障害の損害賠償額から控除されないという取扱いになっていますのでご注意ください。(2019年版「赤い本」上巻の200ページをご参照ください)

 

また、労災保険の①障害(補償)給付、公的年金の③障害基礎年金、④障害厚生年金の3つの社会保険給付を、損益相殺として後遺障害の損害賠償額から控除する場合であっても、すべての後遺障害の損害賠償額から控除するわけではありません。

損益相殺については、当該社会保険給付と同一性を有する損害費目との関係に限り、控除が認められています。

後遺障害の損害費目は、主に逸失利益と慰謝料に分かれます。

そして、労災保険の①障害(補償)給付、公的年金の③障害基礎年金、④障害厚生年金に関しては、逸失利益から控除することはできても、慰謝料から控除する必要はないとされています。

法律事務職の皆さまが損益相殺の控除計算をする際には、これらの社会保険給付を後遺障害の慰謝料から控除しないように気をつけましょう。

たとえば、損害賠償として逸失利益100万円、後遺障害慰謝料200万円だった場合には、控除すべき社会保険給付が100万円を超えたとしても、慰謝料200万円から控除してはいけないというわけです(逸失利益以上の社会保険給付を受けたとしても制度上問題がないということです)。

なお、公的年金の場合には障害認定日が症状固定日よりも早くなる場合(初診日から1年6月経過日後に症状固定日がある場合など)がありますし、そもそも損害賠償における症状固定日と社会保険給付における症状固定日とで認定にずれが生じることもありえますので、そのような場合には休業損害との損益相殺が問題になることもあります。

いずれにしても、慰謝料との損益相殺をしないように注意しなくてはなりません。

 

さいごに、支給未確定部分の控除制限について述べます。

社会保険給付の中には、年金として継続的に支給されるものと、一時金として一回だけ支給されるものがあります。

一時金の場合には支給額の確定はそれほど問題にはなりませんが、年金の場合にはいつまでの支給分までを控除すればよいのかという問題があります。

後遺障害で問題となる社会保険給付のうち年金で支給されるものには、労災保険の障害(補償)年金と公的年金の障害年金(障害基礎年金・障害厚生年金)がありますが、これらの年金は障害の程度に変更がないなら終身支給されるのが原則です(障害の程度が軽くなれば支給されなくなることもあります)。

また、毎年の年金の支給額にしても物価変動などの要因によって変更されることもありますし、障害の程度の悪化や軽減によって等級が変わることも考えられます。

このように、年金はいつまでいくらもらえるのかが不確定なのです。

そうすると、年金を損益相殺で控除する場合には、支給未確定部分をどこかの時点で区切って、それ以降の部分の控除を制限する必要が生じます。

そこで、年金の場合には、将来の給付が見込まれる場合でも、事実審口頭弁論終結時点で支給を受けることが確定した給付額の限度で控除が認められるとされているのです(具体的には既払いのもののほか、1、2ヶ月程度先の分までといったところでしょう)。

 

さいごに

今回のお話を簡単にまとめると、次の表のようになります。

交通事故事務において、損益相殺の控除計算は、損害賠償の請求額に直結するとても大切な問題です。

特に損益相殺の要否と控除費目については、うっかりして特別支給金を控除したり、慰謝料から控除したりすれば、弁護過誤にもなりかねない重大なミスになります。

法律事務職の皆さまにおかれましては、その都度弁護士の先生にしっかりと確認して、細心の注意を払って控除計算をしていただければと思います。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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法律事務職向 覚えておきたい社会保険の基礎知識 ~交通事故編 その5~

社会保険労務士と学ぶ 交通事故事務で覚えておきたい社会保険の基礎知識 後遺障害②(後遺障害に関係する社会保険給付の相互の関係)

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険手続を中心に弁護士業務や成年後見業務をサポートしている社会保険労務士の徳本博方です。

筆者が法律事務職として働いているときにはよく知らなかった社会保険の基礎知識について、法律事務職の皆さま向けにまとめてみたいと思います。

今回は交通事故編その5として、後遺障害に関係する社会保険給付の相互の関係についてお話していきたいと思います。

後遺障害の逸失利益に関係する社会保険給付としては、

  • 公的年金(国民年金や厚生年金)の障害年金(障害基礎年金、障害厚生年金)
  • 労災保険の障害(補償)給付(障害(補償)年金、障害(補償)一時金)

があります。

また、休業損害に関係する社会保険給付としては、

  • 健康保険(協会けんぽ)の傷病手当金
  • 労災保険の休業(補償)給付・傷病(補償)年金

がありますので、これらとの関係についても併せてみていきたいと思います。

なお、交通事故の加害者(自賠責保険や任意保険)からの損賠賠償との関係においては、損害賠償を受け取っている場合などには、これらの社会保険給付が支給停止になるなどして、支給されないこともあります。

今回はあくまで社会保険給付間の関係を取り上げており、これらの社会保険給付と損害賠償との関係は別の機会にご説明できればと思っています。

以下は、社会保険給付が損害賠償に先行した場合を想定しているとお考え下さい。

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各種社会保険給付の関係

今回は、健康保険(協会けんぽ)、労災保険、公的年金(国民年金・厚生年金)の3つの社会保険を取り上げます。

これらの関係については、

  • 労災保険が使えるときには健康保険は使えない
  • 公的年金(国民年金・厚生年金)は、健康保険や労災保険と併せて使える
  • 同一の原因に基づく社会保険給付を併せて使える場合には、何らかの調整が必要になる場合がある

という3点を覚えておいてください。

 

ですので、考えられる組み合わせとしては、

  • 健康保険+公的年金
  • 労災保険+公的年金

の2つになります。

以下、この2つの組み合わせについてみていきましょう。

 

健康保険+公的年金の組み合わせ

この組み合わせで出てくる社会保険給付は、

  • 健康保険の傷病手当金
  • 公的年金の障害年金(障害基礎年金・障害厚生年金)

です。

これらの関係は比較的シンプルで、基本的にはつぎの図1のようになります。

イメージとしては交通事故日からだいたい1年6月を経過したころに、傷病手当金の支給が限度を迎え、その後は障害の程度に応じて障害年金に切り替わるというかんじです(それぞれは別の手続きが必要です)。

この「1年6月」という時期は、健康保険の傷病手当金と公的年金の障害年金がそれぞれの制度で規定しています。

傷病手当金は支給開始日から1年6月を限度として支給するとされています。

ただし、傷病手当金は支給開始前に連続した3日間の待期期間が必要なので、交通事故日からすぐに支給されるわけではありません。

これに対して、障害年金(認定日請求の場合)は「障害認定日」の翌月から年金が発生しますが、この障害認定日とは、初診日から1年6月経過日または症状固定日のどちらか早い方とされています。

交通事故の場合、事故日が初診日になることが多いので、遅くとも交通事故日から1年6月経過日の翌月には障害年金が受給できる可能性があるということです。

なお、障害年金はある程度の重い後遺障害が発生した場合に支給されますので、損害賠償において自賠責保険の後遺障害等級の下位の等級で認定されたような場合には、障害年金の等級には不該当となります(自賠責保険の後遺障害等級と障害年金の等級は必ずしもリンクしていませんので、その点もご注意ください)。

 

では、傷病手当金と障害年金の支給期間が重なることはないのでしょうか。

結論から言えば、重なることはありえます。

まず、傷病手当金の支給開始日が遅くなったような場合(たとえば連続3日間の待期期間がなかなか成立しなかったような場合)です。

この場合、支給開始日が遅くなった分、傷病手当金の支給限度日もずれ込みますので、場合によっては傷病手当金と障害年金の支給期間が重なることはありえます(もっとも、障害年金の等級に該当するような後遺障害が発生したということは、交通事故発生当時からある程度重い症状である場合がほとんどですので、このような重なり合いはそれほど発生しないと思われますが)。

また、障害年金の障害認定日は初診日から1年6月経過日よりも早まることもありえます。

それは、症状固定日が初診日から1年6月経過日よりも早い場合です。

この場合の傷病手当金と障害年金の支給関係は、つぎの図2のようになります。

図2の場合、「調整①」とある期間は傷病手当金と障害年金の支給期間が重なりあうことになります。

この場合、傷病手当金と障害年金は、交通事故という同一の原因によって生じたものですので、何らかの調整が必要になります。

その調整とは、原則として、傷病手当金が不支給となり、障害年金が支給されるという関係になります(調整①の詳細は後でまとめて述べます)。

 

労災保険+公的年金の組み合わせ

この組み合わせで出てくる社会保険給付は、

  • 労災保険の休業(補償)給付・傷病(補償)年金、障害(補償)給付(障害(補償)年金・障害(補償)一時金)
  • 公的年金の障害年金(障害基礎年金、障害厚生年金)

です。

これらの関係は、症状固定日が初診日から1年6月経過日よりも後になるケースとその逆(症状固定日が初診日から1年6月経過日よりも前になるケース)の2つが考えられます。

前者は図3のようなイメージで、後者は図4のようなイメージになります。

図3・4をご覧になってお気づきかもしれませんが、労災保険は損害賠償(自賠責保険)とよく似ている部分があります(歴史的には自賠責保険が労災保険に似ていると言った方がよいのかもしれませんが)。

それは症状固定日(治った日)の前後によって、給付の内容が変わってくるという点です。

ですので、図3・4ともに、労災保険の場合には症状固定日を基準にして、その前後で休業(補償)給付(場合によっては傷病(補償)年金)と障害(補償)年金に分かれています。

このように症状固定日を基準にするという点は、交通事故で自賠責保険を扱っている法律事務職の皆さまには理解しやすいのではないでしょうか。

もっとも、制度そのものや認定機関が異なるので、完全にリンクしているというわけではありません。

たとえば、休業損害は休業日の初日から賠償されますが、労災保険の休業(補償)給付は3日の待期期間(この3日は連続している必要はない)を経過した第4日目から支給されますし、後遺障害の等級にしても認定機関が異なりますので自賠責保険と労災保険では異なる認定がなされる場合もあります。

 

これに対して、公的年金の障害年金は、すにでお話したように、初診日から1年6月経過日か症状固定日のどちらか早い方を「障害認定日」として、その翌月から支給されます。

そのため、図3のように、症状固定する前に障害年金の支給が始まることもあります。

そうすると、公的年金の障害年金は、

  • 症状固定日以前:労災保険の休業(補償)給付(場合によっては傷病(補償)年金)と支給期間が重なる(調整②)
  • 症状固定日後:労災保険の障害(補償)年金と支給期間が重なる(調整③)

という関係になります。

ただし、ここで注意が必要なのですが、労災保険と公的年金において症状固定日の取扱いが違う場合もあります。

その場合には、労災保険では症状固定として扱いつつ、公的年金では1年6月経過日を待って障害年金を支給するということもありえます(図4の公的年金の障害年金の支給開始が右にずれるイメージです)。

調整②と調整③の詳細は後述しますが、これらのケースではいずれも、公的年金の障害年金は全額支給され、労災保険の各給付が減額調整されることになります(なお、一時金である障害(補償)一時金は調整の対象になりません)。

 

各社会保険給付間の調整

ここでは、公的年金の障害年金と各社会保険給付の支給期間が重なった場合の取扱いについてまとめてみましょう。

 

調整①(健康保険の傷病手当金との関係)

この場合には、公的年金の障害年金は全額支給されますが、障害厚生年金が支給される場合には健康保険の傷病手当金は支給されないのが原則です(なお、障害基礎年金だけが支給される場合には傷病手当金の支給調整はありません=障害基礎年金と傷病手当金が併給されます)。

ただし、障害厚生年金が支給される場合であっても、傷病手当金の日額と公的年金の障害年金の受給額を360で割った額(1円未満は切り捨て)とを比較して、傷病手当金の金額の方が多ければ、その差額が傷病手当金として支給されます。

 

調整②(労災保険の休業(補償)給付・傷病(補償)年金との関係)

この場合には、公的年金の障害年金は全額支給されますが、労災保険の休業(補償)給付・傷病(補償)年金が以下の割合に減額されます。

  • 障害基礎年金だけ受給の場合:88%に減額
  • 障害厚生年金だけ受給の場合:88%に減額
  • 障害基礎年金+障害厚生年金を併せて受給の場合:73%に減額
  • ただし、休業(補償)給付の場合、併給調整後の休業(補償)給付 の受給額が、併給をしなかった場合における休業(補償)給付の受給額から公的年金の障害年金の受給額  × 1/365を控除した額よりも低額となる場合は、「調整前の休業(補償)給付 – 公的年金の障害年金の受給額 × 1/365」が休業(補償)給付の額とされます。また、傷病(補償)年金の場合、併給調整後の受給合計額が、併給をしなかった場合における労災保険の傷病(補償)年金の受給額より低額となるときは、調整前の労災保険の傷病(補償)年金の受給額から公的年金の障害年金の受給額を減じた額が労災保険の傷病(補償)年金の受給額とされます
  • 調整対象はあくまで休業(補償)給付・傷病(補償)年金であって、特別支給金は調整されません

 

調整③(労災保険の障害(補償)年金との関係)

この場合には、公的年金の障害年金は全額支給されますが、労災保険の障害(補償)年金が以下の割合に減額されます。

  • 障害基礎年金だけ受給の場合:88%に減額
  • 障害厚生年金だけ受給の場合:83%に減額
  • 障害基礎年金+障害厚生年金を併せて受給の場合:73%に減額
  • ただし、併給調整後の受給合計額が、併給をしなかった場合における労災保険の障害(補償)年金の受給額より低額となるときは、調整前の労災保険の障害(補償)年金の受給額から公的年金の障害年金の受給額を減じた額が労災保険の障害(補償)年金の受給額とされます
  • 調整対象はあくまで障害(補償)年金であって、障害(補償)一時金や特別支給金は調整されません

 

また、一時金との関係も確認しておきましょう。

【厚生年金の障害手当金との関係】

厚生年金では、3級よりも障害の程度が軽度な場合でも症状固定するなど一定の要件を充たせば「障害手当金」として一時金が支払われることがあります。

この障害手当金と各社会保険給付との関係は、

  • 健康保険の傷病手当金は、傷病手当金の額の合計額が障害手当金の額に達することとなる日までの間、傷病手当金は支給されません
  • 労災保険の障害(補償)給付を受け取る権利のある者には、障害手当金は支給されません

です。

 

【労災保険の障害(補償)一時金との関係】

労災保険では、後遺障害の等級が8~14級の場合には、障害(補償)一時金として、年金ではなく一括払いで給付を行います。

この場合には公的年金の障害年金との調整はありません。

なお、同一原因の傷病等について、労災保険が使われる場合には健康保険は使えないのが原則ですので、健康保険の傷病手当金との調整は問題とはなりません。

 

さいごに

ここでは、健康保険、労災保険、公的年金の3つの社会保険給付が絡まっていて、結構複雑な組み合わせになっています。

少し詳しく説明した部分もあるので、最初は混乱するかもしれませんが、法律事務職の皆さまの基礎知識としては、だいたいの全体像をつかんでいただければ結構だと思います(実際の調整は保険者が行いますので)。

ところで、少しレアなケースとして、雇用保険の基本手当(その代替の傷病手当)と公的年金の障害年金の関係が問題になる場合もありますが、これらは併給可能ですのであまり問題にはなりません。

むしろ問題となるのは、この後の社会保険給付と損害賠償との調整です(こちらの方がメインです)。

それは次回以降でお話できたらと思っていますので、もうしばらくお付き合いくださいませ。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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社会保険労務士と学ぶ 交通事故事務で覚えておきたい社会保険の基礎知識 後遺障害①(後遺障害に関係する社会保険の内容)

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険手続を中心に弁護士業務や成年後見業務をサポートしている社会保険労務士の徳本博方です。

筆者が法律事務職として働いているときにはよく知らなかった社会保険の基礎知識について、法律事務職の皆さま向けにまとめてみたいと思います。

今回は、交通事故編その4です。

今回からは、いわゆる後遺障害に関係する社会保険についてお話していきたいと思います。

まずは、後遺障害に関係する社会保険にはどのようなものがあるのかについてご紹介していきます。

後遺障害に関係する社会保険は主に公的年金(国民年金や厚生年金)の障害年金(障害基礎年金、障害厚生年金)と労災保険の障害(補償)給付です。

また、休業損害のところで問題になった健康保険の傷病手当金や労災保険の休業(補償)給付・傷病(補償)年金との関係が問題になることもありますので、これらも併せて考えていきましょう。

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 損害賠償と社会保険給付の関係

後遺障害が生じた交通事故の損害賠償では、「症状固定日」を基準として同日までが治療費や休業損害、入通院慰謝料の問題、同日後が逸失利益、後遺障害慰謝料の問題に分けて計算するのが一般的です(詳しくは弁護士の先生にご確認ください)。

それらのうち、治療費と休業損害に対応する社会保険給付に関連する問題は既にみてきました。

簡単におさらいすれば、

治療費:健康保険や労災保険の療養の給付など

休業損害:健康保険の傷病手当金、労災保険の休業(補償)給付・傷病(補償)年金

が対応しています。

 

これに対して、後遺障害の逸失利益に対応する社会保険給付は、

健康保険:なし(症状固定日の前後関係で傷病手当金が発生する可能性がある)

労災保険:障害(補償)給付

公的年金:障害年金(症状固定日の前後関係で休業損害に対応することもある)

のように対応しています。

また、後遺障害の将来の介護費のような損害に対しては労災保険の介護(補償)給付がありますが、少し細かいので、今回は逸失利益に対応した社会保険給付について考えていきます。

なお、社会保険給付は慰謝料(入通院・後遺障害ともに)に対応するものではないので、その点は損益相殺(充当処理)の際には要注意です。

 

これらの各種社会保険の関係を簡単にまとめると次の図1のようになります。

この図1では初診日の1年6月経過日以降に症状固定日がくる設定にしていますが、症状固定日の前後によって他にもパターンが考えられます(詳しくは次回述べます)。

なお、前回のおさらいですが、労災保険が使えるときには健康保険は使えないのが原則ですので、健康保険の傷病手当金と労災保険の休業(補償)給付が併給されることはありません。

 

どれくらいの給付が、いつからいつまでもらえるのか

上記の各種社会保険給付の支給の内容とそれがいつからいつまでもらえるものなのかをまとめてみましょう。

 

【健康保険の傷病手当金】

支給額:1日につき、傷病手当金の支給を始める日の属する月以前の直近の継続した12月間の各月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額の3分の2に相当する額

支給開始日:療養のため労務に服することができなくなった日から起算して継続した3日を経過した日(=待機期間経過後4日目から支給開始

支給終了日:支給開始日から起算して1年6月を限度(それまでに症状固定すればその後は不支給。ただし「症状固定」かどうかは総合的に判断する)

 

【労災保険の休業(補償)給付】

支給額:1日につき、休業給付基礎日額の60%(+20%の休業特別支給金)

支給開始日:療養のため労働することができず賃金を受けない日の第4日目から支給開始(待機期間の3日は連続している必要はない)

支給終了日:治るまで=症状固定するまで(期限はない) ※ただし療養開始後1年6月経過日(またはそれ以降)に傷病(補償)年金が職権で支給される場合がある

 

【労災保険の障害(補償)給付】

支給額:

 1~7級は障害(補償)年金(給付基礎日額313日分~131日分)

 8~14級は障害(補償)一時金(給付基礎日額503日分~56日分)

この他に障害特別支給金や障害特別年金、障害特別一時金がある

支給期間:

障害(補償)年金(1~7級):支給要件に該当することになった日の翌月から支給開始(障害の程度に変更がなければ期限はない=終身支給される)

障害(補償)一時金(8~14級):一時金として支給される

 

【公的年金の障害年金】

支給額(2019年4月現在)

障害基礎年金:

 1級 975,125円+(子の加算)

 2級 780,100円+(子の加算)

障害厚生年金:

 1級 (報酬比例の年金額) × 1.25 + (配偶者の加給年金額)

 2級 (報酬比例の年金額) + (配偶者の加給年金額)

 3級 (報酬比例の年金額)

 障害手当金 (報酬比例の年金額)×2

支給期間:

 1~3級:障害認定日(初診日から1年6月経過日または症状固定日のどちらか早い方)の翌月から支給開始(障害の程度に変更がなければ期限はない=終身支給される)

障害手当金:一時金として支給される

 

症状固定日の問題

後遺障害の生じた交通事故の損害賠償は「症状固定日」を基準にその前後で損害の種類が異なりますが、社会保険給付は微妙にずれが生じることがあります。

特に公的年金の障害年金については、前述のとおり「障害認定日」という独自の制度を用いていますので、必ずしも「症状固定日」と一致するとは限りません。

また、損害賠償の症状固定日と社会保険給付の症状固定日が必ずしも一致しないという問題もあります(損害賠償と労災保険の症状固定日は比較的類似していますが、健康保険や障害年金の症状固定日とは異なる認定がなされる場合があります)。

交通事故の実務をやっていると、損害賠償上は症状固定をしていても、その後も健康保険を使って療養を行っているようなケースに出くわすことがあります。

弁護士の先生によっては「症状固定後の治療は、ご自分の健康保険を使って自己負担になります」と説明されることもありますが、これはよく考えたら矛盾しているようにも思えます。

なぜならば、健康保険は症状固定後は使えないのが原則だからです。

ただ、これは損害賠償上の症状固定と健康保険上の症状固定は必ずしも一致しないと考えれば矛盾はしません。

たとえば、健康保険の傷病手当金に関しては、症状固定後は「療養のため」といえないので、不支給となるのが原則ですが、医学的にみて症状固定となれば当然に「療養」の必要がなくなるとするのは相当ではなく、社会通念や、制度の趣旨・目的に鑑み、総合的に判断するとした裁決もあります。

また、障害年金の「障害認定日」にしても、初診日から1年6月を経過する前に症状固定となった場合には、症状固定日=障害認定日となるはずですが、たとえば高次脳機能障害のような場合には、損害賠償上の症状固定日が初診日から1年6月経過日より前にあったとしても、1年6月経過日を障害認定日とすることもあります。

法律事務職のみなさんは交通事故の「症状固定日」には慣れていると思いますが、その感覚を当然に社会保険給付に当てはめると、思わぬ勘違いに陥ることもありますので要注意です。

 

さいごに

今回は後遺障害に関係する社会保険給付の概要をご紹介しました。

次回は、これらの社会保険給付が相互にどのような関係になるのか(併給の可否や調整の問題について)みていきたいと思います。

前述の症状固定の問題やそもそもの支給の始期や終期が各社会保険で微妙に違うという制度上の問題もあって、これらの社会保険が併給関係になることも少なくありません。

まずは細かいところは置いておいて、全体像を把握してもらえればと思っています。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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障害厚生年金のここがありがたい!

社会保険労務士が紹介する障害厚生年金のありがたい5つのポイント

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険手続を中心に弁護士業務や成年後見業務をサポートしている社会保険労務士の徳本博方です。

今回は「障害厚生年金のここがありがたい!」というテーマで、障害厚生年金のありがたいポイントを5つご紹介したいと思います。

障害年金は、障害基礎年金(国民年金)と障害厚生年金に大きく分かれますが、弁護士の先生方や法律事務職員のみなさまとお話していると、意外とこの2つの違いを意識されていない場合があります。

障害の程度を確認した際に「厚生年金加入期間中だったらよかったのですけどね・・・」などと申し上げても、ピンとこない人もいらっしゃいます。

障害厚生年金のポイントをご紹介しながら、できるだけ障害基礎年金との異同もご説明できればと思っていますので、ご参考にしていただければ嬉しいです。
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障害厚生年金が支給されるのはどんな人?

障害厚生年金のポイントを知る前に、まず障害厚生年金はどのような人に支給されるのかを確認しておきましょう。

それは、初診日が厚生年金に加入している間にあるかどうかで判断されます。

初診日とは、障害の原因となった病気やケガについて初めて医師または歯科医師の診療を受けた日のことです。

発症した日を基準にするのではなく、初診日を基準にするという点は注意が必要です(知的障害のように生まれながらの障害の場合には出生日を初診日として取り扱う場合もありますが、原則として初めて診療を受けた日が初診日となります)。

たとえば、厚生年金に加入している人が、会社に勤めている間は何となく体調が悪いと思いつつ、忙しくて病院に行けなかったような場合で、退職後に初めて病院に行って診療を受けたという場合には、初診日が厚生年金に加入している間にないことになり、障害厚生年金の対象にならないケースも考えられます(このような場合でもすぐに諦めるのではなく、厚生年金に加入している間に何とか初診日として認めてもらえる日がないか探すことをお勧めします)。

この他にもいわゆる保険料納付要件も必要となりますが、これは障害厚生年金だけでなく障害基礎年金にも共通しています。

 

ありがたいポイント1 障害厚生年金には3級・障害手当金の制度がある

障害厚生年金最大の特徴は、3級と障害手当金の制度があることです。

障害厚生年金は、障害の重さによって1~3級と障害手当金に区分されています(重い方が1級)。

これに対して、障害基礎年金(国民年金)は1級と2級しかありません。

つまり、障害厚生年金の1級・2級に該当した場合には、併せて障害基礎年金の1級・2級が支給されるのですが、障害厚生年金の3級や障害手当金に該当した場合には、障害厚生年金(3級・障害手当金)だけが支給されるということです。

これは裏を返せば、障害基礎年金しか該当しない人(初診日が厚生年金の加入期間にない人)が3級や障害手当金相当の障害を負った場合には、障害年金はまったくもえらえないということを意味します。

この違いは大きいです。

たとえば、交通事故などで下肢の3大関節の1つに人工関節をそう入置換することになったような場合であれば、障害年金の等級は3級に該当するのが原則です。

そうすると、被害者が障害厚生年金に該当する人(初診日が厚生年金の加入期間にある人)であれば、3級が認定されて障害厚生年金が支給される可能性が高いのですが、障害基礎年金しか該当しない人の場合(初診日が厚生年金の加入期間にない人)には、3級では障害基礎年金が支給されないので、より重い2級以上に該当するかどうかが問題になってきます(2級以上に該当しなければ障害年金はまったくもらえないということです)。

なお、人工関節=3級というイメージが強いですが、機能障害の状態などによっては2級以上に認定される場合もありますので、諦めずにしっかりと確認されることをお勧めします。

 

ありがたいポイント2 障害厚生年金は初診日が65歳以上であっても可能性あり

障害厚生年金は、初診日が厚生年金に加入している間にあるかどうかで判断すると先ほど述べましたが、厚生年金は原則70歳まで加入できますので、その期間内に初診日があれば障害厚生年金を受給できる可能性があるということです。

これに対して、障害基礎年金(国民年金)の場合には、原則として、少なくとも65歳までに初診日がなければいけません(65歳以上でも国民年金に任意加入している場合や2号被保険者になっている場合には例外的に障害基礎年金の対象になる場合もありますが、このようなケースでは65歳以上の時点で老齢年金の受給期間を充たさないことが前提ですので、現実問題としてはこのような場合に障害年金の保険料納付要件をクリアできるのかはかなり厳しいところです)。

つまり、障害年金がもらえる可能性のある年齢が障害厚生年金の方が有利になっているということです。

もっとも、65歳以上の厚生年金加入期間内の初診日の場合、老齢年金の受給資格を有している人については障害基礎年金の支給はありません(つまり、この場合、1級や2級に該当しても、障害基礎年金は支給されず、障害厚生年金だけが支給されるということです)。

また、年金には1人1年金の原則がありますので、老齢基礎年金と障害厚生年金は併給できません(これに対して、例外的に障害基礎年金と老齢厚生年金は併給できます)。

ですので、このような場合には老齢基礎年金や老齢厚生年金の額と障害厚生年金の額を比べてみることになるでしょう(また、受給額だけでなく、老齢年金は課税対象ですが、障害年金は非課税なので、この点も考慮することになります)。

 

ありがたいポイント3 障害厚生年金には配偶者の加給年金がある

次に障害厚生年金の支給額についてみていきましょう。

支給額に関する障害厚生年金のありがたいポイントとしては、配偶者の加給年金があります。

障害厚生年金の支給額を簡単に説明すると、

【1級】(報酬比例の年金額) × 1.25 + (配偶者の加給年金額)

【2級】(報酬比例の年金額) + (配偶者の加給年金額)

【3級】(報酬比例の年金額)

のようになります。

このように、1級と2級には配偶者の加給年金が認められています(残念ながら3級にはありません)。

この配偶者の加給年金は、障害年金の受給者に生計を維持されている65歳未満の配偶者がいるときに加算されるものです(その配偶者が障害年金を受給している場合など一定の場合には支給停止になります)。

配偶者の加給年金の額は2019年4月現在で年額224,500円です。

これに対して、障害基礎年金(国民年金)の場合には子の加算が認められています。

ところで、この配偶者の加給年金に関して、「自分は独身だからあまり関係ない」と思われた人もいるかもしれません。

しかし、この配偶者の加給年金は、受給権取得時に対象となる配偶者がいる場合だけでなく、受給権取得後に婚姻して、新たに対象となる配偶者が生じた場合でも、手続きをすればもらえるようになります。

そのような場合には、手続き忘れのないようにご注意ください。

 

ありがたいポイント4 障害厚生年金には300月みなし制度がある

支給額に関する障害厚生年金のありがたいポンイントはまだあります。

それは300月みなし制度です。

前述のように、障害厚生年金の受給額は「報酬比例の年金額」が基本です(1級の場合には報酬比例の年金額は1.25倍で計算されます)。

この「報酬比例の年金額」の計算は少し複雑なので省略しますが、年金額計算の基礎とされる被保険者期間が長ければ長いほど年金の金額は多くなるのが原則です(障害認定日(原則として初診日から1年6月経過日)の属する月後の被保険者期間は年金額計算の基礎とはされません)。

逆にいえば、障害認定日の属する月までの被保険者期間が短い人の場合、それほどの金額にはならないということです。

そこで、この300月みなしが効いてきます。

これは、被保険者期間が300月未満の場合は、300月とみなして計算する制度です。

300月=25年です。

極端な例でいえば、仮に1ヶ月しか働いていなくても、その間に初診日があれば、25年間働いたものとみなして障害厚生年金の「報酬比例の年金額」を計算するということです(この場合にはもらえる金額は300倍になるということです)。

なお、障害手当金の場合には「報酬比例の年金額」の2年分が一時金として支給されます(一時金というのは、定期的・継続的にもらえる年金とは異なり、1度しかもらえないという意味です。簡単に言えば、一括払いということです)。

これに対して、障害基礎年金(国民年金)の場合には、被保険者期間に関係なく、一律の定額制です。

2019年4月現在の障害基礎年金の額は、年額で1級975,125円、2級780,100円です(対象となる子がいる場合には子の加算もあります)。

 

ありがたいポイント5 障害厚生年金には最低保障額制度がある

支給額に関する障害厚生年金のありがたいポンイントはさらにあります。

それは最低保障額制度です。

この最低保障額制度は障害厚生年金の受給権者が障害基礎年金(1級・2級)をもらえない場合(主に障害厚生年金3級や障害手当金の場合)に認められています。

その額は、障害基礎年金2級の3/4に相当する額とされ、2019年4月現在年額585,100円です(障害手当金の場合はその2倍の1,170,200円が最低保障額です)。

一般的に、若いころの給与や賞与は安く抑えられていることが多いので、300月みなしで計算したとしても、障害厚生年金の額が障害基礎年金2級の額の3/4にすら満たない場合もあります(若い人だけに限りませんが)。

障害基礎年金がもらえる1級や2級の人であればまだいいのですが(2019年4月現在の障害基礎年金の額は、年額で1級975,125円、2級780,100円)、そうでない人であれば障害厚生年金だけではもらえる金額が少なすぎるということもありえます。

そこで、障害基礎年金をもらえない人(主に障害厚生年金3級や障害手当金の人)に関しては、最低保障額を設けて救済をしているというわけです。

 

さいごに

以上「障害厚生年金のここがありがたい!」というテーマで、障害厚生年金のありがたいポイントを5つご紹介いたしました。

この他にも、障害厚生年金3級の場合には、精神障害などの場合に就労していても比較的認められやすい傾向もあり、これもありがたいポイントの1つです。

繰り返しになりますが、障害厚生年金がもらえるかどうかは、初診日が厚生年金加入期間内にあるかどうかで判断されます。

ですので、会社の健康診断で引っかかった場合や、心や体に不調を感じた場合などには、できるだけ速やかに医療機関を受診されることをお勧めします(受診時には確定的な診断が出ていなくても、後になってその日が初診日と認められることもあります)。

最後までお読みいただきありがとうございました。

この記事がみなさまのお役に立てれば幸いです。

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てとて障害年金支援プロジェクトへの道 その2

弁護士、社会福祉士、社会保険労務士のチームによる障害年金支援プロジェクト(2)

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本です。

筆者が社会保険労務士として参加している、一般社団法人萩長門成年後見支援センター「てとて」の新規事業「てとて障害年金支援プロジェクト」についての報告です。

 

今回はその第2回目です。

最近の活動報告などをお知らせしていきます。

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弁護士会主催の研修会を見学させてもらいました

2019年7月12日に近隣の県で行われた弁護士会主催の障害年金の研修会を見学する機会をいただきました。

「てとて障害年金支援プロジェクト」メンバーの弁護士と一緒に伺ったのですが、障害年金実務に精通した弁護士の先生と社会保険労務士の先生が2人で講師を担当されており、とても面白く有意義な研修会でした。

約80人の弁護士の先生方が会場で研修を受けておられました(その研修は他の2会場にも中継されていたようで、実際に研修を受けられた弁護士の先生方の数はもっと多いはずです)。

研修を受けておられる弁護士の先生方の様子をうかがっていましたが、皆さん熱心にメモを取られたり質問されたりして、弁護士の先生方の障害年金に対する関心の高さが伝わってきました。

筆者も個人的に何人かの弁護士の先生方と交流がありますが、こと社会保険に関しては、正直申し上げて、実務的なことはもちろん、基本的な知識さえ理解されていない弁護士の先生がいらっしゃるのも事実です(中には障害基礎年金と障害厚生年金の違いからご説明しなければならない先生もいらっしゃいます)。

ですので、このようにたくさんの弁護士の先生方が熱心に障害年金の研修を受けられている場面を拝見し、とても感動いたしました。

個人的には、矛盾の多い「障害認定基準」に挑戦していくためには、訴訟による司法的救済を図らなければならない点も多いと思っています。

そのためには、弁護士と社会保険労務士の協働を実現しなければなりません。

訴訟に関しては社会保険労務士が補佐人として弁護士とともに法廷で陳述できる制度もできましたので、この補佐人制度を積極的に活用し、弁護士と社会保険労務士の協働を実現する場こそが、障害年金分野なのではないかと思っています。

「てとて障害年金支援プロジェクト」を立ち上げたのには、そういった目的もあります。

私たちの取り組みはとても小さなものですが、やれることをやっていこうと気持ちを奮い立たせることができました。

 

初の障害年金相談を行いました

7月の後半、記念すべき初めての「てとて障害年金支援プロジェクト」相談をお受けしました。

生活困窮も関連した行政経由のご相談でした。

弁護士と社会保険労務士(筆者)で対応させていただきました。

詳細はもちろんここでは明かせませんが、結論だけいえば、解決の方向性が見えてきたのではないかと思います(今後も継続して支援させていただきます)。

障害年金に関しては、どうして今まで話が出ていなかったのか不思議なのですが、個人的にはかなり高い確率で3級を狙える事案なのではないかと思っています。

実は、この切り口は前述の障害年金研修で社会保険労務士の講師の先生がお話されたことが大きなヒントになりました(研修はうけてみるものですね!)。

いずれにしても、初めて弁護士+社会保険労務士のチームでご相談をお受けすることができ、両者の知恵を出し合って対応できたのではないかと思います(そもそもの相談内容が生活困窮でしたので、支出面は弁護士、収入面は社会保険労務士といった対応ができたと思います)。

この調子で、チームとして相談をお受けするノウハウを確立していきたいと思っています。

 

同一手続同一報酬の原則

まだ「てとて障害年金支援プロジェクト」は始まったばかりで、いろいろと決まっていないことが多くあります。

お金の面もそうです。

とりあえず、相談無料、調査実費のみという点はほぼ決まっているのですが、いわゆる着手金と受給時の報酬については決まっていません。

ただ、一つの方針として、受給額に連動した「受給額の~パーセント、または~円の高い方」といった報酬体系にはしないでおこうと話し合っています。

基本は「同一手続同一報酬」の報酬体系でいこうと思っています。

同じ手間なのに、受給額によって報酬が変わるっていうのは、昔から個人的によく理解できないんですよね(これは弁護士報酬にも当てはまることですけど)。

もちろん、たとえは初診日問題が生じて通常のケースよりも手間がかかった場合には、「同一手続同一報酬」の方が結果として報酬が高額になることもあると思います。

なので、どちらの報酬体系が良いとか悪いとかいう話ではなく、個人的な好き嫌いの問題なのかなと思っています(いずれにしても、最終的に依頼をお決めになるのはクライアントですので、しっかり報酬体系を説明して納得いただくことが肝要だと思っています)。

 

さいごに

なんだか色々と決めないままに動き出した「てとて障害年金支援プロジェクト」ですが、まずは動くことに意味があると思っています。

チームで動きながら、いろんな人の協力を仰ぎ、仲間を増やし、経験を積みながら、おひとりでも多くの人のお役に立てれば、結果はついてくるものだと思っています。

一緒にやってみたいとか、話をきいてみたいという法律職や福祉職の方がいらっしゃれば、オフィス北浦の徳本までお問合せいただければと思います。

今後も動きがありましたら、お知らせしていきます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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てとて障害年金支援プロジェクトへの道 その1

弁護士、社会福祉士、社会保険労務士のチームによる障害年金支援プロジェクト(1)

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社会保険労務士の徳本です。

現在、一般社団法人萩長門成年後見支援センター「てとて」の新規事業として、弁護士、社会福祉士、社会保険労務士がチームを組んで、障害年金の支援を行っていくというプロジェクトを準備しています。

筆者も社会保険労務士として、そのプロジェクトに参加しています。

「てとて障害年金支援プロジェクト」といいます。

まだ立ち上げ準備が始まったばかりですが、このブログでも随時進捗状況を発信していこうと思っています。

今回はその第1回目です。

プロジェクトの概要と、今後の予定などをお知らせしていきます。

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てとて障害年金支援プロジェクトの概要

てとて障害年金支援プロジェクトは、法律の専門家の弁護士など、福祉の専門家の社会福祉士など、年金手続の専門家の社会保険労務士がチームを組んで、必要な人に適正な障害年金の受給が可能になるように支援していくプロジェクトです。

具体的には、相談業務に始まって、請求準備支援、請求手続支援、不服申立支援といった内容を予定しています。

相談業務においては、社会福祉士と社会保険労務士のチームがメインになると思われます。

請求準備支援おいては、本人や家族、職場などの事情確認には社会福祉士が、診断書作成で医師との面談などが必要な場合には弁護士が、全体を通じて手続き技術的な面からの指揮やアドバイスを社会保険労務士が担うといったイメージです。

診断書(医師への情報提供を含む)は弁護士と社会保険労務士が担当し、病歴・就労状況等申立書は社会福祉士と社会保険労務士が担当するといった感じになるのではないかと思っています。

請求手続支援と不服申立支援においては、請求手続きは社会保険労務士が、不服申立(訴訟含む)は弁護士と社会保険労務士が主に担当することになるでしょう(実際にやったことはありませんが、訴訟になった場合には、弁護士が訴訟代理人として、社会保険労務士がその補佐人として訴訟対応をするというようなことも視野に入れています)。

以上は、まだまだ流動的な部分が多いのですが、概要としてはこのようなものをイメージしています。

 

プロジェクトの背景

てとて障害年金支援プロジェクトを企画した背景としては、必要な人に適正な障害年金が本当に届いているのだろうかという疑問からです。

障害年金の請求手続き自体のハードルは決して高くありません。

年金事務所でも丁寧に教えてくれます。

専門家に頼んだから年金を受給できるとか、上の等級が狙えるとかそういったことはありません。

黒が白になることはありませんし、それを試みるのが専門家の仕事でもありません。

それでも、必要な人に適正な障害年金が本当に届いているのだろうかという疑問がぬぐえないのはどうしてでしょうか。

筆者はそこに3つのハードルがあるのではないかと考えています。

1つめは、初診日。

障害年金にとって、初診日というのは非常に重要な意味を持っています。

この初診日をどのように証明するのかという点で挫折してしまうケースです。

2つめは、診断書。

診断書を作成するのは医師ですが、そもそもどのように診断書を書けばいいのかよく理解されていないケースや、診断書作成に必要な情報が患者から医師にちゃんと伝わっていないというケースがあります。

適正な診断書が作成されることが適正な障害年金の前提ですが、必ずしも適正な診断書が作成されているわけではないという現状があります。

3つめは、諦め。

障害年金が不支給となった場合などには、不服申立制度が用意されていますが、不支給決定の時点で「どうせだめだろう」と諦めてしまうケースです。

時間と手間とお金をかけて不服申立を行うべきかの判断は専門家でも難しいものですから、その気持ちはよくわかるのですが、どうして不支給になったのかの分析なしに諦めているとしたら、そこには専門家の関与する価値があるように思うのです。

もしもこれらのハードルのせいで、本来もらえるべき適正な障害年金が必要な人に届いていないのだとしたら、それは誰かがお手伝いするべきではないのかというのが問題意識です。

つまり、黒を白にするお手伝いは絶対にできませんが、白が黒にならないようにお手伝いすることはできるし、その必要があるだろうということです。

 

現在の活動状況と今後の予定

現時点では、うちうちの勉強会や外部との意見交換会を実施している段階です。

先日は、障害者支援の現場の精神保健福祉士さんから、障害年金で困っていることをお伺いしました。

「お金がないので、弁護士や社会保険労務士に依頼することができない」という根本的な問題も聞くことができました(実際には福祉職の皆さんが本人に同行するなど支援しているそうです。何度も年金事務所に足を運び、一から確認しながら手続きを進めたとのことでした)。

他の社会福祉士さんからは、初診日問題で苦労しているというお話もありました。

てとて障害年金支援プロジェクトの話をすると、実現に向けて協力したいという前向きなお返事でした。

今後は定期的に、医療関係者も含めて意見交換会を実施し、福祉関係者や医療関係者との協力体制を作っていきたいと思っています。

また、弁護士の先生方との協働にも力を入れていきたいと思っており、7月には某弁護士会で実施される障害年金研修も受講させていだだく予定です(部外者にも関わらずご配慮いただき感謝しています)。

 

さいごに

てとて障害年金支援プロジェクトは、準備が動き出した段階で、ほとんど白紙のような状況です。

それでも、このお話をすれば、興味をもってくださる福祉関係者の方が多いと肌で感じています。

弁護士と社会福祉士だけではできなかったことが、社会保険労務士が加わることで何かできるようになるのであれば、それは意義のあることだと思っています。

もしも萩市、長門市、阿武町近郊の福祉関係者の皆さまでこのプロジェクトに興味のある方がいらっしゃいましたら、オフィス北浦の徳本までお問い合わせいただければと思います。

今後も動きがありましたら、お知らせしていきます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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前後の記事

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法律事務職向 覚えておきたい社会保険の基礎知識 ~交通事故編 その3~

社会保険労務士と学ぶ 交通事故事務で覚えておきたい社会保険の基礎知識 休業損害②(休業損害と社会保険給付の比較・損益相殺)

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本です。

筆者が法律事務職として働いているときにはよく知らなかった社会保険の基礎知識について、法律事務職の皆さま向けにまとめてみたいと思います。

今回は、交通事故編その3です。

ここでは、交通事故の休業損害に関係する社会保険について、筆者が実務上経験したことを交えて、2回に分けてお話ししたいと思います(今回は2回目です)。

今回は、休業損害②として「お金」の話をします。

休業損害(損害賠償)と、①健康保険の傷病手当金、②労災保険の休業(補償)給付との比較や、損益相殺との関係について考えていきましょう。

なお、前回少し触れましたが、労災保険の傷病(補償)年金については、少し細かい知識ですので、ここでは労災保険の休業(補償)給付だけを取り上げます。
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具体的な事例を設定して考えていきましょう

休業損害(損害賠償)と、①健康保険の傷病手当金、②労災保険の休業(補償)給付を比較するために、簡単な事例を設定してみます。

「お金」の話をする場合には、簡単な事例であっても、具体的に考える方が理解しやすいからです。

設定は次のとおりです。

  • 被害者Aさん(30歳。サラリーマン。協会けんぽの被保険者。労災保険の適用労働者)
  • 給料:毎月20万円(月給制)※月末締め当月払い
  • 昇給:2019.4に19万円から20万円に昇給
  • 賞与:6月と12月
  • 交通事故の発生日:2019.10.1(朝)
  • 療養で休業した期間:2019.10.1~12.31(出勤日0。賃金全額不支給。有給休暇は使っていない)
  • 12月の賞与:40万円(本来60万円→40万円 20万円の減額)

前回お話したように、①健康保険の傷病手当金、②労災保険の休業(補償)給付の関係は、②が使えるときには③は使えないという関係です。

たとえば、今回の交通事故がAさんが会社にいつもの経路で出勤中であったような場合には通勤災害として②が適用され(①は適用されない)、Aさんが早朝のプライベートでのジョギング中に交通事故にあったような場合には①が適用される(そもそも②には該当しない)ということです。

 

休業損害(損害賠償)と、①健康保険の傷病手当金、②労災保険の休業(補償)給付とを比較してみましょう

このような設定のもとで、Aさんの休業損害(損害賠償)と、①健康保険の傷病手当金、②労災保険の休業(補償)給付を比較したものが、次の図(1)です。

(A)~(G)の順番に検討していきましょう。

(A)(B)(C):算出方法と計算方法、1日当りの支給額

まず、Aさんはサラリーマン(給与所得者)ですので、休業損害(損害賠償)については、実損を基礎にしてその全額が賠償されるのが原則です(この点については、社会保険労務士の出る幕ではないので、詳しくは弁護士の先生に確認してみてください)。

 

つぎに①健康保険の傷病手当金については、傷病手当金の支給を始める日の属する月以前の直近の継続した12月間の各月の「標準報酬月額」を平均した額の30分の1に相当する額の3分の2に相当する金額が、1日分の傷病手当金の額です。

文字にすると、なんだかややこしい方法ですので、前半と後半に分けて計算してみましょう(以前は「標準報酬日額」を基準にその3分の2という計算方法を使っていましたが、平成28年(2016年)4月1日以降はこの方法に変更になりました)。

手順はこうです。

まず、直近の継続した12月間の各月の「標準報酬月額」を平均した額の30分の1に相当する額を出します(この際に1円単位を四捨五入します)。

ここで聞きなれない「標準報酬月額」という言葉が出てきましたので、簡単に説明します。

これは、健康保険料等の計算事務を簡単にするために、「標準報酬月額」として毎月一定の金額を決めておくというものです(残業代などで毎月の給料が増減しても、標準報酬月額を一定としておけば保険料率が変わらない限り、健康保険料等は同じになるという仕組みです)。

この標準報酬月額は毎年4~6月に支払われた給料などを元に再計算されて、その年の9月から新しい標準報酬月額に変わり翌年の8月まで同じ標準報酬月額を使うのが原則です。

詳しいことはここでは省略しますが、Aさんの場合、2018.11~2019.8までの10月間の標準報酬月額は19万円、2019.9~10の2月間の標準報酬月額は20万円(2019.4の昇給が反映されて標準報酬月額が変わった部分です)としておきましょう。

そうすると、Aさんの直近の継続した12月間の各月の「標準報酬月額」を平均した額の30分の1に相当する額は、

(19万円×10月+20万円×2月)÷12月÷30=6390円(端数処理済み)

となります。

つぎにその額を3分の2にすれば、1日当りの傷病手当金の額が出ます(この際に1円未満を四捨五入します)。

Aさんの1日当りの傷病手当金の額(C)は、

6390円×2/3=4260円

となります。

 

さいごに②労災保険の休業(補償)給付については、「休業給付基礎日額」の60%に相当する額が、1日分の②労災保険の休業(補償)給付の額です。

そして、休業給付基礎日額は、原則として、労働基準法12条の「平均賃金」に相当する額とされ、この「平均賃金」とは、交通事故の発生した日以前の3ヶ月間の賃金の総額をその期間の総日数(暦日)で割った金額のことです。

Aさんの1日分の②労災保険の休業(補償)給付の額について計算してみましょう。

まずは、休業給付基礎日額ですが、これは1円未満切り上げですので、

60万円(2019.7~9の賃金総額)÷92日(2019.7~9の総日数)=6522円

そして、1日分の②労災保険の休業(補償)給付の額(C)は、

6522円×60%=3913円(1円未満切り捨て)

となります。

なお、ここでは計算を簡単にするために、2019.7~9の給料を毎月20万円で計算していますが、実際には時間外手当等の各種手当や欠勤控除等もあって、月給制であっても毎月同じ金額であるとは限りません。

平均賃金の計算は、賃金総額や総日数に何を含めて何を含めないのかというのが問題になってきます(時間外手当は賃金総額に含めるのが原則ですし、欠勤控除の扱いについては最低保証額との関係で発展的な知識が必要になるのでここでは詳しくは省略します)。

 

平均賃金に関して少し余談ですが、交通事故の事務をやっていると、弁護士の先生から「へいちん(平均賃金の略語)で計算してください」などと指示を受けることがあります。

この場合の「へいちん」は、労働基準法12条の平均賃金というよりは、逸失利益の計算などで使う賃金センサス(賃金構造基本統計調査)の平均賃金を指していることが多いので、よく確認しておいてください。

 

(D)支払(支給)額

まずは、休業損害ですが、Aさんの場合、実損全額として60万円としておきます(実際に弁護士の先生が争われる際には、色々な要素を考慮されて、これよりも高い額を請求することもあると思いますが、そこは考慮せずにおきます)。

 

つぎに、①健康保険の傷病手当金ですが、傷病手当金には待期期間として連続した3日間が必要になりますので、Aさんの場合10.1~3の3日間は待期期間として傷病手当金は支給されず、10.4~12.31の89日分が支給されます。

したがって、Aさんの①健康保険の傷病手当金の支給額は、

4260円×89日=37万9140円

となります。

 

さいごに、②労災保険の休業(補償)給付ですが、こちらも待期期間が3日必要(連続している必要はないですが)なので、Aさんの場合には89日分として、

3913円×89日=34万8257円

となります。

 

ここでちょっとした豆知識なのですが、労災保険の休業補償給付(業務災害の休業補償)は、労働基準法の休業補償に相当するものです。

そして、休業補償には待期期間はないので、休業日初日から使用者は休業補償を支払わなければなりません。

つまり、業務災害の場合、休業補償給付が給付されない待期期間3日分については、使用者が労働基準法上の休業補償を労働者に払うことになります。

もしAさんの交通事故が「業務災害」(自宅から出張先に向かう際の事故など)であった場合には、待期期間3日分である3913円×3日=1万1739円は使用者がAさんに支払わなければならないというわけです(「通勤災害」の場合にはその必要はありません)。

 

(E)賞与の減額、(F)上乗せ額

Aさんの場合、交通事故によって12月の賞与が20万円減額されています。

休業損害の場合は賞与の減額分20万円も賠償されるのが原則です(どうやって証明するのかという問題はありますが)。

 

これに対して、①健康保険の傷病手当金、②労災保険の休業(補償)給付では、この賞与分の減額を給付額に反映させる仕組みはありません(例外として「賞与」という名目であっても、標準報酬月額の算定や平均賃金の算出の際に考慮されるものもありますが、Aさんの場合のように1年に2回の賞与はそれに含まれないのが原則です)。

(E)賞与の減額については、休業損害の場合にだけ計上することになります。

 

ところで、このお話をすると、「労災保険にはボーナス特別支給金っていうのがあると聞いたのですが」という質問をされることがあります。

「ボーナス」なうえに「特別」とまでついている「支給金」なので、なにやらすごくお得な制度のように聞こえて気になるところです。

これはたしかにそのとおりなのですが、残念ながら、②労災保険の休業(補償)給付には、いわゆるボーナス特別支給金の制度はありません(これがあるのは、傷病(補償)年金、障害(補償)給付や遺族(補償)給付などの場合です。障害(補償)給付や遺族(補償)給付については、逸失利益の際にお話することになると思います)。

ただし、労災保険の給付には、ボーナス特別支給金とは別に「一般の特別支給金」とよばれるものがあり、②労災保険の休業(補償)給付にも「休業特別支給金」という制度があります。

これが、(図1)の(F)上乗せ額にあたる部分で、1日当り、「休業給付基礎日額」の20%に相当する額とされます。

Aさんの場合、

1日当り:6522円×20%=1304円(1円未満切り捨て)

89日分:1304円×89日=11万6056円

となります。

 

このように労災保険では②労災保険の休業(補償)給付と休業特別支給金を合わせると、休業給付基礎日額の80%が支給されることになります。

「労災は休業8割補償」などと言われるのはこのためです。

 

(G)最終的な支払(支給)額

Aさんに対する最終的な支払(支給)額をまとめると

休業損害:80万円

①健康保険の傷病手当金:37万9140円

②労災保険の休業(補償)給付:46万4313円

となります。

 

損益相殺について考えてみましょう

休業損害、①健康保険の傷病手当金、②労災保険の休業(補償)給付の3つとも、同じ交通事故を原因としており、しかも、同じくAさんのもらえなかった賃金を対象としています。

このような場合、当然ですが、二重三重に同じものをもらうわけにはいきません。

①健康保険の傷病手当金、②労災保険の休業(補償)給付の関係については、すでにお話したように、②がもらえるときには①はもらえないという関係になっていますので、二重になることはありません(不正受給の場合は別ですが)。

では、休業損害との関係はどうなるかというと、二重払いを防ぐために損益相殺という処理をします。

その関係をAさんの場合で表したものが、次の(図2)です。

(A)休業損害額-(B)損益相殺=(C)加害者への請求額という関係になっています。

同じ交通事故によって発生した損害(A)から、既に払われた保険給付(B)を損益相殺として控除して、残りの部分を加害者へ請求する(C)というわけです。

ここまでは理解しやすいと思います。

ところが、お気づきかと思いますが、(D)損益相殺の対象外の欄には、②労災保険の休業(補償)給付の方にだけ、11万6056円が計上されています。

これは、(図1)の(F)上乗せ額として給付された「休業特別支給金」11万6056円です。

労災保険の特別支給金は、損害賠償との関係では損益相殺の対象ではないとされているのです。

求償可能性の有無などがその理由とされていますが、詳しくは弁護士の先生に確認してみてください。

その結果、(E)最終的な被害者の取得額については、(B)損益相殺(保険給付として既にもらっている部分)+(C)加害者への請求+(D)損益相殺の対象外(保険給付として既にもらっているものの、損益相殺されなかった部分)となって、①健康保険の傷病手当金の場合(80万円)と②労災保険の休業(補償)給付の場合(91万6059円)で差が出てしまいます。

これは、事実上「休業特別支給金」11万6056円が二重払いされたような形になっています。

 

なお、業務災害の場合に、使用者から待機期間3日分の休業補償が支払われた場合にも、休業損害の損益相殺をしなければいけません。

 

さいごに

実際には、①健康保険の傷病手当金、②労災保険の休業(補償)給付の計算を法律事務職が行うことはまずありませんので、これらの「支給決定通知書」等を確認して損益相殺の計算をすることになります。

ただ、今回は「お金」の話でしたので、その仕組みを知ってもらうために、ちょっと細かい計算も含めてご説明しました。

今回みてきたように、休業損害の損益相殺については、②労災保険の休業(補償)給付の休業特別支給金に特に気をつけてください(今回は触れませんでしたが、労災保険の傷病(補償)年金の場合も同様です)。

②労災保険の休業(補償)給付の支給決定通知には、支給決定金額の欄に「特別支給金額」が書かれています。

この部分を損益相殺しないようにしなければいけません。

筆者が法律事務職を始めた最初のころに、この仕組みをよく理解せずに全額を計上して、弁護士の先生からやり直しを指示されたことがあります(お恥ずかしい)。

「赤い本」(2019年版では上巻260ページ参照)やその他のマニュアル本を読んでも、そもそもの労災保険の仕組みを知っていなければ、特別支給金等と言われてもピンとこないんですよね。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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社会保険労務士と学ぶ 交通事故事務で覚えておきたい社会保険の基礎知識 休業損害①(休業損害に関係する社会保険給付の内容・適用範囲)

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本です。

筆者が法律事務職として働いているときにはよく知らなかった社会保険の基礎知識について、法律事務職の皆さま向けにまとめてみたいと思います。

今回は、交通事故編その2です。

ここでは、交通事故の休業損害に関係する社会保険について、筆者が実務上経験したことを交えて、2回にわけてお話ししたいと思います。

今回は、休業損害①として、健康保険の傷病手当金、労災保険の休業(補償)給付の2つを中心に、その内容や適用範囲などをみていきます。

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交通事故の休業損害と関係する社会保険給付は、①傷病手当金と②休業(補償)給付です

交通事故の休業損害に関係する社会保険給付には、主に①健康保険の傷病手当金と②労災保険の休業(補償)給付の2つがあります。

①②のどちらとも、被保険者(労働者)が傷病の療養のために仕事ができずに賃金がもらえなかったときに、一定の要件を充たせば、もらえなかった賃金の一部相当額をもらえるという社会保険給付です(かなりざっくりとした説明ですが、支給要件などの詳細は、①については全国健康保険協会のホームページなどに掲載されていますし、②については厚生労働省のホームページなどに掲載されていますので、そちらでご確認ください)。

そうすると、①②の原因が交通事故である場合には、交通事故の休業損害と①②の社会保険給付の対象範囲が重なることになります。

そこで、交通事故の休業損害を請求する際には、①②の社会保険給付の知識が必要になってくるわけです。

 

休業による賃金の減少は被害者の家計を直撃しますので、加害者(の自動車保険)からの休業損害の支払いを待たずに、被害者が①②の社会保険給付の手続きを先行させていることもあります。

社会保険給付の手続きを先行させること自体は問題はないのですが、交通事故の被害者側の受任をした際には、依頼者が①②の社会保険給付の手続きをしているかどうかを早めに確認しておく必要があります。

同一の交通事故を原因とした休業による賃金の損害を填補するという意味では、損害賠償の休業損害も、①②の社会保険給付も同じですので、休業損害の計算の際に損益相殺の必要が生じるからです。

 

筆者はこれまでに複数の法律事務所で事務職員をやっていた経験があるのですが、社会保険給付との関係でいえば、通勤中の交通事故に関してのご依頼が多かったように思います。

通勤は毎日のことですから、通勤中に交通事故に遭う可能性が高いからでしょう。

そして、そのような通勤中の交通事故の場合、労災保険の対応が終わってから、損害賠償については弁護士に依頼するというケースがほとんどでした。

最初のころはそのことに気付かずに、休業損害の計算がひと通り終わったあとで、ようやく②労災保険の休業給付を受けてたことに気付いて、あわてて損益相殺を再計算したこともありました(単なる筆者の確認ミスなのですが)。

社会保険の知識がないとそういうことにもなりかねませんので、通勤中の交通事故の場合には、労災保険との関係に特に注意していただければと思います。

これに対して、①健康保険の傷病手当金については、あまり経験したことがないように思います。

今思えば少し不思議な気もしますが、もしかしたら、①の適用範囲が②に比べて狭いことが関係しているのかもしれません(適用範囲については、あとで述べます)。

いずれにしても、法律事務職としては、依頼者が①②の社会保険給付を受ける(受けている)可能性があるのかどうかを知っておくことが大切です。

そこで、今回は①②の社会保険給付を受けることはできるのはどんな人なのかということを中心にお話ししたいと思っています。

 

傷病手当金はすべての公的医療保険に設けられている制度ではありません

「傷病手当金」は公的医療保険に設けられている制度ですが、すべての公的医療保険に傷病手当金の制度が設けられているわけではありません。

傷病手当金の制度がある公的医療保険としては、会社員などが加入する「健康保険」や公務員などの各「共済組合」があります(なお、国民健康保険組合の国民健康保険にも傷病手当金がある場合があります)。

そして、「健康保険」は、全国健康保険協会(いわゆる「協会けんぽ」)が保険者である場合と、大企業などの健康保険組合が保険者である場合に分かれます。

これらの中で基本となるのが、協会けんぽの健康保険の傷病手当金です。

健康保険組合の健康保険では支給額の上乗せや支給期間の延長がなされる場合がありますし、同様に公務員の各共済組合の傷病手当金も似たようなところが多いですが、法律事務職のための社会保険の基礎知識としては、まずは協会けんぽの健康保険が理解できていれば十分だと思います。

そこで、ここでは「①健康保険の傷病手当金」といった場合には、協会けんぽの健康保険の傷病手当金のことを指すことにします。

 

これに対して、公的医療保険の中でも、都道府県・市町村の国民健康保険や原則75歳以上の人が加入する後期高齢者医療制度には、傷病手当金の制度がないのが一般的です。

健康保険の適用事業所ではない事業(たとえば従業員が5人未満の個人事業)に勤務する人や、フリーランスなどの個人事業主、アルバイトや非正規雇用で健康保険の要件に該当しない人などは、都道府県・市町村の国民健康保険に加入していることが多いですが、その場合、傷病手当金はもらえないということになります。

個人的な感想を言わせてもらえれば、こういった人たちも「働く人」という意味では、健康保険等の被保険者と同じはずなのですが、こういうところで差が出るのはどうにかならないものかと思うところではあります。

加害者のいる交通事故に関しては、最終的には加害者(の自動車保険)から休業損害は賠償されますが、加害者のいない自損事故などの場合には、傷病手当金がもらえるかどうかの差は大きいと思います。

 

①健康保険の傷病手当金をもらえるのはどんな人でしょうか

①健康保険の傷病手当金を受給できる人は、健康保険の適用事業所に勤務する被保険者本人です。

ここで注意が必要なのですが、個人事業主の場合には、その事業が健康保険の適用事業であったとしても、事業主本人は健康保険の被保険者にはなれないという点です。

たとえば、いわゆる法定16業種の個人事業主で、従業員が5人以上いれば、その事業所は強制適用事業所になります。

この場合、従業員は健康保険の適用事業所に勤務する被保険者本人として傷病手当金が受給可能ですが、事業主本人は被保険者ではないので、傷病手当金は支給されないということです。

身近なところでいえば、弁護士が個人経営している法律事務所の場合を思い浮かべてください。

個人経営の法律事務所は法定16業種には該当しませんが、任意適用事業所になることはできます。

その事務所が任意適用事業所となり、事務職員が健康保険の被保険者であったとしても、ボス本人は健康保険の被保険者にはなれないということです。

これに対して、会社代表者や役員であっても、労務の対償として報酬を受けている人は、健康保険の被保険者になりえますので、その場合には傷病手当金の受給可能性はあります。

先ほど例としてあげた法律事務所が弁護士法人化した場合には、ボスも法人代表者として健康保険の被保険者になりえるということです。

ただし、会社役員等の報酬は療養中も減額されないことが多いので、その意味で傷病手当金の要件をみたさずに受給できないことが多いのが実際です(ちゃんと報酬が出ているのですから、傷病手当金をもらえないのは当然なのですが)。

また、治療費で健康保険を使っている人であっても、被扶養者(被保険者の配偶者や子など)や任意継続被保険者には、傷病手当金は支給されませんので、こちらもあわせてチェックしておいてください。

 

②労災保険の休業(補償)給付をもらえるのはどんな人でしょうか

次に労災保険についてですが、労災保険の対象は、業務災害と通勤災害に分かれます。

たとえば、取引先への移動中のように勤務中に交通事故に遭ったような場合が業務災害で、出勤や帰宅時に交通事故にあったような場合が通勤災害だと考えてください。

労災保険の休業に関する給付には、業務災害の給付である「休業補償給付」と通勤災害の給付である「休業給付」に分かれますが、内容はほとんど変わらないので、ここではあわせて②労災保険の休業(補償)給付としておきます。

②労災保険の休業(補償)給付は、適用労働者(適用事業所に使用される労働者で、事業主との間に使用従属関係を有し、賃金を支払われる者)であればもらえるのが原則です。

雇用形態にはかかわりませんので、健康保険の被保険者に該当しない人(従業員5人未満の個人事業に勤務する人や、アルバイトや非正規雇用で健康保険の要件に該当しない人など)であっても、適用労働者であれば②労災保険の休業(補償)給付はもらえます。

この点、フリーランスなどの個人事業主は適用労働者ではないため、②労災保険の休業(補償)給付はもらえないのが原則です。

また、会社役員については適用労働者になる場合がありますが、代表者については適用労働者にはなりません。

つまり、会社代表者の場合、①健康保険の傷病手当金はもらえる可能性がありますが、原則として②労災保険の休業(補償)給付はもらえないということになります。

なお、どんな人でも加入できるわけではないのですが、個人事業主や会社代表者、適用労働者に該当しない会社役員などのために、労災保険には「特別加入」という制度があります。

特別加入をした場合には、②労災保険の休業(補償)給付ももらえますが、その算出方法や要件などで、適用労働者とは異なった扱いをします(発展的な内容になりますので、ここでは省略します)。

 

①健康保険の傷病手当金と②労災保険の休業(補償)給付の適用範囲をまとめてみましょう

①健康保険の傷病手当金と②労災保険の休業(補償)給付の適用範囲を簡単に図式化すると、次の図1のようなイメージになります。

赤色の円が①健康保険の傷病手当金の適用範囲で、青色の円が②労災保険の休業(補償)給付の適用範囲だと思ってください。

(A)の部分は、労災保険の適用労働者ではあるものの、健康保険の被保険者に該当しない人(従業員5人未満の個人事業に勤務する人や、アルバイトや非正規雇用で健康保険の要件に該当しない人など)です。

(B)の部分は、労災保険の適用労働者であり、かつ健康保険の被保険者でもある人(健康保険の適用事業所の正社員など)です。

(C)部分に該当する人はあまりいないのですが、労災保険の適用労働者ではない、健康保険の被保険者(会社代表者や役員の一部など)です。

そして、この二つの円の外側にいるのが、個人事業主や雇用されていない主婦、学生などの人たちです(主婦や学生でも、雇用されて働いている場合には(A)や(B)の部分に該当します)。

まれにパートやアルバイトで働いていた人が、業務中や通勤中に交通事故に遭って、本来は(A)に該当しており労災保険の対象であるにもかかわらず、そのことを知らずにいることがあります(事業主でさえも知らないことがあります)。

ほとんどの場合には、受任時に弁護士の先生が確認されているとは思いますが、依頼者が労災保険についてまったく知識がなく、そういった情報を先生に伝えていないこともありえます。

法律事務職が依頼者とのやりとりの中でそういった情報を聞いた場合には、すぐに先生に伝えるようにしてください。

 

ところで、(B)の部分では、①健康保険の傷病手当金と②労災保険の休業(補償)給付の適用範囲が重なっています。

健康保険の被保険者本人が、業務中や通勤中に交通事故にあって、仕事を休んだような場合です。

そのような場合、①健康保険の傷病手当金と②労災保険の休業(補償)給付の両方がもらえるのかといえば、そのようなことはありません。

同一の交通事故においては、②労災保険の休業(補償)給付が使える場合には、①健康保険の傷病手当金は使えないという関係にあるのです。

労災保険が適用される業務災害や通勤災害には、健康保険は使えないからです(例外的に(C)に該当する小規模な法人役員が健康保険を使える場合もあるのですが、細かいのでここでは省略します)。

ところで、①と②の関係をネットなどで調べると、②労災保険の休業補償給付を受けている期間は業務外の傷病について①健康保険の傷病手当金はもらえない(①とくらべて②の方が少ない場合にはその差額しかもらえない)というような情報をみつけることがあります(昭和33.7.8保険発95号の2)。

この情報は正しいのですが、一見すると、①と②が併給できることを前提にして、その調整をしているように誤解されることがあります。

実は筆者も社労士試験の勉強をしていた最初のころには、この点を誤解していました。

しかし、よく読むとわかるのですが、これは①と②が別の原因から生じたような場合(業務災害で休業中に、プライベートで交通事故に遭ったようなケース)を想定しているのであって、①健康保険の傷病手当金と②労災保険の休業(補償)給付が当然に併給されることを前提にしているわけではありません。

あくまでも、同一の交通事故から生じた休業に関しては、その原因が業務災害・通勤災害であれば②労災保険の休業(補償)給付が、それ以外の原因(プライベートで外出中に交通事故に遭ったような場合)であれば①健康保険の傷病手当金が給付されると理解しておいてください。

 

①健康保険の傷病手当金と②労災保険の休業(補償)給付はいつまでもらえるの?

支給期間についても確認しておきましょう。

まず、①健康保険の傷病手当金は、支給を始めた日から起算して1年6月が限度とされます。

この支給期間中に出勤可能となって賃金をもらった期間があった場合でも、1年6月は延長されません。

また、傷病手当金を受給し始めたのちに会社を辞めて被保険者の資格を喪失した場合であっても、一定の要件をみたせば、この1年6月は引き続き傷病手当金をもらえます。

ただし、資格喪失の際に傷病手当金をもらっていることが必要なので、会社を辞める最終日に出勤扱いになっていると、その後の傷病手当金をもらえなくなるので注意が必要です(豆知識として覚えておいてください)。

 

これに対して②労災保険の休業(補償)給付の場合には、支給期間に制限はありません(支給期間中に会社を辞めたような場合でも続きます)。

「治ゆ」(完治という意味だけでなく、症状固定も含まれます)するまで続きます。

なお、療養の開始後1年6ヶ月経過日または同日後において、症状固定をせずに、傷病等級(1~3級)に該当する場合には、休業(補償)給付から「傷病(補償)年金」という給付に変わります(傷病等級(1~3級)に該当しない場合には、治ゆするまでは②労災保険の休業(補償)給付が継続します)。

ただ、社労士試験を受けるような場合には、傷病(補償)年金もしっかり勉強しなければいけませんが、交通事故の場合、傷病等級(1~3級)に該当するようなケースでは、療養の開始後1年6ヶ月以内に症状固定していることが多いので、まずは休業(補償)給付を押さえておけば十分だと思います。

 

さいごに

今回は、休業損害に関係する①健康保険の傷病手当金と②労災保険の休業(補償)給付について、どんな人が対象になっているかについてお話ししてきました。

多様な働き方が認められるようになってきたため、どのような公的医療保険に入っているかも一律ではなくなってきました。

兼業や副業といった働き方もそれほど珍しいものではなくなっています。

法律事務職の皆さまは、まずは、①健康保険の傷病手当金と②労災保険の休業(補償)給付の基本的なところを押さえたうえで、他のケースに応用してみてください。

次回は、「休業損害②」として、受給額(いくらもらえるのか)や交通事故の休業損害との損益相殺の問題についてお話ができたらと思っています。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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社会保険労務士と学ぶ 交通事故事務で覚えておきたい社会保険の基礎知識 治療費

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本です。

筆者が法律事務職として働いているときにはよく知らなかった社会保険の基礎知識について、法律事務職の皆さま向けにまとめてみたいと思います。

今回は、交通事故編その1です。

ここでは、交通事故の治療費に関係する社会保険について、筆者が実務上経験したことを交えてお話ししたいと思います。

自由診療、健康保険、労災保険の3つを中心に、治療費に関する相違点や注意点などを考えていきましょう。

 

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交通事故事件では社会保険の基礎知識が法律事務職の必須スキルです

交通事故事件には、いろいろな種類の社会保険の給付が関係してきます。

医療機関で治療を受ければ、治療費の支払いのために健康保険を使うかもしれませんし、業務上の事故や通勤中の事故であれば労災保険が関係してきます。

交通事故で仕事を休むことになれば、健康保険から傷病手当金をもらったり、労災保険から休業(補償)給付を受けることもあるでしょう。

後遺障害が生じれば、国民年金、厚生年金や労災保険から障害に関する年金や一時金を受け取れるかもしれません。

死亡事故であれば、遺族に対して年金が支払われることもありますし、埋葬や葬儀に関する給付もあります。

 

このように、実務上、交通事故で社会保険を使うことは珍しいことではありません。

この点に関しては、被害者の社会保険(被害者が保険料を払っている)を交通事故に関して使うのはおかしいのではないかという意見があります。

たしかに、交通事故は加害者に責任があります。

なので、交通事故の損害賠償は、加害者が自分で全額払うか、加害者付保の自動車保険(自賠責保険や任意保険)から行われるのが原則なはずです。

しかし、損害賠償金をもらうまでの間、被害者がいったん自腹でお金を支払うというのでは、被害者の負担が大きくなってしまいます。

また、社会保険を使った方が結果として被害者の利益になる場合もあるのです(どのような場合に社会保険を使った方が被害者の利益になるのかについては、各編で触れていきたいと思っています。今回の治療費編でも出てきます)。

そういうわけで、交通事故事件では、様々な場面で社会保険を扱うことになります。

 

このように、交通事故と社会保険が切っても切れない関係にあるという現状からすれば、交通事故事件を取り扱う法律事務職にとっては、社会保険の基礎知識は必須スキルといっていいでしょう。

 

治療費に関する社会保険給付の種類と給付方法をみていきましょう

交通事故による傷病にかかる治療費については、社会保険を使わずに自由診療とする場合と、健康保険または労災保険を使う場合におおきく分かれます。

健康保険と労災保険の関係は、労災保険が使える場合には健康保険は使えないと理解しておいてください。

労災保険が使えるのは主に業務災害(たとえば勤務中に交通事故に巻き込まれた場合)と通勤災害(たとえば会社に出勤途中に交通事故に巻き込まれた場合)ですので、この2つのケースで社会保険を使う場合には健康保険ではなく労災保険を使うことになります。

これから、①自由診療、②健康保険、③労災保険の3つのケースを比べながら治療費について考えていきましょう。

 

①自由診療、②健康保険、③労災保険の3つケースで異なっている点は、治療費の額と被害者の自己負担割合の2点です。

まず、治療費の額についてですが、一般的に自由診療と保険診療(健康保険や労災保険を使った場合)では自由診療の方が高くなるとされます。

これは保険診療では診療報酬の点数単価が決まっているのに対して、自由診療ではそうではないからです(保険診療でも健康保険と労災保険では点数単価は異なります)。

一般的に①自由診療は②健康保険の1.2倍~2.0倍といわれており、医療機関によっても幅があるようです。

つぎに、被害者の自己負担の割合ですが、①自由診療はそもそも社会保険を使わないので、全額が自己負担となります。

これに対して、②健康保険の自己負担は1~3割(保険の種類、年齢や収入などによって変わってきます)、③労災保険では0(自己負担なし)が原則です。

 

保険診療の場合の保険給付の方法は、現物給付と現金給付に分かれます。

健康保険でも労災保険でも、治療費に関する保険給付は「療養の給付」といい、現物給付の方法で行うのが原則です。

現物給付というとイメージがわきにくいかもしれませんが、病院の窓口で自己負担分だけを支払えばよいということです(普段、病院に行ったとき、健康保険証を提示した場合の支払い方法ですね)。

これに対して現金給付は、いったん自分で治療費を全額を払ったうえで、あとで保険者から保険給付の部分を現金で返してもらうイメージです。

現金給付のことを「療養費の支給」(健康保険)と言ったり、「療養の費用の支給」(労災保険)と言ったりします。

これができるのは現物給付が困難である場合のように一定の要件を充たした場合に限られます(コルセットなどの治療用装具を作った場合などが該当します)。

 

交通事故の治療費の(自己負担部分の)支払方法に関しては、加害者付保の自動車保険も関係してきます。

加害者が任意保険に入っている場合、その任意保険の会社が自賠責保険も含めて一括対応することが一般的なので、被害者が自己負担部分を窓口で支払うことはあまりありません(保険会社から病院に支払われます)。

つまり、①自由診療、②健康保険、③労災保険のどのケースであっても、被害者が実際に窓口で治療費を支払うことがあまりないのです。

そのため、治療費は加害者(保険会社)が全額負担していると被害者は思い込んでしまいます。

しかし、本当に治療費「全額」を加害者が払っているのかは注意が必要です。

被害者にも一定の落ち度がある場合、それを被害者の過失として、損害額を減額する仕組みがあるからです(これを「過失相殺」といいます)。

治療費は「全額」加害者が払ったものだと被害者が思っていたら、あとになってその一部(被害者の過失割合に応じた部分)は治療費として加害者が払わなくてもよかった部分とされることがあるのです。

その場合、既に治療費として払われた被害者の過失割合に相当する額は、治療費以外の損害賠償の費目に充当処理されることになって、結果として被害者の損害賠償の取得額が減額されることもあります。

 

もう一つ治療費に関して押さえておきたい知識として、健康保険の高額療養費の制度があります。

健康保険を使ったとしても、自己負担部分がありますので、その自己負担部分が高額になり過ぎないように、所得区分などに応じて限度額が設けてあるのです。

高額療養費の場合には、現金給付(病院窓口でいったん自己負担の部分を全額払って、限度額を超えた部分を高額療養費として後から現金で返してもらう)が行われることになります。

ただ、現金給付では一時的に被保険者の経済的負担が増えますので、「限度額適用認定証等」の交付を受けることで、支払いの際に窓口で高額療養費を計算してもらって(現物給付の範囲が増えます)、窓口負担を減らすこともできます。

高額療養費を現金給付の方法で受け取った場合には、その分あとで治療費の損害額に充当する作業が必要になりますので、損害額の計算の際には注意が必要です。

 

被害者に過失のない場合には、実質的な違いはあまりありません

簡単な条件を設定して、具体的な違いをみていきましょう。

条件としては、被害者に過失はなく、治療費は①自由診療15万円、②健康保険10万円、③労災保険12万円として、②健康保険の負担割合を3割と設定してみます。

そうすると、次の図1のような結果になります。

 

(C)自己負担は、(A)治療費から(B)保険給付(健康保険や労災保険から支払われるものです)を控除したものです。(A-B=C)

この(C)自己負担とは、病院での窓口負担のことだと思ってください(実際は保険会社が払うことも多いので、被害者が治療費の窓口負担を感じることは少ないのですが、計算上は自己負担したことと同じになります)。

(E)最終的な被害者の負担は、(C)自己負担から(D)加害者への請求を控除したものです。(C-D=E)

(E)最終的な被害者の負担というのは、被害者の持ち出し部分(=自腹部分)のことです。

(A)治療費については、①自由診療15万円、②健康保険10万円、③労災保険12万円とそれぞれに異なっていますが、(E)最終的な被害者の負担はどのケースでも0円になっています。

被害者に落ち度はない(過失割合がない)のですから、①~③ともに被害者の持ち出しがないのは当然なことでしょう。

 

被害者に過失のある場合には、被害者の持ち出しが変わってくる場合があります

これに対して、被害者に過失割合がある場合はどうでしょうか。

被害者の過失割合を30%として、①~③を比較してみましょう(その他の条件は図1と同じです)。

この場合、次の図2のような結果になります。

(A)から(C)までは図1と同じです。

しかし、(E)最終的な被害者の負担は、①4万5000円、②9000円、③0円と大きな違いが生じています。

このような差が生じた理由は2つあります。

それは、

1 (A)治療費の額が違っていること

2 ②や③の(B)保険給付に関しては通常の過失では過失相殺が行われないこと

です。

1に関しては、①~③で診療報酬の点数単価が異なっているということをすでにご説明しました。

2に関しては、②健康保険や③労災保険では、保険給付が制限される場合が故意などの悪質な場合に限られており、通常の過失の場合には、保険給付を制限しないというルールがあるのです。

そのため、②健康保険や③労災保険では、通常の過失であれば、過失相殺が行われるのは(C)自己負担の部分に限られます。

しかも、③労災保険の場合には、そもそも被害者の自己負担割合がなく、(C)自己負担もありませんので、治療費に関しては実質的には過失相殺がないことと同じになってしまうのです。

この場合、被害者にも落ち度があるので、被害者にある程度持ち出しが生じるのはしかたがないのですが、①~③で大きな違いが生じることには注意が必要です。

 

保険会社から「健康保険を使ってほしい」と言われる理由

法律事務職をしていると、治療中の被害者(依頼者)に対して、加害者の任意保険の担当者が「健康保険を使ってほしい」と言っているのを聞くことがあります。

筆者も法律事務職になったばかりのころに、保険会社の担当者から「弁護士の先生に健康保険を使ってもらえるようにお伝えください」と言われて、何のことやら理解できなかったことがありました。

その主な理由は、(A)治療費の違いです。

(A)治療費の違いによって、(B)保険給付(=法律上は将来的に保険者から加害者に求償される)や(D)加害者への請求も変わってくるので、①自由診療のケースでは加害者の保険会社が負担する金額が保険診療の場合に比べて高くなってしまうのです。

加害者の保険会社としては、少しでも負担額を少なくしたいということです。

 

ただ、①自由診療を避けるのは、加害者(の保険会社)のためばかりではなく、被害者の利益になることもあります。

すでにみたように、被害者に過失割合がある図2のケースでは、①自由診療では被害者の持ち出しが多くなってしまいます。

また、被害者に過失割合がない場合であっても、治療期間に争いが生じ(症状固定の時期の争いと言ってもいいでしょう)、被害者が想定していたものより治療期間の認定が短くなってしまった場合、原則として症状固定後の治療費は損害賠償の範囲には認められないので、その部分が丸々被害者の持ち出しになってしまうことも考えられます(この場合、そもそも症状固定後に保険診療ができるのかという、法律上の問題があるように思うのですが、実務上は保険診療を前提にしています)。

他にも、加害者が任意保険に入っていないので、できるだけ治療費を安く抑えて、自賠責保険の限度額(120万円)を有効につかいたいというような場合も考えられます。

 

このような保険会社からの要請に対して、被害者(依頼者)の中には「どうして自分の健康保険を使わないといけないのか」と憤りを感じる人もいらっしゃいます。

被害者である自分が保険料を払っている健康保険を使うことに心理的な抵抗があるという理由ならまだ理解できます。

しかし、よくよく理由を聞いてみると、「来年の保険料が上がったらどうするのか」という点を心配されていることがあるのです。

これは、自動車の任意保険を使うと、翌年からの保険料が上がる(正確には減額の割合が少なくなる)という話と同じように考えておられるようなのです。

これは明らかに誤解です。

健康保険料には、どれだけ使ったかによって保険料がかわる仕組みはありません(ちなみに、労災保険料は全額事業主負担ですので、そもそも労働者の保険料負担はありません)。

その点は誤解のないようにしたうえで、①自由診療のリスクもあわせて説明することになるでしょう。

もちろん実際は弁護士の先生がご説明されるでしょうから、法律事務職としては依頼者の不安が誤解によるものであるということを、弁護士の先生にしっかりお伝えしてください。

 

治療費関係で法律事務職がかかわる社会保険手続き

筆者の経験上、交通事故の被害者が弁護士に依頼するタイミングは、傷病が症状固定したあと、保険会社との交渉が思うようにいかなくなってからというケースが多いように思います(もっと早くご依頼を受けられればと思うケースもたくさんありましたが)。

そのような場合には、すでに治療が終わっていますので、治療費関係に関する法律事務職の仕事としては、弁護士の先生の指示にしたがって、診療報酬明細書や領収証などをもとに、損害額や請求額を集計する作業がメインになります。

ときどき療養費や高額療養費の支給申請の書類作成の事務作業をお手伝いしたりもしますが、それほど多くはなかったように思います。

 

それ以外には、第三者行為(災害)に関する書類の作成を依頼者から相談されることが比較的多いように思います。

「この書類を出すように言われているのだけど、どう書いたらいいのでしょうか」というような感じです。

健康保険の場合には「第三者行為による傷病届」、労災保険の場合には「第三者行為災害届」というふうに微妙に違いますが、要は加害者のある事故などによって社会保険を使う場合に出す書類です。

将来の保険者から加害者への求償のためなどに必要となる書類ですので、ちゃんと提出しなくてはなりません。

ただ、この書面は関連書類の作成や添付書類の収集もいろいろあって、結構面倒くさいです。

事故発生状況を図面に書いて説明したりする書面もありますので、実況見分調書の図面や自賠責保険に加害者請求によって提出された図面などを参考に作成することになるでしょう。

弁護士の先生の決裁をスムーズにいただくには、それなりに数をこなすしかないかもしれません。

 

さいごに

交通事故事件においては、社会保険の知識が必須スキルだと最初にお話しました。

これは法律事務職経験のある社保険労務士としての、筆者の経験上の実感です。

筆者は社会保険労務士なので、交通事故の損害賠償については、社会保険の基礎知識に必要な範囲でしかご説明できませんが、法律事務職として交通事故の実務ではいろいろなケースを経験させてもらいました。

当時は社会保険労務士ではありませんでしたし、社会保険の知識もほとんどありませんでした。

ですので、法律事務職としては、必要に応じて手探りで社会保険と向き合ってきたのが実際のところです。

仕組みがよくわからずに、困ったことも少なくありませんでした。

法律事務職経験のある社保険労務士だからこそ、法律事務職の失敗どころや混乱どころも経験上わかっているつもりです。

そういった経験をふまえて、交通事故に必要な社会保険の基礎知識をお伝えできたらと思っています。

休業損害に関する損益相殺の問題や逸失利益と障害年金の関係など社会保険の基礎知識がなければ、よく理解できない問題も多いように思います。

こういった点も今後のシリーズで触れていきたいと思っています。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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筆者は法定後見業務を専門に受任する一般社団法人の事務局長をやっているのですが、現場でいつも困ってしまうことというものがあります。

今回は、そういった「成年後見業務でいつも困ってしまうこと」について3つほどあげてみたいと思います。

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年金事務所で送付先変更をしようと思ったら、やたらと金融機関や口座名義の変更欄を書くように「協力」を求められる

成年後見人就任後に年金関係の書類を成年後見人宛てに発送してもらうために、日本年金機構(年金事務所)に送付先変更の手続きをすることがあります。

その際には「年金受給者 通知書等送付先・受取機関・口座名義変更申出書」(この書式は「住民基本台帳による住所の更新 停止・解除 申出書」も兼ねています)を提出します。

この送付先変更の手続き自体はそれほど複雑なものではないのですが、送付先変更の申出をする際に、なぜかいつも面倒なことに巻き込まれます。

それは送付先の変更欄だけでなく、年金の受取口座の変更欄や口座名義の変更欄の記載まであわせて求められるのです。

理由は簡単で、この申出書では、送付先だけでなく年金の受取機関や口座名義の変更も同じ書式で行うようになっているからです。

成年後見人が就任した際に、金融機関の口座名義に本人の名前だけでなく成年後見人が肩書付きで記載されることがあるので、同じ書面で手続きが行われるようにできているのでしょう。

たとえば、本人Aさん、成年後見人Bさんだった場合、それまでの口座名義は「A」のみだったものが、その金融機関に成年後見の届出をした後は口座名義が「A 成年後見人 B」とされることがあります。

ただ、この場合であっても金融機関も口座番号も変わりませんし、当該口座そのものがAさんのものであることには変わりはありません(成年後見人Bさんの口座に変更されたわけではないのです)。

また、ゆうちょ銀行では成年後見の届け出後も口座名義は「A」のままですし、他の金融機関でも、成年後見の届け出後の口座名義を「A」のままにしておくか「A 成年後見人 B」とするかを選べるところも出てきました(もちろん「A 成年後見 B」に必ず変えるところもありますが)。

つまり、成年後見人がついたからと言って、必ずしも口座名義が変わるというわけではないのです。

そういうわけで、筆者の場合には送付先変更に必要な部分だけを記入し、変更のない場合には金融機関や口座名義の欄は空白にして書類を提出するようにしています。

その部分に変更はないのですから、その欄を書く必要はないはずなのです。

ところが、必ずと言っていいほど、年金事務所の窓口で金融機関や口座名義の欄を書くように求められます

それも、書く必要はないけれど確認のため「協力してほしい」というのです。

筆者は内心「またか」と思いながらも、金融機関も口座番号も口座名義も一切変わっていないことを説明し、場合によっては通帳を提示したりもします(通帳のコピーを取られることもあります)。

そこまですると、たいていの場合には、窓口の人が上司に相談し(そこから電話で照会し)、ようやく「それではこのままで受け付けます」と言われます(ときにはどうしても「協力してほしい」と言い続けられ、こっちが折れて「協力する」こともありますが)。

対応を待つ時間がもったいないので、いっそのこと変更のない場合でも書いておいた方がいいのかなとも思うのですが、お互いに業務の負担を増やすようなことは避けるべきだと思っているので、いつかこの取り扱いが改善されることを信じて、必要のないものはあえて書かないようにしています。

この話を他の成年後見の事務に従事している人に聞くと、意外と皆さん同じような経験をしておられるようで、「あれって時間と労力の無駄だよね」と苦笑いされます。

この点は内部マニュアルの改訂で対応できるところだと思いますので、業務の効率化のためにぜひとも改定を検討していただきたいところです(少なくとも申出人が変更不要だと言っている確認がとれた場合には、協力するまで受け付けないといった執拗な協力要請だけは控えていただきところです)。

 

介護施設の契約時にとにかく本人の印鑑を押してほしいと言われる

成年後見人は本人の法定代理人ですので、本人に代わって契約をすることができます。

ですので、介護施設の入所の際などには、成年後見人が本人に代わって契約を行います(そのために成年後見人を付けることも少なくありません)。

最近では、成年後見制度もそれなりに普及してきたようで、契約書の当事者欄に、「本人」欄と「代理人(成年後見人等)欄」が設けてある書式も多くなってきました(ひと昔前は、その欄がなかったので困ることもあったのですが、その点はずいぶん改善されてきたと思います)。

ただ、まだ困ったことがあるとすれば、「本人の印鑑を押してほしい」と言われることが少なくないという点です。

たしかに、書式の「本人欄」のところに「押印」欄があるので、どうしても「ここに印鑑をお願いします」と言ってしまうのはしかたのないことかもしれません。

しかし、成年後見人に本人に代わって記名押印する権限があるのかどうかという法的な問題は別にして、法定代理人である成年後見人がその旨を示して契約をしようとしているのですから(登記事項証明書などを提示すれば、成年後見人であることはわかります)、そこに本人の印鑑を押す必要はないはずです。

実際のところ、成年後見制度の概要を説明したうえで、「本人さんが印鑑を押せない状態なので、成年後見人がついているんですよ」と説明すれば、ほとんどの場合には、本人の記名(押印不要)と成年後見人の記名押印のみで対応してくれます。

それでも施設の担当者さんが成年後見制度に慣れていない人の場合には、説明や確認に時間を要することもあります。

「本人の印鑑」問題は、ここ数年でずいぶん改善されてきたように感じますが、まだまだ十分に理解されているとは言えないのが現状だと感じます。

 

本人さんの入院時にはいろいろと「できないこと」を要求される

成年後見人は本人の法定代理人だからと言って、すべてのことを本人に代わってできるわけではありません。

成年後見人には「できないこと」も意外と多いのです。

たとえば婚姻や養子縁組などといった身分行為もそうですし、遺言を代わりに作成することもできません。

成年後見人が本人に代わって、誰と結婚するかを決めることができないのは当然といえば当然ですので、このあたりは、成年後見人の「できないこと」として比較的理解しやすいところではないでしょうか。

ただ、成年後見人の「できないこと」は、こういった身分行為には限られません。

他にも様々な理由で「できないこと」はあります。

そして、その「できないこと」が顕著になるのが、本人が医療機関に入院するときです。

その最たるものが「医療同意」です。

医療目的とはいえ、自分の体を傷つける医療行為(手術など)については、その違法性を阻却するために、医療機関から事前に本人の同意(ないし家族の同意)が求められることがあります。

場合によっては、本人の同意+家族の同意の二つを求めてくることもあります。

医療機関のリスクマネジメントのために医療同意の求め方が過剰になっているのではないかという問題はあるにしても、現実問題として求められるのだからしかたありません。

そして、本人に意思能力がなく、近しい家族もいないとなると、医療機関は成年後見人に「医療同意」を求めてきます。

成年「後見人」という日本語の響きに、どこか「親代わり的」なイメージがあるのも確かです。

そういった「親代わり的」なイメージが、成年後見人なら本人の代わりに「医療同意」ができるのではないかという期待に繋がりやすいのかもしれません。

しかし、成年後見人は「医療同意」はできないのが原則です(自分の体を傷つけることに対する同意は、他人が代理することではないからです)。

成年後見人に医療同意権がないという問題については、成年後見制度の利用促進法制定の議論時に結構話題になったのでそれなりに知られてきたように思いますが、それでもまだまだ現場では周知されているとはいえないのが現状です。

この「医療同意」問題以外にも、入院時の身元保証人、身元引受人、入院保証人等も「できないこと」の一つです(利益相反があるという理由です)。

さらにいえば、入院時の付き添いや送迎といった「事実行為」も成年後見人の本来業務ではありませんし、直接的に入院中の本人のお世話をすることも「できないこと」です(事実行為については、できる範囲で成年後見人が個人的に対応することはありますが)。

このように、本人の入院時は成年後見人の「できないこと」だらけなのです(入院契約や入院費の支払はできますが)。

これから独居の高齢者が今以上に増えてくることが予想されているのですから、そういった人が入院する機会も当然増加するでしょう。

現場のニーズからここまで乖離した現状を、本当にこのままにしておいていいのかと不安になってきます。

この点については、成年後見人のできることを増やしていくという方向性だけでなく、医療同意や身元保証等がそもそも必要なのかという問題を法的に解決しないといけないと思いますし、必要な事実行為をお願いできるシステムを社会的に整備していってほしいと思っています。

 

さいごに

このように成年後見人が現場で困っていることというのは、あげればきりがありません。

その中でも、ちょっとしたマニュアルの改善や書式の改定などをすれば直ぐにでも効率的な取り扱いが可能になるものから、法的な明示や社会的な整備などがなければ抜本的な解決ができないものまで、問題の本質も一律ではありません。

ただ、現場で生じる色々な困りごとは、放置しておけば何も変わりませんが、それを集めて、声を出していけば、改善に繋がることもあります。

実際に、数年前にくらべると、金融機関も行政機関も医療機関も介護施設も、格段に成年後見制度への理解が進み、使いやすいように仕組みが整えられてきました。

現場の声が届いて、使い勝手の良いように工夫されてきた証拠だと思います。

これからも、少しでも不便な点が改善されていくように、成年後見業務に取り組んでいいきたいと思っています。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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法律事務職向 覚えておきたい社会保険の基礎知識 ~成年後見事務編 その4~

成年後見事務で覚えておきたい社会保険の基礎知識 その4

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本です。

筆者が法律事務職として働いているときにはよく知らなかった社会保険の基礎知識について、法律事務職の皆さま向けにまとめてみたいと思います。

今回は、成年後見事務編その4です。
ここでは、社会保険の給付申請手続きなどを中心に、筆者が実務上経験したこと交えてをお話ししたいと思います。
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覚えておきたい主な3つの給付申請手続きの注意点

成年後見業務で対応が必要になる給付には、医療保険の「高額療養費」支給申請、介護保険の「介護保険高額介護(介護予防)サービス費」支給申請、そして医療保険と介護保険に共通の「高額介護合算療養費・高額医療合算介護(予防)サービス費」支給申請の3つの手続きがあります。

それぞれに共通する注意すべきポイントとしては、

1. 支給申請手続をして初めて支給される(初回のみ申請すれば、あとは自動で支給されるものもありますが、少なくとも初回は申請手続が必要です)

2. 支給対象者には保険者から書式などの通知文書が送られてくるので、郵便物チェックがとても大切

3. 消滅時効がある(2年)

4. 本人死亡後でも相続人が申請できる

の4点です。

まず1についてですが、社会保険はいわゆる申請主義なので、申請手続が必要になってきます。

ただ、後期高齢者医療保険や介護保険においては、対象者が高齢であることなどから、毎回の申請手続までは必要とせず、初回のみの手続きでよいという取扱いもあります(ありがたいですね)。

成年後見人としては、申請手続きを失念することなく、速やかに手続きを行わなければいけません。

申請手続きを怠ると、3にあるように消滅時効の問題がありますので、消滅時効にかかってしまえば、本人への損害を与えてしまう恐れもあります。

くれぐれも注意しましょう。

そのためにも、2にあげたように、郵便物のチェックはとても重要です。

筆者の経験では、この郵便物を本人の家族が受領し、給付金を自分の口座に振り込ませようとしたことがありました。

そのようなことのないように、成年後見人への送付先変更の届出を早めに行うことをおすすめします(詳しくは、「法律事務職向 覚えておきたい社会保険の基礎知識 ~成年後見事務編 その1~」をお読みください)。

また、3にあるように消滅時効の問題がありますが、これは逆にいえば、消滅時効にかかるまでは遡って申請できるということでもあります。

特に成年後見就任時には本人が申請忘れをしているようなケースがないか、保険者に問い合わせをして確認することをおすすめします。

申請手続き済みの人は、通帳に入金履歴が確認されるはずです。

筆者の経験上、在宅独居での介護保険利用者の場合には特に申請手続き忘れが見受けられますので、要注意です。

実際に、市に問い合わせたところ2年分遡って給付を受けることができたケースもありました(残念ながら一部時効にかかってしまったのですが、成年後見人就任の前のことはさすがにできることにも限界があります)。

4については、本人が亡くなった場合、一定期間が経過して保険者から成年後見人に2の通知が来ることもありますので、速やかに相続人に引き継ぐ作業が必要になります。

また、親が亡くなった場合など本人が相続人となって手続きをする場合もあります(この場合にも3の消滅時効に気をつけて、成年後見人として直ちに手続きを行いましょう)。

 

「高額療養費」支給申請は「限度額適用・標準負担額減額認定証」を提示していても必要なときがあります

医療費が高額になったときのために、公的医療保険には高額療養費制度があります。

制度の詳細は省略しますが、簡単にいえば、同じ月内に自己負担限度額を超えて自己負担(一部負担)分を支払ったときは、超えた分の払い戻しが受けられる制度です。

ただ、窓口で自己負担分をいったん支払った後に高額療養費の支給を受けるのでは迂遠ですので、窓口負担を軽減するために「限度額適用・標準負担額減額認定証」の交付を受けた方がよいというお話は、前回させていただきました(詳しくは「法律事務職向 覚えておきたい社会保険の基礎知識 ~成年後見事務編 その3~」をお読みください)。

では、「限度額適用・標準負担額減額認定証」を提示していれば、高額療養費の支給申請は一切しなくてもよくなるのでしょうか。

実は、必ずしもそういうわけではありません。

たとえば、複数の医療機関を利用している場合や家族と合算して高額療養費の対象になる場合などがありうるからです。

筆者の経験上では、精神科の病院に入院している人が、歯の治療を受けるために歯科を受診するような場合、「限度額適用・標準負担額減額認定証」を提示していても、高額療養費の申請が可能となるケースがあります(その場合、歯科にかかった自己負担分が全額給付されることもあります)。

なお、高額療養費の申請手続きには領収証を提示することを求められるのですが、本人が手許金で支払っていたような場合領収証を紛失しているようなこともあるので、できるだけ医療費の支払い管理は成年後見人で行うようにして、どうしても本人が行う場合には領収証を紛失しないように注意しておきましょう(どうしても領収証がない場合には保険者に相談すれば対応してくれることもありますが、領収証があればスムーズに手続きが行えるのは確かです)。

 

介護保険高額介護(介護予防)サービス費支給は「介護保険負担限度額認定証」とは別ものと考えておきましょう

介護保険高額介護(介護予防)サービス費支給についても、制度の詳細は省略しますが、簡単にいえば、同じ月に利用したサービスの利用者負担合計額(同じ世帯に複数の利用者がいる場合には世帯合計額)が高額になり、一定の上限額を超えたときは、申請により超えた部分が「高額介護(介護予防)サービス費」として後から支給されるという制度です。

ここで注意が必要なのは、この介護保険高額介護(介護予防)サービス費は、利用者が負担する居住費、食費、日常生活費等は対象外だということです(福祉用具購入費、住宅改修費の利用者負担や支給限度額を超えたサービス費も対象外です)。

前回のお話を思い出していただきたいのですが、介護保険には介護保険負担限度額認定制度があって、特養などの対象施設に入所する際には、要件を充たす人は「介護保険負担限度額認定証」の交付を受けるべきだとお話ししました((詳しくは「法律事務職向 覚えておきたい社会保険の基礎知識 ~成年後見事務編 その3~」をお読みください)。

そして、「介護保険負担限度額認定証」を提示することによって、入所中の食費と居住費等の負担軽減を受けることができるとお話したと思います。

つまり、介護保険高額介護(介護予防)サービス費は利用者負担額が一定の金額を超えた場合に差額が給付されるものなのに対して、介護保険負担限度額認定は対象施設入所中の食費や居住費が減額される制度だということなのです(そもそもの対象が異なるということです)。

筆者が法律事務職だったころには、この二つの制度がどのように違うのかよくわからずに混乱していたのを覚えています。

ここで覚えておいてほしいポイントは、

1. 介護保険負担限度額認定証を提示した場合でも、介護保険高額介護(介護予防)サービス費の支給申請は別途必要になるということ

2. 要件を充たさず(たとえば貯金が1000万円を超えていて資産要件にひっかかる場合など)介護保険負担限度額認定が受けられない人でも、介護保険高額介護(介護予防)サービス費の支給を受けられる場合があるということ

です。

また、2と関連するのですが、有料老人ホームなど介護保険負担限度額認定の対象外の施設入所の場合や、在宅の場合であっても、要件を充たせば、介護保険高額介護(介護予防)サービス費の支給を受けられるので、この点にもご注意ください。

 

「高額介護合算療養費・高額医療合算介護(予防)サービス費」の支給申請は原則1年に1回

高額介護合算療養費・高額医療合算介護(予防)サービス費制度についても、詳細は省略しますが、簡単にいえば、公的医療保険と介護保険の両方のサービスを利用している世帯で、1年間に支払った両方の自己負担額を合算した額が、所得区分に応じた自己負担限度額を超えた場合、申請により、その超えた金額が支給される制度です。

ここでいう自己負担額は高額療養費や高額介護(介護予防)サービス費等を差し引いたあとのものですので、高額療養費や高額介護(介護予防)サービス費の支給を受けていても、さらに高額介護合算療養費・高額医療合算介護(予防)サービス費の支給が受けられる場合があるということです。

また、この高額介護合算療養費・高額医療合算介護(予防)サービス費は、基準日が設定されており、基準日より1年前までのものが対象となります(たとえば、2017年8月1日から2018年7月31日まで)。

つまり1年に1回、申請手続きを行うということです。

1年に1回ですので、つい通知文書を見落としてしまうなどのうっかりミスがおきないとも限りません。

いつもの支給通知だと思っていたら、高額介護合算療養費・高額医療合算介護(予防)サービス費の通知だったなんてこともあります。

成年後見人としては、通知文書管理を徹底して、うっかりミスが起きないように努めたいところです。

 

さいごに

今回は、成年後見業務でよく行う3つの社会保険の給付申請手続きについてまとめてみてきました。

これ以外にも、たとえば、本人の親が亡くなったような場合に葬祭費支給申請を行ったり、まれにですが健康保険の被保険者の障害者さんが療養で働けなくなった場合に傷病手当金の支給申請を行うようなこともなくはないですが、おおむね成年後見業務では、ここでみた3つの申請手続きをおさえておけば、法律事務職員としての社会保険知識としては十分ではないかと思います。

給付申請は本人の「お金」に直接的にかかわることですので、本人に損害を与えないように細心の注意を払って対応していただければと思います。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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「第12回 対話型勉強会」のお知らせ

弁護士と社労士と参加者みんなで考える「交通事故の損害賠償請求と社会保険給付の調整」

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オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回は、勉強会のお知らせです。

筆者は、オフィス北浦の社会保険労務士として、不定期に勉強会を開催しています。

その勉強会ですが、「第12回 対話型勉強会」として、

 日時:2019年6月8日(土)17:00~18:30

 場所:萩市内(参加者には追ってお知らせします)

 テーマ:「交通事故の損害賠償請求権と社会保険給付の調整」

を行うこととなりました。

弁護士山口正之先生をお迎えして、ざっくばらんな勉強会になる予定です。

 

交通事故を原因とした死亡や後遺障害によって、遺族年金や障害年金の受給権が発生した場合の調整については、損害賠償が先行する場合、保険給付が先行する場合、労災も関係してくる場合など、いろいろなケースが考えられます。

そこで、ケースごとに論点をまとめたうえで、どのように対応したらよいかを参加者で話し合いながら整理してみようという企画です。

弁護士の先生の関心としては、依頼者の利益を最大化する社会保険給付の請求のタイミングはあるのか、あるとしたらいつなのかという問題だと思います。

そのような問題も含めて、社会保険給付の支給停止や受給調整、損益相殺の問題について、本音で対話ができればと思っています。

参加希望の方は6月5日(水)までにお申し込みくださいませ(定員に達しましたら、事前に締め切る場合もございますのでご了承ください)。

勉強会の後には食事会も予定していますので、こちらの参加も募集しています。

勉強会は無料ですが、食事会は会費3000円が必要です(現地で徴収)。

なお、この勉強会及び食事会は、一般社団法人萩長門成年後見支援センター「てとて」が企画準備中の「障害年金支援プロジェクト」の一環でもあります。

法律の専門家の弁護士+福祉の専門家の社会福祉士+年金の専門家の社会保険労務士の有志がチームを組んで、必要な人に適正な障害年金の受給を実現するためのプロジェクトを企画しています。

よろしくお願いいたします。

 

【 追記(2019.6.9) 】

第12回対話型勉強会、無事に終了いたしました。

かなりマニアックなテーマにもかかわらず、萩市内の3つの法律事務所の事務職員さんも参加してくださいました。

時間が1時間30分と限られていたため、当初のテーマを少し変更して、「交通事故の損害賠償請求権と障害年金の調整」に絞りこみました。

その分、かなりつっこんだ話ができたと思います。

具体的には、法の建前(第三者行為事故の求償権規定及び支給停止規定。厚生年金保険法40条、国民年金法22条)を確認したあと、支給停止を具体的に定める「厚生年金保険法及び国民年金法に基づく給付と損害賠償額との調整に関する事務処理要領」(年管管発0930号第6号通知添付)を読み、さらに事例をいくつかのケースにわけて、被害者の取得する金額にどのような差が出るのかを考えてみました。

詳細は省略しますが、①損害賠償先行型(+障害年金の消滅時効完成前に遡及請求)、②障害年金給付先行型1(事故日の翌月以降36月以内に損害賠償が成立した場合)、③障害年金給付先行型2(事故日の翌月以降36月経過後に損害賠償が成立した場合)の3つに分け、さらに②と③のそれぞれで損害賠償において障害年金の既給付額を損益相殺された場合とされなかった場合の合計5つのケースに分けたのです。

すると、ある一つのケースにおいて被害者の取得する金額が少なくなくなるのではないかという考えになりました。

原因としては、それ以外のケースでは損害賠償と保険給付を二重に取得できていた部分の一部が、このケースでは得られなくなるのではないかということでした。

この結論の妥当性についてどのように考えるかを参加者で話し合いました。

被害者利益の最大化という視点はもちろんのこと、弁護士報酬との調和といった本音トークから、二重補償が権利として保障されているのかどうかといったそもそも論まで、本当に面白い対話型勉強会ができたと思います。

被害者が「損」をすることはないのですが、「得」をすることができないケースがあるというのが議論のポイントです。

筆者自身もこの問題をここまで詳細に検討したことはなかったので、とても勉強になりました。

弁護士が得意とする交通事故の損害賠償の知識(ここでは特に損益相殺の知識)と、社会保険労務士が得意とする障害年金の知識(ここでは支給停止の知識)を合せることで、両者の問題意識を共有することができたように感じます。

二重補償が許されている現状を知らなかった人もいたようで、少なくともそういった実務上の知識が共有できたことは有意義だったと思います。

これからもこういった勉強会は続けていきたいと思っています。

 

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法律事務職向 覚えておきたい社会保険の基礎知識 ~成年後見事務編 その3~

成年後見事務で覚えておきたい社会保険の基礎知識 その3

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本です。

筆者が法律事務職として働いているときにはよく知らなかった社会保険の基礎知識について、法律事務職の皆さま向けにまとめてみたいと思います。

今回は、成年後見事務編その3です。
ここでは、社会保険の限度額適用認定申請手続きなどを中心に、筆者が実務上経験したこと交えてをお話ししたいと思います。
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本人入院時には医療保険の「限度額適用・標準負担額減額認定」をすぐに申請しましょう

本人(成年被後見人)が医療機関に入院された場合、入院費用の支払いも成年後見人の業務となります。

医療機関に入院の場合には、公的医療保険を使えば、医療費は1~3割の自己負担ですむことはご存じの方も多いと思います(負担割合は、国民健康保険か後期高齢者医療保険か、生年月日や所得区分などの条件によって変わってきます)。

このように医療費の自己負担が抑えられているとは言っても、入院が長期にわたったり、様々な医療行為を受けたりすることで、自己負担が高額になって経済的負担に耐えられないということも考えられます。

そこで、公的医療保険には高額療養費等の制度があります。

制度の詳しい内容は省略しますが、この制度が適用されることで、医療費の自己負担がさらに抑えられることになります。

高額療養費については、いったん窓口で自己負担額を全額支払った後に高額医療費を請求する方法もありますが、それだと一時的にとはいえ経済的負担が増えますし、なによりいちいち請求をしなければならないので手続きが面倒になります。

そこで、医療費を支払う際に、医療機関の窓口であらかじめ高額医療費を計算してもらい、それを控除した金額を支払うようにすることもできます。

そうすることによって、窓口で支払う金額が抑えられ、事後の請求手続きもしなくてよくなります。

ただ、そのためには、「限度額適用・標準負担額減額認定証」を医療機関の窓口に提示する必要があります。

この「限度額適用・標準負担額減額認定証」は、国民健康保険や後期高齢者医療保険の場合には市区役所で交付してもらえますので、本人が入院した際には早めに交付を受けて、医療機関に提示しましょう(会社の健康保険などを使っている場合には各保険者に確認してください)。

「限度額適用・標準負担額減額認定証」の交付を受けられるかどうかは、所得区分などによって変わることもあります。

詳しくは、市区役所に問い合わせれば教えてくれると思いますので、法律事務職であれば、成年後見人(の使者)であることを示して申請に先立って確認した方がよいでしょう。

仮に申請を忘れてしまった場合にも、事後に高額療養費の支給を請求すれば本人に損害は生じませんが、領収証を提示するなど後見事務手続が煩雑になりますので、やはり事前に「限度額適用・標準負担額減額認定証」の交付を受けることをおすすめします。

 

指定難病医療費助成制度などを利用する場合でも「限度額適用・標準負担額減額認定証」が必要な理由

医療費の自己負担額をさらに助成してもらえる制度として、指定難病医療費助成制度や各自治体の行っている福祉的な助成制度(山口県の場合であれば、福祉医療費助成制度(「かくふく」と言ったりします)など)があります。

これらの制度を使えば、医療費の自己負担が高額療養費を利用した場合よりもさらに安くなったり、場合によっては自己負担が0円になったりします(詳しくは各機関に問い合わせてください)。

筆者の経験した中では、パーキンソン病が原因で成年後見制度を利用されている人の場合に指定難病医療費助成制度を利用したこともありましたし、山口県内であれば「かくふく」の利用者も複数人いらっしゃいました。

ある「かくふく」を利用している人の成年後見人に就任した直後のことですが、医療費等の請求書を見た際にあることに気づきました。

医療費の自己負担額は0円だったのですが、何かおかしい・・・それは食事の負担額が思いのほか高いように感じたのです。

計算してみると1食260円(当時)でした。

その人の所得区分では減額対象者だと思っていたのに、減額されていないのです。

そこで、医療機関に確認したところ、「限度額適用・標準負担額減額認定証」が出ていないので、食費を減額していないとのことでした。

つまり、医療費は減額されているけれど、食事の費用はその対象になっていないということなのです。

すぐに市役所に確認して手続をとり、「限度額適用・標準負担額減額認定証」の交付をうけました。

成年後見人がついたことで、必要な申請ができたよい例だと思います。

当時でこそ1食260円でしたが、現在は1食460円(指定難病でなければ)です。

「限度額適用・標準負担額減額認定証」を提示することで、その人の場合には最終的に1食160円となりました。

1食の差額は460円-160円=300円。

これだけみるとそんなに変わらないように思えるかもしれません。

でも、食事は原則1日3回、毎日あります。

たとえ1食の差額が300円であっても、これが30日ならば、300円×3回×30日=2万7000円、1年365日なら、300円×3回×365日=32万8500円になります。

これを失念してたら、本人への経済的負担は無視できないものになっていたはずです。

このように、医療費だけでなく、食事の費用も減額されますので、「限度額適用・標準負担額減額認定証」は忘れずに交付をうけてください。

ところで、「限度額適用・標準負担額減額認定証」という名称の中に、この仕組みが表されていることにお気づきでしょうか。

それは、「限度額適用」というのは医療費のことで、「標準負担額減額」というのが食事の費用のことなのです。

 

意外と忘れがちな「長期入院該当」に要注意

入院時の食事の費用の話題になったので、この点でもう一つ注意を要する制度をあげておきましょう。

それは「長期入院該当」と呼ばれる制度です。

たとえば、後期高齢者医療保険の場合には、過去12か月で区分Ⅱに該当する限度額適用・標準負担額減額認定証(以下、減額認定証)の交付を受けていた期間(他の健康保険加入期間も区分Ⅱ相当の減額認定証が交付されていれば通算できます。)の入院日数が90日を超える場合、申請により入院中の食費がさらに減額されます。

同様の制度は国民健康保険にもあります。

長期入院該当の申請を行えば、「限度額適用・標準負担額減額認定証」にその旨の記載がされますが、その適用日は申請日の翌月1日となります(申請日から月末までは差額支給の対象となります)。

この制度の注意するポイントは3つあります。

1つ目は、減額される対象が特定の所得区分に該当する人だけで、対象者なのかどうかがわかりにくいという点です。

2つ目は、入院日数90日超が必要なので、最初の入院時には申請ができないことです(あとの申請手続を忘れがちになるということです)。

3つ目は、申請日よりも前に遡って適用されないという点です。

成年後見人がこの手続きを失念して、減額を受けるタイミングが遅くなったというケースもあるようで、それが本人や家族とのトラブルに発展したということも聞いたことがあります。

そのようなトラブルを避けるために、法律事務職としては、入院時に「限度額適用・標準負担額減額認定証」を申請した際に、ついでに長期入院該当の可能性についても市区役所の窓口に確認しておいた方がよいと思います(筆者はそのようにしています)。

そして、該当可能性がある場合には、成年後見人である弁護士の先生に報告するとともに、入院日数管理を自主的に行っておくとよいでしょう。

その時がきても先生から指示がないような場合には、「長期入院該当の手続きをしなくても大丈夫ですか?」と積極的に確認作業を行うように心がけたいものです。

 

介護保険にも「介護保険負担限度額認定申請」手続きがあります

さて、これまでは公的医療保険についてみてきましたが、本人が利用することの多いもう一つの社会保険に介護保険があります。

そして、介護保険にも「介護保険負担限度額認定」という制度があります。

低所得者が、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)/介護老人保健施設/介護療養型医療施設/短期入所生活介護/短期入所療養介護(ショートステイ)といった対象施設を利用する場合に、申請により、食費と居住費等の負担軽減を受けることができる制度です。

ポイントは2つあります。

1つ目は、対象施設が限定されており、いわゆる有料老人ホームなどの場合には原則として対象とされないということです。

2つ目は、所得要件だけでなく、一定以上の預貯金などの資産がある場合は、負担軽減の対象外となるという資産要件が設定されているということです。

施設入所の際には、相談員などの職員から説明を受けることも多いと思いますので、手続きを忘れることは実務上あまりないように思います。

ただ、この手続きには、資産要件を確認するために、市区役所に通帳の写しなどを提出して預貯金額などを申告する必要があり、個人情報の保護の観点から施設職員に手続き代行を行わせることが適切とはいえない場合も考えられます。

その場合には、成年後見人が手続きを行うことになり、その際には使者として法律事務職が現場で手続きを行うことも少なくないでしょう。

毎年の更新もありますので、法律事務職が率先して期限管理などを行うとよいと思います。

また、施設入所当初は要件を満たさず手続きを取らなかった人が、のちに事情が変わって(預貯金を切り崩しているうちに資産要件を満たすようになるなど)要件を満たすようになることもあります。

そのような場合には直ちに「介護保険負担限度額認定」申請を行ってください。

「介護保険負担限度額認定」は申請日の属する月の1日から適用されるので、多少時間に余裕はありますが、社会保険手続きは該当したら直ちに行うのが鉄則です。

資産要件を微妙に超過しているような人の場合には特に注意しておきたいところです。

 

さいごに

医療保険や介護保険の限度額認定などの手続きは、それぞれにこまかいルールがあって、しかも改正が頻繁に行われるところでもあります。

法律事務職としては、あらかじめネットで信頼できる情報を集めたり、市区役所に問い合わせたりして、最新の正確な情報を持つことが必要になってきます。

医療機関への入院や、介護施設への入所は、成年後見業務には必ず起こるイベントといってよいものですので、必要な手続きを漏れなく迅速適正に行えるように、日々の情報に敏感になりたいものです。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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成年後見事務で覚えておきたい社会保険の基礎知識 その2

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社会保険労務士の徳本です。

筆者が法律事務職として働いているときにはよく知らなかった社会保険の基礎知識について、法律事務職の皆さま向けにまとめてみたいと思います。

今回は、成年後見事務編その2です。
ここでは、社会保険料の支払管理業務を中心に、筆者が実務上経験したこと交えてをお話ししたいと思います。

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医療保険や介護保険の普通徴収の場合は支払管理をしっかりと

本人に代わって医療保険料や介護保険料の支払いを行うのも成年後見人の業務です。

保険料の支払管理が必要なのは、医療保険では国民健康保険や後期高齢者医療保険(原則75歳以上)、介護保険では本人が第1号被保険者(65歳以上)である場合です。

同じ医療保険の場合でも、本人が会社などの健康保険の被保険者であれば保険料は給料から控除されますし、家族の被扶養者となっているのであれば保険料を支払う必要はありません。

また、介護保険の場合、第2号被保険者(40歳以上65歳未満)であれば、その保険料は医療保険料と併せて支払うことになっているので(平たくいえば医療保険料の中に介護保険料も含まれているということです)、介護保険料を単独で支払うことはありません。

筆者の経験では、介護保険を利用していた人(要介護度5)の介護保険料の支払い実績が確認できなかったので、滞納しているのかと思ってあわてて市役所に問い合わせたところ、その人が第2号被保険者(65歳未満)だったので介護保険料の支払いは必要ないと回答されたことがありました(医療保険料はちゃんと払っていました)。

筆者はその人が第1号被保険者で介護保険料の支払が必要だと勘違いしたわけですが、どうしてそのような勘違いがおきたかというと、「要介護度5で介護保険を利用している=65歳以上である(第1号被保険者である)」と思い込んだのです。

40歳以上65歳未満の第2号被保険者であっても、特定疾病に該当する場合には介護保険が使えますが、当時はその辺りの知識が足りなかったのだと思います。

話が逸れましたが、保険料の支払管理の話に戻しますと、これらの保険料の支払方法は、特別徴収(年金天引き)と普通徴収に分かれます。

「普通」と「特別」とありますが、特段の手続きを行わなければ、原則として特別徴収となります。

支払管理という点では、支払い忘れがないので、成年後見人としては特別徴収の方法で問題はないと思います。

ただ、何らかの理由で普通徴収になった場合(たとえば、そもそも年金が少なくて特別徴収の対象にならないような場合や、引越しをしたような場合に一時的に普通徴収になるようなこともあります)、納付書払い(現金払い)だけでなく口座振替の方法もありますので、できるだけ支払い忘れのないように口座振替の方法をとった方がよいでしょう。

普通徴収の場合には、保険料の支払い忘れがあれば、督促料や延滞金が課せられることがあります。

このように本人の経済的損失が生じることもありますので、成年後見人として保険料の支払管理をしっかりと行ってください(口座振替の場合でも残高確認を忘れずに)。

 

保険料の値上がりに目を光らせましょう

支払管理においては、期限管理だけでなく、保険料の金額が適正なものかどうかもチェックが必要です。

毎年保険者から保険料の決定通知が来ますので、前年と比較するなどして内容をしっかり確認してください。

前年と比べて保険料が上がっている場合には、必ずその原因を解明する必要があります。

全体として保険料率や保険料の額が上がっているような場合はしかたないですが、たとえば所得の申告を忘れていて、本来受けられるべき減免措置が受けられていないようなこともありえますので、しっかりとした確認が必要です(わからなければ、市役所など保険者に問い合わせた方がよいでしょう)。

保険料の値上がりですが、こういう時は普通徴収の納付書払いの方が気づきやすいかもしれません。

納付書払い(現金払い)の場合は数百円上がっても、「あれ?」と違和感を覚えます。

ただ、特別徴収や口座振替の場合であっても、成年後見人としてはそれを見落とすわけにはいきません。

こういう細かいところで、どれだけ注意深さを発揮できるのかは、法律事務職としての腕の見せ所だと思っています。

 

家族の国民健康保険料を本人が支払っている場合は要注意

成年後見業務で社会保険料支払管理をしていると、家族の国民健康保険料を本人(成年被後見人)が支払っているというケースが見受けられます。

筆者の経験したところでは、本人Aさん(75歳以上で後期高齢者医療保険)が、その子Bさん(国民健康保険)と同居していたところ、Aさんの後期高齢者医療保険の保険料だけでなく、Bさんの国民健康保険料の支払いを市役所から求められたケースがありました(同様のケースは数件ありました)。

筆者としては、AさんがどうしてBさんの国民健康保険料まで支払わなければいけないのか、当初はよく仕組みがわかりませんでした。

それは、Aさんが住民票上の世帯主になっていたからです。

国民健康保険料の支払義務は世帯主に生じます。

つまり、世帯主本人が国民健康保険加入者でない場合でも、家族に国民健康保険加入者がいれば、世帯主が国民健康保険料の納付義務者になるということです(これを擬制世帯主といいます)。

このケースでは、後期高齢者医療保険に入っているAさんが世帯主であるので、Bさんの国民健康保険料まで支払わなければならないというわけです。

法律上の義務ですので、成年後見人がこれを支払ったからといって、本人に違法な経済的損害を生じさせたということにはならないとは思いますが、本人の家計が収支均衡で少しでも支出を抑えたいというような場合には、家族の国民健康保険料まで負担しきれないということもあります。

本人に家族の保険料を負担させない方法としては、当該家族から国民健康保険料相当額を支払ってもらうとか、住民票上の世帯主そのものを変更したり、その家族を国民健康保険上の世帯主として世帯主変更をするとか(要件がありますが)、実態に応じて世帯分離をするなどが考えられますが、この辺りは法律事務職としては方法を知っておくだけでいいと思います。

ただ、法律事務職が本人が家族の保険料を負担しているという事実に気づいた場合には、成年後見人である弁護士の先生にすぐに報告するようにしてください(あとは、先生が判断されますのでその指示に従いましょう)。

 

国民年金保険料の支払管理が必要な場合もあります

これまで医療保険(国民健康保険や後期高齢者医療保険)や介護保険の保険料をみてきましたが、社会保険料にはもうひとつ年金保険料があります。

ただ、本人が高齢である場合にはそもそも国民年金保険料の支払義務はありませんし(国民年金保険料を支払うのは原則60歳までです)、60歳未満の障害者のケースでも、就労して厚生年金の被保険者である場合(この場合には給料から年金保険料は天引きされます)や、国民年金保険料の法定免除(障害や生活保護などが理由)に該当しているような場合には、国民年金保険料を払う必要はありません。

成年後見制度を利用しているのは、高齢者や障害者がほとんどで、上記のどれかに該当するので、国民年金保険料を払う必要はほとんどないのが実際だと思います。

筆者の経験上でも、成年被後見人で国民年金保険料を支払っているケースは数件あるかどうかです。

筆者の経験は少ないですが、国民年金保険料を支払っているケースとしては、60歳未満の障害者が、将来の老齢基礎年金の額を増やしたいために国民年金保険料を全額支払っているというケースがありました(障害や生活保護を理由にしたような国民年金保険料の全額の法定免除の場合、ざっくりいえば、その期間は将来の老齢基礎年金は半額になります)。

たしかに、精神障害などで有期認定の障害年金の場合(将来障害年金の支給停止の可能性がある場合)や、特別障害給付金(国民年金に任意加入していなかったことにより、障害基礎年金等を受給していない障害者への福祉的措置として、障害基礎年金よりも少ない額が支給される制度。申請により国民年金保険料が全額免除となる)を受給している場合には、将来の老齢基礎年金を増やすために、国民年金保険料を満額納めるという選択肢もありだと思います。

ちょっと難しい話になりましたが、本人の生活設計を考えるのも成年後見人の役割だと思いますので、特に本人が若い障害者の場合、いつからどういう年金をいくらもらうのかという生活設計は大切なことだと思っています。

 

さいごに

社会保険料の支払管理といった必要な支出の支払は、成年後見人の業務の中でも、法律事務職の皆さんが現場で担当することが多い業務のひとつだと思います。

決まった額を支払うだけですので、単純作業の雑務のように感じるかもしれませんが、現場で動いている法律事務職の皆さまだからこそ気づくことも多いはずです。

「保険料を支払っていないようだけど大丈夫だろうか」、「いつもより保険料が多いのではないだろうか」、「家族の保険料をどうして本人が払っているのだろうか」などなど現場で疑問に思ったことがあれば、遠慮せずに成年後見人である弁護士の先生に報告してください。

ほとんどのケースでは先生から「それは~という理由だよ」と教えてもらえるでしょうが、ときには「気づいてくれてありがとう。すぐに確認して対策をとろう」というようなこともあります。

筆者の経験から言っても、現場感覚はとても大切だと思っています。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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成年後見事務で覚えておきたい社会保険の基礎知識 その1

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本です。

筆者が法律事務職として働いているときにはよく知らなかった社会保険の基礎知識について、法律事務職の皆さま向けにまとめてみたいと思います。

今回は、成年後見事務編その1です。
ここでは、社会保険の送付先変更手続きを中心に、筆者が実務上経験したこと交えてをお話ししたいと思います。
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送付先変更手続きを忘れずに

成年後見人の就任が確定したら、年金や医療保険(国民健康保険や後期高齢者医療保険)、介護保険の保険者などに郵便物などを本人ではなく成年後見人宛てに送ってもらえるように送付先変更の手続きをするようにしましょう。

年金額の把握や保険料の管理、各種給付金の申請など、保険者などから送付される文書は大切な情報です。

本人に直接送付されると紛失などのおそれもあり、必要な手続きの機会を喪失してしまう可能性もありますし、それによりもらえるはずの給付金が消滅時効にかかってしまってもらえなくなったとすれば、成年後見人の責任を問われる可能性もあります。

本人や同居の家族がどうしても自分たちで管理したいという意向をもっておられるなら話は別ですが、成年後見人が事情を把握し迅速に対応するためにも送付先変更はしておいた方がよいと思います(まず成年後見人が受け取って、必要な手続きが終わったら本人や家族に渡すということでもよいのではないかと思います)。

筆者が経験した事案では、給付金の書類を受け取った家族が自分の口座に入金しようとしていたようなケース(委任状を本人に作らせたようです)や、必要な書類の提出が遅延したため年金支給が一時的に差し止めになったようなケース(ある月に障害年金が入金されていなかったので年金事務所に確認したところ、書類の未提出が判明しました)もありました。

 

医療保険や介護保険の送付先変更手続き

国民健康保険や後期高齢医療保険といった医療保険や介護保険の場合には市区役所など行政機関の窓口で送付先変更の手続きが行えます。

手続きの書式や方法は市区役所ごとに異なっていて、これらの送付先変更の手続きを1枚の書式で一括して行えるところもあれば、各窓口に別々に行わないといけないところもあります(送付が必要な書類毎にチェックをする場合もありますが、特段の事情がなければ全部の欄にチェックをしておいて差し支えはないと思います)。

送付先変更を行うことで、被保険者証(いわゆる保険証)そのものや、保険料の額の確認や支払の管理、給付請求などに必要な書類が成年後見人宛てに送られるようになります(介護保険の場合には更新手続の書類も重要です)。

なお、この手続きの際に、住民税や固定資産税などの送付先変更の手続きもやっておくとよいでしょう。

これに対して、本人さんが就労をしていて会社員などが入る医療保険(健康保険)の被保険者である場合(まれに成年後見の場合でも就労している人はいらっしゃいます)や家族の健康保険の被扶養者になっているような場合などには、送付先変更の手続きは特に必要ありません(必要な手続きは事業主を通じて行うのが原則です)。

ですので、本人が家族の健康保険の被扶養者になっているのかどうかは、かならず確認するようにしておきましょう。

 

国民健康保険や後期高齢者医療保険には扶養制度はありません

「扶養」という言葉が出てきましたので、これに関連して覚えておいてほしい社会保険の基礎知識があります。

それは、国民健康保険や後期高齢者医療保険には「扶養」という制度はないということです(介護保険にも扶養という制度はありません)。

たまに、国民健康保険や後期高齢者医療保険の場合でも、「世帯主の扶養に入っている」と誤解している人がいますので、注意しておきたいところです。

扶養に入る場合とそうでない場合との大きな違いは保険料です。

会社員などが入っている健康保険であれば、「家族を扶養に入れる」という手続きをとれば、扶養に入った家族(被扶養者)に保険料は発生しません(しかも、ほとんどのサービスが受けられます)。

このように扶養制度はかなりお得なものなのですが、そのために扶養に入るには、被保険者との関係性だけでなく、同居の有無や収入の額などにより、その要件は厳格に決められています。

これに対して、国民健康保険や後期高齢者医療保険では、被扶養者になる(=保険料が発生しない)という制度はないので、被保険者それぞれに保険料が算定されることになります(なお誰がその保険料を支払わなければならないかについては、別の機会にお話しできればと思っています)。

たとえば、障害のあるAさんが会社員である親Bさんの健康保険の扶養に入っている場合には、Aさんの保険料は発生しませんが(そのためにBさんの保険料が上がることもありません)、Bさんが会社員をやめてAさんもBさんも国民健康保険に入った場合には、AさんBさんそれぞれに保険料が計算されるということです。

 

有期認定の障害年金の送付先変更手続きはお早めに

次に、年金の場合ですが、公的年金の場合の送付先変更の手続きの書式は全国統一です。

しかし、受給している年金の種類で窓口が若干異なります。

基礎年金(国民年金)や厚生年金を受給している場合(併給の場合も)には年金事務所で手続きを行うことができますし、基礎年金(国民年金)だけを受給している場合であれば、市区役所でも手続きを行うことができます。

送付先変更を行うことで、年金振込通知書や源泉徴収票(老齢年金の場合)などの書類が成年後見人宛てに送られるようになります。

これらの書類は本人の収入を確認するうえで重要な役割を果たします(裁判所への報告の際にこれらの書類の写しを添付することもあります)。

また、障害年金(障害基礎年金や障害厚生年金)の場合には、一定期間毎に「障害状態確認届」(診断書)などの書類を出す必要があるケースもあります(こういうケースを有期認定といいます)。

有期認定の場合に必要な書式は年金機構から郵送されてきますので、成年後見人としてはしっかりとした管理が必要になってきます(そのためにも送付先変更手続きは早めに行っておいた方がよいでしょう)。

書類の提出が遅れると年金の支給が一時的に差し止めになる場合もありますので、注意が必要です(差し止め後であっても、ちゃんと書類を提出して支給停止にならなければ、差し止められた部分もまとめて支給されますが、5年の消滅時効の問題もあるので、できるだけ速やかに書類を提出してください)。

また、企業年金(いわゆる3階部分)を受給している場合には、それぞれの機関で手続きを行ってください(郵送で対応してくれる場合が多いですので、それぞれの機関にご確認ください)。

企業年金の場合にも「現況届」が必要になるケースもありますので、送付先変更手続きにより書類の管理が求められます。

 

さいごに

正直なところ、成年後見業務の開始時には色々とやることが多いので、社会保険の送付先変更手続きは、金融機関への届出などと比べると、つい後回しにしてしまいがちな手続きだと思います。

その気持ちはよくわかるのですが、必要な書類を受け取れなかったために、保険料の支払が遅れれば督促料などが発生することもありますし、年金が一時差し止めになれば収入がストップするといった不利益も発生します。

損害額としては大きくないかもしれませんが、本人や関係者との信頼関係に与える悪影響もあります。

こういった細かい事務手続きこそ、法律事務職としては、迅速かつ正確にこなして、弁護士の先生をアシストできるようにしたいものです。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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相続事務で覚えておきたい社会保険の基礎知識

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社会保険労務士の徳本です。

筆者が法律事務職として働いているときにはよく知らなかった社会保険の基礎知識について、法律事務職の皆さま向けにまとめてみたいと思います。

今回は、相続事務編です。

厳密には相続事務には含まれていないものもあるのですが、被相続人の死亡の場面で出てくる社会保険の基礎知識について、筆者が実務上経験したこと交えてをお話ししたいと思います。

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 年金は月単位で発生する(=日割りにはならない)

まず押さえておきたいのが、年金受給者が死亡した場合に年金はいつまでもらえるのかということです。

結論から言えば、死亡日の属する月の全額が発生します。

つまり、1日に亡くなっても、末日に亡くなっても、その月の年金は全額が発生するということです。

法律事務職をやっていると、不動産売買での固定資産税負担の計算や家賃(ないし家賃相当額の損害金)計算の場面などで「日割り」のくせがついている人も多いのではないかと思いますが、年金の受給額に関しては日割りではなく月単位で計算するということは覚えておいて損はないと思います。

たとえば、受給者が4月16日に亡くなったとすれば、4月分の年金は1ヶ月分全額もらえるということです。

筆者が法律事務職をやっていた際に、年金事務所(当時の社会保険事務所)に電話で死亡後の年金のことを問い合わせたことがあったのですが、日割りを前提に話をしていたので、なかなか話が噛み合わなかった経験があります(今思えば、少し調べてから電話すればよかったのですが、日割りを当然のことだと思っていたのだと思います)。

 

未支給年金の受給権者は民法の相続のルールとは異なる

ところで、年金は偶数月の15日に前月までの2ヶ月分が支給されるのが原則です。

たとえば、4月15日に支給された年金は、2月、3月分の2ヶ月分ということです。

とすれば、次のような問題が発生します。

それは、1日に亡くなろうが、末日に亡くなろうが、その月の年金はまだ支給されていないという問題です。

たとえば、受給者が4月16日に亡くなった場合、既にみてきたように4月分の年金は1ヶ月分全額が発生することになるのですが、4月15日に支払われた年金は2月分、3月分のものですので、4月分はまだもらっていないということになるのです。

これを「未支給年金」といいます(死亡した月が偶数月か奇数月か、死亡した日が15日より前か後かによって、1~3ヶ月分が未支給年金となります)。

こういう話になると、法律事務職としては、「まだもらっていないお金があるならば、相続手続で帰属を決めるのだろう」と思うのではないでしょうか(一時期、筆者もそのように考えていました)。

しかし、結論から言えば、基礎年金(国民年金)や厚生年金の未支給年金については、民法の相続手続によってではなく、未支給年金独自の規定に従ってもらえる人が決まっているのです。

未支給年金を受け取ることができるのは、年金受給者が亡くなった当時、その人と生計を同じくしていた、(1)配偶者 (2)子 (3)父母 (4)孫 (5)祖父母 (6)兄弟姉妹 (7)その他(1)~(6)以外の3親等内の親族です(未支給年金を受け取れる順位もこのとおりです)。

ポイントは2つあります。

1つ目のポイントは、民法上の法定相続人の規定とは異なること(3親等内の親族にまで拡張されています)です。

2つ目のポイントは、「死亡した受給者の死亡時に生計を同じくしていたこと」という要件が加わっていることです(生計同一要件といいます)。

これは何を意味するかというと、たとえ民法上の法定相続人であっても、生計同一要件を満たさなければ、未支給年金はもらえないということです。

たとえば生前にまったく交流のなかった人が亡くなった場合には、第1順位の法定相続人であったとしても、生計同一要件を満たせないので、未支給年金を受給することはできません(相続人と未支給年金の受給権者が別人になることもありますし、そもそも誰も未支給年金がもらえないということもあります)。

生計同一要件の有無の確認は、相続手続に慣れている法律事務職ほど見落としやすいところですので、注意が必要なところです(つい、普通の相続手続と同じに考えてしまうんですよね)。

 

遺族基礎年金は受給できる人が子育て世帯に限られている

最後は、相続とは直接関係はないのですが、配偶者が亡くなった場合の「遺族年金」について、基礎的な知識を確認してみましょう。

法律事務職が相続事務にあたる際に、被相続人の配偶者とお話する機会は少なくありません。

その際に遺族年金の話題が出てくることもありますので、ある程度の知識は持っておいた方がよいと思います。

まず、一言で「遺族年金」と言っても、遺族基礎年金(国民年金)と遺族厚生年金の2つがあります。

そして、この2つは受給要件が大きく異なる制度です。

まず、遺族基礎年金についてですが、筆者が法律事務職をやっている間に、この遺族基礎年金を受給している人に会ったことはありませんでした。

というのも、遺族基礎年金の対象者は、死亡した者によって生計を維持されていた、(1)子のある配偶者、(2)子に限られているのです。

さらにここで「子」というのは、「18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子」または「20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の子」のことです。

覚えておいてほしいことをざっくり言えば、遺族基礎年金は「高校卒業までの子」か「20歳未満の障害者の子」がいる場合でなければもらえないということです。

つまり、子のいない夫婦や、子が既に大きくなった夫婦の一方が亡くなった場合には、遺族基礎年金は発生しないということです(当初はこれらの要件に該当する子がいたとしても、その子のすべてが子の要件に該当しなくなれば、遺族基礎年金はもらえなくなります)。

そういうわけで、遺族基礎年金を受給できる(している)人というのはそれほど多くはないのです。

これに対して、遺族厚生年金の対象者は、かなり異なります。

それは、死亡した者によって生計を維持されていた、(1)妻、(2)子、孫(18歳到達年度の年度末を経過していない者または20歳未満で障害年金の障害等級1・2級の者)、(3)55歳以上の夫、父母、祖父母(支給開始は60歳から。ただし、夫は遺族基礎年金を受給中の場合に限り、遺族厚生年金も合わせて受給できる。)です。

遺族厚生年金で覚えておいてほしいポイントは2つです。

1つ目は、子の有無にかかわらずに受給できるということ。

2つ目は、妻には年齢制限はないですが、夫には年齢制限があるということ。

ですので、遺族厚生年金を受給している人(特に女性)に会うことは比較的多いです。

65歳以上であれば併給もできますので、老齢基礎年金に加えて遺族厚生年金(+老齢厚生年金)を受給しているという人もいらっしゃいます(前述のとおり遺族基礎年金は受給対象者が限定されているので、いわゆる1階部分は老齢基礎年金をもらいつつ、2階部分は遺族厚生年金を併給するという仕組みです)。

遺族年金については、年金事務所で受給の可能性や見込み額などについて相談することもできますので、忘れずに確認するようにしてください。

 

さいごに

社会保険の手続については細かいことも多く、弁護士の先生であってもすべてを完璧に覚えておられる先生は多くはないと思います。

法律事務職として社会保険の基礎知識を学ぶことは、弁護士の先生のためにも、依頼者のためにも有意義なことだと思っています。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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消えていく未支給年金

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「第10回 対話型勉強会」のお知らせ

社労士と考える「SOGI」って何?~セクハラ指針を読んでみよう

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。
今回は、勉強会のお知らせです。
筆者は、オフィス北浦の社会保険労務士として、不定期に勉強会を開催しています。
その勉強会ですが、「第10回 対話型勉強会」として、
日時:2019年2月27日(水)17:30~18:30
場所:萩市内(参加者には追ってお知らせします)
で行うこととなりました。

これまでは法律事務職を中心にした勉強会でしたが、今回から誰でも参加可能な「対話型勉強会」としてリニューアルしました(学生さんも歓迎です)。
今回のテーマは、「社労士と考える「SOGI」って何?~セクハラ指針を読んでみよう」です。
厚労省のセクハラ指針を読みながら、少し聞きなれない「SOGI」(性的指向または性自認)の概念について話し合いながら理解していこうという趣旨です。
なお、勉強会の後には懇親卓ゲ会(1時間程度)と食事会もあります(任意参加です)。
勉強会と懇親卓ゲ会は無料ですが、食事会は会費3000円をいただきます。
事前予約制ですので、お申込みは2月20日(水)までに、オフィス北浦までいただけますようお願い申し上げます。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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意外と困る保佐人の権限外行為

できないことの方が多い保佐人業務

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本です。

筆者は、法定成年後見業務を専門に行う法人の事務局長を務めています。

成年後見業務(保佐業務)をやっていて困ることの一つに、「保佐人の代理権が設定されていないのに、その業務を保佐人が行うことが当然とされている」というケースがあります。

今回は、このような保佐人の権限外の行為について現状とその問題点(できれば解決策まで)を考えてみたいと思います。

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保佐人のできることは限られている

保佐人のできること(権限)は、原則として、民法13条1項各号に定められた事項(たとえば、借入や保証契約(2号)、不動産の取引(3号)など)についての同意権と、それらを本人が保佐人の同意なしに行った場合の取消権(ないし追認権)です。

たとえば、本人が借金をしようとした場合には、保佐人の同意を得て契約しなければならず、仮にその同意なしに契約をした場合には保佐人がその契約を取り消すことができるということです。

また、これらの同意権の範囲は、拡張することもできます(民法13条2項)。

ただし、契約を行うのはあくまでも本人であり、保佐人はそれに同意をすることができるというだけです。

この点、「成年後見人」の場合には、本人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為については本人を代表する(=法定代理人として法律行為ができる)とされていること(民法859条1項)と比べると、大きな違いがあります。

もちろん、保佐人の場合にも、代理権付与の審判(民法876条の4)を得ることで、一定の行為については代理権が行使できますが、成年後見人のように、広範な代理権を一般的に行使することはできないのです。

このように保佐人の権限が限られていることは、本人(成年被後見人と被保佐人)の現有能力の違いに由来するものですし、そもそも広範な代理権行使は本人の人権の制約にもつながるので、理にかなった制度ではあります。

しかし、実際の保佐人の活動の現場では、困ったことも生じるのです。

 

権限外行為を求められる現実

実際に保佐人として活動をしていると、民法13条の同意権(またはその取消権)を行使する場面というのはそれほど多くはありません。

よく考えずに不相当な契約をしてしまったとか、不動産を売却しなければならないとか、日常生活においてはそうそう頻繁にあることではないのです。

むしろ、保佐人が行うことの多くは、医療費等日常の支払いや金融機関の取引(預貯金の管理)といったことであり、これらの行為に関しては予め保佐人に代理権が付与されていることがほとんどです(もしくは、選任後必要に応じて新たに代理権を付与してもらうこともあります)。

このような類型的な行為については、代理権付与で対応できるのですが、イレギュラーなことが生じて、保佐人がその対応に追われることも少なくありません。

たとえば、年金や医療保険といった社会保険の申請や福祉関係の行政手続き、ときには収入がないことの税務上の手続などがあります。

保佐の場合、本人が行為を行うのが原則なので、「本人にやらせればいい」と言われればそのとおりなのですが、本人だけではできないからこそ保佐人に対応が求められるのであり、それこそが、本人や関係者(果ては黙示に裁判所までも)が保佐人に求めているものなのです。

そのため、保佐人への代理権付与の項目が多岐にわたってしまい、何のために保佐人の権限を制限したのかよくわからなくなるといった現象も起きます(それでも、それらの代理権の範囲を超えた問題が生じることも少なくないのですが)。

それならば、「その都度、裁判所に代理権付与を求めればよい」とか「個別に本人と委任契約を結んで代理権を取得すればよい」というご指摘もあるのでしょう。

たしかにお説ごもっともです。

時間も手間も費用も考えずにすむのならそのようにしますが、実際にはそれができない現実もあります。

また、本人から保佐人が個別に代理権を取得する場合、保佐人が本人との委任契約の一方当事者になることの適否の問題もあります。

さらに言えば、そもそも業際問題(法律で許された者以外への代理ができない場合)が絡んでくることもあります。

「それができるのなら、とっくにしてるよ」というのが本音なのではないでしょうか。

結局のところ、このような場合、現場では、保佐人が本人のところに行って事情を確認し、本人が書類を作成できるように援助し、場合によっては提出を代行するといったように、「本人が行為を行った体裁」をつくって、臨機応変に対応せざるをえないのです。

 

保佐人は日常業務の負担が大きい

そもそも、保佐人の日常業務に関しては、成年後見人のそれよりも相対的に手のかかることが多いものです。

たとえば、重度の障害によって入院・入所している成年被後見人と、軽度の障害で自宅で暮らしている被保佐人とでは、後者の方が日常業務の負担が大きいというのは、実際に後見業務に携わった方なら実感できるのではないでしょうか。

前者の場合、前述のように成年後見人には広範な権限があり、成年後見人は代理権を使って様々な手続きを行えますし(その是非はひとまず置いておいて)、そもそも入院や入所中であれば、病院や施設のおかげで、日常の生活トラブルなどは抑えられます。

それに対して、後者の場合には、保佐人の権限が限定的であるにもかかわらず、本人だけでは対応できないことが生じれば、そのフォロー(権限外であっても)は必要ですし、在宅であれば、日常の様々な困りごとが日々生じてきます。

そして、そのような日常の場面でこそ、保佐人の権限外行為が求められるのです。

保佐人が評価されない現実

しかしながら、こうして保佐人が権限外の行為を行ったとしても、保佐人の評価にはつながらないのが原則です。

たとえば、保佐人の同意権(場合によっては代理権)によって不動産を処分して利益を得たとか、保佐人が取消権を行使して財産を取り戻したとかいう場合には、金銭的に効果が見えるのでその評価もある程度客観的に行えるでしょう。

それに対して、たとえば、本人だけではできない社会保険や福祉の手続きを保佐人が手伝ったからといって、これを客観的に評価するのはなかなか難しいのではないでしょうか(身上監護の一環としてどの程度評価されるのかは正直よくわかりません)。

しかも、権限外の行為、すなわち業務外の行為であれば、そもそも評価の対象外とされても文句は言えません。

保佐人業務の評価が必ずしも正当に行われていないのではないかという現実があるのです。

 

それでも保佐人制度はもっと活用されるべき

以上のように、①保佐人の権限が限定されていること、②権限外の行為を(当然のように)期待されていること、③保佐人の権限外行為が求められる場面が少なくないこと、さらに④保佐人の業務の評価が難しいことという理由から、保佐人の業務は負担が大きいといえます。

さらに言えば、(成年被後見人に比べて)被保佐人の現有能力が高いので、方針や意見の違いから、本人と保佐人との間に衝突が起きやすいという傾向もあります。

こういった理由から、専門職の方からも「保佐人はこりごり」とか「保佐人は割に合わない」といった愚痴を聞くこともなくはありません。

しかし、保佐人制度は、成年後見人制度よりも本人の権限の制限が緩やかであり、本人としっかりコミュニケーションをとることで、意思決定支援を行いやすいというメリットもあります。

そういう意味において、保佐人制度はもっと積極的に活用されるべき制度だと考えています。

 

積極的に専門家に依頼できる仕組みづくりを

では、前述の①~④の問題のように、保佐人が「権限なき責任を日常的に無償で負わされている」という現状をどうすればよいのでしょうか。

その対策の一つは「専門家への依頼」だと思っています。

社会保険手続は社労士に、行政手続は行政書士に、税務申告は税理士にといったように、各専門家への依頼がスムーズにできれば、保佐人が権限外の業務を負担することは少なくなるでしょう(専門家に依頼すれば業際問題も生じません)。

ただ、実際のところ、専門家への依頼に、それほどお金がかけられないという問題があります。

また、「わざわざ専門家に依頼するような内容ではないのではないか」ということで、依頼を躊躇することもあるかもしれません(専門家側でも、小さな手続を敬遠するということがないわけではないでしょう)。

そのようなことのないように、ちょっとしたことでも、できるだけ安価で気軽に効率的に、保佐人が各専門家に依頼できるような仕組み作りが必要なのではないかと思っています。

この点、弁護士の法テラスのような制度や公的な援助の制度があればいいのにと思うところですが、現実的にはさすがに難しいでしょう。

個人的には、現在進行中の成年後見の「中核機関」構想の中で何らかの仕組みをつくってもらえないものかと期待をよせているところです。

保佐人制度をもっと活用するためにも、保佐人の業務負担の軽減はとても大切なことなのですから。

現場では、「成年後見相当」とされる人の中でも、その能力には幅があり、限りなく「保佐相当」に近いのではないかと思われる人もいます。

本来、本人の能力が回復しているのであれば、成年後見から保佐に変更する手続きをするべきなのですが、仮に、保佐に変更になることによって生じる業務負担増が原因で、それを躊躇うことがあったとすれば、本人の人権侵害に直結する大きな問題だと思っています。

実際にそのようなことはないことを願いますが、現実問題として、成年後見と保佐との利用率の差をみると、考えてしまうものがあります。

保佐人制度が有効に機能するように、必要な仕組みを真剣に構築すべき時期だと思っています。

せっかくの「中核機関」構想ですので、これを機に是非改善していただきたいものです。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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前の記事:第50回社会保険労務士試験の試験問題の公開を受けて思ったこと(選択式感想)

後の記事:「第10回 対話型勉強会」のお知らせ

第50回社会保険労務士試験の試験問題の公開を受けて思ったこと(選択式感想)

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

2018年8月26日第50回(平成30年度)社会保険労務士試験が行われました。

受験された皆さま、本当にお疲れさまでした。

筆者は、毎年試験問題が公開されると、一応自分でも解いてみることにしています。

今回は選択式についてその感想を簡単にのべたいと思います。

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選択式の全体的な感想

率直な感想として、いわゆる難問奇問という出題はそこまで見当たらなかったように思います。

しっかり準備してきた受験生であれば、満足のいく結果が得られたのではないでしょうか。

労一に関しても、比較的素直な出題だったと思います(ここ数年がちょっとひねり過ぎていたところもありますが)。

ケアレスミスがなければ、「1点足らずに泣く」(妖怪イチタリナイ)といったことは例年に比べて少ないのではないかと思っています。

ただ、安全衛生はいつもの感じで少し細かいかなと思いましたし、健康保険はちょっと考えてしまうところもありました。

選択式の合格ラインが上昇した場合、こういったところでいかに点数を上積みできるかが勝負を決するかもしれません。

いずれにしても、今回の選択式は、全体として、運の要素に左右されることなく、ちゃんと勉強してきた人がちゃんと点の取れる内容だったのではないかと思います。

選択式の各科目ごとの感想

労基安衛

  • ぱっと見た感じ、3点はいけそう
  • Aは30日か1ヶ月かで迷ったけど、受験生なら正確に覚えているはず
  • DEの安全衛生は、ちょっと細かい。この2問とれたらうれしい

労災保険

  • また特別加入ですか。しかも全問(受験生なら特別加入を外していることはないとは思うけど、まだ出ないだろうとか高を括って、後回しにしていた人は驚いたかもしれない)
  • 選択肢が4択になってて難問揃いかと一瞬びびったけど、そうでもない
  • D(林業)は迷ってしまったが、他はいけそう

雇用保険

  • 今年は数字問題ですね
  • 粛々と解いていくだけ
  • 5点満点もいけそう

労務一般

  • そこまで奇をてらった問題ではない(久しぶりに心が折れない)
  • 選択肢もそこまで細かくない(「100人」と「101人」とか出てなくてよかった)
  • E(生産年齢人口)だけは嵌めにきてる感じは否めない(労働力人口の定義をしっかり覚えているかってことなのかな)。まあ1問だけなら致命傷にはならない

社保一般

  • 確定給付年金からの3問(C~D)は、マイナー論点ではないので合格を目指す受験生なら正確に覚えておきたいところ(細かい知識を忘れていた筆者は迷ったけど)。
  • Aはちょい迷う(今年が3年おきの保険料改定の年だったことも関係してるのかな)
  • Bは落ち着いて計算(足し算)すればいけるはず

健康保険

  • 出ました条文穴埋め問題。3問(A~C)あるし、ちょっとパニック入るかもしれない。ただ、目的等の条文問題は準備していないことが言い訳にはならない
  • 選択肢も結構バラバラに配置してあって、追い込んできてる感じがする
  • 後半2問(DE)で落ち着きたいけど、「以前」「以後」「前」「後」でたたみかけてくる

厚生年金

  • 健康保険のあとだと、選択肢がまとまっているだけで、ありがたく感じる
  • ADは翌日起算かどうかで迷わされるけど、落ち着けばいけるでしょう(健康保険で心を乱された人は引きずらないようにしないといけない)
  • 3点とれないってことはない

国民年金

  • DEは絶対死守
  • ACもそれほど難しくはないので、3点は守れそう
  • 個人番号の取扱いをチェックしていなければ、Bは迷うかも

とにかくお疲れさまでした

何はともあれ、真夏の暑い時期に、午前と午後にかけて臨む試験が終わりました。

満足のいく結果の人も、そうでなかった人も、本当にお疲れさまでした。

今は少し落ち着いて、11月の合格発表を待ちましょう。

皆さまの合格を心よりお祈り申し上げます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

法律事務所元職員の社会保険労務士からみた弁護士の労務管理スタイル

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回は、法律事務所元職員の社会保険労務士からみた弁護士の労務管理スタイルのお話です。

筆者は法律事務所職員として15年以上勤務してきました。

その間(現在も)公私にわたって、様々なタイプの弁護士の先生方と交流させていただいています。

そんな筆者が社会保険労務士となった今だからこそ言える、弁護士の労務管理スタイルについて述べたいと思います。

現在筆者は、小さな法律事務所のための労務管理システムをつくろうと企画しているのですが、それを考えている際に、ふと弁護士の先生方の労務管理スタイルは類型化できるのではないかと思いました。

事務職員という一方当事者的立場からみたものであり、偏った面や生意気に聞こえるところもあるかもしれませんが、法律事務所元職員である社会保険労務士の率直な印象としてご容赦いただけますようお願いいたします。

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4つの労務管理スタイルの類型

筆者は、弁護士の労務管理スタイルを、「コンプライアンスの徹底」(コンプライアンス意識)と「働きやすい職場環境」(職場環境の快適さ)の2つを軸にして、①朕は国家なりの絶対君主型、②上からの恩恵の啓蒙君主型、③革命をおそれる囚われの君主型、④さらなる発展を目指す立憲君主型の4つに類型化しています。

マトリックスに表せば、次の図のようになります。

 

簡単に各類型を紹介していくと、①コンプライアンス意識が低く職場環境も悪い絶対君主型(いわゆるワンマン経営でブラック化しやすいタイプ)、②コンプライアンス意識は高くないが職場環境も悪くはない啓蒙君主型(事務職員への福利厚生等を恩恵的に与えて満足しているタイプ)、③コンプライアンス徹底に汲々となって職場環境が良くならない囚われの君主型(コンプライアンスという手段が目的化して、かえって職場環境が窮屈になっているタイプ)、④コンプライアンスが徹底され職場環境も快適な立憲君主型(システムとしては理想的なタイプ)といった感じです

これらは歴史的な用語としては不正確なものですが、かつて西洋史をかじっていた筆者がイメージしやくするために、こういうネーミングにしています。

以下、その特徴をみていきましょう。

内憂外患「朕は国家なりの絶対君主型」

「コンプライアンス意識:低い / 職場環境:悪い」のカテゴリーが「朕は国家なりの絶対君主型」です。

このタイプの特徴は次のとおりです。

  • ボス弁護士が強力なリーダーシップの下に剛腕を振るっている
  • コンプライアンスは二の次で、独善に陥りやすい(いわゆるブラック化しやすい)
  • 契約自由の原則や憲法の営業の自由などを拠り所にして、労働法規規制を独自解釈している
  • 企業体としては、短期的に急成長する場合もある
  • 下で働く勤務弁護士や事務職員は社会正義・社会貢献に対する意識が高いので、それがかえって、「やりがい搾取」を許容する温床になっている
  • 「クライアントのサービス残業代を、サービス残業しながら計算している」といったブラックジョークが生まれる
  • 結果として内部からの反乱や離反も生じやすい。また、外部からは労働基準監督署の行政指導、弁護士会の懲戒処分、裁判所への訴訟リスク、そしてマスコミ世論からのブラック批判など、いつ何が起きるかわからない高リスクな状態が続く

このタイプはさすがに極端少数派です。

ブラック法律事務所とはシャレにもなりません。

しかし、まったくいないとは言い切れないのが残念なところです(悪魔の証明といいたいところですが、悪魔がひょっこり現れないとも限りません)。

限界が見える「上からの恩恵の啓蒙君主型」

「コンプライアンス意識:高くない / 職場環境:悪くない」のカテゴリーが「上からの恩恵の啓蒙君主型」です。

このタイプの特徴は次のとおりです。

  • 事務職員の福利厚生もそれなりに考えており、ときに法定以上のものを与えることもある
  • ただ労働条件通知書や就業規則などに、それらを制度化して明記することには消極的
  • 最低限の(どこかからコピペしてきた)就業規則などを備えることもあるが、形骸化したそれは実際には機能していない(いざ問題が起こったときには使い物にならない)
  • 36協定の締結・届出や法定帳簿の調整など、単純な手続面でさえも怠っている場合がある
  • 事務職員への福利厚生はどこか恩恵的なものと考えている傾向がある
  • ときに気分屋な面が出て、公平さに欠ける面もある
  • 旧司法試験で両訴必須だったり、法律選択科目でも労働法を選択していないなど、労働法規への馴染が薄く、場合によっては苦手意識を持っていることもある
  • ときに絶対君主型を批判して「名君」を自称している場合もあるが、傍から見れば「どっちもどっち」的な状態になっている
  • 自称「名君」ゆえに(事務職員からの信頼に根拠のない自信をもっており)、事務職員が本心では嫌がっていることに気づかない無自覚ハラスメントに陥る危険もある
  • 事務職員との関係が悪化した場合、コンプライアンス違反を攻められて守勢に回らざるを得ない

このタイプは意外と少なくない印象があります。

実際の中小・零細企業でも同様のタイプは見受けられますが、ことこれが法律事務所に至ってはいかがなものかと思わざるをえません。

啓蒙君主型のやっかいなところは、それなりに上手くいってる間は、問題が表面化してこないということです。

弁護士も事務職員もこの状態が悪くはないので、どこか「なあなあ」のまま現状が放置されていきます。

ただ、ひとたび問題が生じれば、コンプライアンス違反という点では絶対君主型と大きな違いはありません。

実際に啓蒙君主型の弁護士の先生とお話しをすると、このような問題意識を自覚してるケースも少なくありません。

啓蒙君主型は制度面が整備されれば、スムーズに立憲君主型に移行可能なのですが、多忙(優先順位)や心理的抵抗感を理由にして、なかなかに及び腰なのが現状のようです。

意識改革が望まれます。

そこまでしなくてもいい「革命をおそれる囚われの君主型」

「コンプライアンス意識:極めて高い / 職場環境:良くはない」のカテゴリーが「革命をおそれる囚われの君主型」です。

このタイプの特徴は次のとおりです。

  • 弁護士ゆえの慎重さから、コンプライアンス偏重主義に陥った状態
  • かつて事務職員が労働基準監督署に駆け込んだり、未払い賃金訴訟を起こしてきたりといった経験が契機となって、絶対君主型や啓蒙君主型から囚われの君主型に移行するケースもある
  • コンプライアンスの徹底には過剰なまでに余念がないが、規則や先例に拘束されすぎて柔軟性に欠ける
  • コンプライアンスそのものが目的化、硬直化してしまい、かえって働きやすい環境ややりがいのある職場をつくる妨げになっている
  • 「事務職員からいつ裏切られるかもしれない」という疑心暗鬼の心理状態から、事務所全体がギスギスした雰囲気になってしまうこともある
  • 規則さえ守ればよい(それ以上はやらなくてもよい)という風潮が生まれ、長期的には、事務職員の当事者意識やモチベーションが下がるおそれがある

コンプライアンスの徹底に汲々となって、かえって職場環境が窮屈になってしまうのが「囚われの君主型」です。

事務職員の自主性も損なわれ、結果として生産性が下がっていくといった弊害もあります。

息の詰まる職場は精神衛生上もよくないので、何事も極端にならないように気をつけたいものです。

事務職員の立場からすれば、啓蒙君主型の方がまだ働きやすい職場だといえます。

次はどこへ進む「さらなる発展を目指す立憲君主型」

「コンプライアンス意識:高い / 職場環境:良い」のカテゴリーが「さらなる発展を目指す立憲君主型」です。

このタイプの特徴は次のとおりです。

  • コンプライアンスを徹底し、働きやすい職場環境にも柔軟に対応できている理想的な状態
  • ボス弁護士は権限委譲を効率的に実践していて(「君臨すれども統治せず」?)、勤務弁護士と事務職員の協働も軌道に乗っている
  • ときにシステム構築に満足してしまい、現場感覚が疎かになるおそれもある
  • 「君臨すれども統治せず」はほどほどにして、次のステージ(「やりがいのある職場作り」)を実現するためのリーダーシップが求められる

本来、法律の専門家である法律事務所はすべてこの「立憲君主型」になっていることが望まれるところですが、実際のところはどうなのでしょう。

多数派であることは間違いないと思いますが、100%かと言われればそこまでは言い切れないところではないでしょうか。

いずれにせよ、コンプライアンスの徹底と働きやすい職場環境の構築ができている状態は素晴らしいことです。

もっともこれが最終形態ではありません。

「コンプライアンス徹底」「働きやすい職場環境」と実現できれば、次は「やりがいのある職場づくり」が待っています。

歴史上、立憲君主制が次の体制に移行していったように、現状に満足せず次のステージに進んでほしいと思います。

立憲君主型の目指すべき「やりがいのある職場づくり」とは

では、立憲君主型が次に目指すべき「やりがいのある職場づくり」とは何なのでしょうか。

実は、これこそが筆者の考えている小さな法律事務所のための労務管理システムのメインテーマです。

「やりがい」を実感するために必要な要素

「やりがい」そのものを明確に定義付けするのは困難なのですが、筆者は「やりがい」を実感するために必要な要素は、①「仕事への誇り」、②「報われる評価」、③「納得の待遇」、④「将来のイメージ」だと思っています。

法律事務所は、まさに社会正義の実現の場ですので、そこで働く事務職員が①「仕事への誇り」を感じていることはたしかだと思います(筆者の実感もそうでした)。

ただ、その他の②「報われる評価」、③「納得の待遇」、④「将来のイメージ」の3要素については更に検討していく必要があると思っています。

小さな法律事務所では、弁護士が事務職員に求めるレベルは事務所ごとに異なっています。

そのため、評価基準を一般化することは困難であり、オリジナルの評価基準が必要になってくるはずです。

しかし現実問題として、②「報われる評価」を実現する基準は用意されているのでしょうか。

そういった評価基準が整備されているところは多くはなく、評価の客観性や公平性に疑問が残るところです。

また、賃金体系にしても「いわゆる事務員さん」の賃金水準しか想定されていない場合もあります。

弁護士の補助として働く事務職員(パラリーガル)の賃金体系には、その事務所オリジナルの整備が必要になってきます。

③「納得の待遇」を実現する賃金体系の整備が不可避的な問題としてそこにあるのです。

そして一番深刻なのは、事務職員として働く10年先、20年先のイメージが描けないということです。

ロールモデルとなる人もいなければ、キャリアパスも明確になっていないからです。

筆者が事務職員として壁にぶつかったのもこの点でした。

「このまま働き続けられるのだろうか」という不安がいつも付きまとっていました。

個人的には、十分に評価していただき、身に余る待遇をいただいていたにもかかわらず、この不安は拭いきれませんでした。

キャリアパスを明確に提示されて、④「将来のイメージ」がちゃんと描けていれば、こういう不安も解消されたのではないかと、今になって思うところです。

求められるのは「やりがい」を実感できるオリジナルのシステム

これらの問題は相互に関連していて、どれか一つを解決すればよいというものではありません。

キャリアパスが明確になれば、それに応じた賃金体系もみえてくるでしょうし、そのための評価基準も決めやすくなるでしょう。

問題は、これらの解決には一般論は通用しないということです。

小さな法律事務所ゆえに、「やりがい」を実感するための、模範的な解答や一般的なモデルがないのです。

言い換えれば、「その事務所オリジナルのシステム」が必要であるということです。

弁護士が事務職員に求めるレベルが事務所ごとに異なっている小さな法律事務所では、当然の帰結といえるでしょう。

実のところ、これらの点については、筆者の中でもまだまだ練りきれていない部分が少なくありません。

ただ、これは法律事務所元職員の社会保険労務士だからこそできる仕事だと思って取り組んでいます。

これが完成すれば、立憲君主型の次に目指すステージとして相応しいものになるでしょう。

法律事務所の事務職員にとっての「やりがいのある職場」とは何なのか。

法律事務所ごとに求められるオリジナルの「やりがいのある職場」を追求していきたいと思っています。

各タイプ毎に取り組むべき労務管理の3つの土台

筆者は、「コンプライアンス徹底」「働きやすい環境整備」「やりがいのある職場づくり」という3つの労務管理の土台に支えられてこそ、法律事務所が企業体として継続的、安定的に成長していくものと考えています。

小さな法律事務所をそのまま維持する場合であっても、さらなる事業展開を模索する場合であっても、成長戦略を支えるオリジナルの労務管理は欠かせないものなのです。

そのためには、まず現在どのような労務管理のスタイルをとっているのかを認識し、絶対君主型や啓蒙君主型は「コンプライアンス徹底」から始め、囚われの君主型は「働きやすい環境整備」に力を入れて、立憲君主型は「やりがいのある職場づくり」に進んでいくというように、各タイプごとに順を追ってオリジナルの労務管理の土台を作っていく必要があると考えています。

法律事務所元職員の社会保険労務士としては、小さな法律事務所のために、このような土台作りのお手伝いをさせていただけないかと思って、その仕組みづくりの準備をしています。

そして、結果として、その法律事務所の発展に寄与できれば、これほど光栄なことはありません。

こういった取り組みが、これまでお世話になった先生方へのご恩返しになると信じて、これからも精進してまいります。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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要注意!こんなケースでは介護保険負担限度額認定申請を忘れずに!!【成年後見実務の社会保険手続2】

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

「忘れてはいけない 成年後見実務の社会保険手続」シリーズです。

成年後見特化法人の事務局社会保険労務士である筆者が、成年後見実務で行う社会保険手続のうち、つい忘れてしまいがちなものについて解説をしていきます。

第2回目は介護保険の負担限度額認定手続です。

 

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介護保険負担限度額認定制度の概要

  • 介護保険施設に入所等される人で、低所得の人の施設利用時の食費・居住費、ショートステイの食費・滞在費が負担増とならないように、一定額以上を保険給付する(食費や居住費などの自己負担額が減額される)制度
  • 低所得の人は所得に応じた負担限度額までを自己負担すればよい(残りの基準費用額との差額分は介護保険から給付される)
  • 対象となる介護保険施設は、介護老人福祉施設・介護老人保健施設・介護療養型医療施設。いわゆる老健や特養はこれに該当。有料老人ホームやグループホームは原則対象外
  • 対象となるための要件は、①世帯全員が市民税非課税であること(世帯分離をして住民票上、別世帯の配偶者でも市民税が非課税でなくてはならない)、②預貯金、有価証券、投資信託、金・銀及び現金などの資産が単身で1000万円以下、夫婦で2000万円以下であること(②を「資産要件」という)
  • 利用者負担段階は第1段階から第4段階までの4段階に区分されている(第4段階では原則減額は受けられない)
  • 第2段階(市民税非課税世帯で前年の合計所得金額と公的年金等収入額の合計が80万円以下)と第3段階(市民税非課税世帯で前年の合計所得金額と公的年金等収入額の合計が80万円を超える)では、所得金額だけではなく、非課税の障害年金や遺族年金などの収入額も合算されて段階が判定される
  • 虚偽の申告をした場合は、給付額の返還に加え、給付額の2倍の加算金が課される場合がある(いわゆる「3倍返し」のペナルティー)
  • 申請した月の初日から認定が適用される(月末に申請しても、その月の1日から減額される)

特に手続を忘れやすいケース

  • 同一世帯の誰か(住民税を課税されていた者)が亡くなって、その世帯が住民税非課税世帯となった場合:住民税非課税世帯になった(第4段階から第3または第2段階になった)にもかかわらず、成年後見人がそれに気づかない
  • 配偶者が亡くなって、資産要件を充たすようになった場合:配偶者と併せて2000万円を超える資産があったために従来限度額認定に該当していなかった者が、配偶者が亡くなって、資産が単身で1000万円以下になったにもかかわらず、成年後見人がそれに気づかない
  • 介護保険要介護認定の更新を介護施設等に代行してもらっている場合:介護保険負担限度額認定の申請や更新は、通帳等が必要になるため個人情報保護を理由に施設等で代行してもらえない場合がある。そのような場合、介護保険負担限度額認定更新手続は、成年後見人がしなければならないのに、それを失念し、更新期間を徒過してしまう

手続を忘れるとどうなるか?

  • 居住費や食費の自己負担が基準費用額から減額されない
  • 月をさかのぼって認定を受けることはできない(申請した月の初日より前にはさかのぼれない)
  • 仮に有効期限が7月31日で、8月中に更新申請手続をとらなければならないのに、9月になって申請した場合、8月分の居住費や食費は減額されない(9月1日から適用される)
  • たとえば、第2段階の人で特養従来型個室の場合、居住費の差額は730円(基準費用額1150円-第2段階負担限度額420円)、食費の差額は990円(基準費用額1380円-第2段階負担限度額390円)になる(1日当たり)
  • 仮に上記の差額が31日間生じた場合の負担増加額は、(730円+990円)×31日=5万3320円である

忘れないようにここをチェック

  • 介護保険負担限度額認定証の有無を確認し、ある場合には段階を、ない場合にはその理由(どの要件を充たしていないのか)を把握する(この段階で申請の失念に気付いたら直ちに申請する)
  • 本人の収入状況を把握する(非課税である遺族年金や障害年金も忘れずに)
  • 本人と配偶者の預貯金等資産状況を把握する(本人単身で1000万円を超えるのか、夫婦合算で2000万円を超えているのかなど)
  • 第4段階(住民税課税世帯)の場合、世帯の中の誰が住民税課税対象者なのかを把握しておく(本人単身であれば非課税なのかも併せて確認しておく)
  • 施設の担当者と介護保険負担限度額認定の申請・更新について誰が行うのか協議しておく(施設側が代行してくれるのか、成年後見人が行うのか。もっとも、本人や配偶者の預貯金等資産情報を提供する必要があるので、代行の依頼は慎重に対応することが望まれる)
  • 有効期限、申請(更新)期限の管理を徹底する(有効期限が終了する月の翌月末日までに申請できれば、負担増は回避できるが、余裕をもって申請すること。認定証の発行には数日を要する。もっとも、認定証の発行が月を跨いだとしても、申請した月の初日から適用されるので、とにかく有効期限が終了する月の翌月中には必ず申請すること)

さいごに

介護保険負担限度額認定制度は、①収入の判定に非課税の遺族年金や障害年金が合算されること、②資産要件(夫婦の預貯金等の合計額)が設けられていること、③非課税世帯の判断に世帯分離した配偶者も加えられることなど、他の制度ではあまりみられない特徴があります。

そのため本人さんがどの段階に該当するのか(そもそも介護保険負担限度額認定を受けられるのか)がわかりにくいところがあったり、本人さん以外の要因で段階が変更になることも想定されます(たとえば配偶者の死亡など)。

また、資産要件が導入されて以降、個人情報保護の点から、施設側に代行申請をお願いするのが難しくなってきたという経緯もあります。

介護保険負担限度額認定制度は介護保険施設入所には避けてはとおれない手続ですので、成年後見人としては制度をしっかり理解して、本人さんの不利益にならないように十分に気をつけたいところです。

なお、親族等から介護保険負担限度額認定申請にあたって不正(収入や資産の過少申告など)をお願いされることがあるかもしれませんが、絶対にそのようなことはしてはいけません。

3倍返しのペナルティーを受けるばかりか、懲戒や解任、損害賠償の事由にもなりかねません。

必ず正しい申請をしてください。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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専業主婦になれば、国民年金の保険料を払わなくていいって本当ですか?【年金の常識7】


オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

「いまさら聞けない 年金の常識」シリーズです。

社会保険労務士である筆者が受けた相談や質問から、意外と間違えやすい年金の仕組みを回答していきます。

第7回目の質問はこちらです。

 

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質問「専業主婦になれば、国民年金の保険料を払わなくていいって本当ですか?」

回答:必ずしもそうとは限りません。国民年金の第3号被保険者になることができれば、国民年金の保険料を払う必要はなくなります(その期間は、保険料を全額払ったものとして、将来の老齢基礎年金の受給額が計算されます)。

 

国民年金の第3号被保険者とは、会社員や公務員など国民年金の第2号被保険者(夫など)に扶養される配偶者の方(20歳以上60歳未満)が対象です。

また、第3号被保険者になるためには、いわゆる「130万円の壁」の収入要件もあります。

収入要件とは、年間収入130万円未満(60歳以上又は障害者の場合は、年間収入180万円未満)かつ①同居の場合:収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満、または②別居の場合:収入が扶養者(被保険者)からの仕送り額未満であることが原則です。

つまり、夫が会社員(第2号被保険者)で、かつ収入要件を充たす場合には、専業主婦は第3号被保険者となり、国民年金の保険料を払わなくてもよいということなのです。

ですので、次のような人は専業主婦であっても第3号被保険者にはなれません。

  • 夫が、自営業やフリーランス、非正規社員などで、国民年金の第2号被保険者ではない(会社員や公務員で厚生年金の被保険者ではない)
  • 自分自身に在宅の事業収入があったり、不動産収入があったりして、収入要件を充たさない
  • 自分自身が、雇用保険の失業等給付、公的年金、健康保険の傷病手当金や出産手当金を受けていて、収入要件を充たさない

このように、夫がどのような形態で働いているか、妻がどのくらい収入があるかによって、第3号被保険者になれるかどうかが決まるというわけです。

なお、第3号被保険者制度は、妻の場合にのみ適用されるものではなく、夫であっても適用されます。

 
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要注意!こんなケースでは長期入院該当の申請を忘れずに!!【成年後見実務の社会保険手続1】

忘れてはいけない 成年後見実務の社会保険手続(1) ~長期入院該当申請

 

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回から「忘れてはいけない 成年後見実務の社会保険手続」シリーズをスタートします。

成年後見特化法人の事務局社会保険労務士である筆者が、成年後見実務で行う社会保険手続のうち、つい忘れてしまいがちなものについて解説をしていきます。

第1回目は国民健康保険等の「長期入院該当」の申請手続です。

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長期入院該当とは

  • 長期入院該当とは、住民税非課税世帯等の低所得者の所得区分に該当する限度額適用・標準負担額減額認定証の交付を受けていた期間の入院日数が、過去12ヶ月で90日を超える場合、申請により入院中の食事代(食事療養標準負担額)が減額される制度
  • 対象となる所得区分は各保険によって異なるが、たとえば後期高齢者医療の場合には区分Ⅱ、70歳未満の国民健康保険の場合には住民税非課税世帯の区分がそれに該当する
  • 長期入院該当日以降、入院時の食事代が、1食当たり210円が160円に減額される
  • 長期入院該当日は申請日の翌月1日(長期入院該当の記載のある限度額適用・標準負担額減額認定証を病院に提示すれば、申請日の翌月分から食事代を1食160円として計算してくれる)
  • 申請日からその月の月末までは差額支給の対象(別途手続が必要)

 

特に手続を忘れやすいケース

  • 世帯分離や同世帯の誰かが亡くなるなどして、本人の所得区分が低所得者に変わった場合:新たに限度額適用・標準負担額減額認定証の交付を受けた後に、入院日数が90日を超過したのに気づかない
  • 本人が後期高齢医療制度の低所得者の場合:所得区分を区分Ⅰ(食事代1食100円)と勘違いして、実際には区分Ⅱ(長期入院該当の制度の対象)であることに気づかない ※国民健康保険等(70歳以上)の場合にも起こりえる
  • 本人がすでに入院を開始している状態で成年後見人に新規に就任したり、前任者から引き継いで就任した場合:成年後見申立や前任者の辞任申立の時点では入院日数90日以下だったものが、その後90日を超えたにもかかわらず、成年後見人がそれに気づかない
  • 入院中に本人が75歳になった場合:75歳以降後期高齢者医療に変わった場合でも、75歳前の国民健康保険の期間の入院日数を通算できる(所得区分が同等な場合)にもかかわらず、成年後見人がそれに気づかない

 

手続を忘れるとどうなるか?

  • 食事代が減額されない(1食210円のまま)
  • 1食50円の差額が生じる(それだけ多く支払うことになる)ので、仮にこの状態が6ヶ月(180日)継続した場合、1食50円×3食×180日=2万7000円を多く払うことになる
  • すぐに申請しても90日超過日に遡って適用されるわけではない

 

忘れないようにここをチェック

  • 本人が入院中の場合には、前任者(いる場合)や親族、病院の相談員などの関係者との引継の際に、入院日数を必ず確認する
  • 限度額適用・標準負担額減額認定証の有無を確認し、ある場合には所得区分を必ず確認する
  • 親族が保管している等の理由で認定証が手元にない場合は、市役所等で区分を照会する
  • 新たに限度額適用・標準負担額減額認定証を申請する場合には所得区分を確認して、長期入院該当制度が使える区分の場合には、その時点で90日超過の日を計算し、申請スケジュール管理を徹底する
  • 本人が入院中に75歳になって後期高齢医療制度に変わる場合には、75歳前の入院期間も通算して計算する
  • 入院日数をしっかり管理する(2月が入院期間に入っている場合、3ヶ月経過でも90日を超過していない場合もあるので要注意。たとえば、閏年でなければ1/1~3/31の入院日数は合計90日となり、90日を超過していない)
  • 入院費の領収証の保管を忘れない(申請の際の添付資料になる)

 

さいごに

長期入院該当は、低所得者の入院が長期になった場合に行う手続ですので、それほど頻繁に扱う手続ではありません(それゆえに、専門職後見人であっても制度自体をあまりご存じない方もいらっしゃいます)。

また、特に後期高齢者医療の場合には、低所得者の区分がさらに区分Ⅰと区分Ⅱにわかれていますので、区分をつい勘違いをしてしまうことも考えられます。

1食50円の差額とはいえ、食事は原則1日3食あるので、手続の懈怠が長期になればなるほど本人さんの経済的不利益は増えていきます。

本人さんの利益を守るために、長期入院該当の申請手続を忘れないようにご注意いただければと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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国民年金保険料をアルバイト先に半分払ってもらえますか?【年金の常識6】

いまさら聞けない 年金の常識(6) ~国民年金保険料の事業主負担

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

「いまさら聞けない 年金の常識」シリーズです。

社会保険労務士である筆者が受けた相談や質問から、意外と間違えやすい年金の仕組みを回答していきます。

第6回目の質問はこちらです。

 

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質問「国民年金保険料をアルバイト先に半分払ってもらえますか?」

回答:当然にはできません。国民年金には、厚生年金のように労使折半の制度はありません

 

この質問は、「社会保険料は労使折半」という制度をアルバイトの場合でも使えるのかという趣旨だと思います。

「労使折半」の労使とは、労働者と使用者という意味です。

そして、労働者とは、色々な定義がありますが、働いて賃金をもらっている人というものが一般的ですので、アルバイトも労働者に含まれるのなら、アルバイトの場合でも年金保険料をアルバイト先と折半できるのではないのかと思われたのでしょう。

しかし、この場合の労働者は、厚生年金の被保険者(厚生年金に加入している人)という意味で、アルバイト(労働者)であっても厚生年金に加入していない人(=国民年金を払っている人)はこれには含まれません。

逆に言えば、アルバイトであっても厚生年金の被保険者であれば、法律上当然に保険料は労使折半になるということです。

つまり、同じアルバイトであっても、厚生年金の場合には、厚生年金保険料は労使折半になりますが、国民年金の場合には、国民年金保険料は、全額が自己負担ということです

なお、アルバイト先が国民年保険料の半額相当額を賃金に上乗せして支払ってくれる場合もあるかもしれませんが、それはあくまで任意なのであって、法律上当然に請求できるものではありません。

最後に少し余談ですが、厚生年金の被保険者であれば、会社の経営者(一般的には労働者ではなく使用者)であっても、社会保険料は会社と折半になります。

この場合「使使折半」という方が正しいのかもしれません(そもそも「労使折半」は法律上の用語ではないので、あまり正確な表現ではないということです)。
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厚生年金しか払っていませんが、将来国民年金ももらえますか?【年金の常識5】

いまさら聞けない 年金の常識(5) ~厚生年金保険料と国民年金受給金額の関係

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社会保険労務士である筆者が受けた相談や質問から、意外と間違えやすい年金の仕組みを回答していきます。

第5回目の質問はこちらです。

 

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質問「厚生年金しか払っていませんが、将来国民年金ももらえますか?」

回答:はい、もらえます(資格期間が10年以上必要です)。厚生年金の被保険者は、原則として国民年金の第2号被保険者となりますので、その期間(20歳以上60歳未満)は国民年金の老齢基礎年金の受給金額にも反映されます

 

会社員などの厚生年金の被保険者は、国民年金の第2号被保険者となりますが、国民年金保険料を別途支払う必要はありません。

厚生年金の保険料には、国民年金の保険料に相当する部分が含まれているとお考えください。

国民年金保険料を支払う義務があるのは、自営業者などの国民年金第1号被保険者です

ただし、将来老齢年金をもらうには、保険料納付済期間(国民年金の保険料納付済期間や厚生年金保険、共済組合等の加入期間を含む)と国民年金の保険料免除期間などを合算した資格期間が原則として10年以上必要です(ちなみに、平成29年7月31日までは、この資格期間が25年以上必要でしたが、法律が改正されて同年8月1日から10年に短縮されました)。

ざっくり言えば、厚生年金に加入していた期間と、国民年金の保険料を支払った期間などが合わせて10年以上必要というわけです(正確には、国民年金第3号被保険者であった期間や、ちゃんと手続きをとって国民年金の保険料の免除や猶予を受けた期間なども、この10年間には含まれます)。

この点、厚生年金と国民年金の加入期間が、それぞれ最低10年必要と勘違いされている人がいらっしゃいますので、お間違えのないようにお願いいたします。

合わせて10年以上あれば大丈夫です(必ずしも老齢基礎年金を満額もらえるわけではありません)。

逆に言えば、資格期間が合わせて10年にも満たない場合には、老齢年金は原則もらえないというわけです。

たとえば、会社員(厚生年金の被保険者)を5年間続けた後、自営業を始めて国民年金の第1号被保険者となった場合には、最低あと5年間は国民年金保険料を納めないと、原則として、国民年金だけでなく厚生年金についても、一切老齢年金はもらえなくなります

その場合、かけた保険料はもどってくるのかといえば、原則として、そのような制度はありません。

もったいない話ですが、掛け捨てになります。

せっかくかけた保険料を無駄にしないためにも、国民年金の保険料はしっかり納めましょう。

経済的に国民年金の保険料を納めることが困難な場合にも、免除や猶予の制度が使える場合もありますので、あきらめずに行政機関の窓口などで相談してみてください。
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親が亡くなったら、子が成人していても遺族年金はもらえますか?【年金の常識4】

いまさら聞けない 年金の常識(4) ~成人の子の遺族年金受給の可否

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社会保険労務士である筆者が受けた相談や質問から、意外と間違えやすい年金の仕組みを回答していきます。

第4回目の質問はこちらです。

 

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質問「親が亡くなったら、子が成人していても遺族年金はもらえますか?」

回答:もらえません。遺族年金の対象者には、国民年金の場合でも、厚生年金の場合でも、成人(20歳以上)の子は含まれていません

 

国民年金(遺族基礎年金)の対象者は、死亡した者によって生計を維持されていた、「子のある配偶者」、「子(子とは18歳到達年度の年度末を経過していない者または20歳未満で障害年金の障害等級1・2級の障害者に限ります)」です。

厚生年金(遺族厚生年金)の対象者は、死亡した者によって生計を維持されていた、「妻」、「子、孫(18歳到達年度の年度末を経過していない者または20歳未満で障害年金の障害等級1・2級の者)」、「55歳以上の夫、父母、祖父母(支給開始は60歳から。ただし、夫は遺族基礎年金を受給中の場合に限り、遺族厚生年金も合わせて受給できます。)」です。

つまり、遺族年金の対象になる「子」というのは、18歳到達年度の年度末を経過していない者(ざっくり言えば高校生以下)か20歳未満の障害者である必要があるのです。

かつては、公務員等の共済年金制度においては、障害者の場合20歳以上であっても遺族年金の対象になっていた制度もあったのですが、平成27年(2015年)10月1日以降は被用者年金一元化によって、厚生年金の制度に統一されました。

親の年金を生活の基礎にしている成人の子(引きこもりや障害者などさまざまな理由はあると思いますが)は、親が亡くなっても、親の遺族年金をもらうことはできませんので、早めに経済的な自立方法を模索しておく必要があります。
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「第9回法律職勉強会」開催のお知らせ

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今回は、勉強会のお知らせです。

筆者は、オフィス北浦代表者として、法律職向けの勉強会を開催しています。

その勉強会ですが、「第9回法律職勉強会」として、

日時:2018年9月29日(金) 18時00分~19時30分

場所:サンライフ萩 教養文化室2

講師:弁護士 山口正之 先生

参加料:無料

のとおり行うことになりました。

今回のテーマは、「成年後見と就労 ~成年後見人・保佐人が雇用契約に果たす役割」です。

弁護士山口正之先生を講師にお迎えして、雇用契約の締結、解約、解雇などの場面で、成年後見人や保佐人は何ができるのか、成年後見人と保佐人の場合でどのような違いがあるのかなどを解説していただきます。

また、時間が許せば、被後見人等の就労に関して実務上どのようなトラブルが想定されるかなど、これまでのご経験を交えてお話しいただく予定です。

障害者雇用促進法の改正に伴う障害者の法定雇用率の上昇、対象拡大とともに、今後ますます被後見人等の就労ケースが増えていくと予想されます。

この機会に一度、知識を整理していただき、被後見人等の就労ケース対応の参考にしていただければと思っています。

なお、勉強会の後に講師の山口先生との懇親会を開きますので、こちらにもご参加いただければ幸いです(懇親会は、会費として3000円をいただきます)。

事前予約制ですので、お申込みは9月8日(金)までに、オフィス北浦までいただけますようお願い申し上げます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

【追記】

9月28日(金)に「第9回法律職勉強会」を実施いたしました。

弁護士の山口正之先生による法律的な問題や実務上のお話など大変有意義な時間になったと思います。

「使用者による障害者虐待」の問題にも話題が及んだのですが、個人的には、社会保険労務士として取り組むべき課題が見えたように思います。

今回は、萩市内の3つの法律事務所の職員さんや大阪から学生さんなどの参加もありました。

懇親会も盛り上がりました(その後、学生さんたちとは、深夜まで卓ゲ会としてカタン大会をやりましたが、これはさすがに疲れました)。

未成年でも、厚生年金の保険料は払わなくてはいけないのですか?【年金の常識3】

いまさら聞けない 年金の常識(3) ~未成年の厚生年金保険料

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社会保険労務士である筆者が受けた相談や質問から、意外と間違えやすい年金の仕組みを回答していきます。

第3回目の質問はこちらです。

 

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質問「未成年でも、厚生年金の保険料は払わなくてはいけないのですか?」

回答:はい、そのとおりです。20歳未満であっても、会社員(厚生年金の被保険者)であれば、厚生年金の保険料を払わなくてはいけません

 

たとえば、高校卒業後すぐに就職をして厚生年金の被保険者となったような場合、20歳未満であっても、厚生年金の保険料を払わなくてはいけません。

ここで間違えやすいのは、国民年金(第1号被保険者)の場合、20歳になってから保険料の支払い義務が生じる(20歳未満の場合には保険料は払う必要がない)という点です。

たとえば、高校卒業後に短時間のアルバイト(厚生年金の被保険者になっていない)として働くような場合には、20歳になるまでは、国民年金の保険料は払わなくていいということです。

厚生年金の場合と国民年金(第1号被保険者)の場合で制度が異なりますので、注意が必要です。

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このように回答をすると、さらに「厚生年金の保険料には、国民年金の保険料(に相当するもの)も含まれているということですが、20歳未満の期間は国民年金(老齢基礎年金)の金額には反映されないと聞きました。もらえない年金の保険料を払うのはいやなので、20歳になるまで、厚生年金保険料がその分安くならないのですか?」という質問をされることがあります。

もっともな質問だと思います(かなりするどい質問です)。

ただ、残念ながら、保険料が安くなるような制度はありません。

20歳未満であっても、厚生年金の保険料は20歳以上の人と同じ方法で計算します

20歳未満であっても、厚生年金の被保険者は、「国民年金の第2号被保険者」になっているのです。

もっとも、ご心配のように、20歳未満の期間が老齢年金の金額にまったく反映されないというわけではありません(老齢厚生年金には20歳未満の期間も全額反映されます)。

たしかに、国民年金の老齢基礎年金の場合には、20歳未満の期間は金額に反映されませんが、その部分は別に厚生年金の経過的加算という制度で反映されることになっています(ただし、経過的加算には上限がありますので、すべてが反映されるとは言い切れません。これは少し難しい話になりますので詳細は省略します)。
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親の扶養に入れば、子の国民年金の保険料は払わなくていいのですか?【年金の常識2】

今さら聞けない 年金の常識(2) ~被扶養者である子と国民年保険料の関係

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「いまさら聞けない 年金の常識」シリーズです。

社会保険労務士である筆者が受けた相談や質問から、意外と間違えやすい年金の仕組みを回答していきます。

第2回目の質問はこちらです。

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質問「親の扶養に入れば、子の国民年金の保険料は払わなくていいのですか?」

回答:そのような制度はありません。原則として、子が20歳になれば、子の国民年金の保険料の支払い義務が生じます。

 

解説

この質問は、会社員の妻などが被扶養配偶者として国民年金の第3号被保険者になった場合に、国民年金の保険料を払わなくていいという制度を、子の場合にも適用できるのではないかと勘違いされているものと思われます。

国民年金の第3号被保険者になれるのは、配偶者などの場合で、子の場合には適用されませんので、子が20歳になれば原則として子の国民年金の保険料を払わなくてはいけません。

なお、間違えやすい制度に、健康保険の被扶養者制度があります。

健康保険の被扶養者には子も含まれますので、子が被扶養者の要件を充たす場合には、親の(勤務する職場の)健康保険の被扶養者となれます。

子が親の健康保険の被扶養者になった場合には、子が国民健康保険に加入する必要はありません。

厚生年金と健康保険は、意外と混同しやすいので、注意が必要です。

 

経済的な理由などで国民年金保険料の支払いが困難な人には、免除や猶予という制度が用意してあります。

国民年金保険料が「未納」とならないように、積極的に免除や猶予の制度を活用していただければと思います。

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保険料を払いたくないので、年金を辞めることはできますか?【年金の常識1】

いまさら聞けない 年金の常識(1) ~保険料支払い忌避による公的年金の辞退(任意脱退)

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今回から「いまさら聞けない 年金の常識」シリーズをスタートします。

社会保険労務士である筆者が受けた相談や質問から、意外と間違えやすい年金の仕組みを回答していくという企画です。

第1回目の質問はこちらです。

 

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質問「保険料を払いたくないので、年金を辞めることはできますか?」

回答:できません(国民年金、厚生年金)。

 

国民年金にしても、厚生年金にしても、要件を充たす人は加入する義務が法律で定められています。

公的な年金は、民間の保険のように、任意で入ったり辞めたりすることはできないのです(強制加入です)。

国民年金の場合は、原則20歳以上60歳未満の日本国内に住む人であれば強制的に加入しなければなりません。

厚生年金の場合は、常時従業員を使用する会社などの適用事業所に勤務している70歳未満の人で、臨時に使用される人や季節的業務に使用される人を除いて、就業規則や労働契約などに定められた一般社員の所定労働時間及び所定労働日数の4分の3以上ある従業員は原則加入義務があります(また、所定労働時間及び所定労働日数が4分の3未満の従業員でも「短時間労働者」として加入義務が生じる場合もあります)。

厚生年金の保険料は給料から控除されるのが一般的ですので、それほど問題にはなりませんが、国民年金の場合は保険料を滞納すると、将来の老齢年金の額が少なくなったり(もらえなくなったり)、障害年金をもらうための資格を充たさなくなったり、強制的に差押を受けたりといった様々な不利益が生じるおそれがあります。

国民年金の場合、経済的理由などで保険料を払えない人には、保険料の免除や猶予の制度が使える場合もありますので、あきらめずに行政機関の窓口などでご相談されることをお勧めいたします。
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被保佐人さんが会社を辞める場合に保佐人の同意は必要か

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社会保険労務士の徳本博方です。

今回は、被保佐人さんが会社を辞める場合に、保佐人の同意が必要なのかという点(裏を返せば、保佐人が取消権を行使できるのか)という問題を考えたいと思います。

 

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まずは、保佐人制度の概要を説明します。

保佐人制度は法定後見制度の一類型で、「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」について、当事者等の申立によって、家庭裁判所が保佐開始の審判をすることによりスタートします(民法11条)。

保佐開始の審判を受けた者は「被保佐人」として、これに「保佐人」が付されます(民法12条)。

なお、少し表現がややこしいので、以下被保佐人を「本人さん」と表現します。

そして、保佐人制度の場合、本人さんが民法13条1項各号の行為をする場合には、保佐人の同意が必要で、同意のない行為は保佐人によって取消ができるのが原則です(民法13条4項、120条1項)。

どのような行為が保佐人の同意権の対象になるかというと、たとえば、貸したお金を返してもらうこと(「元本を領収」すること。民法13条1項1号)や他人の借金の保証人になること(「保証をすること」民法13条1項2号)などです。

このような行為をする場合には、本人さんや相手方はあらかじめ保佐人の同意をもらっておかなけばなりません(もし、同意をもらっていない場合には、あとになって保佐人の判断で取消されることがあります)。

逆を言えば、そもそも保佐人の同意権や取消権の対象になっていない事項は、本人さんは単独で有効な法律行為ができるということです。

保佐人制度の本人さんは、成年後見の場合よりも、現有能力が高いので、すべての行為を同意権や取消権の対象にはせずに、原則として民法13条1項各号の事項に限定しているということです(なお、これらの対象の範囲を拡張することもできます)。

 

では、今回の本題なのですが、本人さんが会社を辞めたいと申し出たときに、保佐人の同意権(取消権)の対象になるのかという点について考えてみましょう。

会社を辞める意思表示には、合意解約(労使合意の雇用契約の解約)と辞職(労働者からの一方的な雇用契約の解約)がありますが、いずれも民法の意思表示の規定が適用されます。

つまり、これらが、民法13条1項各号のいずれかに該当するかどうかで、本人さんが単独でできるのか、保佐人の同意が必要なのかが決まるということです(ここでは、特段の同意権の範囲の拡張や代理権の設定はないものとします)。

民法13条1項には1号から9号までがありますが、一見すると、「雇用契約」の解約に該当するものはなさそうです(なお、改正民法では10号が新設されますが、これも「雇用契約」とは直接関係はなさそうです)。

ただ、筆者が気になったのは、家庭裁判所の出している書式やハンドブックなどのなかには、民法13条1項3号(以下「3号」といいます)の解釈に「雇用契約」が含まれるとされているものがあるのです。

そこで、3号をみてみると、「不動産その他の重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること」とあります。

とすれば、「その他の重要な財産に関する権利」に雇用契約が該当し、その「得喪」(締結や解約)には同意が必要ということになり、雇用契約の解約にも、3号が適用されるのではないか?という疑問が出てきます。

結論を先に言えば、3号に会社を辞める意思表示は該当しないものと考えられています。

ここで「雇用契約」と言っているのは、「相当な対価を伴う有償の契約であって、他人の労務の提供を受ける契約」のことで、委任契約や寄託契約等と同列の例示として雇用契約があがっていると考えられるからです。

つまり、相当なお金を払って他人を雇う場合には、保佐人の同意が必要ということなのでしょう(余談ですが、介護契約や施設入所契約等の身上監護を目的として他人の労務の提供を受ける役務提供契約についても、相当の対価が必要であれば、3号の対象になるということです)。

念の為に、家庭裁判所にも確認をしてみましたが、本人さんの会社を辞める意思表示に保佐人の同意は不要という見解でした。

そうすると、本人さんが軽率に(保佐人の同意なしに)行った会社を辞める意思表示も、保佐人は取消ができないということにもなります(意思無能力や意思表示の瑕疵・欠缺の場合は別ですが)。

もしも同意権や取消権を行使したいのであれば、あらかじめ同意権の範囲の拡張や代理権の設定が必要になってくるのでしょう。

 

以上は、本人さんが自主的に会社を辞める場合の話ですが、最後に解雇の場合についても考えてみましょう。

解雇とは、使用者による労働契約(雇用契約)の解約を言いますが、本人さんだけに対して解雇が告げられた場合に、その効力はどうなのか(保佐人にも解雇を伝えないといけないのか)という問題が考えられます。

この点は、保佐人制度の本人さんは意思表示の受領能力がある(単独で有効に意思表示を受けることができる)とされています(民法98条の2において、被保佐人が規定されていない)ので、解雇を保佐人に伝える必要まではないということになるのでしょう。

もっとも、本人さんが解雇の意味を本当に理解しているのかわからない場合もあるでしょうから、できるだけ保佐人の理解や協力を得たうえで解雇手続きを進めた方が、不要なトラブルの防止になることは言うまでもありません。

 

以上、本人さんが会社を辞める場合に、保佐人の同意が必要なのかという点について検討しました。

保佐人制度の本人さんは現有能力がある程度高いので、一般就労をしているケースも少なくありません。

実際に保佐人をしていると、本人さんの就労の問題にかかわることが多いのはそのためです。

退職は本人さんの生活に大きな影響を与えるイベントですので、保佐人としては、しっかり本人さんと話し合い、フォローしていかなければなりません。

その際には、保佐人としての法律上の権限を確認しておくことも重要です。

筆者としては、社会保険労務士の専門性を活かして、就労に関しても、本人さんの希望にそって、その利益を確保していけるように、努力していきたいと思っています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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健康保険の境界層該当者って何?【社労士試験受験生】

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本博方です。

本年度(平成30年度)の社会保険労務士試験を受ける皆さまは、追い込みの暑い夏を闘っておられることと思います。

最近の社会保険労務士試験の傾向として、いわゆる過去問からの再出題確率が低下し、法改正の出題確率が上がっていると言われています。

今年は比較的大きな法改正が多くないと言われていますが、そうであっても、法改正の対策はしっかりやらないといけないことに変わりはありません。

今日は、本年度の試験の出題対象である法改正について、健康保険法で気になったところを述べたいと思います。

出題予想ではありませんが、ご参考になれば幸いです。
 

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筆者が健康保険法の改正で気になったのは、入院時生活療養費に係る生活療養標準負担額の改正において、その減額対象者の区分に「境界層該当者」が加わったことです。

境界層該当者とは、健康保険法規則62条の3(生活療養標準負担額の減額の対象者)6号に「被保険者又はその被扶養者が療養のあった月において要保護者(生活保護法(昭和二十五年法律第百四十四号)第六条第二項に規定する要保護者をいう。)である者であって、第三号及び前号の規定の適用を受ける者として生活療養標準負担額について減額があれば生活保護法の規定による保護を要しなくなるもの」と規定されています。

少しわかりにくいので、要約すれば、境界層該当者とは「(生活療養標準負担額の)食費が1食100円、居住費が1日0円に減額されたとすれば、生活保護法の規定による保護を必要としない状態となる者」のことです(具体的な金額については、あとで述べます)。

健康保険法でありながら、生活保護法との関係で境界層該当者になるかならないかが決まるということです。

ちなみに、保険者がどうやって境界層該当者であるかを判断するかというと、福祉事務所長の「限度額適用・標準負担額減額認定該当(境)」と記載された保護申請却下通知書もしくは保護廃止決定通知書などによって行うこととされています。

 

また、今回の改正では、生活療養標準負担額に係る食費及び居住費の引き上げが行われています(平成29年6月30日厚生労働省告示239号)。

具体的には、居住費(1日)に関しては、

  • 「入院医療の必要性の高い患者、指定難病の患者」以外の者:320円から370円に引き上げ(境界層該当者区分(0円)以外の区分では、すべて370円)
  • 「入院医療の必要性の高い患者」:0円から370円に引き上げ(境界層該当者区分(0円)以外の区分では、すべて370円)
  • 「指定難病の患者」:0円に据え置き
  • 「境界層該当者」(入院医療の必要性の高低、指定難病の有無にかかわらず):0円

となりました(居住費に関しては、指定難病の患者及び境界層該当者が0円で、それ以外は370円ということです)。

また、食費(1食)に関しては、「入院医療の必要性の高い患者」の一般所得者区分において改正があり、「入院医療の必要性の高い患者、指定難病の患者」以外の者の一般所得者区分と同じになりました。

すなわち、

  • 「入院医療の必要性の高い患者」の一般所得者で「生活療養Ⅰ」(食事の提供が管理栄養士または栄養士による適切な栄養量及び適時・適温の食事提供が行われている等の基準を満たす場合):360円から460円に引き上げ
  • 「入院医療の必要性の高い患者」の一般所得者で「生活療養Ⅱ」:360円から420円に引き上げ

となりました(指定難病患者以外の一般所得者は、入院医療の必要性の高低にかかわらず、「生活療養Ⅰ」が460円、「生活療養Ⅱ」が420円ということです。ちなみに指定難病患者の一般所得者は260円です)。

なお、70歳未満の「低所得者」及び70歳以上の「低所得者Ⅱ」の食費(1食)は、指定難病患者も含めて210円です(長期入院該当の場合は160円)。

また、70歳以上の「低所得者Ⅰ」の食費(1食)は、「入院医療の必要性の高い患者」及び「指定難病の患者」が100円、それ以外の者が130円です。

そして、繰り返しになりますが、入院医療の必要性の高低や指定難病の有無にかかわらず、境界層該当者の食費(1食)は100円です。

 

ところで、金額だけみると、たとえば、入院医療の必要性の高い患者(一般所得者も低所得者も)の居住費は改正前は0円(正確にはH29.10から200円)だったものが、H30.4からは370円になったのですが、一見すると370円程度ならそれほど負担にはならないのではないかと思う人もいるかもしれません。

しかし、これは1日の金額です。

入院時生活療養費の対象者は長期入院されている人も多いので、この引き上げは、

1ヶ月(30日)なら、370円×30日=1万1100円

1年(365日)なら、370円×365日=13万5050円

となり、特に低所得者には無視できない金額であることがおわかりになると思います。

場合によっては、この負担が増えることで、生活保護が必要になる人も出るかもしれません。

そこで、境界層該当者という区分を設けて、その防止を図ってるということでしょう。

 

また、これに関連して、もう一つ、健康保険法の改正を紹介すると、入院時食事療養費に係る食事療養標準負担額が、一般所得者区分で、1食360円から460円に引き上げられました(社労士試験の受験生の皆さまであれば、入院時食事療養費と入院時生活療養費の違いの説明は不要と思いますので、ここでは触れません)。

こちらも、一見するとたった100円の引き上げと考えがちですが、食事は原則1日3食あります。

つまり、仮に30日入院したとすれば、

1食100円×3食×30日=9000円

の引き上げということです。

長期に入院する場合には、この負担はじわじわ効いてきます。

筆者の担当する成年被後見人さんの中には、この負担増加により家計収支が赤字になった人もいらっしゃいます。

家計収支が赤字になるということは、赤字分は預貯金を切り崩して対応せざるを得ないということです。

負担の公平な分担が必要だということは理解できるのですが、実際問題となるとなかなか割り切れないところでもあります・・・

 

今回は、健康保険法の改正のうち、入院時生活療養費に係る生活療養標準負担額の引き上げとそれに伴う境界層該当者についてまとめてみました(最後は食事療養標準負担額の引き上げをからめて、愚痴のようになりましたが)。

もちろん、この他にも法改正はありますので、受験生の皆さまにはしっかり準備をして本試験に挑んでいただきたいと思います。

皆さまの合格を心よりお祈り申し上げます。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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社会保険労務士補佐人制度を知っていますか?

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社会保険労務士の徳本博方です。

昨日、山口県社会保険労務士会の「平成30年補佐人研修会」を受講してきました。

今回は、少し聞き慣れないかもしれませんが、社会保険労務士補佐人制度についてご紹介したいと思います。

なお、成年後見制度の「保佐人」や「補助人」とはまったく異なる制度ですので、お間違えのないようにお願いいたします。

 

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社会保険労務士補佐人制度は、社会保険労務士法2条の2に規定された制度で、平成26年11月の法改正で新設され、平成27年4月1日に施行されています。

制度の概要は、労働や社会保険が対象になっている裁判所の手続き(訴訟など)において、社会保険労務士が訴訟代理人である弁護士とともに出頭し、陳述することができるというものです。

すごくざっくり言えば、労働や社会保険の事件で社会保険労務士が弁護士と一緒に裁判所で戦えるということです。

なお、補佐人になれる社会保険労務士は、特定社会保険労務士である必要はありません

 

ところで、「補佐人」という制度は、民事訴訟法にも規定があります。

民事訴訟法60条によれば、当事者や訴訟代理人が裁判所の許可を得れば、補佐人とともに出頭し、補佐人が陳述をすることができるとされています。

そしてこの民事訴訟法の補佐人には、資格の制限がありません(裁判所の許可があれば、誰でもなれるということです)。

実際に筆者も、当事者のご家族が補佐人になっている事件をみたことがあります。

このような民事訴訟法上の補佐人と、社会保険労務士補佐人の違いは何かというと、

①社会保険労務士補佐人の場合には裁判所の許可が不要である

②社会保険労務士補佐人は、必ず訴訟代理人である弁護士と出頭しなければ陳述ができない

という点です。

つまり、社会保険労務士は、①当事者から委任を受ければ、裁判所の許可がなくても補佐人になれるが、②実際に陳述するためには、訴訟代理人である弁護士と一緒に出頭しなければならない(社会保険労務士が単独で出頭したり、当事者のみと一緒に出頭しただけでは陳述ができない)ということです。

 

では、どのような事件が社会保険労務士補佐人の対象になるのでしょうか。

法律には「事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項」となっています。

具体的には、賃金支払請求事件(サビ残などを請求する場合)や解雇無効確認訴訟(不当解雇を争って、まだその会社の社員であることを認めてもらう場合。解雇中の給料も併せて請求することもあります)といった民事事件訴訟や、労災不支給取消訴訟や障害年金処分取消訴訟といった行政事件訴訟が考えられます。

もっとも、職場で行われたパワハラやセクハラ、いじめなどに対する慰謝料請求事件(不法行為責任や安全配慮義務違反に基づく損害賠償事件)については、個人的には対象になるのかどうかよくわからないところではあります。

個人的に思うのは、安全配慮義務違反については認められやすそうですが、不法行為責任はどうなのかと思いますし、その一方で、事実関係が同じなのに法律構成が異なるからといって区別する必要があるのかという問題意識もあります。

この点については、研修講師の弁護士の先生は、両方とも対象事件に該当するのではないかというご意見でした。

 

次に、社会保険労務士が裁判所で何ができるのかを見てみると、「陳述」ができるとされています。

陳述というのは、「事実や法律に関する主張」のことで、主張とは「自己の申立を根拠づけ、あるいは相手方の申立を排斥するために、事実及び法律上の認識を裁判所に申し述べること」をいいます。

具体的には、サビ残が行われた具体的な事実や、懲戒解雇の原因となった事実が本当はなかったということなどを裁判所に述べる行為です。

ただ、実際の裁判においては、(口頭弁論)期日に法廷で口頭ですべての主張を述べるのではなく、事前に主張を書面(準備書面など)で提出して、その旨を陳述することで替えているのが実情のようです(筆者もパラリーガルとして裁判の期日を傍聴していますが、実際の期日では、提出した準備書面の内容の確認と陳述、次回期日の調整、次回までの宿題を話し合って終わりという場面に何度も立ち会っています)。

ここで注意をしなくてはならないのが、社会保険労務士補佐人の場合、陳述(事実や法律に関する主張)はできても、本人や証人に対する「尋問」はできないという点です。

この点、弁理士(特許など知的財産の専門家)は、特許関係訴訟などにおいて、補佐人として、弁護士である訴訟代理人とともに出頭して「陳述又は尋問」ができる(弁理士法5条)とされていますが、それと比較して、社会保険労務士法の補佐人規定には「尋問」の記載がないことから、社会保険労務士補佐人には尋問はできないとされています。

なので、社会保険労務士が尋問期日に法廷で当事者や証人に対して直接尋問を行うことはできません。

実際には社会保険労務士は、尋問の準備のお手伝いや期日において弁護士の先生のフォローをする(気づきを伝えるなど)ことになるのだろうと思います。

もっとも、これは陳述の場面でも同じことなのではないかと思います。

法律上、社会保険労務士が陳述できるからと言って、同席している弁護士の先生をさしおいて、社会保険労務士が法廷で陳述することはあまり想像ができません(弁護士の先生から意見を求められてフォローするって場合の方が多いのではないかと思っています)。

実際のところ、補佐人たる社会保険労務士の役割としては、弁護士が陳述するために、その準備段階において、事実の確認(書証のつきあわせや当事者などからの事実の聴取など)をしたり、最新の法令や通達などの情報を提供したり、弁護士の先生の作成した書面の内容に意見を述べたり(場合によっては書面を起案したり)することが主な仕事になるのだろうと思います。

そうだとすれば、社会保険労務士補佐人が尋問できないとしても、尋問の準備をお手伝いできて、現場でフォローができるのであれば、実際にはそこまで不都合はないのではないかと思っています。

 

以上、簡単に社会保険労務士補佐人制度についてご紹介しました。

筆者自身、15年以上パラリーガルとして、書面の作成準備や証拠収集の補助など弁護士の先生と仕事をしてきてました。

しかし、あくまでもパラリーガルは弁護士の補助なので、法廷に立つことはありませんでした。

今後、もしも社会保険労務士補佐人として活動する機会があるなら、これまでのパラリーガルとしての経験と社会保険労務士としての専門性を活かして、弁護士の先生や依頼者のために全力を尽くそうと思っています。

弁護士の先生に使いやすい社会保険労務士を目指して日々精進していこうと思っていますので、弁護士の先生方も是非、社会保険労務士補佐人制度に目を向けていただければと願っております。

以上、最後までお読みいただきありがとうございました。

「第8回法律事務職員勉強会」開催のお知らせ

第8回法律事務職員勉強会のご案内

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今回は、勉強会のお知らせです。

筆者は、オフィス北浦代表者として、偶数月に勉強会を開催しています。

その勉強会ですが、

日時:2018年4月13日(金) 18時00分~19時30分

場所:山口県萩市内 ※場所の詳細はご参加者に追ってご連絡いたします

参加料:無料

のとおり行います。

今回からは、この勉強会を「法律事務職員勉強会」として、法律事務職員さん向けに実務で役立つ内容に特化していこうと思っています(弁護士の法律事務所の職員さんに限らず、司法書士や行政書士の事務所の職員さんも歓迎します)。

今回のテーマは「障害年金の精神障害等級判定ガイドラインを読む」です。

平成28年9月から実施されている「国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン」は、精神障害及び知的障害の認定が障害認定基準に基づいて適正に行われ、地域差による不公平が生じないようにするために定められたものです。

法律事務職員の皆さまにとっても、精神障害者などの成年後見業務において、障害年金の請求に関わることがあると思いますが、その際に等級認定の仕組み(診断書のどの欄を確認すべきかなど)を知っておくことは有用なことではないでしょうか。

この機会に一度ガイドラインをちゃんと読んでみませんか?

勉強会の参加費用は無料です。

なお、勉強会の後に飲み会を開きますので、よろしければ、こちらにもご参加いただければと思います(飲み会は、会費として3000円をいただきます)。

興味のある方やご参加希望の方は、

info@officekitaura.jp

まで、メールでお問い合わせくださいませ。

お申し込みの締め切りは3月30日(金)までといたします。

よろしくお願いいたします。

成年後見人が遺族年金請求を行う際の請求者の氏名の書き方

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社会保険労務士の徳本博方です。

今回は、成年後見人が遺族年金(遺族基礎年金や遺族厚生年金など)を本人さんに代わって請求する場合に、年金請求書の請求者欄の氏名をどのように書けばよいかを述べたいと思います。

具体的には、①請求者氏名は誰の名前を書くか、②押印は誰のものが必要かの2点について、本人(成年被後見人)さんを甲山A子さん、成年後見人さんを乙川B男さんとして考えていきます。
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まず、年金請求をする権利があるのは、当然A子さんです。

ただ、A子さんには判断能力がほとんどないので、その法定代理人として、成年後見人であるB男さんが手続きを行います。

なお、B男さんが成年後見人であることの証明は、法務局が発行する成年後見の登記事項証明書によって行います(この場合、A子さんからの委任状は不要です。A子さんはそもそも委任ができる状態ではないからこそ、成年後見人が選任されているのです)。

とすれば、A子さんに代わって成年後見人のB男さんが、①請求者氏名を「甲山A子」と記名し、②「甲山印」を押捺すれば足りるのではないかとも考えられます。

たしかに、社会保険労務士が一般の人(成年被後見人でない人)から依頼を受けて年金請求を行う際には、請求者欄には、本人の名前を記名押印したうえで、社会保険労務士欄に提出代行者(ないし事務代理者)として記名押印します。

それとパラレルに考えるなら、ここでも「甲山A子 + 甲山印」でいいようにも思えます。

しかし、社会保険労務士の行う提出代行や事務代理は、民法上の代理制度とは厳密には異なる制度ですので、これを法定代理の場合にそのまま当てはめるのは適切ではないでしょう。

そもそも、成年後見人が本人を代理して契約等を行う際には「甲山A子 成年後見人 乙川B男」と書き、「乙川印」を押捺するのが一般的です。

民法の代理の規定からすれば、代理人であることを示すことが原則だからです(これを顕名といいます)。

そうであれば、登記事項証明書で成年後見人であることを示したにもかかわらず、顕名をせずに本人「甲山A子」名義の文書を作成するというのは不自然なので(その効力は別として)、年金請求の場合にも①「甲山A子 成年後見人 乙川B男」と書き、②「乙川印」を押捺するのが正しいようにも思えます。

「甲山A子 + 甲山印」か、「甲山A子 成年後見人 乙川B男 + 乙川印」か悩むところです。

では、実務ではどうしているのでしょうか。

この場合には、①請求者欄の氏名欄には本人の氏名を「甲山A子」と書くが、②本人の押印は不要、さらに③欄外に「甲山A子 成年後見人 乙川B男」と書き「乙川印」を押すという扱いになっています。

実際には請求書の「性別」欄の横の欄外に多少余白があるので、そこに③の成年後見人の署名押印をすることになるでしょう。

この書き方は、請求書3ページの履歴欄に「職歴について、被保険者記録照会回答票の内容どおり相違ありません。」と添える場合の氏名や、7ページの生計維持証明の氏名欄を書く際にも同じように行います。

ちなみに、未支給年金の請求書でも同じなのですが、この書式には欄外の余白がほとんどないので、ちょっと困ります(しかたないので筆者は氏名欄に詰めて記載するようにしています)。

 

以上、成年後見人が遺族年金請求を行う際の、請求者の氏名の書き方について考えてみました。

成年後見人は、色々な場面で、本人に代わって手続きを行います。

しかし、氏名欄ひとつとっても、行政機関、金融機関、病院や介護施設など、それぞれで求められる書き方が異なります。

正直に言って、とても混乱しているのが現状のように思います(場合によっては、本人の印鑑を執拗に求められることもあります)。

本人欄に加えて、代理人欄が設けられている書式(本人押印不要)が理想的ですが、そうでないなら、せめて本人氏名欄の記載は「甲山A子 成年後見人 乙川B男 + 乙川印」として手続きが行えるように統一してもらえないものかと思うところです。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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毎月の給料が変わっても厚生年金保険料や健康保険料が変わらない理由

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社会保険労務士の徳本博方です。

平成30年2月25日(日)、大阪市の本町で定例勉強会を開催しました。

テーマは「20代・30代シングルのための社会保険基礎知識」でした。

 

筆者はこういう社会保険の基礎知識をご説明する機会には、給料明細や源泉徴収票を正しく読めるようになることを目標にするのですが、その際に皆さまが厚生年金保険料や健康保険料がいつどうやって決まるのかを意外とご存じないことに気づきます。

そこで、今回は厚生年金保険料と健康保険料がいつどうやって決まるのかを簡単にご紹介したいと思います。
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現役社会人の皆さまの中にも「給料の額に比例して決まるんだろうな」と漠然と思っておられる人は少なくないのではないでしょうか(筆者も人のことは言えず、この仕事をする以前は詳しい知識はありませんでした)。

そう思っていらっしゃる人は、もしお手元に給料明細がある場合には、直近の何ヶ月分か(たとえば、12月、1月、2月支給分)を見比べてみてください。

時間外手当などで給料の額が毎月変わっていても、控除欄の厚生年金保険料と健康保険料の金額は変わっていないのではないでしょうか(それに対して、同じ控除欄でも雇用保険料や所得税の金額は増減があると思います)。

どうしてそのようになるかというと、厚生年金保険料と健康保険料の金額は、(毎月変動する可能性のある)給料の額そのものに保険料率をかけて計算するのではなく、「標準報酬月額」に保険料率をかけて計算しているからです(標準報酬月額×保険料率=保険料の金額ということです)。

そして、標準報酬月額は、いったん決まれば、毎月の給料が増減しても原則1年間(その年の9月から翌年8月まで)は変わらないというシステムになっています(保険料の計算を簡単にするためと言われています)。

では、標準報酬月額はいつ決まるのでしょうか。

まず、新入社員の場合は入社時に「資格取得時決定」を行い標準報酬月額が決まります。

そして、入社時以降の標準報酬月額は、1年に1度の「定時決定」(毎年7月1日時点で同日前3ヶ月間(4~6月)の給料の額の平均で9月以降の標準報酬月額を決めること)により決まるのが原則です(なお、定時決定の他にも、連続3ヶ月間の給料に著しい高低が生じた際や育児休業や産前産後休業が終わった際などにも標準報酬月額は改定されます)。

これは、①標準報酬月額が変わるときには、厚生年金保険料や健康保険料が変わるということを意味しています。

また、もう一つ、厚生年金保険料や健康保険料が変わる場合があります。

それは②保険料率が変わるときです。

標準報酬月額が同じでも、保険料率が変われば、保険料の金額が変わるのは当然なことです。

もっとも、一般の会社員の厚生年金に関しては、現在(労使合わせて)18.3%で保険料率が固定されていますので、②保険料率が変わるときというのは、健康保険の保険料率が変わるときということになります。

そして、協会けんぽの場合、原則毎年3月に健康保険料率の変更があります(この他にも40歳になって介護保険の被保険者になったときにも変更があります。65歳未満の人の場合、介護保険料に相当する額は健康保険料に含めて支払いますので、健康保険料が増えることになります)。

まとめると、厚生年金や健康保険は、①標準報酬月額の定時決定が反映される9月分の保険料(保険料は翌月払いなので、10月支給分の給料から控除)と、②健康保険料率が変わる3月分の保険料(4月支給分の給料から控除)1年に2回のタイミングで変わる(それ以外では原則固定されている)ということになります(なお、ちょっとした豆知識ですが、毎年4月に子ども子育て拠出金の保険料率も変わるのですが、これは事業主さんのみが負担するものなので、会社員の皆さまの給料から控除されるものではありません)。

このように原則として固定された保険料は、毎月いくら払うかの見込みが立てやすいという利点がありますが、仮に一時的に給料が減っても、決められた保険料を支払わなくてはいけないという欠点もあります。

極端な例でいえば、保険料が免除されない個人の都合で休業した場合、仮にその月の給料が0円であっても、標準報酬月額が変わらないなら、決められた保険料は支払わなければならないということなのです(その場合は保険料分は持ち出しになることもあるでしょう)。

いわゆる日給月給制や時給制等で基本給が固定されていない給与形態の場合には、特に気を付けたいところです。

 

以上、厚生年金保険料と健康保険料がいつどうやって決まるのかを簡単にご紹介しつつ、給料の増減にかかわらず保険料が変化しない理由をご説明いたしました。

社会保険の正確な知識は、税金の正確な知識と同じくらい大切なことだと思います(独立起業を考えている人には特に大切なことだと思います)。

「税金も社会保険料も給料から天引きだから、あまり関心がない」という人も、少し意識して給料明細を見てみることから始めてみてはいかがでしょうか。

少し宣伝になりますが、筆者は、ときどき社会保険の無料勉強会をやっています。

今回の勉強会では、起業を目指す人の参加があったので、起業者のための社会保険の知識(個人事業の場合と会社を立ち上げた場合の違い)や、人を雇った場合の社会保険の知識(強制適用の要件や事業主負担)についても概要をご説明いたしました。

興味のある人はお気軽にお問合せいただければと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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社会保険労務士の戸籍等の職務上請求をやってみた

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社会保険労務士の徳本博方です。

先日、遺族年金の請求のためにクライアントの戸籍謄本等を取得する必要があったので、社会保険労務士として戸籍謄本等の職務上請求を行いました。
今回は、社会保険労務士の戸籍謄本等の職務上請求についてご紹介します。
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筆者は、法律事務所の職員(いわゆるパラリーガル)としての勤務経験が長いので、職務上請求については日常的なものだったのですが(法律事務所の職員は弁護士の使者として市役所等に行って職務上請求書を提出することがあります)、社会保険労務士としての職務上請求は初めての経験でした。

弁護士の場合、相続や離婚の調停の添付資料として戸籍謄本等を取得したり、民事事件での相手方の住所を確定するために住民票の写しを取得したりと、職務上請求を行う機会が頻繁にあるのですが、社会保険労務士の場合には、業務に関してそれほど戸籍謄本等が必要になるケースは多くなく、さらに職務上請求まで行う機会はあまりないような気がします(クライアント自身に取得してもらえばすみますので)。

実際に、話をきいた社会保険労務士の先輩の中には、職務上請求を行ったことがないという先生もいらっしゃいました。

そういう違いがあるからなのか分かりませんが、弁護士用の職務上請求書の書式は4種類あるのに対して、社会保険労務士用の職務上請求書の書式は1種類です(戸籍謄本も住民票の写しも同じ書式を使います)。

他にも書式上の違いでいえば、社会保険労務士用の職務上請求書は複写式です(弁護士用は複写式ではありません)。

複写式は、控えが残る点は良いのですが、プリンターで印字できないのが少し不便な気がします。

あと、窓口での本人確認のための身分証明書の提示では、「社会保険労務士証票」には住所の記載がないため、併せて運転免許証等を提示しなくてはならないのも少し二度手間な気がしました(これは職務上請求に限ったことではありませんが)。

このように弁護士用の職務上請求と比べると異なる点もあるのですが、職務上請求は個別に委任状作成を必要としない等クライアントの負担が少ないですし、特に、高齢や入院等の理由で直接市役所に行けない人にとって、クライアント本人に代わって社会保険労務士が戸籍謄本等を取得できるという、とても便利な制度です(もちろん戸籍謄本等はプライバシーに関わる重要な個人情報ですので、細心の注意をもって慎重に取り扱わなければならないことは言うまでもありません)。

筆者としては、配偶者亡きあとの老後のシングルライフを支えるために、遺族年金や未支給年金の請求サポートにも力を入れていこうと思っていますので、今後も必要に応じて職務上請求を適切に行い、スムーズに業務を進めていこうと思っています。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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任意特定適用事業所の申出

社会保険労務士の徽章

社会保険労務士が成年後見に関わる理由

任意特定適用事業所の申出

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社会保険労務士の徳本博方です。

先日、ある事業所の健康保険・厚生年金(以下「社会保険」といいます)の任意特定適用事業所申出書の提出を行ったのですが、その際に気になったことがあったので、注意点などを書いておきたいと思います。
 

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まず始めに「任意特定適用事業所」の意味について確認しておきましょう。

平成28年9月までは、社会保険の被保険者になれたのは、原則としてフルタイムの正社員やパート・アルバイトでも1日または1週間の労働時間及び1ヶ月の所定労働日数が通常の労働者の概ね4分の3以上である人に限られていました。

これが、平成28年10月から、501人以上の被保険者のいる事業所(これを「特定適用事業所」といいます)では、所定労働時間および所定労働日数が通常の労働者の4分の3未満であっても、

下記の4つの要件を全て充たす人

1. 週の所定労働時間が20時間以上あること

2. 雇用期間が1年以上見込まれること

3. 賃金の月額が8.8万円以上であること

4. 学生でないこと

については、「短時間労働者」として社会保険の被保険者になることとなりました。

さらに、平成29年4月からは、被保険者数が500人以下の事業所であっても、労使が合意のうえで申出をすれば、「任意特定適用事業所」となり、短時間労働者が社会保険の被保険者になることができるようになりました(もう少し正確にいえば、いったん任意特定適用事業所となった場合には、前記の4つの要件を充たした人は原則として被保険者にならなければなりません。各人の希望で被保険者になる人とならない人を決められるわけではないのでこの点は要注意です)。

 

余談ですが、似たような言葉で「任意適用事業所」(「特定」という文言が入っていない)というのがあります。

これは社会保険の強制適用でない事業所(たとえば、常時使用する従業員が5人未満の個人事業など)が厚生労働大臣(日本年金機構)の認可を受けて社会保険が適用されることとなった事業所のことで、短時間労働者とは直接関係のない制度です。

 

 

話を戻しますと、今回行った手続きは、それまで役員のみが社会保険の被保険者だった法人で、1週間の所定労働時間が20時間の従業員を新たに雇うこととなったので、任意特定適用事業所の申出をするとともに、その従業員を社会保険の被保険者にするというものでした。

それというのも、その従業員は前職を辞めてその翌日にその法人に就職する予定だったのですが、前職で社会保険の被保険者だったことから、間断なく被保険者になることを要望していたからです。

そこで、本件ではこのような要望を叶えるために、従業員を雇用し、その従業員と労使合意を結び、その同意書等とともに任意特定適用事業所申出書と資格取得届を提出するという手続きを同日に行うこととしました。

なぜならば、短時間労働者が被保険者となる(資格を取得をする)ためには、その前提として、その事業所が任意特定適用事業所に該当していなければなりません。

そして、事業所が任意特定適用事業所に該当するのは、任意特定適用事業所申出書の受理日なのです。

つまり、任意特定適用事業所申出書が受理された日以降(同日でも可)でなければ、資格取得はできないというわけです。

仮に、就職日の翌日に申出書が受理されたとすれば、資格取得もその日(就職日の翌日)からとなります。

たとえば、1月10日に前の会社を退職し、翌11日に次の会社に短時間労働者として就職した場合、その会社の申出が遅れて12日に任意特定適用事業所に該当したのなら、資格取得は12日からということです。

そのようなことのないように、これらの手続きを同日にやったというわけです。

なお、同じ理由から、この手続きを郵送で行う場合にも、注意が必要です。

郵送の場合には、申出書を投函した日から受理されるまでにタイムラグが生じる可能性があるからです(年金事務所できいたところ、このようなケースでは、郵送はおすすめしないという話でした)。

本件では、任意特定適用事業所となるのと同時に短時間労働者の被保険者の資格取得も行うことができました。

 

任意特定適用事業所の申出は、短時間労働者の福利厚生を充実させることが期待される制度です。

この制度を採用する場合には、手続きのタイムスケジュールを確認したうえで適切に対応できるように注意したいものです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

社会保険労務士の徽章

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社会保険労務士の徳本博方です。

10月1日に社会保険労務士の開業登録してもう1ヶ月以上が経過しました。

職印や名刺、封筒といった備品がそろってきて、来年からの本格的な社会保険労務士業務開始に向けて準備を進めています。

そんな折、注文していた社会保険労務士の徽章(きしょう=バッジ)が届きました。
 

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正式な名称は、会員徽章というようです。

徽章の中央には「SR」の文字。

これは、ローマ字で社会保険(Syakaihoken)労務士(Roumushi)の頭文字だそうです。

これまでパラリーガルとして弁護士の先生と仕事をしてきたので、弁護士バッジは見慣れているのですが、社会保険労務士バッジは初めてみました。

そういえば、知り合いの社会保険労務士の先生がバッジをつけているところをみたことがないので、つけない人もいらっしゃるのでしょうね(弁護士の先生でもつけない人もいらっしゃいますし)。

バッジの送付書には「都道府県社会保険労務士会会員徽章規定(抜粋)」が記載されており、そこには、第3条として「社会保険労務士会の会員は、社会保険労務士の業務を行うときは会員徽章を着用するよう努めるものとする。」とありました。

なるほど、バッジ着用は努力義務なんですね。

ちなみに、お値段は、山口県会の場合は8,750円でした。

もしかしたらあまり使うことは多くないのかもしれないのですが、プロとしての責任を自覚するために購入しました。

やはり物を手にすると、気が引き締まりますね。

このバッジに恥じないように、これからも日々精進して参ります。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

第49回(平成29年度)社労士試験合格発表・・・選択労一の地雷がつらすぎる件【社労士試験独習者】

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社会保険労務士の徳本博方です。

2017年11月10日、第49回(平成29年度)社労士試験の合格発表がありました。

今回は、2613人の人が合格なさったということです(合格率6.8%)。

合格者の皆さま、本当におめでとうございます!

心よりお祝い申し上げます。

 

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今回は、この合格発表の内容を受けて、基準点の補正について個人的な感想を述べたいと思います。

「今年も選択労一の地雷が炸裂したな」というのが率直な感想です。

今回の選択式試験の2点補正は、雇用保険と健康保険で行われたのですが、残念ながら労一では補正は行われませんでした(ちなみに、択一式試験では厚生年金で補正が行われました)。

確かに、実際に解いてみたところ、選択式の健康保険はかなり苦戦しましたし、雇用保険も特に後半の2問は難しかったと思います。

(なお、筆者の今回の試験の感想は、2017年8月29日投稿の「受験生の皆さまお疲れさまでした・・・今年も選択労一たいへんでしたね【社労士試験独習者】」という記事に書いてありますので、よろしければご参照くださいませ。)

厚生労働省発表の「試験科目得点状況表(選択式)」によれば、健康保険の1点以下は累計37.8%、2点以下はなんと累計73.7%で、平均点も1.9点にとどまっており、受験生の皆さまがかなり苦戦されたことが伺えます。

また、雇用保険にしても、1点以下累計30.0%(小数点以下を計算すると、約30.037%で30%超基準を超えているということでしょう)、2点以下は累計55.2%で、平均点は2.3点とこちらもなかなか大変だったようです。

数字のうえでは、この2科目に補正が行われたことは問題はないと思います。

しかし、他の科目について「試験科目得点状況表(選択式)」をみると、少し不思議な現象が起きています。

それは、労一です。

労一の平均点は2.2点で、前述の雇用保険の2.3点よりも低くなっています。

また、労一の2点以下は累計60.5%であり、こちらも雇用保険の55.2%を上回っています。

つまり、この二つの点においては、労一は雇用保険より難しかったといえます。

では、なぜ雇用保険で補正が行われ、労一では補正が行われなかったのでしょうか。

それは、1点以下の累計が、雇用保険ではぎりぎり30%を超えていたのに対して、労一は26.4%にとどまった(30%を超えていなかった)からだと思われます。

これは、労一では2点取れた人が多かったということです。

実際に、人数でいえば、雇用保険で2点だった人は9476人ですが、労一の2点は1万2856人でした。

この差が、補正の有無を分けたと言っていいでしょう。

1万3000人近い人が、労一で2点にとどまって合格できなかったということです。

もちろん、労一だけが原因ではない人もいるでしょうが、労一に泣かされた人が多いのも事実です。

これはつらい。

筆者もこれと同じようなことを平成26年度の試験で経験しました。

択一、選択ともに合計で9割近く正解していたのに、選択労一が2点だったため、不合格となったのです。

まさに「選択労一の地雷」です。

今年も、また同じようなことが起こったのかと、試験結果を見て、とても残念な気持ちになりました。

あのときは、本当にすごく悔しかったですから。

もしかしたら、このブログをみてくださっている人の中に、今回の選択労一の結果で合否を分けたという人がいるかもしれません。

その気持ち、本当によく分かります。

筆者も同じような思いをしてきました。

それでも筆者はあきらめずに受験を続けた結果、なんとか平成28年度の試験に合格し、開業社会保険労務士としての道を歩んでいます。

軽々しく頑張れとは言いません。

でも、筆者のような者もいるということは知ってほしいと思います。

そういう気持ちを込めてこのブログを書いています。

 

以上、平成29年度の社労士試験合格発表を受けて、個人的な感想を述べさせていただきました。

これからも受験生の皆さまの合格をお祈りしています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

「第6回民事系勉強会」開催のお知らせ

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回は、勉強会のお知らせです。

筆者は、オフィス北浦代表者として、偶数月に民事系勉強会を開催しています。

その勉強会ですが、今回は、

日時:2017年12月1日(金) 18時00分~19時30分

場所:サンライフ萩(山口県萩市)※お部屋等の詳細はご参加者に追ってご連絡いたします

参加料:無料

のとおり行います。

「奨学金を考える」をテーマにして、平成30年度から本格実施される給付型奨学金の概要、貸与型奨学金の延滞問題や保証人問題、企業型奨学金のいわゆる「お礼奉公」問題を検討したいと思います。

最近は、一部マスコミなどを通じて「ブラック奨学金」などとセンセーショナルな報道などが見受けられます。

たしかに、奨学金はまったく問題のない制度ではありません。

しかし、ことさらに悪い面ばかりを強調して批判するだけでは、本当に必要としている人が委縮したり躊躇したりといった悪影響もあるのではないかと危惧しています。

そこで、制度の概要や法律的な問題点も含めて、奨学金の正しい知識を学び、奨学金との適切な付き合い方を考えてみたいと思います。

 

この勉強会は、元々は他の法律事務所の事務職員さんとの情報交換や交流を目的に開催しているものなのですが、特に参加者の資格に制限は設けておりません(ただ、会場が狭いので、収容人数は最大で10名様までなのですけど)。

ご参加希望の方は、

info@officekitaura.jp

まで、メールでお問い合わせくださいませ。

よろしくお願いいたします。

祥福舎卓ゲ部による卓ゲ会のお知らせ(2017年11月実施会)

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

本日は、卓ゲ会のお知らせです。

オフィス北浦では、「お金」の勉強などをする「祥福舎」(しょうふくや)というサークル活動を行っています。

その祥福舎活動の中には卓ゲ部というものがありまして、奇数月に卓ゲ会を行っています。

次回の卓ゲ会は、

2017年11月18日(土)17時30分~19時30分の日程で、

山口県萩市内で行うことになりました(詳しい会場につきましては、参加予定の人に追ってお伝えします)。

今回は時間が2時間と普段より少し短いのですが、脱出ボードゲーム『EXIT 脱出:ザ・ゲーム 荒れはてた小屋』をやってみようと思います。

このゲームは筆者も初プレイなので、すごく楽しみです(このゲームは謎解きゲームなので、プレイは1回限りのようです)。

また、今回は夕方開催なので、卓ゲ会後に20時から食事会も予定しています。

卓ゲ会は無料ですが、食事会は会費3000円(学生1500円)です。

学生さんや新社会人の皆さまで、一緒にやってみたいという人がいましたら、オフィス北浦までご連絡くださいませ。

よろしくお願いいたします。

 

【追記】

11/18(土)、卓ゲ会無事に開催できました。

今回は、お子さま連れのご参加もあり、本編以外でも盛り上がりました。

ゲームのネタバレはできませんが、よくできた内容で、びっくりする仕掛けもいくつかありました。

結果は、なかなか思うように謎解きができずに、惨敗といったところでしょうか(笑)

それでも、みんなで力を合わせて、試行錯誤する楽しさは格別です。

このEXITのシリーズの第二弾、第三弾も入手していますので、次回の卓ゲ会ではチャレンジしてみようかと企画中です。

参加してくださった皆さま、ありがとうございました。

ファイナンシャルプランナーが成年後見に関わる理由

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

ファイナンシャルプランナーの徳本です。

今回は、ファイナンシャルプランナーが成年後見に関わる理由を、筆者の経験を通じて考えていきたいと思っています。

 

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筆者は、成年後見を専門に扱う法人の事務局を担当しています。

その法人では、弁護士と社会福祉士が協働して、財産管理と身上監護のバランスのとれた成年後見サービスを行っています。

その法人には、他にも司法書士や税理士といった専門家も参加しており、各専門家がそれぞれの得意分野で協働する体制を実現しています。

そのような専門職の中で、ファイナンシャルプランナーはどのように関わっていけるのでしょうか。

ファイナンシャルプランナーの専門分野は、お金に関することが中心になりますので、財産管理分野での活動が中心となります。

しかし、本人の生活の質を高めるための身上監護分野も、お金がなければ満足なサービスを受けることはできませんので、財産管理の適正化が身上監護の質の向上に繋がることは異論のないところだと思います。

 

では、具体的にどのようなことができるのでしょうか。

まずは、財産や家計に関する書面の作成作業があります。

成年後見制度は、家庭裁判所の監督に服しており、本人さんの財産や家計に関する事項を家庭裁判所に報告する必要があります。

たとえば、「財産目録」という書面では、本人の財産(不動産や預貯金、保険などの積極財産と債務などの消極財産)を一覧にして記載しなければなりませんし、「家計収支予定表」という書面では、毎月の平均的な家計収支を予算化して計上しなければなりません。

また、1年間の収支決算として「収支状況報告書」というものを作成し、収支の内容や金額、赤字黒字の別などを把握することもあります。

これらの書面の作成には、家計のプロとしてのファイナンシャルプランナーが活躍する場面はたくさんあります。

 

しかし、ファイナンシャルプランナーの役割はこういった書面作成作業に留まるわけではありません。

これらの書面を作成する過程で、家計の問題を正確に把握し、適切な改善策を講じることにこそ、ファイナンシャルプランナーが成年後見に関わる意義があると思っています。

特に、若い世代の障害者さんなどで、これからのライフイベントに応じたファイナンシャルプランを考えなくてはならない人の場合には、ファイナンシャルプランナーの腕の見せどころでしょう。

いわゆる「親亡きあと」と言われる問題は、できるだけ早い段階で様々な想定を行い、柔軟性のあるファイナンシャルプランを講じておく必要があります。

たとえば、これからのファイナンシャルプランに必要となる金額を算出し、親からの資産承継が必要な場合には、弁護士や税理士と協力してスキームを組む必要があります。

必要な金額がわからなければ、民事信託や遺言の内容も決められないのです。

また、成年後見制度の中でも比較的現有の判断能力が認められる「保佐」や「補助」の場合、在宅での生活を送る人も多いですので、浪費や借金にも細心の注意を払う必要があります。

取消権がある場合、その行使も適切に行わなければいけません(当法人では、この辺りは弁護士の担当分野です)。

最近の傾向では、携帯電話やスマホのゲームなどの有料サービスの使い過ぎが問題になるケースが多いように思います。

このような場合、家計管理の中でファイナンシャルプランナーとして気づいたことを、福祉や法律の専門職と共有して、早期に適切な対応をしてもらうことが大切です。

専門家協働による早期発見、早期対応で、本人さんの判断能力のサポートを行い、経済的な自立に繋げていくことができるのです。

実際に、生活保護を受けていた独り暮らしの知的障害のある人が、保佐人制度を利用したことによって、見事に自立され(生活保護も外れて)、家計も倹約に努められた結果、貯金ができるようになった例もあります。

本人さんの努力が一番ですが、弁護士や社会福祉士といった専門家のサポートなしには、この結果はなかったと思います。

 

ただ、ファイナンシャルプランナーとして、成年後見制度に一つ不満があるとすれば、後見報酬が家計に与える負担の割合が大きすぎるということです。

特に、財産も少なく、家計が収支均衡の人の場合、後見報酬をどうやっても捻出できない人もいます。

皮肉なことに、後見報酬が捻出できないことを一番理解しているのは、家計管理をチェックするファイナンシャルプランナーです。

家計の収支改善だけでは、どうにもならないことが多々あるのです。

その場合には無報酬もやむをえないという結論にならざるをえません(無報酬になったからといって、成年後見サービスの質を低下させることは絶対にありません)。

成年後見に関しては、公的な支援がほとんどないのが現状です。

不当に高額な報酬を求めることはないので、せめて実費や最低賃金相当の実動分は、どうにか公的な支援を拡充してもらえないかと思うところではあります。

 

最後は少し愚痴のようになりましたが、今回はファイナンシャルプランナーが成年後見に関わる意義について考えてみました。

前回の「社会保険労務士が成年後見に関わる理由」とともに、ご参考にしていただければ幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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社会保険労務士が成年後見に関わる理由

社会保険労務士が成年後見に関わる理由

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

社会保険労務士の徳本です。

今回は、社会保険労務士が成年後見制度にどのように関与できるのか、筆者の経験を通じて感じたところを述べたいと思います。
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筆者は、成年後見業務を専門に扱う法人の事務局をしています。

この法人は、法律の専門家である弁護士と福祉の専門家である社会福祉士が協働して成年後見業務を行うことで、財産管理と身上監護にバランスのとれた適正な成年後見サービスを提供することを目的として活動しています。

また、サービスの幅や質をさらに向上させるべく、司法書士や税理士といった専門家も参加しており、多職種による協働を実現しています。

そのような法人で、筆者は、裏方である事務局を担当しているのです。

 

各専門家にはそれぞれ得意分野があります。

本人さんの生活の質を高めるために社会福祉士は司令塔として機能しますし、法律問題や虐待問題には弁護士が毅然と対応します。

また、相続による不動産の取得や不動産の任意売却では司法書士が活躍しますし、税金の問題は税理士が適切に処理をします。

では、社会保険労務士は何ができるのでしょうか。

読んで字のごとく、「社会保険」の専門家として、社会保険に関連する分野を担当できます。

前述の各専門家の扱う分野に比べると、少し地味な感じがします。

しかし、成年後見と社会保険の関連を考えると、これらはすごく深い関係があることがわかります。

まず、成年後見を利用する本人さんは、ほとんどが高齢者や障害者に該当します。

その本人さんの収入の大半は、公的年金制度により支えられています。

また、ほとんどの人は、何らかの医療や介護のサービスを受けています。

その際には、医療サービスを受けるには公的医療保険(後期高齢者医療制度や国民健康保険など)が、介護サービスを受けるには公的介護保険がそれぞれ必要になってきます。

そして、これらの保険料の支払いを適切に管理するのも成年後見人の職務です。

つまり、社会保険制度は、成年後見制度の財産管理と身上監護の両面に深く関係する制度なのです。

さらに社会保険制度は毎年のように改正が行われる複雑な面もあります。

ここに社会保険制度の専門家である社会保険労務士が関与する意義があるのです。

具体的にどのようなことをやるのかというと、たとえば、介護保険の要介護(要支援)認定の申請や更新、医療保険の「限度額適用認定証・標準負担額減額認定証」や介護保険の「負担限度額認定証」の申請や更新といった手続や、年金の裁定請求、障害年金の診断書や現況届の提出といった手続などがあります。

また、医療保険や介護保険の保険料の適正化も検討します。

たとえば、後期高齢者医療制度の被保険者である本人さんが世帯主である場合、その世帯に属する他の人(たとえば子)の国民健康保険の保険料の納付義務が本人さんに生じます(これを「擬制世帯主」といいます)。

このようなケースでは、子らの国民健康保険料を本人さんが負担するのが適切ではない場合、そうならないような方法を講じます。

また、逆に子が世帯主である場合で、その所得が本人さんの保険料の算出に影響する場合には、生活の実態を反映させるような方法を講じることもあります。

一つ一つは地味な作業なのですが、これらをするかしないかでは、本人さんの負担は大きく変わってくることでしょう。

また、社会保険制度手続のほとんどが、いわゆる申請主義をとっていますので、放っておくとサービスを受けられないまま時効にかかっていくということもあります。

社会保険手続の懈怠は、本人さんの不利益に直結するということです。

少し極端な話ですが、報道によると、平成29年1月の松江地裁の判決で、社会保険手続(障害年金の請求)を怠った成年後見人への損害賠償請求が認められたという例もあるようです。

これまで成年後見人に対する損害賠償といえば、横領や使い込みによるものが多かったのですが、社会保険手続の懈怠によるものも損害賠償の対象となるということは、成年後見人として、しっかりと肝に銘じなければならないことです。

このように損害賠償まで認められるケースは稀なのでしょうが、適正な社会保険手続が成年後見人の職務の一つであることは間違いないのですから。

 

このように、社会保険労務士が成年後見制度に関与する意義はあると思っています。

これは、これまで事務局として成年後見制度に関わってきた筆者の実感でもあります。

筆者としては、今後も、一見地味な作業に従事しながら、裏方として法人を支えていこうと思っています。

最後までお読みいただきありがとうごさいました。
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ファイナンシャルプランナーが成年後見に関わる理由

振替加算の誤解を考えてみる

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今週は、振替加算約600億円の未支給が判明したという年金関連の大きなニュースがありました。

支払われるべき年金がちゃんと支払われていなかったという事実は大変深刻な事態ですので、速やかな回復と再発防止を徹底的に行っていただき、年金制度に対する信頼回復に努めていただきたいと思っています。

筆者の周囲でもこのニュースは話題になったのですが、そもそも振替加算という制度そのものに馴染が薄いせいか、批判をする人の中にいくつかの誤解があるように思われます。

そこで、筆者が聞いた批判のうち、それはちょっと違うんじゃないのかなと思う点について、少し考えてみたいと思います。

 

振替加算は公務員の特権ではありません

今回の未支給のほとんどが、公務員の配偶者に対するものだったこともあって、振替加算が公務員の共済年金の制度だと思っている人がいるようです。

しかし、これは明らかな誤解です。

振替加算の支給要件は、日本年金機構のホームページの「加給年金と振替加算」に詳細が載っているので、そちらをご確認いただきたいのですが、振替加算は国民年金の老齢基礎年金に関する制度ですし、公務員の配偶者に限定するといった要件はありません。

簡単に言えば、①65歳になった人、②生年月日が1926年(大正15年)4月2日から1966年(昭和41年)4月1日までの人、③配偶者に加給年金額が加算されていた人、④20年以上厚生年金に加入していない人といった条件をなどをすべて満たせば、公務員の配偶者でなくても、振替加算はもらえます

今回、公務員の配偶者に未支給が多かったのは、共済年金とのシステム上の問題もあったように報道されています。

そのため、「公務員(の配偶者)への年金が未支給だった」という点だけが注目されて、このような誤解が生じたのでしょう。

なお、2015年(平成27年)10月1日に「被用者年金一元化法」が施行され、厚生年金と共済年金に分かれていた被用者の年金制度が厚生年金に統一されましたが、今回の未支給はそれ以前から生じていたようなので、被用者年金一元化の問題ではないように思われます(むしろ被用者年金が一元化したからこそ発覚したという一面もあるようです)。

 

現役世代の40代以下の人は、そもそも振替加算はもらえません

今回の件で、自分が振替加算をもらうときに、同じようなことが起こったら困るとおっしゃる人がいました。

その人は、筆者と同じ世代なので、40代半ばの人でした。

ご安心ください。

今の40代には振替加算はありません。

先ほどの要件②にあるように、振替加算をもらえるのは、生年月日が1926年(大正15年)4月2日から1966年(昭和41年)4月1日までの人に限定されています。

1966年(昭和41年)4月2日以降に生まれた人には、この制度の適用はないのです。

つまり、40代より若い人には、そもそも関係のない制度ということです。

もちろん、システム上のミスで支給漏れが生じる可能性は、振替加算に限りませんので、その点はしっかりやってほしいものですが、少なくとも振替加算に関しては、制度上もらえませんので、その心配もないというわけです。

 

振替加算に関しては保険料の問題はあまり関係ないです

「こっちは保険料を払っているのだから、年金はしっかり払ってもらわないと!」

まったくそのとおりだと思います。

2007年(平成19年)に発覚した、消えた年金記録問題は衝撃的でした。

払っていた保険料が払っていないことになるなど、冗談では済まされない話です。

ただ、今回、振替加算に関しては、保険料の問題を出すのはどうなのかなと思っています。

なぜなら、この振替加算という制度ができたのは、保険料を払っていなかった人を救済するという背景があるからです。

話は1986年(昭和61年)4月1日にさかのぼります。

このときから、サラリーマンや公務員の配偶者(主に専業主婦の皆さん)に国民年金の保険料を払う義務が生じました(強制加入になったということです)。

言い換えると、1986年(昭和61年)3月31日までは、払っても払わなくてもいい任意加入だったというわけです。

任意加入から強制加入になったのはいいのですが、それまでの任意加入の期間に加入していなかった人が無視できないほどに多いという問題が生じました。

加入していなかった人は、保険料を払っていないので、当然その期間の年金はもらえません。

将来、年金が少額になる人が大量発生する可能性があったのです。

そこで、そういう人たちを救済するために、この振替加算の制度ができたのです。

つまり、振替加算自体は、保険料をしっかり納めた人のための制度というわけではないのです。

ちなみに、どうして、振替加算をもらえるのが、1966年(昭和41年)4月1日以前生まれの人に限られるのかという理由もここにあります。

強制加入になった1986年(昭和61年)4月1日に既に20歳以上になっていた人を対象にしているということなのです。

現代風にいえば、「(年金もらえないのは)自己責任でしょ」ってことになるのかもしれませんが、当時はまだ年金制度にも、人々の心にも余裕があった時代だったのかもしれません。

 

以上、振替加算に関する誤解について考えてみました。

繰り返しますが、背景がどうであれ、払うと約束していたものを払っていなかった点について、今回の未支給の件は許されることではありません。

その点について、政府や日本年金機構を擁護することはできません。

ただ、振替加算という少し馴染の薄い制度ゆえの誤解もあるようなので、どのような制度なのかを考えてみたというわけです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

「第5回民事系勉強会」開催のお知らせ

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回は、勉強会のお知らせです。

 

筆者は、オフィス北浦代表者として、偶数月に民事系勉強会を開催しています。

その勉強会ですが、今回は、

日時:2017年10月20日(金) 18時00分~19時30分

場所:サンライフ萩(山口県萩市)※お部屋等の詳細はご参加者に追ってご連絡いたします

参加料:無料

のとおり行います。

 

テーマは、筆者がこの6年間やってきた成年後見業務の中で、社会保険の手続などでした失敗談をもとに、社会保険の基礎を確認しようというものです。

現在、筆者は社会保険労務士の登録申請中なのですが、この勉強会開催のころには正式に登録できていると思いますので、社会保険労務士になって初めての勉強会になる予定です。

初っ端のテーマに失敗談を選んだのは、浮足立たずに、これまでの経験を振り返ってみようと思ったからです。

恥を忍んでお話させていただきます。

この勉強会は、元々は他の法律事務所の事務職員さんとの情報交換や交流を目的に開催しているものなのですが、今回は特に参加者に制限は設けておりません(ただ、会場が狭いので、収容人数は最大で10名様までなのですけど)。

ご参加希望の方は、

info@officekitaura.jp

まで、メールでお問い合わせくださいませ。

よろしくお願いいたします。

 

【追記】

勉強会前の会場の様子

10/20(金)の勉強会も無事に終了いたしました。

弁護士のY先生を始め、萩市内の3つの法律事務所の職員さんたちにもお越しいただき、有意義な勉強会になりました。

成年後見業務での失敗談をネタにしたのですが、初心に帰れたような気がします。

ありがとうございました。

祥福舎卓ゲ部による卓ゲ会のお知らせ(2017年9月実施会)

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

本日は、卓ゲ会のお知らせです。

オフィス北浦では、「お金」の勉強などをする「祥福舎」(しょうふくや)というサークル活動を行っています。

その祥福舎活動の中には卓ゲ部というものがありまして、奇数月に卓ゲ会を行っています。

次回の卓ゲ会は、

2017年9月24日(日)12時00分~15時00分

山口県萩市内で行うことになりました(詳しい会場につきましては、参加予定の人に追ってお伝えします)。

参加料は無料です。

今回は、のんびりお茶をしながら、カタン等をやっていこうと思っています。

学生さんや新社会人の皆さまで、参加希望の人がいましたら、ご連絡くださいませ(>>ご連絡はこちらからメールでお願いいたします)。

よろしくお願いいたします。

 

【追記】

9/24(日)、無事に卓ゲ会が開催できました。

今回は、「カタン」と「パンデミック~クトゥルフの呼び声」をやったのですが、パンデミックでは、記念すべき初勝利ができました。

1名が発狂し、あと1枚でクトゥルフ様が覚醒するというギリギリの状況で全ゲート封印できたときの喜びは格別でした!

参加してくださった皆さま、ありがとうございました。

受験生の皆さまお疲れさまでした・・・今年も選択労一たいへんでしたね【社労士試験独習者】

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第49回(平成29年度)社労士試験の受験生の皆さま、8月27日(日)の本試験、本当にお疲れさまでした!

自己採点で満足な結果がでた人は、心底ほっとしていることでしょう。

おめでとうございます。

そうでなかった人も、そろそろ気持ちも落ち着いてきて、色々な情報を検索されている人もいるのではと思います。

ちなみに、去年の筆者は後者でした。

 

今年は、筆者は受験はしていないのですが、28日に公表された本試験の選択式の問題をざっと解いてみましたので、ちょっとした感想を書きたいと思います。

合格点や基準点の予想などはしませんので、そういうことを期待されている人には物足りない内容かもしれませんが、あらかじめご了承くださいませ。

結論からいえば、まぐれ当たりも含めて何とか各科目3点はキープできました。

今年は受験勉強をしていませんので、去年ほど知識の精度は高くなかったものの、どうにか3点をひねり出したという感じです。

しかし、あいかわらず労一は嫌な問題を出すなと思いましたし、健康保険もかなり苦戦しました。

恥ずかしながら、この2科目とも確実に正解を導けたのは2問でした(一応、去年の合格者なんですけどね・・・)。

労一では、B(人材育成に関する問題点の内訳)で、「指導する人材が不足している」というのは消去法で選べましたし、D(外国人の雇用状況届出の義務)が、「すべて」の事業所だというのは覚えていましたので、この2問は何とかなったのですが、あとは正直自信はなかったです。

また、健康保険も、D(指定訪問看護事業者の看護の提供)が「自ら」行うものであることと、E(協同して健保組合を設立する際の被保険者数)が「3000」人以上というのは覚えていましたが、ABCは知識が曖昧になっていました(なお、Dの選択肢については「主治医の指示に基づき」を選んだ人も多かったのではないかと思います)。

知識が曖昧になっていた問題についても、家でリラックスした状態で解いたので、2択に絞ったあとのまぐれ当たりも出やすかったのかなと思うのですが、これが本試験だったらと思うとぞっとしています(なお、ここで暫定的に正解として扱った選択肢はそれを保証するものではありません。本試験の正解の発表をご確認ください)。

まあ、健康保険でDを勘違いした人でも、BCについては、択一合格レベルの人は正解できたのかもしれません。

しかし、労一については、択一合格レベルの人でも2点に留まったという人もいるのではないかと思っています。

特に、本試験の緊張した場面で、混乱してDの選択肢で「従業員~人以上」の肢を選んでしまい、悔しい思いをしている人もいるのではないかと・・・心中察するに余りあります。

そういう人は、基準点が補正されるかどうか、本当に気になってしかたのない気持ちになっていると思います。

しかも、これからの時期、まことしやかに色々な情報が飛び交います。

合格点や基準点の予想に一喜一憂することもあるでしょう。

気にするなとはいいません。

それは無理な話です。

真剣に取り組んできた人であればこそ、悔やまれることも多いでしょうし、それでもどうにか合格したいという思いも強いのだと思います。

なので、そういうものだと開き直って、合格発表までは、思いっきり気にしていいと思います。

 

ただ、選択式の基準点が2点に補正されるかどうかは、結局、(3点以上が50%未満=2点以下50%超で補正するという基準はクリアしたうえで、)2点以上70%以上では補正しない(=1点以下30%超で補正する)という基準をクリアするかどうかだと言われています。

個人的には、ここを機械的に処理するのではなく、もっと裁量的にやってくれればと願うのですが、補正基準を公表した以上どうしても機械的な処理になってしまうのもしかたのないことかなとも思います。

多くの人が指摘しているように、いわゆる無勉層の動向に左右される基準点の補正のあり方は、改善の余地がないとは思いません。

選択式の問題数を増やすとか、基準点を科目ごとではなく、労働科目、社会保険科目といった分類で設けるとか、どうにかならないものかなとも思います。

1科目でも選択式の地雷を踏んだら一巻の終わりという、スリリングでストレスフルなルールは、ちょっとした罰ゲームのような気もしていますが、すべての受験生にそのルールが適用されている以上は、そのルールのうえで戦うしかないのでしょう(免除者については別の問題ですが)。

そういう試験に挑戦された人のすべてに、最大限の敬意を表したいと思います。

皆さまの合格を心よりお祈り申し上げます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

事務指定講習を修了しました

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平成29年8月1日~4日の4日間、大阪市の弁天町で「第36回労働社会保険諸法令関係事務指定講習」(以下「事務指定講習」といいます)の面接指導過程を受講し、無事に事務指定講習を修了することができました。

事務指定講習は、社会保険労務士として登録するために必要な資格要件(2年以上の実務経験)を満たすものとして、通信指導過程(2月1日~5月31日までの4ヶ月間)と面接指導過程(4日間)の組み合わせにより行われます。

筆者の場合、所属する社団法人で社会保険の手続きを担当しているのですが、体系的に実務を学びたかったので、事務指定講習を受講することにしました。

ちなみに、事務指定講習の申込に必要な書類は、社会保険労務士試験合格後に合格証書とは別に届く、全国社会保険労務士連合会からの書類の中に入っています(申込期間は平成28年11月18日~12月8日と1ヶ月未満でしたので、早めに申込みをしました)。

結論から言うと、受講してよかったです。

たしかに、事務指定講習の費用は平成29年度の場合7万5600円(税込)と安くはありませんし、4日間の宿泊費や交通費を考えると、経済的には厳しいところもあります。

また、通信指導課程は課題が多く(枚数にして60枚ありました)、これらを4ヶ月の期限内に提出しなければなりませんし、面接指導過程は、真夏の4日間連続して、午前3時間、午後3時間の講習を受講しなければならず、精神的、体力的にはきついところもありました。

特に、面接指導過程の4日間は、全講習出席が必須ですので、健康面には気をつけなければなりませんでした。

社会人として仕事をしているので、お休みも取らなければいけませんでしたし。

このように事務指定講習には、経済的にも時間的にも、相当の負担が生じます。

それでも、通信指導課程ではこれまであまり触れたことのなかった書式を作成することができたり(これまでやってきたことの確認も多かったのですが)、面接指導過程では実務家の先生方の実践的なお話しを伺うことができたりと、勉強になることが多かったように思います。

社会保険労務士事務所にお勤めの方には当たりまえのことなのかもしれませんが、筆者は法律事務所系の仕事が中心ですので、事務指定講習はとても新鮮な体験でした。

面接指導過程4日目の全講習終了後には、修了証がその場で交付されます。

修了証を受け取ったときは、「あ~無事に終わった」という安堵感と、「さあ、これから登録だ」という緊張感が入り混じった複雑な気持ちになりました。

現在は、登録に向けて準備をしています。

「開業」で登録する予定です(社会保険労務士には「開業」の他に「勤務」「その他」という登録の種類があります)。

平成29年の山口県社会保険労務士会での開業登録の場合、入会金8万円円、年会費8万4000円(10月1日登録の場合6ヶ月分4万2000円)で、これに収入印紙3万円と登録手数料3万円が必要とのことです(入会金や会費は各都道府県の社会保険労務士会によって異なります)。

何事もお金はかかりますね。

登録準備をしていて、社会保険労務士の登録には事務所要件が不要だったり、職印登録制度がなかったりと知らなかったことも多いですが、知人の社会保険労務士さんに聞いたりしながら、少しずつ準備を進めています。

社会保険労務士として登録をすれば、自分のできる仕事の範囲も広がります。

これからも、ゆるーく仕事をやるスタイルは変わりませんが、皆さまのお役に立てるように精進してまいります。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

本試験直前期に役に立ったことをまとめてみた【社労士試験独習者】

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平成29年8月27日(日)の第49回(平成29年度)社会保険労務士試験に向けて、ラストスパートをかけている受験生の皆さん、お疲れさまです!

今年の受験申込者数は約4万9900人と、5万人を割り込んだとはいえ、これは記念受験層や無勉受験層が減って、むしろ少数精鋭の強者が残っているんだろうと気を引き締めておられることでしょう。

今日は、去年のこの時期、自分がやっていて合格に役に立ったことをまとめてみようと思います(筆者は去年の第48回社労士試験に何とか合格できました)。

残念ながら裏技的なものはありませんが、何かの参考にしてもらえればと思っています。

模試・過去問の復習は徹底的にやる

これは基本中の基本だと思います。

細切れ時間を利用して過去問を繰り返すとか、模試の復習は解説欄の発展箇所も含めて読み込むとか、直前期になってもやるべきことはたくさんあります。

この時期は、自分の苦手な科目に特に時間を割いてもいいかもしれません。

筆者は、労一が苦手だったので、この時期は労一にかける時間を多くしていました。

新しいことをやるのではなく、あくまでも模試と過去問の復習が中心でした。

本試験で、過去問や模試でやったことのある問題が出たときの嬉しさは格別です。

ただ、思い込みによるケアレスミス(同じようにみえて同じではないこともあるので)には要注意です。

やったことのある問題が出たときほど、嬉しさを抑えつつ、慎重に確実に点をいただきましょう。

音読しながら、手書きする

とてもアナログかつシンプルな方法ですが、高校生のころに英単語を覚えるのにやっていた方法です。

覚えたい単語を声に出しながら、手書きする。

これを社労士試験でも応用していました。

社労士試験では、キーワードとなる専門用語がたくさんあり、やっかいなことに似ている専門用語もたくさんあります。

「平均標準報酬月額」と「平均標準報酬額」とか、「支給停止基準額」「支給停止調整開始額」「支給停止調整変更額」など、例をあげればきりがありませんが、とにかくややこしいのです。

これに関しては、真正面から取り組むほかないと思っています。

ただ、英語のテストと異なるのは、書き取り方式ではなく、選択方式だということです。

つまり、自力で100%再現する必要はないということ。

与えられた選択肢の中で正解を選べればよいのです。

しっかり意味を吟味しながら、何度も声に出して手書きした用語は、体に染みついていきます。

すると、間違っている選択肢のちょっとした言い回しに、どことなく違和感を覚えるようになるのです。

違和感のアラームとでも言うのでしょうか。

こうなったらもうけもので、消去法で正解を導くことができます(もちろん選択肢を決め打ちで選べれば一番かっこいいのですけど)。

また、これは、いわゆる目的条文を覚えるために使えます(目的条文の重要性は言うまでもありませんね)。

目的条文を読みながら手書きしていく。

目的条文を暗唱できるようになる必要はありませんが、間違った選択肢に違和感アラームが作動するようになればいいのです。

地味な作業ですが、本試験でこそ、違和感アラームは威力を発揮します。

どうしても覚えられない数字をカード化する

社労士試験をやっていると、どうしても覚えられない数字や、いつも間違えてしまう数字というのが出てきます。

同じような数字がいろんなところで出てくるので、これはしかたのないことだと思います。

ただ、この「どうしても覚えられない」というのは、個人差があって、ある人には簡単に覚えられるものが、他の人にはどうしても覚えられないということが起こり得ます。

つまり、こればかりは個人の問題ですので、他の人の作ったものは役にたたないということです。

たとえば、筆者の場合、なぜか徴収法の第3種特別加入保険料率が、1000分の3だか5だかでわからなくなるのです(正解は1000分の3です)。

こういう現象はしかたないとあきらめて、自分専用の「どうしても覚えられないカード」を作ることにしました。

カードといっても、市販のちょっと大きめな単語カードに単純に数字を書いた、なんてことのないものなんですけど、これが本番直前にお守りのような存在になっていました。

本番時は、逆に「これだけは完璧に覚えているカード」になっているのです。

社労士試験において、あいまいな知識は、役に立たないどころか有害でもあります。

特に数字に関しては、正確な知識だけが得点に直結します。

それに、本試験でこの数字が出てきたときは、確実に1点取れたという安心感にもつながります。

このカードのおかげでリラックスして本試験に臨むことができたと思います。

白書・統計対策は毎日やる

白書・統計対策の重要性はこれまでに何度か述べてきました。

筆者は、予備校の対策講座のレジュメと受験雑誌の特集号を毎日繰り返し読み込んでいました(去年の7月から本試験前日までこれを実践しました)。

数字を完璧に覚える必要はないと思います。

どんな内容の統計があるのか、だいたい何割程度が該当してるかなど、ざっくりしたところを繰り返し押さえていきました。

最近の傾向として、統計そのものの仕組みを問う問題も出ているので、今思えば、そういう対策もやっておいた方がよかったのかなと思いますが、そこまでは手が回りませんでした。

平成26年の選択労一で失敗した翌年は、統計学の本を買ったりもしましたが、それが役に立ったのかどうかはよくわかりません。

そういうことよりも、統計のトレンドを押さえるとか、白書の問題意識を感じ取るとか、そういうことの方が役に立ったように思います。

ここでも繰り返しになりますが、いかにして違和感アラームの感度を上げていくかということかなと思うのです。

抽象的な表現で申し訳ないのですが、具体的な方法としては、とにかく毎日、白書・統計に触れておくということです。

あとは、白書・統計に関する模試の復習もお忘れなく。

 

なんだか、柄にもなく偉そうなことを書いてしまいましたが、去年の自分を思い出して、自分なりに書けることはないかと考えた次第です。

この時期、心身の健康にも充分に気を配ってください。

暑くない時刻を見計らって、ウォーキングなど軽い運動もお勧めします。

皆さまの合格を心よりお祈り申し上げます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

消えていく未支給年金

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オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回は、年金受給者が亡くなった場合の未支給年金について考えてみたいと思います。

 

成年後見業務をやっていると、残念ながら、被後見人さんがお亡くなりになることもあります。

被後見人さんの中には、国民年金や厚生年金などの老齢や障害の年金を受給されている人も多いので、そのような年金受給者がお亡くなりになった場合には、それらの年金の未支給部分(「未支給年金」といいます)が発生します。

そして、相続人がいるにもかかわらず、制度上、それらが支払われることなく消滅していく場面を多くみてきました。

どうしてこのような「消えていく未支給年金」が生じるのか、その点についてご説明したいと思います。

未支給年金が生じる理由

まず、未支給年金が生じる理由について、考えてみましょう。

確認ですが、公的年金は、月を単位に発生します。

仮に、月の途中でお亡くなりになった場合でも、その月の年金は1ヶ月分全部が発生します(日割り計算はしません)。

そう考えると、少し得した気分になりますが、実は、年金の支給の開始が、年金をもらえる事由が発生した月の翌月からなので、その分が後ろに下がってきたと考えれば、それほど得しているわけではないでしょう。

たとえば、1月10日に年金をもらえる事由が発生した人が、実際に年金をもらえるのは2月分からになります(1月分は発生しないということです)。

また、同じ人が10月10日に亡くなったとした場合、10月分の年金は全額もらえるというわけです。

そして、年金の支払いは、原則として偶数月(2月、4月、6月、8月、10月、12月)の15日に、その月前2ヶ月分を支払うという、後払い制なのです。

この2ヶ月分後払い制こそが、未支給年金が発生する大きな原因です。

なぜなら、偶数月の15日以後に亡くなった場合でも、必ず1ヶ月分が未支給年金になるからです。

たとえば、Aさんが、8月16日に亡くなったとします。

Aさんは、8月15日に支払われた年金によって、6、7月分の年金を受け取っているはずですが、そこには8月分は含まれてはいません。

つまり、少なくとも亡くなった月分は必ず未支給年金となり、年金が後払い制であるというシステム上、未支給年金は避けられないということになります。

そして、特に偶数月の15日前に亡くなった場合には、未支給年金が3ヶ月分にもなります。

たとえば、Bさんが8月14日に亡くなったとします。

Bさんは、8月分の年金までもらえるはずでしたが、その分はまだもらっていません(この点はAさんと同様です)。

また、Bさんは、8月15日に支払われるべき6月、7月分の年金もまだもらっていないうちに亡くなっています。

つまり、Bさんの未支給年金は6月~8月分の3ヶ月分ということになります。

なお、奇数月に亡くなった方の場合、その月分も含めて2ヶ月分の未支給年金が発生することになります。

このように未支給年金は、普通に年金を受給している人なら誰にでも起こりうることなのです。

未支給年金という言葉のイメージから、たとえば、生前に年金を請求する手続きを失念していて、時効にかかっていない年金をまとめて死亡後に請求するというようなケースを想定してしまいがちですが、そういう特別なケースだけではないということです。

未支給年金は誰がもらえるのか

では、未支給年金は、そのまま消滅してしまうのでしょうか。

さすがに、国もそこまで厳しいことはしていません。

ちゃんと、未支給年金を支払うシステムを用意しています。

ただし、そのシステムは、民法の相続とは異なります

日本年金機構のホームページの「年金を受けている方が亡くなったとき」に詳しく書かれていますので、詳細はそちらをご参照いただきたいのですが、「年金を受けていた方が亡くなった当時、その方と生計を同じくしていた、(1)配偶者 (2)子 (3)父母 (4)孫 (5)祖父母 (6)兄弟姉妹 (7)その他(1)~(6)以外の3親等内の親族」が、この順番で未支給年金を請求することができます(国民年金法19条、厚生年金保険法37条)。

民法の相続では、法定相続人は、配偶者は常に相続人とされ、子、直近の直系尊属(父母など)、兄弟姉妹の順で相続人とされていることから、順位もずいぶん違うことがわかるでしょう。

そして、民法の相続と決定的に異なるのは「生計を同じくしていた」という要件があることです(生計同一要件といいます)。

お気づきになった方も多いと思いますが、この生計同一要件こそ、「消えていく未支給年金」の原因なのです。

もっとも、たとえば、住民票上、同一世帯として暮らしていた方が、未支給年金を請求するのは、それほど難しいことではありません。

住民票の写しなどを提出すれば、原則として生計同一要件を確認することができます。

しかし、そうでない場合、生計同一要件を説明することに、手間をかけなければなりません。

たしかに、この生計同一要件は、生計の一部でも同一であれば足りるとされていますが、それを第三者(施設の関係者や民生委員、町内会長など)に証明してもらう必要があるのです。

これはなかなか、ハードルが高いのではないでしょうか。

今後、独居の高齢者が増加するにしたがって、住民票の写しを提出するだけで生計同一要件を確認できる人も減少していくと予想されます。

ましてや、法定相続人ではあるけれど、ほとんど付き合いのなかったような人の場合、生計同一要件を満たすことはできないでしょう。

このように、生計同一要件というのが、未支給年金の請求のハードルになっているのです。

未支給年金は相続の対象ではありません

では、生計同一要件を充たす未支給年金の請求者がいない場合、民法の相続の原則にしたがって、未支給年金は法定相続ができるのでしょうか。

結論から言えば、国民年金や厚生年金の場合には、法定相続はできません

国民年金法や厚生年金保険法が民法の相続とは別に未支給年金の規定を置いていることは、民法の相続とは別の立場から未支給年金の支給を認めたもので、相続とは別のものだという理由だと言われています(最判H7.11.7参照)。

たしかに、年金は一身専属(その人固有の)権利であると言われているので、相続にはなじまないと言われれば、そんなものかなとも思うのですが、それでも、システム上必ず未支給年金が発生する仕組みをつくっておいて、民法の相続より厳しい要件を課すというのは、なんとも腑に落ちないところではあります(民法の相続には生計同一要件はありません)。

この点については、争いのあるところですので、今後、裁判上何らかの変更があるかもしれませんが、今のところ、そのようなニュースは聞こえてきません。

なお、制度は異なりますが、労災保険においては、未支給の保険給付がある場合、死亡した受給権者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹(請求権者の順位はこの順)であって、受給権者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたもののうちの最先順位者が請求者となるのですが、そのような者が不在の場合、通達によって、民法上の相続人が未支給の保険給付を請求することができるとされているのは、興味深いところです。

このように、生計同一要件を充たす遺族がいない未支給年金は、相続の対象にもならないまま、消えていくことになります。

このような「消えていく未支給年金」の問題は、これから増加していくのではないかと思っています。

過って振り込まれた未支給年金は返金を求められることもある

たとえば、筆者が関わっているような法人後見の場合、第三者の成年後見人が選任される人の中には、ご親族と疎遠になっていらっしゃる人も少なくありません。

そのような人の場合、生計同一要件を満たす親族はほとんどいらっしゃいません。

つまり、未支給年金を請求できる人がそもそもいらっしゃらないのです。

そのような人の場合、未支給年金はそのまま消えていきます。

そのようなケースを何件もみていると、「消えていく未支給年金」が本当にフェアな制度なのか、考えてしまうことがあります。

もちろん、いわゆる「笑う相続人」の問題があることは知っていますが、そのことと、年金が保険システムを採用しているにもかかわらず未支給年金が消えていくという問題は別問題なのではないかと思うのです。

ましてや、たとえば、先の例の8月14日に亡くなったBさんのケースで、仮に8月15日に6、7月分の年金が振り込まれてしまった場合で、未支給年金の請求者がいない場合、原則として、Bさんの相続人はいったん支払われた年金を返金する作業まで必要になります

死亡日が偶数月の15日に近い場合には、死亡後に年金がそのまま振り込まれてしまうケースは珍しいことではありません。

相続人がちゃんと死亡届も出しており、別にだまして年金を受給しようという意図などなかったとしても、返金が必要になってくるのです。

そこまでいくと、相続人としては、押し貸しの被害にあったようなものです。

成年後見人としては、未支給年金の過誤払が生じないためにも、死亡後すぐに年金口座を凍結するなど対応が必要なのですが、一般の人の場合、そこまですぐに対応できる人はなかなかいないと思います。

未支給年金が、2ヶ月分の後払いであるというシステム上の問題であるなら、たとえば1ヶ月分の当月払に変更するなど、できるだけ未支給年金が発生しないシステム作りをしてほしいものだと思っています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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セクハラ指針とSOGIについて考えてみる

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回は、性的少数者に対するセクハラ指針を紹介しつつ、少し聞き慣れない「SOGI」という言葉を考えてみたいと思います。

 

少し前の話ですが、2017年1月1日から、男女雇用機会均等法に基づく事業者向けの「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき処置についての指針」(いわゆる「セクハラ指針」)において、セクハラの対象に「LGBT」をはじめとした性的少数者が含まれ、それを防止することが事業主の義務として明記されたというニュースをお聞きになったことがあるかもしれません。

セクハラの対象が、平成9年の改正当初は女性労働者だけだったものが、平成18年の改正で男性労働者も含まれるようになり、今回ようやく性的少数者の労働者も対象であることが明記されたというニュースです。

ところで、性的少数者を表す言葉として、少し前からLGBTという言葉が使われ始め、今では、ずいぶん定着してきたように感じます。

念のため、確認しておきますが、LGBTとは、レズビアン(Lesbian 女性同性愛者)、ゲイ(Gay 男性同性愛者)、バイセクシャル(Bisexual 両性愛者)、トランスジェンダー(Transgender 生物学的性と性自認に不一致があるなど、出生時に割り当てられた性別に対して違和感があり、出生時に割り当てられた性別とは異なる性を生きる人、生きることを望む人)の頭文字をとったもので、性的少数者一般を指す言葉として使われています。

もちろん、性的少数者はこの4つに限定されるものではなく、もっと個別的で多様な概念だと思いますが、便宜上、このLGBTが性的少数者を指す言葉として、定着しつつあるようです。

ところが、「セクハラ指針」の中には、LGBTや性的少数者という言葉は直接的には使われていません。

どのように書いてあるかというと、その2条1項において、

「2 職場におけるセクシュアルハラスメントの内容
⑴ 職場におけるセクシュアルハラスメントには、職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けるもの(以下「対価型セクシュアルハラスメント」という。)と、当該性的な言動により労働者の就業環境が害されるもの(以下「環境型セクシュアルハラスメント」という。)がある。
なお、職場におけるセクシュアルハラスメントには、同性に対するものも含まれるものである。また、被害を受けた者( 以下「被害者」という。) の性的指向又は性自認にかかわらず当該者に対する職場におけるセクシュアルハラスメントも、本指針の対象となるものである。

と書かれているのです。

ここでは、LGBTや性的少数者という表現ではなく、「性的指向又は性自認にかかわらず」という表現が使われています。

一見すると、LGBTや性的少数者が明記されたというには、一般の人には、少しわかりにくいかもしれません。

それを理解するには、言葉の意味を確認する必要があります。

ここでいう「性的指向」とは「人の恋愛・性愛がいずれの性別を対象とするかを表すもの」とされ、「性自認」とは「性別に関する自己認識」をいうとされています(解釈通達より)。

つまり、「性的指向又は性自認にかかわらず」とは、「どんな性を好きになるか」ということや「自分の性をどのように認識しているか」ということにかかわらず、という意味なのです。

そういう風に読めば、たしかにLGBTがここに含まれることが理解できるでしょう。

もっとも、実は、今回のセクハラ指針の改正の前から、同性間のセクハラも指針の対象になることは明記されていましたし、そこにはLGBTなど性的少数者へのセクハラも対象に含まれると言われていました。

なので、この改正は性的少数者に対する新しい義務を設けたわけではなく、形式的には、それが明記されたという意味での改正なのです

もちろん、明記されること自体、誤解や都合の良い解釈ができなくなるので、とても大切なことです。

しかし、明記のしかたとして、「性的少数者」ではなく「性的指向又は性自認」という表現が使われたということにも重要な意味があると思っています。

「性的指向と性自認」のことを、「性的指向」=「Sexual  Orientation」と「性自認」=「Gender Identity」の頭文字をとって、「SOGI」と言います。

今回、「性的少数者」ではなく「性的指向又は性自認」という表現が使われたということは、LGBTではなく「SOGI」が採用されたといってもいいかもしれません。

本来「SOGI」は、LGBTに限定されず、もっと言えば、無性愛者や異性愛者までも含んだとても大きな概念であるはずです。

なので、あえて「SOGI」に当たる表現が使われたというのは、単に性的少数者を表わすというだけにとどまらず、もっと広い意味が含まれているのだと思うのです。

どんな人でも、ふつうに気持ちよく働いていける。

そんなシンプルなことが明記されただけなのかもしれません。

しかし、このシンプルな原則が明記されたことはとても重要なことだと思います。

今は、SOGIに関するセクハラについての問題ですが、今後、SOGIに関する差別が一般的に禁止される法整備もありうると思えるからです。

なお、現在でもSOGIに関する不当な差別は、民事上の不法行為となるなど、法律上も禁止されていると言われています。

しかし、SOGIに関する差別禁止を包括的に謳っている法律は、今のところないのです。

SOGIがセクハラ指針に明記されたことによって、今後、この問題が、職場だけでなく生活一般に関する法整備につながっていくのではないでしょうか。

どんな人でも、ふつうに気持ちよく暮らしていける

SOGIという聞き慣れない言葉から見えてくるのは、そんな社会なのかもしれません。

LGBTを特別扱いするのではなく、誰もがふつうに暮らしていける当たりまえの社会。

そうであるなら、そんな社会を目指すことは、誰にとっても悪い話じゃないように思えます。

この件に関しては、今後の法整備を見守っていきたいと思っています。

以上、セクハラ指針の改正を紹介しつつ、SOGIについて考えてみました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

サービス残業代が経営リスクになる日

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回は、給料の時効について、動きがあったので、そのことを少し取り上げてみます。

 

以前、「給料が飲み屋のツケより軽くあつかわれるかもしれない・・・」(2017年4月16日投稿)と題して、民法改正により一般債権の消滅時効が5年になった場合に、給料の消滅時効が2年のままなのは不都合だという趣旨のことを書きました。

その後、2017年6月2日に「民法の一部を改正する法律」が公布されました。

いわゆる平成の民法大改正です。

それによれば、民法の短期消滅時効規定が廃止され、一般債権の消滅時効は原則、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間とされました

ただし、施行日は、公布の日から起算して3年を超えない範囲内で政令で定める日とされ、具体的な施行日は未定のようです。

そして、この改正をうけて、7月12日、厚生労働省の「第137回労働政策審議会 (労働条件分科会)」において、「民法の消滅時効の規定が整理されることに伴い、当該規定の特例である労働基準法115条の賃金債権等に係る消滅時効についても、その在り方の検討を行う必要がある。」として、給料の消滅時効の延長の議論が始まったとのことです。

 

仮に、今後、労基法115条が改正され、給料の消滅時効が、現在の2年から5年に延長された場合、「サービス残業(サビ残)」と言われる未払い残業代も5年分請求が可能になります。

単純計算で2.5倍になるのです。

さらに、現行法では、裁判上での請求の場合、最大で請求額と同額の「付加金」が加算される制度もあります。

つまり、たとえば、改正後、1年に75万円の未払い残業代が5年間生じた場合、これまでは2年分の150万円で済んでいたものが、消滅時効が5年になれば375万円になり、これに付加金が加われば、最大750万円になる可能性があるのです。

そう考えると、これまでは、「どうせ、サビ残請求されても、たった2年分だ」と高を括っていた経営者や、「2年分では請求額が少なくて、弁護士も雇えない」と裁判を諦めていた労働者にとっては、否が応にも注目せざるを得ない労基法改正となることでしょう

もしかしたら、新たな司法ビジネスのターゲットになる可能性もあります(たとえば、いわゆるグレーゾーン金利の問題で、過払金訴訟が多く起こされ、貸金業者の経営を圧迫したことは周知の事実です)。

いままでは金銭的にペイしないからと労働者側の労働問題を扱っていなかった弁護士が、新たに参入してくる可能性さえあります。

その場合、経営者がこれまでのようにサビ残等の未払い賃金問題を軽視していれば、予想外の訴訟リスクにさらされる事態もあるかもしれません。

もちろん、未払い賃金の請求が、過払金訴訟のようになるとは限りませんが、いずれにせよ、未払い賃金の問題が経営に与えるリスクは、これまで以上に深刻になっていくでしょう。

まあ、ちょっと考えれば、サビ残とは、労働者の役務や時間を盗んでいるようなものですので、そもそもそのような事態が常態化していることが異常なのです。

個人的には、「働き方改革」の第一歩は、サビ残の撲滅にあると思っています。

労基法115条の改正による給料の消滅時効の延長は、サビ残の抑止力になる大切な改正だと思います。

是非とも、速やかな改正をしていただきたいと願っています。

白書との付き合い方【社労士試験独習者】

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社労士試験独習者の皆さんは、8月の本試験に向けて、受験勉強に励んでおられることと思います。

筆者は、平成28年度の社労士試験に運よく合格できましたが、去年の今頃を思い返すと、この時期が精神的に一番辛かったように思います。

8月になれば、良い意味で開き直れるのですが、この時期は、学習計画の遅れが気になって、「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ」と焦っていました。

合格者の体験記は、筆者よりも優秀な方がたくさん書いておられますので、そちらを参考にしていただきたいのですが、この時期、「やろうと思っていてやれていないこと」で一番悩んだ白書対策について、今回は自分なりに少し書きたいと思います。

 

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社労士試験で「白書」といえば、「労働経済白書」と「厚生労働白書」が有名です。

それぞれ、科目としては、労一と社一に対応しており、択一試験だけでなく選択試験対策としても、とても重要なものです(労働経済白書は択一対策、厚生労働白書は選択対策のようなイメージもあるかもしれませんが、必ずしもそうとは言い切れないと思います)。

個人的には、いつも前年に両白書を購入して、「時間のあるうち(年内)に通読しよう」などと計画を立てるのですが、なかなか思うように進まず、7月ころになると「あー、全然読めてない」となって、「読むべきか、読まざるべきか」で悩んでいました。

結論から言います。

読まなくていいです。

この時期、もっとやるべきことはあるはずです。

計画通り進んでいないのなら、なおさらのことです。

理由はシンプルです。

白書そのものを読んでいなくても、致命傷にならないからです。

ただ、これは、白書・統計対策をしなくていいと言っているわけではありません。

むしろ、白書・統計対策は絶対に怠ってはいけません

ではどうしたらよいのか。

ここは、情報を買ってください

具体的には、各予備校の白書・統計対策講座を受講する、受験雑誌の特集号を購入するといった方法があります。

また、模試の復習に関しても、白書・統計分野の問題は特に念入りに確認するべきです(模試というのは、力試しという意味もありますが、各予備校から「予想問題という情報」を買うという意味で利用した方がいいと思います)。

そもそも、試験問題の出題は、労働経済白書と厚生労働白書に限ったものではありません。

受験生だけでなく、各予備校でさえも、予想していなかったような白書や統計から出題されることもあります(平成28年度の選択労一などはその例です)。

とすれば、いくら労働経済白書と厚生労働白書を読み込んでも、試験対策として万全とはいえないのです(ましてや、その他のたくさんの白書や統計を読み込むことなど到底不可能なことです)。

そうであれば、ここは素直に予備校など他人の力を借りて、情報を買う方が、効率的で効果的だと言わざるをえません。

ちなみに、去年の筆者は、模試と白書対策講座はLECを利用し、受験雑誌は「社労士V」を購入していました(ただし、どの予備校がいいとか、どの受験雑誌がお勧めとかいうものではありませんので、ご参考までという程度です)。

 

以上、社労士試験対策として、白書を読むべきかどうかという問題を考えてみました。

労働経済白書も厚生労働白書も、読み物としてはとても興味深く面白いものです。

本試験が終わったあとに(合格されたあとに)、じっくり腰を据えて読み込んでみてはいかがでしょうか。

皆さまの合格を心よりお祈り申し上げます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

祥福舎卓ゲ部による卓ゲ会のお知らせ(2017年7月実施会)

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

本日は、卓ゲ会のお知らせです。

オフィス北浦では、「お金」の勉強などをする「祥福舎」(しょうふくや)というサークル活動を行っています。

その祥福舎活動の中には卓ゲ部というものがありまして、奇数月に卓ゲ会を行っています。

次回の卓ゲ会は、

2017年7月23日(日)13時30分~18時30分

大阪市内(心斎橋近辺)で行うことになりました(詳しい会場につきましては、参加予定の人に追ってお伝えします)。

参加料は無料です。

今回は、初心者だけで「ディプロマシー」というゲームをやる予定です。

題して「初陣ディプロマシー 2017」です!

当日は、13時30分~14時30分がルール勉強会で、14時30分からゲームを開始します。

今回は、初心者限定3名の募集となります(7人でやるゲームですが、既に4人は決まっていますので)。

学生さんや新社会人さんで参加ご希望の方は、オフィス北浦までお問い合わせください。

なお、希望者のみ卓ゲ会後に、毎回懇親会もやっていますので、こちらもお気軽にご参加ください(無料です)。(7/7追記:定員に達したので、参加者の募集を終了いたします。)

よろしくお願いいたします。

スキルアップのための給付金を利用するには【新社会人】

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今回は、雇用保険の「一般教育訓練給付金」について考えてみたいと思います。

 

雇用保険というのは社会保険(労働保険)の一つで、新社会人の皆さんも、給料明細の控除欄に「雇用保険料」として毎月保険料が引かれていると思います(厚生年金保険料や健康保険料に比べると少額だと思いますが、それでも毎月雇用保険料を負担しているはずです)。

雇用保険と聞いて、一番最初に思いつくのは、仕事を辞めて、次の就職先を探している間(求職中)に、ハローワークに行けばもらえる給付金(求職者給付)だと思います。

これは、仕事を辞めて給料が入ってこなくなった場合でも、雇用保険から給付金をもらいつつ、次の就職先を探せる制度です。

ある程度の収入を確保しつつ次の就職先を探せるという点で、とても頼りになる保険だと思います。

ただ、雇用保険の給付は、この求職者給付だけではありません。

求職者給付の他に、「就職促進給付」、「雇用継続給付」という制度もあります。

新社会人の皆さんも、就職促進給付の中では「再就職手当」(ハローワークからもらえる再就職の祝い金のようなもの)、雇用継続給付の中では「育児休業給付」や「介護休業給付」などは聞いたことがあるかもしれません。

これらの制度は、求職中や休業中の収入の確保や、再就職の際の支度金のようなものであり、困ったときに収入が大幅に減らないように填補するものだと言っていいでしょう。

それに対して、雇用保険には、もうひとつ、収入を上げるための制度が用意されています。

それが、「教育訓練給付」です。

教育訓練給付とは、働く人の主体的な能力開発の取組み又は中長期的なキャリア形成を支援するためのものであり、雇用の安定と再就職の促進を図ることを目的とする雇用保険の給付制度です。

制度の趣旨としては、雇用の安定と再就職の促進を図るものですが、要は、スキルアップのために経済的なバックアップをしてくれる制度であり、実質的にはスキルアップによって収入を上げるための制度と言っていいでしょう。

教育訓練給付の中には「教育訓練給付金」という制度があり、その中でも「一般教育訓練給付金」と「専門実践教育訓練給付金」という制度があります(専門実践教育訓練給付金は、まさに専門的な学校で資格をとるような場合であり、要件も厳しく、なかなかハードルの高いところもありますので、今回は一般教育訓練給付金について紹介していきます)。

 

一般教育訓練給付金の支給対象者は、

①受講開始日現在で雇用保険の被保険者等であった期間が3年以上(初めて支給を受けようとする人については、当分の間、1年以上)あること

②受講開始日時点で被保険者でない人は、被保険者資格を喪失した日(離職日の翌日)以降、受講開始日までが1年以内(育児や疾病などの理由で適用対象期間の延長が行われた場合は最大20年以内)であること

③前回の教育訓練給付金受給から今回受講開始日前までに3年以上経過していること

厚生労働大臣の指定する教育訓練を受講し修了すること

などの要件を満たした人です。

新社会人の皆さんが仕事を続けつつ、この一般教育訓練給付金を初めて受給する場合、②と③の要件はあまり関係がないと思いますので、①1年以上雇用保険の被保険者であった段階で対象の教育訓練講座の受講を開始し、④それを修了することが必要になるということです。

こう聞くと、意外と使いやすそうな制度だと思いませんか。

そして、支給額ですが、教育訓練施設に支払った教育訓練経費(入学金や受講料)の20%に相当する額となります。

ただし、その額が10万円を超える場合は10万円とし、4000円を超えない場合は支給されません

たとえば、20万円の経費がかかった場合には支給額は4万円(=20万円×20%)ですが、60万円の経費がかかった場合には支給額は10万円ということです(60万円×20%=12万円ですが、10万円を超えているので、この場合10万円が限度になるということです)。

また、経費が1万円しかかからなかった場合には、支給はされません(1万円×20%=2000円ですが、4000円を超えていないので、支給されないということです)。

支給申請手続は、教育訓練を受講した本人が、受講修了後、原則として本人の住所を管轄するハローワークに対して、必要書類を提出することによって行います(支給申請の時期については、原則として、教育訓練の受講修了日の翌日から起算して1か月以内に手続を行う必要があります)。

詳細については、ハローワークインターネットサービスをご参照のうえ、最寄りのハローワークで確認してください。

 

以上のように、一般教育訓練給付金は、10万円という限度はありますが、スキルアップできたうえに、払ったお金の20%が支給されるという、かなり嬉しい制度だと思います。

それに、一般教育訓練給付金の対象となる教育訓練講座は、資格の予備校等にも用意されていますし、通学だけでなく通信でも対象となっている講座もあります。

一般教育訓練給付金は、新社会人の皆さんにとって、入社してすぐに使える制度ではありませんが、1年後を見据えて、対象講座を探すなど、今からスキルアップのための準備をしてみてもいいかもしれません。

雇用保険は、仕事を辞めたり、休業したりしたときに使うものという思い込みを捨てて、在職中でも、せっかくもらえる給付金をしっかり活かしていきましょう。

スキルアップをして、収入アップを図ってください。

最後まで、お読みいただき、ありがとうございました。

健康保険「被扶養者」について考えてみた【新社会人】

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

今回は、健康保険の「被扶養者」について考えてみたいと思います。

新社会人さんは、入社と当時に、会社の健康保険に加入したと思います。

病院にかかったときの医療費が3割の自己負担ですんだり、病気やケガで仕事ができずに給料がもらえない場合に傷病手当金がもらえたりするという制度です。

この健康保険では、本人(加入してる本人のことを「被保険者」といいます)の保険事故のほか、一定範囲の家族の保険事故についても保険給付が行われます。

この家族のことを「被扶養者」といいます。

主な被扶養者の範囲としては、配偶者(事実婚を含む)、両親や祖父母、子、孫、兄弟姉妹などで、本人によって生計維持をされている人です。

とてもざっくり言ってしまえば、「本人が生活費の大半を出している家族」というイメージです。

ここでは、詳しい被扶養者の範囲や認定基準については触れませんが、詳細は全国健康保険協会のホームページをご参照ください(健康保険組合の場合にはそちらで確認してください)。

本人との同居が必要かどうかや、年間収入がいくらかなど細かく設定がされています。

余談ですが、2016年9月までは、本人の兄弟姉妹のうち、兄姉は同居が必要で、弟妹は同居が不要という、なんとも不思議な要件があったのですが、10月からは、兄弟姉妹はすべて同居は不要となりましたのでご注意ください(もし、別居の兄姉に生活費を援助しているようなケースがあれば、被扶養者になるかどうか検討してもいいかもしれません)。

さて、この「被扶養者」になった場合、どういうメリットがあるのでしょう。

それは、保険料です。

最初に確認しておきたいのですが、原則として、被扶養者が増えたとしても、本人の保険料が上がることはありません(この点は、意外と誤解が多いところです)。

たとえば、妻と子、両親の4人を被扶養者にしたとしても、誰も被扶養者にしなかった場合の保険料と変わりはないのです。

この場合、もしも、本人の妻が被扶養者にならないのであれば、妻は自分で会社に勤務してその会社の健康保険に入るか、国民健康保険に入るかしないといけません(それは両親も子も同じです)。

自分で会社の健康保険に入る場合でも、国民健康保険に入る場合でも、それぞれ保険料がかかります。

その保険料を払わなくてよくなるのです。

国民健康保険料は住んでいる市区町村によって計算方法が違いますので、一概にいえないのですが、仮に1ヶ月5000円だったとすれば、1年で6万円の保険料を払わなくてよくなります(これはかなり少なく見積もったものです)。

しかも、医療費の自己負担などでは、国民健康保険と同じサービスを受けることができるのです。

また、被扶養者が配偶者の場合、国民年金の第3号被保険者(厚生年金に加入している人の配偶者で扶養されている人)となれば、国民年金保険料も払わなくてよくなります(保険料は払わなくても、将来の国民年金は全額ちゃんともらえます)。

国民年金保険料は現在1ヶ月約1万6500円ですので、1年で約19万8000円の保険料を払わなくてよくなるのです。

仮に30歳~60歳まで30年間、妻を被扶養者として、1年で25万円程度の保険料を支払わなくてよくなった場合、その総額は750万円となります。

被扶養者の経済的メリットはかなりのものです。

繰り返しますが、本人の保険料は健康保険も厚生年金もどちらも上がりません。

では、誰がその分を負担してるのだろうと素朴な疑問が出てきます。

それは、他の被保険者です。

この点については、独身者や、共働きの夫婦(夫婦とも被保険者になっている人)などの立場からは、不公平ではないのかという議論があります。

ですので、この制度がいつまで続くのかは不確実なところもあるのですが、少なくとも現状ではすぐに変更される予定はないようです。

筆者も被扶養者制度の恩恵を受けていない人の一人なのですが、個人的には「お互いさま」の精神は大切なものだと思っていますので、殊更反対するつもりはありません(ただ、利用する際は、善意の支え合いの制度であることを考えて、正しく使ってほしいとは思っています)。

このように被扶養者制度は、労働者にとってとても有難い制度ですので、使える人は有効に使っていただきたいと思っています。

 

祥福舎卓ゲ部による卓ゲ会のお知らせ

オフィス北浦のブログサイトにようこそおいでくださいました。

オフィス北浦では、「お金」の勉強などをする「祥福舎」(しょうふくや)というサークル活動を行っています。

その祥福舎活動の中には卓ゲ部というものがありまして、奇数月に卓ゲ会を行っています。

次回の卓ゲ会のお知らせなのですが、

2017年5月20日(土)17時~19時

萩市内で行うことになりました(詳しい会場につきましては、参加ご希望の人に追ってお伝えします)。

学生さんや新社会人さんで興味のある人は、オフィス北浦までお問い合わせいただければ幸いです。

参加料は無料です。

なお、卓ゲ会では「お金の勉強会」は行いませんし、祥福舎への勧誘などもありません。

みんなでわいわいと「カタン」などのボードゲームを行う会ですので、お気軽にご参加ください。

申込みの締め切りは5月12日(金)とさせていただきます。

よろしくお願いいたします。

昼休みの電話番ってありなのか考えてみた【新社会人】

オフィス北浦のブログサイトへようこそおいでくださいました。

今回は、会社の休憩時間について考えてみたいと思います。

午前中の仕事が終わって、お昼休みに入ると、本当にひと安心するものです。

ランチを食べてパワーをチャージする人、一服して気分をリフレッシュする人、午後に備えて仮眠する人などなど。

お昼休みの使い方は人それぞれでよいのですが、休憩時間にもちゃんと法律上のルールがありますので、今回はそれを確認していきましょう。

 

休憩時間については、労働基準法34条で定められています。

それによると、休憩時間は、労働時間が6時間以内の場合には付与義務はなく、6時間を超え8時間以内の場合には45分以上、8時間を超える場合には1時間以上を付与しなければならないとあります。

ここで注意が必要なのですが、たいていの所定労働時間は8時間以内です。

とすると、法律で定められた休憩時間は45分でよいということになります。

この点、「うちは所定労働時間が7時間だけど、休憩時間は1時間あるよ」という人もいるかもしれません。

それは、労働基準法で定められた基準は最低限のものなので、就業規則などで労働者に有利な条件を定めている場合には、そちらが優先するからなのです。

逆に言えば、この場合、休憩時間が45分を下回るような定めは、労働契約や就業規則、労使協定によってもできないということでもあります。

 

また、原則として、休憩時間は、①労働時間の途中に②一斉に与えて③労働者の自由に利用させなければならないというルールがあります。

これらには例外があるのですが、特に③労働者の自由に利用させるという原則については、問題になることが多いように思います。

たとえば、「お昼休みの電話番」問題です。

これは、職場によっては、暗黙ないし公然のルールとして、お昼休みは食事などをしながら、電話や来客の対応のために、待機しておかなければならないというものです。

はたしてこのようなお昼休みは、休憩時間を自由に利用させているといえるのでしょうか。

そもそも、労働基準法上の休憩時間とは、労働者が権利として労働から離れることを保障された時間をいい、単に作業に従事しない手待時間は休憩時間には含まれません。

たまたまその日のお昼休み中に、電話も来客もなく、結果として対応することがなかったとしても、それは手待時間であって、労働から離れているとはいえないでしょう(いつ電話がかかってくるか待機していたら、まったく落ち着かないですよね)。

つまり、この場合には休憩時間をとっているのではなく、労働時間であると認定される可能性があります。

仮に労働時間であると認定された場合には、それは立派な時間外労働であり、その分の給料(時間外手当など)が支払われてしかるべきということです。

もっとも、職場のルールとして確立されていると、なかなか言い出せないのもしかたのないことかもしれません。

その場合でも、まずはしっかりと記録をとって、どの程度「お昼休みの電話番」をさせられているか客観的事実を確認してみてください。

そのうえで、信頼のできる仲間や専門家に相談するなど対応を検討されることをお勧めします。

 

せっかくのお昼休みです。

午後からの生産性を上げるためにも、有効に使っていきたいものです。

ついやってしまう「お金」の悪いクセ3選【行動ファイナンス】

人は生きていくうえで、たくさんの意思決定をしています。

そして、これらの意思決定は、ほとんどの場合「お金」に関する意思決定でもあります。

大学へ進学した場合と高校を出てすぐに働いた場合のコスト(学費など)と生涯賃金を比べてみたり、家を買った場合と賃貸のままであった場合との損益計算をしたり、お金が意思決定に与える影響は大きいものです。

もちろん、お金だけが意思決定の基準ではありませんが、お金のことをまったく無視して意思決定ができないことも事実です。

なぜなら、お金は計算ができるので、とても合理的な基準になるからです。

ところが、本来、合理的であるはずのお金のことに関して、人は必ずしも合理的な意思決定ができるとは限りません。

現実には、認知上の誤りや、感情や心理が影響して、非合理的な意思決定をしてしまうことがあるのです(それが人なのだからしかたないことですが)。

このような非合理的な意思決定のバイアスのパターンを分析する「行動ファイナンス」という考え方があります。

人には「お金」に関してついやってしまう悪いクセのようなものがあるということです。

今日は、行動ファイナンスの指摘するお金に関する悪いクセを三つほど紹介してみましょう。

自分に当てはまるかどうか考えてみてください。

得するよりも、損する方がずっとイヤ

「損失回避性」というものがあります。

これは、得するよるも、損する方がずっと嫌な感じがするというものです。

たとえば、10万円の株式投資をしたとしましょう。

このとき、1万円の利益が出た場合と、5000円の損失が出た場合とを想像してみてください。

1万円の利益が出た場合の喜びの程度と、5000円の損失が出た場合の悔しさの程度は、どちらが大きいでしょうか。

5000円の損失の方がインパクトが強い気がしませんか。

客観的には10%の利益と5%の損失であれば、前者の方に強い気持ちが働いてもよさそうですが、多くの人の場合はそのようにはならないのです。

このように、利益に比べて損失を過度に嫌う心理的・感情的傾向を「損失回避性」といいます。

損失を回避するクセが強すぎるというのは、臆病になりすぎるということでもあります。

投資など「お金」の判断は慎重に行うべきですが、必要以上の臆病さが出てくるのは、人の悪いクセによるものなのかもしれません。

「朝四暮二」の落とし穴

「朝三暮四」という故事をご存じでしょうか。

昔の中国の偉い人が、飼っている猿にトチの実を与えるのに、朝に三つ、暮れに四つやると言うと猿が少ないと怒ったため、朝に四つ、暮れに三つやると言うと、たいそう喜んだという故事から、目先の違いに気をとられて、実際は同じであるのに気がつかないことを意味します。

朝三暮四も朝四暮三も結局は合計で七なのだから、言いくるめられた猿は、愚かかもしれませんが、実際には損はしていません(むしろ早めに多くの利益を確保した分、時間的な利益を得ているかもしれません)。

しかし、人には、目先の小さな利益に目を奪われ、将来の長期的な利益を逃してしまう、あるいは目先の低いコストに目を奪われ、将来の高いコストを見逃してしまうという、悪いクセがあります。

これを「現在志向バイアス」といいます。

たとえば、毎月分配型と累積投資型の投資信託があった場合、複利効果で中長期的には収益が増える可能性のある累積投資型よりも、そういった効果はないけど、毎月目に見えた形で収益がある毎月分配型の方が魅力的に感じられるってことはないでしょうか(もちろん、他の要素もあるので、毎月分配型が絶対に損をするというわけではありませんが)。

また、当面の金利は低く設定されているが、一定期間経過後に高い金利が適用されるローンの方が、長期固定型金利のローンよりも、心理的に借りやすく感じてしまうって場合もあるでしょう。

実際に合理的に計算したうえの判断なら問題はないのですが、現在志向バイアスに影響された判断になっていないか検証は必要です。

気がつけば「朝四暮二」となっていて、猿より愚かで損をする判断になっていないか、十分に気をつけたいものです。

ニセモノの「真ん中」に誘導される危険

人には、与えられた選択肢の中で中間的なものを選ぶクセがあると言われています。

「極端性の回避」と呼ばれるものです。

ハイリスク、ミドルリスク、ローリスクの三種類の金融商品を並べられると、ミドルリスクの商品を選びやすいといったことです。

不動産の物件選びでも、いい部屋だけど家賃の高い部屋、家賃も出せる範囲で部屋のグレードもまあまあの部屋、家賃は安いけどちょっと住みたくない部屋の順番で紹介された場合、たいていは2番目の部屋を選ぶのではないでしょうか。

極端なものを回避するというのは、ある意味当然なことです。

しかし、極端なものを回避した結果が、必ずしも真ん中のものになるとは限らないということには、十分な注意が必要です。

なぜなら、これらは、あくまで「与えられた選択肢」の中での相対的な評価に過ぎないからです。

悪意のある業者が、一番売りたい商品が「真ん中」にみえるように、意識的にその他の「両極端」を選んで、提示してくるということもありえるのです。

まずは、与えらえた選択肢が適正なものかを、ひとつ上のレベルで見極める注意深さが必要になってきます。

そのためには、事前の情報収集をしっかり行って、ある程度の相場勘を養っておきたいものです。

 

今回は、ついやってしまう「お金」の悪いクセを三つご紹介しました。

当てはまるものはあったでしょうか。

「無くて七癖」という言葉のとおり、行動ファイナンスでは他にもたくさんのクセが指摘されています。

まずは、クセを意識するところから始めて、少しでも合理的な意思決定ができるようにしたいものです。

 

ボーナスについてちょっと考えてみた【新社会人】

今回は、「ボーナス」のお話です。

夏と冬にボーナスがある場合、4月に採用された新社会人さんが本格的にボーナスをもらえるのは、今年の冬からになると思いますが、今から楽しみにしている人もいるのではないでしょうか(ちょっと気が早いですが)。

ただ、「月給の何か月分がもらえる」とか話はきいているけど、ボーナスについてちゃんと説明できる人はどれだけいらっしゃるのでしょうか。

パートさんやアルバイトさんはもらえない人が多いのに、正社員だけがもらえたり、その一方で、大企業でも業績悪化でボーナスがでないってニュースがあったり・・・ボーナスってわかっているようでよくわからないところがあります。

そこで、ボーナスとは何で、誰がいつもらえるものなのかについて、少し考えてみましょう。

ボーナスを支払うことは、会社の法律上の義務ではない

ボーナスは、「一時金」と言ったり、「賞与」と言ったりもします(ここでは「ボーナス」といいます)。

労働基準法では、ボーナスも賃金のひとつで、労働者が働いたことによる対価です。

ただ、普通の賃金(月給など)は毎月1回以上払わないといけないのですが、ボーナスはその例外であり(労働基準法24条)、「半年に1回」だとか「臨時に」だとかで払うことができます。

そして、ボーナスは法律上必ず払わないといけないわけではなく、払うと決めた場合にのみ、それが労働条件になるという特徴があります(これは、ボーナスを払う決まりを作ったら、会社にはボーナスを払う義務が生じるということです)。

なので、「うちの会社はそもそもボーナスない」ってとこもありますし、「正社員はボーナスあるけど、パートさんやアルバイトさんにはない」というところもあります(むしろパートさんやアルバイトさんにはボーナスがないとか、あっても少ないという決まりのところが多いのが現状です)。

ボーナスを払う決まりがあっても、必ず毎回もらえるとは限らない

ボーナスを払う決まりは、普通は就業規則に定められます。

就業規則には会社と労働者の基本的な約束事が記載されており、会社も労働者もこれに従う義務があります。

では、就業規則にボーナスの定めがあれば、ボーナスは保障されたものになるのでしょうか。

就業規則は会社毎に内容が違うので、一概には言えないのですが、ここでは、次のような就業規則があるとして考えてみましょう。

 

「(賞与)第××条 会社は、会社の業績、従業員各人の査定結果、会社への貢献度等を考慮して、賞与を支給するものとする。ただし、会社の業績状況等により支給しないことができる。

2 賞与の支給時期は、原則として、毎年6月及び12月の会社が定める日とする。

3 賞与支給額の算定対象期間は、次の各号のとおりとする。

(1)6月支給分:下期決算期(前年10月1日から当年3月31日まで)

(2)12月支給分:上期決算期(当年4月1日から当年9月30日まで)

4 賞与の支給対象者は、賞与支給日において在籍する者とする。」

 

第1項のただし書をみてください。

「ただし、会社の業績状況等により支給しないことができる。」とあります。

これは、平たく言えば、「普通ならボーナスは支払うけど、会社が大変なときには払わないこともある」って書いてあるのです。

つまり、100%ボーナスがもらえると保障されているわけではないってことです。

ただ、逆に言うと、ボーナスが出ないのは、客観的に会社の業績が深刻に悪化している場合など例外的な場合に限られ、社長の気分次第でボーナスを出したり出さなかったりできるというわけではないということです。

対象期間に働いていても、ボーナスがもらえない人がいる

次に、ボーナスの支払い条件を確認してみましょう。

この就業規則の例では、2項で、ボーナス支払い月が6月と12月と定められています。

また、3項で、6月支払い分は前年10月~当年3月までの期間の従業員の働きぶりなどをみて決める(12月支払い分は当年4~9月までの期間が対象)と定められています。

たとえば、4月に入社した新社会人さんは、6月支払い分のボーナスはなく(対象期間に働いていないため)、入社後、4月から9月にしっかり働いた分が12月のボーナスに反映されるということです。

ただ、色々な事情があって、それまでにどうしても会社を辞めなければならないという人もいるかもしれません。

たとえば、9月末日付で退職した人がいるとします。

この人は12月分のボーナスはもらえるのでしょうか。

結論から言えば、就業規則上はもらえません。

理由は4項で「賞与の支給対象者は、賞与支給日において在籍する者とする。」と定めてあるからです。

これは、「3項の対象期間に働いていた人でも、実際の支給日に社員でない人にはボーナスは払いません」という意味です。

つまり、9月末日付で退職した人は、4月から9月の6か月間しっかり働いていても、12月のボーナス支払い日に社員ではないので、ボーナスはもらえないということになるのです。

毎月の給料であれば、給料の締日までに辞めた人でも、働いた分の給料は法律上必ず払わないといけない(日割りで計算したりします)のですが、このような就業規則がある場合、ボーナスはそういうわけにはいかないのです。

「辞めるならボーナスもらってからにすれば?」なんてことを先輩から言われることがあるかもしれませんが、これはそういう理由からのアドバイスだと思います。

就業規則などでボーナスの条件を確認しておこう

今回は、架空の就業規則をもとに、ボーナスがもらえる条件を考えてみました。

しかし、この就業規則は会社によって異なります。

そもそも就業規則は周知されてこそ、その効力が生じるのですが、実際問題として、就業規則を知らない人が多いのも事実です。

会社が意図的に社員に知られないようにしている悪質なケースもありますが、社員の側も、こまかいことにはあまり興味がないって事情があるのかもしれません。

ただ、賃金(ボーナスを含む)や福利厚生などの「お金」に関わる部分は、しっかり就業規則や各種規定で確認しておいて損はないと思います。

これを機会に、会社の就業規則をそれとなく確認されてみてはいかがでしょうか。

 

 

給料が飲み屋のツケより軽くあつかわれるかもしれない・・・

※7/16追記:本記事には、追加記事があります(「サービス残業代が経営リスクになる日」(2017年7月16日))

 

給料にも「時効」があることをご存知でしょうか。

2017年4月現在、給料の時効は2年とされています(ちなみに退職金は5年です)。

これは、労働基準法115条に定められています。

実際には、倒産などの場合を除いて、基本給自体をもらいそこなうってことはほとんどないと思いますので、普通に働いている限りでは、給料の時効について意識することはあまりないでしょう。

では、どんなときに給料の時効の問題がでてくるのでしょう。

それは、サービス残業の未払い残業代を請求するようなケースです。

しかも、実際に働いている間は、会社の暗黙の圧力や同僚との同調圧力がかかって、サービス残業代を請求することは心理的に難しいので、これが問題になるのは退職(とくに円満でない退職)の場合が多いのです。

ここで時効の壁につきあたります。

たった2年しかもらえないのですから(しかも、放っておくと時効はどんどん進んでいきます)。

仮に退職時すぐにサービス残業代を2年分請求したとしましょう。

1日平均2時間のサービス残業があったとします(ブラック企業ならこんなもんではすまないでしょうが)。

月給20万円、1ヶ月の所定労働時間が160時間(1日8時間 1ヶ月20日勤務)だった場合、1ヶ月のサービス残業代は、

20万円÷160時間×1.25(割増率)×2時間×20日=6万2500円

となり、この2年分では、

6万2500円×12ヶ月×2年=150万円

となります。

たとえ、実際には入社以来10年間サービス残業が続いていたとしても、2年分が限界なのです。

しかも、会社がこれをすんなり払ってくれるとは限りません。

場合によっては、弁護士を依頼して裁判をしなければならないこともあるでしょう(なお、裁判になれば、金額が倍増する付加金制度というものがあるのですが、ここでは話がややこしくなるので触れません)。

なんともやりきれない話です。

 

ただ、時効に関しては、とても気になるニュースがあります。

それは、120年ぶりの大改正といわれている民法債権法の改正が現実的になってきたことです(追記:その後、民法大改正は成立し、2017年6月2日に公布されました)。

大改正というだけあって、改正のポイントはいくつもありますが、時効の問題もそのひとつです。

かなりざっくりいえば、債権の時効が原則(権利が行使できることを知ったときから)5年(知らなくても10年)に統一されるらしいということです。

現行の民法では、原則(個人間のお金の貸し借りなど)は10年、飲み屋のツケは1年などとこまかく決められているのですが、それが統一されて原則5年になるのですから、かなり影響の大きな改正だと思います。

とすれば、サービス残業代も5年分請求できるようになるのかなと期待できそうなのですが、それがどうもはっきりしていません。

そのような話があまり聞こえてこないのです(追記:2017年7月12日、厚労省の労働政策審議会において労基法115条改正の検討が始まりました)。

もしも、給料の時効が5年になったら、先ほどの例であれば、請求できるサービス残業代は、

6万2500円×12ヶ月×5年=375万円

となります。

金額が増えた分、やりきれない思いも少しは報われるような気がします。

ぜひ、給料の時効も5年にしてほしいところです。

 

しかし、民法だけが改正されて、労働基準法が改正されないという場合もありえます。

その場合、民法の一般債権の時効は5年、労働基準法の給料の時効は2年という、なんとも変な話になってしまいます。

そもそも、現行の民法では「給料は1年」となっているところ、これを労働者保護のために、わざわざ労働基準法で2年に延長しているのですから、それが逆転するとなると、まさに本末転倒な現象が生じます。

飲み屋のツケより守られない給料っていったい・・・というトホホな感じです。

 

個人的には、民法改正に併せて労働基準法も改正されるのだろうなという期待をもっていますが、なかなか確定情報がでないので、少し心配しています。

今回の民法大改正は、「お金」のことを考えるうえで、影響の大きいものですので、今後も注意深くみていきたいと思っています。

 

※追加記事:「サービス残業代が経営リスクになる日」

自分で厚生年金保険料を計算してみよう【新社会人】

新社会人の皆さま、給料から天引きされる厚生年金保険料が、どのように計算されるのかご存じでしょうか。

筆者が学生さんや若手社会人さんと行っている無料勉強会では、早い段階で、架空の給料計算をしてもらいます。

そうすると、社会人経験のある人でも、その仕組みをまったく知らないという人がとても多いことに気付きます。

考えてみれば、当たり前のことかもしれません。

普通に考えて興味があるのは「手取り金額」であって、「引かれもの」に関しては「こんなに引かれてる・・・高いな~」と見るのも嫌になるという人がほとんどだと思います(ましてや、どうやって計算するのかなんて興味がなくて当然です)。

実は、筆者も以前はその一人でした。

ただ、今はその仕組みを知ることは、「お金」と上手くつきあうために必要なことだと思っています。

「引かれもの」は、勝手に給料から引かれていくのですから、自分の努力ではどうにもならないように思えます。

いわば「最強の敵」なのです。

しかし、そのような最強の敵に対して、何ができるのかを考えることは、「お金」と上手くつきあううえで大切なことなのです。

そのためには、まず敵の正体を知らなければなりません。

そういうわけで、筆者がお金の勉強会をする際には、参加者に自分で給料計算をしてもらって、敵の正体を知ってもらっているわけです。

前置きが長くなりましたが、今回は、厚生年金保険料の計算方法を紹介したいと思います(なお、健康保険料の計算方法もほとんど同じようなものですが、都道府県や会社ごとに保険料率が異なるため、今回は全国一律の厚生年金保険料をとりあげます)。

1  まずは報酬月額を確認しましょう

最初にやる作業は「報酬月額」を計算することです。

「報酬」とは、賃金、給料、俸給、手当など、被保険者(=会社員)が労務の対価として受けるものすべてが対象で、金銭で支払われるもののほか、現物で支給されるものも含まれます。

基本給だけではなく、たとえば、残業代や通勤手当や住宅手当といった各種手当、通勤定期券なども含まれます。

ただ、新入社員さんの場合には、厚生年金の資格取得時(入社時)に報酬の支払い実績がないので、これから受けるであろう報酬の額を算定します。

ここでは、「報酬月額」を21万円だと仮定しておきましょう。

ところで、この「報酬月額」は原則として年に1回、4~6月の平均給与額をもとに計算し直されます(例外として、昇給・降給などで給与額が大幅に変わった場合などには、その都度計算し直されます)。

月々の給与額は残業代の増減などで毎月異なり、それをもとに一人ひとりの保険料を計算していては、事務処理がたいへんになるため、固定させるわけです。

2  次に標準報酬月額を確認しましょう

「報酬月額」が決まったら、それを基に「標準報酬月額」を確認します。

厚生年金保険の場合、「標準報酬月額」は第1~31等級に区分されていて、報酬月額に応じて、「標準報酬月額」が決まります。

たとえば、報酬月額が9万3000円未満の人の標準報酬月額(第1級)は8万8000円ですし、報酬月額が9万3000円以上10万1000円未満の人の標準報酬月額(第2級)は9万8000円です。

このように、標準報酬月額を決める報酬月額の金額には一定の幅があります(たとえば、報酬月額が9万3000円の人も、10万円の人も、標準報酬月額は同じ9万8000円になるということです)。

報酬月額21万円の人の場合、標準報酬月額(第15級)は22万円となります(第15級の報酬月額の幅は21万円以上23万円未満です)。

3  厚生年金保険料率をかけましょう

「標準報酬月額」が確認できたら、それに厚生年金保険料率をかけます。

2017年4月現在の一般の厚生年金保険料は18.182%です。

「保険料率が約2割・・・高すぎる」と心配になった人もいるかもしれません。

たしかに、この全額を社員が負担するとなったら大変です(標準報酬月額22万円の場合厚生年金保険料は4万円になります)。

そこで、厚生年金保険料の半分は会社が負担してくれることになっています(これは法律で決まっていることです)。

そのため、ここは半分の9.091%をかけることになります。

すると、22万円×9.091%=2万円(1円未満は原則四捨五入)となります。

2万円でも十分高いとは思いますが、半分会社が出してくれていると思えば、少しは気分も収まるかもしれません。

なお、正確な厚生年金保険料については、日本年金機構のホームページでご確認ください。

 

このように、実際に自分で計算してみると、その仕組みが理解できるのではないでしょうか。

「自分はサラリーマンだから、税金も社会保険料も勝手に引かれるもの。これはどうしようもない」と思い込んではいけません。

最強の敵の正体を知ることで、その対応ができるかもしれないのです。

それは、また別に機会にご紹介できればと思っています。

若い人ほど障害厚生年金がお得な理由【新社会人】

新社会人の皆さん、厚生年金についてどんなイメージを持っていますか。

正直なところ、「給料から天引きされる保険料が高すぎる」という以外に、具体的なイメージはないかもしれません。

特に「どんなメリットがあるのか」と聞かれれば、即答は難しいのではないでしょうか。

健康保険は、病院に行ったときに3割負担ですむとか、医療費が高額になれば差額が戻ってくるとか、病気で仕事ができず給料がなかったときに傷病手当金がもらえるとか、いろいろとメリットがイメージしやすいのですが、厚生年金保険となると具体的なメリットがイメージしにくいものです。

「老後に年金をもらうために保険料をはらっているんでしょう」という人、たしかにそれは正解です。

でも、それだけではありません。

厚生年金保険は、若い人ほど恩恵を受けられる点があるので、今回はそれをご紹介しておきます。

それは「障害厚生年金」です。

ちなみに、老後にもらえる厚生年金は「老齢厚生年金」といいます(この他にも「遺族厚生年金」などがあります)。

障害厚生年金について、かなりざっくりと説明すると、①初めて病院に行った日に厚生年金に加入していた人が、②一定程度以上の障害が残った場合にもらえる年金です(他にも保険料を一定期間ちゃんと納めていることなどの要件がありますので、詳しいことは、日本年金機構のホームページでご確認ください)。

この障害の原因となった病気やケガは、仕事上のものに限りません(休日にレジャーで交通事故に遭ったような場合も含まれます。なお、仕事上の原因の場合には労災保険からもお金がもらえる場合があります)。

そして、この障害厚生年金の計算方法なのですが、こちらもかなりざっくり説明すると

(賞与を含めた平均月収)×約0.55%×(厚生年金に加入していた月数)+配偶者がいる場合加給年金(約22万円)

というものです(障害等級2級の場合)。

たとえば、平均月収20万円の人(正確には標準報酬月額や標準賞与額という数字を用いるのですが、ここではイメージしやすいように単純化して計算します)が、入社1年後(配偶者なし)に障害が残った場合、

その障害厚生年金の年額は

20万円×約0.55%×12ヶ月=約1万3200円

となりそうです・・・

「え、年額でたったのこれだけ? どこかお得なの??」と思われたかもしれませんが、この話には続きがあります。

実は、厚生年金に加入していた月数が300ヶ月(25年)未満の人は、一律300ヶ月として計算するというお得な制度があるのです。

すると

20万円×約0.55%×300ヶ月=約33万円

となり、元の計算の25倍の障害厚生年金がもらえることになります。

1年間しか厚生年金保険料を払っていないのに、25年間分払ったこととして年金がもらえるというのは、かなりお得な制度ではないでしょうか。

ちなみに、遺族厚生年金にも同じような制度がありますが、こちらは配偶者や子、親などが本人の給料によって生活している場合にしかもらえないので、新社会人さんに当てはまるケースは少ないかもしれません(それに、遺族厚生年金は自分が死んでしまった場合に、遺族がもらえる年金ですので、自分で使えるわけではありません)。

さらに、障害等級が2級以上の場合には、障害厚生年金に併せて、障害基礎年金(2級の場合は年額約78万円)がもらえます(なお、2級以上の障害基礎年金がもらえない場合=主に障害厚生年金3級の場合には、障害厚生年金の額は障害基礎年金2級の場合の4分の3が最低保障額としてもらえます。平成29年度の場合、最低保証額は584,500円です)。

すると、この例の場合(2級の場合)には、年額にして、障害厚生年金(約33万円)+障害基礎年金(約78万円)=約111万円がもらえることになります(この計算はかなりおおざっぱなものですので、実際にどれくらい障害年金がもらえそうかは、社労士さんやFPなどにご相談ください)。

このように、障害厚生年金が若い人ほどお得になるというのは、25年間働いたことにして計算してくれるという点です(ちなみに障害基礎年金に関しても、40年間満額保険料を支払ったことと同じ額がもらえるので、こちらもかなりお得な制度です)。

「年金なんて自分には関係のない話」なんて思っていた人も、年金もいざというときには意外と頼りになってくれると思えば、高い保険料にも少しは納得できるのではないでしょうか。

最後までお読みいただきありがとうございました。

テキストは最新のものでも要注意【社労士試験独習者】

社労士試験に独習でチャレンジされている皆さま、もうすぐ本年度(平成29年度)の本試験詳細公示の時期です(追記:4/14に発表になりました。社労士試験オフィシャルサイトをご参照ください)。

マイペースで受験勉強は進んでいるでしょうか。

今日は社労士試験独習者の皆さまに、少し確認しておきたいことがあります。

テキストは最新のものを使っているでしょうか?

「そんなの当り前」という声が聞こえてきそうですが、中には、人から譲り受けたものを使っていたり、前年のものを継続使用していたりする人もいるので、そういう人は少し注意が必要です。

社労士試験の試験科目では、とにかく毎年のようにたくさんの改正があります。

しかも、ここ数年の試験では、改正点からの出題が増加傾向にあります。

広範な出題範囲と頻繁な改正は社労士試験の特徴ですので、改正にどれだけ対応できるかが勝負の決め手になるといってもいいでしょう(過去問ができていることが大前提ですが)。

ですので、一年前のテキストは使い物にならないというよりも、むしろ、古い情報(=間違った情報)が載っている分、有害でさえあります。

悪いことは言いませんので、ここはお金を惜しまずに、最新のテキストを用意なさってください。

しかし、それだけでは十分とはいえません。

さらに注意が必要なことは、最新のテキストであっても、必ずしも改正に完全に対応しているとは限らないということです。

たいはんのテキストは、合格発表後に最新刊が発行されます。

つまり、前年の後半までの改正(その時点で施行が決まっているものを含む)には対応できていますが、それ以降新しく決まったものについては、漏れがある可能性があるのです。

たとえば、平成28年12月に発行されたテキストが11月末までの改正に対応していた場合、12月~4月基準日までに新しく決まった改正には対応していないということです。

約4ヶ月ですが、その間に新しく決まる改正は無視できないものです(繰り返しますが、社労士試験の受験科目は広範囲で頻繁な改正があります)。

スクール生であれば、重要な改正についての最新情報を得る機会はあるでしょうが、独習者の場合、自力で全部の改正の情報を入手することは時間がかかりすぎます(そんな時間があれば、テキストの読み込みや模試の復習をするべきです)。

ここは時間の節約のためにも、多少お金がかかっても、最新情報を買うべきです。

改正法や白書対策の講座を出している予備校もありますし、受験雑誌も特集を組んでいます。

受験雑誌であれば1000円程度で買えますので、それほど経済的な負担にはならないはずです。

是非、これらを有効に活用して、最新の情報を得たうえで、本試験に臨んでいただきたいと願っています。

皆さまの合格を心よりお祈り申し上げます。

 

500円玉貯金の落とし穴

皆さん、お金を貯めていますか?

毎月決まった額を積み立てている人、生活費で余った分だけはなんとか貯めている人、やる気はあるけどなかなかできていないって人、色々なスタイルがあると思います。

なかなか貯金ができないって人でも、気軽に始められることから「500円玉貯金」をしている人はいるのではないでしょうか。

実は、筆者も500円玉貯金をやっているのですが、ときどき貯金箱を開けてみると、予想以上のお金が貯まっていて、かなり得した気分になります。

こんなちょっと嬉しい500円玉貯金ですが、いくつか落とし穴があることにお気付きでしょうか。

今日は、500円玉貯金で気をつけたいことについてお話しします。

気付かぬうちに目減りしている可能性

500円玉貯金を何年かしていると、10万円以上貯まっていたなんてこともあります。

これを励みにして、このまま続けていこうと思った人は、少し待ってください。

お金は放っておくと減っていくかもしれないって知っていましたか。

たしかに、10万円は使わなければ、いつまでたっても10万円のままです。

しかし、その10万円のお金の価値が気付かぬうちに減っていることがあります。

それは、物価が上昇することで、お金の価値が減っていくからです。

少し極端な例ですが、日本銀行のホームページによれば、昭和40年の1万円は平成27年の4.1万円の価値に相当する(消費者物価で比較した場合)とあります。

これは、約50年間10万円を貯金箱の中に入れておいたら、その価値が4分の1になってしまったということです(当時約41万円の価値だったものが今は10万円の価値しかないってことなので)。

このように、500円玉貯金を貯めっぱなしにしていると、損をすることがあるのです。

お金は流通させてこそ

また、少し大げさですが、500円玉貯金を貯めっぱなしにすることは、経済や社会にとっても、よくないことです。

お金は世の中に流通することで、経済や社会が発展していきます。

そういう意味でお金は「血液」にたとえられます。

貯金箱の中でお金を貯めたままにしているということは、血液の流れを止めているようなものです。

お金は流通させてこそ、その力を発揮してくれます。

まずは500円玉貯金を成功させて、まとまったお金を貯めることが先決ですが、貯まったあとにそのままにしておいていいのかどうかは、よく考えた方がいいでしょう。

「自分へのご褒美」という最大の落とし穴

それでも、500円玉貯金を貯まったまま持っておかれる人は、まだいい方かもしれません。

500円玉貯金の魅力は「いつのまにか貯まっていた」ということだと思うのですが、これが最大の落とし穴になる可能性があります。

当り前の話ですが、500円玉貯金は、誰かからもらったものでもなければ、臨時収入でもありません。

自分が貯めたお金です。

しかし、予期せずに、まとまったお金が手に入ったような気になって、つい財布のひもが緩んでしまうってことはないでしょうか。

「自分へのご褒美に・・・」なんて考え始めたら、かなり危険信号だと思ってください。

せっかく貯めたお金を無駄遣いしたのでは、元も子もなくなってしまいます。

500円玉貯金に成功した人は、この誘惑を乗り越えなければいけません。

定期預金にしてしまおう

では、どうするか。

ここはシンプルに定期預金にしてみましょう。

なーんだと思われるかもしれませんが、定期預金は侮れません。

お金を銀行に預ければ、僅かですが利息もついて、物価上昇による価値の目減りをいくらか補うことができます。

また、銀行に預けたお金は、銀行が流通させてくれるので、経済や社会のためにもなります。

そして、何より「自分へのご褒美」を買わずにすみます。

シンプルですが、落とし穴を回避する確実な方法だと思います。

1年ごとに500円玉貯金箱を確認して、少しずつ定期預金を増やしていく。

すると、いつのまにか思わぬ貯金ができていた、なんてサプライズは嬉しいですよね。

魅力満載の500円玉貯金、無理せずに、損せずに、挑戦したいものです。

 

祥福舎が卓ゲをする理由

筆者の主宰する任意団体「祥福舎」には「卓ゲ部」、「お助け部」、「招福部」の3部門があります。

このうち、「お助け部」と「招福部」では「お金」に関する活動を行っているので、そんなに違和感はないと思いますが、ただ、「卓ゲ部」に関しては、なぜ祥福舎で卓ゲをやるのか不思議に思われる人がいるかもしれません。

卓ゲとは、卓上ゲームすなわち「電源を必要としないアナログゲーム」全般を指す言葉で、将棋や囲碁に麻雀、トランプや花札からボードゲームやカードゲーム、TRPGまでを含むとても広い概念です。

このように卓ゲと言っても色々な種類があるのですが、祥福舎では主にボードゲームとTRPGを行っています。

もちろん、筆者の趣味であることには違いないのですが、祥福舎が卓ゲをやることには、一応の理由があるのです。

 

祥福舎が選ぶボードゲームの基準は、①頭を使うが、それだけで勝敗が決まらないこと、②運が必要だが、それだけで勝敗が決まらないこと、③ゲーム内でプレイヤー同士の交渉ができることの3点です。

そして、これらは、そのまま、祥福舎が卓ゲをやる理由そのものなのです。

①頭を使うが、それだけで勝敗が決まらないこと

ゲームなので、戦略性が重視されることは言うまでもありません。

ただ、戦略だけで勝敗の決まるゲームは、結局はプレイヤーの経験や技量の問題になってしまうので、その道を極めた人と初心者とが一緒に卓を囲むことが難しくなる傾向にあります。

初心者に優しいベテランさんが多いのは確かですが、初心者は初心者なりに気を遣ってしまいます。

色々なレベルの人が気軽に一緒に卓を囲んで楽しむには、「運」の要素もほしいところです。

②運が必要だが、それだけで勝敗が決まらないこと

では、「運」の要素があれば、それだけでいいのでしょうか。

いわゆる「運ゲー」という種類のものは、みんなでわいわい盛り上がるゲームが多いように思います。

「黒ひげ危機一髪」や「人生ゲーム」などのパーティーゲームは、お誕生日会などのイベントでやるには鉄板でしょう。

ただ、すごく楽しいのですが、それだけでは物足りない気持ちもあります。

ゲームである以上、頭を使って勝敗を競いたいところです。

③ゲーム内でプレイヤー同士の交渉ができること

そうすると、戦略性と運のバランスのとれたゲームということになるのでしょうが、祥福舎ではもう一つ重視していることがあります。

それは、ゲームのシステムとしてプレイヤー同士が交渉できることです。

せっかく対面でやるのだから、その醍醐味は人と人とが生でやりとりをすることだと思っています。

交渉によって有利にゲームが進められたり、ときに協力して共通の敵を攻撃したり、はたまた裏切られたり・・・

ゲームの要素に人間性が組み込まれているといってもいいかもしれません。

それは「お金」の話とよく似ている

まとめると、「戦略性が重要だけど、運の要素もあって、交渉力が必要になる」ということです。

ここまでくると、祥福舎が卓ゲをする理由がわかっていただけたかもしれません。

これって、「お金」の話によく似ているのです。

投資や商売だけでなく、労働でお金を稼ぐにも、戦略性は欠かせません。

だけど、それだけでは不十分で、それを支える交渉力や最後には運の要素が必要になってきます。

頭を使って、体を使って、最後は運に後押ししてもらうってかんじでしょうか。

これが、祥福舎が卓ゲをやる理由なのです。

卓ゲ会やっています(ちょっと宣伝)

そういうわけで、祥福舎卓ゲ部では、奇数月に卓ゲ会をやっています。

前回は3月25、26日の土日に行いましたが、そこでは「カタン」や「パンデミック~クトゥルフの呼び声」をやりました。

次回は5月開催の予定です。

小難しいことはさておき、結局は「楽しんだものが真の勝者」ということで、これからも活動を続けていきたいと思っています。